2017年10月10日(火) ◆王子と作家と電気工事士とヒゲの男。彼らはシベリア出身だ。

こんにちは、北浜にて猫のひたいのように小さな店。画廊喫茶フレイムハウス(近日:クント・コロマンサに改名)を経営するヒゲの男、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


王子と総帥(前編)の終演後、版画家の柿坂万作が翌日のランチをしたくないと宣言したことにより、画廊喫茶フレイムハウスはランチをお休みしていた。ところが、ヒゲの男が店の前を通りかかるとシャッターが開いている、入店のためには誰もが通らなくてはならない赤絨毯の細い階段。その入口にあるのは、版木に書かれたであろう「準備中」の立て札。


つまり開いているのか、それとも閉まっているのかよくわからないヒゲの男は好奇心で店に入っていく。この時期、不意に入っていっても万作が裸で行水をしているということもあるまい。入店してみると、なるほど合点がいった。早めに大阪へ到着した作家の男が、だるそうに店の椅子に着座していたのだ。


まだ昼食を食べていないと作家の男がいうので、それならば万作に何か作ってもらおうと一瞬考えたヒゲであるが、半寝ぼけのような万作の顔を確認したのち、その思いはすぐになくなり、外で食べることにした。万作も少しは休まないといけない、彼はいつだって店に常駐しているのであるから。


昼食後、店に戻りのんびりしているとバイオリン王子がやってくる。王子と作家の男は数年ぶりの再会となるのだということを知って、ヒゲの男は驚く。そういえば、この店を拠点としてヒゲの男は双方ともイベントにて迎合をしているが、これまでにこの両者が同じ日程でイベントをしたことはないことに気がついた。


「お久しぶりです」から入る挨拶もなかなかいいものである。王子は以前から王子であったが、作家の男は以前まで音楽家だったのであるから、3~4年という月日の流れは早いものである。そのうち、電気工事士の男がやって来る。これで役者は揃ったのである。


この日は宗教画のモデルの女が助っ人として来れないため、星師匠が孤軍奮闘することになるが、昨日のうちに満員の店を体験しているので、なんとかなるだろうとヒゲの男はタカをくくっている。それに来場者も勝手知ったる戦友たちなのだ。隠れキリシタンたちがお上の目の届かないところで、こっそりと集い、そして唱える「オラショ」のようなものである。


星師匠と宗教画のモデルの女は、前編の演奏中に厨房脇のカウンターにて、互いの子育てのことを話しあい、互いに涙して、さらには互いの世間話しで盛り上がりすぎ、版画家から「すんません…、もうちょっと静かに」と注意されたようである。ひとつの店に幾つもの話題のトピックスがあるのをヒゲの男は好ましく思う。


ヒゲの男はサンジェルマンの殉教の導入部での、万作が氷をガツガツさせる音などは、その音を聴いていて、なぜか優しい気持ちになれたものであった。


一週間前の12時00分における激戦の中を勝ち抜いてきた聴衆が集まる。それだけで精鋭部隊であることは誰の目にも明らかであり、上の階を控室として陣取っていた四人の演者たちの耳にも、階下からの笑い声が聴こえる。


この日も演奏は二部構成であった。ヒゲの男にはどうしてもやりたい曲がある。それは「PERPETUUM MOBILE」という曲だ、ヒゲの男はこの曲を3年半ほどのあいだ、どうしても演奏したくて演奏したくて、仕方がなかったのだ。それが演奏できるというだけで、今日という日は特別であり、格別である。


王子のバイオリン、電気工事士のベース、ヒゲの男のギター、そして作家の男のパーカッション。王子は久しぶりに会った作家の男の腕がなまっていないことを確かめて、とても嬉しそうな顔をしていた。


一斉になりだした音楽は、ここにいる誰も知らない曲ではなく、ここにいる誰もが知っており、それを求めて関東や九州から参じてくれた遠方者も含めた皆に叩きつけられる。「お前たち、今夜は帰れないぞ」という思いで挑むヒゲの男たちであるが、イベントの最後のほうには「頼むから、そろそろ帰ってくれませんか」と願うようになるのは、いつものことである。


王子と総帥の後編は終了した。


終了のとき、どうしてもヒゲの男はやりたい曲がでてきた。柵から逃げ出し亡命する軍馬の話しという曲である。シベリアに抑留された者たちにとって、シンボリックな曲である。王子は、弾けるかどうかわからないというが、のるかそるかの精神で演奏してみることにした。


曲の最後の最後、ヒゲの男は王子と目が合った。時間にしてほんの一刹那くらいのものであった。ヒゲの男には王子が何を言わんとしているのか、一瞬にして理解できた。


奮える瞬間であった。こういう瞬間を生きてるあいだに、もっともっと経験したいものである。もっともっと、もっともっと。


この日、演奏以外にもいろいろなことがあったが、負け戦ばかりなので語るべからずである。



明日、世界が終わるとしても、私はリンゴの苗を植えるでしょう。


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by amori-siberiana | 2017-10-10 17:41 | 雑記 | Comments(0)


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