2017年9月07日(木) ◆架空読書会、そしてピアニストは撃たないで!

こんにちは、北浜にある猫のひたいのように小さな店。画廊喫茶フレイムハウスにて昼はコーヒーを、夜はウイスキーを飲んでるだけの阿守です。


このお店、もっぱら、料理を作ったり飲み物を提供したりするのは版画家の柿坂万作がしている。ヒゲの男は何をしているのかといえば、なにやら難しそうな顔をして、メガネをかけたり外したり、かけたり外したりしてるだけだ。


そう、昨日もヒゲの男は考えていた。画廊喫茶フレイムハウスをなんという名前に改名すべきか考えていた。候補は幾つか出そろっており、現在、二つに絞られている。


【銀壺画塾】という日活ロマンポルノのタイトルのような名前が、まずはひとつ。


【薔薇十字喫茶】というフランス文庫の官能小説のような名前が、もうひとつ。


なんという究極の二者択一であろうか。二人の男が太陽の下、半裸で健闘を称えあうべき店の名称が漢字の羅列だと、なかなか気色の悪いものだ。


どちらにしても、暖簾も名刺も新しく作り直さなければならないとすれば、資金的な理由により、少しの時間的な猶予が必要である。「まだ、考える時間と余地はあるだろう」とヒゲはタカをくくって、考えることをその日はやめた。


さて、昨日の話し。


ヒゲの男は画廊喫茶フレイムハウスの下の店の大将と話しをする機会を設けた。議題は単純明快。打楽器の入るイベントのときに、実際のところ、どれほどの騒音や振動が下の店に影響を与えているかということである。


ヒゲの男は一階の大将に向かい、こう伝える。


「19日の火曜日なんですけれど、また、パーカッションが入ったイベントがあるので、貴店にご迷惑をお掛けしてしまう可能性もあるので、先にご容赦を願えればと挨拶に来ました」


大将は苦笑しながら、こういう。


「ひとつだけ、どうしても言っておきたいことがあるんですが、いいですか?」


「もちろんです、どうぞ、遠慮せずにおっしゃってください」


「うちの店、もう三年ここで商売させてもらってるんですけど、上からまったく何も聞こえないですよ」


「ああ、そうなんですか」


「ええ、うちの店もスピーカーが三つあって、そこから音を出してるんで、まずフレイムハウスさんの音が気になったことはありませんね」


「そういっていただけると、助かります」


「そうだ、もうひとつだけ言っておきたいことがあるんです」


「どうぞ」


「以前に警察がそちらに来たときのことなんですけど、この辺の噂じゃあ、僕が騒音問題でお宅に警察を呼んだってことになってるみたいなんですけど。絶対、ないですから。僕、そういうふうに言われるんが、ほんまにイヤでね。なんやったら警察に連絡して、訊いてみてもろてもいいです」と、大将は苦笑しながら、そのようにいう。


「はい、そちらさんの通報じゃないことは百も承知しています。噂というのは噂を流したい人間にメリットがあるよう流されていますから。そこを精査すればネズミがどこにいるのかは簡単にわかります。ただ、それに関しては僕がこのお店に関わる前のことなので、僕としては今さらそれを咎める気もありません」と、ヒゲの男は返答する。


大将とヒゲの二人に共通している問題は通報者が誰なのかでは一切ない。通報するのは一般人としてしっかりと認められた権利である、そこにナンセンスな恨み節などはない。事実とは違う風評を流されることが迷惑千万な問題なのだ。その認識がお互いにあるということが確認できたことは、今後なによりの糧となる。


「いやぁ、話しができてよかったですわ」


「僕のほうこそありがたい限りです、どうぞ、今後とも宜しくお願いします」


二人の男はそれぞれの担当する店へ行くために別れる。同じ平米で仕事をする仲だ、わだかまりなど持ちたくはないのは当然の思い。


画廊喫茶フレイムハウスは「架空読書会」の日。


開店早々、架空読書会を提案した洒落た名前の女がやってくる。それに続いて夜には珍しい妖精の女、青山ビルのギャラリーの女、青いカーデガンの女(昨日はライトグリーンだった)、そして常連の不思議な女の到着を待ち、架空読書会はスタートした。


ヒゲの男こと阿守が万作が製作した木製のバーカウンター(兼ステージ)の中に入り、ホワイトボードに架空の本のタイトルを書き、それについて読後感想を述べるのである。


◆小説「アンタのソレイユ」 著者:ヨラン・ハッチンソン


ホワイトボードには、そう書かれていた。


不思議な女が落ち着いた声でいう、「このアンタという距離感が絶妙な訳だなと思ったの、あなたじゃなくてアンタという若干、近い距離感。確か、翻訳されたのはハヤシキクコさんでしたわよね?」


ホワイトボードには、翻訳:林喜久虎と追加される。


「林さん自身がハッチンソンの生まれ育った街を知ってらしたから、この見事な訳に繋がったんだなって感じました」といったのは、洒落た女だったであろうか。


「そう、確か林さんってイェーテボリ大学に留学してらしたと記憶しています」と、適当なことを抜け抜けというのはヒゲの男。


キリのいいところで、ヒゲの男はホワイトボードを洒落た名前の女に渡す。


◆小説「ぼくはかいだんをおりられない」


「主人公の少年がどうしても階段を下りられない。そのとき、階段に着地すれば音の出る装置をつけてみたら、メロディーになって楽しく下りられるんじゃないかって、発案するじゃないですか」と、ヒゲの男。


「周りの大人はみんな、下りろっていうんですよね」と洒落た名前の女。


「そう、それで、少年がキラキラ星を階段を使って演奏しようとして、最初のドから次のソに飛んで、結構な距離があるから足を骨折するじゃないですか」と、ヒゲの男は続ける。


「まさに骨折り損のくたびれ儲けよね」と、不思議な女は当意即妙な合いの手を入れる。


「そして、師匠がでてきて。見てろ、俺ならこんなこともできると、リストのラ・カンパネルラを階段で弾こうとするんですけど、2オクターブ離れてるところを飛ぼうとして、やっぱり骨折するじゃないですか」


笑いながら、ホワイトボードを不思議な女に回す。不思議な女は黒のマジックで何やら書き込んでいる。


◆小説「明日の句読点」 著者:井上ましか


ヒゲの男はこの「井上ましか」という、ありそうで聞いたことのない絶妙な名前が面白くて、笑いをこらえきれない。カウンターで一人で口を押さえて笑いをこらえている。


架空読書会がはじまってから、グラフィックデザイナーの男、そして漫画家の男、会計事務所のオーナーの男、上仲くんがやってきている。店内が混雑してくれば喧噪も増え、これがなかなか情緒あるものであった。架空読書会を観察するものもいれば、まったく別の話しをするものもいる。


万作はタバコを吸う暇すらなく、せっせと厨房にて温かいものから冷たいものまで、なんでも作る。


ヒゲの男は「そういえば、アメリカからの帰りの飛行機で上仲くんが見た映画がめちゃくちゃ良かったそうなんですよ。僕はまだ観ていないので、上仲くん、みんなに説明してあげてよ」と上仲に無茶ぶりをする。


「ええっ!?僕ですか!?」と素っ頓狂な声をあげる上仲、その様子をニヤニヤと見つめるカウンターに座る二人の女と、観客の女たち。


ホワイトボードには、ぽつねんと、ヒゲの男によってこう書かれていた。


◆映画「THE 肉屋」


上仲は覚悟を決めた顔をして、映画について神妙に語りはじめる。


「みなさん、僕があまりの感動によって、飛行機を降りれなくなった映画をご紹介します」


「それって、ジャンルは何になるの?」と、不思議な女が痛烈な質問を入れる。


「ええと…、はい、ラブロマンスです」と、上仲はスポーツマンらしい反射神経を見せる。


グラフィックデザイナーの男と漫画家の男は、あふりらんぽについて語っている。会計事務所のオーナーは画廊喫茶フレイムハウスのために最新兵器を持ってきてくれている。ギャラリーの女は流麗なイントネーションで、ヒゲの男に問いかける。


「あなたたち、ありもしない本について、みんなでおしゃべりになってらっしゃるんでしょう?それってね、あなたたちの経験から出てくることなのかなと私は思うんですよ。だとしたらね、痛々しくてとても聞いてられないんですよ」と、心優しいことをいう。


ガゴッと音がする。


締まりの悪いガラス戸が開かれて、ぞろぞろと若い酔っぱらいたちが入ってくる。


そしてその一団の最後尾に入ってきたのは、そう、予想どおりのハイタッチの男こと冷泉だった。ゲーム会社の社長の男と冷泉は入り口付近にいた、会計事務所オーナーの男と合流して、談笑をはじめる。


なるほど、若い酔っぱらいたちは、ゲーム会社の社員であろう。


ここで、ちょっとしたハプニングが起きたのだが、それは店にいた客たちの協力によってすぐさま事態収拾となった。万作とヒゲの男はとてもありがたい気持ちになった。


店内でのハプニングが収拾しないうち、絶好のタイミングで、ドアの外からガハハーという豪快な女の笑い声がする。


バックパッカーのような大きな荷物を背負った音楽家のガハハの女が、いちげんさんのムラサキさんを連れて来たのだ。


ガハハの女はガハハと笑いながら、ハプニングを乗り越えて悠然と席に着くや早々に、「あ~、万作さん!ジンバック!いや、ウイスキー!いや、やっぱり、ジンバック!ガハハハー」と、飲み物を注文する。


今日は安治川の向こうにある、雲南省のような名前のところでライブをした後だということで、都合よくベネズエラの弦楽器であるクアトロを持ってきていた。


ヒゲの男が「何か一曲、お願いできないか」と相談すると、「えーと、なんにしよかなー、えーと、ガハハハ」とクアトロを取り出す。


「みどりきみどりふかみどり」というオリジナル曲を弾きだした。その柔らかな声からは先ほどまでガハハと笑ってた女と、歌っている人物が同じだとは考えられない。なんたるメタモルフォーゼか。


それでは皆さん、ご一緒に!とガハハの女がいう。


「みどり~、きみどり~、ふかみどり~」と店内には男どもの野太い合唱が何度もウェーブのように起きる。


何か演奏してくれとお願いして、すぐ酒場に一体感をもたらす音楽の力は偉大なりと、
ヒゲの男はここにきて音楽の価値を見直している。


ギャラリーの女は、バーのカウンターにある棒についての歴史を会計事務所のオーナーとヒゲの男に説明した。カウボーイが馬を繋ぐための棒だったのよと。


それくらい昔のバーの話しをひとつしよう。


当時、西部劇で我々がよく知る時代のアメリカは無法者で溢れていた。一度、乱闘がはじまると銃撃戦となるのが常であったそうだ。


特にピアノが置いてあるようなバーは人気店であり、そういったピアノバーのどの店にいっても同じ文句の貼り紙があり、こう書かれていた。


「ピアニストは撃たないで!」


酒場にとって音楽家は、なくてはならない存在であり、代えの効かない役割を担っているのだ。もしも撃ち殺されてしまうと、当時は代わりのピアニストが来るまでに随分な時間と経費がかかっていたのだ。


夜はそのまま更け、店に残ったのはゲーム会社の社長と社員、会計事務所のオーナー、冷泉、万作、ヒゲの男。これだけになると、やっぱり、殴り合いがはじまるのであった。


「なんやねん、このファイトクラブ感!」とゲーム会社の社長は呆れていたが、結局、最後には奮って参加していた。


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by amori-siberiana | 2017-09-07 17:45 | 雑記 | Comments(0)


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