こんにちは、北浜にて猫のひたいのように小さな店。画廊喫茶フレイムハウス(近日:クント・コロマンサに改名)を営むヒゲの男こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの男は昼の時間に昨夜の売り上げを店へ回収しに行く。そしてその足で南船場のパン屋「き多や」に向かってはフレンチトースト用のバゲットを仕入れる。ちょうど、店主の女とスペイン人のマルコは休憩中で会うことはかなわなかったが、休憩でもしなくては体がもたないだろうとヒゲの男は感じる。ヒゲの男が店から帰るころに起きて仕事をしている人たちなのだ。


バゲットを抱えたまま、ヒゲの男は昨夜、店に来てくれた酒豪の女のところへ向かう。酒豪の女が経営するビジネスに一口乗ろうということだ。いざ、契約となったが支払いがクレジットカードのみということを知り、計画は頓挫する。


そう、ヒゲの男はクレジットカードなるものを持っていないのだ。


別に主義主張があってクレジットカードを持っていないのではなく、単にこれまでに持つ機会がなかったのだ。人生で一度だけクレジットカードを持ったことはあるが、ヨーロッパを放浪中にしこたま使い切ってしまい、帰国してから散々、親から罵倒されたことがある。それ以来は持つことがなかった。


現金を持ち歩くのがナンセンスな場面があれば、現金でしか成立させられない場面もある。なるほど、そろそろクレジットカードでも持っておくのがよかろうかとヒゲの男は考えるが、果たして画廊喫茶フレイムハウスのプロデューサーということで審査に通るものかどうか。審査において不適合だったとしても、最終的に腹の殴り合いで容赦してくれればいいのだが…。


そんなことを漠然と考えながら、御堂筋という大通りを東に進み、北浜のオフィスへ向かう。


ふと、ヒゲの男の眼前にビジネス街を飄々と歩く、猫背の男が現れる。ヒゲの男はそれが一目で不動産デザイナーの男だとわかった。先日、マッサージ屋で偶然にも遭遇した男である。最近、髪を短くしてヒゲを剃ったそうだ。毎度、恋に破れる愚か者という自身の運命の十字架を背負ったような猫背は遠目にも彼だとわかる。


ヒゲの男は何も言わずに不動産デザイナーの男を尾行する。


しかし、尾行を開始したはいいが、やたらにその歩みが遅いのでとうとう追いついて横並びになってしまう。不動産デザイナーの男は自身の隣を歩くのがヒゲの男だと気づく。


お互いにニヤリと笑ってその場は終わったが、不動産デザイナーの男と遭遇したおかげでヒゲの男はどうにもマッサージ屋へ行きたくなったので、結局、マッサージ屋を経由して北浜のオフィスへ向かうこととなった。


ヒゲの男が北浜のオフィスに到着すると、アラタメ堂が笑いながら開口一番こういう。


「阿守さん、ブログ読みましたよ、フレイムハウスに不穏の空気ありじゃないですか」


「はい、緊張感あるでしょう。あのままなんですから仕方がないですよ、夫婦喧嘩みたいなもんです」


その二人のやりとりを聞きながら、サーファーの上仲はパソコンで何やら作業してはいるものの、ニヤニヤする。


ヒゲの男は仕事を終えて、その足でバゲットを持ち抱えて店に行く。先ほど会ったばかりの不動産デザイナーの男が知人のつまらない事務職の女を連れて、二人で優雅にコーヒーを飲んでいる。


不動産デザイナーの男は飲食店を経営したいそうだ。


「このお店に来るようになって、ここって適当じゃないですか。ああ、こんなんでいいんやと思ったら、したくなっちゃってね」と、失礼なことを平気な顔でいう。


二人が座っているのとは別のテーブルには見たことのない本が置かれている。どうやら世界の絶景スポットを特集した本である。


「これ、どうしたんですか?」と、ヒゲの男は版画家の柿坂万作に訊く。


「ああ、これね、うーん、ワシも普段はコンビニの本屋で立ち読みだけして済ませるんやけど、おお、なんかええ本あるなぁと思うて、手に取ってみたんですわ。ほんでからに、大体こういう本はこれくらいの値段やろなぁいうて、頭んなかで勘定するんですわ。うーん、例えばこういう本やったら …(中略)…。思わず買うてしもうたいうわけです」


世界の絶景スポットが幾つか掲載されており、そこへ行く方法、予算、物価、日焼け指数(?)などがグラフになっているのである。ヒゲの男は本を読みだす。


「うーん、阿守さんは、そういう本、一語一句を逃さず読みはるんですね。ワシはそういうん無理ですわ」と、苦笑しながら万作はいう。


「そうですね、写真だけで絶景を見ても、もう写真慣れしてしまっているので、ピンと来ないんですよね。文章を追うことで、自分がそこへ行くのを想像して楽しんでます。だから、そこへ辿り着くのにどこでトランジットするんだろうとかのほうが興味深かったりします」


ヒゲの男はそのまま本を読み、万作はおでんを仕込む。おでん鍋を取り出して、おでんのネタを勢ぞろいさせて陣形を組んでみたのはいいものの、鍋の底に穴が空いていることに気がつく。今日は普通の大きな鍋を代用にするということにした。


すると、バレリーナの女がやってくる。モスクワのボリショイで研鑽を積んだ女だ。


バレリーナの女は店のおでんの匂いを嗅ぎながら、蓋をあけて香炉の前にいるかのようにその湯気を浴びる。


とにかく、バレリーナの女はおでんをガツガツ食べる、ヒゲの男も負けず劣らずガツガツ食べる。常連のガルパンの男、そして常連の不思議な女もやってくる。ガルパンの男はビールを注文してスマホを取り出し、早速ガルパンのゲームを開始。不思議な女は注がれた白ワインに口をつける。


しばらくして、ハイタッチの男こと冷泉が大勢を引き連れてやってくる。


冷泉は体調が万全ではないので、酒は控えて店のスタッフのように猫のひたいを行ったり来たりしながら、給仕に奮闘する。大勢はオルガン横の奥の席に陣取って賑やかに酒盛りを開始する。


偶然にも大勢のなかに、ヒゲの男と同郷の男が二人おり。その中の一人はヒゲの男の実家の隣町であることを知り、方言での地元トークが開始される。


「あそこのうどん屋、なしなっとるきん、どこ行ったか探っしょんやけどわからんのやがな」と、ヒゲの男は長年の疑問を同郷の男にぶつけてみる。


「あそこな、役場んとこに移転したんじゃがな。駅前のな、道おっきょするきんいうて、移動しとるわ」と、同郷の男は満足のいく回答をする。


ガルパンの男が「では、そろそろ」と帰ろうとすると、別府出身の斥候の男がやってきて、ガルパン仲間の登場にガルパンの男はまた席に戻る。そのうちヒゲの男がギターを弾き、冷泉が「乾杯」を熱唱する。


その真夜中の熱唱を聞きつけ、隣に住むベレー帽の男がやってきて、万作にいう。


「最近、賑やかにしよるやないか。こういうんは誰が企画しとるんや」


「うーん、ワシは企画するんは力がないんで、あのステージでギター弾いとる人が全部してくれとります」


ステージで「酒と泪と男と女」を弾き終えたヒゲの男は、ベレー帽の男から一杯おごられることになったので、マッカランのストレートを容赦なく頼む。ヒゲの男がそれを一気に飲み干すと、ベレー帽の男がこういう。


「あんた、名前はなんといいますの」


「はい、阿守と申します」


「阿守君か、ありがとう。賑やかなのはいい、これからも構わず大いにやってくれ」


「ありがとうございます!」


ベレー帽の老人からの粋な声かけを受けて、ヒゲの男は照れ臭かったが嬉しかった。シラフで熱唱を披露した冷泉も敢闘賞である。ギターを弾けるのが何人かいたので、ステージではセッションが繰り広げられたりもした。


いつの間にか水タバコの男もやってきている。いちげんさんで、ベロベロに酔っぱらった民泊経営の男が自身がいかに妻に尽くしているのかを延々と語りだす。


「15万円の靴が欲しいってどういうことなんっすか!!俺なんか、最高でも3万円の靴っすよ、15万円の靴ってどんな靴っすか!!」


そのあとすぐに何の関係もないスコッチウイスキーの話しへ飛ぶ。つまり、酔っぱらいの話しである。


ヒゲの男と冷泉は話し足りないことがあったので、キリギリスの店に移動する。久しぶりのキリギリスの店は深夜の4時前だというのに、大盛況であった。


キリギリスの主人が注ぐ素晴らしいワイン、そして丹念にドリップするコーヒーの美しき膨らみ。その全てに憧れて、自分もカフェをしてみたいとヒゲの男は数年前から考えていたものである。


どうして、キリギリスという呼称がついたのかは、定かではない。


ヒゲの男は冷泉とインターネットというものについて論じあった。当たり前に使っているインターネットというものについて、ヒゲの男は今さらながらに疑問に感じることがあるらしい。


冷泉はヒゲの男からの疑問を聞き、そして自身の目の前にあるコーヒーカップをながめながら、その疑問について真剣に答える。


エレガントで有意義な時間であった。男同士が真剣に語りあうのである。


ただ、つい先ほどのことなのに、ヒゲの男は自分がインターネットについて何の疑問を持っていたのか、冷泉がそれについて何と真剣に答えてくれたのか、まったく思い出せない。


ヒゲの男はこの絵画の中心の老人を見るたびに、ノリユキ・パット・モリタを思い出す。そう、ベストキッドの師匠だ。


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# by amori-siberiana | 2017-10-04 13:58 | 雑記 | Comments(0)


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