2017年12月06日(水) ◆砂になる日を待ち焦がれ、青い空の下で。

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


1月並みの冷え込みをしている北濱。もちろん北濱が1月だから淀屋橋が2月で本町が3月ということはない、皆が芸もなく一様に1月を決め込んでいるのであるから逃げ場はない。それでも日の光が差し込んでくると幾分か救われたような心地になるもので、盛夏の折には太陽の野郎などと恨みに思っていた気持ちも反転、お日様が恋しくなる。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は北濱のオフィスに籠ってコーヒーを飲む。それから店に行くとすでに常連の不思議な女とギャラリーの女がやってきており、しばらくしてガルパンの男もやって来る。厨房の万作はギャラリーの女がオーダーしたであろう食べ物を寒厨ながらせっせと作る。出てきたのは麺類であり、ギャラリーの女は石川五右衛門のように熱湯に浸かっている麺へ箸をつけて一気呵成に口へと引き上げる。


「そういえばこの店をする前からずっと気になっていた店舗があったのですが…」とヒゲの総帥はおもむろに話しを開始する。ヒゲの総帥が気になる店舗というのはクントコロマンサから歩いて3分もかからぬところで、堺筋に面した頭の低いレトロビル一棟のことである。以前にはそこへ英国パブ様式の店が入っており、味はまあまあ雰囲気は良いという印象を持っていたヒゲだったのでそこへ何度か通っていたのだそうだ。ある日も気分よく飲んでいた、一緒にいたのは長年の知人であるタカハシン・コルテスというゾンビみたいな顔をした男であっただろうか。ヒゲ殿はギネスビールをしこたま飲んだあと、その店へ帽子を忘れたことに気がついた。どこのどの時点で気がついたのか判然とはしないが、とにかくその日は面倒くさくて取りに戻らなかった。


幾日か経過したあと思い出したように忘れた帽子を取りに行くと驚いた。店はがらんとしており空き店舗となっていたのである。森羅万象、飛花落葉、生者必衰、有為転変の理と知ってはいるものの自分が気に入って拠り所としていたパブがなくなるのはなんとも惜しい。せめて帽子くらいはドアノブに引っ掛けておいてくれればいいものの猶更惜しいと思う。一度に二つのものが闇に消えるのかと感じると総身の活気が一斉にストライキを起こしたように気が滅入ってくる。こんなにいい店を他人にくれてやるくらいならここを居城と定めて自身で店でもするかとテナントの管理会社に連絡をすると、保証金で700万円が必要だといわれ悪寒がして目がぐらぐらする。


ところが情熱というのは文字どおり熱病と似たところがあり、しばらくするとその熱も冷めて寂寞を多少なりとも抱えるものの、普段は弊害なく進んでいき、おかげさまで現在のクントコロマンサを見つけることとなった。先述した店は英国から米国に趣向を変えたようで、アメリカンスタイルのバーになっていたのだが水商売の難しさを身をもって露呈することとなった。ヒゲの総帥が通りかかったときには残念ながら人の気配はなく、「CLOSED」の看板がずっと掛けられたままであるのだそうだ。


その話しが終わるころ、万作がご飯を炊いて茶碗によそって持ってくる。先日、客からいただいた漬物を添えての新米は豊かな食感と風味、あとに残る旨味がひきたてられて何杯も食べられるのである。食前方丈もよろしかろうが、こうして一膳の茶碗に盛られた白米と漬物数切れというのを美味しくいただけるのは、より幸せを感じるものだ。ハイパーインフレを脱却した国家のような平穏の静けさを胃にもたらすのである。先ほど麺を食べたばかりであるギャラリーの女も米を食べるという、さすがは自称301才の健啖は並ではない。


店の中央には火鉢が置かれ、その上では鉄鍋が湯気をあげている。常連の不思議な女とギャラリーの女は田舎の駅舎の待合室のようだという。ヒゲの総帥は週末になにか出し物をするそうでその練習にギターを静かに鳴らす。ガルパンの男はガルパンをする、万作はバーカウンターへ入り描きかけの肖像画に筆を入れる。


行けるのならどこへ行ってみたいのかという話しを皆でする。ヒゲの総帥は辺境の地か世界の中心のマンハッタンがいいという、不思議な女はイギリスのコーンウォール地方へ行きたいという。海岸線の見える荒野を歩き続けたいのだという。ヒゲの総帥は「いいところ言いますね、そういうことなら、僕も同じくコーンウォールにします」と平然と希望変更する。


ヒゲの総帥は不思議な女に問いかける「コーンウォール地方の西の果てにある地名を知ってますか?」「いいえ、知らないの」「ランズエンド(地の果て)というんですよ」「そうなんだ」。ヒゲの男はおもむろに自身がその地を題材にしたという曲をギターで弾きだす。なんでも世界の果てになんちゃらかんちゃらという長ったらしく説明くさい表題であったような気がする。


ギャラリーの女にも同じ質問が飛ぶ。「私はね人がいるところじゃないと嫌なんですよ、そんな人がいないようなところへ行くと砂になってしまいそうなの」という。ヒゲ殿はいう「熊野古道みたいなところは勘弁ということですか」「いいえ、あそこなんかは人ばかりじゃないですか、そうじゃなくて人のいないところですよ。そういうところへ入り込んだら最後、帰ってこれないと思うんです。それこそ木や砂になるんです」「物質に…還元されるということですか」。


ヒゲの総帥はギャラリーの女がリヒャルト・デーメルが描く「浄夜」のような世界へ入り込んだところを想像する。この女がどんな物質に還元されるかをシミュレーションしてみるのであるが、どうにも砂というイメージがない。それもそのはずギャラリーの女は眼前で白米を食べる、イメージできるのはギャラリーの女が大きな大きなウツボカズラに変容するところくらいである。


夜も更ける、ハイタッチ冷泉がやってくる。同窓会帰りの好々爺がやってくる。好々爺は酒をおごるから井上陽水の「少年時代」を歌ってくれというので、ヒゲと冷泉と不思議な女は一緒に歌う。老人はご機嫌で足を幼稚園の子供のようにバタバタさせて、ブラボーを何度かいう。それから名前のような名字の男がやってきて、四方山話が栄える。逸民を決め込んでいるヒゲの総帥にそろそろ刮目せよと発破をかける、冷泉はヒゲに猛獣使いとなってみるがいいと提案する。


驀地に打て出たり、どこへ行かなければならぬのか。ヒゲはヒゲをひねりながら頭をかく、かいた部分からは頭皮が剥がれボロボロと服の肩に落ちてみっともない。


万作は眠たそうな目をしながら酒掃薪水している。


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by amori-siberiana | 2017-12-06 12:27 | 雑記 | Comments(0)


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