カテゴリ:雑記( 198 )

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


ヒゲの総帥がブログに東の冬は寒いそうだと書いたからではなかろうが、昨日からえらく寒くなってくる。ヒゲの総帥が生意気だということで冬将軍が東から西を伺っているようである、寒中歩くだけで身を切られるような気持ちになるのはどうにも好かん。ヒゲの総帥は元来、耳が寒さに弱くすぐ耳たぶが切れてしまうのでジャミロクワイのような帽子を深々とかぶりだす。


さて、昨日のこと。とにかくおかしな一日であった。


土曜と日曜の狂騒からヒゲの総帥が目覚めると昼前である。こんな時間まで寝ていたのならば北濱のオフィスへ行く前に店に立ち寄ろうと考えて店に行く。店のシャッターは開いてはいるものの、のれんは出ておらず階段の脇にある立て札も「準備中」と無愛想にこちらを睨みつける。準備中とはよく言ったものだ、どこのどの辺をみてあらゆる飲食店は「準備中」と済ましているのか判然とはしない。今の準備中には休業中や酩酊中や外出中も含まれるのであるから、さぞや準備中の一言が背負わなくてはならん言質は多いのだろう。


店の階段をすたすたと登って行くと冬のか弱い日差しによって店内は薄暗く、その薄暗いなか版画家の万作が本尊のように鎮座して缶ビールを飲んでいるのである。ヒゲの総帥は舞台の上に出しっぱなしになっているギターの機材などを片付ける、昨夜までの雰囲気が色濃く残るステージの散らかり方であった。


しばらくすると準備中で暖簾が出ていないにも関わらず誰かが階段をのぼってくる。ゴガッと締まりの悪いガラス戸の音がして外部者の視線が店内に注がれる、その泳ぐ視線がヒゲの総帥でピタリと止まる、男はそれならよかろうという体で入ってくる。飄然たる登場をするのは不動産広告にかたよったデザイン会社を経営する忌部という男である。


「あれ?準備中になってなかった」とヒゲの総帥は忌部に無駄と思うが一応聞いてみる、「ああ、出てたね」とまるでその立て札になんらの効力を見い出せないようなことを風のようにいう。ヒゲの総帥がきょとんとしているのに構わず忌部は万作に問いかける「万作さん、何できます?」「うーん、まだ準備中やけど、今やったら、うーん、コロマンサ、オムライスやったらいけます」「コロマンサまだ食べてへんから食べよかな」「はい、コロマンサ。ダブルにしますトリプルにします?」「ダブル…、トリプル…、なにがどう違うんですか?」「うーん、一般的な女性やったらダブルをおすすめしとるんですが、お腹がごっつう減っとるんやったらトリプルでも食べる人はおるんですわ」「そない唐突にダブル、トリプルどっちにするいうて聞かれても、内容がわからんから…」「うーん、ダブルやったら400円でトリプルやったら500円の違いですねん」「いや、そういう意味やなくてコロマンサって何料理ですの」「ん?卵、目玉焼き」「なんかわからんけどトリプルで」と忌部は追及の虚しさを感じたのか言われるままにトリプル・コロマンサを注文する。ヒゲの総帥は互いの歯車の噛み合わない会話が面白くて仕方がない。万作は万事こうなのである。


「万作さん、もうお客さんも来られましたし店を開けますか?」とヒゲの総帥は厨房に入ってコーヒー豆をガリガリと挽く万作に問う。「うーん、いや、まだオープンできる状態やないんでそれで準備中にしとるんですわ。オープンする用意がなんもできてへんのです」と万作はいう。ヒゲの総帥は忌部と顔を合わせて、この状態といつもの状態のどこがどう違うのかまったく解らないという表情をする。見る限り、いたっていつもどおりのクントコロマンサであるのだが。万作にしか見えぬ段取りの深淵があるのだろうと、それ以上は突っ込まずに万作の段取りが整うまで暖簾も出さず準備中のままにしておくことにした。


するとまた誰かが階段をのぼってくる若い男である。入ってくるなり「万作さん、オムライスとホットコーヒー」と注文をする、万作は「うーん」と唸りながらも厨房でもう一度コーヒーをがりがり挽きだす。しばらくするとまた誰かが階段を昇ってくる、その足音を聞きながら万作は「どないなっとるんやろか」と独り言をつぶやく。入ってきたのは妖精の女であった、「万作さん、今日は何ができるんですか?」と万作に訊ねる。「うーん、コロマンサ、オムライス…」「オムライスは前に食べたから、他になんかありませんか?」「うーん、イカなしの焼きそばやったらできるかな、できんかな、できるかな」と冷蔵庫をゴソゴソしだす。妖精の女は「そしたらイカなし焼きそばで」というが、厨房の万作からは返答がない。忌部が大きな声で「万作さん、イカなしの焼きそばやって」とオーダーを仲介する。ヒゲの総帥は昼間から腹を抱えて笑い転げる。これではどちらが客でどちらが店なのかわからない、世の中にこんなに面白いところがあろうかと心中で店のことを絶賛する。


ヒゲの総帥はそれぞれの客に準備中だったのを知っているか?と問うが、若い男は暖簾が出てなくても万作さんが中にいるだろうから入るべからずなど気にしたこともないという、妖精の女にいたっては暖簾の存在すら気がついてなかった。忌部はわざわざ準備中を確認してから上がってきた。ヒゲの総帥もここの客だった頃、よく「準備中」の立て札を勝手に「営業中」へと反転させて階段を昇っていたものである。「あれ?準備中になっとりませんでした?」と万作はヒゲの総帥に問うのだが、「いえ、営業中でしたよ」とヒゲの総帥はシラを切ったままタバコに火をつけて本を読みだす。「おっかしいな…、ワシも最近ごっつぅ物忘れが激しいなってきとるんで…」と万作がアタフタするのを見るのが好きだったのだ。


その珍妙な光景を後にしてヒゲの総帥は北濱のオフィスへ行く。いつものようにコーヒーを飲みながら仕事を開始する。お隣には東京出張から帰ってきたばかりのアキラメ堂の主人が居座る。ヒゲの総帥がメールチェックをしていると、とてもおかしな件名のメールに気がついた。件名:フローズン他多数の【匿名希望】です。とあるのだ。


「フローズン他多数とは何のこっちゃ」と思いながらヒゲはメールを開く。「クントコロマンサ Amoriさま」と本文の最初に書かれてあるからには、ヒゲの総帥に読んで欲しくて送ってきたものなのであろう。ヒゲは構わず読み進める。「直にご挨拶が間に合わないまま、更には整わない文章で申し訳ありません」とあるのでこのメールの差出人はどこか遠くにいるのかまたは幽閉や軟禁状態になるのだろうと勝手に思う。


「匿名のお客様のことなのですが、そっとしておいていただけると幸いです…」と次に来るので、「ははん、僕のブログについての意見であろうか」とヒゲの総帥は思うが匿名の客というのは、一体誰のことであろうか。ヒゲの総帥は最初は気のない感じであったが、やや乗り気になってくる。本文は続く「お気づきかとは思いますが、、各地の各立場と各担当との住み分け&線引きがなかなか難しいため、各地のスリーパー&フローズンと同時進行の学び舎と化しております」。「なるほど学び舎とは恐れ入った呼び方だ、大方学校のことでも指すのではないか」と勝手な自己解釈で読むが、ちょっと日本語が変だなと感じる。


「なかでも匿名のお客様のご様子が見えなくなると、逆に諸々とよからぬことを想像してしまい不安&心配&若干危ないので、あのぐらいでしたら、むしろ見えていた方が安心かと考えております」と来たときには、つまり最初は匿名の客のことを書くなという苦情に捉えていたがこの場にいたっては書いたほうがいいというのでヒゲは一向に釈然としない。ヒゲを引っ張ったり抜いたりしながら次を読む。「私はなるべくわかりやすく斬られながら危機管理&セーフティネット担当のようでして」とあり、いよいよおかしくなってくる文面に興味が沸く。「読みと動きと手際が悪く、大変申し訳ありません…。」と来たときには「いえいえ、どういたしまして」と誰に対してかわからぬことをヒゲの総帥は心のなかでつぶやく。


「水面下もしくは並行して同時に勉強中&出番待ち&準備中の、人達が一応居てますので、こちらはおそらく大丈夫です」となる、「いろんな人が水面下でいろんなことをしてるのだな、そしてそちらは万事整ってるということか。それにしても居てますというのは唐突に河内弁のような言いようじゃないか」とヒゲは怪訝に思う。「ご迷惑とご心配を沢山ほんとうにありがとうございます。なるべくちゃんとやりますので、ネット上で関わる人数をどうか増やさないでいただけると幸いです……」。いよいよ佳境を迎えたなとヒゲの総帥は膝をぽかんと叩く。「そして、引き続き平和に音楽中心に笑かしていただけると皆の学びと平和になりますので、よろしくお願い致します」とくるので、そう簡単でもなかろうとヒゲは笑かしていただけるようよろしくお願いされても困るという顔つきをする。


「自分の役割が落ち着きましたら、あとで謝罪に伺います…。あとまわし的で申し訳ありません…。よろしくお願い致します…。」できるなら来ないでいただきたいと率直な感想を誰に聞こえるでもなく口にするヒゲの総帥。「乱筆乱文失礼致します。身体も心も資本ですので、なるべくお休みください…。私も休みます…。」とうとう一緒に休暇を取らされた、やられた!とヒゲの総帥は思う。本文はそれぎりでそれ以上は何もなかった。


これを怪文書といわずしてなんというのだろうか、ヒゲの総帥は早速隣で暇そうにしているアキラメ堂に自分に向けて怪文書が来たことをまるで栄誉であるかのように伝える。「危ないですよ、気をつけてくださいよ」とアキラメ堂のご主人はヒゲの総帥に賞金首がかかっているような言いかたをする。ヒゲの知り合いにかの高名なチューリング博士でもいるのであれば、この文章の何たるかの性根を露見させてもくれるのだろうが、そういう知り合いはいないので放っておくしかないのだ。


そのあとは宇宙人を自称する人からのメッセージを受け取るがこちらは文章がエレガントでユーモアがあり意思疎通ができたのでホッとする。


それにしても毎日毎日、飽きもせずにいろいろなことがあるものだ。一日を振り返ってみると苦笑ばかりが出てくる一日であった。


d0372815_19034259.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2017-12-12 19:04 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


冬の万作祭の第二夜と第三夜が終了することとなった。第一夜から数えるとイベント開催時だけの三日間ですでに100名の客が猫のひたいに集まっていることとなる。今のところ床が抜けるとか停電やボヤ騒ぎになるなどのトラブルは起きてはいないのだが、これまで起きてないからといって今後も起きないというのは思考の停止を意味するもので、とっさのときの判断を鈍らせることになるだけである。さらにアルコールが良くない、大事を小事と捉えてしまうことがあるのだから、これがもっとも良くない。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は昼まで寝てる。昨夜は深夜まで旧交を深めながら、決起はいつなのかなどの論議に火がついたので就寝したのが遅かったのだ。就寝したというよりは失神したというが正しい表現なのかも知れない。元来、このヒゲの総帥は酒宴などを好むほうではなく、同業種の付き合いなども良くないどころか不躾であったほうなのだが、やはり仕事が仕事となると飲むようになるものである。諸先輩方がヒゲの総帥のために気を遣って飲みの席を用意してくれても、感謝の意などひとつも示さず勝手に帰宅することなど日常茶飯事であった。このような人間が先輩諸氏から可愛がられるはずもなく、そのうち誰も相手にするものがいなくなる。それでもこのヒゲの総帥などは鈍感なのか、悪びれることもなく「そんな付き合いはいらん」と超然として済ますので度し難い。


昼の仕事をササッと終わらせて店に行く。店に行くとすでに星師匠が昨夜の大騒ぎで店に塗り込められた怨念や雑念などを丹念に拭き掃除している。ヒゲの総帥はの喉が乾いて仕方がないのでスコッチウイスキーをチビチビ飲みだす。版画家の万作は買い出しに行っては戻ってきて、「あぁー、アレ買うの忘れた!」とまた買い出しに行っては戻ってを繰り返す。


夜の開店までまだ2時間くらいあるのだがシャフナー(ギタリスト)の知人が寒いなか店の前で待っているというので、店の中に入ってもらう。名古屋でプロモーターをしている男は店に入るなりヒゲの総帥のギターがYAIRIというメーカーなのに気がつく。


「おっ、ヤイリをお使いなんですね」「そうなのです、ひょんなことからヤイリさんからギターをお借りする縁が御座いまして」とヒゲの総帥は自分のギターを担当してくれているギター職人の男の名前を出すと、プロモーターの男も知った人物のようですぐに連絡を取ってくれる。ヒゲの総帥は身分不相応にもヤイリという国産のギターメーカーからギターを提供されており、有名人に並んでヤイリ社の要請によりサラサラと色紙にサインを書いたりしていたが、勝手に音楽から遠ざかり好き勝手していたので少々決まりが悪いのである。「今、担当者からメッセージがあり、阿守さんはお元気されていますか?とあります」とプロモーターの男は事情を察してかニヤニヤする。「それはもう元気にしております。阿守が三つ指ついてメッセージを拝読しておるとお伝えください」とヒゲの総帥は過剰な演出を盛り込ませる。そのあたりこのヒゲの男の肝っ玉の小ささを物語るものであろう。


しばらくすると、大荷物を背負った作家の平尾先生が店にやってくる。続いて電気工事士のヤマトコ、さらには今朝まで飲んでいたというシャフナーがやってくる。作家の平尾先生は国際交流が盛んにおこなわれる比較的近場のゲストハウスにチェックインするために一旦店を出る。さすがは作家、この取材根性たるや作品の糧となるとヒゲの総帥は感心していたが先生本人から訊くところによると要するに値段が安いからという単純な理由なのだそうだ。さもありなん。


万作が平尾先生に自転車を貸そうかと提案するがブレーキをかけると革命の火種のような金切り音がけたたましく鳴り響き、さらに鳴くだけで止まる挙動に信用が置けない自転車なので、作家先生は歩いてゲストハウスまで行くことになる。「うーん、お貸ししようと思とったんですけど、あの自転車やしなぁ、あんまり人様にお貸しせんほうが…」と万作はいう、「はよ、万作さんに自転車買うてあげんと」と平尾先生はヒゲの総帥のほうを見る、「金があればそうしてる、優先順位があるのさ」とヒゲの総帥は相変わらずウイスキーをチビチビやっている。


作家先生の帰還を待って予行演習を開始する、取り立てて問題もなさそうなのでサッサと演奏を切り上げて乾杯をする。そうこうしていると店はオープンして客がやってくるので、演奏者たちはそそくさと三階の万作のアトリエ兼控え室へと標高をあげてそこで飲みだす。ヒゲの総帥はヤマトコや作家の男にもウイスキーをストレートで飲んでみるように勧める、二人とも断る義理もないのでそのとおりにして酔っぱらいが出来上がる。ヤマトコなどウイスキーのあとに「やっぱり、ビールに戻します!」といってビールを飲むのであるから、その酩酊は相当なものであったろうと想像できる。


ビールの後にウイスキーはまだよろしいが、ウイスキーのあとにビールを飲んではいかん。アルコール依存症の亡者たちがなんとか安く酩酊状態を迎えたいときに使う手段であると万作が以前、ヒゲの総帥と冷泉に教えてくれたのがウイスキーのあとにビールを飲むという手法であったのだ。その至言の真意は如何にとヒゲと冷泉は試してみたが、ものの見事に二人ともが泥酔することとなった。


演奏の時間がやってきたので、それではと全員が聴き手を一か所に集中させて「オーッ!」という掛け声とともに上に挙げる。ようなこともなくダラダラと千鳥足で二階へ降りていき、そこからガエル・ガルシア・ベルナル四重奏団、取りあえずは最後の演奏会は開始されるのであった。


一応の演奏終焉後、興に乗った演奏家たちは持っている手札のすべてを切っていく。そこから手札を切り終えた彼奴らは、次にマイクを手に持って歌いだしながら身を切っていきだす。最後の最後にマイクを離さなくなったのは、泥酔する平尾先生である。平尾先生の歌の最中に年配の夫妻が店に入って来られたが、ソファに座った瞬間に立ち上がって帰るというくらいの壮絶な歌であった。熱唱の向こう側にある絶唱に辿り着こうともがく平尾先生の姿はカマキリのようで抱腹絶倒であった。


それにしても東京は寒いのだそうである。毎日のように東京から来た人間、東京から戻った人間と出会うが、皆が一様にそういうので多分そうなのであろう。


d0372815_17003580.jpg


[PR]
by amori-siberiana | 2017-12-11 17:00 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


昨日は冬の大祭「万作祭」の第二夜が開催される日である。ヒゲの総帥は北濱のオフィスでコーヒーを飲みながら事務仕事をこなす、この土曜日のリンクス(オフィスの名称)は暇であり室内にはゆっくりとした時間が流れる。一段落を終えてヒゲの総帥は仕事を終えてランチ営業をしているであろう店に向かう。店に行くとすでに御朱印集めをする東京の女が来ており名物料理コロマンサを食べ終えたあとであった。しばらくすると今夜演奏するギタリストの男がこの寒いなか「暑い、暑い」と汗をかきながらやってくる。ヒゲの総帥は最初この男が薬物でもやっているのではないかと考えたが、訊くところによるとギタリストの男がやってきた東京辺りは随分と寒いのだそうだ、防寒にヒートテックを着込んできたのはいいがどうにも大阪の気温とは折り合いがつかなかったようである。


東京の女も夜の演奏を聴きに来たのが主題であるため、夜の開演時間まで八百万の神のどれかを見物に行くといって店を出て行くことになる。ヒゲの総帥はギタリストの男(シャフナー先生)と夜の演奏のために予備演習を開始する。版画家の万作は握り飯の準備をして、星師匠は憑き物を落とすが如く入念にごしごしと店中のものを拭きだす。常連の不思議な女が「星師匠が執拗に掃除してくれたおかげで、以前までの店に漂ってた異臭がしなくなった」と感謝を述べていたのは、確か前々日くらいのことであったろうか。


ベーシストのヤマトコが来る、三人で適当に演奏してみるが幾つかの確認事項だけ論議してさっさと演奏をやめる。特に追及すべき事柄などもなかったのだ、追及すべき場所がなかろうものに使命感に駆られて芸術性を高めなくてはと無理に追及を推し進めると、そこにはロクなものが待っていないことを三人ともよく知っているのだ。


店は10分ほど遅れて開店をする、演奏はそこから三部構成(演奏→休憩→演奏→休憩→演奏→休憩)の形式をとって賑やかに行われることとなった。予行練習のときの音の感じが非常に良かったので、そのままの配置で本番の演奏をすることとなりシャフナーは舞台ではなく客席でギターを弾くことになった。あれもこれもを演奏する、客はあれもこれもを聴くことになる。客は演奏者から出されたものをそのまま享受しなくてはいけないのが通常の音楽イベントでありそれが一般的であるのだが、客が何を聴きたがっているのかに留意しない演奏家の演奏はつまらない。そこに熱量を割けないのは傲慢であろう。この日のイベントはそれを踏まえて、やっぱり傲慢で一般的なやり方によって進められるのであった。


全ての演奏が終わる。いつの間にか厨房前には全身黒ずくめの男、ハイタッチ冷泉が来ている。そして立て続けにゴガッと締まりの悪いガラス戸が開き一人の男が入ってきた、ヒゲの総帥は最初なんらかの面影を残すこの男が誰だったのか思案する時間が必要であったのだが、すぐにそれが日本のミサイルマンことタッキーであることに気がついた。なんというドラスティックな体形変化であろうか、ただの豚肉のようだったタッキーが今ではシャープな好青年になっているではないか。「ライザップに行きはじめました」と照れ臭そうにタッキーはいい、さらに「前もって断っておきますけれど、今日は歌いませんからね」と総帥に宣言する。「構わないさ、構わないさ、さあ入りたまえ。君のために演奏するよ」ということで予期しない第四部が始まる。


ヒゲの総帥は心のなかで「鴨がネギを背負ってきたな」とほくそ笑むのだが、あまりに心の中で笑い過ぎたのであろう、演奏中もタッキーの顔が七福神のエビス様にしか見えないので表情に心模様が反映されて口角が上がってしまう。タッキーはうっとりしながら酔い心地で「次にあれを演奏して欲しい」「せっかくなのでこれも演奏して欲しい」と次々にオーダーをしてくる。タッキーの酒の手が止まるとヒゲの総帥はそれを促す、タッキーに水分補給が行きわたりすぎて飲みのペースが遅くなるとヒゲの総帥がそれを飲む。星師匠は冷泉と談笑しながらも、しっかりと舞台上で行われている接待の動向に視線を向け、伝票に「正」の漢字を一画ずつ成立させていく。


またもやゴガッという音がする、ドアの開きが悪いのか客が入って来ない。ドアから一番近い場所にいる心優しき冷泉がドアを店内側から開ける、開けた瞬間、冷泉は殴られて「ぐはっ」と声をあげる。この唐突なること禅僧臨済の足跡をたどるようであり、ヒゲの総帥はその光景を見てニヤニヤする。やって来たのは会計事務所のオーナーであるドマツ先輩であった。そこからボリショイのバレリーナの女、副社長ばかりする男もやってくる、さらには近くの森ノ宮で舞台公演していた俳優連中もやってきて店内の喧噪は北濱の夜の静けさと反比例して煉獄感を帯びていく。酔っぱらって上機嫌のタッキーは俳優の男たちに向かって「劇をやってくれ、劇をやってくれ」とやかましい。


そして副社長の男が何か演奏してくれというので第五部が始まることとなる。夏場はうちわで王子をあおいだり、「ONDINE」を演奏するたびに店の時計を止めてくれる客の男がいるのだが、この男が店のオルガンを触ってもいいかとヒゲの総帥に訊いてくる。一向に構わないとヒゲの総帥は地球を滅ばせることも許そうなくらい寛大な返事を酩酊状態でする。男はオルガンを弾きだす。


「…?」どこかで聴いたことのあるメロディーだ。


なんと「EVER FROZEN」である。ヒゲの総帥とシャフナーとタッキーは驚愕した。この男、訊くところによるとシベリアンなんちゃらのCDの発売と同時にずっとこの曲が好きで耳コピしていたのだという。それならばと総帥とシャフナーもギターを持ち、そこから三人での「EVER FROZEN」がはじまった。「他に何が弾けるのだ」とヒゲの総帥は時計を止める男に問うと「QUALIA」もいけるという、ならばやるぞと演奏は再会する。このときのシャフナーのソロは稀に見る名演であった、それはそうであろう自分が生み出した曲を目の前でファンの男が伴奏してくれる、演奏家にとってこれほどの嬉しさがあるものか。


シャフナーは時計を止める係の男の健闘を称える。副社長は「やばい」を大量に口から発行する。冷泉は殴り合いをしたくてたまらない顔をする、俳優たちは社会主義におけるなんちゃらかんちゃらについて論議をしている。バレリーナと星師匠の話しについてはヒアリングできない。タッキーとドマツ先輩はM&Aビジネスの話しや社内監査の話しなどをする。


ヒゲの総帥は相変わらずヒゲを捻りながら、ヒゲに白いものが混じってきたことを気にしている。


そして今夜も演奏会は催されるのである。


d0372815_14470431.jpg


[PR]
by amori-siberiana | 2017-12-10 14:47 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


北濱のオフィスにてコーヒーを飲むヒゲの総帥。隣にはアキラメ堂のご主人と上仲が陣取る、どうやら今夜二人は近場で行われるであろう人狼に参加するようである。上仲がなにかをヒゲの総帥に質問してきたような気がしたが、すっかり忘れてしまったのでなかったことに等しい。つまり、歴史というものは記録にされないとなかったことと同じになるのである。そこに如何なる崇高な理念や信念、はたまた恋情や旅愁があろうとも表現されて記録されないことには何も残らない。ただ、残すことが大切なのかといえばそれは別の問題であり、敢えて残さないことも有益なのかも知れない。


これだけの人間が今生きており、歴史上これまでにはさらなる多くの人間が生まれては死んでそれぞれ何か考えては思うところがあるからして、それらの全てが記録されて後世の人に共有されていたならば、どれだけ新鮮味がなくつまらない世の中であったろうか。ヒゲの総帥は世間が前進するために忘れ去っていく記憶の裁断機になってみたい。記憶調書のようなものがあったとして、死にゆく人の最後の記憶が悪いものであるのなら、ヒゲの総帥が「生まれてきてよかった」と勝手に書き換える。死にゆく人がそれにより「そうか、生まれてよかったのだ」と勘違いしたまま死を迎えられるような仕事がしたい。宗教的なまやかしに似ているのかも知れないが、まやかしというものはまやかしを求める心があるから成立するのである。この世にまやかしは必要不可欠だ。


ヒゲの総帥が店に行くとエイリアンがいる。奥の席には二名の若い青年将校がいる。「北濱独身ミドルクラブを創設して各国に支部を作るのよ」とエイリアンはいう。概要はこうである中年の未婚男性ばかりを集めてメンバー全員会費制にする。その会費をプールしておいてメンバーの中から結婚するものが現れたら、その人間が会費を総取りできるというものだ。「これは少子化対策にもなる!国から助成金も下りるんじゃない」とエイリアンの高説はいよいよ佳境に入る。火鉢の上に置かれた鍋には万作特製のうどんが入り、椀が来店者に行き渡るのでうどんをすする。ヒゲの総帥は大阪で出会ったコシのないうどんが好きである。


エイリアンの話しをBGMに常連のガルパンの男、不思議な女、妖精の女、グラフィックデザイナーの男、そしてハイタッチ冷泉、チンピラの男が続々とやって来る。


「でも、それだと詐欺する奴が出てくるんじゃないですか。元々結婚予定だった男がその事実を伏せてクラブに入り込み、会費をせしめていきそうな気がします。僕ならそうします」とガルパンの男は忠告を促す。「うーん、それやったらそれがバレたときには倍返しみたいなん作ったらどうやろ」と版画家の万作はもっともな意見をいう。「なら定款を作ればいいのよ、それを作ると思っただけでワクワクするわ」とエイリアンはいよいよ冒険が始まるような顔をする。


オルガン横の奥のソファに深々と腰かけているチンピラの男が口を開く。「エイリアンさんは何してはった人なんですか」「私!?チンピラよ!!」とエイリアンの即答に店内には笑いが起きる。冷泉はアイコスを吸いながらニヤニヤする。


「北濱独身ミドルクラブのロゴは僕にデザインさせてください、格調高いイングランド王家のようなエレガントなものを作りましょう」とヒゲの総帥は挙手をする。「よし任せた!」とエイリアンは放り投げる、エイリアンから受け取ったクラブのイメージは、表面的には貴族趣味の独身たちの社交場という体裁になっているが中身を空ければ、コンビニ弁当を愛妻弁当としているおっさん連中がグズグズしているというものであろう。その表裏のコントラストが諧謔的でユーモアに溢れている。


店内が北濱独身ミドルクラブについて話しを進めており、個々が意見をいう。ヒゲの総帥はふと隣に座るエイリアンを見る、小ぶりの丸眼鏡の向こうの目が遠いところをみている。「もしかして、もう熱が冷めましたか?」とエイリアンに問うてみる、「そうだ」とエイリアンからの回答があった。さすがはエイリアン、熱の上がることティファールのように瞬間であるが、冷めることも宇宙空間のように氷点下まで一刹那である。


奥の席では日本人の美意識についての話しが行われている。人をこれまでに何度も殴ってきたであろうチンピラの男が口を開く「日本人が持つ美意識は黄金比に則しており、グスタフ・クリムトなども浮世絵からその影響を多大に受けている」という。チンピラの口からクリムトが出てくるとは驚いた、「クリムト…、ご存知ですよね?」とチンピラは周囲を見る、皆がもちろんだという顔をする。それならばとチンピラの男は話しを進める。


日本人は美意識が高いのだが、どうにも心にゆとりがない。多少なりとも欠けたものであったり、歪んだもの、傷んだものに対して辟易するのであり、それが人間に対しても向けられて容赦なく攻撃対象にされたりするのだと話す。顔の作りがちょっと変わっているとか、挙動が少し違うとか、自然の気まぐれによって黄金比から少しズレるところがあると、除外排除しようという動きになるのだ。なるほど確かにそうであろうと納得する。


冷泉はハッと思いついたように立ち上がる。そして眼鏡をくいと上げチンピラの男に向かって声を発する。


「殴り合い…しよや」「今か!?このタイミングで?お前、ムードが悪い」「グフフ…」と含み笑いをして殴り合いは始まる。


斥候の男とアキラメ堂のご主人がやってきて、ガルパンの男やグラフィックデザイナーの男と何やら話し込んでいる。殴り合いを終えた奥の席は歌で盛り上がる。チンピラの男が歌うレディオヘッドのクリープはなかなかのものだった。


この店は鍋のようである。ぐつぐつ煮えている、味が整うときもあれば整わないときもある、素材が互いを引きたてあうこともあれば打ち消しあうこともある。しかし、一旦できあがってしまえば鍋ほど手のかからない食べ物もない。


北濱のエルブジへようこそ。予約はがんがん取れます。


d0372815_12582695.jpg


[PR]
by amori-siberiana | 2017-12-09 12:58 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は北濱のオフィスにて店の帳簿を見ながらうんうん唸っている。唸るだけではもの足らずヒゲを引っ張ったり捻ったりしながら帳簿をながめる。まるでヒゲからお金を出してみましょうといわんばかりの勢いであり、少々滑稽でもある。取りあえず店の運営において何を最優先順位にしてスズメの涙のようなお金をどう使っていくか決めていく。そういえば週末には演奏がありヒゲの総帥も舞台にあがりギターなどを弾いて聞かせるつもりでであるが、当分のあいだ髪を切っていないことに気がつく。もともと髪には無頓着なヒゲの総帥であったが、版画家の万作のように頭に筆を突き刺して済ましておくわけにもいかない。


どうにか安く済ませられるところはないかと美容室を探してみるが、どの美容室も予算をオーバーしてしまう。「そういえば…」とヒゲの総帥は気がつくことがある、北濱のオフィスの近くに創業1917年の床屋があったことを思い出す、1917年といえばロシア革命が起きた年である。日本でいうところの大正6年。つまり今年でちょうど100年という老舗、三世代に渡って家業を継続させているのか、それともまだまだ創業当時のスタッフたちが現役でやっているのかわからないが、100年続くというのは相当なものだろう。


どちらにしても1917年というのがシベリアっぽいから悪かろうはずがないと簡単な気持ちでヒゲの総帥は数十年ぶりに床屋へ行く。床屋の名前は「有馬号」という、屋号は「号」とつくだけあり昔は主人の苗字に「号」をつけるものだった。何も有馬記念で大当たりした資金を元手に主人が意気揚々と開業したわけではない。


店に入ると広めの待合室があり、三人の床屋がいる。本日の予約者の名簿をみるとずらりと名前が入っているので人気があるのだろう。ヒゲの総帥が行った時間には幸運にも客が一人であり、その客も髪が仕上がったのであろう、店のカウンターで勘定を済まして出ていくところであった。


ヒゲの男は真っ黒いレザーシートの床屋椅子に座る。年配の床屋がやってきてどういうふうにするのかと聞いてくる、髪が耳にかかってきたり襟足が延びていて決まりが悪いから、それを払拭してくれたまえとヒゲの総帥は注文をする。髪を切られる、耳元でのハサミの音が心地よく床屋の男のバリトン声が睡眠薬のように「眠れ、眠れ」と囁いてくる。昨日のことを思い出して書いていても、その音を脳内再生すると今も眠くなってくる。


ヒゲの総帥の頭は何度も首がそれを支えきれずに下に落ちる、床屋によって頭を上げられる。そしてまた引力と睡魔によって落ちる、また持ち上げられる。これではまるで敗軍の将が何度も首実検をされているような光景である。しかし入念に髪にハサミを入れていってくれる、そして顔剃りである。顔剃りなどされるのは中学生時分以来ではかろうか、手際よく床屋の男はヒゲの男の顔の産毛を取り落とし、剃り終わったあとはゆで卵のような肌になっていた。ヒゲすら整えてくれるのはなかなか気恥ずかしいものであったが、原生林のようになっていた口の上はピョートル大帝のようにエレガントなヒゲとなった。そして洗髪をされてドライヤーをあてられマッサージをされて床屋の組曲は終了となるが、その全てがまったくもって見事の一言である。これぞ職人と目からウロコの体験であった。


1時間40分もいたのに、値段は3900円であった。これまで美容室で幾らほど使ってしまったことか(!)


これからは美容室ではなく床屋に行くようにしようと決意するに至ったことを床屋の主人に伝える。「でかした」と一声が飛び、それならメンバーズカードに名前を書くがいいだろうというので、金がかかるのかと問うとそんな趣向はないという。「そんなら入ります」と義務のかからぬことを知るや否やヒゲは急に気軽になる。感動も冷めやらぬままにヒゲの総帥はメンバーズカードに名前を書きつける。金がかからないということがわかっていれば、謀反の連判状へでも名前を書き入れますという顔つきをする。


北濱のオフィスへ戻ると、ハイタッチ冷泉が仕事の打ち合わせで来ている。ヒゲの総帥は早速「そこの床屋の技術は凄いぜ」と今あったことを説明する。冷泉はふんふん言いながらアイコスを咥えてヒゲの話しを静聴する、するとふとヒゲの総帥は冷泉の身に着けている真っ黒いネクタイの柄に気がつく。


「それはいったい何ですか」「ああ、これ?これは豊臣家の家紋です」「そんなネクタイどこで売ってるんですか、大坂城?」「違います違います」と冷泉は笑う。今日の冷泉のネクタイは桐花紋柄であったのだ。数時間後、これと同じ質問を図らずとも常連の不思議な女も冷泉へ向けることとなる。


冷泉の仕事が終わるのを待ってヒゲは冷泉と一緒に食事をする。二人は食事をしながら今後どうするつもりなのかなど話しをして、そして店へ行く。どてら姿の万作は静かに絵を描いているところであった、少し日取りが早いのだがとあらかじめことわりながらヒゲの総帥は万作に来月分の給料を渡す。万作は自分がルンペンだったときの経験談を語りだす、ヒゲの総帥も自身がその職務上で知り合った日本全国の奇人たちのことを話す。


温泉マニアの男が来る、そのすぐあとに常連のガルパンの男と不思議な女がやってくる。しばらくしてから夜行バスの女がやって来る、この夜行バスの女は先週の冷泉のちゃんこ鍋に参加したあと、そのまま夜行バスに乗って東京へ仕事のため移動するほど豪快である。ヒゲの総帥も音楽家をやっていた頃はそのような移動スケジュールなど日常茶飯事であったので、たまに新幹線やハイエースのグランドキャビンなどで移動できるときは、どこか外国へ出かけるような高揚感すらあった。


ヒゲの総帥はおもむろにデレク・アンド・ザ・ドミノスの「レイラ」の導入部をギターで弾き、「レイラ」の部分を「冷泉(レイゼイ)」にしてガルパンの男と歌う。酔っぱらっているのか知らないがこれがやたらと冷泉には愉快だったみたいで、真っ黒い物体が腹を抱える。それから不思議な女、冷泉、夜行バスの女、ヒゲの四人で歌うことにする。


夜も更けても歌の灯火は続いていく。田舎のお通夜のときに線香を切らしてはいかんとの決まりがあるようにどんどん歌を紡いでいく。その最中にやってきたのが北濱最強の男クモン提督である。クモン提督もその歌つなぎに混ざってくる。しまいにはアミニズム崇拝をしている未開の土人よろしく声の重奏が延々と宵闇に響くこととなった。


明日はいよいよガエル・ガルシア・ベルナルでの二日間の演奏である。


風は強く、雨は冷たい、それでもやっぱりギターは好きなのだ。


d0372815_18041618.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2017-12-08 18:05 | 雑記 | Comments(2)

こんばんは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、ギャラリー「遊気Q」をあとにしてヒゲの総帥は神戸のミサイルマンことタッキーに連絡を取る。取締役という役職についてのタッキーの見解を聞きたかったのである。このタッキーという男の人生も面白い、誰よりも若くして起業して音楽業界に身を置き、本人は表舞台に立つことはなく裏方に徹した仕事をしていた。ヒゲの総帥が以前に仲間と主催していたシベリアンなんちゃらのマネージャーをしていたのも、このタッキーという男である。


ところがひょんなことからタッキーは音楽業界から足を洗う。もともとあまり綺麗な足ではなかったようであるからして、洗ったほうが良かったのであるが、唐突に外国へ語学留学へ行く。まるで不倫報道があった女子アナのようなプランであるが、知らぬところでいつの間にかビジネスマンとなっていたのである。本人からすればようく段取りを練ってのことなのであろうが、タッキーの当時の苦楽など知る由もないヒゲの総帥からすると、急な転身という印象がある。


会社という組織に関しての知識においてタッキーほどアテになる人間もいないので、ヒゲの総帥は知恵の教授を仰いだわけである。


「タッキー、社外取締役ってどうやって任命されるもんなんだい」「ええとですね、会社法の第六条というのがありまして~(中略)~という次第なんです」「なるほど、それって例えば急に辞任したいときとかはどうなるんだい」「その場合はですね、基本的には取締役は退職という扱いにはならないんですよ。なので~(中略)~という次第なんです」「へえ、労基法の適用外になるんだね」とヒゲはヒゲを捻りながら返事する。「タッキーってまだまだ社外取締役になりたいもんかい?」「うーん、もうこれ以上は不要ですね。そもそも社外取締役というのは~(中略)~という次第なんです」。


唐突な電話での質問なのによくもここまで完璧に答えられるものであるとヒゲの男は感心する。ちなみに日中だというのにこれほど長い時間会社についての答弁を求められるタッキー社長の周囲は非常に静かであり、今どこにいるのか本人は決してヒゲの総帥には言わない。


ヒゲの総帥は自身が不明な部分をタッキーから訊きだして納得したあと、これもキッカケだからタッキーの会社の社外取締役になってやるよと手を差し伸べた、タッキーは「弊社にそのような予定は一切ございません」と悪質な訪問販売と対決するような口上を述べるに留まる。「さすがは賢明な判断をする」とヒゲの総帥は大笑いする。それからタッキーに対してオファーしていた今月の30日に行われる女将軍歌合戦の司会と審査委員長の按排を訊いてみるが、どうにも日程がつかずで申し訳ないという。本人の弁によればなんでも忙しくて忙しくて、世界中が俺を呼んでるというような断りをする。


それから店に行く。常連のガルパンの男と美容デザイナーの女で話しをする、デザイナーの女が自身が職場で経験した嫌なことを話しているにもかかわらず、何故か松茸ごはんを炊いていたはずの万作が割り込み気味に話しの腰を折りにくる。この男の間のとりかたの悪さたるや絶悪の見本であり、話し手側の意識を朦朧とさせるに足るのであるが、これが何度注意を促してもどうにも治らないのである。


誰もお伺いをたてていない段階で「うーん、ワシが思うに~…」のイントロダクションから入ってくる版画家の話しは危険信号である。柵から逃げ出すどころか、それが柵なのか棚なのかすら判然としない独自の超然とした世界が広がるのであるから。もちろん最終的にオチはなく、そこに解決もない。ただ炊き上がった飯のごとく話しをかき混ぜて無重力へと案内されるのだ。実は前日も冷泉と名前のような名字の男と話しをしているときも妙な間合いで厨房の方からイントロダクションが流れてきて、大いに弱ったものだった。


隣のサロン喫茶フレイムハウスの女主人など「日本語が通じない」とヒゲの総帥に苦言を呈する。宗教画のモデルの女は「(万作の話しは)聞いてへんなぁ、聞いてもなに言うてはるんかわからんしなぁ」という。ガルパンの男にいたっては「僕には万作の声だけ聞こえませんから」と澄ました顔で戦車を展開する。


そうこうしていると古池のオジキがやってくる。ギャラリーの女から古池のオジキへの言伝を頼まれていたヒゲの総帥はその旨を伝える。古池のオジキは珍しく陽気に酔っぱらっており、あれやこれやと冗舌に話しだす。


夜も更けてくると浩司ばいがやってくる。週末からの演奏イベントにむけての店で足りない機材を持ってきてくれる。随分と重さも幅もあるデジタル卓のミキサーを抱えて二階までやってきてくれ、セッティングをしてくれる。ヒゲの総帥がメカに弱いことを重々承知している浩司ばいはいつもどおり電源のオン・オフだけで音が出るように設定してくれるのだ。


スタンバイは完了した、ヒゲの総帥は初めて弾くマリー・ミー、バリーミーという曲を練習している。


d0372815_18074217.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2017-12-07 18:08 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


北濱のオフィスを出て歩いて5分ほどにあるツタの絡まる青山ビルへ行く。そのビルの一画には北濱のクリニャンクールといわれるギャラリー「遊気Q」があり、そこを取り仕切るのは自称301才というギャラリーの女性オーナー。ちょうど今日から新しい展示会が開催されているので、ヒゲの男はぐるぐるとギャラリーの中を回りながら作品を見る。今回は笹岡茂彦という男の絵画展示である。


先日、「阿守さんのおられるオフィスというのはどういうところなのか」という話しをギャラリーの女からされたヒゲは「一度、ご招待しますので来てみてはいかがですか」と応答したが「いきませんよ、絶対にいきません」と妙に固辞された。ヒゲの総帥が我が家のように通勤している北濱の臥龍窟こと「THE LINKS」というのはコワーキングスペースである。


コワーキングスペースとはなにかというと、ウィキペディアからの抜粋になるが事務所のスペース、会議室、打ち合わせスペースなどを共有しながら独立した仕事を行う共働ワークスタイルである。在宅勤務を行う専門職従事者や起業家、フリーランス、出張が多い職に就く者など、比較的孤立した環境で働くことになる人が興味を持つことが多いと説明されてあり、実情もそのままである。


さらに文言は以下のように続く。コワーキングは独立して働きつつも価値観を共有する参加者同士のグループ内で社交や懇親が図れる働き方であり、コスト削減や利便性といったメリットだけではなく、才能ある他の分野の人たちと刺激し合い、仕事上での相乗効果が期待できるという面も持つ


ヒゲの総帥がそもそもどうしてコワーキングスペースを利用しようと考えたのかには幾つかの偶然が重なる。まず、年明け早々、ヒゲの総帥が同僚たちと運営していた会社のすべての資金をそのとき代表に据えていた一人の年配の男が使い込んでしまった。業績はよくてもキャッシュフローが追いつかず社員に給料を払うことが困難となり、さらには契約他社への支払いも滞ることとなった。これではいかんとその代表の男が簒奪した資金を取り戻そうとするが、代表者は資金をすっかりどこかで溶かしていた。数億もの金をそんな短期間に使い切れるものかと考えたヒゲは谷町にある法務局へ何度も行っては代表の男やその周辺に絡む人間の情報を取得していった。


さすがに会社でそのような探偵業務はできないのでそのための場所が必要だと考えたのがコワーキングスペースを探すキッカケであり、さらには会社業務自体は運行していたので家賃未払いで会社を追い出されたときでも、最低限の業務ができる場所を確保しておきたかったとのことだ。次、仕事をするなら観光バスでごった返す心斎橋ではなく北濱こそ最適と考えていたヒゲはその地でコワーキングをリサーチしてみる。そして二軒目に来たのが今いる「THE LINKS」であり、雰囲気も環境もここがよかろうと済ましたわけである。


コワーキングでなくてシェアオフィスでも良く特にこだわりがあったわけでもないが、「THE LINKS」がコワーキングオフィスだったので、そうなったという次第である。ヒゲの総帥はそれと同時進行して会社の金を使い込んだ代表者の関連する同業種の別会社に身分を伏せてアルバイトとして入社する。それが4月の末だったような記憶がある。関連会社の業績をあげるため腐心しつつも代表者の隠し資産がないかと調べていたのだが、どうにもスカンピンであることがわかった。どうやら反社会勢力から相当な脅迫を受けているそうだということがわかったのだ。


反社(A)から身を守るために別の反社(B)に自身の庇護をお願いする。というより向こうから言い寄ってくるのだ、ワラにもすがりたい代表はこれ幸いの助け舟だと思い、泥船に乗り込んでしまう。そして乗船賃としてまたそこに金を使わされる、しかし結局のところ反社(A)と反社(B)は互いに通じ合っているという具合であることは明々白々である。ヒゲの総帥はその答えに辿り着いた時点で会社の金を取り戻すことはすっかり諦めた。前の仕事の内容に嫌気が差していたこともあったが、未練などはまったく感じなかった。つまるところ、ギャランティーが良かったからできていた仕事だったのだなと今になって思うのだそうだ。もう人々の阿鼻叫喚を聞くのは御免蒙りたいのである。


残ったのはコワーキングオフィスだけである。


フリーランスのロビイストになり何か世論を操作する扇動記事でも書いて糊口を凌ごうと考えてみた矢先、行きつけの画廊喫茶フレイムハウスの店主であった版画家の柿坂万作より「うーん、阿守さん、言いにくいんやけれども、今月(7月)でお店が最後になりますねん」と打ち明けられることとなった。「万作さん、これからどうなさるんですか?」「うーん、またホームレスになるしかないな」「ホームレスですか…」「まあ、これまでにも経験しとるし、なんとかなりますやろ」と万作は力なく苦笑する。目の前で死神に片足を持たれて水中に引きずり込まれて溺れる者を放っておく英断はヒゲの男にはなかったので、それならば潰れないように経営の再建をヒゲの総帥が目指すこととなった。


それ以来、コワーキングスペースの「THE LINKS」は画廊喫茶フレイムハウス(現在:クントコロマンサ)のベースキャンプとなったのだ。


そして日記をつけることをした。この英断がどういった結末を迎えることとなるのかヒゲの総帥には判らないが興味がある。とにかくこれは自分の人生において大いに転機であることは感得する部分があるので司馬遷の史記を気どるわけでもないが日々の出来事を残すことにした。それがこのブログである。といっても一度書いたものを読み返すことはない、読み返すことを想定して書くとプロっぽい文章となり、何度も読み返せるものに仕上がるのだが鮮度が薄れてしまうのであるそうだ。


常連客の理解寛容なくして現在はあり得なく、シベリアの戦友や客たちの人情なくして現在はあり得なく、「THE LINKS」の不可思議な面々たちなくしての北濱クントコロマンサはあり得ない。成立しなかったであろうことはブログを読み返さずとも理解できる。


「THE LINKS」にはコーヒーの匂い以外には何もない。風景に染みついた長老のような人間の説教臭い話しもなければ、忙しいアピールだけに必死な尊大な人間もいない。もちろん仕事に熱中している男もいれば、ヒゲの総帥の隣では頭からコートをかぶって寝ているだけの女もいる。酒は出ないので酔っぱらいもいない、大金持ちもいれば貧乏人も一緒くたにいる。それなのに生活感のない空間であり、出たいときに出ていける、入りたいときい入ってこれる絶妙なる空間設計がされているのだ。なによりなんの同調圧力もないのである。


アキラメ堂のご主人もいれば、宗教画のモデルの女もいる、たまにハイタッチの冷泉すらやってくる。スタートアップ企業を目指す上仲もいれば、婚活事業の女たちやライターやデザイナー、心理カウンセラーやライブハウスの経営者や暇つぶしの人間などなんでもかんでもいる。自由交易都市や砂上にあらわれるサマルカンドにいるような雰囲気であり、ヒゲの総帥は大層世話になっているのだという。


THE LINKSからどれほどのGNPへの寄与と二酸化炭素の排出がなされているのかはわからない。とにかくここはヒゲの総帥からすれば、なくてはならない必要不可欠で愛すべき場所なのである。ビジネスはどうなのか知らないが、人は抜群に良いのである。昔の教科書に「山高きが故に貴からず、樹あるを以て貴しとなす」とあるではないか。


是非、「THE LINKS」へ来られたし。ブログの読者も増えてきていることなのだから、せめて宣伝恩返し。


するっとヒゲの総帥が現れて、そのままクントコロマンサの店内に放り込み酒浸りにさせることは請け合いである。


https://links-kitahama.com/


d0372815_13331135.png
d0372815_13293742.jpg
d0372815_13312996.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2017-12-07 13:36 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


1月並みの冷え込みをしている北濱。もちろん北濱が1月だから淀屋橋が2月で本町が3月ということはない、皆が芸もなく一様に1月を決め込んでいるのであるから逃げ場はない。それでも日の光が差し込んでくると幾分か救われたような心地になるもので、盛夏の折には太陽の野郎などと恨みに思っていた気持ちも反転、お日様が恋しくなる。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は北濱のオフィスに籠ってコーヒーを飲む。それから店に行くとすでに常連の不思議な女とギャラリーの女がやってきており、しばらくしてガルパンの男もやって来る。厨房の万作はギャラリーの女がオーダーしたであろう食べ物を寒厨ながらせっせと作る。出てきたのは麺類であり、ギャラリーの女は石川五右衛門のように熱湯に浸かっている麺へ箸をつけて一気呵成に口へと引き上げる。


「そういえばこの店をする前からずっと気になっていた店舗があったのですが…」とヒゲの総帥はおもむろに話しを開始する。ヒゲの総帥が気になる店舗というのはクントコロマンサから歩いて3分もかからぬところで、堺筋に面した頭の低いレトロビル一棟のことである。以前にはそこへ英国パブ様式の店が入っており、味はまあまあ雰囲気は良いという印象を持っていたヒゲだったのでそこへ何度か通っていたのだそうだ。ある日も気分よく飲んでいた、一緒にいたのは長年の知人であるタカハシン・コルテスというゾンビみたいな顔をした男であっただろうか。ヒゲ殿はギネスビールをしこたま飲んだあと、その店へ帽子を忘れたことに気がついた。どこのどの時点で気がついたのか判然とはしないが、とにかくその日は面倒くさくて取りに戻らなかった。


幾日か経過したあと思い出したように忘れた帽子を取りに行くと驚いた。店はがらんとしており空き店舗となっていたのである。森羅万象、飛花落葉、生者必衰、有為転変の理と知ってはいるものの自分が気に入って拠り所としていたパブがなくなるのはなんとも惜しい。せめて帽子くらいはドアノブに引っ掛けておいてくれればいいものの猶更惜しいと思う。一度に二つのものが闇に消えるのかと感じると総身の活気が一斉にストライキを起こしたように気が滅入ってくる。こんなにいい店を他人にくれてやるくらいならここを居城と定めて自身で店でもするかとテナントの管理会社に連絡をすると、保証金で700万円が必要だといわれ悪寒がして目がぐらぐらする。


ところが情熱というのは文字どおり熱病と似たところがあり、しばらくするとその熱も冷めて寂寞を多少なりとも抱えるものの、普段は弊害なく進んでいき、おかげさまで現在のクントコロマンサを見つけることとなった。先述した店は英国から米国に趣向を変えたようで、アメリカンスタイルのバーになっていたのだが水商売の難しさを身をもって露呈することとなった。ヒゲの総帥が通りかかったときには残念ながら人の気配はなく、「CLOSED」の看板がずっと掛けられたままであるのだそうだ。


その話しが終わるころ、万作がご飯を炊いて茶碗によそって持ってくる。先日、客からいただいた漬物を添えての新米は豊かな食感と風味、あとに残る旨味がひきたてられて何杯も食べられるのである。食前方丈もよろしかろうが、こうして一膳の茶碗に盛られた白米と漬物数切れというのを美味しくいただけるのは、より幸せを感じるものだ。ハイパーインフレを脱却した国家のような平穏の静けさを胃にもたらすのである。先ほど麺を食べたばかりであるギャラリーの女も米を食べるという、さすがは自称301才の健啖は並ではない。


店の中央には火鉢が置かれ、その上では鉄鍋が湯気をあげている。常連の不思議な女とギャラリーの女は田舎の駅舎の待合室のようだという。ヒゲの総帥は週末になにか出し物をするそうでその練習にギターを静かに鳴らす。ガルパンの男はガルパンをする、万作はバーカウンターへ入り描きかけの肖像画に筆を入れる。


行けるのならどこへ行ってみたいのかという話しを皆でする。ヒゲの総帥は辺境の地か世界の中心のマンハッタンがいいという、不思議な女はイギリスのコーンウォール地方へ行きたいという。海岸線の見える荒野を歩き続けたいのだという。ヒゲの総帥は「いいところ言いますね、そういうことなら、僕も同じくコーンウォールにします」と平然と希望変更する。


ヒゲの総帥は不思議な女に問いかける「コーンウォール地方の西の果てにある地名を知ってますか?」「いいえ、知らないの」「ランズエンド(地の果て)というんですよ」「そうなんだ」。ヒゲの男はおもむろに自身がその地を題材にしたという曲をギターで弾きだす。なんでも世界の果てになんちゃらかんちゃらという長ったらしく説明くさい表題であったような気がする。


ギャラリーの女にも同じ質問が飛ぶ。「私はね人がいるところじゃないと嫌なんですよ、そんな人がいないようなところへ行くと砂になってしまいそうなの」という。ヒゲ殿はいう「熊野古道みたいなところは勘弁ということですか」「いいえ、あそこなんかは人ばかりじゃないですか、そうじゃなくて人のいないところですよ。そういうところへ入り込んだら最後、帰ってこれないと思うんです。それこそ木や砂になるんです」「物質に…還元されるということですか」。


ヒゲの総帥はギャラリーの女がリヒャルト・デーメルが描く「浄夜」のような世界へ入り込んだところを想像する。この女がどんな物質に還元されるかをシミュレーションしてみるのであるが、どうにも砂というイメージがない。それもそのはずギャラリーの女は眼前で白米を食べる、イメージできるのはギャラリーの女が大きな大きなウツボカズラに変容するところくらいである。


夜も更ける、ハイタッチ冷泉がやってくる。同窓会帰りの好々爺がやってくる。好々爺は酒をおごるから井上陽水の「少年時代」を歌ってくれというので、ヒゲと冷泉と不思議な女は一緒に歌う。老人はご機嫌で足を幼稚園の子供のようにバタバタさせて、ブラボーを何度かいう。それから名前のような名字の男がやってきて、四方山話が栄える。逸民を決め込んでいるヒゲの総帥にそろそろ刮目せよと発破をかける、冷泉はヒゲに猛獣使いとなってみるがいいと提案する。


驀地に打て出たり、どこへ行かなければならぬのか。ヒゲはヒゲをひねりながら頭をかく、かいた部分からは頭皮が剥がれボロボロと服の肩に落ちてみっともない。


万作は眠たそうな目をしながら酒掃薪水している。


d0372815_12263318.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2017-12-06 12:27 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


冬の大祭、万作祭の第一夜が無事に終わった。特に死人も出ることなくそれぞれが帰路につけたのであるから、これは無事と断言しても別段問題はなさそうだ。街路樹としていつのまにか市の栄えた銀杏並木の葉が昨夜からの風雨で、植物間にも人並みの同調圧力があるかのように一斉に落ちる。その銀杏の葉を掃く人がいる、植物は生まれかわりと変容を心得ており、動物は愛嬌と死に際を心得ている。だからいつも人は動物や植物に自分を重ねてみて、その相当なる覚悟に恐れ入るので写真に収めるのであろう。


ヒゲの総帥が大台ケ原の山荘で知り合った男の話しをしよう。この大台ケ原というところは深田久弥の著した日本百名山にも選ばれている名峰であり、山頂までとても行きやすい。山自体の開拓史は新しいものであるが、上等の道が山頂近くにまで延びており、しかも駐車場も大きく広がっており時間制限もなくトイレと自販機も完備されている。しまいにはバスも運行しているという優れものだ。ヒゲの男が大台ケ原くんだりまで何をしに行っているのかといえば、これは登山のようなものではなくただただ星を見るために訪れるのである。


ある夏の盆休みの頃。この時期にあわせてというわけでもないだろうがペルセウス座流星群が見られるので大台ケ原の山頂へ向かう。冬季は早い段階から交通不能となる大台ケ原山頂への道も夏は賑わっている、道自体が比較的に広いので車同士の行き違いの往来時に面倒なことはない。昼過ぎには山頂駐車場へ到着したが、星が見える夜になるまでには随分と時間があるし、紀伊山地をぐるりと周遊していたのでへとへとに疲れていた。なので財布のなかのお金を数えながら、苦し紛れに山荘で一泊することにした。次の日は朝から大きな仕事があったのだが、朝の4時とか5時に山荘を出ればどうにかなるだろうという考えである。


あいにくと盆休みの繁忙期ということもあり個室は全て埋まっているのだという。別に寝るだけだから大部屋でいいと伝えてそこへ移動する。おおよそ20人くらい寝れるであろう部屋にはご夫妻らしき二人と男性が一人がおりこれで全てだという。一夜を共にするわけなのであるからヒゲの男はそれぞれに挨拶をする。これが普通の挨拶だけで終わるのかと思えば、それぞれ変わった人間ばかりであるので、いよいよ話し込むことになる。


「補陀落渡海のあった場所はどこなのか」とか「阿守はシュールレアリスムのマルセル・デュシャンを知ってるか」とか一般の登山客とは会話の内容が違う。ご夫妻のほうはニューヨークで活動する芸術家であり日本に置いている土地のなんたるかを整理するために帰国して、そのついでに西大台に入ってみようということになったのだという。大台ケ原の西部は申請をしないと一般人は入山できないことになているのだ。もう一人の男は鳥を撮影しに来たのだといって、自身のカメラを我々に見せてくれた。そこに写っているのはやはり鳥ばかり。


「どうして鳥を撮影しようと思ったんですか?」と鳥に無頓着なヒゲの総帥は初歩的なことを訊く。ある日、その男が外出したとき目の前に鳥が空から降りてきた。偶然、手元にカメラがあったので鳥を撮影してみた。それがすべてだったと鳥男は話してくれる。そこから平日は仕事をして休日は鳥を追いかける日々が続いているのだとのこと。どうしてエベレストに登るのかと問われ「そこにエベレストがあるからだ」と答えたのは登山家のジョージ・マロリーであるが、まさにそういう簡潔でウソのない答えであろう。この回答は円周率を表す「π」や自然対数を表す「e」のようにエレガントで、他の何者にも属さないような高潔さがあるのだ。


何度か鳥を撮影している自分にうんざりすることもあったというその男。これまでにもう鳥を追いかけるのは止めようと思うたび、目の前に鳥がやってくる。鳥がいるのだから撮影をせざるを得なくなり、今に至るのだと説明する。


「最初は何でも良かったのです、スズメでもカラスでもなんでも良かったのです。とにかく鳥を撮影できればよかったのです。ところがどんどん撮影する度に、自然に簡単に撮影できる鳥は撮りつくしてしまい、そのうち今のように撮影が難しい鳥しか残っていなくなったのです。自分でも自分が何をしてるのかよく解らなくなるときがあるんです、どうしてこんなに鳥ばかりに自分の時間を使ってるのか。バカなことしてるなと自分でも思いますよ、ただ、鳥が自分のところに来よるんです。仕方がないんです」


「鳥が自分のところに来よるんです…か」と一同は納得する。


芸術家の男が話す。


「ある日、アンディ・ウォーホールが【a】とプリントされたデザインを発表した。オレはそれを見てふざけるなと思ったのだ。どういうつもりなんだこの野郎と感じた、これは完全にオレに対する挑戦状だと捉えたのだ」と芸術家の男は当時を思い出しながら語る。細君は隣でうんうんと頷くが、他の面々は「???」という顔をする。そんなことなど構うことなく芸術家の男は話しを進める。


「この【a】をなんとかしないことには寝ても起きても気になって仕方がないという心境になったのだ。そこから数日はそのデザインが頭に染みついて離れない、ええい、忌々しい!なんとかアンディに一泡吹かせてやりたいものだ」と怒気と熱気を帯びた話しは続く。そしてあるとき、芸術家の男はひらめいたのだ。


a】にダッシュ(')を付けてやればいいのだ…。そうだそうだ、こうしてやれば一泡吹かせられるはずだと思うままに早速【a'】の製作に取り掛かる。ようやく完成した【a'】をアンディ・ウォーホールに送りつけてやれと行動に移す。それを不意に受け取ったアンディ・ウォーホールは驚く「オレの【a】を【a'】にした奴がいる!なんてことをする奴なんだ、これはいかんこれはいかん、どうにかしてこいつをぎゃふんといわせてやらなくてはおちおち飯も食えない」ということになった。細君はやはり隣でうんうんと頷くが、他の面々は相変わらず「???」という顔をする。そんなことなど構うことなく芸術家の男は話しを進める。


「そこであいつ(アンディ)は凄かったね、このオレの【a'】をシャツにプリントして着やがったのだ」と芸術家の男は不倶戴天の敵なれど天晴れであるという顔をする。細君は「アンディ・ウォーホールは偉大」と言葉を添える、他の面々の「???」はあまり変わらない。


その晩は全員で星を見た。もちろんヒゲの総帥がほとんど無理やりに全員を叩き起こして外へ連れ出すのであるが、そこには満天の星空があり、流星も幾つか見れたこともあり暇はしなかった。何時間も何時間も夜のしじまが永久に続けばいいと願うほどに、恵まれた一夜であった。他人と同じ光景や経験を分かち合うこと、交流することの不思議さに快感を覚えた瞬間でもあった。


そのアンディ・ウォーホールであるが、こんな言葉を残している。


「but why should I be original? Why can't I be non original?」


どうして独自性がないといけないのか?他の人と同じの何がいけないのか?


銀杏の葉はやはり皆で一様に散り際を弁える、それは見事なまでの生の最後を彩る祭りのようである。



d0372815_12403365.jpg




[PR]
by amori-siberiana | 2017-12-05 12:42 | 雑記 | Comments(0)

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


先週までは温かかった外気もやはりそれなりに暦との帳尻を合わせなければと急いたのか徐々に寒くなってきている。暦というものが発案されてからおよそ4000年のときが経ち、そして世界の標準時刻が設定されてからは140年くらい経つ。こいつは便利ではあるのだが、どうにもいただけない部分がある。カレンダーなるものが出来たおかげで人々は一年がサイクルによって成立していると勘違いしてしまうのだ。つまり、一年周期で地球は宇宙の同じところを回っているように勘違いしてしまうのだが、実際はそうではない。


地球というものは投げっぱなしされているようなもので、これがしまいにはどこへ到達してどのようになるのかは誰も経験したことがない。皆がぎゅうぎゅう詰めになって船に乗っているが、行き先については誰も知らないのと同じである。そんな恐ろしくてあまりに薄情だからということで、その不安を打ち消すためでもあるまいが、カレンダーなるものを誰かが作った。カレンダーなるもののおかげで、明けましてや暮れましての挨拶も成立する。


先述したが我々は常に行ったっきりの船に乗船しているようなものだ。その船のなかで客室が上でもない下でもないとゴジャゴジャしている。あそこの客室の奴らは生意気だからこらしめてやらなくてはいかんとか、あそこの客室の奴らに船内を掃除さえておけばいいだろう、あそこの客室の奴らとは考え方があわんとかである。誰かこの船を沈没させてやろうかという客室人類共通の不倶戴天の敵でも現れない限り、ゴジャゴジャするのはずっと続くであろう。


生きていくうえで喜怒哀楽は非常に結構である。ただし、それも平等に経験しなくてはいかん。喜楽だけを享受しておいて怒哀を他人になすりつけては知らぬ顔をしているようでは、人の文化は衰退していくだろう。黒ずくめの男、ハイタッチ冷泉は「喜楽」を常に考えているそうだが、彼の根底にはしっかりと「怒哀」があるのだ。だからヒゲの総帥は冷泉の言葉には迫力と凄味と信頼感を寄せている。怒哀を乗り越えたところにある喜楽とはどのようなものか。ヒゲの総帥は好きなことばがある、どこかの宗教学者とか革命家がいったことばであるのだが、一時も忘れることのないことばだ。




― 明日、世界が終わるとしても、私はリンゴの苗を植えるだろう ―




さて、昨日のこと。


日中、ヒゲの総帥が北濱をウロウロしていると、通りの向こうから変人がやってくる。変人の視線というのは常人のそれとは違うので、必要以上に突き刺さってくるのだ。なので相手が誰なのか判然としないが、とにかく変人であろうことは肌身に突き刺さる視線をもって予告されるのである。どんどん近づいてくる、ある程度まで近づいてきたときに視線の発信元が版画家の柿坂万作であることがわかる。


万作は自転車のブレーキをかける、ギギギギギギギギギギギーとけたたましい金切り音が北濱の淡路町に響く、もうそろそろよかろうと思っても自転車は止まらない。ブレーキ音は相変わらず音をあげる。30メートルほど進んでようやく止まる万作の自転車、そろそろ新しいのを買わなくてはとヒゲの総帥は思った。交差点での出会いがしらの事故などの突発的な出来事が起きるとき、それを30メートルも先から予測することなど不可能なのであるから。この自転車で事故を起こさぬうちになんとかしなくてはならん、幾ら変人といえども鷹の視点を持っているわけでもあるまいに、このままでは今に死ぬ。


夜になりヒゲの総帥は店に行く。昨日の大騒ぎのあとなので誰もいなかろうと店の階段を昇ってみると、どうにも人の気配がする。店に入ってみると、エイリアンとすなめり商店のご主人と、ここ最近は社会主義国家ばかりに行ってるバイオリンの女が同じテーブルで何やら話しをしている。これはなかなか珍妙な取り合わせである、エイリアンとすなめり商店のご主人は異星人同志で長年来の付き合いだそうだが、両者とバイオリンの女とはまったく接点がなかろうに、どこのどのあたりで意気投合しているのかヒゲの総帥は好奇心をそそられる。どこに共通の公約数があり議論が成り立っているのだろうかと。


イラク、クウェート、アラブ首長国連邦などが一堂に介した交渉のテーブルに一席だけコスタリカが入っているような不思議さがある。


「はい、オーナー来ましたよ、オーナー、彼・が・オー・ナー」とエイリアンは念押し気味にヒゲの総帥を紹介するが、ここにいる誰もが知っていることなので誰に対しての紹介なのかはよくわからないままである。「ラブホ展も盛況のようでなによりです、どうも女性のお客さんの方が多いそうですね」とヒゲの総帥はエイリアンが生業にしているギャラリーのことを言の葉に乗せる。「女のほうがエロに興味があるのよ、ラブホってどんなところってね」とエイリアンはいう、「うんうん」とバイオリンの女は焼き飯をかきこみながら頷く。


「だから、さっきの話しに戻るけれど、今後、独身の男は50%になるのよ。50%!そんな世の中になるんですよ。あなたがそのリーダーになりなさい」とエイリアンはすなめり商店の主人を見やる。「僕が…ですか?」とすなめり商店のご主人はキツネに化かされたような顔をする。「この人は変態なんですよ!ド変態!独身のド変態」と乱暴にすなめりのご主人を紹介するエイリアン。


「なんとなく変態なのは顔や体からオーラとして感じてました」とヒゲの総帥も遠慮のないことをいう。すなめり商店のご主人はグラフィックやウェブのデザインを主に職業としており、それ以外では身長160センチ以上の男を皆殺しにするウイルスを開発中とのことである。バイオリンの女が口を開く「でも、私自身が身長が高いほうなので160センチ以下の男性ばかりだと困る」とのこと。「なら、身長160センチ以下の男を皆殺しにするほうが早いということになりますね」とヒゲの総帥は話しを進展させる、「…そうなると僕が死にますね」と寂しそうに語るのはもちろん、すなめり商店の主人である。


そのとき「見えた!」とエイリアンが急に言いだす。


「見えた!これはビジネスになる。あなたやりなさい、独身男たちを結集させるのよ。見えた!」とさらに言葉をつぎ足す。「ええっ、何が見えてるんですか」と笑いで腹を抱えながらヒゲがいう、「僕にもまったく何も見えてません…」とすなめりのご主人も困惑した顔でエイリアンの顔を見る。エイリアンは愚鈍な人類に呆れたようで、「ビジネスが見えたのよ、ビ・ジ・ネ・ス!」と誇らしそうな顔で一人達観の境地へ行く。


「せっかく生まれてきたのに、働くだけ働いて、コンビニの弁当たべて、女もいないっていう惨めで侘しい彼奴らを集めて決起するのよ。彼奴らはこれでいいのだ、こういうのもアリなのだと自己肯定できるカルチャーを生み出そうとしてるけど、そんなもんは憐れでしかないのよ。あなた(すなめりのご主人)が旗手で万作君にもこのメンバーに入ってもらいますからね。女を食事に誘わないような男が多いのがいけないのよ」とエイリアンは毅然たる口調で宣言を発布する。「確かに誘われたいものですよ」とバイオリンの女もエイリアンに同調する、「こんな美人が独身でいるんだから、もっともっと誘わないと!」とエイリアンの論調は熱気を帯びてくる。「できたできた!久しぶりにこれだけ明確なビジネスのヴィジョンができた!」、「できてるんでしょうか…」とメモを取りながら困惑し続けるすなめりのご主人。「で・き・た!」と最後に念押ししてエイリアンは言いたい放題でご満悦である。


すなめりのご主人は鞄のなかに割り箸を幾本か入れて持ち歩いている。どうやら、腹が立ったときに鞄から割り箸を取りだして両手でバキッと割るのだという。その光景を見たエイリアンとヒゲの総帥は「それだ!」と確信した。


思い出したようにバイオリンの女が土産をくれる。ここ一年、社会主義国ばかりを巡っていたこの女から中国の土産をもらう。ウーロン茶味のポッキーと、見たことのない酒である。中国といえばかの地で貧乏旅行を続けていた万作である、彼にこの酒を知っているのかとヒゲの総帥は訊いてみる。「あー、あー、これは米の焼酎ですわ。うーん、美味しいもんではないけど、向こうの奴らはみんなこれ飲んでましたわ。なんちゃら族の若い娘さんと出会うたとき~(中略)~それで、ワシも葬式に出ることになったんですけど、若い娘さんなんか一杯やのうて、ぐいっといきよるんです」と万作はこの酒を知っているという。アルコール度数を50度を軽く超えてくるこの酒を万作はぐいと飲む。「あー、これこれ、最後にヌカ臭いんがくるやつ」と懐かしそうに感想を述べる、ヒゲの総帥もその感想につられて飲んでみる、そして「まずい…」と八名信夫のような顔をする。


夜も更ける。万作は昨日の残りのちゃんこ鍋に多少のアレンジを加えて、そこに中華麺を入れてラーメンを作ってくれる。ラーメンの湯気と一緒に立ち上がってくるコショウの風味に懐かしさを覚える総帥、訊くところによるとこれは万作のオリジナルで、黒コショウと白コショウを独自調合したものだとのこと。昔はこうしたコショウがどこにでもあったのだが、今は見なくなったとのことを教えてくれた。


見た目は最悪だが、味は最上のものであった。


d0372815_13303379.jpg


[PR]
by amori-siberiana | 2017-12-04 13:30 | 雑記 | Comments(0)


北浜のビジネス街にある、昭和レトロなカフェのブログです。            大阪市中央区淡路町1丁目6の4 2階上ル