2017年9月19日(火)① ◆暴風と 海との恋を 見ましたか (鶴彬) 

こんにちは、歴史豊かな北浜の町で猫のひたいのような小さな店。北浜の難破船、画廊喫茶フレイムハウスを曳航する阿守です。


台風一過のあと、関東では暑さがブリ返してきている模様。だからといってヒゲの男は関西に住むので、「そうなのか」と他人事の反応を見せながら、暑い暑いという群馬県あたりのインタビューをテレビで鑑賞する。北浜のオフィスにはドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」が優しく流れている、ああ、今日もいい天気だなと、中原中也のような風情を感じるヒゲの男であった。


さて、土曜日のこと。


ヒゲの男は昼に店へ行く、すでにアハハの女が到着しており、版画家の柿坂万作にランチのオーダーを済ませていたところだった。ヒゲの男も万作の手間を考えて、アハハの女と同じものを注文する。ゴーヤとパクチーが満載の「冷やしエスニック」という名がつけられた、万作の創作料理である。


ヒゲの男とアハハの女は出された食べ物を胃の中に押し込め、コーヒーで一息ついたあとに昨夜の続きをはじめる。アハハの女の曲を採譜して、近い将来のイベントに備えるためである。


ヒゲの男はアハハの女に曲から連想するもの一切合財を聴き取り調査する。音楽をきっかけとして、その遥か遠望には何が見えるのかとか、手元には何があるのかとか、ズケズケと容赦なく聞いていく。アハハの女も自分が見ていたもの、また日毎に変わるであろう見えるものをヒゲの男に伝える。そんな二人のやりとりを見捨てて、万作は三階のアトリエで例のものを製作する。


外からの風は一層強くなり、台風の予感がするものであった。空に浮かぶというより、押し流されてくる散り散りの雲は、自分の身を粉にして人々に教訓を与えんがため、大空の神ホルスから遣わされた伝令のようだ。


アハハの女は泳ぐのが好きだそうだ。水の中から水面を眺めたり、水面から顔を出すのが好きなのだそうだ。泳ぐという行為がそれをもって「遊べる」というところまで卓越していないヒゲの男には解りかねる感覚だが、ヒゲの男がストーカーのように夜空をのぞくのや、万作が気狂いのように例の製作に取り組むのと、そう変わりはないことであるのかも知れない。


ヒゲの男は音楽を音楽的に理解するのには慣れていないし、時間がかかる。何度も何度も咀嚼してみんなが飽きた頃、やっと理解を示すほどだ。なので、作曲者の情報を頼りにしてジャーナリズム的に感得するほうが身の丈にあっている。


アハハの女の曲を聴きながらヒゲの男は想う。このアハハの女は笑いながら泣いて、泣きながら笑っている。このどちらに重点を置いてもいけないし特化してもいけない、この破綻した関係性の共存は破綻することによってのみ、危うい調和がとれているのだ。そしてその調和が成立したとき、なんともいわれぬ「美」が生じるのであろう。


練習が終わり、アハハの女は帰る。ヒゲの男は台風が来るまえに店を出て、自身のギターのピックを預けてある星師匠のところへ向かう。万作は風呂へ行く。


ヒゲの男はそこから4時間あまり台風の中を彷徨うことになるとは知らず。万作は行きつけの銭湯が台風のため、営業休止をしているとも知らず。


d0372815_11461701.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2017-09-19 11:46 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31