カテゴリ:雑記( 198 )

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


ここ2年ほど、北濱の変貌ぶりは凄まじいものがある。雨後の筍よろしくあちらこちらで建設ラッシュが進んでおり、そのほとんどがビジネスホテルになるのだそうだ。まるでこれまで鎖国していた国へ一気に外資が流れ込んできたような錯覚を起こしそうなほどのラッシュである。時代の流れを肌で感じることができる町、それが北濱である。


それでも外国人旅行者がそんなにうろついてる様相は町にはない。ということは、これから先のインバウンドにおける利益を見越してのホテル建設なのであろう。つまり、これほどこぞってホテルが時を同じくして建設されるということは、近い将来に何かが起きることが確約されているということである。百歩譲って考えて確約とはいかずとも、予定されているということである。


キタやミナミの商業地と切り離した場所に旅行者や出張族のベッドタウンが出来ることは、現状では理に適っているのであろう。今やキタとミナミは空港の免税店と成り下がっており、そこで以前まで産出されていた知性や文化は酸欠状態となっている。人が節操なく拝金主義に走ったとき、いつの時代でも失うものは金で買えないものばかりである。2020年というシュプレヒコールを掲げた人間は多いが、その先には何があるのか想像力のある人間はなかなか見ない。一時的な享楽を求めるがあまり、地盤沈下を引き起こすことになれば、それはあまりにも大きな代償であると言わざるを得ない。


今、北濱で起きていることは、ダフ屋のそれとあまり変わらない。しかし、北濱ほどそれが似合う街もなかろう気がする。それはこの街の歴史と通ずる部分があるからだ。


東京でのオリンピック(2020年)、大阪万博(2025年の開催を目指す動き)、カジノ誘致(2025年前後を目指す動き)、仮想通貨、インバウンド、スタートアップ。日本という国がいよいよ資源のない小国であるということを自他共に認めるが如く。したたかに生きていくには、したたかに生きるための知恵が必要である。そしてそういった知恵を産出したり気づかせてくれるのは、「芸術」の仕事であるべきなのだ。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は店でウイスキーをチビチビやっている。版画家の柿坂万作は自作のスクリーンを壁にかけてプロジェクターから映像を投影して、その像がどのように結ばれているのかを調整している。しばらくすると、ゴガッという音がして締まりの悪いガラス戸が開く。やってきたのは宇宙人の女と映画監督の男であった。


先日より宇宙人はヒゲの総帥に向けてメッセージを発信しており、「会わせたい人間がいる」といっていた。つまり、会わせたい人間というのはこの映画監督の男ということで間違いない。宇宙人は天才と天才を引き合わせるのが自分に与えられた役目だという、ヒゲの総帥は自分が天才だと思ったことは今の今まで一度もないが、反論しても野暮だし面倒なのでそのままにしておいた。


「私はルイ14世の生まれ変わりなの、だから芸術家と芸術家を繋ぐことが使命なのよ」と宇宙人の女は公言して憚らない。これはなかなかとんでもない女の登場である。「ならば僕は太陽王と懇意にしていた作曲家のリュリというところでしょうか」とヒゲの総帥はそれに乗ってみる。


会って間もないがこの映画監督とヒゲの総帥はいきなり意気投合する。互いに追及しているものが「言葉にならない何か」であったとわかったからだ。もちろんこの「言葉にならない何か」も言葉にならないものを無理に言葉にしているので、つまりは言葉になっていないのだ。


監督はフランスとの繫がりができたのでまずはあちらで勝負して、日本国内の評価はその後で構わないという。ヒゲの総帥は「同感であり、それが一番効率がよい」と頷く、実際のところヒゲの総帥がもしも再度音楽活動をするとしたら、迷うことなく海外を目指す。国内で地道に音楽活動をするのは今の時代、趣味や愛好家の範囲と同意になっている。それは芸術家の責任ではなくて、日本というのはそういう国なのだ。かといって日本が悪いとは思わない、芸術家として上手く日本という国と付き合っていくにはコツが必要なだけなのだ。


「好きな監督は誰ですか?よければ僕でも解りそうな監督の名前を教えていただければ幸いです」とヒゲの総帥は映画監督に問う。


「ダルデンヌ兄弟ですかね」と映画監督は答える。ここで本日最初のハイタッチが完了することとなった。そこからはダルデンヌ兄弟の映画の話しに華が咲く。


ヒゲの総帥は日本における映画で自身が愛する一本を伝える。「監督は原一男監督の撮った“ゆきゆきて、神軍”という映画をご存知ですか?僕はあの映画を観てから芸術への取り組み方が変わったのです」とヒゲの総帥が聞き慣れない映画の名前を出したとき、映画監督の目が変わる。映画監督は自身の持っているリュックをがさがさする、そして何かが出てくる。出てきたのは原一男監督と彼が一緒に写っているポラロイド写真であった。ここで二度目のハイタッチである。


ゆきゆきて、神軍。


これは凄まじいドキュメンタリー映画である。太平洋戦争に従軍してジャングルから命からがら生きて帰ってきた主人公の男。彼は終戦したことが明らかになったにも関わらず、当時の上官によって部下が軍法会議なしにジャングルで処刑されるという戦争犯罪が行われたのではないかと考え、今では一般人となった当時の上官数名を探し当てて真相を追及するという内容である。


常連の不思議な女が「アモアモはその映画のどういうところに魅入られたの」と質問する、「何より冷徹なところです。撮影中に何が起ころうとも、それをそのままに映し出して記録にしようとする作家という仕事の厳しさを徹底しているところでしょうか。作品を作る上での覚悟というものを感じました、戦場のカメラマンに似たものを感じます」とヒゲの総帥はゆっくりと自分の心を辿りながら言葉にする。しかし、どうも説明臭い言葉なので言ったはいいものの、それが自身の気持ちを表しているのかどうかは怪しいものである。宇宙人の女はニヤニヤする。


映画監督も原一男監督との接点を話す、そうこうしているとポッポ~ず♪のお二人がやってきて熱燗をちびちびやりだす。せっかくなので歌も好かろうと歌ってもらうことにした。ボーカルの女が歌う情緒に満ちた声は店内の風情と相まって、見事な雰囲気を作り出すものであった。宇宙人の女は「まるで、あれみたいね、あれ、あれ、李、李…」で止まる、「李香蘭ですね」とヒゲの総帥が言葉を繋げる。「そうそう、李香蘭よ!李香蘭」と宇宙人はいつもハッピーである。


宴が開催されているタイミングでチンピラの男が手土産を持ってやってくる。持ってきてくれたのは高知県四万十の芋けんぴである、これが絶品であり「うわー、ワシ、これは手が止まらんようなるわ」と万作は厨房で延々と芋けんぴをガリガリやる。ヒゲの総帥も負けじと芋けんぴをがりがりやる。一般的な芋けんぴよりも細いこの菓子は、そのサイズ感といい味といい黄金比とは何かを我々に知らしめてくれるものであった。


チンピラの男が持ってきてくれたこの芋けんぴは、今から10年前の平成17年に中城洋仁によって、従来の芋けんぴから改良されて出来上がったものであり、その名を「塩けんぴ」という。原材料である芋や調味料、さらには高知の海洋深層水を使用して作られた菓子である。懐かしい菓子が懐かしいまま、味をあげて口に入ってくるのは好奇心とノスタルジーの一見して相容れなさそうな両者を同時に体験できる稀有な逸品であった。


チンピラの男は宇宙人とハグをさせられて、そのまま急ぎ足に帰ることとなったが、ヒゲの総帥は是非ともこのチンピラの男が語る映画論を監督と聞いてみたかったので、タイミングが合わずに残念であった。


宇宙人の女と話しをしていると、感性というものは自己満足で済ましておくものではなく、外に向けて発してこそということが良く理解できる。さすがはルイ14世の生まれ変わりである。


ルイ14世も可哀そうな人なのだ、当時の無知により全ての歯を麻酔なしで抜歯されてからというもの、食べられるものは限られた煮込み料理だけであった。抜歯した際の消毒のため、焼けた鉄を歯茎に押し当てられたというのだからたまったものではない。


チンピラの男が常々いっている「無知は罪」という言葉がルイ14世の生涯とやけにヒゲの総帥の脳内でリンクする夜であった。



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by amori-siberiana | 2018-01-15 15:40 | 雑記 | Comments(2)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は北濱にあるオフィスでコーヒーを飲んだあと、店内のメンテナンスのため昼過ぎに店へ向かう。その夜のイベントの主催者であるアラタメ堂のご主人から「阿守さん、当日はカウンターのところをステージにしてちゃぶ台を出して欲しいんです」という要望があり、ヒゲの総帥と版画家の万作はカウンターをトランスフォームさせてステージにする。


それにしても北濱にいるとよくわからない横文字をよく見聞きすることがある。インフラ、コンプライアンス、ソリューション、BtoC、アライアンス活動、インバウンド、ASAP、エビデンス、レギュレーション、OJT、オポチュニティ、クラウドソーシング、KPI、コンセンサス、スキーム、セグメント、ナレッジ、ハレーション、フィードバック、プライオリティ、マイルストーンなどなど。もう大人たちでも使いたくてたまらない横文字のオンパレードである。


ヒゲの総帥が中学生の時分、日本のロックバンドが好きになりそういったバンドの歌詞で頻繁に出てくる横文字や見慣れない漢字に目を奪われた日のことを思い出す。イミテーション、レヴォリューション、テンプテーション、アイロニー、メシア、ルシファー、狂気、恍惚、陶酔、覚醒、愛撫、鏡、燃える胎児、サイレント・ジェラシーなどなど。その時代を彩っていた言葉があり、言葉というのは文化の生成において何よりも先行するものなのだなと感じた中学時代であった。つまるところ意味などあってないようなものなのだ。


デッドエンドというバンドの曲に「PHANTOM NATION」という曲があり、歌詞のなかに「伽藍堂の救世主(メシア)」というのが出てくる。最初、いとこからもらったカセットテープでしか曲を知らなかったため、ヒゲの総帥はその歌詞の部分をずっと「伽藍堂の飯屋」だと思い込んでヒアリングしており、なかなか所帯じみたことを唐突に歌うものだなと聴いていた。


伽藍堂の飯屋がどの辺にあるのか解らないが、このブログは北濱にある気がつけば伽藍堂だった喫茶店の話しである。といっても店に何もないわけではなく、ガラクタは幾らでもあるのだが客がいなかったのだ。およそ二人の常連客だけで保っていたような店の話しである。


星師匠もやってきて店のトイレ掃除や階段掃除などを念入りにする。ヒゲの総帥は店の表にイベントを告知するための紙を作成する、万作は舞台にカーペットを敷いてバランスを見る。店内のスタンバイは出来上がったのだが、ヒゲの総帥はなんだかぐらぐらする。少し動けばどうにかなるかと思ったが、どうにもぐらぐらと手が震えるのが止まらないので休憩する。15時からエイリアンと近くのギャラリーで待ち合わせをしていたのだが、それがどうにも適いそうにない。少し休憩してからギャラリーへ向かうこととなったのだが、そのときにはすでにエイリアンはギャラリーを後にしており、タイミング的には入れ違いになってしまう。


ギャラリーでは下着姿の女に巨匠がペインティングしていた、蜘蛛の巣のような黒のラインが彼女の内股に施されているところであった。内股にペインティングするのであるから、自然と女の態勢は椅子に座って股を広げて巨匠と向き合う格好である。つまるところお産をするときのような格好である。なかなかパンチのある光景であった。


ヒゲの総帥はギャラリーを出て店に戻る、開店時間まで20分ほどありシャッターが開いていなかった。万作は風呂にでも行っているのであろう、それを星師匠と店の前で待つことにする。しばらくするとラーメンの男がやってきてヒゲの総帥と話しをする。そのとき「うわっ!」と星師匠が素っ頓狂な声をあげる、どうやら南の空に火球が走ったのを見たという。火球、ヒゲの総帥はこれまでに一度しか見たことがない。ラーメンの男との会話で何とも惜しいことをしたものである、そんなヒゲの総帥の惜別の思いとは裏腹にラーメンの男は「それやから無所属で出馬するなら、豊中市のあたりがええみたいですよ」とマイペースに会話を続ける。


万作が風呂から戻ってきたので皆で店内に入る。しばらくするとアラタメ堂のご主人と学生起業家のダダヤマがやってくる。「お前なんかが何をしに来たのだ」と愛想のないことをヒゲの総帥が笑いながらいうと、「いやいやいやいや」とダダヤマは返答する。「ダダヤマ君にはゲームを覚えてもらって他のお客さんへの説明をしてもらうんですよ」とアラタメ堂はダダヤマ来店の根拠を説明する。ヒゲの総帥はちびちびとウイスキーを飲みながら、おでんを突くラーメンの男と「ガイスター」というテーブルゲームをする。全戦全敗であったが。


アリスがやってくる、ゲームセンス・ゼロの女ことアシムが紀州の女とやってくる。この日は急遽欠場となった作家の平尾先生の淫靡で甘美な名刺をデザインしてくれたのがアシムである。山の向こうからファラオがやってくる、スージーが差し入れとともにやってくる。醤油売りの女がポン酢各種を持ってきてくれ、コミュニケーション障害をスキルに持つブルーグラスの男は俳句詠みの女と生物学博士の女を連れてくる。ライターの男もやってくる。先週、大賑わいの人狼を企画したマスマティックの女が白鳥のように真っ白な女を連れてやってくる。ハイボール前田という上島竜平に似たおっさんも来る、緑の女もやってきて、果実のような名前の男もやってくる。いつの間にかヘルベンツも混ざっている。店内はすぐに百鬼夜行の類の混雑を呈する。常連の不思議な女と探偵のような男もやってきた。常連の不思議な女はありとあらゆるものを忘れて店を出たそうで、星師匠は後を追ったそうだ。探偵のような男はヒゲの総帥にウイスキーをおごってくれた。


そしてこの日、ヒゲの総帥はおよそ10年ぶりにある男と再会することになった。10年以上前、ヒゲの総帥が梅田の観覧車で有名なギラギラした商業施設の最上階でコンサートをしていると、急にヒゲの総帥訪ねてきた男がいる。その男は自分はアイルランド音楽をしており、ある人から阿守に会いに行けといわれたのだと訪問の理由を説明する。その男の名をドーツボ君とする。


ドーツボ君はこの度、ドーツボ博士とランクアップして今は京都でえらく敷居の高い大学の大学院に属しており、法律の何たるかを日夜考えているのだそうだ。このドーツボ君だがどうやらテキサス・ホールデム(7枚ポーカー)を操るのだそうで、そのポーカーを数年前から実際にしたくてたまらなかったヒゲの総帥はこの日にポーカーをしようじゃないかということになった。その呼びかけに応えるかたちでドーツボ博士はポーカーセットを一式、連れの京都の女と一緒に北濱まで持ってきたのである。


ドーツボ博士とブルーグラスの男は元は同じバンドのメンバーである。前者はギターで後者はバイオリンであった。そこにアイリッシュ山本やガハハの女や国防の男などが加わっての大所帯のバンドはとんでもなく愉快な奴らの集まりであった。もちろん不愉快な部分もあったのであろうが、それは他人事なので放っておくのが礼儀だ。


少し遅れてタッキー国王もやってくる。仕事終わりのスーツ姿でやってきており、「すいません、22時には出ないといけないんです。会長のところに呼ばれてまして、運転もありますんで」とアルコールが飲めないことを大いに強調しながらウーロン茶をオーダーする。


店内のテーブルは四つのセクションに分かれた。


【A】ドーツボ博士がディーラーをする、テキサス・ホールデムの卓


【B】ダダヤマが無理やりゲームマスターをさせられたそうな、ワンナイトマンションの卓。


【C】ラーメンの男ことYUJIが取り締まる、コードネームの卓。


【D】アラタメ堂とブルーグラスの男とライターの男がこそこそする、何らかの怪しげな卓。


ヒゲの総帥は最初から最後まで【A】の卓におり仕事をこなすのに必死だったので他の卓のことは全くといっていいほど述べられないが、大体、そういった模様である。ちなみにヒゲの総帥がする仕事というのはタッキーのウーロン茶を飲むことである。タッキー国王がウーロン茶を注文する、こそっとタッキーをエアコンの風が直撃するところに座らせて国王の体内とコップの中の水分を簒奪せしめようとするが、どうにもペースが鈍い。それはそうだろう茶など何杯も飲めるものではない、途中から作戦を変更してタッキーのウーロン茶をそのままヒゲの総帥が飲んでは、タッキーにオーダーを要請するということが合計で16回ほど行われた。なので二人とも腹はちゃぷんちゃぷんであった。


それぞれが目の前のゲームに熱中をする。人と人が時間有限の取り決めのなかで、それに従い遊びに興じる姿はなんとも微笑ましくあり、そして滑稽でもあり、なにより最上の時間つぶしであろう。


ドーツボ博士はポーカーの後に【A】と【B】を糾合させて「アヴァロン」なるゲームをしたいと言いだす。このゲームの面白さは人狼を大いに越えるものであるとロビー活動をするドーツボ博士。それならやってみるかとヒゲの総帥を含めたメンバーでやってみるが、アーサー王と円卓の騎士物語に基づいたキャラクター設定なので、その辺に詳しくない人間からするとキャラの関係性がよくわからない。作家の平尾先生でもいれば狂喜したのかも知れないが、漏れなく円卓の騎士に興味のない鈍感者ばかりだったので場は曖昧模糊とした雰囲気に包まれる。


時間もないのでドーツボ博士の説明を聞きながらゲームを進行する。博士は早口にまくしたてる「皆さん目を閉じてください、暗殺者とモルガナとモルドレッドは目を開いて、手を開いてお互いを確認してください。暗殺者とモルガナとモルドレッドは目を開いて、手を開いてお互いを確認してください。暗殺者とモルガナとモルドレッドは目を開いて、手を開いてお互いを確認してください」。この早口の早いこと早いこと。「マーリンとモルガナと暗殺者のかたは手を開いてください、マーリンだけ目を開いてモルガナと暗殺者を確認してください。マーリンとモルガナと暗殺者のかたは手を開いてください、マーリンだけ目を開いてモルガナと暗殺者を確認してください。マーリンとモルガナと暗殺者のかたは手を開いてください、マーリンだけ目を開いてモルガナと暗殺者を確認してください」。


参加しているプレイヤーは自分がこれから何をするのかまったく解らないのに加えて、聴き慣れない似たような名前ばかりなので何度も自分に配られたカードを確認する。終電の時間が迫るドーツボ博士はどんどん早口になり鬼気迫る状態となるのだが、この様子が面白くてたまらない。目を閉じた数名から笑いが込み上げてくると、葬儀中の笑いと同じでそれはどんどん拡散していき、腹を抱えて笑うものも出てきた。「ゲームマスターのいらないゲームなんですよ」と言っていた博士であったが、博士が進行しないとなんらの議論も起きないし、なんらのアクションも起らない状態であるので、博士はどんどんと鬼気迫りながら各プレイヤーに詰問していく。


「あなたは何故、承認したのですか!」
「いや…、なんとなく」
「あなたが承認するということは、正義の確率を下げることになるんですよ」
「はい…、そうなんですね」
「それでは、次のあなたはどうして拒否したのですか!」
「いや…、なんとなく」
「あなたとあなたはどうして承認するのですか!」
「いや…、なんとなく」


なんとも愚鈍な騎士ばかりで足並みは決起盛んな博士と揃わない、テンションの格差は雲泥であり混迷であり、もうこうなると笑いが止まらなくなる。


「どうか頼むからもう一度、最初のお互いの役職を確認するくだりを言ってくれないか」とヒゲの総帥はドーツボ博士にお願いする。


「わかりました、暗殺者とモルガナとモルドレッドは目を開いて、手を開いてお互いを確認してください。暗殺者とモルガナとモルドレッドは目を開いて、手を開いてお互いを確認してください。暗殺者とモルガナとモルドレッドは目を開いて、手を開いてお互いを確認してください」


ここで爆笑してしまい、そこからゲームは進行しなくなってしまった。ヒゲの総帥は来月に捲土重来の機会を設定するから、そのときに再戦しようじゃないかと博士に説明して一難から逃れる。


各テーブルがひとしきりしたところで人狼が開始される。グループを二つに分け、ヒゲの総帥とマスマティックの女がそれぞれゲームマスターを担当することになった。すでに酩酊状態のアラタメ堂のご主人は「僕は使い物になりませんよ」との自己宣告により役を回避することとなった。


終電の時間もやってきてそれぞれが帰る。夜も更けたころ、一度は出ていったタッキーが店に戻ってくる。その手には上等の毛ガニが格納された冷凍用のボックスがあった。


「そういえば、先日、どうしても阿守さんにしてもらいたいゲームがあると言ってましたが…」とヒゲの総帥がアラタメ堂のご主人にふると、「ああ、解放者のことですね」と新手のボードゲームが出てくることとなった。


ここは元老院、皇帝カエサルを失脚させて、善良なる共和政治の復活を望むプレイヤーたちの崇高な戦いをゲーム化したのが、この「解放者」なのだ。


が、


ゲームが始まった途端に万作が毛ガニを茹でて持ってきたので、皆、崇高なゲームどころではなく野蛮にもカニに食らいつく。甲殻類の苦手なヒゲの総帥以外はそれぞれ自分の手番が終えたのち、次の自分の手番まではカニの攻略に専心するという具合である。アラタメ堂のご主人などは、カニの爪によって指から血を流しながらでもカニにしゃぶりつくのを止めようとはしなかった。本人がいうには、これでも良き父親なのだというから呆れる。


もちろんのこと、この解放者なるゲームは途中で放棄されることとなった。


やはり、花より団子なのである。狂った夜が散会を迎えたのは朝の3時くらいであった。



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by amori-siberiana | 2018-01-14 16:31 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は封筒を抱えて朝から北濱のオフィスを入ったり出たりと誰もが年始にしているような動きをする。昼になると客から「昼は店にいないのか」と連絡があるので、ちょうど手が空いていたヒゲの総帥はランチ時間のコロマンサへ向かう。締まりの悪いガラス戸を開けると、巫女さんの女たちがいる。一人はヒゲの総帥と顔見知りである。


訊くところによるとこれからバスに乗り込んで北陸へ帰るとのこと、あまり時間はないとのことであるがせっかくだからということで店に立ち寄ったと巫女の女はヒゲの総帥に告げる。ヒゲの総帥は寒いなかよく来てくれたと礼を二人に述べる。二人の本業は北陸で町おこし関連の仕事をしているという、さぞやあちらは寒かろうというと案外、雪は降っていないのだという。


ヒゲの総帥が仕事で地方へ行くときはリサーチのために観光客が絶対に来なさそうな居酒屋やスナックへ入る。そこで地元の人と前後不覚になるくらいまで酒を酌み交わし、大いに語り合ってその地域のことを訊かせてもらっていた。とにかく酒があるのとないのとでは全然違った、酒に頼るのはどうにも情けない話しであるかも知れないが、人類と酒の密接な関係における歴史は深く、切り離せないものである。つまり、酒は簡単なのである。

酒によって成功した事例もあれば、酒によって失敗した人生というのも世の中には枚挙に暇がない。酒に費やされてきた文字や数字は圧倒的な量であろうし、また消費されてきた量も天文学的な数値になるであろう。宇宙人がいるのかいないのか今のところまだ判然とはしていないが、まずは酒を飲めるかどうかであろう。そこから話しである。


ところが世の中には酒が飲めない人間がいる、体質によるものもあれば、ありとあらゆる事情を抱えるものもあるのだが、それは幸せなことである。あんなもの飲まずにいたほうがいいに決まっている。飲め飲めと誘われる席で飲まないのは失敬なのではないか、損をしてるのではないかと思い悩む人間もいるようだが、それは考え過ぎである。飲みたい奴に好きなだけ飲ませておいて、放って帰ればいいのである。付き合いたくもない人間と付き合わなくてはいけない場面は多々あるものであるが、付き合いたくない酒に付き合う道理など一切ないのだから。


巫女さん二人を最寄りの駅まで送り、そのままヒゲの総帥はオフィスへ戻る。戻るとオフィスの前にオフィスの経営者の男と副社長ばかりする男が立っている。もちろんヒゲの総帥ごときを寒中スーツ姿で出迎えに出ているわけではなかろうが、ヒゲの総帥は二人がさも自分を迎えようとしているのだとイメージトレーニングして、「寒いなか、ご苦労さんだな」と二人に声を掛けてオフィスの中へ入る。受付の女たちは笑いだす。


オフィスの席で執務をしていると、副社長の男がコードナンバー0001の男を連れてやってくる。ヒゲの総帥は0001の男に新年の挨拶をする、この男は直属の部下を連れて猫のひたいにやって来たのだが、その部下はコロマンサ・デビューその日、ハイタッチ冷泉だかその師匠の師匠だかに殴られて膝を折っていた。


しばらくするとオフィスを見慣れた顔がウロついている、よく見ると外資系保険の女である。こんなところで何をしているのかと問うと、どうやらミーティング・ルームを使って勉強していたのだという。ヒゲの総帥はぼんやりしてると自分がオフィスにいるのかコロマンサにいるのか解らなくなるときが最近は度々ある。中国が宇宙に飛ばした「天宮1号」が夜空を翔るというのでオフィス内の人間を誘って寒いなか外に出るが何も見えずに終わり、随行者から「期待外れも甚だしい」と散々に言われる。


そのままヒゲと副社長とヘルベンツは三人で店に行く。三人が店に到着したすぐ後にブルーグラスの男、常連のガルパンの男、よさこいの女、そしてアラタメ堂のご主人がやってくる。途中からバレリーナの女と映像クリエーターの男も加わり、賑やかに酒宴がはじまる。しばらくすると斥候の男と東洋の魔術師も加わる。ヒゲの総帥は七輪の横でおもむろにストラヴィンスキーのバレエ「春の祭典」のベジャール版の振付けを踊る。これがなんともヒゲの総帥が踊ると不細工なのだ。


ようやく皆の協力で北濱の猫のひたいにいつもの様子が戻ってきたなとホッと胸を撫でおろすヒゲの総帥であった。


いよいよ、今夜はアラタメ堂のご主人と世界を震撼させる男ことタッキー国王の共同イベントが開催される。アラタメ堂のご主人は今日のことを見越して昨夜は足早に店を離脱していたが、今夜は壮絶な夜になるであろうことは現時点で予測できる。


残念ながら作家の平尾先生はのっぴきならぬ体調により不参加を表明されたので、舘ひろしの歌「冷たい太陽」はなさそうであるが、タッキー国王が泣きながら歌い上げる加藤登紀子の「時には昔の話を」には一聴の価値がありそうだ。


今夜、予約なくてもお越しいただいて結構です。


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by amori-siberiana | 2018-01-13 13:49 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は北濱にあるオフィスに閉じこもって何かしている。朝から出たり入ったり出たり入ったりを繰り返しているのだが、何をしているのか外から見ただけでは判然としない。実際は何もしていないのかも知れないし、もしくは他人からすれば無意味に映ることでも、本人としては意味合いをもって何かをしているのかも知れない。とにかくこういった輩は放っておくにこしたことはない。急に覚醒したかのように水槽の中をキュッキュッ泳ぎ回る小さい魚のようなものである。


ヒゲの総帥は夜になり店に行く。店に到着すると版画家の柿坂万作がぽつねんと一人で壁画に向かってうんうん唸っている、何か描きだしたと思えば、またうんうん唸るを繰り返す。壁に向かって問答しているところを見ていると、ヒゲの総帥はアル中でどうしようもなかった祖父を思い出す。祖父はいつも酒を飲んでは壁に向かって問答をしていた。


深酔いしては家の中で暴れまわるのだが、あれはあれで気が小さく悪いことができない男なのだと周囲の人間はいっていた。だが、働きもせずどうしようもない男だったことは確かなのだ。


「うーん、阿守さん、よかったら安倍川(もち)でもしましょか」と万作はヒゲの総帥に問いかける、ヒゲの総帥は七輪のところに手をかざしながら「いいですね、いただきましょう」という。「あーーーっ」という間の抜けた声が厨房から聞こえる、「すんません、適した餅がないですわ」と万作はいう。ヒゲの総帥はそういうことに慣れているので「どうぞ、おかまいなく」というばかりでやっぱり七輪を囲んでいる。


なんだか急に安倍川ではなくうどんが食べたくなったヒゲの総帥は店を万作に任せて外へ行く。


店はそこからアラタメ堂のご主人が来てくれたり、ギターを弾ける男たちがやって来たり、常連のガルパンの男が来てくれたりしたとのこと。寒い中なのにありがたい限りである。


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by amori-siberiana | 2018-01-12 17:49 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営しているヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


外気は冷たく、雨も降る。北浜の駅からオフィスまでは淀屋橋まで通じる地下道があるので雨の日などは便利であるが、そこから地上にあがり多少は歩かなければならない。といっても多少であるので豪雨でもないとずぶ濡れになるということはないのだが、冷たく細い雨は身体を芯から凍えさせる。寒い寒いといいながらヒゲの総帥はコワーキングスペースの「ザ・ジンクス」に落ち着く。


自然とオフィス内にいる人たちへの挨拶は「寒くなりましたね」というところからはじまる。暑く感じる人間などいないだろうと思いながらも、こうした差しさわりのない会話はとても使い勝手がよい。用事から用事が生まれるのは当然であるが、不用事からもそれを発端にして用事は生まれるのである。


それにしてもどこへ行くにも億劫な感じになる時期である、となると勿論のこと猫のひたいのような店も新年に入ってからというものイベント以外の日は以前に立ち戻ったかのような伽藍堂状態である。ヒゲの総帥はSNSを使って救難信号を発信する、このあたり恥ずかしげもなく「SOS」を叫べるのは、堂々としているのかそれとも自棄になっているのか判断の危ういところであろう。


ヒゲの総帥はひと仕事を終えて店に向かう。店に行くと版画家の柿坂万作と温泉マニアの男が「シン・ゴジラ」を鑑賞している途中であった。ヒゲの総帥はウイスキーをチビチビやりながらボンヤリする、バイオリン王子から教えてもらったスマホアプリで将棋の特訓をしていると、画面が切り替わり登録されていない番号から電話がかかってくる。


「はい、もしもし・・・」
「・・・アモちゃんか」


聞き慣れた声である、半年間ほど久しく聴いていなかった声であるが電話の主は死神であった。死神は明らかに人目を忍んで電話をかけてきている様子である、今さらヒゲの総帥に何の用なのかは判然としない。


もちろん、死神とヒゲの総帥の会話内容などはここには書けない。それはそれは物騒な内容であった、死神は何度も何度もヒゲの総帥に対して自分が連絡してきていることを極秘にするようにと念を押す。ヒゲの総帥は電話を切ったあと、ウイスキーを飲みながら去年一年の出来事を思い出す。


「うーん、なんや怖い顔して、どないしはったんですか」と万作がヒゲの総帥の顔を覗き込む、ハッとしたヒゲの総帥は「いや、なんでもありません」と苦笑する。「なんか、突っ込まんほうが良さそうやな」と万作も苦笑しながら厨房へ引き下がる、温泉マニアの男はいつの間にか退店していた。


しばらくすると、ヒゲの総帥の救難信号に応えてドマツ先輩が店にやってくる。「ほんまに暇ですね!そしたら三人分、飲みますわ」と洒落っ気たっぷりに男気発言をするドマツ先輩。ヒゲの総帥は目の前でセットを飲み続けるドマツ先輩と海の話しをしたり、仮想通貨の話しをしたり、太っていた頃の冷泉の話しをしたりする。


「お話しの途中すんませんが、はい、質問。みなさんが仮想通貨、仮想通貨いいますけど、それってなんですのん?」と厨房から挙手をして質問するのは版画家である。ドマツ先輩は仮想通貨とは何かを万作に向けて説明する。


「うーん、それワシも考えたことありますねん。自分で版画を彫って、それの値段をつけんとどんどん値を上げていったろうと、そないなこと考えたことあります」と得意げにいう万作であったが、その理解は仮想通貨とは何億光年も離れている。ヒゲの総帥にしてもドマツ先輩にしても敢えて版画家に突っ込むことをしないのは、大人の対応であろう。


ドマツ先輩と冷泉が好んで飲む「セット」というものがある。ウイスキーのストレートをハイボールを水代わりに飲むというものだ、人間とアルコールの歴史も随分と古いそうだが酒を酒で飲むというのは、なかなかヘミングウェイ的で粋に感じる。


それにしてもここまで銀行主導で高度な決済システムが整備された日本においてこれほどビットコインなどの暗号通貨が流行るというのも凄い。時間内に限られるとはいえ、振込みすればその日に的確に相手へ送金されるような全銀システムというインフラがある日本国において、現段階で利便性が良かろうはずがないこの通貨の魅力はやはり変動する値段であることは、まず間違いない。金を溜め込んだ旧体質や旧世代に対する金融革命である側面、出自のよくわからない成り金が輩出され、しまいには暗号通貨を利用した投資を呼び込む会社までが設立され、時代は玉石混交、群雄割拠となっている。


もちろんのこと、仮想通貨に特化したブログを運営してくれませんか、記事を書いてくれませんかという仕事の依頼は膨大な量となっている。そこだけ切り取っても世の中の関心の高さを示すものである。そろそろ暴落か破綻かと懸念が囁かれているが、幕の向こう側で仮想通貨狂騒曲の笛の音を吹く者たちはまだ牙を剥かない。まだ、大丈夫だ。


知らんけど。


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by amori-siberiana | 2018-01-11 17:57 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


十日戎で賑やかになるころはいつも寒々しい日となる記憶がある。会社にいた当時は誰かしらが戎神社に行って福笹と熊手を購入してきては、社内の本棚の上に飾ってあった。しかしいつからか前年の熊手がそのまま飾られていることになるのである。これは特に金に余裕がなかったとか、急に信心や縁起に愛想が尽きたということではなく、ただただ面倒臭くなったのだ。誰が面倒臭くなったのかといえば、それは熊手を購入しに行っていた人物であろう。他のスタッフなどはそういったことに関して全く無頓着であったからだ。


業務引き継ぎ、業務引き継ぎの連続でコロコロと社名が変わっていた会社であったので、そもそもその仕事の根本となった部分を誰がどういったノウハウによって設立し、どこへどのように金をかけて拡大していったのか、途中から入ったヒゲの総帥からすれば今、振り返ってみても謎であった。最初の頃は自身の仕事分の給料さえもらえれば会社の運営に干渉しないでよかろうと社史に関して突っ込んだことを訊いたこともなかった。ところが何年か経過して自分が会社の運営側に回ったとき、そもそもこの仕事を生み出したのは誰なのか?ということを考え出すようになった。


それを知らずして、自分たちの会社が同業種のどのくらいの位置にいるのかもわからなければ、横の繫がりがどうなっているのかもわからない。個人情報を専門的に取り扱うので超が付くほど閉鎖的な環境であり、交流会のようなことがあったとしてもトップ同士が北新地でこっそりという具合だった。飲みの席を避けていたヒゲの総帥などはそういった場へ行ったことはなく、情報開示もされないのでまったくもってチンプンカンプンな部分ばかりだった。ただ、自分のミッションを淡々とこなしていくだけである。


とにかくこのヒゲの総帥は偏屈なところがある。生来の負けず嫌いもあるのだろう、そのうち周囲からもあれは変人だから好きなようにさせておけと障壁を作られる。ある夏のこと、会社の慰安旅行で石垣島と西表島へ行くと決まったときなどは、「オレはそんなところへは行かん」と強情を張る。そして同僚たちが南の島にいる同日、自費で北海道の稚内へ行っては宗谷岬で仁王立ちしてロシアはどこだと目を見張る男なのである。


その次の夏も慰安旅行はあったのだが、そのときも「オレはそんなところへは行かん」と強情を張り、数名の部下を連れて会社に居残っては仕事をする。そしてこういった意地を張ったときこそ、皮肉なことに集中力が増して会社史上におけるとんでもない売り上げを叩きだすことになる。バカとハサミは使いようというが、そのうちの前者を地で行くような男なのである。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥はいつものように北濱のオフィスへ向かう。途中で南船場のパン屋「き多や」へ寄ろうかどうしようか考えたが、外があまりにも寒いのでオフィスへ直行する。到着するや「阿守さん!」と低く響く声でミカン爆弾の男から呼び止められ、肩を回す健康法を教えてもらい、ヒゲの総帥は素直にそれに従い肩を回す。


「どうです、肩が温まってくるでしょう!」とミカン爆弾の男は一緒になって肩を回す。「そうですね、確かに肩が温くなってきますね」とオウムのように反復するヒゲ。「ひじの先に筆がついてる感じで!その筆で壁に円を書くように!」とミカン爆弾の男はいい、二人の男はオフィスの中でグルグルグルと肩を回している。


しばらくするとアラタメ堂のご主人が自分のロッカーから紙袋を持ってやってくる、ヒゲの総帥がその紙袋をのぞき込むと「狂気山脈」というボードゲームが入っていた。


「アラタメ堂、これが噂の狂気山脈ですか」
「あー、そうそう、これまだ新しいゲームで僕も買ったはいいけれど、やったことがないんですよ」
「ちなみに何人ぐらいでするゲームなのですか」
「えっとね、3~5名というふうになってますね」
「僕とアラタメ堂では二人きりですね」


すると、ヒゲの総帥の視線の15メートルほど先に学生起業家の男ことダダヤマが座って仕事をしているのが見える。誰かと電話で商談をしているようである、口癖は「いやいやいやいや…」というもので、やっぱりこの日も相変わらず口癖を連発しており、アラタメ堂のご主人から「あいつ、何回いやいやいやいや言うねん」とこっそり突っ込まれていたのは内緒である。


ヒゲの総帥はダダヤマのところへ行き「よし、行くぞ」と声を掛ける。何の目的でどこへとも告げられていないダダヤマは「えっ?どういうことなんですか?えっ?」と周囲を伺う目をする。その光景に思わず吹き出して笑ってしまうのはミカン爆弾の男である。「もう仕事は終わりだ、さっさと用意するのだ」とヒゲの総帥は面倒くさそうに声を荒げるが、泣き寝入りする債権者のような声で「すいません、僕、大学のレポートができてなくて…」と現状を告げるのはダダヤマ君。


「どれくらいの量なんだね」
「えっ?」
「何文字くらいのレポートなんだねということだよ」
「ああ、3000字です」
「そんなの分割すりゃいい、自分で1000字、僕が1000字、アラタメ堂のご主人が1000字書いたらそれで出来るじゃないか」
「いやいやいやいや…、おかしいでしょ、いやいやいやいや」


「えっ!?オレも書くの?」と素っ頓狂な声を出したのはアラタメ堂のご主人であったが、書生のダダヤマ君の邪魔もできぬとヒゲの総帥は「じゃあ、よいお年を」とだけ告げて彼の御前を失敬する。「えっ?よい、お年って…」とダダヤマは繰り返すがアラタメ堂のご主人から「つまり、年内にお前に用事はないいうことや」と笑いながら告げられる。ヒゲの総帥の背後では2018年内最後であろう「いやいやいやいや…」が聞こえていた。


アラタメ堂のご主人とヒゲの総帥は店に向かう。到着すると週末に人狼イベントを主催したマスマティックの女がブラックルシアンを飲んで、店の壁に映し出された「君の名は」を見ている。版画家の万作はマスマティックの女に何か頼まれたのであろう、映画は見ずに厨房で何かしらを調理していた。ヒゲの総帥はマスマティックの女に「狂気山脈」を一緒にしないかと声を掛ける、女は快諾してくれた。


「狂気山脈」


どのようなゲームなのか簡単に説明しよう。全プレイヤー協力型のもので共通するミッションがある、プレイヤーたちは狂気山脈にある幾つかのミッションを経由して山頂を抜けて飛行機で無事に帰還するという単純なストーリーである。このゲームの特異なところはミッションを失敗したときに「狂気カード」というものをプレイヤーがひかなくてはならず、そのカードに書かれていることを演じなくてはならないのだ。


例えば


●五七五調でしか話せなくなる

●叫び声をあげながらでしか話せなくなる

●歌うようにしか会話ができない


こういった指示が出てくる、しかも一度設定された狂気は基本的に取り除くことができず、さらにさらにと上乗せでカードをひくたびに狂気の指示が出てくるので、このゲームの基本であるプレイヤー同士の対話ができなくなり、ミッション完遂が困難となるのである。


ゲームの途中にマスマティックの女は狂気カードをひき、とてもおかしなカードの持ち方を唐突にしだす。後になってわかったことだが女のひいたカードには「親指が使えない」と書かれていた。想像していただきたい、トランプでババ抜きをしているとして親指を使わずに果たしてカードが持てるものだろうか。その姿に三人は爆笑する。


そしてこの「狂気山脈」の世界観は小説家ラヴクラフトを継承しているものであり、架空生物ショゴスなども当然のように登場してくる。そういえばDEAD ENDのアルバム「GHOST OF ROMANCE」もラヴクラフト的な世界観だったような気がする。


二人が帰ったあと、ヒゲの総帥は万作に給料を渡しながら「ひとつだけお願いがあるのです」と万作に伝える。万作は眉間にシワを寄せながら「うーん、そのお願いいうもんにワシが応えられるもんかどうなんかそれはそれを聞いてからやないと、なんとも判断できませんので、まずは~(中略)~というのがワシの考えで、話しが長うなりましたけれど…」と返ってくる。どうやら絶好調である。


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by amori-siberiana | 2018-01-10 14:20 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


恵みの雨というには降雨量が少なく気温も下がり、どことなく陰鬱な気持ちになるような小雨が断続的に降っている。傘を持つべきかどうしようか悩みながらヒゲの総帥は店に向かう。店に到着すると店内では版画家の柿坂万作がいつものように何をするでもなく薄ぼんやりした顔をしてオムライスの仕込みをしている。


ヒゲの総帥は経理を済ませたあと、万作に今後の経営プランについての説明をするから同席するようにと促す。「うーん、ワシは立ったままのほうが楽なんで、立ったままでええです」と立ったままを二度ほど強調する版画家にヒゲの総帥はプランを説明する。


再建のセクションは三段階に分かれており、現在が第一段階の最終になっていることを万作に示す。第二段階に入るとこうなる、第三段階になるとこうなるということをメモに書いて説明するヒゲの総帥、それをうんうんいいながら聞き入る万作。説明が終わったあと万作が口を開く「うーん、ここの店は阿守さんのイベントやお客さんでもっとるようなもんなんで、イベントんときは阿守さんが収益を総取りでええんやないですか?」という。「いや、そうなるといろいろ面倒くさいのでやめましょう。第一、僕は料理や飲み物を作れませんし、餅は餅屋ということで互いの得意な部分だけを店の運営と切り離して考えられるものではないですから」と特に面白くもない真っ当な切り返しをするヒゲの総帥。


「とにかくワシとしては、阿守さんに借りがなくなるいうことが一番スッとしますわ」と万作は満面の笑みを浮かべる、多分この男の偽らざる本心であろうとヒゲの総帥は感じた。生かさず殺さずという状態を半年の間も頑張ってきた版画家である、そろそろ切り離してもらわないと版画家の精神が均衡を保てなくなるであろうことをヒゲの総帥は心配している。住むところを追われるよりも、自分のアイデンティティーを脅かされるほうが柿坂万作という人間は苦痛を感じるのであることは、これまでのことでよくわかった。


「うーん、ここ(第二段階)でワシの給料があがるんやったら、美人なお姉ちゃんを雇うてええいうことですね」と独り言のようにブツブツいう万作。その言葉にヒゲの総帥はなんだかとても不穏な何かを抱いたようであった、本質を見て見ぬふりする楽天的な版画家のこうしたズレた考えが今後は顕著に具体化することへの不安なのかどうかは言葉ではうまく説明ができない。ただ、心のなかで「今度は潰すなよ」と祈るのみであった。


万作は風呂へ行くこととなり、ヒゲの総帥は一人で店番をすることとなった。といっても年始早々の連休最後の日、しかも雨天となれば客の出足も悪かろうとヒゲの総帥は読書をする。同郷の作家の男から届けられた新しい物語を読みだす。読みながらこの店に関わることになったときのことなどを思い出していた。


そのとき、ゴガッと締まりの悪いガラス戸が開く音がする。やってきたのは教諭の女だった。女は自身の習い事の帰りに立ち寄ったのだとヒゲの総帥に告げ、ヒゲの総帥は足元が悪いなかなのに来店してくれたことに感謝を述べながら慣れない手つきで注文された飲み物を提供する。外では雨が降る、ヒゲの総帥はウイスキーをチビチビやりながら教諭の女と何やら話しをしている。


風呂から万作が戻ってくる、ほろ酔いであろうか、普段はぎょろりとした目がとても小さく見受けられるのは版画家の睡眠欲に関係があるのかも知れない。


あの日も寒く凍える夜であった。


フランスはカンヌのバス停で深夜バスを待っているヒゲの総帥。一人の初老の男が声をかけてくる、二人は英語で二言か三言の会話を通過してのち、お互いが同じ名字であることを知る。ヒゲの総帥は日本人、初老の男はチュニジア人だった。二人はそのままバス停を離れて寒さをしのぐため深夜にやっているカフェへ移動する、コーヒーを飲みながらいろんな話しをする。後日、改めて落ち着いたところで食事をしようと約束してバスに乗り込む。


翌々日、ヒゲの総帥とチュニジアの初老の男は再会する。彼がよく通っているであろうビストロに案内されてそこでワインと食事を摂る、ヒゲの総帥が初老の男の職業を訊くとプロのチェス棋士だということがわかった。「お前はチェスをやるのか」と問われるが「駒の動かしかたもわからないので、まだしない」と返答するヒゲの総帥。話しはそこから哲学の話しに移る、ヒゲの総帥はデカルトの「方法序説」について自己の見解を述べる、たどたどしい英語では説明にならずテーブルに敷かれた使い捨てのテーブルクロスに文字や図を描きだす、紙はすぐにペンのインクで埋め尽くされた。


チュニジアの初老の男はいう「阿守は西洋哲学にしか興味がないのか?」と、そのとき初めてヒゲの男は地球上で当時、同時進行していたはずの西洋哲学以外の世界に気がついた。初老の男はデカルトの思想にしても、それ以前の哲学にしてもイスラムの思想家からの影響が多分であることを理路整然と説明する。初老の男がテーブルの上に書いたアラビア語には、イスラムの思想家や哲学者の名前が並ぶ、その歴々が何をしたのか初老の男が説明をしてくれるが、ヒゲの総帥はアラビア語の装飾めいた美しさに心を奪われた。


そのとき、彼との出会いは世界の半分に値するとヒゲの総帥は感じた。


それから一年後の同じ日、初老の男からヒゲの総帥に電話がかかってきた。「今年はカンヌに来ていないのか」という内容であった、ヒゲの総帥は残念ながら行っていないのだと返答した。あれから10年以上が経とうとしている、10年前に二度しか会ったことのない人であったが、今頃は何をしているのだろうと寒い夜にはいつも考えるのである。


彼が故郷のチュニジアからリヨンの大学へ行くことが決まる。チュニジアの親戚や知人の皆が金を出しあって彼に生まれて初めての靴を買ってやる、それまでは裸足だったのだそうだ。外国で学ぶ彼への餞別だ。彼はその靴を何度も修理しながらヒゲの総帥と食事をしたその日も履いているのだった。


物を大切にしろというが、その言葉はなにも物質的の形状保持を意図しているものではない。氷山と同じ、物として見えるのは一部分だけでその水面下には、もっと沢山の氷が日の当たらないところで謙虚に潜んでいるのである。それを感じなさいと教えてくれる言葉である。


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by amori-siberiana | 2018-01-09 13:53 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は昼に店へ向かう。店には版画家の柿坂万作がおり、これまで舞台だったところをトランスフォームさせて第二のバーカウンターにする。万作は冷泉から借りたプロジェクターを常備して、いつでも店内投影できるようにしておきたいのだという。「そうだ、万作さんに話しがあります」とヒゲの総帥はバーカウンターを組み立て中の版画家に声を掛ける。「まだ計算途中なのですが、この三月か四月から万作さんの給与を増額できるようなシステムに変更したいのです」と話しをするヒゲの総帥、万作のギョロとした目がさらにギョロとする。ヒゲの総帥は話しを進める「簡単にいえば経費を差し引いての売り上げは折半ということにしようということです」と言い終えないうちに、万作は「つまり、これでワシと阿守さんは実質的に共同経営者になるいうことですね。立場が対等になるいうことですね」と子供が絶景を見たような顔をして再確認をしてくる。


「うーん、ワシは肩書なんぞどうでもええんですわ」と毎日のように言いながら、存外にも肩書や上下にこだわるのかとヒゲの総帥は失笑するものの、版画家のプライドを確認して安心し、つまるところそういうことだと万作に向かって頷く。「そこから段階的ですが、僕はこのお店から抜けていくようにします」とヒゲの総帥は続ける。店の売り上げに関しては周囲の人間からの助力によって完全に回復をしている。


「うーん、阿守さんの北濱独立の夢を果たすためには、この店でずっとおってもいかんやろうから、ワシもそれには賛成です」と万作は我が世の春のような顔をする。まるで刑期が短縮されて出所できることを知った受刑者のような恍惚とした表情である。「うーん、阿守さん、次はどこを手掛けるんですか」と万作はヒゲの総帥に訊く、「まさか、今後の予定など真っ白ですからのんびり就活でもしますよ」とヒゲの総帥は苦笑しながら答える。


「その話しはまだ未定…、いうことですね?話しだけいうことですかね?」と万作は念入りに念入りに夢オチではないだろうなとヒゲの総帥へ確認する、「いえ、未定ではなく確定です。三月か四月のどちらになるかは綿密に計算してみます。そうしないと万作さんの収入が増えて再建となりませんし、さらには僕が店に協力させてもらった意味がありませんから」とヒゲの総帥は万作に伝えてからカウンター設営の手伝いをした後に店を出る。


ヒゲの総帥は年末、常連の不思議な女やハイタッチ冷泉、さらには江戸堀のヘミングウェイたちとディスカッションを繰り返すことにより、このタイミングでの決断に至ることとなった。チンピラの男がいうところの「音楽家と版画家の絶妙な不安定さと緊張感がたまらない店」という形を崩さないまま店を存続させていくことが結構である。


夜になりヒゲの総帥は再度店に行く。ギタレレの女は先ほど帰ったばかりだと万作が教えてくれる、店内には常連の不思議な女と冷泉とチンピラの男がいる、後者の二人は昼から延々と飲み続けているのだという。ヒゲの総帥が「男二人でよくそれだけ話題がありますね」と半ば皮肉がてらにチンピラの男に伝えると、二人でいるときは何も話さないのだという、「黙ったまま、たまにアイツ(冷泉)のホクロの位置が動いてへんかを確認したるんですわ」とチンピラの男は冷泉の顔を覗き込むようローアングルから視線を向け、ホクロの確認の仕草をする。冷泉はプッと吹き出す。


この日にいたっては前日の後遺症からなのか、ヒゲの総帥はウイスキーをショットグラスに一杯飲むのも随分と時間をかけていた。いや、酒を飲む行為を忘れるほどチンピラの男の話しに食い入っていたのだ。その日、チンピラの男とヒゲの総帥は互いの人生が切り替わった境界線について意見を交換していた。常連の不思議な女と冷泉はイラストを不要な紙の切れ端に落書きしていた。


静かで寒々しい夜は、明日の雨を予感させていたのかも知れない。


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by amori-siberiana | 2018-01-08 13:53 | 雑記 | Comments(0)

こんばんは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は半日の休養を経て、夕方が過ぎたあたりに店へ向かう。この日は貸し切りイベントというわけではないが、妖精の女と斥候の男など野球マニアが集結して鍋を突こうという日である。ハイタッチ冷泉から店側が借り受けているプロジェクターに火が入り、万作が壁画の上に貼った真っ白い紙に向けて野球の名シーンなどが投影されているのであった。


昭和の時代、平成の時代のプロ野球や高校野球の名シーンをトピックスした自前のDVDが流され、それを見ながらああだこうだと語り合うのもいいものである。


ヒゲの総帥も中学に通っていた時分は野球部に入部していた。どうして野球部にしたのかといえば理由は特にない、今にして思えば一学年上の人間に仲のいいのがいたからという些細なものであったように思う。数学教師が野球部の指導をする立場にあった、つまるところ監督であったが独身貴族で理屈っぽい気ままな男であり、生徒に気を使わせることが先生の尊厳にかかわると肝に銘じているような退屈な人間であった。大した目的もなく野球部に入ったものだから、無駄に厳しいだけの練習についていくのは大変で、試合に負けた後などは罰則として理解不能なままに延々と走らされるというものだった。すべては監督の気分次第でそこには理論も何もない。


一度、木の板をグローブの代わりとしてヒゲの総帥たちはキャッチボールをさせられていたことがある。これで上達するようになるのだと数学教師は断言していたが、統計もとらず効率も考えずに試合ではおよそ登場しそうにない木の板の練習に執心しているようでは、本番の結果は暗かろうことは誰にでもわかる話しだ。実際、ブラックホールの奥に住むであろう駄馬のケツの穴よりも真っ暗であった。


ヒゲの総帥は広島カープの前田智徳という選手が好きであった。打ってよし、守ってよし、走ってよしの三拍子揃った右投げ左打ち選手であったが、彼が打席に立ったときのたたずまいが好きであった。雰囲気のある選手というのはどこかしら一流の舞台俳優のようであり、結果に関わらずそこに存在するだけで一見の価値があるものだ。ただ、野球の結果に一喜一憂するようなことはあまりなかった、ヒゲの総帥の叔父で作曲家のアラム・ハチャトゥリアンに似たのがいたが、その男などは四国の人間のくせに阪神タイガースが負けると猛烈に機嫌が悪くなり、しまいに家族すら近寄らなくなるのであった。


オルガン横の奥のソファでそんなノスタルジーな気持ちで映し出されるVTRを見ていると、ドマツ先輩がやってくる。毒蛇のようなボーダーのセーターに破れかぶれのジーンズという格好はこの男にしか似合うものであろう。新年の挨拶をお互いに済ませて、四方話をしているとヒゲの総帥のところへ冷泉からメールが入ってくる。


「冷泉がこの後、店に立ち寄ってくれるようですね」とヒゲの総帥はドマツ先輩に伝える。「お前なんか来んでええわと隣のドマツが言うてると返信しといてください」と冷淡なる伝言を託すドマツ先輩であるが、そのままの言葉をヒゲの総帥は冷泉に伝える。冷泉からは「ひっ(笑)」という返信リアクションがあったが、この時点でヒゲの総帥とドマツ先輩の二人は冷泉がしばらくするとやって来るだろうと確信した。


まもなく予想どおり冷泉はやってくる。昨日に引き続き副社長ばかりする男も一緒であり、さらには外資系保険会社のヘルベンツの女とスタートアップ起業の星であり陸サーファーのディエゴも一緒にやってくる。冷泉本人は知ってか知らずかわからないが、この男がやって来るのは毎度のように客の入れ替わりのタイミングなのだ。つまり、冷泉が店に入って行くとそれまでいた数名が店を去るということがしばしばである。冷泉はそれを自分が来たから客がどこかへ行ってしまったのだと気にしているのだが、そうではなかろう全てはタイミングだとドマツ先輩や星師匠から慰められる。


ディエゴというのは上仲のことである、アラタメ堂のご主人から命名してもらったそうで、本人もそれをいたく気に入っているのかそのニックネームでブログをはじめた。結構、行き当たりばったりな人生を歩んでいるのだなとヒゲの総帥は面白く読んでいる。皆でテーブルを囲みウイスキーを飲みだす、いつしか冷泉と副社長はビンタの応酬をはじめる。ディエゴ君は満面の笑みでそれを見ているのだが、気がつけば巻き込まれてヘルベンツにビンタをされていた。


ピザを食べているディエゴの目の前にタバスコがある。「おい、君は何をしようというのだ、無茶はやめておけ」とヒゲの総帥は勝手に話しをディエゴに振る、このシチュエーションにてディエゴは自分に対して何が求められているのか察したようで神妙な顔をしながら声を低くして、「いいですか、皆さん、僕がこれをどうするのかよく見ていて欲しいのです」と口上を述べるがそこからが遅い。冷淡なるドマツ先輩は「つまらん」と薩摩示現流のように一刀両断。「こうするのだ」とヒゲの総帥はタバスコを口の中に振りかける、「あ、阿守さんだけにそんなことさせられません」と冷泉もタバスコを随分と飲む、ヒゲの総帥は負けるものかと冷泉からタバスコの瓶を奪ってまた飲む、そして寝ている副社長の男にも気付け薬だとタバスコを飲ませる、副社長の男の目はくわっと見開く。その模様を皆がニヤニヤして見つめる。


先日の折、チンピラの男が語るところによると冷泉はバスケットボール部であったが、全クラスの人間を叩きのめしてからは危険物扱いされ、誰も冷泉のところへパスして来なくなったのだそうだ。体育館には「パス、パス、パス」という冷泉のドス効いた声だけが空しく響いていたのかと想像すると、申し訳ないがヒゲの総帥はとても笑えるのであった。

夜も更けて、店内からはけたたましい笑い声だけが響く。それでも飽き足らず店外の路上でもドマツ先輩と冷泉での乱取りがはじまる。ヒゲの総帥は帰りにざるそばを買って帰る、1時間後にはざるそばとタバスコもすべて大地へと還元されるに至る。


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by amori-siberiana | 2018-01-07 17:54 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は北濱にあるオフィスへ行きコーヒーを飲む。仕事熱心なアラタメ堂のご主人はすでにデスクに着座しており何やらごぞごぞしている。かと思えばさっさと荷物をまとめてどこかしらへ失踪する、なるほど昼から近くで開催される人狼大会に顔を出すのだなとヒゲの総帥は理解する。年始早々でもフットワークの軽いアラタメ堂のご主人の背中を見ながら、オフィス内の見知った人たちと新年の挨拶をかわすヒゲの総帥。この男でも不惑となれば腹の中では何を考えているかわからないが、外面だけは社会人よろしくそれなりにできるようになるものである。


ヒゲの総帥は昼過ぎに店へ行く、店には版画家の柿坂万作がおり厨房で今夜のための仕込みに入っている。星師匠もやってきて店中を磨き上げる。この日は通常より30分早く開店することになっているので、万作はいつもより30分早めに風呂へ行く。北濱の街を自転車のブレーキ音をけたたましく鳴らしながら、頭に筆を突き刺して雪駄姿の男が疾走する姿は一般人にどのように映っているのかヒゲの総帥は想像するが、万作という人間の存在に慣れてしまった今ではファーストインプレッションを想像することは困難である。


17時半頃にはアラタメ堂のご主人と今回の人狼イベントの主催者であるマスマティックの女、さらに熱闘を終えたばかりの人狼プレイヤーたちが店にやって来る。そこから一時間が経つと店内は人で溢れかえる、人狼をプレイする者、プレイしたが中途で夢破れて処刑される者、そのどちらにも属さないゲームを見ているだけの第三陣営などが混雑混在する。途中、グラフィックデザイナーの男がやってきたが、「すごいことになっとるな」と冷静沈着な一言を発して消えていった。


山の向こうから今ではお馴染みとなったファラオもやってくる、ブルーグラスの男もやってくる、いつも北濱人狼でプレイするよりも複雑になった人狼を見て好奇心旺盛な顔をする。複雑といっても煩雑怪奇ではなくゲームバランスはよく考えられており、多様性に富む内容となっている。一般的な人狼ゲームの主軸となる村人と人狼という二極化の要素は薄まり、その代わり各人が何らかの役割を担当するというどちらかといえば「村」というよりは「演劇的」な要素が強まってるなとヒゲの総帥はウイスキーをちびちびやりながら見ていた。ジェイムズ・ジョイスのユリシーズを読んでいるようであった。


人でパンパンに詰まった店内、ヒゲの総帥はいよいよ締まりの悪いガラス戸の外側にいきタバコを吸う。万作は狂ったように料理を作り、洗い物をする。星師匠は社会主義だった頃のソ連の食糧供給を彷彿させるよう懸命に飲み物を提供する。階段上で佇むヒゲの総帥の視覚に何やら黒いものが入ってくる、その黒いものはニヤリと笑いながら階段を上がってくる。ハイタッチ冷泉である、さらにチンピラの男と副社長ばかりする男も一緒である。ただ、残念ながら店内は満員御礼ということなのでどこかで時間を潰してきてくれとヒゲの総帥は三人に伝える。


新約聖書によれば東方よりやってきた三人の賢者は神の子を求めて星に招かれるまま西へやってきたという。もしもこの黒ずくめで人相の良いとはいえない三人が唐突に我が家へやって来たとすれば、幾ら我が子が神の子だと玄関の外で三人から怒鳴られてもカギを開けることはないだろうと想像しながら階段を下りていく三賢者を見送る、ヒゲの総帥は一人で失笑している。


それからしばらくして三賢者は店に戻ってくる、人狼ゲームの最中であるがハイタッチ冷泉は人狼ゲームの中心に居座って酒を飲みだす。群衆の中へ異質のトリックスターが登場すればどのような集団心理が働くのかヒゲの総帥はニヤニヤしながら「これは大実験だぞ」と注目するが、気がつくと案外さっさと駆除されていた。三階のアトリエは来場者のコートや荷物置きになっており、それと並行して先ほどまではゲームセンス・ゼロの女にインタビューをしたいというイタリア帰りのJKが来ており、しっかりとインタビューをしていた。


いよいよ店内に居場所がなくなったヒゲの総帥は椅子を猫のひたいのような小さな店の猫のひたいのように小さな廊下へ持ち出して、冷泉とチンピラの男、さらには副社長ばかりやる男と酒をあおりだす。この三賢者ともすでにしこたま酒を飲んでいるらしく、暖房のない廊下でも大して寒くないのだというが、なるほど人はこのようにして凍死していくのだなと生理機能検査をしてるような気分になるヒゲの総帥。そのうちチンピラの男とブルーグラスの男は難しい病気の話しをしだす。副社長は92~95%くらい睡眠しており、冷泉は誰かを殴りたくてウズウズしだす。


この日の店内はオルガン周辺では人狼、カウンター側ではそれ以外の客がおり、ヒゲの総帥はカウンター側しかいられなかったので、ゲームにおける感想などは主催者たちに委ねることとする。


夜も更けて、人狼イベントも終了する。常連のガルパンの男と斥候の男が連れだってやってくる。副社長の男はゾンビのようになりながらどこかしらへ消えていく、チンピラの男は一番奥の席から広角レンズ的な視線で店内を見る、アラタメ堂のご主人はぐったりとソファにもたれかかり、ゲームセンス・ゼロの女はアヒルのような口をして酒を飲む。冷泉は舞台に敷いたイシュトヴァン・カーペットの上で寝転がり、ヒゲの総帥はその横であぐらを組んでウイスキーを飲む。ファラオはいつの間にか山の向こうにあるという故国へ帰っていた。万作はビールを飲み、星師匠は売れ残りをバーカウンターの奥でつついている。


静かな夜だ、チンピラの男はこの店のこんな雰囲気がトム・ウェイツのデビューアルバムに収録されている最後の曲「Closing Time」とリンクするという。


ゆったりとしたうねりのあるピアノの波を、あのひび割れて使い物にならなくなった鍋がからから転がるようなラッパの感じ、なるほど、確かにクントコロマンサはそんな感じだ。


そういえば、昨日のイベントの最中、万作が階段脇に飾ってあった自画像が落下して道路に転がっていた。幸いこれといった損傷はなかったわけだが、そのことを知ったゲームセンス・ゼロの女は隠れキリシタンの「踏み絵」のようであると表現して場の笑いをとっていた。それを聞いた万作は「ということは、ワシのことをイエス・キリストに見てくれるいうことやな」と得意げであった。


三賢者は厨房のイエスを連れ去ることなく、酒だけ飲んで帰った。


ちょうど三賢者の物語の頃、確かに夜空ではとても稀な現象が起きていたのだ。星があちこち動き回る、そんな不思議な夜空であったことを皆は知っているだろうか。


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by amori-siberiana | 2018-01-06 15:35 | 雑記 | Comments(0)


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