こんにちは、北浜にて猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を版画家の柿坂万作と共に経営する、ヒゲの男こと阿守のブログにようこそ。


台風のやって来るなかの週末をはしゃぎ過ぎたヒゲの男。その肝臓は冷泉から提供された秘薬によってフル回転をすることとなり、二日酔いを避けることに成功したが、あげすぎたモチベーションは下がる一方である。ヒゲの男は克己するために北浜のオフィスに到着早々、映画「ロッキー」を流す。有名なテーマ曲をバックにスタローン演じるロッキー・バルボアがトレーニングする模様を見だす、なんと素晴らしい映画なのであろうかと、オフィスにてパソコンの前で感涙する。


さて、一昨日のこと。


ヒゲの男は雨のなか、宗教画のモデルの女と星師匠と連れだって店から近くで開催されているワークショップへ顔をだす。不用意に顔をだしたわけではなく、知人の心理学の女がそこでイベントをしているというので、様子を見に行くのである。外は雨が降り、肌寒い気候であった。ヒゲの男はコートを羽織っているが、宗教画の女はノースリーブであり、星師匠はその両者の中間という格好。この三者が一堂に会して写真に納まると、その撮影された季節が誰にもわからないであろう。


会場に到着すると、大勢の占い師がおり、占いの国際見本市のような賑わいであった。ヒゲの男もタイミングがあれば何か占ってもらおうかと考えていたが、あいにくとどこのブースも盛況であるか、値段が高いので諦める。そんななかで、ふと目をひいたのが「星撮人」と名乗る男のブースである。


宗教画のモデルの女は、「ほしさつにん」と声に出して読むが、これは間違いなく「ほしとりびと」と読むのであろうと、ヒゲの男は思った。


売れないシンガーソングライターのことを「うたいびと」とか、ソフト路線の葬儀屋のことを「おくりびと」と、その内容は変わらぬまま、余計な新語をあてて喜んでいるのが多くて、ヒゲの男はうんざりしているが、この「ほしとりびと」というのは自身の趣味とも合致しているので、興味を持つ。だが、基本的に「なになにびと」と自称する人間のスキルセンスをヒゲの男は一切、信用していない。


星師匠はブースに並べられた一枚の夜空の写真をみて、「これは火星とアンタレスですね」と星撮人の男に向かっていう。星撮人の男は驚愕した顔をして、「よく…、わかりましたね」という。星師匠は相手の反応など構わずに、この写真が撮影されたであろう時期を話しだす。


三人は星撮人と星の話しで盛り上がり、本題である心理学の女のイベントに参加する。まず、色を二色ほど塗らされる。ヒゲの男は青色とピンク色を塗る。心理学の女はその色にまつわる表層心理と深層心理について語りだす。これがなかなか興味深くて面白い。


そこから三人はそのまま店に戻る。店に戻ってみるとハイタッチ冷泉がすでに大量の買い物を版画家の柿坂万作とともに終えたあとで、iCOSをふかしながらニヤニヤしている。そう、今日は冷泉が命を削って、ちゃんこ鍋を作る日なのである。およそ30人分の食材を目の前にしたときの圧倒的な威圧感は、なかなかただごとでは済まないことを店内に予感させた。


ちゃんこ鍋における製作総指揮は冷泉。彼の指揮により、ヒゲの男は包丁をもち、一心不乱に肉を切り、ショウガとニンニクをすりおろしまくる。宗教画の女は野菜の皮むきをする、星師匠はゴボウを切る、万作は「こないな忙しいときになんですけど、ワシ、風呂に行ってきますわ」と言い残して、雨のなか店外へ出ていく。


冷泉はカウンターの中に設置された大きな鍋に具材を入れながら、何度も小皿にダシをとっては吟味をして、自分の理想に近づけていく。聞くところによると、冷泉は若い頃、相撲部屋の女将さんから秘伝のちゃんこ鍋の作り方を教わったのだそうだ。それに冷泉なりのアレンジを加えて、もうかれこれ300回は作っているとのこと。ちゃんこ鍋の作り方を教わる代償はなにかあったのか?とヒゲの男が笑いながら冷泉に訊いてみるが、膝を触られたぐらいであると冷泉は笑い飛ばす。


それぞれ別の産地であろうところから、この日のため、北浜に結集させられた肉や野菜はひとつの鍋という牢獄のなかに放り込まれ、冷泉の監視下のもと、絶妙な味わいを醸し出す。万作が風呂から帰ってきたころ、食欲をそそる匂いがクントコロマンサに漂う。


時間は19時、店の階段には電灯がつき、これからお前たちの胃袋の要求に応えるぞといわんばかりの意気込みを感じさせる。雨と風が叩きつけるにもかかわらず、多くの客がやってくる。


開店早々、副社長ばかりする男と細君を皮切りにして、30分のうちに店内の席は埋まることとなる。会計事務所のオーナーの男とその参謀たち、ボクサーの男、京都からきた指圧の神、起業を目指すハーフの女、チンピラの男、白黒バッグの服飾の男、腹まわりが118センチの男、大酒のみの女、不動産広告デザイナーの男、陸サーファーの上仲、コード0001の男とその部下、水タバコの男と細君、バレリーナの女とピアノの女、カーセックスで童貞を捨てた男、150人の人妻を操る男とドレスを売る女、JKなどなど、ここに書ききれるものではない。


冷泉は乾杯の音頭をとったり、カウンターのなかでちゃんこ鍋を椀のなかに入れたりする。宗教画のモデルの女はいつの間にかミツバチのコスプレをしているが、その背中につけられた羽根は頼りなさそうで、いつも閉じている。だが、他人に酒を勧めるのに関しては日本でも三本の指に入るのではなかろうかという押しで、来場者にアルコールを消費させていく。星師匠もあちこちにハイボールを配って東奔西走する。


遅れてやってきたのはアラタメ堂の主人である。バレリーナの女がハイボールを注文したアラタメ堂の隣にいき、こういう。


「阿守さんのブログで拝見しています、あなたがアキラメ堂さんですよね?」


「違いますよ、アキラメじゃなくアラタメ堂です。僕はまだまだ諦めてなんていませんよ」と、アラタメ堂は重大な部分を訂正する。ヒゲの男はこのやりとりが、おかしくて仕方がない。店は冷泉が陣取るカウンター付近、オルガン横の奥のテーブル、そして真ん中のテーブル、さらに入口から近いテーブルと四つのエリアがあるが、文字どおり四方からいろんな話しが聴こえてきては、そのそれぞれの会話の分母には、冷泉のちゃんこ鍋とアルコールがしっかりと横たわっているという次第。


なにかをキッカケにするわけではないが、腹を満たした連中は殴り合いをはじめることになる。ここに参戦したのが宗教画のモデルの女である。


「どうせやったら二回蹴らせて」と、立ち並ぶ男たちの太ももを蹴り飛ばしたあと、最後にみぞおち当たりを蹴るという技を披露してくれる。市役所に並ぶように青ざめた顔をした男たちの退屈をぶっ飛ばせという勢いで、宗教画のモデルの女は次々に男たちを蹴り飛ばしていく。そのなかにカーセックスで童貞を捨てた男も入っていたが、彼の致命的なミスは蹴ってくれといったあと、宗教画の女に背を向けたことであった。後ろを向いて視線をズラしたカーセックスの男の太ももに冷泉の蹴りが一閃する。痛そうな音が店内に鳴り響き、悶絶するカーセックスの男の尻めがけて、宗教画のモデルの女の容赦ない蹴りが炸裂する。ウルトラクイズの回答者が頭にかぶるハットのように飛び跳ねるカーセックスの男。その風貌は寡黙な戦場カメラマンのようであった。


チンピラの男は冷泉と会計事務所オーナーの同士討ちが見てみたいとけしかける。酔っぱらった二人は何度も相打ちを繰り返す。大体、どんなデモでも騒乱においても、火種となる人間はいるのであり、今夜の場合はこのチンピラの男である。


冷泉のちゃんこ鍋の会の凄まじいところは、そのアルコールの消費量にある。ヒゲの男は後日、伝票と店の在庫をみて驚いたものだ。大きなポリタンクのような容器に入っていたウイスキーのそのほとんどが無くなっていた。


奇人たちの晩餐会はこうして深夜を迎えたまま、記憶とともに霧散していくのであった。


博多「魁龍」が提供するラーメンように濃厚な一夜はこうして終わった。ハイタッチ冷泉とその仲間たちに感謝しながら、万作とヒゲの男はその日のシャッターを閉めるのである。もちろんそれは、店の外側のできごとについては、一切の責務を負わないという気持ちの表れでもあるわけなのだが。


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# by amori-siberiana | 2017-10-30 15:28 | 雑記 | Comments(2)


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