こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


北濱のオフィスにてコーヒーを飲むヒゲの総帥。隣にはアキラメ堂のご主人と上仲が陣取る、どうやら今夜二人は近場で行われるであろう人狼に参加するようである。上仲がなにかをヒゲの総帥に質問してきたような気がしたが、すっかり忘れてしまったのでなかったことに等しい。つまり、歴史というものは記録にされないとなかったことと同じになるのである。そこに如何なる崇高な理念や信念、はたまた恋情や旅愁があろうとも表現されて記録されないことには何も残らない。ただ、残すことが大切なのかといえばそれは別の問題であり、敢えて残さないことも有益なのかも知れない。


これだけの人間が今生きており、歴史上これまでにはさらなる多くの人間が生まれては死んでそれぞれ何か考えては思うところがあるからして、それらの全てが記録されて後世の人に共有されていたならば、どれだけ新鮮味がなくつまらない世の中であったろうか。ヒゲの総帥は世間が前進するために忘れ去っていく記憶の裁断機になってみたい。記憶調書のようなものがあったとして、死にゆく人の最後の記憶が悪いものであるのなら、ヒゲの総帥が「生まれてきてよかった」と勝手に書き換える。死にゆく人がそれにより「そうか、生まれてよかったのだ」と勘違いしたまま死を迎えられるような仕事がしたい。宗教的なまやかしに似ているのかも知れないが、まやかしというものはまやかしを求める心があるから成立するのである。この世にまやかしは必要不可欠だ。


ヒゲの総帥が店に行くとエイリアンがいる。奥の席には二名の若い青年将校がいる。「北濱独身ミドルクラブを創設して各国に支部を作るのよ」とエイリアンはいう。概要はこうである中年の未婚男性ばかりを集めてメンバー全員会費制にする。その会費をプールしておいてメンバーの中から結婚するものが現れたら、その人間が会費を総取りできるというものだ。「これは少子化対策にもなる!国から助成金も下りるんじゃない」とエイリアンの高説はいよいよ佳境に入る。火鉢の上に置かれた鍋には万作特製のうどんが入り、椀が来店者に行き渡るのでうどんをすする。ヒゲの総帥は大阪で出会ったコシのないうどんが好きである。


エイリアンの話しをBGMに常連のガルパンの男、不思議な女、妖精の女、グラフィックデザイナーの男、そしてハイタッチ冷泉、チンピラの男が続々とやって来る。


「でも、それだと詐欺する奴が出てくるんじゃないですか。元々結婚予定だった男がその事実を伏せてクラブに入り込み、会費をせしめていきそうな気がします。僕ならそうします」とガルパンの男は忠告を促す。「うーん、それやったらそれがバレたときには倍返しみたいなん作ったらどうやろ」と版画家の万作はもっともな意見をいう。「なら定款を作ればいいのよ、それを作ると思っただけでワクワクするわ」とエイリアンはいよいよ冒険が始まるような顔をする。


オルガン横の奥のソファに深々と腰かけているチンピラの男が口を開く。「エイリアンさんは何してはった人なんですか」「私!?チンピラよ!!」とエイリアンの即答に店内には笑いが起きる。冷泉はアイコスを吸いながらニヤニヤする。


「北濱独身ミドルクラブのロゴは僕にデザインさせてください、格調高いイングランド王家のようなエレガントなものを作りましょう」とヒゲの総帥は挙手をする。「よし任せた!」とエイリアンは放り投げる、エイリアンから受け取ったクラブのイメージは、表面的には貴族趣味の独身たちの社交場という体裁になっているが中身を空ければ、コンビニ弁当を愛妻弁当としているおっさん連中がグズグズしているというものであろう。その表裏のコントラストが諧謔的でユーモアに溢れている。


店内が北濱独身ミドルクラブについて話しを進めており、個々が意見をいう。ヒゲの総帥はふと隣に座るエイリアンを見る、小ぶりの丸眼鏡の向こうの目が遠いところをみている。「もしかして、もう熱が冷めましたか?」とエイリアンに問うてみる、「そうだ」とエイリアンからの回答があった。さすがはエイリアン、熱の上がることティファールのように瞬間であるが、冷めることも宇宙空間のように氷点下まで一刹那である。


奥の席では日本人の美意識についての話しが行われている。人をこれまでに何度も殴ってきたであろうチンピラの男が口を開く「日本人が持つ美意識は黄金比に則しており、グスタフ・クリムトなども浮世絵からその影響を多大に受けている」という。チンピラの口からクリムトが出てくるとは驚いた、「クリムト…、ご存知ですよね?」とチンピラは周囲を見る、皆がもちろんだという顔をする。それならばとチンピラの男は話しを進める。


日本人は美意識が高いのだが、どうにも心にゆとりがない。多少なりとも欠けたものであったり、歪んだもの、傷んだものに対して辟易するのであり、それが人間に対しても向けられて容赦なく攻撃対象にされたりするのだと話す。顔の作りがちょっと変わっているとか、挙動が少し違うとか、自然の気まぐれによって黄金比から少しズレるところがあると、除外排除しようという動きになるのだ。なるほど確かにそうであろうと納得する。


冷泉はハッと思いついたように立ち上がる。そして眼鏡をくいと上げチンピラの男に向かって声を発する。


「殴り合い…しよや」「今か!?このタイミングで?お前、ムードが悪い」「グフフ…」と含み笑いをして殴り合いは始まる。


斥候の男とアキラメ堂のご主人がやってきて、ガルパンの男やグラフィックデザイナーの男と何やら話し込んでいる。殴り合いを終えた奥の席は歌で盛り上がる。チンピラの男が歌うレディオヘッドのクリープはなかなかのものだった。


この店は鍋のようである。ぐつぐつ煮えている、味が整うときもあれば整わないときもある、素材が互いを引きたてあうこともあれば打ち消しあうこともある。しかし、一旦できあがってしまえば鍋ほど手のかからない食べ物もない。


北濱のエルブジへようこそ。予約はがんがん取れます。


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# by amori-siberiana | 2017-12-09 12:58 | 雑記 | Comments(0)


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