2017年12月15日(金) ◆KITAHAMA SINGLE CLUB。

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は朝から北濱のオフィスでコーヒーを飲んでいる。そもそもここまでコーヒーを愛しており現状での生業が喫茶店ということも含めて、コーヒー側からなんらかの返礼でもあって然るべきではないのかなどと考えているヒゲの男であるが、今のところ何もなさそうであり。今後もなにもなさそうである。


オフィスで事務仕事を終えてヒゲの総帥は外にでる。店に行くついでに手頃なワインを二本ほど専門店で買う、これをどうするのかというとホットワインなるものを店で作ってみたくなったのだ。作り方は簡単で雑作もない。ワインをコップに入れ、それをレンジで温める。温まったワインのなかに糖蜜をひとさじ入れ、ぎゅっとレモンを絞るだけのものだ。これだけでしっかりした料理になるのだから驚きである。


ワインを二本、手からぶら下げて店の前に到着するが18時を少し回った頃なのに店のシャッターは閉まったままである。店に住んでいる版画家の柿坂万作に電話をするのも億劫なのでシャッターの前で待っていると隣のフレイムハウスの女将軍が「こんにちは」と挨拶をしてきたので、これ幸いとヒゲの総帥はシャッターが開くまでの時間を潰そうと隣のフレイムハウスへ入ってバーボンをチビチビやる。


店に入ってみると今年で開店20周年を迎えるそうで、非常に簡単ではあるがヒストリカル演出がされた写真が壁に貼られてあった。20年も喫茶店を経営するなど生半可なことではなかろう、石の上にも三年というがそれを七回り耐えるとは恐れ入った。ヒゲの総帥が本を読みながら酒を飲んでいると女将軍がやってきて産業廃棄物の領収書を見せられる。事業所からでるゴミは産業廃棄物扱いになりクントコロマンサとフレイムハウスは処理代を折半で出し合っている。どうも今月は額が多いようである。聞くところによるとゴミの量が多いので通常の倍額を産廃処理業者から請求されたのだとのこと。ヒゲの総帥は処理業者とフレイムハウス先生がどのような契約を結んでいるのか知る由もないが、言われたままに支払う。


「冬期別口料金」と領収書に書かれている処理業者は処理協会に登録されている社名とは微妙に違い、さらには事業主の名前も微妙に違い、所在地にいたっては協会登録名簿とは全然違う住所が記載されていたのだが、ヒゲの総帥はまあそれもいいさと済ましてしまう。処理業者側の帳面に素敵な工夫がされていることは言わずもがなわかりそうなものである。


女将軍は「隣の一棟建て(コロマンサを含む)を買い戻したい」のだとヒゲの総帥にいう。「そうするもいいでしょう」とヒゲの総帥は返答する。女将軍のエルサレムを必ず奪還しなくてはいかんという十字軍のような気概を見せつけられても、柳のように薄情なるヒゲの総帥にはその熱量の根拠が判然としないのでやり過ごすしかないのだ。「今、大家さんと交渉をしているんです、長期戦になるかも知れませんけれど、私が買いたいのです」「へえ、あそこに大家なるものがいるのですか」とヒゲの総帥は恐ろしいことをいう。大家がいなければ一体誰に月々の家賃を払っているというのであろうか、女将軍はヒゲの総帥の珍妙な返答に呆れ顔をする。「私が大家になっても家賃は払ってくださいね」とニコリとする女将軍であるが、それはただニコリとしているだけであって腹の底から笑ってなどいないのだろう。しかしながら美人であるのは確かだ。


ヒゲの総帥はフレイムハウスを出て、薄暗く細いエルサレムへと続く階段を上っていく。締まりの悪いドアを開くと版画家の万作が厨房にいる。「万作さん、ホットワイン用に赤ワインを買ってきました」「…これはこれは、ありがとうございます。うーん、ワシはホットワイン作りませんよ」「ええ、ワシ(阿守)が作りますからご安心ください」というやりとりがある。元来、この版画家から前向きな肯定意見が出てきたことはないのであるから、こう言ってくるであろうことはワインを買う前から予想できたことである。「うーん、あのホットワインいうやつですか、これまで美味しいと思うたことがないんです」と万作は言葉を付け足す、頭ごなしに拒否した根拠を後付けして帳尻を合わせようとしているのかしらんとヒゲの総帥は思うが「僕も同感です、あんなにまずいものを誰が飲むのでしょうね」と論点を四次元に持っていく。「えらい手間がかかるんでっしゃろ?」と万作はいう、「いえいえシンプルですよ。ワインを温めてそこに砂糖とレモンを入れるだけです」「えぇー、ごっつう手間かかりますやん、それごっつう手間かかりますわぁ」という万作。この論法でいけばカップ麺すらもごっつう手間がかかるもんに変わってしまいそうなので、ヒゲの総帥は会話をやめる。


しばらくすると常連の不思議な女、ガルパンの男、グラフィックデザイナーの男、そしてギャラリーの女がやってくる。ギャラリーの女は店の中央にあるレンガにつまづく。このレンガは練炭コンロと床のカーペットの間に敷いているものである。「こんなところにレンガを置いてたらつまづきますよ」と恨めしそうにギャラリーの女はいう、「うーん、そないにつまづくようなこともないと思うんやけれど」と万作は返答するがしばらくして万作がレンガにつまづく。「足の骨が折れればいいんですよ」と苦笑しながらギャラリーの女はその模様を見ている。そしてそのあとにまたつまづくギャラリーの女、これが大阪名物の天丼という笑いの取り方である。


そのうちレンガの上には練炭コンロが置かれて、見事な炎が立ち上がるを皆で見る。立ち上がる炎はそれこそ作りもののように美しく、その炎はこの世の真実をこちらに語り掛けているかのようであった。そこからはつまづく人間はいなくなる、なぜなら命にかかわるからだ。


ヒゲの総帥は炎を見るとしばしば何かを燃やしたくてたまらない衝動に駆られることがある。これは子供の頃からそうであったのだが、一度、ティッシュペーパーを燃やしていると大火事になりかけて肝を冷やしたことがあるのでそれ以来は火で遊ばないようにしている。旧友のシャフナー先生からも「今にその辺のもんじゃ物足りなくなって、他人の家とか燃やしたくなるんちゃうか」との忠告もいただいたことがある。火を見ると、なんだか自分を試されているような気になるのだ。


グラフィックデザイナーの男はどうやら高所がダメなのだとのこと。バイクでツーリング途中などで不意に断崖絶景のようなところへ行ってしまうと景色が怖いので顔を伏せて運転するのだそうだ。これでは対向車はたまったものではない、処刑ライダーが前方からやってくるようなものだ。「高いところへ行くと、そこから飛び降りてしまいそうな気がする」と語るのは処刑ライダーのグラフィックデザイナーの男である。ギャラリーの女も高いところとスピードが苦手なのだと話しだす。「なんだかね、高いところに行くと吸い込まれそうになるんですよ、二階の窓から外を見るのもダメだし、脚立の上でもダメなんですから」という、「それなら飛行機はどうなんですか?」とヒゲの総帥は素朴な疑問をぶつけてみるが飛行機はいいのだそうだ。「ということは単純な高所恐怖症ではなさそうですね」とヒゲの総帥は笑う。「だってね、飛行機なんて落ちたらみんな仕舞いじゃありませんか、だから大丈夫なんですよ」とギャラリーの女は笑いながらよくわかるようなわからないようなことを平気でいう。


「そうだ、阿守さんのカレンダーの話しなんですけれど、私、本気で考えているんですよ」と話しを急展開させるギャラリーの女。「あなたエイリアンさんから北濱の独身者のなんたるかを作るように言われてるんでしょう?」と話しを続ける、「はい、でも僕はロゴデザインだけのはずだったと思います」と総帥は珍しく恐縮する。「それで出来たんですか?」「いいえ、まだ取りかかってもいません」「なんという会のお名前でしたか」「確か北濱独身ミドルクラブだったように記憶しています」「ちょっと名前が長くはありませんか」とやりとりは続く、「名前はエイリアンさんが咄嗟に思いついたものなので、多少の変更はいいのではないでしょうか」と総帥は独断を先行させる。「ミドルがいらないんじゃない」といったのは不思議な女であったろうか、「それなら北濱独身クラブにいたしましょう、なるほどこれなら収まりもいい」とヒゲの総帥も納得する。


グラフィックデザイナーの男と不思議な女がクラブのロゴマークのラフ案を幾つかその場で描いて提出してくれる、どれもハイソサエティ独身貴族の栄光と寂しさが表現された秀逸なものであった。


「どうせならカレンダーのことですけれど、北濱独身クラブのカレンダーにしませんか?」とヒゲの総帥は巧妙に標的をすり替えようとする。「どういうのをお考えなんですか」とギャラリーの女はいう。「こうね、白のふんどし姿で腕組みしたクラブの会員が、那智の滝をバックに腕組みして並んでるなんてどうです」と月並みな想像力で月並みな解決案を示す。「せっかく独身貴族で貴族なんですから、日本っぽくないのがいいわね」とギャラリーの女。「そしたら、ヴェルサイユ宮殿の噴水の周囲にやはりふんどし姿で腕組みした会員を並ばせるという趣向はどうですか」とヒゲの総帥は代案を示す、「絶対、捕まりますよ」と言ったのはクラブの暫定的頭領と目されるガルパンの男であった。


上品に笑いながら「クラブは絶対発足させてくださいよ。うちのギャラリーを窓口にしてくれていいですから。でも、男同士の傷の舐めあいのようなクラブは嫌ですから、そこはきちんとしてくださいね。あくまで貴族的で紳士で」とギャラリーの女はビールを飲む。「若い生き血を沢山吸わないといけないんですよ」と自称、御年301才のギャラリーの女は愛嬌のある顔で微笑む。


不思議な女、ガルパンの男、ヒゲの総帥で練炭コンロを囲む。何を話し合うでもない、四方話しをして互いの存在を再確認するようである。グラフィックデザイナーの男はその様子を写真で撮影する。


そういえばヒゲの総帥が今は亡き父親と最後に語り合ったのも真冬の縁側の火鉢であった。それは初めてお互いが父と子というよりも、血のつながりはあれど別の個性を持った人間として触れ合ったような気がした。といってもあれこれ話しをしたわけではない、ただただ、「火鉢はいいな」と二人で冬の真夜中にタバコを吸っては消して、吸っては消してを繰り返していた。吸い終わったなら早く家の中に入ればいいものだが、火鉢から離れることが惜しかった思い出がある。母親がどこかの農家からもみ殻をもらってきて、それにつけた火は優しく柔らかな温かさに恵まれるような熱を他人行儀な父と子に施すのであった。


その数日後に父は息を引きとった。とにかく鶏肉が嫌いな男であった、幼い頃に自分の父(ヒゲの祖父)がニワトリを絞めるのを見てから食べられなくなったのだという。自分がどういうことを考え、どういうことを学び、どういうことをしてきたのか何も語ってくれない男であった。それでいて寡黙ではなく多弁で冗談と悪口が大好きな男であった。官憲や国家公務員には驚くほど平身低頭であるが、田舎で芸術家然として他人に「先生」と呼ばせて喜んでるような人間への舌鋒はそれはそれは苛烈を極めて凄まじかった。

ところが自分はどうかというと、毎日のように「先生はおりますか」と色んな人から電話がかかってきていた。もちろん電話の対応をしていたのは小さい頃のヒゲの総帥である。理不尽と不平等がどういった関数によって天秤をとっているのかわからないが、神祇釈教恋無常こんなもんであろうということは普段から家庭内の父からの所作で教わった。人の水を飲みて冷暖を自知するが如しである。


柏の樹は縁起が大変良いとされる。ゆずり葉といって新芽が出てきて若葉が古い葉を押し出すかたちで落葉するので、その様相が商売をしている者にとっての良い世代交代に例えられ縁起物となっている。


明日はいよいよ王子の来訪である。



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by amori-siberiana | 2017-12-15 15:09 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。