2018年01月10日(水) ◆マッドネスと呼ばれた山々。

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


十日戎で賑やかになるころはいつも寒々しい日となる記憶がある。会社にいた当時は誰かしらが戎神社に行って福笹と熊手を購入してきては、社内の本棚の上に飾ってあった。しかしいつからか前年の熊手がそのまま飾られていることになるのである。これは特に金に余裕がなかったとか、急に信心や縁起に愛想が尽きたということではなく、ただただ面倒臭くなったのだ。誰が面倒臭くなったのかといえば、それは熊手を購入しに行っていた人物であろう。他のスタッフなどはそういったことに関して全く無頓着であったからだ。


業務引き継ぎ、業務引き継ぎの連続でコロコロと社名が変わっていた会社であったので、そもそもその仕事の根本となった部分を誰がどういったノウハウによって設立し、どこへどのように金をかけて拡大していったのか、途中から入ったヒゲの総帥からすれば今、振り返ってみても謎であった。最初の頃は自身の仕事分の給料さえもらえれば会社の運営に干渉しないでよかろうと社史に関して突っ込んだことを訊いたこともなかった。ところが何年か経過して自分が会社の運営側に回ったとき、そもそもこの仕事を生み出したのは誰なのか?ということを考え出すようになった。


それを知らずして、自分たちの会社が同業種のどのくらいの位置にいるのかもわからなければ、横の繫がりがどうなっているのかもわからない。個人情報を専門的に取り扱うので超が付くほど閉鎖的な環境であり、交流会のようなことがあったとしてもトップ同士が北新地でこっそりという具合だった。飲みの席を避けていたヒゲの総帥などはそういった場へ行ったことはなく、情報開示もされないのでまったくもってチンプンカンプンな部分ばかりだった。ただ、自分のミッションを淡々とこなしていくだけである。


とにかくこのヒゲの総帥は偏屈なところがある。生来の負けず嫌いもあるのだろう、そのうち周囲からもあれは変人だから好きなようにさせておけと障壁を作られる。ある夏のこと、会社の慰安旅行で石垣島と西表島へ行くと決まったときなどは、「オレはそんなところへは行かん」と強情を張る。そして同僚たちが南の島にいる同日、自費で北海道の稚内へ行っては宗谷岬で仁王立ちしてロシアはどこだと目を見張る男なのである。


その次の夏も慰安旅行はあったのだが、そのときも「オレはそんなところへは行かん」と強情を張り、数名の部下を連れて会社に居残っては仕事をする。そしてこういった意地を張ったときこそ、皮肉なことに集中力が増して会社史上におけるとんでもない売り上げを叩きだすことになる。バカとハサミは使いようというが、そのうちの前者を地で行くような男なのである。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥はいつものように北濱のオフィスへ向かう。途中で南船場のパン屋「き多や」へ寄ろうかどうしようか考えたが、外があまりにも寒いのでオフィスへ直行する。到着するや「阿守さん!」と低く響く声でミカン爆弾の男から呼び止められ、肩を回す健康法を教えてもらい、ヒゲの総帥は素直にそれに従い肩を回す。


「どうです、肩が温まってくるでしょう!」とミカン爆弾の男は一緒になって肩を回す。「そうですね、確かに肩が温くなってきますね」とオウムのように反復するヒゲ。「ひじの先に筆がついてる感じで!その筆で壁に円を書くように!」とミカン爆弾の男はいい、二人の男はオフィスの中でグルグルグルと肩を回している。


しばらくするとアラタメ堂のご主人が自分のロッカーから紙袋を持ってやってくる、ヒゲの総帥がその紙袋をのぞき込むと「狂気山脈」というボードゲームが入っていた。


「アラタメ堂、これが噂の狂気山脈ですか」
「あー、そうそう、これまだ新しいゲームで僕も買ったはいいけれど、やったことがないんですよ」
「ちなみに何人ぐらいでするゲームなのですか」
「えっとね、3~5名というふうになってますね」
「僕とアラタメ堂では二人きりですね」


すると、ヒゲの総帥の視線の15メートルほど先に学生起業家の男ことダダヤマが座って仕事をしているのが見える。誰かと電話で商談をしているようである、口癖は「いやいやいやいや…」というもので、やっぱりこの日も相変わらず口癖を連発しており、アラタメ堂のご主人から「あいつ、何回いやいやいやいや言うねん」とこっそり突っ込まれていたのは内緒である。


ヒゲの総帥はダダヤマのところへ行き「よし、行くぞ」と声を掛ける。何の目的でどこへとも告げられていないダダヤマは「えっ?どういうことなんですか?えっ?」と周囲を伺う目をする。その光景に思わず吹き出して笑ってしまうのはミカン爆弾の男である。「もう仕事は終わりだ、さっさと用意するのだ」とヒゲの総帥は面倒くさそうに声を荒げるが、泣き寝入りする債権者のような声で「すいません、僕、大学のレポートができてなくて…」と現状を告げるのはダダヤマ君。


「どれくらいの量なんだね」
「えっ?」
「何文字くらいのレポートなんだねということだよ」
「ああ、3000字です」
「そんなの分割すりゃいい、自分で1000字、僕が1000字、アラタメ堂のご主人が1000字書いたらそれで出来るじゃないか」
「いやいやいやいや…、おかしいでしょ、いやいやいやいや」


「えっ!?オレも書くの?」と素っ頓狂な声を出したのはアラタメ堂のご主人であったが、書生のダダヤマ君の邪魔もできぬとヒゲの総帥は「じゃあ、よいお年を」とだけ告げて彼の御前を失敬する。「えっ?よい、お年って…」とダダヤマは繰り返すがアラタメ堂のご主人から「つまり、年内にお前に用事はないいうことや」と笑いながら告げられる。ヒゲの総帥の背後では2018年内最後であろう「いやいやいやいや…」が聞こえていた。


アラタメ堂のご主人とヒゲの総帥は店に向かう。到着すると週末に人狼イベントを主催したマスマティックの女がブラックルシアンを飲んで、店の壁に映し出された「君の名は」を見ている。版画家の万作はマスマティックの女に何か頼まれたのであろう、映画は見ずに厨房で何かしらを調理していた。ヒゲの総帥はマスマティックの女に「狂気山脈」を一緒にしないかと声を掛ける、女は快諾してくれた。


「狂気山脈」


どのようなゲームなのか簡単に説明しよう。全プレイヤー協力型のもので共通するミッションがある、プレイヤーたちは狂気山脈にある幾つかのミッションを経由して山頂を抜けて飛行機で無事に帰還するという単純なストーリーである。このゲームの特異なところはミッションを失敗したときに「狂気カード」というものをプレイヤーがひかなくてはならず、そのカードに書かれていることを演じなくてはならないのだ。


例えば


●五七五調でしか話せなくなる

●叫び声をあげながらでしか話せなくなる

●歌うようにしか会話ができない


こういった指示が出てくる、しかも一度設定された狂気は基本的に取り除くことができず、さらにさらにと上乗せでカードをひくたびに狂気の指示が出てくるので、このゲームの基本であるプレイヤー同士の対話ができなくなり、ミッション完遂が困難となるのである。


ゲームの途中にマスマティックの女は狂気カードをひき、とてもおかしなカードの持ち方を唐突にしだす。後になってわかったことだが女のひいたカードには「親指が使えない」と書かれていた。想像していただきたい、トランプでババ抜きをしているとして親指を使わずに果たしてカードが持てるものだろうか。その姿に三人は爆笑する。


そしてこの「狂気山脈」の世界観は小説家ラヴクラフトを継承しているものであり、架空生物ショゴスなども当然のように登場してくる。そういえばDEAD ENDのアルバム「GHOST OF ROMANCE」もラヴクラフト的な世界観だったような気がする。


二人が帰ったあと、ヒゲの総帥は万作に給料を渡しながら「ひとつだけお願いがあるのです」と万作に伝える。万作は眉間にシワを寄せながら「うーん、そのお願いいうもんにワシが応えられるもんかどうなんかそれはそれを聞いてからやないと、なんとも判断できませんので、まずは~(中略)~というのがワシの考えで、話しが長うなりましたけれど…」と返ってくる。どうやら絶好調である。


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by amori-siberiana | 2018-01-10 14:20 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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