こんにちは、北浜にある猫のひたいのように小さな店、画廊喫茶フレイムハウスの阿守です。朝遅くに「き多や」さんへ表敬訪問に行きまして、バゲットを抱えて北浜のオフィスへ出社し、今しがたパンを版画家の柿坂万作さんのところへ届けてきました。黒猫のジジも一緒です。


さて、昨日の夜のこと。


万作さんはいつものように工作に明け暮れて、テーブルの下は削られた木屑が散乱。ガルパンの男はスマホに目を落としたまま、ビールをあおり、僕は僕でギターの練習をしていました。お店というよりは、毎年のようにインターハイ出場など夢のまた夢という状態のなんらかのクラブの部室。


今日はこのまま来客もなかろうと思っていたが、そうではなかった。


まず、温泉マニアの男がやってくる。そしてその後、久しぶりに顔を出したのが、ギャラリー経営者で作家のエイリアンである。このあたりの人は彼女に敬意を表して「エイリアンさん」と敬称をつけて呼ぶ。その風貌は溢れる才気が抑えられずに、とても異質なオーラを放っており、地獄を見学して爆笑しながら帰ってきたようなふてぶてしさがある。


エイリアンさんが原案を出したドキュメンタリー映画は各方面で絶賛され、今でも日本のどこかを巡回上映している。


そして、順序が逆になっているかも知れないがギタレレの女が来店。ギタレレの女は「阿守さん、借金返済、おめでとうございます」との祝辞とともにミニマムサイズの給料袋と天の川ようかんを差し入れしてくれた。


さらに斥候の男もやってきて、エイリアンさんがボルネオのジャングル奥地へ行ったときの話しをみんなで聞くことになる。


「ジャングルの夜はやかましいのよ!ガッタンガッタン、キキキキー!そりゃあここらの工事現場のような音がするのよ」


ガルパンの男がいう「それって、金の採掘とかしてる作業音じゃないんですか?」


万作さんが口を挟む、「いや、ボルネオやったらルビーと違う?」


エイリアンはその全てをスルーして話しを続ける。


「それでね、ボルネオのジャングルの奥地にどんどんどんどん進んでいくでしょう!そこになにがあると思う?なんと、リーガロイヤルホテルがあるのよ!」


一同から「おお…」という声があがる。中之島にあるリーガロイヤルが商魂たくましく、ボルネオの奥地にまで触手を伸ばしていたことに呆れるような感嘆の声。


僕が口をひらく、「野獣なんかに遭遇はしなかったのですか?」


エイリアン、「ジャングルでは遭遇せんかったな、ジャングルに野獣なんておらんの違う?」


いやいや、あなたが遭遇しなかっただけで、絶対いるでしょうという反応を皆がする。


エイリアンはその反応を無視して続ける、「でも、そういえば夜になってジャングルを歩いたら、そこいら中で生き物の目が光るのよ。そりゃ光るってレベルじゃなくて、まるで都会のネオンのよう。町があるんじゃないかって光りなんだから!」


ボルネオの話しの途中で僕は自身のたばことミネラルウォーターが切れたのでコンビニに買いに出る。数分後、お店に戻ってくると話しはいつの間にか「豊田商事会長の刺殺事件」になっていた。ボルネオから豊田商事へと、どのような経路を辿ったのか僕は知る由もない。


全員を巻き込んでの話しは留まるところを知らない、夜も更けて、ギタレレの女が名残惜しそうに店をあとにする。エイリアンさんの話しは止まらない。


キッカケは北浜にできた射撃バーだった。


エイリアンがいう、「あそこの射撃バーで、何かの商品を撃ち落としたら100万円くれるっていうイベントをすればいいのに、そしたら行列よ!行列!」


温泉マニアの男がいう、「それって、法律に触れて取り締まりの対象になるんじゃないですか?」


僕がアイデアを挟む、「なら、発想をそのままに応用を考えましょう。パチンコ屋のように三点方式を用いるのはどうでしょうか」


一同がなるほどと、うなずく。


僕は話しを続ける。


「まず、射撃バーで撃ち落とした景品をもって、隣の喫茶店リヴォリで違うものと物々交換します。リヴォリで受けとった何らかをサロン喫茶フレイムハウスに持ち込んで、お金で買い取ってもらいます」


ガルパンの男がいう、「最終的な引換所には、古物商の認可が必要になるかも知れん」


エイリアンが僕のアイデアを推し進める、「サロン喫茶フレイムハウスで何らかのものをもらって、その足で画廊喫茶フレイムハウスにきて、万作さんの絵と交換する。絵なんて値段があってないようなもんだから、最終的にその絵を100万円で転売するという口実で100万円を受け取れるんやない?」


僕がいう、「万作さん、収入印紙が必要になりますね」


一同が爆笑となる。


それで最終的に交換した万作さんの絵を100万円で誰が引き取るのかということに関しては、誰も言及せずに話しはそこで終わった。…かのように思えた。


笑いも落ち着いたあと、ひと呼吸おいてエイリアンさんが口を開く。


「ヒリヒリと焼けつくような町にしたいな、歴史もある、暇を持て余した金持ちもおる、見どころも沢山ある。なのに北浜に足りんもんはなんやの」


僕が即答する、「英気を持て余した、金のない若者」


エイリアンは僕を指さし、口角を上げながら「正解!じゃあ、どうする」という。


僕は答える、「あらゆる事象において、その価値をつけるのは言葉です。文化や歴史や人生を記録するのも言葉であれば、有象無象の美醜云々に先駆けて必要なのがそれらについて語られる言葉です。言葉を失えば、人間は一秒前の自己の存在証明すら誰かに伝達することができません。なので、これからの若者や今の世代に北浜の文化を作らせるため、まずは言葉を編むにふさわしい土壌を提供するのが上策です」


エイリアンは爆笑しながら、「その先は!」という。


僕は「はい、北浜は大阪市から独立して、文芸的な立ち位置では自治州としての確固たる地位を築きます。大阪という地名を知らない外国の人たちでも、キタハマという地名は知っているという状況を将来的に作るのです」と答える。僕は自己のなかに長年あたためていたわけでもない、北浜自治州にむけての構想を一同に伝える。


エイリアンが「よし、資金提供を募ろう、この界隈でA社とB社が大きな資本を持っとるけど、そのどちらを調略する?」


僕が答える「A社とB社のどちらかを選ばないといけないのですか?」


ガルパンの男と斥候の男が「同業者やねん、どっちもいうんはなかなか難しいんやないかな」


僕はそれを聞いて答える「であるなら…、その同業者を結ばせるのです。薩長同盟のように似たもの同士は反発もしますが、結託すれば強い。船中八策については僕に任せていただければ結構です」


エイリアンはいう、「あんたビジョンが見えとるな、見えとるな、おもしろいな、それ、やろか!私のギャラリーをあんたにあげるわ!人脈もなんでも使うたらええわ!」


ええっ!?と一堂が顔を見合わせる。


エイリアンはその仰天を無視して続ける、「こんな面白い話しをな、飲みの席だけのことにしたらアカン、私は作家一本に転職いたします!」と宣言をした。


まず、その場にいる全員で北浜自治州の範囲を決める。


《東》:東横堀川
《西》:御堂筋
《南》:本町筋 ※タッキーの大好きなHOOTERSは残念ながら除外された
《北》:土佐堀


北と東を攻められたとしても、橋を切り落とすことで時間は稼げます。兵力は西の御堂筋側に集中させておきます、南が手薄になりますが、これは段階的に船場センタービルを要塞化することにより、難攻不落の防衛を実現することが可能です。と僕が発言する。


ガルパンの男が「第二次、大坂夏の陣やな」と吹き出しながら、相槌をうつ。


自治州の範囲内に大阪証券取引所がありますので、そこがこちら側にひっくり返るタイミングで独立の宣言日とすることにしましょうと、僕が発言する。


「初代の自治領主は船場吉兆の女将にお願いしませんか?」


「ダメだ、あの女将は今、北新地の住人となった」


エイリアンが「食糧はどうする?」と質問をする。


温泉マニアの男が答える「自分は八尾の人間なので、このパルチザンには加われませんが、農協にツテがあるので食糧の供給はいたしましょう。八尾の枝豆は絶品です」


「兵站は戦略において最重要課題ですので、ありがたいです!」とは、僕の謝辞。


僕も続ける「まず、北浜に住む人たちの意識において「自主独立の気運」を潜在的に盛り立てていくことが重要です。そのためにはいつまでも谷崎潤一郎にしがみつくのではなく、あらたな北浜文学が必要なのです。さも、元々あったかのような北浜気質を作るのです」


エイリアンがいう、「北浜についてやったら、私がこれまでに何冊も書いとる」


「それは例えばどういう話しなのですか?」と訊ねる。


「北浜のタワーマンション同士の住人がな、のぞきあいする話しや。ありとあらゆるところで、こっちとあっちのタワーマンションの住人同士がのぞきあいする話しや」


エイリアンの説明をきいて笑いが止まらなくなった。


「僕は香川県人なんですが、自分の知らないあいだに『うどん県』と言われ続けて、いつの間にか自分は『うどん県』の出身だと無意識に思い込むようになっていました。言葉というのは恐ろしいものです、なかったことをあったことのように記憶や意識を改竄するのですから」


僕がそう説明すると、別府生まれの斥候の男も同調する。


「俺も他人から温泉、温泉といわれて、そのうち自分が温泉に詳しいんじゃないかという気になっとるわ」と。


エイリアンが僕に問う、「自治州の東側、東横堀川を歩いたことがあるか?」


僕は「まだ、歩かない」と答える。


「東横堀川の河川敷には、ここに勝手に植物を植えるなと看板に書いてあるんやけれど、みんなが色んな植物を勝手に植えるから、そりゃあ多彩な植物が野生化して育っとる」


ガルパンの男が合いの手をいれる、「あれ、看板がなかったら、誰も植えんかったん違うやろか」


「僕はその話しを聞いて、ますます、この地が自主独立の気風を作るに適した地だと再認識しましたね」と僕が答える。


エイリアンが最後に「次に会うときは各人が何らかの具体的なプランを持ってくるように」と号令して、北浜の急造パルチザンは解散となった。


深夜の解散と時を同じくして、常連の不思議な女がやってきた。


エイリアンは僕に指示する、「彼女にもあなたのプランを全て説明しておくように」


常連の不思議な女は、私を巻き込まないでくれと苦笑する。


エイリアンも去り、落ち着きを取り戻した店内で不思議な女は、ボソリとこういう。


「独自の通貨を作りましょう」


なるほど、妙案だと僕も賛同する「やっぱり、通貨の単位は『サク(作)』ですよね」


1万作、2万作、3万作、10万作、100万作…。


そういえば、福沢諭吉の立身出世は、この地から始まったのだった。自分の顔が最重要紙幣として扱われていることを彼が知れば、どう思ったであろうか。


僕たちには想像しかできない。


アラフォーおっさんは、これよりエイリアンの住処である異世界へ行って参ります。


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# by amori-siberiana | 2017-08-17 14:34 | 雑記 | Comments(0)


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