こんにちは、北浜にある画廊喫茶フレイムハウスの阿守です。


フレイムハウスの隣にはフレイムハウスというお店があります。いろんな人から紛らわしいので店の名前を変えたほうがいいんじゃないかと助言をいただきますが、そこにいたるにはあらゆる物語があります。この訳のわからなさ、商売においてデメリットしか生みださない状況、僕はとても好きです。


なんでも割り切れてしまい、白か黒かで決着をつけなくてはいけないような世の中で、曖昧なものが残っていることは、それ自体が文楽のような気がするわけです。それに、ごくたまにですが、隣のフレイムハウスと間違えたお客さまが勇気を絞りだし、階段を昇り、版画家の柿坂万作が待ち構える場所へたどり着くこともあります。


タクラマカン砂漠のタクラマカンとは、現地のことばで「生きては戻れぬ」という意味があるそうですが、今のところ二階のフレイムハウスに上がっても、忽然と消えた人はいないそうです。


フレイムハウスは三階建てです。三階には万作さんの居住スペース兼アトリエ、そして浴場となっています。


先日、お店に行ってみると万作さんが開口一番、こういいます。


「あぁ…、阿守さん、ワシ、やってしまいました。言おうか言わんとこうか、迷うたんですけど、やっぱりこれは言うとかなあかんやろな。いうことで。」


大体、三日に一度のペースで万作さんは、こういう感じのニュアンスで僕に挨拶してくださいます。


「いつもお疲れ様です、万作さん。どうされたんですか?」


「いやぁ、ワシの行水用のビニールプールが破裂して、水浸しになってもうたんです」


行水用のプールとは三階のアトリエにある空気で膨らませるスタイルの子供用のプールで、万作さんは毎日そこに水を入れては、ぷかぷかと浮かんでいるのです。もちろん、その浮かんでる現場を僕は見たことはありませんし、今生でも来世でも見たいとは思いません。心底。


「ええ!?破裂したっていうのは、それ何時くらいのことなんですか!?」


「ええと、ええと、ワシの留守中のことやから、多分、夕方前のことやと思います。ワシがランチ終わって、コンビニに漫画を立ち読みしとるあいだやと思います」


「それで、被害は!?借りものの椅子とか楽器とか絵画とか大丈夫なんですか?」


「それは大丈夫なんやけれど、二階にまで水が溢れてきて、雨漏りしとるみたいになっとるんです」


「まあ、それは乾けばなんとかなるでしょう。ただ、天井は梁を作って補強したほうがいいかも知れませんね」


「阿守さん、ワシね、思うんです」


「はい、万作さんは何を思うんですか?」


「これは謀略やないかと思うんです。何者かが店に侵入して、ワシのおらんことを見越して、ワシのプールを破裂させたという可能性があるんやないかと、ワシは思うとるんです。これは謀略やなと」


ワシの独創性のある見事な捜査能力は必見に値するかも知れませんが、どこの世界にわざわざアラフィフのおっさんのダシが効いたプールを破裂させて、喜ぶ輩がいるのか。百歩譲ってそういう輩がいるとして、探すのに時間がかかりそうなので、自然破裂ということにしました。


そんな、万作さんはもう何年もかけて「あるもの」を製作しています。「阿守さん、ブログに何を書いてもええんやけど、このことだけは書かんといてくださいよ。これ明るみになったら、ワシ、国から殺されますよって」とギョロリとした眼球と貫く意志で訴えかけてくる孤高の版画家。


「わかりました、あのことについては僕は一切、言及しません」と約束をしました。


イベントの日、トイレを利用するお客さまなどが三階に来られたときには、アレをどこへ隠すのだろうと僕は興味をもって観察していました。


案の定、アレは、出しっぱなしでした。


そんな万作さんは新しいプールを買って、「なんか違うんよな…」と体は浮きながら、心は浮かない様相であります。まさかプールを買ったときのレジの人も、この購入者が自分で入るとは想像もつかないことでしょう。経験律はイマジネーションを阻害してしまうものです。時には。


僕がお客さま目線になったとき、それより気になるのは三階のトイレの中にある白衣やねんな…。いろんな人から「アレは万作さんの趣味なんですか?」と訊かれたんですけれど、ごめんなさい!僕も知りません!


知りたくもありませんんんっ!


そんなフレイムハウスは絶賛、フレンチトーストをはじめました!


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# by amori-siberiana | 2017-08-08 12:27 | 雑記 | Comments(0)


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