2017年12月05日(火) ◆銀杏とアンディ・ウォーホールにビジネスを学ぶ。

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


冬の大祭、万作祭の第一夜が無事に終わった。特に死人も出ることなくそれぞれが帰路につけたのであるから、これは無事と断言しても別段問題はなさそうだ。街路樹としていつのまにか市の栄えた銀杏並木の葉が昨夜からの風雨で、植物間にも人並みの同調圧力があるかのように一斉に落ちる。その銀杏の葉を掃く人がいる、植物は生まれかわりと変容を心得ており、動物は愛嬌と死に際を心得ている。だからいつも人は動物や植物に自分を重ねてみて、その相当なる覚悟に恐れ入るので写真に収めるのであろう。


ヒゲの総帥が大台ケ原の山荘で知り合った男の話しをしよう。この大台ケ原というところは深田久弥の著した日本百名山にも選ばれている名峰であり、山頂までとても行きやすい。山自体の開拓史は新しいものであるが、上等の道が山頂近くにまで延びており、しかも駐車場も大きく広がっており時間制限もなくトイレと自販機も完備されている。しまいにはバスも運行しているという優れものだ。ヒゲの男が大台ケ原くんだりまで何をしに行っているのかといえば、これは登山のようなものではなくただただ星を見るために訪れるのである。


ある夏の盆休みの頃。この時期にあわせてというわけでもないだろうがペルセウス座流星群が見られるので大台ケ原の山頂へ向かう。冬季は早い段階から交通不能となる大台ケ原山頂への道も夏は賑わっている、道自体が比較的に広いので車同士の行き違いの往来時に面倒なことはない。昼過ぎには山頂駐車場へ到着したが、星が見える夜になるまでには随分と時間があるし、紀伊山地をぐるりと周遊していたのでへとへとに疲れていた。なので財布のなかのお金を数えながら、苦し紛れに山荘で一泊することにした。次の日は朝から大きな仕事があったのだが、朝の4時とか5時に山荘を出ればどうにかなるだろうという考えである。


あいにくと盆休みの繁忙期ということもあり個室は全て埋まっているのだという。別に寝るだけだから大部屋でいいと伝えてそこへ移動する。おおよそ20人くらい寝れるであろう部屋にはご夫妻らしき二人と男性が一人がおりこれで全てだという。一夜を共にするわけなのであるからヒゲの男はそれぞれに挨拶をする。これが普通の挨拶だけで終わるのかと思えば、それぞれ変わった人間ばかりであるので、いよいよ話し込むことになる。


「補陀落渡海のあった場所はどこなのか」とか「阿守はシュールレアリスムのマルセル・デュシャンを知ってるか」とか一般の登山客とは会話の内容が違う。ご夫妻のほうはニューヨークで活動する芸術家であり日本に置いている土地のなんたるかを整理するために帰国して、そのついでに西大台に入ってみようということになったのだという。大台ケ原の西部は申請をしないと一般人は入山できないことになているのだ。もう一人の男は鳥を撮影しに来たのだといって、自身のカメラを我々に見せてくれた。そこに写っているのはやはり鳥ばかり。


「どうして鳥を撮影しようと思ったんですか?」と鳥に無頓着なヒゲの総帥は初歩的なことを訊く。ある日、その男が外出したとき目の前に鳥が空から降りてきた。偶然、手元にカメラがあったので鳥を撮影してみた。それがすべてだったと鳥男は話してくれる。そこから平日は仕事をして休日は鳥を追いかける日々が続いているのだとのこと。どうしてエベレストに登るのかと問われ「そこにエベレストがあるからだ」と答えたのは登山家のジョージ・マロリーであるが、まさにそういう簡潔でウソのない答えであろう。この回答は円周率を表す「π」や自然対数を表す「e」のようにエレガントで、他の何者にも属さないような高潔さがあるのだ。


何度か鳥を撮影している自分にうんざりすることもあったというその男。これまでにもう鳥を追いかけるのは止めようと思うたび、目の前に鳥がやってくる。鳥がいるのだから撮影をせざるを得なくなり、今に至るのだと説明する。


「最初は何でも良かったのです、スズメでもカラスでもなんでも良かったのです。とにかく鳥を撮影できればよかったのです。ところがどんどん撮影する度に、自然に簡単に撮影できる鳥は撮りつくしてしまい、そのうち今のように撮影が難しい鳥しか残っていなくなったのです。自分でも自分が何をしてるのかよく解らなくなるときがあるんです、どうしてこんなに鳥ばかりに自分の時間を使ってるのか。バカなことしてるなと自分でも思いますよ、ただ、鳥が自分のところに来よるんです。仕方がないんです」


「鳥が自分のところに来よるんです…か」と一同は納得する。


芸術家の男が話す。


「ある日、アンディ・ウォーホールが【a】とプリントされたデザインを発表した。オレはそれを見てふざけるなと思ったのだ。どういうつもりなんだこの野郎と感じた、これは完全にオレに対する挑戦状だと捉えたのだ」と芸術家の男は当時を思い出しながら語る。細君は隣でうんうんと頷くが、他の面々は「???」という顔をする。そんなことなど構うことなく芸術家の男は話しを進める。


「この【a】をなんとかしないことには寝ても起きても気になって仕方がないという心境になったのだ。そこから数日はそのデザインが頭に染みついて離れない、ええい、忌々しい!なんとかアンディに一泡吹かせてやりたいものだ」と怒気と熱気を帯びた話しは続く。そしてあるとき、芸術家の男はひらめいたのだ。


a】にダッシュ(')を付けてやればいいのだ…。そうだそうだ、こうしてやれば一泡吹かせられるはずだと思うままに早速【a'】の製作に取り掛かる。ようやく完成した【a'】をアンディ・ウォーホールに送りつけてやれと行動に移す。それを不意に受け取ったアンディ・ウォーホールは驚く「オレの【a】を【a'】にした奴がいる!なんてことをする奴なんだ、これはいかんこれはいかん、どうにかしてこいつをぎゃふんといわせてやらなくてはおちおち飯も食えない」ということになった。細君はやはり隣でうんうんと頷くが、他の面々は相変わらず「???」という顔をする。そんなことなど構うことなく芸術家の男は話しを進める。


「そこであいつ(アンディ)は凄かったね、このオレの【a'】をシャツにプリントして着やがったのだ」と芸術家の男は不倶戴天の敵なれど天晴れであるという顔をする。細君は「アンディ・ウォーホールは偉大」と言葉を添える、他の面々の「???」はあまり変わらない。


その晩は全員で星を見た。もちろんヒゲの総帥がほとんど無理やりに全員を叩き起こして外へ連れ出すのであるが、そこには満天の星空があり、流星も幾つか見れたこともあり暇はしなかった。何時間も何時間も夜のしじまが永久に続けばいいと願うほどに、恵まれた一夜であった。他人と同じ光景や経験を分かち合うこと、交流することの不思議さに快感を覚えた瞬間でもあった。


そのアンディ・ウォーホールであるが、こんな言葉を残している。


「but why should I be original? Why can't I be non original?」


どうして独自性がないといけないのか?他の人と同じの何がいけないのか?


銀杏の葉はやはり皆で一様に散り際を弁える、それは見事なまでの生の最後を彩る祭りのようである。



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by amori-siberiana | 2017-12-05 12:42 | 雑記 | Comments(0)


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