2017年12月16日(土) ◆国際宇宙ステーションは挨拶もせずに通り過ぎる。

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


いつの間にか年の暮れが迫ってきている。別段、迫ってきたところで命を差し出さなければいけないということもあるまいが、ようやく2017年(平成27年)が終わろうとしているのである。とにかく今年は長かった。様々なことが暴発した一年であればその時間の経過は感覚的に迅速であるはずが相場だが、ヒゲの総帥は例外なのであろう。


2017年の最初は神戸で迎えた。何をしに神戸に行ったのかはよく解らないが、仕事ばかりに嫌気が差して心斎橋の風景から逃れたかったのだろう。仕事で取り扱う額面が多ければ多いほどプレッシャーとストレスは相当なものであり、そういうものは一睡したくらいでは取り払われずに蓄積されるものである。一人の顧客から1億や2億を託され、そういう顧客が何人かいるだけで会社やヒゲの収入は安定していたが、それ以上にいつも逃げ出したい気持ちが大きかった。


そしてある男が会社の金を私的流用していたことが発覚する。春は会社の金を使い込んだ男の追及と調査に奔走したが時すでに遅しであった、そして夏には北濱クントコロマンサの経営再建である。ヒゲの総帥からの唐突な救難信号を即座に対応してくれ厚意を示してくれた以前の音楽仲間やファン、さらには旧友や常連客には感謝しかない。そして新しい出会いによってヒゲの総帥と友人になってくれたあらゆる分野の化け物たちにも感謝しかない。


思い返してみると数奇なものである。会社のことがなければクントコロマンサに関わることなどなかっただろう、ヒゲの総帥は会社の金を私的流用をした男を救えなかった。その男のところには再三のように訳のわからぬ輩から電話がかかって呼び出しをくらっていた、その男は涙を流しながら「また、ヤカラ言われるんや…」と絶望した顔をしていた。ヒゲの総帥も男泣きしながら「必ず救い出しますから」と答えて別れることとなった。


この男はヒゲの総帥よりも随分と年上であり、会社の代表者になってくれた男である。何かあったときには矢面に立つ覚悟があり、気風の良さを持っていたこの男を廃人のようにしてしまった連中をヒゲの総帥は許すことはない。今さらながら素晴らしいチームであり有能なろくでなしたちが集まった会社であった。会社で抱えていた業務を他社に引き渡したあとすぐに版画家の柿坂万作より「家賃を滞納してて金もなく店が来月で終わる」と教えてもらう。


立て続けにおっさんたちが自分の目の前で破滅していく様をこれ以上は見たくなかったというのが、この店に関わったヒゲの総帥の本心である。盛者必衰の自然の摂理、潰れるべくして潰れるという社会的淘汰の掟に反旗を翻したかったのだ。庭園というものは人の手を入れずに放っておけば薄情なまでな荒地となる、為す術もなく放置したままにせず、雑草の一本一本でも丹念に摘み取っていけば何とかなるということを試したかったのだ。


正直、ヒゲの総帥は北濱クントコロマンサに思い入れがあったわけではない。この地は好きであったが、この店に執着があるのかといわれればそんなことはどうでもいいことだった。店があればあるに越したことはなく、なければないで他に幾らでも代わりはある。ところがそれが自分の目の前で起きるとなると話しは別になってしまう。それはごく自然に「こうすれば難を逃れることができる」という生者の発想と結びつくのだ。イエスの復活然り、エジプトのピラミッドの中にいるミイラ然り。


目に見えるものでなくなって困るものなどほとんど無い。それは人でもそうだ。


ルソーは「人は二度生まれる、最初は存在するために、次は生きるために」という。同感だ、そして蛇足を承知で恐れ多いことながら言葉を付け足すとすれば、「人は二度死ぬ」ということをヒゲの総帥は考えている。最初は物質としての死を迎える、そして次にはヒゲの総帥の心のなかでその人が死ぬのである。目に見えない部分、手で触れないところで死していく。それでやっと死ぬのである。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は北濱のオフィスで国際宇宙ステーションが大阪上空を通過するというので、その時間を調べている。「アラタメ堂、午後18時過ぎに僕たちの頭上を国際宇宙ステーションが通過しますよ」と隣に座って仕事をしているアラタメ堂のご主人へ嬉々として伝える。「そうなんですか、そんなの見えたりするんですか」とアラタメ堂は言いながらパソコンをガチャガチャしだす、おおよそ国際宇宙ステーションの上空通過に関する情報収集をしだしたのかと考えたヒゲの総帥であったが、アラタメ堂のパソコンをのぞき込んでみるとディスプレイに映っているのは「人狼」のチラシであった。つまり、アラタメ堂はISS(国際宇宙ステーション)にはまったく興味がないのである。


ヒゲの総帥はISSの時間をメモして整体へ向かう、明日からの演奏のために筋肉を柔らかくしておかなくてはならんという気合である。整体が終わり店に向かう、すでにラーメンの男が来店している。そこから常連の不思議な女とガルパンの男、組長とフグ三昧の男、アラタメ堂と日本とロシアを繋ごうとした男、斥候の男と山の向こうの集落の男がやってくる。それぞれのテーブルで話しの市は栄える。


アラタメ堂たちは降霊術やテレパシーや超能力の存在についての話しをしている。店の中央ではガルパンの男たちがスターウォーズ新作の話しをしている、火鉢の周囲に展開している不思議な女とラーメンの男とヒゲの総帥は温泉について語り、オルガン横の奥の席では組長たちが若かりし頃の女性における武勲の話しをしている。


「あっ!」とヒゲの総帥はおもむろに頭を抱えだす。なにを大仰なことをと一同はヒゲの総帥に注視する。どうやらヒゲの総帥がいうには国際宇宙ステーションのことをすっかり忘れていたのだとのこと。一堂からは同情の言葉がかけられる、それを聞いたアラタメ堂は「そんなもんはYouTubeで見ればいいんですよ」と思い切ったことをいう。「そんな風情も情緒もあったもんじゃない効率的なこと言わないでくださいよ」と悲嘆に明け暮れるヒゲの総帥はいうが、店内はヒゲとアラタメ堂との温度差に笑いが起きる。不思議な女は自身がソ連に乗り込んだときの話しをしてくれる、そこで出会ったアルメニア人の男の子との言葉が通じなくとも心が通じ合った話しである。


組長たちはフグを食べて来たという。ヒゲの総帥が自分はまだフグを食べないというと、是非、食べてみるべきだと勧めてくれる。すると不思議な女とガルパンの男はヒゲの総帥に「せっかく食べるのなら肝を食べるがいいだろう」と丁寧に部位まで勧めてくれる。ヒゲの総帥がGoogleに「フグ 肝」と打ち込み検索すると最初に出てきた記事が「青酸カリの1千倍」という見出しであった。本当にありがたい御仁たちである。


日本とロシアを繋ごうとした男がいう「この店の店長は誰なんだ?」と万作は「うーん、ワシです」と挙手する。「この方は?」とヒゲの総帥の方を見るので総帥は「プロデューサーです」という。たった二人だけの店でプロデューサーという役職も失笑であるが、まあそれで本人たちが楽しいのなら一向に構わない。質問した男はさらにいう「この店のオーナーは誰になるのですか?」「オーナーという役職の定義がお金(給料や経費)の面倒を見ているということであれば現状は僕になりますね」とヒゲの総帥はいう。すると万作がテンション高めに話しに割って入ってくる「ええっ!オーナーはワシでっしゃろ、金でいうたらこれまでに150万は使うてます!」と。その答えを聞いてアラタメ堂は苦笑しながら「いやいや、万作さん、具体的な金額まではいいですから」とその場を取り繕う。


万作がオーナーでも経営者でも大王でも帝王でも役職やヒエラルキーは何でも構わないのだが、そのオーナーの家賃と給料、光熱費に食費、雑費などの全てを賄っているこのヒゲの総帥の立場をなんと説明するのが相手の求める質問に対して明快な回答であるのかを遺憾ながら万作は考えていない。オーナーに給料を出している人間はボランティア活動員とか人道主義者とか旧時代的なパトロンとでも説明するのであろうか。話しをややこしくするだけであるのだが、この版画家の被害妄想たるや相当なものであり説いて聞かせて理解できるようなタマではないのだ。


以前、会計事務所を経営するドマツ先輩とヒゲの総帥が店の宣伝方法について話しをしているとき、インターネット上の店の宣伝に使ったアカウントをドマツ先輩がヒゲの総帥に譲るという言葉が出た。その瞬間、「ええっ!この店のオーナーはワシやのうてドマツ先輩の名義になっとるんですか!ワシ、そないな話しは聞いとらんです!」と必死の形相になっていた。どこをどう考えればドマツ先輩がこの店を買収するという思考になるのかさっぱり解らないが、まあ、万事こんな調子なのである。そのうちヒゲの総帥も万作ビューでいけば盗賊の頭目くらいに片付けられるかも知れないが、そのときはそのときである。

そのあと、外資系保険会社の女と忘年会帰りのグダグダの上司を連れた若いサラリーマンがやってくる。とにもかくにも凄惨な忘年会であったそうで、随分と上司の男は他の部署の人間から呪詛の言葉を吐かれたのだそうだ。ヒゲの総帥は話しを聞くことぐらいしかできない男であるので聴き手に徹する。


白と黒が折衷したコントラスト具合の上司の男は酔っぱらって腕相撲をしようとアラタメ堂に言いだす。部下の男は「すいません、いつも酔っぱらったら腕相撲になるんです」と店にいる人間に対して申し訳なさそうに述べるのだが、この店たるや腕相撲くらいはハイタッチ冷泉のおかげで屁のかっぱであるので誰も頓着しない。


アラタメ堂との腕相撲で全戦全敗だった上司の男は火鉢に手をあてるヒゲの総帥にいう。「なんでオレがこんな誰も聞きたくないような重い話しをしてるのに、そんなに余裕なんですか」と。ヒゲの総帥はいう「自分と同じように弱く、悩んで、一寸先は闇のような人と出会えて安心してるからです。自分も四六時中、生きるということに悩んでいて自分の個性に振り回されているのだ」。


上司の男はその答えを聞くやニヤニヤして無言で握手の手を差し出してくる。そして立ち上がりながら呂律の芳しくない言葉で「兄さん、いつもここにおる?」という。「はい、おるようにします」「ホントに?」「ええ、今のところ他に行くところがありませんから」「なら、また、来ます」といって男は部下に横脇を抱えられながら退店した。


北濱のクリニャンクール、ツタの絡まる青山ビルのギャラリー「遊気Q」では一昨日から掘り出しものの名品、逸品、珍品が歳末バーゲンにて安くでている。ヒゲの総帥はあそこのギャラリーが好きである、そこに勢揃いする品物がこの世の中にどのような役割を果たすのかは解らない。ただ、物も言わずに愛されることをジッと待ち焦がれているそれらの作品から気品と尊厳を教えられるのである。


不思議な女は蚊に血を吸われたとき、自分の血が空を飛びどこか見知らぬところへ運ばれていくことに興味を持ったという。


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by amori-siberiana | 2017-12-16 12:57 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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