2017年10月24日(火) ◆戦争とゲームと退屈に、おでん。

こんにちは、北浜にて猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を版画家の柿坂万作と共同経営している、ヒゲの男こと阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの男は昼すぎに店へ向かい、そしてコロマンサ(ダブル)をたいらげたあとに映画を観にいく。映画といっても映画館に行くのではない、ヒゲの男が去年あたりに住もうとしていたタワーマンションのシアタールームで映画の上映会が行われており、会の主催者であるコケェッの男の細君からのお誘いがあったのだ。今、思えばこのタワーマンションを契約しなくてよかったのだ、契約していれば今頃は餓死しているだろうことは想像に難しくない。


ヒゲの男はタワーマンションに挟まれた、盆地の底のようなクントコロマンサから出て、目的地へ向かう。今日は「アメリカン・スナイパー」という作品の上映なのだと先日、主催者からお知らせメールが入っていた。


行ってみると40平米ほどの部屋にスクリーンとソファがある。主催者であるコケェッの男の細君とヒゲの男を含めて、6名ほどでスクリーンを見ながら物語は進行していく。ベルリン帰りの女が、かの地で買ってきたスナックを提供してくれたので、ヒゲの男は遠慮なくつまむ。懐かしい味である。


この映画上映会は驚くことに今回で108回目を迎えるとのことだ。総時間は寝ずに映画を見て9日間ほどかかるという計算になる、継続は力なりというところだろうか。これまでどのような映画を上映してきたのか、リストを閲覧してみたいところである。ヒゲの男もレンタルビデオ屋でバイトをしていたころ、寝ても起きても映画ばかりという生活をしていたが、今となっては映画も年に一度見るかどうかという具合だ。


映画を見終えて、整体に行きヒゲの男は店に戻ってくる。ここまで書いてみて、客観的にみるとこの39才の男は、もはやすることもなく年金暮らしを続ける老人と同じだなと思えてくるが、他にすることもないのであるから仕方もなかろう。


身体を十分に揉んでもらい店に行くと、洒落た名前の女がいつもどおり気だるそうに佇むというよりは漂っている。仕事に精も根も使い切ったという充実感であろう洒落た女とヒゲの男は映画談義を開始する。互いに自分なりのベスト映画を言いあい、それぞれの概略と感想を述べるのだが、これが見事なまでに合致しないのには笑いが起きる。それでもお互いに同じ映画を観ていて、好き嫌いが分かれるくらいならまだ救いようもあるが、この二人はお互いから出てくる映画のタイトルに関して、まったく白痴であるのだ。


「阿守さん、シティ・オブ・ゴッドは見られましたか?」


「いえ、まだ見ないです。あなたはビッグ・リボウスキをご覧になられましたか?」


「いいえ、知らないです。阿守さん、博士の異常な愛情は見られましたか?」


「いえ、まだ見ないです。あなたはピアノレッスンをご覧になられましたか?」


「いいえ、知らないです。阿守さん、ノッキング・オン・ヘヴンズ・ドアは見られましたか?」


「ドイツの映画ですよね。、まだ見ないです。あなたは同じくドイツ映画でトンネルというのをご覧になられましたか?」


「いいえ、知らないです…」


ここまでひねくれきった世の中を斜に見る二人なので共通するタイトルがあってもいいものであるが、世の中の多様性は当人たちの想像よりもさらに広く、深いのである。そんな混沌としたなか、青いカーデガンの女がやってくる。もちろん、映画の話しには加わらない、この賢明さは彼女の長所であろう。


常連のガルパンの男が仕事から店に帰ってくる、常連の不思議な女もやってくる。この月曜日という曜日は人々の生気を吸い上げることを得意とするかのような曜日である。それからは小唄の女がやってきて、万作と紙芝居か何かの話しをしている。青いカーデガンの女たちは、四川料理の辛さなどについて論じあっている。


夜が更けて、斥候の男やってきたのを皮切りに、ヒゲの男はアラタメ堂が店に置いていったカードゲームの幾つかをあけて、一同でやってみることにした。「黄金経験」という名の連想ゲームであるが、これがなかなか面白い。酔っぱらいたちはおそろしくシンプルなゲームに夢中となる。


一段落つき、ヒゲの男は冷泉が来るなら店に残っていようかと思案して、冷泉に連絡を取ってみる。冷泉は東京へ向かう新幹線の中にいるとの返答があり、この夜は早めに店を出ることにした。


なるほど、ゲームというものは勧められずとも、目の前にあればそれとなく手を出してしまうものだなと、ヒゲの男はあるひとつの真理に辿り着いた。


ゲームというのは「退屈」という戦場に置かれた、ひとつの銃なのである。


日本からベルリンへ行くのにどれくらい時間がかかるだろうか、パリのシャルルドゴール空港にある「PAUL」の売店でクロワッサンを買おうとしても、半日あれば到着する。そしてそれら日本からヨーロッパへの距離と比べると、戦場となっている地域はもっともっと日本に近い距離なのだが、いつも素通りしている。素通りしておいて、スクリーンにてそういうことがあったという物語を知り、戦々恐々とする。


我々に武器を執らしめるものは、いつも敵に対する恐怖である。

しかもしばしば実在しない架空の敵に対する恐怖である。


芥川龍之介


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by amori-siberiana | 2017-10-24 14:46 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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