カテゴリ:雑記( 198 )

こんばんは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


北濱はこの冬一番の厳しい冷え込みに見舞われている。ちらほらと雪なのか雨なのか、またその間なのかというようなものが空から舞い降りてきて、道行く人たちに傘を持たせようかどうしようかと悩ませる。起きたとき、一面の銀世界であったとしたら幾ら冷え込まれても、目新しさのほうに気が向いて多少なりとも救われようというものだが、いかんせん大阪は雪が積もらない。ただ寒いだけで、つまらん。


さて、24日のこと。


ヒゲの総帥は要塞から抜けでて北濱のオフィスへ向かい、そのあと100年以上、中崎町で住みつく一族の男と一緒に店へ向かうことにした。店に到着してみると、常連の不思議な女とエイリアンとギャラリーの女がなにやら話し込んでいる。「阿守さん、あなた、こちらへ向かわれるときね、くしゃみをしませんでした?」と自称301才のギャラリーの女はイタズラっぽい顔でヒゲの総帥を見やる。「今ね、万作の悪口を言ってたのよ」とエイリアンが宣言書を読み上げるようにいう。不思議な女はその光景を見ながら「ククク・・・」と密かに笑う。


しばらくすると、全身黒ずくめの服に身を包んだ冷泉がやってくる。ママチャリ部隊を操る男と参謀長たち、さらには東京から冷泉を訪ねて割烹の女とガールズバーの経営者がやってくる。彼らは冷泉に内緒で大阪まで来たのだという。ここにいたって冷泉目線からいうところの西の行きつけの店の人間と、東の行きつけの人間が顔を合わせることとなった。「なんか、変な気持ちです。ぐふふ・・・」と冷泉はつぶやきながら二人をヒゲの総帥に紹介してくれる。


冷泉とママチャリ部隊の男は東京にて一緒の時間を過ごすことが比較的に多いそうだが、この二人の東京での話しは抱腹絶倒である。


店内では万作の創意工夫により卓球台が急造され、そこで東西の者たちが卓球をすることになる。


さらに昨日のこと。


ヒゲの総帥はやはり要塞から出ては北濱のオフィス「ザ・ジンクス」へ向かう。アラタメ堂のご主人が主催する「北浜人狼」があり、ヒゲの総帥はゲームマスター(司会進行)の大役を仰せつかっているのだ。ヒゲの総帥がメンバーが集まるまでオフィスで調べものをしていると、知人のエンジニアの男がやってくる。エンジニアの男はヒゲにありがとうの女を紹介する、このありがとうの女とヒゲの総帥は初対面であるので互いに名刺交換をして応接ソファで四方話をしている。アラタメ堂のご主人とディエゴはお菓子や酒の買い出しに多忙を極める。


そんな最中、総帥は唐突に暗くなっている外へ出る。頭上には予定時刻そのままに、スーッと大きな光が通り過ぎていく。そう、国際宇宙ステーションである。ほんの30秒くらいの出来事であったが、それは多幸感をもたらせてくれるものであった。そこにある動かぬ真実が冥界から顔を出してきたような耽美があった。


今回の北浜人狼はメンバーが多いが、なんとかなるだろうとヒゲの総帥は酒を飲みながら司会進行をして、どんどん気持ち良くなってくる。そして酔っぱらいの誰もが陥る状態となる。つまり、どうでもよくなるという明鏡止水の境地となり超然とする。初参加のなかには人狼に長けた人物たちもいる、ベラベラと達者に喋るのであるがヒゲの総帥はその冗舌にユーモアが含有されていないことを残念に思い野暮さを感じる。少しはファラオやマスマティックの女を見習っていただきたい。そう思うとアホらしくなってどんどん冷めてくる。この辺り、このヒゲの男は難しい性格をしている。


一回目のゲームが終わり、ヒゲの総帥はベラベラに「次はお前がゲームマスターをやれ」と唐突にいいだすが、ベラベラの子分が「あの人はゲームマスターができない」という。これだけ人狼ゲームに精通しているのにどうしてなのかとヒゲの総帥は疑問に思ったが、次の瞬間にその答えは判明した。


「彼はプロのゲームマスターだから、こういう場所ではゲームマスターができないのだ」と子分が不明なるヒゲの総帥に教えてくれる。そんな、場末の聞いたこともない音楽事務所に入って偉そうにしてるシンガーソングライターみたいなケチくさいことを言うのかと苦笑したが、本人たちはそれで自己顕示しているのであるから、そこは敢えて突くまい。人には人の価値観があるのだ、それが気に入る気に入らないは後世の歴史家の評を待とうではないか。


しかしながら「女性なので吊りたくない」とか「女性を疑ってしまうのはどうたらこうたら」とやけに女性に対しては優しい一面を醸し出しておられたのは、大いに大いに、後学となるところである。ヒゲの総帥はアホらしくなって、アラタメ堂のご主人に断りを入れて人狼ゲームから抜ける。


アラタメ堂主催の人狼ゲーム会が終わり、そのままアラタメ堂のご主人、ディエゴ、クモン提督、ゲームセンス・ゼロの女、フリーライターの男と連れだって猫のひたいのように小さな店へ移動する。店ではすでに常連のガルパンの男とヘルベンツが静かに飲んでいた。しばらくすると、大いに騒ぎ倒す電電公社の男たち、そこへ斥候の男も加わり店は賑やかなこととなる。


パン屋の女からもらった喜界島の焼酎を開けて飲むことになったが、なるほどウイスキー飲みでも好んでおかわりを頼むであろう芳醇な味わいがそこにはあった。



ゴッダムの賢い男が三人


お鍋に乗って海へ出た


お鍋がもう少し頑丈だったら


このお話も、もう少し長くできたのにな


寺山修司



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by amori-siberiana | 2018-01-26 19:43 | 雑記 | Comments(0)

こんばんは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、22日の月曜日のこと。


ヒゲの総帥は朝からフランツ・カフカが執筆した世界観のような場所で仕事をする。とにかく猛烈に入室と退室をチェックされ、さらには着衣以外の一切の私物の持ち込みも許されない。外見からすると白い壁でしかないところは、一旦入ると軍の機密機関のようである。


仕事を終えて夕方に北濱のオフィスへ行く。あれやこれをしていると冷泉から連絡がある、「阿守さんに、会いたい、いう人が、今、お店に来ています、代わりますか」というのでヒゲの総帥は代わってくれと頼む。すると受話器の向こうから聞こえてきた声はヒゲの総帥の短かった高校時代の友人のダーウー君であった。


彼の存在なくしてファイナル・ファンタジーもロマンシング・サガも三国志も信長の野望もなかったのである、彼の親父がゲーム好きで誰よりも早くそういった人気アイテムを入手していたので、そのお下がりのお下がりを金銭に余裕のない学生時代のヒゲの総帥は享受していたのである。孫請け会社のようなものだ。


「わかった、15分後に店に行く」と返事をして北濱のオフィスから出て、さっさと猫のひたいのように小さな店に向かうことにした。


店に到着すると全身が黒ずくめの男、ハイタッチ冷泉がいる。妖精の女とエロスを追及する女、そして常連のガルパンの男もやってくる。そんな空間のなかにぽつねんとダーウ―はビールを飲みながらたたずんでいる。しばらくするとグラフィックデザイナーの男もやってくる、ヒゲの総帥は旧友にむかって「ビールは原価率がよくないから、ウイスキーをストレートで飲んでくれないか」と早速容赦のない店側都合を押し付ける、さすがは旧友でありこれを快諾する。グラフィックデザイナーの男はそのやりとりを聞いて失笑している。


およそ10年ぶりくらいに会うのだが、別段、互いにおっさんになった以外は変わることはなかった。それが良いことなのか悪いことなのかさっぱり当人たちには解らないのであるが、とにかくこうして再会できることは生きてこそであるのだから、上出来の類であろう。


ダーウーは自身がシリコンバレーに行ったときの話しをしてくれようとしていたが、長話しになりそうだったので、さっさと彼の出張先の近場のホテルへ戻ってもらうことにした。


そして、昨日のこと。


フランツ・カフカ要塞を抜け出して、ヒゲの総帥は店に行く。ゴガッと締まりの悪いガラス戸を開いた瞬間、厨房のほうからパンッという音がする。共同経営者である柿坂万作がクラッカーを鳴らした音であったが、ヒゲの総帥は確実になんらかの改造銃で撃たれたのだとオペラ鑑賞中に暗殺されたリンカーン大統領の気持ちになった。店内からさらにクラッカーが鳴る音で、「ああ、そういうことか」と納得するにいたった次第だ。


不思議な女とパン屋の女そしてギタレレの女が店を占拠しており、ヒゲの総帥の誕生日を祝ってくれる。それぞれがプレゼントをヒゲの総帥に渡して、彼の40才の誕生日を祝ってくれるのであるが、嬉しいような気恥ずかしいような気持ちで妙に照れるのであった。


しばらくしてよさこいの女がやってくる、さらにアラタメ堂のご主人と寸借詐欺に遭ったディエゴ、そして全身が黒ずくめの冷泉、肋骨を損傷しているドマツ先輩、ウェブライダーの男、人事コンサルの男、ベージュの女、腹がたぷたぷの男、元パティシエの女がやってきて、店は賑やかになる。さらに世界の果て会計事務所に属する狂気の男も合流してくる。


そして北京からベン君もやってくる。やってくるというか、迷い込んでくる。迷い込んでくるというか、巻き込まれてしまう。


さて賑やかな御一行であるが、聞くところによるとドマツ先輩の会社のセミナールームにて、ウェブライダーの男の講演会があったとのこと。皆一様にその帰り北濱の魔窟へ立ち寄ったというわけである。ウェブライダーの男がピアノが達者なミュージシャンだということで、店の足踏みオルガンを使ってのヒゲの総帥のギターと一緒にセッションをしてみる。なかなか急造コンビにしては場を盛り上げられた方であろう。


英語が喋れるディエゴはこういった場合、とても役に立ってくれる。なんでもかんでもディエゴを通じて話せば楽なのだ。冷泉などは「難しいって、なんていうんやったっけ、ディフィカルトや、ディフィカルト、ディフィカルト」と北京の男に詰め寄るだけである。もしも自分が初めて行く国で「難しい」を連呼しながら近寄ってくる黒ずくめの男がいたら、どれだけ難しい国なんだろうと実感するのではなかろうか。


しかし、北京の男は随分とこの店が気に入ってしまったのか閉店まで帰ることはなかった。


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by amori-siberiana | 2018-01-24 19:50 | 雑記 | Comments(0)

こんばんは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


いよいよ待望の平尾正和先生の新作がこの水曜日から連載される運びとなった。舞台は大阪のウォール街こと北浜にある猫のひたいのように小さな喫茶店。売れない版画家と、どういう因果かその喫茶店の経営再建を託された主人公の二人が、異世界のダンジョンから迷い込んでくる異世界人と出会いトラブルに巻き込まれるという物語なのだそうだ。


小説家の平尾先生の手にかかれば、北浜はどのようになるのであろうか。ヒゲの総帥は先生自身からチラと概要を教えてもらったが楽しみでしかない。この連載は読めば読まれるほどに人気が上がり、最終的には書籍となり、映画となりオタクの聖地となり、モデルとなった店は巡礼者でひっきりなしになるという、壮大で綿密な計画に基づいた捕らぬタヌキの皮算用的な発想である。


さて、ここで平尾先生の作品発表と入れ替わるようで申し訳ないのだが、ヒゲの総帥からも報告しておかなくてはいけないことがある。


おかげさまでブログの読者数は右肩あがりに上るばかりで嬉しいのだが、ヒゲの総帥はそろそろまた潜伏をすることになるかも知れない。つまり新しい仕事を始めるのだ。何の仕事なのかも言えないし、どんな場所でしている仕事なのかもいえない。この世には誰にもいえずに忍んでする仕事というのが必ずあるのだ。衣服以外の私物を持って入れない要塞のようなところである。


朝から夕方まで新しい仕事をして、夕方から北濱のオフィスで仕事をしたりブログを書いたりして、夜にコロマンサに顔を出すということができればいいのだが自信はない。どちらにしても心身が摩耗しない程度で尽力できればと考えている。


が、もしもブログの更新が遅れたり滞ったりすることがあっても容赦していただきたい。ヒゲの総帥も身がひとつなのだ、あちらもこちらも出来るわけではない。といってクントコロマンサが滅びるわけでもない、皆さまにはこの半年間ほどブログにお付き合いいただき大いなる感謝をしている。


といって、明日からヒゲの総帥がのほほんとブログを書いていても心優しく迎え入れていただきたい。元来、このヒゲの総帥というのは気分屋なのだ。


今後ともクントコロマンサ、そして版画家の柿坂万作、さらには北濱のことを宜しくお願いする。




ヒゲの総帥 拝



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by amori-siberiana | 2018-01-22 19:49 | 雑記 | Comments(1)

ヒゲの総帥はグランフロントを後にする。店へ行って来場者の席を確保しなくてはならないのである、到着すると店はすでに版画家の柿坂万作によってテーブルは三階に片付けられ、ボロボロのカーペットの上には比較的に新しいイシュトヴァンのカーペットが敷かれていた。このイシュトヴァンについてはまた機会があれば触れようと思う。


万作は風呂へ行く、ヒゲの総帥はジャミロクワイのような帽子を頭からかぶり込みカーペットの上で昼寝する。そういえば昨夜はえらく遅くまでアラタメ堂のご主人やディエゴと酒を飲んで語り合っていたのだ、しまいには入れる店がなくコンビニのイートインのベンチで宿り木に止まる鳥のように三人並んでカップ麺を食べていた。なので寝不足なのは当然で寝不足をここで解消しておく。


ドンドンドンと聞き慣れない階段を上ってくる音がする、アイルランド音楽を演奏する三人が京都から到着したことをヒゲの総帥はまず耳で知った。クントコロマンサでは夏以来の演奏となる、つい先ほどまで京都にあるパワーレコードでインストアライブをしていたそうだ。パワレコのインストアといえばヒゲの総帥にはシベリアンなんちゃらの時代に苦い思い出があるが、それは言わない。


リハが始まる、生音でやるというのでヒゲの総帥は何もしない。ココペリーナという名の三人組の段取りの良さと手のかからなさにホッとする思いで、流れてくるアイリッシュに聞き惚れている。サッとリハは終了する、店は開店する。


ライブ後にヒゲの総帥が客から言われたことであるが、この日の客層はある意味でオールスター勢揃いの様相となっていた。「総帥のブログに登場するなかでも強烈な人たちと出会えて嬉しいです」と感激される陣容であった。その感激のされかたたるやポケモンのプレミアムレアをやっと見つけたような感じであった。


プレミアム・レアは舞台を正面に見て右翼側に集結する。


アラタメ堂のご主人を皮切りに常連の不思議な女、エイリアン、ギャラリーの女、不動産デザイナーで乾いた笑いの忌部、斥候の男、寸借詐欺に遭ったディエゴ、電気工事士のヤマトコ、ミドリさん、時計を止める男。時間をおいてハイタッチ冷泉、世界の果て会計事務所の経営をするドマツ先輩、そしてこの日も芋けんぴを1Kgほど持ってきたチンピラの男と山の向こうからきたファラオである。


舞台を正面に見て中間部にはココペリーナの音楽を求めてやってきた音楽好きたち。そしてオルガン横の左翼側に陣取るのは、頭領のエスタ君とアルセアやシャーリーを含む旅団カーバンクルのメンツやギタレレの女たち、そしてドツボ博士と助手の女。これらは自由人ばかりなので悠々自適に舞台で繰り広げられるココペリーナの演奏を享受している。


ここでビジネスの話しをしたら多分、もっとも過激でポップな異業種交流会になるだろうなと考えながらニヤニヤしているのはヒゲの総帥である。ヒゲの総帥は寿司詰めの店内に入れないので締まりの悪いガラス戸の外から漏れてくる音を聴いて楽しんでいた。


一番最初に来店したアラタメ堂のご主人は悠々とソファに腰を掛けていたが、ツタの絡まる青山ビルにてギャラリーを経営する301歳の女が登場するや、「ここは敬老席ですから」と席を譲って舞台最前線の狭いスペースに閉じこもることとなった。時計を止める男も同様に最前線へ散っていき、終演後はエコノミー症候群のようになっていたという。ヒゲの総帥はそれを聞いて腹を抱えて笑う。


コンサートの中盤でヒゲの総帥は日本刀を片手に持って舞台に近づく、忌部が「おっ、なんやなんや、物騒やな」と楽しそうにヒゲの総帥を見上げる。ヒゲの総帥はミュージシャンにとってのCDの利益がどれくらい大事なのか、コロマンサにとってチップがどれだけ大事なのかを日本刀片手に市ヶ谷駐屯所屋上での三島由紀夫よろしく演説してまたガラス戸の外に消える。ここで割腹しないのがこのヒゲの総帥のズルいところである。


間に休憩を挟んだ前後半の演奏会は盛大なフィナーレを迎える。コンサート会場ならここがクライマックスなのだがここは単なる酒場である何らの興行でもない、クライマックスなどというのは自分が死ぬその日まで酒場にはやって来ないものなので、皆でギャーギャーと騒いでは飲み始める。


ちなみにドツボ博士はダマされてここに連れて来られた。ヒゲの総帥が「土曜日にアイリッシュ音楽を聴きに来いよ」と博士に声を掛けたが、博士からは「前向きに検討します」という良からぬ類の応答があった。なのでヒゲの総帥は「皆があなたの持っているアヴァロンというゲームをしたくてたまらないというのだ」と攻める手を変えると、「日程調整できました、行きます」と博士から素晴らしい返答があった。もちろん、博士オススメのアヴァロンというゲームをしたいという意見は今のところひとつもないのだが。


ところがこのドツボ博士、無類のアイリッシュ音楽好きで自身もずっとアイリッシュバンドをやっていた。ヒゲの総帥が三階から自分のギターを持ってきて博士に渡すと、博士はココペリーナのメンバーと一緒に合奏をしだす。これよりイベントの第三部が始まるのであった。


ヒゲの総帥はココペリーナにお願いをする。


「僕たちは今、船に乗っている。だが、この船はもうじきに沈むことが決まっている。我々はこれから人生最後の音楽を聴こうという乗船客だ。それを踏まえて何か弾いてくれないか」という願いである。エイリアンは「そう!我らはこれから皆、死ぬ!」と嬉しそうに鬨の声を上げる。


バイオリンの女、バンジョーの男、ギターの男、そしてドツボ博士は曲を相談する。


そして始まった演奏は、ヒゲの総帥がこれまで聴いたなかでも珠玉の音楽であり名演であった。ああ、このまま死んでもよかろうと素直に受け入れられるほどであった。


演奏が終わったあと拍手が鳴る、声があがる。その後の一旦の静寂のときエイリアンが絶妙の間で発言する「こんだけいうといて、結局は沈没しなくて死ななくて済んだやんって終わりそうやね」と。場内は笑いの渦に巻き込まれる。これは名言である。人生、そんなことの繰り返しであるのだから。


夜も更ける。


舞台では冷泉とチンピラの男が殴り合いをする、その殴り合いにあわせて楽器を弾ける者たちによる演奏が始まる。「最初の音はDマイナー7thのフラット5にして欲しいんですわ」とチンピラの男が演奏家に注文をつける。世の中がこんな多方面に博識なチンピラばかりだったとしたら、さぞや愉快であろう。世界の果て会計事務所のドマツ先輩はニタニタしながらその模様を見てウイスキーを飲む。


そのうちチンピラの男はメンタルの鍛え方を演奏家たちに伝授するために椅子を殴ろうという。冷泉は生卵を三つほど飲んでは厨房近くでドマツ先輩と腹の殴り合いをする。


パキッ。


聞いたことのない変な音が店内に響く。


ドマツ先輩が「痛っ、イタタタ・・・」といい冷泉に殴られた脇腹を押さえる。「あれ、ドマツさん、どないしたんですか?」と冷泉が様子を伺う。


「あ、肋骨が折れた」と間が抜けた声でドマツ先輩がいう。


「ええっ!?」と一同は驚く。しかしあの音はその事実を納得するのに足りえる確証であった。


「すごい、骨が折れる瞬間をはじめてみました」と感心したように述べるのはギターの山本と時計を止める男であった。チンピラの男はバスタオルを使ってドマツ先輩の脇腹をぎゅっと締めてサポーターの代わりにする。その光景が抱っこ紐をつけられたおっさんのように見えてヒゲの総帥は思わず苦笑する。


チンピラの男は息をどれだけ止められるかでメンタルの訓練になると、この期に及んでも冷泉に向けてメンタル推しをする。ヒゲの総帥もそれに加わることにした、時計を止める男も加わる。いざ、息止めを始めようとする寸前、脇腹を押さえながら座り込んでいたドマツ先輩が苦しそうに歩いてやってくる。どうしたのかと一同の視線がドマツに向けられる。


「・・・俺も、それ、する」


バスタオルでぐるぐる巻きになり脇腹を抱えて息を止めるドマツ先輩の姿は、足柄山の金太郎にしか見えなかった。


ココペリーナが嵐をもたらした日、ドマツの肋骨、折れる。


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by amori-siberiana | 2018-01-21 16:43 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は捲土重来を図るといわんが勢いでグランフロントに乗り込む。昨日はアポイントの日程を失念しており一日早くグランフロントに来てしまったのだが、そのおかげでグランフロント北館内には多少なりとも詳しくなったので迷うことはなかった。いや、正直にいうと迷った。今、どうしてウソをついたのか自分でもわからない。多分、また迷ったと書くのが面倒臭かったのかも知れない。


そもそもどんな用件でヒゲの総帥がグランフロントに向かうのかといえば、数日前に電話がかかってくる、知らない番号である。「阿守さまの仕事のキャリアを見させてもらいまして、今後のご相談ができればと考えておりますので、一度面談をさせて欲しい」と受話器の向こうの男はいう。風采のあがらない男の声であり、一日に何百件も電話をかけているのであろうことはすぐわかる。ヒゲの総帥は「今、飛行機の中なのだ、着陸態勢の一番シビアな時間だ」と伝えると向こうの男は慌てて電話を切る。しかし、30分後にまた電話がかかってくる「着陸は無事にお済みになられましたでしょうか」と真剣に訊いてくるのには参ったので、思わずヒゲの総帥は笑ってしまう。


とにかくグランフロントで話しがあるのだという先方。「グランフロントで何の話しがあるものですかね」とヒゲの総帥が聞き返しても「私どもでは内容までは関知いたしませんので、あいすいません」という具合である。つまり、複数の会社からテレアポの依頼を受けている外注業者のスタッフが声の主ということで間違いはないだろう。個人情報も何もあったものではない、決まってそういうところはコンプライアンスがどうのこうのと対外的にはいいことを打ち出しており、自分たちは謙虚で顧客の情報は守りますというが、言うことと実践していることはまったく違うようだ。


底意地の悪いヒゲの総帥は外注業者に任せきりの営業をしている会社の人間の顔が見たくなったので、放っておけばいいものをそうはせずにグランフロントに向かったということである。向かったのは人材紹介会社という業種であった。


個室に通されたあと担当者が出てくる、「阿守さま、初めまして」とメガネの男がいう。「どうも初めまして、今日はどのようなご用件なのかを伺いに馳せ参じました」とヒゲの総帥も挨拶をする。「阿守さまのスキルに合ったお仕事をご紹介させていただければ・・・」と男はいう。ヒゲの総帥はヒゲをねじりながら応答する。


「ちなみに僕は御社に自己の仕事を見つけてくれと依頼した覚えはないのです。そもそもよく解らないところから電話が来て、グランフロントへ行けば何かある、阿守よ急げと言われて来たのです」

「そうなのですか、ここへ来られる人で身に覚えがないんだけれどなといわれる人はよくいます」

「よくいるんですか、なるほど。どんな用件なのかを聞いても内容に関しては一向に論じてくれないのです」

「それは、こちらが外注業者に頼んでいるからですね。申し訳ありません」

「まあいいですよ、何でもキッカケですから。それで僕にあったどんな仕事がありますか」

「ええとですね、前職の年収からいいますと・・・」

「待ってください、僕の前職の年収なんてどこで知ったんですか」

「それは・・・、当方ではわかりかねます、申し訳ありません」

「つまり、僕という労働者をグランフロントにまで呼んで、その労働力を必要とする企業に紹介する仕事なんですね。あなたの役目は」

「そういうことで間違いありません」


ヒゲの総帥はいよいよ世の中が嫌になってくる。誰かが何かを作らなければ、我々の目の前にあるものは組み立てられていない、それに肉を食べようにも誰かが屠畜をしているのだ。なんでもそうだ、誰かの労力の結果として我々の生活は成り立っているのに、今さら誰もそんなことはしたくない、情弱の誰かにさせておけという世の中になってきた。これは文明の進歩ではなく退化であり旧時代的な考え方ではないか。ITやビッグデータという名の向こう側に隠れた選民思想に鳥肌がたつ。


知っているものが知らないものに教える。そういった当たり前の精神的根本が今や崩壊してきており、知っているものが知らないものに何も知らせないまま労役をさせるというビジネスが横行しているようにしか思えない。データを持つ側が圧倒的に有利なこの社会において、寺山修司の「キャッチボール」と冷泉の「腹の殴り合い」はますます重要な意味を持つようになってくるだろうとヒゲの総帥は考える。


寺山と冷泉を並べて論じるのはこの気違いブログぐらいであろうが、そのどちらも表現方法は異なっているが根本的には繋がる。


寺山修司はこんなことを書いている。


友情というのは、いわば「魂のキャッチボール」である。一人だけ長くボールをあたためておくことは許されない。受け取ったら投げ返す。そのボールが空に描く弧が大きければ 大きいほど受けとるときの手ごたえもずっしりと重いというわけである。それは現在人が失い欠けている「対話」を回復するための精神のスポーツである。 恋愛は、結婚に形を変えたとたんに消えてしまうこともあるが、友情は決して何にも形をかえることができない。


それはどんなに素晴らしい会話よりももっともっと雄弁に見えたし、どんなに長い握手よりももっともっと手をしびれさせたものであった。


後編に続く


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by amori-siberiana | 2018-01-21 13:08 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は朝から北濱のオフィスに引きこもり何かの書類をシュレッダーにかけまくる。宗教画のモデルの女が陽気にやってくるのでお互いの近況などを報告する、宗教画のモデルの女はあらゆる人からハーフなのではないかと言われるので、いちいち否定するのが面倒になりいよいよロシア人とのハーフということで最近は紹介されるままにしているのだそうだ。


ヒゲの総帥は私用で梅田にあるグランフロントへ行く、慣れなければ迷ってしまうグランフロント内でやっぱり迷う。ウロウロしながらようやく宛所に到着して受付に自身の用件を伝えるが、「阿守さまのアポイントの約束は翌日になってますが・・・」と困り顔で言われる。その場で受付嬢に「そしたら・・・、殴り合い、しよか」と言いそうになったがぐっとこらえてエレベーターを降りる。


そのまま北濱のオフィスへ戻り茶封筒をごぞごぞしだす。宗教画のモデルの女が陽気にやってくるので雑談を開始する。そのままヒゲの総帥は店へ向かい経理を済ませる、そして東大阪にあるNPO法人へ向かう。ヒゲの総帥は10年ほど東大阪の近鉄沿線を根城としていたが、町は相変わらずな様相であった。いや、どこか寂れた感じに思えたのだが東大阪らしさというのは何も変わらない。その東大阪らしさを言葉で説明しようとしても面倒くさいので今回は割愛する。


ヒゲの総帥は東大阪を後にしてまた北濱のオフィスへ戻る、宗教画のモデルの女はどこかへ消えていた。受付の女が「あれ?アラタメ堂のご主人とディエゴ君は?」というので「いいや、二人とは別行動なのでわかりません」とヒゲの総帥は返答する。いつの間にか三人で一個小隊のように捉えられているのは甚だ遺憾である。


ヒゲの総帥は店に行く。店に行くと常連のガルパンの男と不思議な女、東洋の魔術師と斥候の男がおり、マヨネーズの話しや遠赤外線の話し、つまるところ要約するとどうでもいい話しをして悠々自適な時間が過ぎていく。ヒゲの総帥はどうにもウイスキーが進まないのでクランベリーズの曲をギターで弾きながら歌いだす。簡単な曲なのだが、あれだけ特徴的なボーカルが歌うからこそ成立する楽想であり、ヒゲの総帥が音程もリズムも平易に歌ってみても平易な曲にしかならず途中で辞める。


夜も更けたころ、アラタメ堂のご主人と陸サーファーのディエゴがやってくる。聞くとこによるとディエゴは先日まで東南アジアを旅行していたらしく、その地で詐欺にあったのだという。「ちなみにどういった詐欺だったんだい」とヒゲの総帥は被害者であるディエゴに訊いてみる。


ディエゴは語る。


南の国、ディエゴの前方からハアハア言いながら男がやってくる、財布を落としたらしく帰宅するためのバスの金がないとその男はディエゴに訴える。心優しいディエゴはその男のいわれるままに日本円にして5000円ほどを貸したのだが、一向に金は返って来ないとのことである。出来事がここ最近のことなのでどのような結末を迎えるのかはわからないが、もしかすると詐欺なのではと考えているようである。


ヒゲの総帥は苦々しく笑いながらディエゴにいう。


「ディエゴ、そもそも、自分の何が原因なのかわかってるかい」
「えっと、自分が困っている人がいると見捨てられないからです!」
「それはこの場合は二次的なことだよ、問題はそれ以前だと思うね」
「すいません、阿守さんが言われてるのはどういうことなんですか?」
「うん、要するにディエゴが自分のスキルである英語を安易に使ったことが問題だよ。自分の武器っていうのは弱点にもなり得るということだ」
「確かに・・・」
「英語が使える自分、そんな自分への驕りや余裕があるからつけ込まれたのだ」


アラタメ堂のご主人はこのやりとりを聞きながらクククと笑う。ヒゲの総帥は自身が海外でフラフラしていたとき、こういった輩が来たときは常に同じセリフを言っていた。


I wanna fuck you, right here, right now (俺はアンタとファックしたい、今すぐ、ここでな!)


これを言ってまともに取り合ってくれる人など誰もいなかった。ヒゲの総帥の知人で映像作家のバロンがアメリカへ留学する際、「事前に何かこれを覚えておけという英語がありますか?」と訊ねてきた。ヒゲの総帥は「I follow you (俺はアンタに付いてくぜ)」だけ呪文のように繰り返し言ってれば何とかなるだろうとバロンに教えた。バロンは実際のところずっとハリウッドでそればかりを言っていたと後になって聞いた。


正面から向かってくるものを正面から受け止めるのも時と場合である。柔よく剛を制すというではないか、柳に風というようなことができれば世の中と付き合うのはもっと愉快になろう。自分の特技や利点というのはしっかりと使い分けができて、やっと本領発揮するのである。薬と同じである。


ヒゲの総帥が日程ミスしてグランフロントから帰る途上、新阪急ホテルの交差点のところ。唐突に社用車のような車から爆音が聴こえてきた、ラウドネスの「S.D.I」という曲のイントロであった。スピーカーに工夫がされていないので音は割れてバリバリだった、世の中と付き合うことの難しさを垣間見たような瞬間であった。


本日はアイルランド日和なり。


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by amori-siberiana | 2018-01-20 12:41 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのような小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は北濱のオフィスでコーヒーを飲んでいる。昨日あたりからというものストーカーのようにthe cranberriesのアルバムを聴き続けている、ここ最近のライブ映像も見ているが確かにドロレス・オリオーダンの状態は普通ではないことが見てとれるので、胸が痛くなる。「はぁ・・・、ドロレスは辛そうだな」と目を落とすと自分の履いている革靴の側面がひび割れだしているのに気がつく、特に急ぎの用件もないヒゲの総帥は以前から気になっていた近場にある靴磨き専門店へ行くことにした。


本町通りを挟んでセントレジスホテルの向かいほどの雑居ビルの4階にある「靴磨き専門店Burnish」へ行く。店内ではすでに先客が一人おりアンティークの椅子に座って靴を磨かれている、内装全体がイングランド調にまとめられており非常に落ち着ける空間である。すぐヒゲの総帥の順番となり革靴を磨いてもらう、自身が北濱から歩いて来たのだと伝えると靴磨きの女が「北濱には美味しい店がありますか」と訊いてくる、「美味しいかどうかはわかりませんが、頭に筆を突き刺した版画家がオムライスを作る店ならご紹介できますよ」と他人事のようにいうヒゲの総帥。歓談しているあいだに革靴はしっかりと磨かれており、つま先の鏡面仕上げは持ち主の顔が写るほどであった。


ヒゲの総帥はルンルン気分で外に出るが、「そうだ、ドロレスが死んだのだ」と思い返すたびに気分は沈鬱なものとなる。が、またすぐに忘れては思い出してを繰り返す。そのままオフィスへ戻り、アラタメ堂のご主人と連れだってクントコロマンサへ向かうことにした。


クントコロマンサへ向かう途中に二人はツタの絡まる青山ビルの一画を占拠する、ギャラリー「遊気Q」へ向かう。ギャラリーには自称301才のオーナーと手編みの女がいる、この手編みの女が作ったベストがヒゲの総帥によく似合うのだとギャラリーの女は取り置いてくれており、ギャラリーにいつも飾ってあるのであるが、なかなか攻撃的な衣装であるのでヒゲの総帥は躊躇しているままだ。


ギャラリーを出てアラタメ堂のご主人とコロマンサの階段を上る。店に入ってみると全身が黒ずくめの男が早い時間なのにすでにウイスキーのストレートをハイボールで飲んでいた。そう、久々のハイタッチ冷泉の来店である。「おっ、阿守さん、お久しぶりです」と冷泉はヒゲの総帥に挨拶をする、冷泉はここ数日は東京でビジネスをしていたのだ。


「今、先ほどギャラリー遊気Qへ行ってきたんですけれど、アラタメ堂のご主人と僕が行くと、ギャラリーの女がもう一人のメンバーは?と冷泉さんの動向を気にされていましたよ。まるでバンドのような扱いでした」と苦笑しながら冷泉に先ほどあったことを伝える、冷泉とアラタメ堂のご主人も失笑する。そして三人で再会を祝しての乾杯である。


どうやら今日はこの店で冷泉が主催する異業種交流会があるとのこと、小一時間ほどすると続々と今夜の餌食たちがやってくる。若手の社会人たちがやって来る、見た顔もあれば初顔もありそれぞれが名刺交換をしだす。しばらくすると親分連中たちがやって来る、チェ・ゲバラの男、不動産コストカットの鬼、副社長ばかりする男、そして世界の果て会計事務所を経営するドマツ先輩が集結する。常連の不思議な女もやってきてヒゲの総帥に向かい「お帰りなさい」と一声かける、そういえばヒゲの総帥が店へ戻ってくるのは4日ほどなのであるが、えらく長い間ほど不在にしていた気になっていた。


バレリーナの女とその同級生、さらには有明海にいるグロテスクな魚のみりん干しのようなものを手土産に福岡の女も参入してきて、店内には賑やかな笑い声が響く。いつの間にか来ていたガルパンの男は視線を上げることなく、やはりいつものように戦場に身を置いていた。


オルガン横の奥のテーブル周囲に陣取った若手の社会人たちはあれやこれやと自己紹介をかねて四方話をはじめる。七輪が置かれた中央のテーブルではヒゲの総帥を含めた中年たちが暗号通貨の繁栄がいかに社会に対しての危険を孕んでいるのかを論議する。厨房側のテーブルはテーブルで何やら楽しそうに話しをしている。冷泉はあっちへ行ったりこっちへ行ったりとオーガナイズ役に徹する。


「つまり、仮想通貨の危険なところは一般人が稼ぐ前段階において、すでに反社会勢力や端にも棒にもかからないチンピラ連中がそれによって莫大な富を得ているところです」とヒゲの総帥はここ一か月の調査によって分析した結論を述べる。話しは続く「人に貢献することや他者へサービスを供給することで利益をあげるということが商売の根本であるならば、それによって得た富にはしてきた仕事においての信頼があります。ところが今後はそうではなくなり、何をしているのかわからない成金が増えることでしょう。簡単にいえば仮想通貨によって北斗の拳に例えれば、ストーリーに関係のないモヒカンの悪党たちが金を持てるようになるのです、いや、実際のところ持ち出しています」とヒゲの総帥は未来予想図を展開する。


「今、まさに乗り遅れるなという群衆心理が働いてますものね」と副社長の男はいう、「金融庁が昨年ですけれど仮想通貨に対してどっちつかずの中途半端な見解を出したことが火に油を注いだ形になっています。あれ以来、広告もあちらこちらで見るようになり一般人の投機も加速しました」とヒゲの総帥は思い出すように語る。ブロックチェーンの技術自体は素晴らしいものであるが、包丁というものは使い方を間違えると料理ではなく人を傷つける武器になるのだ。


話しは国際的に見た日本人の金融リテラシーの低さについてへ移る。


今でも「火の用心、火の用心」と寒中に拍子木を叩いて見回りをする地域もあるが、十分にご用心なのは火元だけの話しではないのだ。自分が今、世間の流れに対してどのようなスタンスを取るのか、それは5年後の自分の生き方に関わってくるであろう。今、日本は大いに燃えているのだ。


人が一本線の上がり下がりに人生を賭けだしては、あまりにも勿体ない人生ではないか。版画家の柿坂万作は新しい壁画を描きだそうとしている。そう、スタートを作るのはいつも自分なのだ。あとは野となれ山となれ。


中島みゆきも言ってるではないか。


その船を漕いでゆけ

おまえの手で漕いでゆけ

おまえが消えて喜ぶ者に

おまえのオールをまかせるな



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by amori-siberiana | 2018-01-19 12:23 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


ドロレスの訃報のままにヒゲの総帥と老いた母親は小さい頃から行きつけのうどん屋の「バカタレ」へ向かう。時間帯的にも昼ということもあり駐車場も満杯であったが、国道を挟んで向かい側に警察署があり駐車場はガラガラである。母子ともに考えることは同じで誰がそういうでもなく、車は警察署の駐車場に収まった。この親してこの子ありといった具合のモラルの低さであるが、この二人は万事こんな感じである。


ちょうど昼休みの警察官が出てくる、「いつもご苦労様です」と一礼するヒゲの総帥と母親。向こうも「これはこれはご苦労様です」と一礼をして三者が向かう先は同じうどん屋である。向こうは車のことについて何やら聞きたそうな雰囲気を醸し出していたが、「この三豊市で残酷な事件が起きないのも、この警察署あってのことですな。地域の誇りです」とヒゲの総帥が口にすると、相手はそれ以上は何も口にしようとしなかった。


「やっぱりバカタレは出汁がええきんな」と母親はいう。このセリフをこれまで三百三十三万三千三百三十三遍ほど母から聞かされてきた息子であるが、毎回そう感じるのはバカタレの味の妙であろう。母親の話しでは渡邉で修行した人間が大阪で店を出しているという、もしも大阪でバカタレの味がそのままといわずとも多少なり味わえるのであれば、至極である。器からはみ出すほどの天ぷらが特徴の天ぷらうどん(大)を頼む。


ヒゲの総帥が小さい頃にバカタレに通っていたころは先々代が麺を打っていた。どんどんどんと低音で響く音と振動が心地よかった。いつしか先代になりそして今の代の大将となるのだが、三人とも顔がよく似ているのでずっと同じ人間が不老不死でうどんを打っているような不思議な気持ちになってくるのだ。人相が悪いので妖精とまではいかないが、そういった異世界の雰囲気を持っている。


異世界・・・。


胃袋を満たしたあとは、ゲームセンス・ゼロの女がデザインしてくれた名刺を持って小説家先生が住むという池のほとりの臥竜窟へ向かう。インターホンを押すと中核派のようなマスクをした先生が出てくる、高雅なるインスピレーションが鼻や口から出てしまわないようにマスクをしているのだろうかと深読みしたが、どうやらインフルエンザだということで感染されないうちヒゲの総帥は臥竜窟を早々に退散する。


ヒゲの総帥は新幹線を使わずに電車で大阪まで帰ることにした。節約というよりはそうしたかったのだ、新幹線の揺れと一般的な電車の揺れはまったく異なる。一般的な電車の揺れをある程度の長さ感じていたかったのだ、そうすることで何かあるというわけではないが、その日はそうしたかった。なにも急いで大阪へ帰らなくてはいけない用事も別段ない。


故郷での時間は1日足らずであったが緩やかに過ぎた、北濱にいると時間の流れは猛烈に早い。それが時代の流れと比例しているのかどうなのか解らないが、その土地が持つ独特な時間の流れというのはあるのだろう。緩やかな時間から、慌ただしい時間の場所へ辿り着くのに新幹線では早すぎるような気がしたのだ。高山病や潜水でいう気圧や酸素の加減のようなもので、時間と人の多さにゆっくり慣らしていきたかったのだ。


貨物列車も同じ線路を使っているので、人がいる駅のホームを色とりどりの貨物が勢いよく走り去っていく光景を見たのも久々だった。ところどころ貨物が抜けている車両があり、それを見るとどうしてもそこへ飛び移りたくなる衝動を抑えるのに神経を使う。


タタタタンタタン、タタタタンタタン、タタタタンタタン、タタタタンタタン。


足元から響いてくる線路と電車の振動と軋みは何十年も前から変わっていないように思え、気持ちよく体を委ねておけるのであった。夜を往く電車の中にはどこか逃亡者の匂いがするものだ。


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by amori-siberiana | 2018-01-18 17:32 | 雑記 | Comments(0)

運転免許証の更新を終えたヒゲの総帥。無事故無違反の優良であるということで30分の講習を受けるのみで済んだ、香川県の交通安全におけるVTRには尾木ママという男が出演しており、私の大好きな香川県を皆さんの手でどうのこうのとPRをする。この男ほど言論において自己の思い込みだけで暴走する人間もいないだろうに、またとんでもないミスキャスティングだなとヒゲの総帥は一人で笑いだす。


母親の車に同乗して帰路につく。ミッション車のスポーティータイプに乗り、足回りとシートに金をかけていそうな母の車であるが助手席の開閉の仕方がわからないのはご愛嬌であった。進行方向の右手に海が見えたころ、照明屋のテリーから連絡が入る「ドロレスが逝ってしまった」という内容である。ヒゲの総帥は呆然とする。ザ・クランベリーズのボーカル、ドロレス・オリオーダンが46才の若さで死んだということをいろんなメディアが報じていた。まず、間違いはなさそうだ。


母親は息子に何があったのかと訊く。息子はそのままのことをそのまま伝える、「途中でCD屋によってthe CranberriesのCDを買いたい」と母親はいうが、息子のほうは呆然としたまま黙っていた。車窓は海から山へ、そして工業地帯へ移り変わり、空は鉛色に曇っていた。息子の頭のなかにはドロレスが吐息のように歌う【So Cold In Ireland】が流れていた。


The one that I loved endlessly (私が果てしなく愛した人)

We used to have a life (私たちは一緒に生きていた)

but now it's all gone (けれど、全てが失われる)

Mystify (謎だわ)

Mystify (謎だわ)

Mystify (謎だわ)

Mystify (謎だわ)

Mystify (謎だわ)

Mystify (謎だわ)

Mystify (謎だわ)

Mystify (謎だわ)


―――。


1997年だか1998年のこと。


息子の方は何をするでもなく、ここではない何処かへ行きたいと家を飛び出して大阪で暮らすようになった。髪は伸ばしっぱなしで金髪になり、メタリカのTシャツにジーンズという格好でフラフラしていた。特に何もすることがないので、大阪で誰と交流するわけでもなく映画ばかりを観ていた。宝物は当時存在したテレビデオというもの唯一つであった。映画といっても小説家の先生がダビングして持ってきてくれたり、近くに住んで三流大学へ通っていた同郷のフェラ田会長代行がダビングして持ってきてくれるものばかりだった。


ありとあらゆる映画を観た、面白いものもあれば地面に埋めてしまったほうがいいものもあったが、その中の一本に「ボーイズ・オン・ザ・サイド」という映画があった。エイズとレズとDVという困難な題材をひとまとめにしたロードムービーで主演はウーピー・ゴールドバーグ、共演にメアリー・ルイズ・パーカーとドリュー・バリモアが名前を連ねていたと記憶している。


その映画のワンシーン、秒数にして10秒にも満たないであろうシーンにだけかかる音楽に耳を奪われた。空から降り注いでくるような大人とも子供とも思えない声、叫びとも嘆きとも違い、歌ですらないような女性の声、そしてそれを追いかけるようにハスキーな男性の叫び声が響く。「なんだこれは」と息子は思った、そこから何日も何日もその部分だけを再生しては巻き戻して、再生しては巻き戻してを繰り返すのでテープはぐにゃぐにゃになった。


今でこそ携帯をかざすだけで何でも調べられるが当時は映画の一瞬だけで流れる音楽がどこの誰のものなのかなど解る術もなかった。とにかく音楽というよりは強い意志を持った崇高な祈りのように聞こえて、心を捉えられたのである。


そこから数か月後。


息子の住んでいた町の駅は河内小阪駅というものだ。今でこそ司馬遼太郎記念館をアピールしているが、当時はそういったものもなく大学が近くに幾つかあるのみであった。駅の高架下には中古CD屋があり、どこから仕入れたのかよくわからないようなサンプル版まで売っていた。ヒゲの総帥はいつもここで格安になったクラシックのCDを買っていたが、あるとき「ボーイズ・オン・ザ・サイド」のサントラのサンプル版を見つけた。何かの縁であろう、そうとしか考えられなかった。


サンプル版を買えば、もしかすると例の歌声が誰のものなのか解るのではないか。また、それがどんな全体像をしている曲なのか解るのではないかと、CDを購入して走って家まで帰ったのを覚えている。声は何度も聴いてわかっているのでCDを入れて1曲目から流してみて歌いだしで「この歌手じゃない」と判明すれば容赦なく次のトラックに進んだ。


不安なままちょうどCDの収録曲数の半ばまで来たとき、7曲目にそれはあった。歓喜で絶叫した。待ちに待っていたものがその全貌を見せてくれるのだから当然だ。


【Dreams】 the cranberries


ヒゲの総帥が映画の最中、気になって仕方がなかったのは曲の終わりの部分だということがわかった。しかしながら、この曲は全体が素晴らしいクオリティに溢れている、これはとんでもないボーカルだと大袈裟ではなく腰を抜かしそうになった。バカっぽい名前のバンドだなということは放っておいて、すぐに近くに住むフェラ田会長代行を呼び寄せて「DREAMS」を聴かせる。


次の日、フェラ田会長代行の資産によってthe cranberriesのファースト・アルバム「Everybody Else Is Doing It, So Why Can't We?(1993年)」がヒゲの総帥の手元にもたらされることとなる。黒に統一されたジャケットには伏目がちで物憂げな小柄の女性が一人おり、この女性があの声の持ち主だということがわかる。彼女の名前をドロレス・オリオーダンという。ヒゲの総帥よりも7つほど上なだけであった。他のメンバーはドラム以外、サッカーのアイルランド代表のロビー・キーンと見分けがつかなかった。


早速どんな顔をしているのだろうかと歌詞カードを広げてみるが、どれもこれも正面からの顔写真はなく全てが盗撮のような角度からの粗目の白黒ポートレイトなのだ。「ZARDかよ!」とイライラしつつアルバムを通して聴いてみる、文句のつけようなどひとつもない傑作であった。ドロレスの歌は終始一貫して囁くようでいる、妖しいヴェールをまとった霧のようなブレスは世の中の底の深さを知らせてくれ、ファルセットや音階の特徴的な動かし方は古代と現代を行き来するものである。歯に響かせて出てくるような独特な声は、音程の危うさという犠牲を払ったとしても釣り銭で国家予算をまかなえるくらいの情感を醸し出す。


そう、求めていた100のことを100のまま手に入れたのだ。自分が好きな音楽はまさにこれだと確信した衝撃的な瞬間であった。人類にとっては取るに足らない1枚かも知れないが、ヒゲにとっては大いなる人生を変革する1枚だったのだ。


ヒゲの総帥はメタリカのTシャツを捨て、髪を切って黒に戻す。目指すべきものが出来た、メタルバンドは解散だということでギュインギュイン歪んだ音のするディストーションを捨て、自分の好みにしっかりと向き合う決心をしたのだ。いつかはドロレスに自分の曲を送って「まあ、いい方なんじゃないの」とアイルランド訛りの英語で言われたいと真剣に考えたのだ。ドロレスに対しては尊敬と敬愛以外の言葉が見つからなかった、ずっと探していた宝の地図を目の前に突きつけられたような感じなのだから。


それからというもの、ヒゲの総帥は家に来る人間の皆にクランベリーズがいかに素晴らしいのか布教をするようになった。家に来ないものにはわざわざ電話をかけて受話器越しにドロレスの歌声を聴かせていた。そんななかに今は日本と中国を行ったり来たりするペーパーカンパニーの男がおり、その男がヒゲの総帥の家へ来たとき「No Need to Argue(1994年)」というクランベリーズのセカンドアルバムを持ってきたのだった。


ヒゲの男の手に映画のサウンドトラックのCDからセカンドアルバムに至るまでが入手されるのに一か月もかからなかった。ファーストの黒から一転して、セカンドは白が基調のジャケットである。何よりビックリしたのはドロレスがベリーショートの金髪になっていたことであった、なんとも挑戦的な目をした女性である。まるで世界の半分を支えている女帝のような印象を持った。


このセカンドも素晴らしい作品である。文句などあるわけがない、すっかり降参してしまっているヒゲの総帥にとってはバンドの何もかもが人間革命の状態である。ファーストの物憂い感じは少々薄れてはいるが、その反面ドロレスから外に向けてのプレッシャーが壮絶なものであった。アルバムの4曲目に「Zombie」という曲があるが、この曲で初めてドロレスが叫んだのには鳥肌が立ちっぱなしであった。ファーストでは一切といっていいほど、叫ぶことのなかったドロレスがセカンドアルバムでは3度だけ叫ぶのである。ファーストでは叫びをしっかり抑えて、叫び以外の方法で心中にあることを音楽として見事に昇華させていたが、もうこのままじゃいてもたってもいられないということだろう、女帝は3度ほど叫ぶのである。


【Zombie】 

With their tanks and their bombs, (戦車で、爆弾で)

And their bombs and their guns. (爆弾で、その銃で)

In your head, in your head, they are crying... (頭の中、頭の中、彼らは泣いてるのに)


【Ridiculous Thoughts】

you're gonna have to hold on to me (あなたは私を抱きしめなくてはいけない)


【Daffodil Lament】

I can't sleep here (私はここでは眠れない)


クランベリーズとの出会いからというもの、ヒゲの総帥は音楽の突破口を見つけることとなり、気がつけばクランベリーズからは遠く離れていくことになるのであるが、根幹はまさにここにある。音楽的発想の起点の大切さについては、何も音楽だけに限らず物を作る人間なら理解してもらえるはずだ。幸運な出会いであった、遠く東方の島国で住む一人の腐りかかっていた人間が救われたのだ。


そこからクランベリーズにまつわる何もかもを収集しだす。もちろん日本にはなかったものも含めてだ、あの時代にYouTubeがなくて良かったと心底感じるのだ。便利になるのはいいが、それだけに深奥からの執着の度合いが極端に減っていくのを常々感じる。テクノロジーとの上手な付き合いかたは常に技術の発展の後追いとなるものだが、永遠に進化にまつわる課題として残るのであろう。太陽に照らされれば影ができるように。


ドイツからVHSを仕入れて、イギリスからデモテープを仕入れて、アメリカから海賊版を仕入れて、当時のバイト先だったレンタルビデオ店の発注書には勝手に「the cranberries」のところにチェックを入れて仕入れる、そんな具合にドロレスの動向を追っては振り返り、振り返っては追ってをしていた。


作曲するものも歴然と変わってきた、色んな人がいい曲を書くねとヒゲの総帥を褒めるようになった。でも、やはりヒゲの総帥は器用ではないのでクランベリーズのようにはならず、似ているけれど何か違うものが出来上がってくるのであった。それをもしかすると個性と呼ぶのかも知れない。フランスの作曲家のドビュッシーは確かそんなことを言っていた。


そんな自分の崇拝の対象であるドロレス・オリオーダンが死んだのだ。ヒゲの総帥より7つほど上の彼女の早すぎる死をまだ飲み込めないでいるヒゲの総帥。


会ったこともない人なのだが、その会ったことのない人がいなくなっただけで、どうしてこんなにも寂しいのであろうか。マルティン・ルターは人は二度生まれるといった、最初は存在するために、二度目は生きるためにと書いたのではなかったか。


大著をした思想家は敢えて書かなかったのだと思うが、人は死ぬときも二度死ぬのではないだろうか。最初は生命として機能しなくなったとき、二度目は誰かの心のなかで生きていたその人が、死んだのだと悟ったとき。


ドロレスさん、ありがとうございました。さようなら。


「R.I.P」みたいな略しかたはしません、僕は合理的じゃない不都合で面倒くさいことが好きな日本人で、あなたのファンだからです。


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by amori-siberiana | 2018-01-17 23:55 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


the Cranberriesのボーカルのドロレス・オリオーダン女史が死んだ。今のところ世界に太陽はひとつであるが、ヒゲの総帥の心を照らす数少ない太陽のひとつが無くなったということである。この喪失感たるや並みではない。そのことについては別記することにしよう、彼女については書かなければならないことが沢山ある。ヒゲの総帥にとって彼女は教祖のようなものであったのだから。


さて、一昨日のこと。


「僕はこの町がどうにも好きになれん、どう頑張っても無理だ」


ヒゲの総帥は自分の心の秘密をそのまま打ち明けるようにいう。こたつに入ってウイスキーをチビチビやりながら神妙に故郷への思いを口にする、こたつの右隣にはナダルという旧友がおり、対面にはヒゲの総帥を世に輩出した母親がいる。


「郷土への執着というものをまったくこの地に感じないのだ、それは家族とか友人とかではなく、この土地に対してなのだ」とヒゲの総帥は言葉を継ぐ、それを聞いてヒゲの総帥の後輩であるナダルは「なら、大阪にはそれを感じるのか」とヒゲの総帥に問うが、ヒゲは首を振る。このナダルという男はヒゲの男の実家の押し入れに住んでいた男である。まるでドラえもんのように押し入れで寝起きしていた。


「アンタは家が無いんか」とうちの母親は当時のナダルに対して苦笑いをしていたが、若かりし頃のヒゲの総帥とナダル君は毎日のように会ってはユーモアを磨いていった。このナダルはずっと香川県から離れることがない、本人がいうところによるとこの地が好きなのだという。ヒゲの総帥の母親が「アンタは家が無いんか」と言葉を発した相手はこのナダルと今はピアノ工房を経営するギンジ、そしてマルクス主義者のカルキという三人である。この三傑については折をみて触れようと思う。


ヒゲの総帥は実家暮らしのとき、ひとつ学年が下であるナダルのことを大層気に入っていた。発想や言動のそれぞれがユーモラスであり、それは感性と知性が円滑に働いている証拠でもあり信用に値するものであった、なにより会話のリズムが心地いいものであった。「学生時代で青春が終わったような人間と話しをして何が面白いものか」とヒゲの総帥がいう、ナダルは「ここいら田舎は総じてそういうフシがありますね」と手羽先をひょいとつまんでニヤニヤしながら言う。二人はウイスキーを飲みながら話しをする、ヒゲの母親はそれを聞いている。


「私は何の為に生きているのか解らなくなることがある」とヒゲの母親は唐突に告白をして、そして涙を流す。「毎日、毎日、同じことばかりをしている。外にでも行って働いてみようかと思うが、気がつけばこんな年齢になって、今では社会が自分を必要としていないことがよく解る」と味気ない毎日を送っていることを打ち明ける。「それなら大阪に来るか」とヒゲは自身の母親に問うが、「そんなところはいらん」と予想どおりの返答がある。次はナダルが黙って母子のやりとりを聞いている。


「今は私が娘や旦那のお墓を見ているが、私が死んだらそこからどうなるのか・・・、それを考えると・・・」とまたヒゲの母親は泣く。「刻一刻、そう、刻一刻と僕とお母さんが一緒にいられる時間は少なくなっていく。あとどれくらい一緒にいられるのかわからないが、多くなることはないだろう。だからといって、時間が少ないからといって何をするという発想も今のところは湧かないのだ」とヒゲの総帥は困り顔でいう。ヒゲの母親はこの地から離れることはない、ヒゲの総帥はこの地へ立ち戻ることはない。どうにも歩み寄りがないのである。


「ごめんな、アンタと孝夫やって話したいことがあるやろうに、こなん話ししてしもてな」とヒゲの総帥の母親はナダルに謝るが、「ああ、気にせんといてください」とナダルは謝意は不要だという素振りをする。


ヒゲの総帥は仕事柄、自身の母親と同じ年代の人間からよく話しを聞かされていたが、漏れなく皆が孤独と寂寞の念を抱えていた。大金持ちもそう貧乏人もそう、趣味を持った人間、信心に狂う人間、大学の名誉教授もそう医療関係の詐欺師もそう、団塊の世代と呼ばれた人たちは常に嘆いているのだった。それに対して今のところヒゲの総帥は話しを聞くことしかできない。


「それなら事業を拡大して、人でも雇うようにするか」とヒゲの総帥は冗談めかしていう、「それ、ええな」とまんざらでもない顔をする母親。一定の顧客が約束されている行政事業所などを突いてみるのはどうかとヒゲが提案すると「そういうところは手間ばかりで金にならん、ボランティアのようなもんだとお父さんが常々苦言を呈していた」と母親はいう。「なるほど、ちょっと考えてみる」とヒゲの総帥はその話しを脇におく。


ナダルは「会えてよかった、阿守先輩、近いうちに大阪へ遊びに行きます」とヒゲの総帥に意向を伝える。約15年ぶりくらいに会った先輩と後輩はこうして一時的な迎合を終わらせることにした。この男は子供の時分から泰然自若の雰囲気を持っていたが、それは年をとっても一回りほど体が大きくなっても変わらない印象であった。


母親はヒゲの総帥に心中を打ち明けて霧散したのか、やけにスッキリした顔で「はやく寝ろ」と言ってくる。


この日の朝、ヒゲの総帥は北濱のオフィスへ顔を出してコーヒーを飲んでいた。オフィスの脇にあるバーカウンターでは宗教画のモデルの女とクモン提督が何やら話しをしている。ヒゲの総帥が顔を出すと「おっ、話しをしてれば早速、本人がやってきましたね」と提督がいう、ヒゲの総帥の店のことについて話しをしていたのであろう。


提督は宗教画の女に「阿守さんの店へ行ったことはあるのか」と訊ねる、「まあまあかな」といつもの調子で応える宗教画の女であったが、まあまあどころではない。店に関わり出した頃、夏場の厳しい暑さのなかボランティアで厨房や接客をサポートしてくれたのはこの女性である。ハイタッチ冷泉を連れてきたのも彼女であれば、不動産デザイナーの忌部を連れてきたのも彼女であり、アラタメ堂のご主人やディエゴを紹介してくれたのも彼女ではなかったか。


とんでもない酒豪の彼女は飲んでも飲んでも顔色は変わらないが、突然、電気のブレーカーが下りたようにその場で眠りだしたりするのだ。彼女なくして今のクントコロマンサはあり得ないほどである。宗教画の女の「まあまあ」という言葉にヒゲの総帥は苦笑をしていた。


ちょうど学生起業家のダダヤマが視界にいたので、ヒゲの総帥は「暇ですから提督、ダダヤマを柱に縛り付けて、そこへタックルを食らわせてくれませんか」と唐突な提案をする。三人の会話に背を向けていたダダヤマだが危機察知能力が働いたのであろう、すぐにバーカウンターの方へ向きかえり「いやいやいやいや、死にますって。確実に死にます、なんで僕なんですか」と謙遜する。本場ニュージーランドで決死のラグビー選手をしていた提督である、その巨体が一直線に突っ込んでくれば確かにこれは死にそうだ。


ヒゲの総帥は用事を済ませてオフィスを出る、そして近くにあるツタの絡まる青山ビルへ向かう。そこの一画にある北濱のクリニャンクールことギャラリー「遊気Q」、そのギャラリーには自称301才のオーナーがおり、フェルトの女と一緒になって展示品の運搬をしていた。新年の挨拶をして自身が今から実家へ帰ることを伝えると、「あら、それなんでしたら何かお母さまに贈りませんとね」とギャラリーの女は辺りを見回すが、「いや、お気持ちだけで十分です。ありがとうございます」とヒゲの総帥は待ったをかける。


繊細な品を四国まで運ぶほどの気遣いがこのヒゲの総帥には備わってないように思ったので、丁重にお断りしたのである。




柱も庭も乾いている
今日は好い天気だ
椽の下では蜘蛛の巣が
心細そうに揺れている


山では枯木も息を吐く
ああ今日は好い天気だ
路傍の草影が
あどけない愁みをする


これが私の故里だ
さやかに風も吹いている
心置なく泣かれよと
年増婦(としま)の低い声もする


ああ おまえはなにをして来たのだと……
吹き来る風が私に云う


「帰郷」 中原中也


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by amori-siberiana | 2018-01-17 13:41 | 雑記 | Comments(0)


北浜のビジネス街にある、昭和レトロなカフェのブログです。            大阪市中央区淡路町1丁目6の4 2階上ル