2018年01月04日(木) ◆柿坂万作という気分屋のシェフ。

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


一昨日はお店にふらりと立ち寄りましたが、どうにも気分が優れないのでそのまま帰り、16時間くらい寝たヒゲの総帥。一度眠りのスポットに入ると体が太古から受け継ぐ哺乳類の遺伝子に操られるかのように冬眠モードとなる、幾らでも眠れるという境地に届く。ただ単純に予定もなく、初詣する信心もなく金もないので寝るのが生きていくのに一番効率のいい方法である。かのベンジャミン・フランクリンでも「そうだそうだ、それが効率的だ」と称賛してくれるだろうという体である。


こういった自己否定的な考え方はビタミンDの欠乏からくるものだと常連の不思議な女がいっていたので、ヒゲの総帥は鳥肌を立たせながら日向ぼっこをしたりする。なんでも手を陽光にかざしているだけでビタミンDを体が作ってくれるそうなのだ。エストニアで日本料理屋を経営するマークも同じことを言っていた、ビタミンの欠乏によってどうにも太陽の上がらない冬季などは自分を弑することを考えてしまいがちなのだそうだ。


ヒゲの総帥にとって冬季の鬱屈状態はかれこれ20年以上の付き合いになる。いつもこの時期が来るとどうにも生き難い考え方になってしまうのだ。そんなとき、自分の隣にはいつもギターがあった、なので作曲などは冬季が最適であったのは事実である。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は女将軍歌合戦の戦場となった舞台の片付けに店へ行く。戦場といっても刀や鎧が落ちているわけではなく、落ちていたのはアハハの女のケーブルとコルセットくらいのものであった。昼間といえども吹きすさぶ風は強く、たまに霰が落ちてきたりする。まだまだ北濱の往来はまばらである。国破れて山河在り…、ここが戦場であったことを忘れさせるほどの賑わいが金曜日には行われるのかと想像すると、なかなか愉快である。


版画家の柿坂万作は来るべく5日の金曜日のためにオムライスの仕込みを通常よりも多めにしている。これで間に合えばいいのだが、間に合わない場合は頭をかいて誤魔化すさとヒゲの総帥はヤン・ウェンリー提督を気取る。とにかく万作とのあいだに存在した境界線はすっと無くなったのである。かといって恒久的になくなるのかといえばそんなことはない、人間は常々気づかぬうちに変わっていくものである、また感情の有刺鉄線が互いの間に敷かれるかもしれない、そのときはそのとき、また殴り合いをすればいいのだ。


万作は壁画に取りかかる、ヒゲの総帥は新しくなった七輪の暖から猫のように離れない、店内には版画家とヒゲの総帥の二人きりの時間がずっと続く。懐かしい感覚である、北の大国の文豪ツルゲーネフは「二人の男がいて、その二人が特に何も語ろうとしない場合、それは父と息子だとわかる」のようなことを書いていたが、版画家とヒゲの総帥は父と子ではない、ツルゲーネフ君に補足改訂を望むものである。


ゴガッと音がして締まりの悪いガラス戸が開く。やってきたのは江戸堀のヘミングウェイであった。この男は江戸堀でバーをしているのだが、自身のバーの開店前にやって来たのである。バーの名前は「ツァーリボンバル江戸堀」といい、ヒゲの総帥が不思議な女に連れられて行ってからというもの、丸三日間通ったほど居心地のよいバーである。数年ぶりにコロマンサにやってきたというヘミングウェイの登場に万作はなんだか落ち着きがない。その落ち着きのなさは「嬉しい」という彼なりの感情のように見えた。「うーん、何年振りやろ、こっちに来てくれたん」と万作は彼が帰った後、感慨深そうにいっていた。


数日前、ヒゲの総帥はツァーリボンバル江戸堀で自身が北濱という土地でやりたいことを語った、それと万作がどうにもならんという愚痴もこぼした。前者のことに関してはヘミングウェイは「一緒に何かやってみるか」とヒゲの総帥にいう、後者のことに関しては「俺が万作に言うたってもええぞ」と助け船を出してくれた。ヒゲの総帥は彼という個性の存在が賢明なる知性と公平なる見地の上に立っていることを知り、とても安心した。


ヘミングウェイは万作にこの壁画は着手してどれくらいなのか尋ねたり、ローマ風であることと大阪の関連性を尋ねたりする、万作は書生のように素直にあれこれを答える。そのあと、ヘミングウェイとヒゲの総帥は土着音楽がショービジネスの世界でどうやって流行歌に取り入れられていくのかの話しをする。ヘミングウェイはR&B側からの推論を述べ、ヒゲの総帥は西洋の民族音楽側からの推論を述べる。


そうこうしていると、また客がやってくる。四人組の若い韓国からの旅行者である。「うーん、食べもん頼まんとってよ、食べもん」と客を目の前にして口に出す万作にヒゲの総帥は「万作さん、それがいけないのですよ」と注意をすると、ハッとしたような顔で万作は「すんません」と苦笑する。結局、彼らは四人ともが食べ物をオーダーすることになったが、万作はそこからは不平もいわず見事なナポリタン・スパゲティを四人分作りあげた。本人がいうところでは、ルパン三世「カリオストロの城」バージョンのナポリタンだとのことだ。


韓国人たちの食欲は大盛りのスパゲティを一瞬にして空にするほどであった。


さすがは柿坂万作であるとここで面目躍如をしておく。


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by amori-siberiana | 2018-01-04 15:34 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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