2017年9月04日(月) ◆天上の宴は終わりを迎え

こんにちは、北浜にある猫のひたいのような小さな店。画廊喫茶フレイムハウスにて損してるのだか得してるのだか、いまだによくわからない商売をしている阿守です。


この目的のよくわからないブログを楽しみにしておられる方、ブログの更新ができなく申し訳ありませんでした。心身の健全さを守るため、完全オフの日を作ってみました。なるほど、一日休むと全然違うものです、頭がすっきりと晴れたような感覚が戻ってきます。


さて、時間は巻き戻り、土曜日のこと。


画廊喫茶フレイムハウスの店内では、版画家の柿坂万作とギター弾きの阿守がいる。この二人で先ほどからガタガタゴトゴトと、机を動かしたり椅子を動かしたりしていて、どうにも落ち着かない雰囲気である。


万作がいう。


「ワシ、考えたんですけど、今日のイベントとかやっぱりインド風に地べたに座るほうが、雰囲気が出るんと違いますやろか」


阿守はまだインドに行かないので、インドでの音楽の聴きかたについてのイメージが湧かないが、確かにそのほうが良かろうと賛同する。


「わかりました、そしたら万作さんのアイデアにのって、全て片付けて、カーペットを敷きましょう」


そういう顛末で、二人は机と椅子、散らばった美術書などを整理整頓していたのだ。けれど、そもそも先日にシタール奏者が視察に来たとき、そんなことを言ってなかったか?という記憶もあったが、そのときは面倒だからということで断ったような気がする。


いつの世も、どれだけよいアイデアだとしても、それが具現化するかどうかは提案者側よりも、実行者側の判断に委ねられることが多いものだ。そうやって、これまでどれほど社会的にも良質なアイデアが、実行者側の怠惰と無能によって無かったことにされ、有耶無耶になってきただろうか。


一段落ついて、万作は風呂へ行く。ヒゲの男は敷き詰められたペルシア風のカーペットをながめていると、どうにも寝そべりたくなる。大の字に寝そべりたくなる。カーペットの品質の良し悪しは、誰が織っているかでも、素材が何かなのでもない。


そのカーペットを目の前にして、人間が「どうにも倒れ込みたい」という欲求の引力に、どれだけ捉えられてしまうかである。


ヒゲの男はさらさら抵抗する心持ちもなく、すんなりとカーペットの上でごろんとなる。その刹那、夢うつつがやってきて、よい気持ちになる。夢の国だ。


ゴガッ!


締まりの悪いガラス戸が開け放たれ、これからというタイミングでシタール奏者の男がやってきた。国破れて山河ありとは昔の偉そうな人が残した詩だが、北浜にある猫のひたいのような店からは、山も河も見えない。ただ、間の抜けた駐車場が見えるのみである。


シタール奏者はいう。


「あれ?結局、この(桟敷の)形にしたんや」


「そうそう、万作さんがそうしたほうがいいんじゃないかって言うからね」


「俺、この前、そうしたらええやんって言うたけど、それはできへんって言うてなかったっけ??」


「昨日の絶対が今日にはもう通用しない世の中だからね」と、ヒゲの男は妙なことをうそぶく。


タブラ奏者も合流して、リハーサルがはじまる。カーペットの引力はシタールとタブラの合奏により、さらなる強固な武装を整えてヒゲの男を誘惑する。


万作が風呂から戻ってくる、客がやってきて、今日のイベントのスタートとなる。


イベントの内容は二部構成、前半は一曲で終了した。たった一曲?と思われる人もおられるかも知れないが、一曲が40分~50分あるのだ。その質量たるや十分なものである。


二人の音楽家は以前、40分~50分ある曲の感想を客に求めたところ、「演奏の手が早く動いていた」ということを散々言われて、苦笑せざるえなかったという話しをしてくれた。手が早くなるところは、全体の10%にも満たない部分であるのだから、そこだけ特化してみられたら、自分たちがサーカス一座の心境であろうことはヒゲにもわかる。ただ、そのお客の反応もわからなくはないという共感が、場内を笑いに誘った。


一部と二部のあいだに、イベントをしているとは知らずに会計事務所オーナーの男がやってくる。素晴らしいキックを持つ男であり、終演後はタブラ奏者の男と体の鍛え方について話し込んでいた。


一部、二部ともに演奏は盛況のうちに終わり、甘美なる響きは引き続いて、店内のあちらこちらでの雑談の喧噪に移行して、特別な夜を名残惜しむようであった。


ヒゲの男も冷やかし程度に演奏に参加させてもらった。これも彼にとっては良い思い出となるだろう。


夜も更けきったころ、タブラ奏者の特別講義が舞台上で行われる。舞台から「デンナー、デンナー、そうでんなぁ」という関西風にもとれる呪文のようなことば、そして鼓の音が交互に聴こえてくる。周囲には好奇心旺盛な客が集まり、タブラと奏者をジッと見ている。


それを酔った目で見ていたシタール奏者が、むくりと椅子から尻をもちあげる。


「俺、20何年もタブラと一緒にしてるけど、今までどないして叩いてんのか、教わったことなかったわ」


楽器を教わっている彼の好奇心の目は、宮廷音楽家のそれとはうって変わって、少年の目つきのままだったように、ヒゲの男は思った。


酔っぱらったヒゲの男の思いなので、どうなのかはわからない。

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by amori-siberiana | 2017-09-04 12:33 | 雑記 | Comments(0)


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