カテゴリ:雑記( 128 )

こんにちは、北浜にて猫のひたいのように小さな店。画廊喫茶フレイムハウス(近日、kunt Coromansa /クント・コロマンサに改名)を営む、ヒゲの男こと阿守です。


さて、昨日の話し。


ヒゲの男はどうにも肩と腰に違和感を抱えたままである。北浜のオフィス(THE LINKS)に顔を出してみるが、いかんともしがたい違和感に耐えられず、近くにマッサージ屋はないかと探し回る。


すると、オフィスと画廊喫茶のちょうど中間地点に手頃なマッサージ屋を見つけて、そこへ入る。受付の女があと20分後からなら予約が取れるというので、それで構わないとヒゲの男は自分の名前を伝える。


ヒゲの男が受付の女に名前を伝えたとき、施術中であろう部屋のカーテンが揺れる。カーテンの向こうで「阿守くん…」と、気だるそうな冥界からの声が聴こえてくる。カーテンが持ち上げられ、向こうから最近ヒゲを剃った不動産デザイナーの男が、半身寝転がったままでヒゲの男を見る。


「あなた、こんな時間から仕事もせずに何を転がってるんですか」と、ヒゲの男は知人である不動産デザイナーの男に率直な感想をいう。


「お互いさまですよ」と、不動産デザイナーの男はお前も同類だというような目をして笑う。


昨日という一日はそのようにしてスタートした。


詩人のロートレアモンは、美しさを表現するために「解剖台の上での、ミシンと雨傘との偶発的な出会いのよう」ということばを残しているが、今回の出会いはそれとはまったく関係ない。


ヒゲの男は40分の施術カリキュラムを終えたあと、オフィスへ戻る。この日はアラタメ堂の主人が主催する「北浜人狼」というイベントがオフィスにて開催されるので、半ば強制的にゲームマスターの任を拝命しているヒゲの男は、1時間前にはスタンバイをしておかなくてはならないのだ。


イベント開始の時間がやってきて、続々と人がオフィスへやってくる。人狼を知っている人から、まったく要領のわからない人まで様々である。中には、わざわざ東京の出張先から新幹線で駆けつけてくれた人もいた。


そう、その人の名は、冷泉である。


ヒゲの男が自分用にとオフィスに置いていたウイスキーの「山崎」。開栓後、トクトクという心地よい音をたててヒゲの男のコップに少量が注がれたが、ヒゲの男が二杯目を注ごうとしたときには、ボトルの中身は80%を失っていた。もちろん、天使の分け前という洒落たものではなく、静かなるままに冷泉の胃のなかに収まっているのだ。


ゲームは盛況なままに最終ゲームを迎えることとなる。


最終ゲーム、ヒゲの男は司会進行をアラタメ堂に任せて、プレイヤーとして参加することとなった。配られてきたカードには「狼」が描かれてあった。


ヒゲの男は自分の仲間であるはずの狼たちを糾弾していく。どんどん身内切りをしていくのだ、霊媒師を生かしたままで率先して身内切りをしていく、霊媒師は昼間に切られた人間たちが狼であることを皆に伝えていく。ヒゲの男の仲間である狼たちも、ヒゲの男の戦略に乗っかってくれるので、場の信頼がヒゲの男に集約された。


しめしめ…、これで最終日を迎えれば十中八九、勝てるであろうと踏んでいたヒゲの男の希望は一瞬にして途絶えることになる。人狼であるヒゲの男が生きているのに、司会者であるアラタメ堂がミスジャッジによって市民側の勝利を宣言したのである。なんたることか、アラタメ堂!


しかし、なるほど、幾ら完璧な戦略であったとしても、予期せぬ外因によってそれが崩壊することがあるのだと、ヒゲの男は随分と教訓を得た。


北浜人狼は珍妙で凄絶なる幕切れとなった。冷泉は画廊喫茶フレイムハウスで新料理の「コロマンサ」が食べたいといいだす、ヒゲの男は先発隊として冷泉と人見知りの大学生の男を連れて店へ移動することにする。アラタメ堂一座は片付けをしてから後で合流するとのこと。


店に到着すると、常連のガルパンの男から大正琴のチューニングを頼まれる。どうやら、どこからか2000円で入手してきたもので、状態は多少のキズはあるが良品である。


ヒゲの男の祖母も大正琴を弾いていたが、ヒゲの男がイタズラで、祖母の大正琴を正規のチューニングからインド音階のチューニングなどに変更すると、祖母は烈火のごとくに怒ったものである。


ヒゲの男は大正琴の代わりにと、ガルパンのスマホゲームの部隊編成の調整をガルパンの男にお願いする。実はヒゲの男も、先日アプリをダウンロードしたのだ。頑張ってレベルを20くらいまで上げた、早くレベルを99にしてガルパンの男に追いつきたいものだとの野心がある。


ガルパンの男のレベルは最大値の99だろうからとタカをくくっていたのだが、ヒゲの男がガルパンの男の情報を見てみるとレベル136であった。なにごとも先入観は良くないものである。


すると、誰か複数人が細い階段をのぼってくる音がする。アラタメ堂が指揮する後続部隊が到着したのかと誰もが思ったが、店のなかに入ってきたのはチェコのプラハから来た4人組の外国人である。


ヒゲの男が彼らから聞くところによると、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団の関係者であるという。


チェコ人の女が、ヒゲの男に訊いてくる。


「お前はチェコ・フィルハーモニーというのが何をしている組織なのか知ってるのか?」

「そんなことはもちろん承知だ」と、ヒゲの男は平然と折り返す。


本当かよ、デタラメで調子を合わせてるんじゃないのか?というような顔をチェコ人たちは苦笑しながらする。


「チェコ・フィルに関連する人の名前を知ってるか?」と、さらにヒゲの男に訊いてくるチェコ人の女。


「もちろんだ、冷戦時代に日本へやってきた、カレル・アンチェル指揮のチェコ・フィルの演奏は凄まじい名演だったようだ」と、ヒゲの男はさらに折り返す。


苦笑していた、チェコ人の年配の女の顔がカレル・アンチェルの名前を聞いた瞬間、驚愕に変わる。まさか、このような場所で今は亡きマエストロの名前を聞くとは思わなかった…、と早口に口走る。


ヒゲの男は俳優のトミー・リー・ジョーンズに似た、カレル・アンチェルがチェコ・フィルを指揮する白黒映像を若い頃に何度も何度も観ていた。昔にインプットした知識がこのようなところでアウトプットの機会を得るなんてと、なんだか嬉しくなった。


ここからはチェコ人は終始ご機嫌となり、ヒゲの男に酒を振舞ってくれる。そのころ、後続のアラタメ堂部隊が店にやってきて、さらには時を同じくしてヒゲの男と同郷のペーパーカンパニーの課長もまぎれこみ、店は足の踏み場もなくなる。


版画家の柿坂万作は多すぎる需要に対して、時間をかけながらもしっかりと客の胃袋を満たそうと供給をしていく。ほぼ、厨房から離れられない状態にあった万作は、さぞや疲れたことであろう。


冷泉がヒゲの男にアレを弾けという、アレというのは冷泉が大好きな「リトアニア舞曲」である。冷泉はことあるごとにヒゲの男にリトアニアを弾かせたがる、ガルパンの男はこの曲のタイトルを「アルバニアの踊り」と、ことあるごとに間違えて覚える。


吟遊詩人の女は、ヒゲの男からことあるごとに「カントリーロード」を歌ってくれといわれるが、こうしてヒゲの男自身にも鉢がまわってくるのは、世の中の因果が正当に機能しているからであろう。


しまいに冷泉はチェコ人に向けて、僕の腹を殴ってみませんかと参加希望者を募りだす。ところが、これには誰も応じない。チェコ人はこいつは何を言ってるのだ?と怪訝な顔をする。


当然である、誰しも外国へ行き、袋小路のようなバーに入りて、全身黒ずくめで半笑いの男から、「僕の腹を殴ってくれ」といわれて、気色のいいはずがない。その心中を察するやヒゲの男は面白くて仕方がない。


すぐにヒゲの男はスマホにて翻訳機能をたちあげ、以下の文章をチェコ語に翻訳して彼らに見せる。


「これは日本文化における最大級の歓待の作法である。日本の政治家が得意とする腹芸というものだ」


その翻訳文章を読んだチェコ人の男は爆笑しながら、その意図を他のメンバーに母国語で伝える。皆、一様にうなずきながら納得して、興味深そうに冷泉を見る。


アラタメ堂一座は隣の席に陣取ってオフィスでの人狼の熱が冷めやらぬまま、つづきを開始する。ヒゲの男と同郷のペーパーカンパニーの男がこの人狼に参加をするものの、すでに酩酊状態となっており、ゲームの序盤で排除されるもずっと手を挙げて参加を続けて、混沌としている。


その様は、脚気の調査のときに使われる、膝蓋腱反射そのものを見ているようであった。

チェコ人たちは帰り際に、ヒゲの男に何かオペラを歌ってくれという。ヴェルディをリクエストされたが、酔っているせいかヒゲの男には「乾杯の歌」のメロディーが出てこない。代わりにプッチーニの「誰も寝てはならぬ」のクライマックスを大声で歌う。


アッラルバ、ヴィンチェロー、ヴィンチェロ―!ヴィン、チェーーーーーロゥーーーーーッ!


店の窓を開け放していたため、ヒゲの男のお世辞にも上手とはいえない絶唱は外にも聞こえており、偶然にも店の前を通りかかったオーストラリア人から、グッドサインをもらう。数秒後にオーストラリア人は画廊喫茶フレイムハウス店内でビールをあおることとなった。


アラタメ堂一座からは、最終的に上仲とドローンを飛ばす廃墟マニアの男が残ることなる。夜も更けて、いちげんさんの広告デザイナーの男がやってくる。東京から出張で大阪に来ているこの男は、画廊喫茶フレイムハウスにとても懐かしいものを感じるという。以前は東京にもこういう場所が多々あったのだがと懐かしそうな目をしながら、白ワインをぐいぐいと飲む。


随分と深夜にも関わらず、また、いちげんさんがやって来る。


笛の妖精である。この男は常にリコーダーを持ち歩いているそうだ、一度、万作をコンビニで見かけたことがあるというのからして、妖精はこの界隈の住人なのであろう。


一緒に演奏したいというので、ヒゲの男はギターで伴奏しながら、妖精は天空の城ラピュタの「君をのせて」のメロディーを奏でだす。


次にヒゲの男がラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」のメロディをギターでそれとなく演奏すると、そのメロディに笛をかぶせてくる。


笛の妖精は足踏みオルガンにも興味津々で、何かのメロディーを弾きだす。


ヒゲの男はそのメロディーがベルリオーズの幻想交響曲に使用される「イデー・フィクス」のメロディーであることに気づいて驚いた。


次はヒゲの男の番である、ギターでストラヴィンスキーのバレエ音楽「春の祭典」の導入部のメロディを弾く。すると笛の男はしっかりと譜面通りのアクセントを口三味線で入れてくる。


笛の妖精はオルガンで、ヒゲの男が聴いたことのないメロディを弾きだす。これには参った、ヒゲの男は何のメロディなのかわからないと答える。


「ブラームスのピアノ四重奏曲第一番をシェーンベルクが管弦楽曲に編曲したのの、ピアノバージョンだよ」と、笛の妖精は答えるが、そんなもの10000人いて、運よく1人が回答できるかどうかというような選曲である。


笛の妖精は自身が小澤征爾と対面したときの話しをヒゲの男にしてくれた。


笛の妖精はもっとヒゲの男と音楽の話しがしたいと言ってくれたが、ヒゲの男は睡魔におそわれており、もう限界だと妖精に告げて帰ることとした。


笛の妖精はいう


「やっぱり、音楽っていいものだね」


ヒゲの男は、うなずきながら同意する。


「でも、好きすぎて身を滅ぼしてはいけません。適度な音楽との付き合いを今の僕は探っています」と、ヒゲの男は笛の妖精にいう。


笛の妖精は、少年のようなあどけない顔と、老人のような苦みのある顔を同居させたような表情を浮かべながら、「…そうだね、そのとおりだよ」と返答する。


ヒゲの男は、この妖精が楽園の地獄をのぞいて来た者だと、直感でわかった。




そういえば、チェコにはこういう民話がある。


水に住む妖精ヴォドニックは、美しい人間の娘に恋をして、娘を水の中に連れて行き、妻にした。


2人には子供も生まれたが、ある日、娘が「母に会いたい」というので、子供を置いて家に帰らせてやると、そのまま娘は二度とヴォドニックのもとへ戻らなかった。


怒ったヴォドニックは自分たちの子供を切り刻んで


娘の家のドアの前に置いた。


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by amori-siberiana | 2017-09-29 17:54 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北浜にて猫のひたいのように小さな店。画廊喫茶フレイムハウス(近日:Kunt Coromansa /クント・コロマンサに改名)を経営するヒゲの男、阿守のブログです。


雨模様の大阪の北浜。ヒゲの男はお気に入りの傘をさす。エリザベス女王ご用達のフルトン社の傘であるのだが、その特異な形状のために傘をしまいこむのが難しい。どうしてもシワがよってしまうのである、「女王陛下はこの傘をどうやって畳み込んでいるのだろうか…」などと、ヒゲの男は考えていたが、陛下本人に聞く術を持たないので考えるだけ徒労である。


さて、昨日のこと。


デザイナーの女が「柚子リキュール」を店に持ってくる。自身が行く焼き鳥屋で飲んでいるもので、とても飲みやすいのだそうだ。どうか店で使ってくれという。


「うーん、ワシ、こういうん苦手なんですわ。なんちゅうか、申し訳ない気持ちになるんです。お客さんからもろたお酒を、他のお客さんにお金とって出すいうことは、えらい気がひけてしまうてね。よかったら、そのままの値段で買い取らせてもらえんやろか?」


厨房でリキュールの瓶をながめながら、そういうのは版画家の柿坂万作である。万作は聖人君子のような瞳でヒゲの男を見る。


「どうか、万作さんのしたいようになさってあげてください」と、ヒゲの男も万作の意見に同意して、デザイナーの女にアドバイスをする。


デザイナーの女も快諾してくれ、いよいよ柚子リキュールは画廊喫茶フレイムハウスの完全なる持ち物となった。


しかし…。ヒゲの男はいつぞやの日のことを思い出す。


まだ、ヒゲの男がこの喫茶店の客だった頃、万作は客からもらったウイスキー「マッカラン」をそれなりの値段でヒゲの男に出していたのではなかったか。相手が女性だと、人の主義主張も変化するものなのかと、ヒゲの男は静かに苦笑する。まこと人間らしい。


つづいて、怪談作家の女が、大分のかぼすを手土産に店へやってくる。聞くところによると、隣のサロン喫茶フレイムハウスにも別の怪談作家がやって来るようで、今日はフレイムハウス行脚をするとのこと。常連のガルパンの男、常連の不思議な女も混ざっての怪談話しに花が咲くこととなった。


常連の不思議な女が、その落ち着いた声で話しだす。


「母の田舎、四国なんですけれど、そこに行ったとき田舎だから部屋も多くて広いの。そこで寝るとき、いつも夜は部屋の木目が人に見えてたの。だけど夜が明けて、どこのどの部分の木目が人に見えていたのか確認に行っても、見当がつかなかったの」


ヒゲの男も木目が人の目に見えていて、眠れぬ夜を過ごした経験がある。そういったとき、いつも母の胸をまさぐりながら怯えを殺して寝ていたものである。


怪談作家の女がいう。


「私は阿守さんが、いつぞや書いていた怪談話しがとても好きなのです」


「えっ?僕が…ですか?」


ヒゲの男には自身が怪談話しを書いた記憶がないので、キョトンとする。


怪談作家の女がこれまでに聞いた怪談のなかでもベストスリーに挙がるという、ヒゲの男の怪談を思い出しながら話してくれる。それはヒゲの男の実家にある、彼の今は亡き妹のピアノの話しであった。


そういえばそんな経験をしたことがあったなとヒゲの男は思いだした。なるほど、怪談といわれれば本人にそのつもりはなかったが、確かに怪談であろう。ヒゲの男の母親は妹が帰ってきていると気がついたときの話しである。


怪談作家の女が隣のフレイムハウスへ行くのと交替に、ギャラリーの女と版画家の女、そして絵描きの男がやってくる。万作の新作料理「コロマンサ」を突きながら、この料理を絶賛する。


後から入ってきた、トレーラー運転手の男と、忙しそうな男の二人組もその様子を見て啓示を受けたのか、「コロマンサ」を注文する。


万作は新料理コロマンサのインスピレーションの源泉がハイタッチの男こと冷泉や、会計事務所オーナーの男であることを語りだす。腹の殴り合いを起因とした、文字どおり腹を痛めて生まれた料理なのである。


そして唐突にはじまる、絵しりとり。サムネイル程度の大きさの絵を描いて、それが何を描いているのかは伏せたままで、しりとりをするというものだ。ヒゲの男も多少なりとも絵心があるのだが、対戦する人間がデザイン関係の人間ばかりなので、自分の描く絵がひどく稚拙にみえて、恥ずかしい思いをする。


隣のフレイムハウスでのイベントを終えて戻ってきた怪談作家も加わっての、絵しりとりは延々と続いていく。


デザイナーの女が帰宅するを境に中断された絵しりとりのあとは、怪談作家の女の主人が現代芸術の収集家だということを発端に、現代芸術の話しとなる。とにかく家に収まりきれないほどの作品が家にあるとのことだ、もし泥棒がその家に入ったとして、その中から何を持っていくのか泥棒の芸術的審美眼や慧眼に興味があるなと、ヒゲの男は不謹慎なことを考えながらニヤつく。


そういえば、怪談作家の女がこんなことを言っていた。


「私が怪談を愛するのは、それが、あの世の存在と、この世の存在の境に位置するという特性をもつからです」


先日、照明屋のテリーという男からヒゲの男のところへ唐突なメールがあった。(この男はいつも唐突なのだが…)


「芸術とは、もっとも美しいウソである。これは誰のことばだったか?」という内容であった。


もちろんのこと、これは作曲家のドビュッシーのことばであることをヒゲの男はテリーに伝えた。ドビュッシーのいう芸術とそうでないものの境、ウソと真の境はどこなのであろうかと…。ヒゲの男は怪談作家と不思議な女がクリスチャン・ ボルタンスキーの話しをしているのを聞きながら、ふと考えていた。


芸術と芸術でないものの境について、えらく古いインタビューで、偉大なるルノワールの息子が興味深いことを語っていた。


ここに書き出すと、注釈も入れて長くなるので書きはしないが。そのことば、ヒゲの男に確かな何かを与えてくれるものであった。


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by amori-siberiana | 2017-09-28 14:13 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、この世の天国と奈落を体現したような町、北浜にて猫のひたいのように小さな店。画廊喫茶フレイムハウス(近日、Kunt Coromansa /クント・コロマンサに改名)を営むヒゲの男こと阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの男は朝のうちに南船場のパン屋「き多や」へ行く。いつものようにバゲットを買い求め、おすすめのパンを女店主からすすめられて、それも一緒くたにして買う。ヒゲの男はどちらかといえば日和見的な反体制派であるが、美味しいといわれるものには、ひどく従順である。


最近、ヒゲの男の頭には数字ばかりが浮かんでいる。これはひとつにはヒゲの男が出納帳とにらめっこを始めたからというのも大きな要因だが、とにかく数字にさいなまされて眠れないことが多々ある。オイラーやフォン・ノイマンのように数字に魅せられているわけでは決してない。


例えば、画数である。先日、占い師の女から店の名前の画数としてよかろうと言われたときから、ヒゲの男は町を歩いて他の店の看板を目にしては自然に画数を気にするようになった。その昔、バルザックという作家は自身の作品に登場する人物の名前がどうも作為的でしっくりこないので、パリの街中を歩いて看板にかかれた名前をそのまま引用したそうだ。


「マツモトキヨシ…、19画か…、漢字にして松本清にしたら…、なるほど、やっぱり24画か」などと、詮無いことを気にしては歩みを止めるので、どこへ行くにも牛歩のようになる。


次には音楽の拍子のことである。賢明なる音楽家諸君は最初に4/4拍子だとか、3/4拍子だと決めれば、そのまま一曲のあいだはその拍子を絶対のルールとして守る。ところが、たまによくわからない音楽家が出てきて、ドタバタした拍子の曲を作って面白がってる不謹慎なのがいる。


例えば、SIBERIAN NEWSPAPERというバンドの「VETRO」とか「URBAN LANDSCAPE」などという輩である。


後者は12/8拍子と9/8拍子が交互にやってくるのだが、これがなかなか難しい。曲調が緩やかなぶん、さらにややこしくなってくるのだ。


なら曲調が激しければいいのかといわれれば、そうでもない。前者の「VETRO」という曲の中間部には、ところ狭しと地雷のように5拍子と6拍子が並べられている。


「6666 556 5565 656 5556 555 5656 555 3」だったであろうか、ヒゲの男は先日この曲を演奏したが、暗記するまでにやはり時間がかかった。


そして、次にやってくるのがアハハの女の曲だ。この女の曲には「赤い風船の遭難」とか「色眼鏡」とかいう、けしからん曲がある。ヒゲの男はそれを必死で暗記するが、どこかで前述の「VETRO」とごっちゃになりそうで怖い。


赤い風船の遭難

5556 5556 6565 6566 5556 5556 5556 6565 6566

色眼鏡

5555 5556 6655 6655 6655 6655 6666 6666


何度も何度も練習して呼吸する箇所を体得していないと、ずっと息を止めながら弾かされることになるであろう。


やっとのことで把握したら、次にやって来るのがイベント日程が一番近い吟遊詩人の女の曲にもそういうのがある。


6666 5555 5556 6666 6666 5555 5557 6666 6666


それにプラスされて、万作が仕入れ代を使って「うどん・どん兵衛」を198円で買ったとか、巻き寿司を自分用に買ったから398円を引き算しなくてはならないというようなことが起こり、ヒゲの男の頭は数字に支配されているのである。


もしもイベント中にヒゲの男がおかしな拍子を弾きだして、共演者を困惑させるようなことがあれば、それはヒゲの男の脳がショートして、万作の買い物の値段の数字で拍子を取っているか、はたまた、字画と混同して曲の拍子をとっているかのどちらかであろう。健闘を祈る。


夜になり、青いカーデガンの女がやってくる。


「阿守さん、ギャラリーのオーナーから伝言があります」という。


ギャラリーの女というのは、言わずもがなスパニッシュ建築の青山ビルに20年以上陣取って指揮を執る「遊気Q」を経営する女のことである。ヒゲの男たちはそこを北浜のクリニャンクールと呼んでいる。


青いカーデガンの女から伝言を聞き終えたヒゲは版画家の柿坂万作にウイスキーをストレートで注文する。


「あっ、それと…」と、思い出したように青いカーデガンの女はただならぬ、次のことを言いだす。


「お店に適した字画なんですけれど、間違ってるかも知れないとギャラリーの女が言ってました」


ヒゲの男は「今さら!?」と口にして唖然としながら呆ける、万作は厨房で爆笑をする。それを見て青いカーデガンの女は口に手をあてて、うつむき加減にニヤニヤする。もうここまで来たら何をやっても自然に転がっていくであろう、人事は尽くした、あとは天命ならぬ店名を待つばかりである。


少しすると吟遊詩人の女がハープ(竪琴)を重たそうに持ってくる、今日は今月30日のイベントに向けたリハーサルをヒゲの男とする日だったみたいだ。


常連のガルパンの男もやってきて、店のカウンターにある「ガールズ&パンツァー」のカードゲームを見つける。これはアラタメ堂のご主人の懇意によって拝借してきたものであるが、どうやらガルパンの男の食指はそそらなかったようである。


続いて、履歴書の女とピンクっぽいメガネの女がやって来る。この女たちは来店から退店までずっと二人で喋り続ける。世の中、それほどまでに語りつくせぬ想いがあるのかと、こちらが感心するほど喋る。


吟遊詩人の女が持ってきた、東京ディズニーランド土産の成田山の羊羹という、チョイスのよくわからない甘味を皆で頬張りながら、万作が淹れてくれた茶をすする。


茶をすすりながら、ヒゲの男は千利休のことばを思い出す。


家は洩らぬほど、食事は飢えぬほどにて足ることなり


こうして誰かがふいと現れて、甘いものを持ってきてくれ、絶妙なところで茶が運ばれてくる。ちらほらと適当に音曲を奏でてみては、愉快な心持ちになる。案外、ここはいいところだなとヒゲの男は感じた。


そんな折、ゴガっと締まりの悪いガラス戸が開き、いちげんさんのオーストラリア人がやってくる。とにかく日本で仕事ばかりしているので、来月は休暇を取ってフィジーで水中に潜り、槍で大魚を突くのが楽しみだそうだ。彼らは地球を満喫しているなと、いつもそういう欧米人の感覚にヒゲの男は感心するのであった。


で、結局、吟遊詩人の女はオーストラリア人の前でカントリー・ロードを歌わされる羽目になるのである。彼女はまた恐縮しながらもカフェオレ代をせしめた、払ったのはオーストラリアの男ではなく、なぜか、日本語が通じて段取りのわかっているガルパンの男だった。


夜も更け、そろそろ店を閉めるかという頃。スコットランド人の男が二人やってくる。


エジンバラに住んでいるとのことだ。ヒゲの男はエジンバラに滞在していたとき、バグパイプを買うか、それとも吟遊詩人の女が持つようなハープを買うかで悩んだ。どちらも欲しかったが、経済的な側面からどちらかしか買えなかったのである。


当時、KORNのジョナサンがバグパイプを抱えながら、悠然とステージにあがってくる様がクールだと感じていたヒゲの男は悩んだ末にバグパイプを買った。


もちろん、今ではタンスの肥やしである。


ヒゲの男は近い将来、スコットランドに移住するつもりであることは、20代の頃から名言している。生まれた国で死ななければいけないという法もなかろう。ただ、近い将来がなかなか来ないだけなのだ。エジンバラの駅に到着した瞬間、ここが自分が追い求めていた地だと震えたのは、今でも冷気にふれた肌が覚えている。


曇り空の北浜、外ではあちらこちらで色とりどりの傘が、その紋様を見せびらかしている。その鉛色に曇った空は、ヒゲの男がエディンバラ郊外の北海と繋がる入り江からみた、寂しくむせび泣くような空に似ている。スコットランドには面白い格言がある。


困っている相手を助けてあげても、またその人が困ったときに、あなたの名前が出てくるだけだ


本日、万作特製の筑前煮が、店にあるようだ。


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by amori-siberiana | 2017-09-27 13:23 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北浜を大阪から独立させて太陽と月に背こうと目論む、イカれた奴らが集まる猫のひたいのように小さな喫茶店。画廊喫茶フレイムハウスに巻き込まれている阿守です。


夏の名残りもなくなったと書いた翌日から、熱波が凄まじく、おいそれと余計なことを早合点して書かないほうがいいなと感じたヒゲの男。先日、東洋の魔術師の魔術に貫いてもらった部分のコリがなくなったと思ったら、次は他の部分が釈然としない鈍痛を起こす。

そもそも鈍痛を起こしていたが、先駆者の痛みがあったおかげでそれが隠れていただけなのか、それとも新たに発生した痛みなのかわからないが、とにかく何もしてなくても身体に疲労感が蓄積されるのは困ったものである。


さて、昨日の昼のこと。


ランチの時間に階段をのぼり、猫のひたいのように小さな店に入ると、常連の何も喋らない男と、いちげんさんの何でもする男がすでに来店していた。版画家の柿坂万作が厨房に入って何でもする男がオーダーしたであろうオムライスを作るため、ガーガーやっている。


「あ、ご無沙汰しておりました。お元気そうで」と、ヒゲの男は何でもする男に一礼して握手を求める。どうやら、この二人は旧知の間柄のようである。


「阿守くんも変わらないね、幾つになった?」と、何でもする男はヒゲの男に聞き返すあたり、ヒゲの男よりも年上なのであろう。ヒゲの男は自身が39才になっていることを伝えた。


ヒゲの男と何でもする男の関係は、今から15年くらいも前にさかのぼる。


当時、楽器を持ち抱えてヨーロッパ放浪から戻ってきて外国ボケしていたヒゲの男は、かの地でカード破産しかけて帰国していた。そのために自分が使った金を支払うためにレンタルビデオ屋で必死に働きながらもバンドを続けていた。


国内で大した活動はしていなかったが、運と楽曲がよくメジャーレコード会社の人間の目にとまった。話しはアレよアレよと展開して、とんでもないプロデューサーやプロモーターと組んでCD製作に取り組むこととなった。異例中の異例である。ほんのちょっとだけ薬物中毒者だったヒゲの男は、これを機に改心を誓った。簡単な話し、ドラッグでボケてる暇ではなくなったのだ。


ところがCDを製作するにしても、ライブをしてみて客が来てるのかといえばそうでもない。まあまあの大きさの会場でライブをして無理やり満員にしてみるが、結局のところそれは知人縁者に頼っているだけなのである。どうすれば見たこともない、会ったこともない人がライブに来てくれるようになるのだろうか…。ヒゲの男は考えたが、どうもアイデアはさっぱり出なかった。ポスティングでもするか?なんとバカバカしい、完全な徒労である。


そんな折、とんでもない情報がヒゲの男に入ってきた。


なんと大手のFMラジオ局が完全無名のヒゲのバンドの音源を気に入り、一か月の間、ことあるごとにそこのラジオ局にて、ヒゲのバンドの曲が流れるというパワープレイの候補に入っているのだという。


たった15年ほど前であるが、当時はラジオがイケイケドンドンの時代だった。


パワープレイの競合相手は誰なのかをこっそりレコード会社の人間より教えてもらったが、今年同じようにデビューをする「東京事変」というバンドの曲だそうだ。格好いいバンドの名前である。ところが、そんなバンドをヒゲの男は聞いたことがない。


渡された資料を読んでみると、ボーカルが椎名林檎という女である。勝てるわけがない。期待だけ持たされて、この様かよとヒゲの男は絶望したが、蓋を開けてみるとパワープレイに選ばれたのはヒゲの男の曲であった。これには驚いた、天地がひっくり返るくらい嬉しかった。


それ以降、当時のラジオの力は凄まじいもので集客に困ることはなくなった。ライブをすればするたびに客が増えていったのだ。


と、そんな勇気ある選択をしたラジオ局の当時のプロデューサーが、今、ヒゲの男の目の前にいる何でもする男であるのだ。ヒゲの男の両親はパワープレイが決まった次の日には、ラジオ局にしこたま讃岐うどんを贈ったという。音楽なんてやめようかという瀬戸際にこうしたことがあったのだ。


何でもする男は自身がプロデューサーをするラジオ局が他社に買収されるキッカケで退社し、今は何でもビジネスにする仕事をしているそうだ。とかく手が足りないのだとヒゲの男にいう。


こういう仕事があるけど興味はあるか?と何でもする男がヒゲの男に両手にあまるほどのビジネスプランを披露するが、ヒゲの男は「いいですね」と返答はするものの、あまり合点がいっている様子ではなさそうだ。


「あとは…、NASA関連の仕事くらいかな」と、何でもする仕事屋の男が口にした瞬間、ヒゲの男が食いついた。


「それ!それ!やります!」と、ヒゲの男は一気にヒートアップする。ヒゲの男に宇宙関連事業の話しをするのは、猫にまたたびと同じである。


「やっぱり、宇宙いわれたら、阿守さん食いつきよりましたな」と、厨房の万作は笑いながらその様子を見ている。そして自身も宇宙には興味がないが、物理法則には興味があるのだと、まったく誰も求めていない主旨の話しを結構長くする。


何でもする男は万作の話しのあいだコーヒーを退屈そうに飲み、ヒゲの男は右手でヒゲを抜き出す。万作はその二人の所作など目に入らぬかのように、「宇宙の法則いうたら、これは、えらい恐ろしい話しですよって、ほんまにあの数式であっとるんかと、ワシは思うんです、これってなんかの陰謀ちゃうかとかね」というような話しをずっとする。


万作のご高説は終わり、ヒゲの男はNASA関連の仕事の委細資料を見させてもらいながら、それをメモする。


さて、先日、寝すぎて朝方まで眠れず、結果的に寝不足になっているヒゲは何でもする男と別れたあと、北浜のオフィスで仕事をしたのちに店へ戻ってきて、ごろりと横になる。

月曜日の平日である、どうせ早い段階では客など誰も来ないであろうということをヒゲの男と万作は話しあっていた。ヒゲの男が店のなかでゴロリと横になり、万作はベランダの植物に水をやりに行こうとしたとき、階段を誰かがのぼってくる音がする。


万作がいう、「残念、お客さん来てしまいよりましたな」と。


階段をのぼりながらその万作の会話を聞いていた常連の洒落た名前の女は、「客が来て残念がるこの店は、いちげん殺しか」とボヤく。まったく不謹慎極まりない二人の経営者であり、洒落た名前の女の言うとおりである。


少しすると、10月7日にこの店でイベントをするアハハの魔女がやってくる。今日はリハーサルをする日なのである。常連のガルパンの男、常連の不思議な女、そして上仲とそのパイセンの美容師の男がやってくるが、ヒゲの男とアハハの女はまったく構わずに曲のリハーサルをする。それを気にする客はここにはいなかったのが救いである。この絶妙なバランスのアバウトさこそ万作の作り上げた世界観でもあろう。


ヒゲの男とアハハの女はそこから5時間、延々と納得するまでリハをすることになった。


途中、万作特製の中華そばが出てきて手が止まるが、それ以外はずっと弾きっぱなしであった。こういう疲れかたは久しぶりの感覚だと、ヒゲの男は自身が音楽をしていた数年前の感覚が胸の内に蘇ってくるのがわかった。


アハハの女とリハーサルをしながら、ヒゲの男は自身が音楽をはじめた理由を考えていた。


女性にモテたかったからなんてとんでもない、音楽などせずともヒゲの男はモテていたのだ。美を完成させたかったからとも違う、ヒゲの男の場合は美は行為に先立つものではなく、いつも行為の後からついてくるものであった。そして自分が感じる美しさというのは、常に他者からの価値観に追随しているということをヒゲ自身よく知っている。


ということを総括してみれば。


ただ、早く自立したかったからに他ならない。冒険をしたかったのだ、金はなく暇と野心はある、そんな人間にとって音楽は夢中になるに絶好のマテリアルだった。ヒゲの男は以前よりも、ほんの少し音楽が好きになってきている自分を発見した。


万作特製の中華そば、これは絶品であった。アハハの女も万作がどんぶりを片付けようとしても、スープを飲み切っていないので名残惜しそうに丼を手元に置いたまま片付けるなという。


変な奴ばっかり。


そう、青山ビルのギャラリー「遊気Q」では版画家のおおしろ晃と、画家の横山進の作品展をしている。どちらの作家の作品も良いのはさることながら、ギャラリーにおける作品の配置もよく、暇な時間があれば是非とも冷やかしがてら立ち寄っていただきたい。


ここのギャラリーの居心地のいいところは、作品を買う気が一切なくともとも長居ができることである。こういう場所は大切にしておきたい。


ちなみに皆さんはご存知だろうか、画廊喫茶フレイムハウスに飾ってある版画は全て売り物であることを。ヒゲの男は万作より聞かされて昨日、初めて知った。


今、製作中の壁画は2億円だそうだ。


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by amori-siberiana | 2017-09-26 16:14 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北浜にある猫のひたいのように小さな店。画廊喫茶フレイムハウスをどうにかするために地獄から遣わされた阿守と申します。


画廊喫茶フレイムハウスは版画家の柿坂万作さんが経営する喫茶店。閑古鳥と借金鳥を飼いならしていた鳥の調教師として超一流の万作さんから、白羽の矢をたてられてヒゲの男が今夏より共同経営に乗り出すことになりました。


このブログはそのヒゲの男からみた、画廊喫茶フレイムハウスに関わる人たちの熱き血潮がほとばしる人間ドラマの記録である。話しを盛っているようで、その実、全然盛っていないのが北浜という町の底知れぬ恐ろしさである。


さて、昨日のこと。


ヒゲの男は昨夜の深酒も影響してか、どうにも体調が優れない。どこが痛いというわけでもなく、熱が出たという類でもないのだが、とにかく動く気になれないのである。頭もさっぱり働かない、ヒゲの男は自身が寝不足であることに気がついた。


「こうなれば、とことん寝るしかなかろう」と、決めてかかったヒゲの男は朝9時に起き、そのまま昼の11時半まで眠る。12時からはイベントの予約があるので、うんとこどっこいしょとパソコンを起動させるために起きる。


そして13時ころから再び寝る…。


つまり、昨日は何もできやしなかったのである。


テレビでは今より40年以上前の日中外交を特集しており、「葉剣英」なる人物の名前が出ていた。


ヒゲの男はこの葉剣英なる男の名前をどこかで聞いたことがある。そう遠くない昔のことだ、そして、そうだ!と思い出した。


ヒゲの男が以前、ビジネスをしていたとき、この葉剣英の名前をかたった詐欺師(中国人ではなく北海道の人間)に莫大なる全財産を搾取された、南の島出身の男と知り合ったことを思い出した。


情報の少なかった時代のことである。その詐欺師は逮捕されることとなったが、金は返ってこなかったのだと、ダマされた男は嘆いていた。


だからどうしたと言われればそれまでで、特に何かを伝えようということはない。


大物の名前や存在をチラつかせる詐欺師があなたの周囲にいないだろうか。一度、画廊喫茶フレイムハウスへ連れてきていただきたい。酔わせておだてて、上機嫌にしたのち、身ぐるみを剝いで剝製にするのだ。


詐欺を見抜くのは、どれだけ古今東西の詐欺の案件を知っているかどうかに起因するものである。詐欺の世界だけは精通しているものが強いのである。ヒゲの男はその点においてはプロフェッショナルである。


喫茶店の利用方法は、無限だ。


そしてなにより、書くことがなくて申し訳ない。昨夜は店にいなかったので、何が起きていたのかまったく知らないヒゲの男であった。
万作さん、いつもご苦労様です。

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by amori-siberiana | 2017-09-25 17:16 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北浜にある猫のひたいのような小さな店。画廊喫茶フレイムハウス(※10月中旬よりコロマンサに改名)の阿守です。


ようやく夏の名残りも感じなくなってきた今日この頃。つい先日まではセミの求愛行為が耳を騒がせていたのが、今ではさすがに恋も途絶えたか、めっきり聞かなくなる。人と人の恋の期間は長いほどもてはやされたりするものだが、セミが己の命を賭する一瞬の恋もなかなかのものである。


さて、昨日のこと。


ヒゲの男は千日前通りを南に進んだところにある、道具屋筋にて新しい店の暖簾を下見しながら、店に行くことになる。途中、北浜駅のホームで偶然にも星師匠と一緒になったので、そのまま連れ立って店まで行く。


画廊喫茶フレイムハウスの三階に住む版画家の柿坂万作には、絶対に譲れないことがあるという。それは、自分が追っかけをしているマンガーソングライターの女がライブをする日には、それを熱心に観覧するということである。版画家にとって、彼女の存在はこの世にひとつしかない太陽の光と、ブラックホールのような抗いがたい求心力を持つようである。


この日もマンガーソングライターの女がライブをする日なので、画廊喫茶フレイムハウスは19時から21時まで休みということになっていた。が、ヒゲの男はそれならば自分が店を切り盛りしておくので、その時間は任せてくれればいいと胸を張った。


ところがヒゲの男は何もできない。ギターを弾いたり、ビジネスの話しをするのは得意だが、料理はおろか飲み物を作ることすらできない。もちろん、来店者が皆一様にウイスキーのストレートを頼むのであれば、それは対応できるのだが、なんだかやる気が起こらない。


以前、マンガーソングライターの女がライブをするときには、ヒゲの男に宇宙のなんたるかを教えた星師匠なる女が、万作よりコーヒーの淹れ方を教わったり、なにが厨房のどこにあるのかを教えてもらい万作の代役をこなしていたので、今回も星師匠にお願いすることにしたというわけだ。


ヒゲの男と星師匠が店の前までくると、一人の女が困ったような顔をして、キョロキョロしている。ヒゲの男はその顔に見覚えがあった、万作のアトリエの写真たての中に入っている顔である。


そう、マンガーソングライターの女である。万作の女神。


どうやら隣のフレイムハウスでの演奏なのだそうだ。つまり、版画家の柿坂万作は店を留守にして、どこへ行くのかと思えば、歩いて3歩の隣に客として神妙な顔して座っているというだけなのである。


ヒゲの男がマンガーソングライターの女に声をかける。


「マンガーソングライターの人ですよね、今日はどうされたのですか?」


「いや、今日ここで演奏なんですけれど、お店に入れないので…」


「僕は隣のお店を万作さんと一緒にしているものなんですが、よければお店で待ってみてはどうでしょう」


「そうさせてもらましょうか」と、素直にマンガーソングライターの女はいう。


三人で赤いカーペットが張られている15段の階段をのぼる。店には万作がグラフィックデザイナーの男にビールを注いでいた。


「おっ、阿守さん、こんばんはです」と、調子のよい掛け声が万作から放たれる。


ヒゲの男に続いて、星師匠が入ってくる。


「ああ、今日はホンマにすんません。ライブの間、よろしくお願いします」と、万作は星師匠に礼をいう。


「今日はもうお一方、ここへお連れしているのですが…」と、ヒゲの男はいう。


「ふうん…」と、万作はどちらにもとれるようなアンニュイな返事をする。


星師匠に続いて、万作の女神であるマンガーソングライターが入ってくる。


「うおっ!!!?なんで!!!?」と、万作が驚嘆の声をあげる。


ヒゲの男と星師匠はその反応が面白くてたまらない。グラフィックデザイナーの男もニヤニヤする、この辺では万作が彼女に首ったけだということを知らぬものは、いないのだ。

そこから万作は妙にそわそわして落ち着かない様相を呈す。厨房に入っては出てきて、カウンターに入っては出てきたりする。


マンガーソングライターの女は自身の音楽的なルーツが両親のクラシック音楽にあることを教えてくれた。彼女の母親は声楽を学んでおり、その折に朝比奈隆先生から褒められたことがあるのを、自身の誇りとして娘に語っていた。


隣のフレイムハウスが開いたという知らせを受け、マンガーソングライターの女はビールを一杯ほど飲んで出て行ったが、万作にとっては至福の時間であろうことは、その隈取ような目の奥にある瞳の輝きでわかった。


万作が自分の店にステージを作った理由。それはたったひとつ、彼女が自分の店で歌ってくれるその日をただ待ち望むがためであった。


ヒゲの男はウイスキーを飲みながら、エドワード・リズカーニンという男と万作を並べて考えていた。


エドワードは、愛する女性のためにコラール・キャッスル(サンゴの城)を一人で30年近くかけて建て、そしてずっと彼女がやって来るのを待っていた男である。


そこから洒落た名前の女がやって来て、先日、自分が店に持ってきたチョコレートでホット・チョコレートを作ってくれという。二枚あったチョコレートのうち一枚は前日にヒゲの男と冷泉、そして水タバコの男がバクバク食べてしまっていたので、残りの一枚で作ることとなった。


洒落た名前の女にホット・チョコレートと冷やし中華という珍妙なるコンビネーションの夕食を提供したあと、万作は隣のフレイムハウスへ宣言どおりに出掛けていく。


常連のガルパンの男がやってきて、ヒゲの男が何もせずにただウイスキーを飲んでることを糾弾するが、ヒゲの男は平然としている。


そして常連の不思議な女がやってくると、ガルパンの男が不思議な女がいつも注文する白ワインをグラスに入れて、厨房から運んでくる。星師匠は延々と厨房でグラスを洗いまくる、ヒゲの男がグラスから異臭がするといいだしたからである。


万作がいないあいだの店は調和が崩壊するかとも考えていたが、なんのこともなく新たな調和によって普通に進行していくのであった。


店には洒落た名前の女のリクエストによって、シベリアン・ニュースペーパーというバンドのCDが古い順から次々と大きな音で再生されている。


そういえば、夏の万作祭をした初日、久しぶりに再会した人たちが客としてきてくれ、メニューもない店で何が作れるのかをメモしてくれたり、他の客へ伝達してくれた。そういった支えがあってイベントは無事に進行していったことを、ヒゲの男は誇りに感じている。


実は店を救っているようにみえて、自分自身が救われているのではないだろうかと、そんなことを感じるヒゲの男だった。ただ、彼はその安心感からか見事に酔いつぶれて、早々に店を後にするのであった。


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by amori-siberiana | 2017-09-24 14:20 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北浜にて猫のひたいのように小さな店。画廊喫茶フレイムハウスというフィットネスジムを営んでいる阿守です。


さて、昨日のお話し。


この喫茶店にて何をするでもなく誇大妄想を持ち抱えてレトロな赤い布で覆われた椅子に座り、人を酒に溺れさせて、また自分も溺れかかっているヒゲの男が昼前には、陽気な顔をして店内用のスリッパを買いに行く。


どうやら昼のランチの時間に、同郷の友人であるペーパーカンパニーの課長が来ていたみたいだが、遭遇せずに終わってしまう。友人はペーパーカンパニー、ヒゲの男はシベリアン・ニュースペーパーと、紙とは縁があるようだ。


実際、ヒゲの男も会社をしていたときには、シンガポールを経由してタイ王国にペーパーカンパニーを設立していたが、それも今ではどうなっていることやら。どうでもいい話しである。


ヒゲの男は「画廊喫茶フレイムハウス」を近日中に改名するため、少し遅れて店に向かい、そこで版画家の柿坂万作、そしてグラフィックデザイナーの女という三者でミーティングをする。


どうやら新しい店の名前は【コロマンサ】になるのだとのこと。版画家の万作が決めたまことに珍妙なる屋号であるが、ヒゲの男はなかなか気に入っている。


正式名称は:クント・コロマンサ(kunt Coromansa)。


「kunt」というのはオランダのことばで「缶詰」を意味する。「Coromansa」の意味は知らない。


ヒゲの男がとかく日和見的に画数をこだわるものだから、難航したのであった。屋号について確固たる信念がないヒゲの男のような者にとって、その部分を明確に何画にするがよかろうと占い師から託言をもらうと、なまじ解らぬままでも妄信するものである。


名前の由来であるが、これは簡単。


クントコロマンサクントコロマンサクントコロマンサクントコロマンサクントコロマンサクントコロマンサクントコロ【マンサクントコロ】マンサクントコロマンサクントコロマンサクントコロマンサクントコロマンサクントコロマンサクントコロマンサクントコロマンサ


という、訳である。


夜になると唐突に、ヒゲの男のこれまた同郷の友人だという寿司屋の孫の男がやってくる。何年ぶりの再会であろうか、数えるのに両手の指で足りるかどうかは解らないので、やめる。


「私はね、この男には何をやっても勝てなかったんですよ」と、寿司屋の孫はヒゲの男を指して、来店しているデザイナーの女にヒゲの男との昔話を開始する。


「なんでもですよ、将棋もそう、自転車の手放し運転もそう、勝てなかった」


そういえば遥か昔、寿司屋の孫とヒゲの男は自転車を手放し運転でどこまで行けるのか競い合ったことがある。距離は15キロほどの道のりであろうか、四国を横に貫く国道11号線に沿って自転車は走りだすが、交通量の多い国道では、それに比例して信号のある交差点も多い。


よせばいいのに、両者は「意地っ張り」という一点だけやたらに共通していたのであるから、よせといわれてよすはずがない。


ヒゲの男は寿司屋の孫に負けて、死にたいような気分になるくらいなら、自動車にぶつかって死ぬほうが良かろうと、自転車を手放しのまま走らせて、信号をことごとく無視していった。


ヒゲの男は確かに寿司屋の孫に勝利したが、また同じように寿司屋の孫も勝利したのであった。逃げるが勝ちというではないか、物事の勝敗の行方など、ものの見方ひとつで変わるものである。退いて勝つという孫のスマートな選択に、これまたヒゲの男も嫉妬していたのであった。他人からみれば、どっちもどっちであろうが当人たちにしてみれば、これは重要なことなのである。


さて、常連のガルパンの男、不思議な女、グラフィックデザイナーの男もやってくる。不思議な女もルーツは香川県にあるとのことで、店の話題は「うどん県」の今後の展望について語られることになった。


「うどん県という名称が全国的に認知されたことによって、それ自体は成功だったでしょう。ところが、香川県というのは他の特産品もあるわけで、そちらに外からの目がいかなくなったのです」と、説明するのは寿司屋の孫。


来店者の一同がそれに賛同して、それぞれに意見を出しあう。万作は厨房でガチャガチャやりながらオムライスを仕込んでいる。


そこへ、ギタレレの女と箸の使い方が上手そうな女がやってくる。この二人は貴重な週末をこの店で過ごすのだと、前の日から決めてわざわざ来てくれたのであるから、頭が下がる思いだ。


さらに東洋の魔術師がやってくる。魔術師は鍼灸の専門家であるのだが、名字が寿司屋の孫と同じ。どうやら自身のルーツは香川県にあるというのを魔術師は告げる。昼も夜も香川県人会のようになった金曜日だ。


ヒゲの男は先日、ギターを弾いてから腕、肩の疲労感が凄いということを魔術師に伝える。魔術師はその魔術を用いてヒゲの男に取りかかる。ヒゲの男の体に何かが突き刺さっていく。周囲からは悲鳴があがるが、この悲鳴は恐怖というよりも好奇心から出る類のものであろう。心底、ヒゲの男の心配をしているものなどいないのは、すぐわかる。


ちょっと、文章的にことば足らずな説明になっているが、世の中には法律というものがあることをご理解いただきたい。いろいろと面倒なことがあるのだ。


泊まれ泊まれと食い止めるヒゲの男の制止を振り切って、寿司屋の孫は店をあとにする。今日はのんびりした日になるなとヒゲの男は考える。


ノシ、ノシ、ノシ…。


とてもゆっくりと階段を誰かが店の階段をのぼってくる音がする。


ゴガッと締まりの悪いガラス戸が開き、入ってきたのは泥酔した冷泉であった。そしてそのすぐあとに水タバコの男が入ってくる。今日は家に水タバコを忘れてきたとのことなので、ただの男である。


三人はテーブルを囲んで、ニワトリが先か卵が先かのような話しを延々とする。水タバコの男は、この近くで自分の経営する会社の社員連中と一緒に打ちあがる予定であったが、社員の待つ店に行ってみると、店に自分の席がなかったので仕方なく画廊喫茶フレイムハウスへ来たそうだ。


持つべきものは、よい社員である。ヒゲの男はその出来事をきいて、腹を抱えて笑う。


そのあと、水タバコを忘れた男の細君が店にやってくる。宴は盛況となり、細君は冷泉のアドバイスに乗っかるかたちで、自分の主人、冷泉、ヒゲの男、そして最後に版画家の柿坂万作を次々と殴り飛ばして帰宅することとなった。


冷泉はいう


「阿守さん、僕、命削って、ちゃんこ鍋を作りたいです」


「参加者からお金はいくらくらい徴収しますか?」


「いえ…、そういうんはいらないです…、ただ…」


「ただ…?」


「ただ…、来ていただいた皆さんには、あっ、これ死ぬん違うか?いうくらい酒飲んで欲しいです。ワハハハハ!」


10月28日の土曜日、この猫のひたいのように小さな店にて、【冷泉さんのちゃんこ鍋を囲む会】が開催されることとなった。


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by amori-siberiana | 2017-09-23 14:15 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北浜にある猫のひたいと各種ガラクタが共存して、押し合い引き合いをしている喫茶店。画廊喫茶フレイムハウスの阿守です。


ブログの更新が滞りまして、このブログを読んでくださっておられるグルーピーな皆さまに深くお詫びを申し上げます。ギターの練習が立て込んでおりまして、なかなか時間の段取りを組むのが下手っぴですのでお許しください。


さて、話しは木曜日のこと。


北浜にあるオフィスに朝からこもり何やら企んでいたヒゲの男。今日はこのオフィスで同僚の起業プレゼンがあるというので、店に行くのは夜遅くになってからだろうかと考えていたが、一度、店に顔を出してからオフィスへ引き返せばいいかと外出する。


以前、画廊喫茶フレイムハウスを共同経営する版画家の柿坂万作より、何度かこういうことばを聞いたことがあった。


「あれぇ、おかしいな、なんか店のお金が一万円、足らんのですわ。何者かが忍び込んだん違いますやろか」


「あれぇ、おかしいな、なんか店のビール樽がカラになっとる。何者かが忍び込んで、すり替えたんやないやろか」


「あれぇ、おかしいな、(以下省略)」


店の経理の一切をヒゲの男が握ってる以上、そういうとてつもなく不可思議で不可解で、なんだかバカバカしいことが起きるを看過することはできない。ヒゲの男は常に危機感を持っているのである。なので一旦、店に行き帳簿をつけておきたいのだった。


店に行くと履歴書の女が来店しており、フレンチトーストを食べていた。ヒゲの男は客の前だろうがなんだろうが、なりふり構わずに経理をはじめる。万作はレシートをヒゲの男に提出するため、自分用として買ったセブンスターと、どん兵衛などをボールペンで消して、経費から外す。


ヒゲの男は微々たる数字を出納帳に書き込んだのち、そのまま北浜のオフィスへ戻ることとなった。


オフィスでは立食パーティーの真っ最中、サン・ディエゴから帰ってきたサーファーの上仲という男がそういったお歴々を相手に自分の起業プランをプレゼンしている。プロジェクターから出された光は、壁のスクリーンへ照射されて、そこに数字や動画の像をむすんでいた。


その後、アラタメ堂のご主人が登壇して、このオフィスを利用して来週に開催される「北浜人狼」の説明を開始する。ヒゲの男はこのアラタメ堂が主催する人狼大会の司会者役に抜擢されているのである。


次にオフィスの共同経営者のプレゼンがあったが、これは自己紹介に留まるだろうと見越したヒゲの男は早々に退散して、店に戻ることにした。


店に戻ってみると、ハイタッチの男こと冷泉が来店している。いつもは上下とも黒のダークスーツに身を包んでおり、その風貌は一見して近寄りがたいものがあるが、その日の冷泉はアンダーアーマーのポロシャツに半パンというラフな服装であった。しかし、上下とも黒というのは変わらない。ただ、全身がすり傷だらけなのは、前日深夜に公園のすべり台から転げ落ちたからだということは、ヒゲの男にもすぐわかった。


冷泉の横では水タバコをふかす男がいる。見たことのない顔であり、いちげんさんであることは明らかである。そして、同じ席にちょこんと座っているのはカメラメガネの女である。そして隣の席には、この喫茶店のオブジェであり、毎日ガルパンのゲームをする男がいつもと変わらずにスマホに視線を接着させたまま、ビールを飲んでいる。


ヒゲの男は冷泉に話しかける。


「今日はお早いのですね、そちらのかたは…」と、水タバコをふかす男性を見ながら挨拶をする。


「ああ、今日はこの人と仕事の打ち合わせをするんですよ」と、冷泉はことばを返しながら水タバコの男をヒゲの男に紹介する。フォーマルな服装で水タバコをふかす男は会社経営者であり、自身が先天的な難聴を抱えていることをヒゲの男に伝えた。


「そうでしたか、どうぞ今後ともよろしくお願いします」と、ヒゲの男はいい、次にカメラメガネの女を指して、冷泉に問いかける。


「こちらのかたとも、打ち合わせですか?」


「いや…、知らないです」と、冷泉は正直に答えるので場は笑いの渦に包まれる。


カメラメガネの女は先日のイベント、ガエル・ガルシア・ベルナル四重奏団の演奏会を観覧した際に飲食料金を払い忘れて帰ったので、それを払いにきたとのこと。以前からあらゆるライブ会場や交通の要所に入り浸り、カメラのシャッターを切っていた女であるが、もうカメラはやめたとのこと。つまり、カメラメガネではなく、メガネの女になったのだ。


ヒゲの男は水タバコの男に問いかける。


「まだこの時間ですし、お腹も空いているでしょう、なにか食べられますか?」


「いただきます、なにが、ありますか?」


ここで、厨房から万作が出てきて今日できるものを伝える。


「うーん、オムライス、焼きそば、焼きうどん、焼きめし、冷やしエスニックは…麺を切らしとるんで、できません。あと、スパゲティも…、できるかな?うーん、どうやろ」


「そしたら、オムライスでお願いします」と、水タバコの男は万作に伝える。


「あっ!卵を切らしとるん忘れてましたわ、それに豚バラもないわ!」と、前言撤回をする万作である。


「ああ、僕が買って来ますよ。豚バラが買えるかどうかはわからないですけれど」と、ヒゲの男は買い出しに行く準備をする。


「それやったら、阿守さんと一緒に行ってきたらどうです」と、冷泉はオムライスを注文した水タバコの男に伝える。


なんとも、風変わりな店である。客が頼んだ商品の具材を、その客自身が店の人間と一緒に買いに行かされるのである。


結局、ヒゲの男と水タバコの男は一緒に連れだって買い出しに行くことになった。


買い物を終えた道中、水タバコの男がヒゲの男に訊く。


「阿守さんは、今後、どうされたいんですか?」


「そうですね、まず店の経営を立て直して、軌道に乗ってくれば僕はお店を万作さんにお返しします。そもそも潰れないようにすることが目的でしたから。そこからはまた別の自分を必要としてくれるところへ行きます。ゲリラ活動です」


「ほう…」と、水タバコの男は興味深そうな目でヒゲの男をみる。


「僕はチェ・ゲバラになりたいんです。彼の生き方が理想です」と、ヒゲの男は口にする。


水タバコの男の歩みがピタリと止まる。とても驚いた顔をする。そしてヒゲの男の顔を見つめながら、嬉しそうにこういう。


「僕の会社、ゲバラの名前をいただいてるんですよ」


ヒゲの男も自身が愛する英雄の名前が冠せられた会社の存在を知り、有頂天になる。買い物袋を提げた二人の手は、ガッシリと握手というコミュニケーションに繋がった。ビバ・ゲバラ。


ヒゲの男にはたった二つの理想しかない。


まず自身は、エルンスト・チェ・ゲバラのようになること。あらゆる境界線を無力化して、理想の本質に近づくために行動制約されないゲリラとなるのである。


そして店は、ロイズ保険組合のキッカケとなった喫茶店「ロイズ」のようになることを目指している。つまるところ、悪だくみの場所であり、それはヒゲの男が若かりし頃に自分の実家にいろんな愛すべきバカ野郎たちが集まっていたことと、そう変わりはない。


店に戻り、無事に買ってきた食材が万作の魔法によって商品とメタモルフォーゼした頃、まず、斥候の男がやって来て、さらにオフィスでの交流会を終えたアラタメ堂のご主人と上仲が、いちげんさんの博多の男を連れて来店してくる。


斥候の男とガルパンの男は同じテーブルにて、やっぱりガルパンの話しをしている。


アラタメ堂、博多の男、そして上仲とヒゲの男は足踏みオルガンの隣にある、店の入り口から一番奥の席を陣取って、なにやら悪だくみをはじめる。


ヒゲの男は上仲のプレゼンにケチをつける、そしてケチをつけた後に彼の起業しようとする分野における壮大で勝因しかない構想を託す。人のアイデアにケチをつける権利があるのは、アイデア発案者の目からウロコが落ちるような対案を持っている者のみである。


万民にとって必要なものであれば、それはわざわざ商魂たくましくならずとも、寄付で成立するのである。そして何より、良い仕事というものは誰かにとっての勇気や希望になる、生きようというキッカケになる。


総じてそれも「芸術」というのではなかろうか。


上仲よ、今ある太陽を撃ち落とせ。


そして夜は更け、酩酊者どもによる殴り合いは、やっぱり始まるのであった。


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by amori-siberiana | 2017-09-23 12:50 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、大阪は証券取引所の由緒正しき町、北浜にて猫のひたいのように小さな店。画廊喫茶フレイムハウスを営む阿守のブログです。


さて、昨日のことになるがヒゲの男は南船場のパン屋「き多や」へ、バゲットを買いに行く。そこでパン屋の女から「わざわざ関東の人と九州の人が阿守くんからの紹介やいうて、うちのお店に来てくれたで」と教えてもらう。


「アンタ、ちゃんとうちのこと宣伝してくれてんねんなぁ」と、ことばを続けてパン屋の女は感心したようにヒゲの男を見る。ヒゲの男も遠路はるばる、律儀に「き多や」に顔を出してくれるなんて律儀なお客さんだなと感心することしきり。


バゲットとパン各種を赤い紙袋に抱えて、店に行ってみると昨日までの狂騒がウソのように店は片付いており、ステージは折りたたまれていて、バー・カウンターとなっている。この一見、便利そうにみえるバー・カウンターだが、今のところ残念ながら無用の長物となっている。版画家の柿坂万作が作りたくて、作ったものなのだ。決して、作る必要に迫られて作ったものではない。


ヒゲの男は上のアトリエから楽譜を持ってきて、何やら計算する。何を計算しているのかと覗いてみると、今月の30日に画廊喫茶フレイムハウスで演奏をする吟遊詩人の女の曲を分解して、それを書き留めているのだ。


吟遊詩人の女は「DADGAD」という変わったギターのチューニングを使う。ヒゲの男は「CGCGCD」という珍妙なギターのチューニングを使う。


つまり、「DADGAD」のチューニングにおける吟遊詩人の女の指のポジションから、音階を抜き出して、その響きがなんたるコードになるのかを解析する。そして、解析したのち、ヒゲの男のチューニングにおいてはどこに指をおいて鳴らせばいいのかと書き起こしているのだ。


なんたる、面倒な作業であろうか。


その昔、黒船来航に揺れていた日本。アメリカ人のペリー提督と江戸幕府側の人間が話すために、英語から一度、オランダ語を通じて日本語に訳されていたと記録に残っているが、それと感覚的にはよく似ている。何度もフィルターを通すことで水のように濾過されればいいが、人の思いというのは水ではない。だから、ただただ、ややこしく歪曲してしまうだけなのだ。


ことばというものには二種類あり、発せられた瞬間から一気に経年劣化していくものもあれば、発せられたときには無意味であったとしても、後になって絶大な効果を持つものもある。ヒゲの男はことばを使うとき、この二つに注意をして使っている。


常連のガルパンの男が来店して、その後、理科の先生にはならなかった女が階段をのぼってやってくる。万作はいつものようにカウンターのなかで壁画に取りかかる。店のなかには吟遊詩人の女の歌がスピーカーから、すこし響いては巻き戻され、響いては巻き戻されを繰り返し、その都度、ヒゲの男の目の前にあるメモに文字が並んでいく。


ヒゲの男がおもむろにペンを右手に持った状態で指揮者の真似事をする。ややこしい曲があるのだ、「6666 5555 5556 6666 6666 5555 5556…。わからん」とブツブツ言いながらヒゲの男は拍子をメモに書きつけていく。


「あっ!」


大きな声をあげたのは、ヒゲの男であった。指揮棒のようにして振っていたペンが、その猛烈なる遠心力によってインクが溢れだし、ヒゲの男の右手を真っ黒に染めたのだ。


真っ黒といえば、いつも黒い服に身をまとったハイタッチの男こと冷泉は最近になって顔を出さない。


「阿守さん…、僕、ドクター・ストップがかかったかも知れないんです。これから休肝日を作ろうと思ってるんです」と言い残してから、冷泉は店に足を運んでいない。


ゴガッ。


締まりの悪いガラス戸が開かれる、いちげんさんの最強のパンチを持つ男がやってきた。それに続いて、上下ともダークスーツに身を包んだ冷泉がやってくる。冷泉と一緒に来店してきたのは、これまたいちげんさんの愛媛から来た男である。


冷泉は入り口すぐ近くの椅子にもたれかかる最強のパンチを持つ男を見て、口を開く。


「あ、あれ?こ、こんなところで、なにを、してるんですか」と驚いた様子。どうやら顔見知りのようである。若干、呂律が回っていないのは体内にアルコールがすでに取り入れられている証拠であろう。


最強のパンチの男は、どうやら冷泉が昼間、今晩21:30頃にフレイムハウスで飲むとSNSを使用して宣言していたのに乗っかったようであった。


そのあと、会計事務所のオーナーもやってくる。そう、俊敏な蹴りを持つ男で興味本位でキックボクサーのやり方で蹴ってみてくれと左足を差し出したヒゲの男を華麗に病院送りにした男である。


久しぶりのメンツが揃ってしまった。はじまるのは、もちろんのこと殴り合いである。


冷泉と最強のパンチを持つ男が、互いを殴りあう。ヒゲの男は腹を殴られる音を聴くために、コルトレーンのジャズを止める。冷泉が最強の男にパンチを繰り出す。


アレクサンドル・カレリンを小型にしたような体躯を持つ、最強の男は冷泉のパンチを受けて、「ほう、いいパンチだ」と満悦そうにいう。


「どうせなら、5発くらい連続でパンチしてください」と冷泉に向かって、追加オーダーを要請する。


冷泉の右パンチが最強の男の腹をめがけ一閃する、1発、2発、3発…、8発。乾いた音が店中に響く、理科の先生にならなかった女はその一部始終を興味深そうに見ていた。その瞳は確かに化学者がモルモットの動向を期待して見るような目であった。


次は冷泉が最強の男のパンチを受ける番である。しかし、最強の男がいうには利き手の右を今日は封印するとのこと。


ヒゲの男は最強の男にきく。


「どうして、右は封印されてるのですか?」


「ああ、今日、筋トレをしすぎたんですよ。なので利き腕は使いものにならないのです」という。なるほど、これもある種の先行投資なのだなとヒゲの男は考えた。今より未来、未来よりもう一歩先。今の筋肉痛はのちの布石となって効果を出すのであろう。会計事務所のオーナーは店を壊さぬように、殴りあう二人の位置関係に気を使ってくれながら、ニヤニヤしている。


そんなやりとりが続くなか、ゴガッという音がする。


また、とんでもないタイミングでいちげんさんがやってきたのである。端正な顔立ちをしたスマートな男がファイトクラブの最中に店に入ってくる、どうやらここにいる面々とは付き合いがある男のようだ。


冷泉がヒゲの男に向かって、彼を紹介する。


「あ、阿守さん、彼の仕事を阿守さんは、めっちゃ好きなんじゃないかなと、僕は思てるんです」と、たどたどしく日本語を繋ぐ冷泉。


「そうなんですか、是非、どんな仕事をしているのか知りたいです」と、ヒゲの男は顔を突き出し気味にして応答する。


「彼の会社はね、ヌキをしてくれる会社なんです」


「ヌキ…?」


「はい、ヌキです」


「もしかして、マッサージ屋さんという看板を掲げながら、追加料金を出せば別室へ消えていくというヌキの商売をしてるのですか?」


ここで一同は爆笑する。ヌキの会社のオーナーも苦笑をする。


会計事務所のオーナーのフォローがここで入る。


「加藤さん、それ説明、雑すぎ!」


よく聞いてみると、彼の会社は画像から必要な部分を抜きとるとき、フォトショップなどを使わず、自動的に白抜きしてくれるソフトを開発したのだということ。それを「ヌキ」というらしい。冷泉の説明ではまったくわからなくて当然なのだ。別にヒゲの男がやましさを心に持ち抱えて、ここぞというときに発露したのではない。


「阿守さん、すいません、ギターを弾いてください」と、いつも唐突に冷泉はヒゲの男にオーダーをする。


冷泉と会計事務所オーナーは「リトアニア舞曲」が好きなので、ヒゲの男はそれを弾く。聴きたい人間がいるのだから、弾くしかなかろう。


するとヌキ会社のオーナーの男もギターをするという。ヒゲの男は一般的なチューニングになっているギターを彼に渡して、そこから一緒にセッションをしてみることとなった。最初の一音を出した時点で、このヌキの男はそんじょそこいらのギターが趣味ですとは違うなということは、ヒゲの男にはわかっていた。


適当なセッションが終わったあと、おもむろにヌキの男はヌーノ・ベッテンコートの「MIDNGHT EXPRESS」を弾きだす。ヒゲの男は驚愕する、まさか自分以外の他人がこの曲を弾くことを目にすることができるとは(!)。


ヌキの男、若い頃は「広島のイングウェイ」という異名を持っていたとのこと。ヒゲの男と会計事務所のオーナーと、広島のイングウェイは学年が同じということで、聴いている音楽などもリンクしている。腹の殴り合いは、いきなり音の殴り合いへと発展する。


「僕、恥ずかしい話しですが、TEEN'S MUSIC FESTIVALという音楽コンクールに出場して、地元でベストギタリスト賞をもらったんですよ」と広島のイングウェイはいう。


彼が広島でベストギタリスト賞をもらったのと同じ頃、四国地方の高松で同じコンクールに出場して、そこでベストギタリスト賞をもらっていたのは何を隠そう、目の前にいるヒゲの男である。


そこからはロック音楽の祭典である。広島のイングウェイはメタリカを弾き、香川のヒゲの男はメタリカを大声で歌う。レディオヘッドの「CREEP」になると、会計事務所オーナーも身を乗り出してくる。音楽にさほど興味がなさそうな冷泉は、先ほど店に入っていた常連の不思議な女となにやら話しをしている。


不思議な女が広島のイングウェイに落ち着いた声でいう。


「あれやって欲しいの、ニルヴァーナの…」


広島のイングウェイはその指を「F」のコードに合わせる、「SMELLS LIKE TEEN SPIRITS」のはじまりである。冷泉が近すぎる距離感でヒゲの男の隣にやってきて、一緒に大合唱をする。とにかく何度も何度もハイタッチを求めてくるので、見ているほうの手が痛くなってくる。


Hello, hello, hello, how low…。呪文のように投げかけられることばである、一体誰に向けられているのか、その実、誰にも向けられていないのかも知れない。


「おっ、誰か来はったな」と、万作がいう。


締まりの悪いガラス戸は開き、いちげんさんが入ってくる。このクソやかましい宴の最中によくぞ入ってきたと一同から祝辞を述べられる。埼玉からやって来ている内燃機関エンジニアの男だ。深夜にもかかわらず、どうも店から賑やかな歌声が聴こえてくるので、いてもたってもいられずに勇気をだして階段をのぼってきたのだそうだ。


よくよく、人間の好奇心というものは、不可思議な発動のしかたをするものである。


不思議な女がエンジニアの男から聞くところによると、昨夜の「ガエル・ガルシア・ベルナル四重奏団」のイベントのときにも、店から音楽が漏れてくるので気になって仕方がなかったのだそうだ。店の前の駐車場で、「入るか、入るまいか」を逡巡しながらタバコを5本吸い、そしてその日は断念したのだという。


ところが昨夜だけでなく、今夜も店はやかましい。もう気になって仕方がなかったそうである。


音楽の宴はエンジニアを加えて、さらに続き、そこからはビジネスにおける経営者哲学の話しになった。その話しもヒートアップして、夜中の2時まで論議することとなった。色んな職種の人間がひとつのところに集まり、経営者側の人間と従事者側の人間とが気兼ねなく意見交換をする場所というのは、フレイムハウスならずともバーでの大きな醍醐味であろう。


フレイムハウスが特筆すべきは、彼らがたまに殴り合うことである。


ここは体育会系のカフェなのか?とよく聞かれることがあるが、それはある側面からの特徴しか捉えていない質問である。


ここは、出会い系なのだ。


その夜、広島のイングウェイとDREAM THEATERの「METROPOLIS」の間奏部を帰りのタクシーのなかで口ずさみながら、ヒゲの男は自分が若返ったような錯覚をもった。


冷泉とヒゲの男は飲み足りないということで、ヒゲの男が行きつけだった絶品のコーヒーをだす「キリギリスの店」へ向かうが、あいにく閉まっている。


二人は鈴虫がなく近くの公園へ行く。セメント製の遊具の高台によじのぼる。冷泉は近くのコンビニで買った、富士の天然水(1.5L)をガブガブと飲みだすが、酔っぱらっているのか、半分くらいはダークスーツをビタビタに濡らすこととなってる。


普段は子供たちの居城であろうこの場所に、ヒゲの男は寝転がる。空にはすでに冬の星座が出てきており、ダイヤモンドの形を描いている。


「あの赤い星、わかりますか」とヒゲの男は寝転がったまま、体育すわりの冷泉に問いかける。


「はい、赤いの、ありますね」


「あれ、ベテルギウスっていう超巨大な星なんです。でも、もしかしたらすでにこの宇宙から消滅してしまってるのかも知れないんです。今の光は600年前の姿なんです」


「光の…、速さ…、宇宙、すごいですね」


酩酊状態の冷泉はそうつぶやいたあと、最近、彼が知り合った老人の話しをヒゲの男にする。リッツ・カールトンでいつもプカプカと浮いている老人の話しだ。とても風変わりで素敵な億万長者の男である。


誰もいない公園の遊具の上で、高名な投資家ウォーレン・バフェットを切り口として、「投資」の本質について二人は話しあう。


「投資をギャンブルだと考えてる人間は多いのだけれど、つまるところそういう人は個人主義のギャンブルや小遣い稼ぎ程度の投資しかできないのだと思います。けれど、それは投資の意味合いにおいて最たる重要なところを欠落させています」


ヒゲの男のことばを聞いて、冷泉は静かにうなずく。


「僕は投資というものは、社会全体の成長を促すためにすべきだと考えています。そしてその成長は万民の豊かさをもたらすものであれば、なおのこと良質です」


寝転がって星を見ながら理想を口にしたヒゲの男は、「それ、やりましょ」とハイタッチを求めてきた冷泉のハイタッチに応えて、立ち上がり、高台の遊具に備え付けられた滑り台を立ったまま、するすると滑り下りる。


冷泉もヒゲの男の真似をして、立ったまま滑り台を降りようとするが、滑り台の半ばで千鳥足はもつれ、真っ黒なスーツのまま地面にもんどりをうって転んだ。


「阿守さん、僕、多分、血ぃ出てます…。アハハハハ!」と豪快に笑う冷泉。


時刻は朝の4時を少しばかり過ぎていた。



投資で成功する秘訣は、自分自身に内在する― ベンジャミン・グレアム


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by amori-siberiana | 2017-09-21 16:07 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北浜にある猫のひたいのように小さな店。画廊喫茶フレイムハウスにて喜劇を演じている阿守です。


まだまだ湿気を含んだ夏の名残りの風が吹く北浜。その北浜にてオフィスにこもってコーヒーばかりを飲んでいるヒゲの男がいる。この男はいろんな職種の人間が集まる複合型のオフィス(コワーキングスペース)において、どんどん格好が崩れてきている。


この男が北浜のオフィスにやってきたとき、まだ会社をしており、それなりの格好をしていた。人を外見で判断するのはよくないが、85%の人は外見で決まるのだ。そうでなくては、ここまでブランド業界が長続きするわけがない。人が服を着るのではなく、自尊心と見栄が服を着て尊大に歩いているのが世の常だ。


話しを戻そう。このヒゲの男が北浜のオフィスへやってきて、少しして彼の会社は解散した。一人のバカ野郎が会社の金を使い込んでしまったのであるが、そんなことはどうでもいいのである。ヒゲの男はこのバカ野郎が使い込んだ金を海外口座などに隠しているのではないかと、独自に潜入捜査を開始したが、スカンピンだということがわかったので追求するのをやめた。


追求を深めていくと、妖怪が沢山でてきたのである。人外魔境にヒゲの男は興味があるが、ヒゲの男の一番嫌いなことばは「筋(スジ)」とか「仁義」とかである。こういう金縛りのような質実が伴わないことばを繰りだす妖怪連中が出てきたので、ヒゲの男はアホらしくなってきたのである。


ここでヒゲの男の人生は大きく変わる。


自分たちの仲間で作った会社が解散したことで、ヒゲの男は明日から何もすることがなくなった。正確にいえば、近日中に何もすることがなくなるのであった。


そんなとき、時を同じくして来月には店を畳んでホームレスになってしまう男が北浜にいた。版画家の柿坂万作という男である。度重なる家賃滞納、客からの借金、光熱費の未払いが重なって、クビが回らなくなっていた。ヒゲの男はこの店へ週に一度くらい訪れる客であった。


この二人が互いに絶好のタイミングで出会ってしまったことで、画廊喫茶フレイムハウスを二人で共同経営していくことになった。


それからというもの、ヒゲの男の北浜オフィスにおける服装はどんどんと崩れていき、今では「NASA」と書いたシャツに綿パンというラフなものになった。そもそも北浜のオフィスはヒゲの男が、「会社が、もしものときには」ということを想定して用意しておいたオフィスである。


以前の会社の仕事をそのまま個人で引き継ぐ、それが実現できれば人件費もかからずに坊主丸儲けくらいに考えていたが、業務引き継ぎの場合は、それをめぐって社内の利権闘争に発展することは必定であり、それを回避するために同業種での独立は諦めた。


いや、正確にはウンザリしていたのだ。バカのように毎日文章を書いて書いて書きまくって、人心を操ることにすっかり飽きてしまった。生活の豊かさと引き換えに、何かを失っていくような気がしていた。いや、その実、何も失っていないのかも知れない。とも考えていた。


が、ヒゲの男が画廊喫茶フレイムハウスに関わるようになってから、ヒゲの男はやっぱりいつの間にか何かを失っていたのだということを確信した。とにかく笑うことが多くなったのだ、あざけり笑うのではなく、心底、愉快だから笑うことが多くなった。


さて、昨日のこと。


ヒゲの男が自分の店でイベントをすることになった。版画家の柿坂万作はその怪力によって、店にあるテーブルをすべて上の階のアトリエへあげる。


日和見音楽家であるヒゲの男が、ランチの営業を早めに切り上げて、偉そうにリハーサルなどをするというのだから、恐れ入ったものである。


ヒゲの男とは同郷の友人であり、長年の苦楽を共にしてきたらしいギター弾きの男がやってくる。さらに同じく長年の友人である太鼓もちではなく、太鼓を叩く男がやってくる。この太鼓の男は近頃、小説家としてデビューするそうであり、それを意識してかどうか鳥の巣のようなパーマをあてていた。


万作はリハーサルの途中、頃合いを見計らって銭湯にいく。この銭湯から戻ってくる時間がいつも開店ギリギリなので、ヒゲの男は冷や冷やさせられることが多い。しかし、考えてもみるとイベント慣れしていない人間の行動はこんなものであろう。


それを見越して、ヒゲの男は宗教画のモデルの女を三顧の礼にて迎えている。彼女がいないと幾つかのイベントは完全にその機能をマヒしてしまっていたであろう。まったくもって、ありがたいことである。


当日、ガエル・ガルシア・おにぎりという特別メニューを出すことになっていたが、万作は風呂へ行ったまま帰ってこないので、結局は宗教画のモデルの女が握ることとなった。


「なんだかすいません、いつも苦労ばかりかけてしまって」と、ヒゲの男は宗教画のモデルの女に感謝と詫びを伝える。


「ええよ~、気にせんといてぇ~」と、宗教画の女はその異国風の顔立ちからは想像もできない、完全無欠の大阪弁のイントネーションで快く返答してくれる。


しばらくして、万作が風呂から戻ってくる。


「いやぁ、ワシの計画どおりやな。今日はイベントやからはように帰ってきましてん」と、胸を張っていうが開店時間は間近である。なかなかタイトロープな時間概念をもつ万作の放った珠玉の一言に呆れながらも、セッティングは整う。


少し遅れて、電気工事士の山本という男が店にやってきて、出演するメンバーも全員が揃うこととなり、イベントの開始である。


一曲目は「THE MINT」という名前がつけられた曲だ。


不思議な浮遊感をもつ曲である、基本的にはたった二つのコードが押し合い引き合いを繰り返すだけの単純明快な曲である。ところが、そのどちらも地に足がついていない、重力を感じない世界の音が散文的に流れるようなのである。なにがどう影響して、そのようなアンサンブルになっているのかは謎だが、ヒゲの男はこの曲を最初にもってくるのを好む。


そういえば、ミントという植物の香りは、それを嗅いだ人間を遠い故郷に連れかえる効能があるといわれるので、妻に嗅がせないようにしたというヨーロッパの古い風習があると聞いたことがある。


ここからギター弾きの男が作曲したという曲が続く。コードを鳴らすだけで勝手に物語が進行していくという卓越した戦略のもとに構成された音楽たちだ。洒落たコードを組み立てる男だ。


二部構成で行われた本イベント。メインである「サン・ジェルマンの殉教」という曲は二部の最初に演奏された。


とても小さな音からはじまった曲は、ギター弾きの男が奏でる当て所なき独白を経由して、徐々に音の幅を広げていく。曲の導入部の静寂なところで、万作がアイスピックで氷をガツガツする音をさせるが、ヒゲの男にはその音が心地よかった。氷を砕く音、その音はアイゼンを山肌に突き立てながら、凍てついた山を登りこえる音と同じだ。


太鼓叩きの小説家の男、電気工事士の山本と名乗る男のベースが静かなるままにうねっていく。我慢に我慢を重ねて音を紡いでいくさまは、賽の河原に石を積み上げるがごとく。その所作は一見すると無意味なことではあるが、石を積み上げる人間にはその人間なりの考えがあるのだ。


そしてその刹那、音が弾ける。


いきなり光が差し込んでくるのである。目が潰れそうな焼けつく太陽の光ではなく、一日中、太陽の落ちない土地に降り注ぐ柔らかな光である。ヒゲの男はこの曲を作ってはみたが、これまで4人でここまで来れたことはなかった。宝の地図の案内のままに音を紡いでいっても、いつも目当てのものはそこにはなかったのだが、…この日は違った。


今まで来たことのない場所に入り込んでしまったことにヒゲの男は演奏中に気がついた。いつかは行ける日が来るだろうと、長年、待ち望んでいた瞬間だったのだ。


そこには何がある?


そこにあるのは記憶のタイムカプセルだ。ヒゲの男が詰め込んでいた感情の記憶が冷凍保存されてそこに眠っているのであった。社会的になんら価値のある宝ではないのだが、ヒゲの男はいつの日か到達できるだろうという瞬間が、よりによってこの猫のひたいのような小さな場所でやって来るのかと驚いた。曲が進んでいくごとに、それは期待から確信へと変わっていった。そして、確信したと同時に安堵に変わった。


やっと、「殉教」が完成したのだ。


最後の音は確か「E(ミ)」であっただろうか。


そういえば、数学上で「E(e)」は離心率を指す。


ヒゲの男は数学などほとんどわからない。アリストテレス以前の数学すらよく知らない。だが、ヒゲの男はこの「離心率」ということばが好きである。このことばに勝手な自己解釈をつけている。この曲を終わらせるには、絶対に「E(e)」で終わらせるのだとヒゲの男は誓っていた。そうしなければいけない理由があるのだ。


人が前に向いて歩いていくには、過去に心を置き去りにしたままではいけないのだ。悲しいことだが、そこから自分の心を引き離さなくてはならない。いつまでも死体の横で一緒に寝るわけにはいかないのだ。


この日の「E(e)」は長く長く続いた、それは本当の別れを惜しんでいるかのように長く長く続き、そして、しっかりと途絶えた。


最後の一音は、空間と時間へ、消え入るように、還元されていった。


演奏者している人間も、それを聴いている人間も一緒にたったひとつの「E」の音を追っていた。


長い旅は終わり、長い拍手がなった。なんという温かい拍手であろうか。これではヒゲの男がみんなにチップを払うべきである。


そして、次の曲がはじまった。


店の時計は、長い旅が終わったままの時間で止まっている。次の曲のときに時計を止めたのだ。そういうことをしても平気な場所が、愛すべき画廊喫茶フレイムハウスだ。ナンセンスなことで一杯な割り切れない割り算のような、喫茶店である。


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by amori-siberiana | 2017-09-20 16:52 | 雑記 | Comments(0)


北浜のビジネス街にある、昭和レトロなカフェのブログです。            大阪市中央区淡路町1丁目6の4 2階上ル