2017年9月05日(火)① ◆日曜日のインパクト

こんばんは、北浜にある猫のひたいのような小さな店。画廊喫茶フレイムハウスをどうにかしようとする阿守です。どうにもならなさそうなら、さっさと撤退するところでしたが、どうにかなりそうな感じになってきました。恐ろしいものです。多分、このお店に来られる人たちが、地軸をどうにかしているのではないでしょうか。


さて、日曜日の話し。


その日は完全にオフ日だと決め込んだヒゲの男は、昼間は金勘定のために店へ行く。店というのは言わずと知れた、画廊喫茶フレイムハウス。二階は喫茶店で、三階は版画家の柿坂万作のアトリエ兼住居である。


先月末に家賃(9月末まで)を払えたことで胸をなでおろしたヒゲは、万作にこう問いかける。


「万作さん、野暮なことをお聞きしますけれど、ご自身の給料はどれくらい残っていますか?」


今の画廊喫茶フレイムハウスの経営についてだが、給与は毎月の決められた日、ヒゲの男が万作へ払っているという状態。といっても高給なんてものは渡せるわけがない、人間が人間らしい生活を送るにギリギリか、ギリギリちょっと届かないくらいの給与ではある。だが、これまでのように赤字を出すことは一切なくなった。


「うーん、ええと、阿守さん、よう今のタイミングで聞いてくれはりました」と版画家の口角は多少なりとも上がる。


「つまり、財布にお金がないということなんですね」


「ええと、ちょっとは…、あるん違うかな。いや、そないいうても2000円くらいのもんですよ。ワシもどないしよかなぁと思っとったんです」


「わかりました、前倒しにしてお渡ししますね」


ヒゲの男はそういって、版画家に給料を一週間ほど先に渡す。どうせ、来月も一週間ほど先に渡すことになるだろうことは、火を見るより明らかであろうことはヒゲの男もなんとなく予感している。


万作は急に冗舌となり、いろんなことを話しかけてくるがヒゲは帳簿とにらみ合って何やら考えごとをしているので、版画家の口から流れでるトピックは左から右へと流れて、ただ、テンポのよいところで「うん」とか「すん」とかの相槌を打つに留まる。


画廊喫茶フレイムハウスに関わって、およそ二か月が過ぎようとしている。傾きかけていた看板は平衡感覚を取り戻して立ち直り、版画家が随分と滞納していたものや、借金もなくなった。さらには版画家には毎月の給与が払えるようになった。


ところがだ、ヒゲの男はここまで全くの無給である。


ただ、お金では手に入らなかろうものを、この二か月で手にすることができた。それはヒゲの男がもっとも欲していたものなのかも知れない。枯れに枯れていた感覚だったのかも知れない。忘れていた感覚を取り戻したとき、ヒゲの男のカチカチに固まっていた心は、水を吸い取って膨らむスポンジのような弾力を得た。


その、どちらか選べといわれてもな…、難しい選択だ。


ヒゲの男がそんなことを考えていると、星師匠が店にやってきて、店中の掃除をしてくれた。金のことを考えてもキリがないやと、ヒゲの男はギター片手に「6666 556」、「5565 656」、「5655 555」、「5656 555 3」と数えている。万作はアトリエで例のものを製作中。


その夜、テリーから連絡があった。


東梅田にいるので、北浜まで来るとのこと。このテリーというのは、ヒゲの男が音楽家だった時代、ヒゲに関連するイベントの舞台監督や照明を取り仕切っていた男である。つまりは、ヒゲの男の頭のなかを良く知った男。


今日は店に行かないでおこうと決めていたヒゲの男も、テリーが来るのであれば無下にもできず、渋々、店に行くことにする。


店には先客がいたが、入れ替わるように退店する。なんでも自転車で尼崎まで帰るのだそうだ、なかなか骨の折れることで大変でしょうと同情すると、そんなことはない秋の夜風は気持ちのいいものだと返答してくる。なるほど、確かに涼しい風が店のなかを駆け抜ける。


店に先にいたガルパンの男とテリーと僕。


三人で、ひとつの趣向をはじめた。


「自分にとっては感動的だが、他人の心にはまったく響かない音楽を聴く会」である。


内容を書いてもダラダラするだけなので割愛させていただくが、ガルパンの男は強かった。この道ではキング・オブ・キングスではなかろうか、風格すら漂わせる。


それほど、他人が聴いてもピンと来ない曲をよく知ってるし、さらには度し難いことに、そういった曲を愛せる男なのだ。ガルパンの男、おそるべし。


そういえば、今日、9月5日。版画家の柿坂万作が画廊喫茶フレイムハウスを前のオーナーから引き継いで、6周年だか7周年だかを迎えることとなった。


やっと、第一段階を越えることができたかと、無事でなによりだったことに感謝する。


みなさま、今後とも宜しくお願いいたします。









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by amori-siberiana | 2017-09-05 01:24 | 雑記 | Comments(0)


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