こんにちは、北浜にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を版画家の柿坂万作と経営する、ヒゲの男こと阿守のブログです。


アラタメ堂のご主人が当店でイベントをする日は決まって雨天である。ここまで的確に雨を呼び寄せるアラタメ堂の日程チョイスなるや神業であり、その風貌と相まってアラタメ堂が祈祷師に見えてくる。土日祝と雨天が重なると北浜の町全体に気だるさが漂う、ちょっと人目を気にせずとも午睡してやろうかという気持ちになる。


さて、昨日のこと。


ヒゲの男は北浜のオフィスへ行き、そのまま店に顔を出して経理をする。経理が終わったあとに、青山ビルにあるギャラリー遊気Qに立ち寄り、じっくりと現在のギャラリー展示物である万華鏡たちを丹念にのぞく。万華鏡の筒にもいろいろある、長短は言わずもがな、プラスチックやガラス、さらには陶器であったりオルゴール内臓であったりする。「これをお使いになればいいんですよ」とギャラリーの女は携帯用の小型ライトをヒゲの男に差し出す、ヒゲの男は右手にライトを持ち、万華鏡の端っこを照らしながら、左手で万華鏡を回してみる。「右手でライトを持って、左手で万華鏡をスムーズに回すというのは難しいですよ」とヒゲの男は不器用な手つきで筒を回しながらいう。それもそうねとギャラリーの女は笑う。


ひとつ小型の万華鏡を気に入るヒゲの男。もし、自分が無人島に漂着して、いや、嫦娥を求めて宇宙のどこかの名も知らぬ誰もいない惑星に到着したとする。誰もいないので構うことなく狩野派が描く鉄拐仙人のような風貌になり、そしてめでたくも寿命のままに死ぬる。ヒゲの男の亡骸を後になって見つけた異星人たち、ヒゲの男のポケットをまさぐる。この男は何を持ってここまでやってきたのか、どこからやってきたのだろうかと所持品から分析しようという体。


異星人がヒゲの男のポケットからひとつの小さな筒を見つける。これは何に使うものか筒をのぞき込んでぐるりと回してみると、筒の中の鏡の作用によって作られるシンメトリカルな美しい模様が見える。なるほど、このヒゲの男はとても高度な文明をもつ星からやってきたのだろうことを異星人は理解してくれるだろう。それがカレイドスコープの風情だ。


ギャラリーをあとにしてオフィスに戻ったあと、また店に戻る。


店には常連の不思議な女とガルパンの男がいる。ヒゲの男も飲酒と会話に加わると、すぐにアイリッシュギターの男がやってくる。どうやらピエールという男とクントコロマンサで待ち合わせをしているのだという。ピエールというのはヒゲの男も知己があり、ギリシアの楽器を弾く男である。今は金剛石のように硬い仕事をしているのだとか。


ヒゲの男が先日の京都での出来事を皆に話す。ちょうどその話しをしているときヒゲの男が演奏を観に行ったバンドのドラムを演奏していたグラフィックデザイナーの男が登場する。間のよい人というのは他人から好かれるものだ。「ああ、うーん、忘れとった!」と万作は厨房で素っ頓狂な声をあげる。つまるところグラフィックデザイナーの男がボトルでおろしてくれる酒を買い忘れていたのだろう。グラフィックデザイナーの男はその万作の声を聞き「逆に憶えてることがあるのか」とサラリ。京都談義が続いていく。


しばらくして、アラタメ堂のご主人が団体を連れて店に入ってくる。万作が「ハッ」としたような顔をする。ヒゲの男はそれがすぐにハイボールに使う氷を買い忘れている顔だと気がつき、すぐにメールで星師匠に氷を買って持ってきてくれないかと訴求嘆願する。少しして星師匠が氷を買って店にやってくる、何も知らない万作は「うわぁ、ごっつうええタイミングで氷を持ってきてくれはって、助かりましたわ」と感激すると同時に、ワシは持ってる男やと妄信しているかも知れない。


常々、版画家の万作は自分ほどツイている男もいないと豪語する。


自分がホームレスになったときもすぐ救いの手が伸びてきたし、気がつけばあれよあれよという間に北浜で店を持つようになる。そしてその店がいよいよ幕を閉じようとしたとき、唐突にヒゲの男が助け舟を出してきたのである。これまでを振り返ってもワシは本当に運がええと何度も誇らしげに屈託なく言うのであるが、それを本気でそう思っているのなら、度し難い阿呆である。そして救ったような誇らしい気持ちになっているヒゲの男も漏れなく阿呆である。同じ阿呆なら踊らなくては損だというのは、ヒゲの男の故郷の四国のどこかの地域で連呼されるシュプレヒコールである。


ピエールが遅れてやってきて、ヒゲの男と「シヴィライゼーション」というゲームの話しをする。自分の国を持ち、文明をどんどん進化させて最終的に地球を統一して宇宙開発をするというものだ。ヒゲの男はこのゲームを若い頃、ピアノ工房の男から教えてもらってから熱中したものだ。自分たちの国が軍用戦車で大地を蹂躙しながら未開な地域へ乗り出す。戦車がキュラキュラと音を立てて突き進むと、蛮族がやってくる。蛮族はこちらのことを敵視して無知蒙昧にも同盟を結んでやるから貢物を持ってこいという。


ところが蛮族の軍事力といえば火薬すら発明していないので、古代のチャリオット(馬にひかせる戦車)に乗って攻めてくる。ヒゲの男は容赦しない、「みなさん、死んでもらいます」という勢いでチャリオットに対して戦車や戦闘機で攻撃を加える。蛮族はこれは勝ち目がないということを知り和平交渉を求めてくるが時すでに遅し。ヒゲの男は開発したはいいが使い道がなく、これまで使いたくて使いたくてたまらなかった核ミサイルを取り出して蛮族の首都めがけて発射する。ミサイルで撃たれた蛮族の首都は焦土と化して陥落せしめる。


ヒゲの男はこのゲームを通じて、自分という人間はどれだけ倫理観と協調性と平和観念を持っていようと、機会さえ与えられればどれだけでも非情になれるということを知ったのだ。便利なものや新しいものは使いたくてたまらない、自分が核ミサイルのスイッチを持ったとしたら、果たしてそれを廃棄したり封印したりできうるだろうか。ヒゲの男にその自信はあまりない。


ピエールがギターを弾きだす。アイリッシュの男もギターを持ちそれに合わせる、ヒゲの男もギターを持ちだして三重奏が始まる。特に何を演奏するでもなし、何か目的があるわけでもないのだが、ギターの音色で人を傷つけることは出来ない。よほど過剰にそのメロディーに偏執があり嫌悪をする人間もいるだろうが、それはギターの音色の所為ではなく、本人の記憶と経験に根差す問題である。とにかくギターの音色で人を傷つけることはない。


そしてその役立たずのギターの音色が、三人のその夜の武器なのである。そういう意味では万華鏡も役立たずである。愛すべき役立たず。


本日、アラタメ堂の挑戦状は、もちろんのこと雨天決行。


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# by amori-siberiana | 2017-11-18 15:05 | 雑記 | Comments(0)


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