2017年10月19日(木) ◆死地プーケットから戻ってきた男たち。

こんにちは、北浜にて猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を版画家の柿坂万作と共同経営している、ヒゲの男こと、阿守のブログです。


アラタメ堂がイベントをしようという日、それは今のところ統計学的に台風の時期と重なることが多い。たった二回のことで統計などと誇張すると統計学者から怒られそうであるが、アラタメ堂のことを今のうちは嵐を呼ぶ男と考えても悪かろうはずがない。


さて、昨日のこと。


ヒゲの男が店に行ってみると、常連のガルパンの男とギャラリーの女が着座している。ガルパンの男はビールを飲み、ギャラリーの女は「おでん定食」なるものを食べていた。ヒゲの男も空腹を満たすために「おでん定食」を頼む。白米、おでん各種、カツオのたたき、高菜がそれぞれ器に乗せられて出てくる。なるほど、これだけ料理を並べられていると食欲がそそるもので、ヒゲの男の箸はとどまることを知らない。一気呵成に食べ、そして食後のコーヒーを万作に頼む。


ヒゲの男が夕食を摂っている、ちょうどその頃、常連の不思議な女がやってくる。昨日は舞台を観に行っていたとのこと、不思議な女はギャラリーの女にハードカバーのパンフレットを見せる。写真集のように凝った装丁で、およそ30ページほどあろうか。中身はコート紙で内容は出演者へのインタビューやポートレイトなどだ。ギャラリーの女はそれをペラペラとめくりながら、予期せぬ一言を唐突に発する。


「私、思うんですけれどね。阿守さんも、こういうの作ればいいんですよ」


一息ついてコーヒーを嗜んでいたヒゲの男は、ギャラリーの女の突発的な発言に驚き、褐色の液体を口から吹き出しそうになる。


「僕が…、ですか?それ、正気でおっしゃってるのですか?」


「当たり前ですよ。こういうしっかりしたハードカバーにして、写真集を作りませんか。グラフィックデザイナーさんも多いことですし、みんなで協力すればいいんですよ。写真の撮影に青山ビルをお貸ししますから」と、ギャラリーの女は話しを進める。


それを聞いていた不思議な女も会話に混ざってくる。


「アモアモだけじゃなくて、万作さんも入ればどう?」


厨房にいた版画家はそれを小耳に挟んだらしく、「なんか、気持ち悪い話しをしとるんやな…」と、つぶやく。ギャラリーの女はヒゲの男と版画家の反応などおかまいなしに話しを発展させる。


「どうせ作るなら、しっかりしたものを作らないといけませんよ。写真家さんに撮ってもらってね、インタビューなんかは阿守さんが自作自演で作ればいいんですよ。そういうの得意でしょう?」


「まあ…、得意です」と、釈然としない顔で返答するのは、呆気にとられているヒゲの男。


「これ是非やりましょう。必ず売れますよ。私はこういう感じでギャラリーを経営してきてるんですよ」と、不敵な笑みを浮かべるギャラリーの女。ガルパンの男は視線をスマホに定着させたまま、話しを聞いて口角を上げている。


「どれくらいお金がかかるのか、調べてみます」と、ヒゲの男は不思議な女が持ってきたパンフレットと同系のものを100部ほど作るという設定で、印刷屋のサイトで料金をシミュレートしてみた。


およそ、800,000円也


1冊を8000円以上で売らないと原価の採算すら目指せないことになる。そこでギャラリーの女から新しい提案が入る。ハードカバーだけで中身がなくてもいいんじゃないですか?と。ヒゲの男は「この女は一体、何を言ってるのだろうか?」と怪訝な顔をする。ギャラリーの女は説明を続ける。


「中身のページはバラ売りにするんですよ、本を開けたらファイリングできるようになってるようにすればいいの」


「そんな、塾の夏期講習みたいな写真集、見たことないですね…」と、ヒゲの男は困り顔で率直な感想を述べる。ギャラリーの女たちはケラケラと笑いだす。


そこからしばらくして、夜も更けた頃。


ハイタッチ冷泉と会計事務所のオーナーの男がやってくる。会計事務所のオーナーはつい先日、プーケット島でサーフィンを楽しんだ直後、食中毒になってしまい散々な目にあってしまったそうだ。彼ら二人が連れてきたのは、コード0001の男と89バーツの男であった。


四人は通称で「セット」と呼ばれるものを注文する。つまるところ、ウイスキーのストレートをハイボールで流し込むという代物である。それに加えて新料理コロマンサの発想の原点である、コロマンサのご飯抜き(つまり、目玉焼き)を注文する。


コード0001の男と会計事務所のオーナーの男は、それぞれ自分たちの新入社員の話しをする。大体、こういう場で話されるのは新入社員の失態からくるエピソードであり、それぞれが場の笑いと同情を誘うものである。


会計事務所のオーナーがヒゲの男に向かって泥酔した呂律でこういう。


「阿守さん、うちと契約してくれたら(会計を)しっかりみますよ」


会計するほどの金がない、ヒゲの男は爆笑しながら、ちなみに今から契約すると月額どれくらいになりますか?と会計事務所の専務である89バーツの男に料金をシミュレートしてもらう。


「今なら、一か月89バーツで契約できます」と、専務は答える。


現在、1バーツが円に換算して3.4円くらいなので、単純計算で300円くらいである。これは随分とお得なプランだなと、その一連のやりとりを聞いていた者たちもギャハハと笑いだす。素晴らしい参謀がこの会計事務所にはいるものだなと、人材の豊かさをヒゲの男は感じていた。


ヒゲの男が職場の仲間と決起して独立したときも、こういった感じであった。ユーモアから仕事が生まれて、そのユーモアはいつしか顧客にも伝染して、そういった顧客とは長い付き合いができていたものだ。


ユーモアというものは学ぶものではなく、他人から盗みとるものなのだ。そして、その盗みとり、かすみとったユーモアが必要となるその日まで、こっそりと持っておくものなのだ。ユーモアというものは、笑いをとるものではなく、思わず笑ってしまうように繊細なものだ。知性のガラス細工である。


タイのことわざに、こういうのがある。


硬すぎると欠けやすい


d0372815_16340077.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2017-10-19 16:34 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31