2017年9月09日(土)① ◆一生を阿呆として過ごすのだ

こんにちは、北浜にある猫のひたいのような小さな店。画廊喫茶フレイムハウスを経営する阿守です。日々、喫茶店に集う人のことをブログに書いていくだけのダイアリーとして開設しましたが、集う人たちが変人ばかりなので、マッドネスな印象があるのは否めません。

今後ともどうぞよろしくお願いします。


この木曜日のこと、ヒゲの男は北浜のオフィスでいつものようにコーラを飲んでいた。スタイルのよい冷えたコーラ瓶を冷蔵庫から取り上げ、栓抜きで王冠を剥ぎとり、そこへレモン果汁を垂らして飲むのがヒゲの男の矜持である。


コーラ瓶を持って自分のデスクに戻ってくると、アラタメ堂の主人が声をかけてくる。


「阿守さん、少し、時間あります?」


「ええ、時間なら幾らでもあります。どうかしましたか」


「実はね、新しいゲームを手に入れたんですよ。これをやってみたくてね」


アラタメ堂のご主人の目はキラキラと輝いている、そんな目で見られてノーといえる日本人がどこにいるだろうか。その話しの流れのまま、三人は画廊喫茶フレイムハウスへ移動することになる。


三人…?


あと一人は誰?となるだろう。当然だ。


隣の席で起業の準備をしているサーファーの上仲青年、彼がアラタメ堂の策略によって、半強制的にフレイムハウスへ連行させられることとなったのだ。起業までの道のりは遠い、頑張れ上仲。


店には版画家の柿坂万作、そして常連の不思議な女とガルパンの男。そしてテーブルを囲みゲームに興じる三人の男たち、雨降りの静かな時間が流れた。


そういえば…。と、ヒゲの男は自分の小学校時分のことを思い出した。


雨の日、校庭が使えないとき、当時の担任だった岡田先生は教室でボードゲームに興じることを許してくれていた。それ以来、これまでうっとうしかった雨の日は、ヒゲの男にとって特別な意味合いを持つようになった。


将棋の強い先生であった。どんな手を打ったとしても軽くいなされたが、ヒゲの男の友人でパキスタンと呼ばれていた少年が打った一手が凄かったみたいだ。


「いい手を打つな」と、これまでには見たことがないほど嬉しそうな顔をしていたメガネの先生の顔が思い出される。ヒゲの男は、先生を驚嘆させたのが自分ではなかったことを悔しがったが、パキスタンはそういう部分の才能は誰よりも飛び抜けていた。


しかし、パキスタンも将棋の駒を進めるのは得意であったが、人生という自分の駒を進めるのには随分と苦労したようだ。風の噂にもならない些末なことではあるが、ヒゲの男は旧友のことをいつも案じている。そんな彼が今では先生と呼ばれている、嬉しいことである。


今年に入ってだろうか、何年かぶりにパキスタンへ連絡をしたことがある。


版画家の柿坂万作が鋭意、製作中であるアレが理論的に可能なのか不可能なのかを彼に訊くためだ。ヒゲの知人のなかで物理とかそういったものに専門的な知識をもち、精通しているのはパキスタンくらいしかいないからだ。


パキスタンの電話番号がわからない。なので、彼の香川県の実家のほうに連絡をして電話番号を聞き出して、その番号にかけてみた。


ルルルルルル。呼び出し音がなる。


「はい、●●です」と、女性の声がする。これは多分、パキスタンの細君の声であろうとヒゲの男は理解する。


「もしもし、あなたの旦那の古い友人で阿守というものです。少し、あなたの旦那に訊きたいことがあるので取り次いでもらえないでしょうか」


「はい…、アモリ…さん?」


「そうです、阿守です」


「えっ!?もしかして…、失礼ですけれどシベリアンニュースペーパーの阿守さんですか!?」


「は、はい…。そのとおりですけど」


「ええっ!?どうして阿守さんが私の番号を!?ええ!?どういうことなんですか!?なんで?なんで?」


「いや、あなたに連絡をしたわけではなく、先ほども申し上げたのですが、旦那さんとは旧友で…」


「あ!はいっ!はいっ!すぐに代わります!あの…、私、ずっとシベリアンのファンでした、これからも頑張ってください」


「ありがとうございます、旦那さんを…」


世の中、なかなか面白いことが起きるものである。ヒゲの男とパキスタンのやりとりは、ものの10秒かからずに終わったが、それよりもヒゲの男はパキスタンには良い細君がいるのだなと安心した、そしてなによりこの珍妙なやりとりが愉快だった。


テーブルの上でゲームはどんどん進行していく。


姫や騎士、魔術師や大臣、伯爵令嬢もいれば僧侶もいる。それらが勢ぞろいしたテーブルの光景は、そこだけ中世に戻ったような空間である。将棋の盤はテーブルのそれよりさらに狭い、その盤の上で人生の栄光を勝ち取るものもいれば、壮絶な挫折を強いられるものもいる。盤ひとつの上にどれだけの人間が人生を賭けてきたのだろうか。


ゲームというのは宇宙の破片の一部なのかも知れない。


テミスの天秤の片方にゲームを置いたとき、その重さと釣り合うものは何であろうか?


ヒゲの男は自分の前に並べられた、カードを見ながら考えていた。


その思考をさえぎるかのようにハイタッチの男こと冷泉がやって来る。冷泉は手にバランタインの17年をさげて、それを店に寄付してくれるとのこと。


ブレンドしたスコッチウイスキーの逸品である。シングルモルトとは違い、その味わいはより調和がとられ、多種多様な文化の融合を味覚に訴えかけてくるようだ。


中世の宗教改革者として高名なマルティン・ルターはこういった。


酒と女と歌を愛さぬ者は一生をアホとして過ごすのだ


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by amori-siberiana | 2017-09-09 12:46 | 雑記 | Comments(0)


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