2018年01月28日(日) ◆ブルガリアの老人博士。

こんばんは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、金曜日のこと。


ヒゲの総帥はハイパー全体主義のような要塞で仕事をしたのちに北濱のオフィスへ向かう。アラタメ堂のご主人がおり、そのテーブルにはどこかで見たようなデザインの海外版のボードゲームが置かれていた。「また、新しいのを仕入れたんですか」とヒゲの総帥はアラタメ堂に問う、アラタメ堂は何やらむにゃむにゃいっていたが、それを聞き流しながらコーヒーを淹れに行く。自分で話しを振っておいてなんとも不届きな男である。


二人は連れだってオフィスを出る、アラタメ堂は「寒い寒い」を連呼する。寒いを連呼すれば夏場の打ち水のように多少なりとも気温に効果があるような勢いで「寒い」を吐きだす。店に到着すると常連のガルパンの男がいつもの席でおり、やっぱりいつものようにスマホに視線を落としたまま戦車部隊を展開している。


しばらくするとブルーグラスの男が自分の経営するスタジオからマイクを持ってやってくる、さらには北濱で最強の男ことクモン提督もやってくる。それからドンドンドンと全体重を階段に塗り込めるように上がってくる音をさせながら、ハイタッチ冷泉が来る。そして目が乾くから酒を飲みたいとゲームセンス・ゼロの女も来る、その後を追うように斥候の男も来る。


クモン提督は皆にYouTubeの動画を見せる。クモン提督率いるラグビー選手連中がスリップして走れなくなった車を持ち上げるというものだ、肉団子のような男たちが故障した車を持ち上げながら路肩へ移動させる。山間のアスファルト舗装された道、見たところカーブの途中だということから故障車を避難させておかなければ、連鎖事故の恐れもあるので賢明な判断であろう。しかしながらラグビーの連中も力が有り余っているのか、故障車を路肩に寄せるだけではもの足らず、段差のある歩道に持ち上げようとする。車の下部は金属と縁石が大いにガリガリと擦れる音を出す。こういうのをありがた迷惑というのであろうか。動画を見ながら一同は笑う。


そして土曜日のこと。


この日は版画家の万作が執拗にストーキングしている対象者が夜にコンサートをするということで、万作は店では不在。そのため猫のひたいのような小さな店は休業をすることになった。ヒゲの総帥もこれ幸いと久しぶりにコンサートへ出掛けることにした。出かけた先は兵庫県立芸術文化センターの大ホール。出し物は何なのかといえば、ブルガリアン・ヴォイスである。


ヒゲの総帥はとにかくブルガリアン・ヴォイスが好きであるが、残念ながらこれまで実演に触れたことは一度もなかったので、ようやく念願が叶うというところで朝から妙にテンションは高い。ブルガリアン・ヴォイスというのはそのままブルガリア地方の女性合唱のことであり、そんな合唱がはたして面白いのかと言われるかも知れないが、これはそんじょそこいらの合唱ではないと断言せざるを得ない。


魔界だ。本人たちはどういうつもりで歌っているのかわからないが、これは悪魔が好む、または魅入られる音楽である。発声方法はエッジが利いていてプリミティブで野趣があり、ハーモニーは大胆な和声を使ってくる。大胆とはどういうことか。


「ド」という音にハーモニーを付けようとすれば一番簡単なのは「ミ」と「ソ」を付ける、そうするとハ長調になる。


ヒゲの総帥のような頭の鈍い人間は独自の解釈でこう考えていた。


「ド」は父親、「ミ」は子供、「ソ」は母親である。子供がグレだすと半音下がり「ミ♭」になる、こうなるとハ長調からハ短調になる。つまりメジャーからマイナーになるということだ。キン肉マンのようにたまに子供を取り違えて他人の子供とすり替わってしまうと「ミ」はいなくなり、「ド」「ファ」「ソ」となるがこれではどうにも安定しない。自然と実子の「ミ」を取り戻したいという気持ちにさせられるのだ。


ブルガリアの合唱となると、そんな単純な和声ではなく隣の家のおっさんやその愛人をも巻き込んでの自治体内で因縁がぶつかり合うような和声を使ってくるのである。拍子も平気で11拍子などを入れてくるので、3拍子や4拍子に慣れている耳には俳句の字余りや字足らずのような感覚があり容易でない面白さがある。


ヒゲの総帥はブルガリア・ボイスのなかで好きで好きでたまらない曲があるのだが、それはタイトルがわからないままであった。メロディーは知っているのだが、曲名は知らない。その曲をやってくれないだろうかと期待していたが、そこは幸運に恵まれた。耳慣れた曲が総勢20名のずらりと並んだブルガリアの女たちから始まった瞬間に身震いした、これまで待ち望んでいたその瞬間が来たからだ。


ヒゲの総帥は曲が終わったあとすぐにパンフレットに記載されているセットリストを見る、果たしてこれまでずっと追い求めていた曲はなんという曲なのだろうかと胸が高鳴る、対面の瞬間だ。


「老人博士」


と、書かれていた。そして説明書きも併記されている。


一人の老人学者が若者のような着こなしをしてダンスへ行く。一番若いアンゲリカ以外の女の子はみんな彼の側へ近寄ろうともしない。


よくわからないが、そういうことなのだそうだ。


1000人は入るという大ホールはほぼ満員。そしてこういった異国の民族音楽の音楽家たちが来日(または招聘)する際には決まってといいほど現場に関わる男が二人ほどいる。小巖と岡という男だ。


ヒゲの総帥からみて先輩にあたるこの男たちとの出会いは古い。


今から15年以上前のこと。ヒゲの総帥はスウェーデンのトラッドミュージシャンである「ガルマルナ」というバンドに熱を上げていた。ガルマルナから得たインスピレーションは絶大である。当時、ようやくインターネットというものが一般的にも使えるようになり、ガルマルナについて熱心にスウェーデン語を訳しながら情報収集をしていたとき、実はその前年に初来日していた事実を知り、ヒゲの総帥は大いに驚く。ガルマルナも悪魔の呪文のような曲を作る。


「一体誰が日本で認知度の低い、ガルマルナなどを日本に呼んだのだ」とヒゲの総帥は招聘したプロモーターを調べ上げる。招聘した会社がわかった時点でタッキーに連絡をしてその会社の人間を知っているかと聞く。タッキーは面識があると返答する、当時は今ほど個人情報がどうたらこうたらとか、コンプライアンス遵守がどうのこうのという風潮はなかったのでタッキーはすらすらとその会社の所在地を教えてくれる。「アモさん、興味あるんでしたらまた紹介しますよ」とタッキーは言ってくれたが、それを聞くや否やヒゲの総帥はその日のうちに電車へ乗り込み、その会社へ向かう。


別に何も用件はないのでアポイントを入れると断られる恐れがある、となれば残された手は突撃訪問しかないのだ。法人所在地に到着してインターホンを押す、ドアがガチャリと開き人間の顔が半分だけドアから出てくる、「どちらさまですか?」という。ヒゲの総帥は開いたドアの隙間へすかさず足を滑り込ませてドアを閉められないようにする。


「僕は阿守というものです。時は満ちた、ガルマルナと決闘させてください、自分たちのバンドのCDを持ってきました」とヒゲの総帥は素早く説明する。そのドアから見えた半分の顔こそ代表者の小巖という男であった。後日談になるが小巖は当時の模様を振りかえるたび「思いっきり不審者やから、絶対、変な壺とか押し売りされると思ったわ」と苦笑する。その出会いを通じて同社で音楽に関しては歯に衣着せぬ言動で知られ、音楽のウィキペディア的な岡という男とも知り合った。


数奇な縁である。いてもたってもいられない、足を前に踏み出さなければ息をすることもままならんという状況が誰しも人生に何度かあるのであろうが、ヒゲの総帥にしてもこの出会いはそういった類のものであった。行動しないと成果は出ない、本人が行動せずとも成果が出はじめたなら、それは他者が自分のことを聖者や乞食とみて、一般人から区別したときだ。それは厳密にいえば成果ではない。他人の倫理観や道徳観に寄生・依存しているだけだ。


二人からはいろんなことを教えてもらった。ヒゲの総帥にとって少ない師のうちの二人である。向こうがこの不肖な後輩のことをどう思っているのか知らないが。


ブルガリア・ヴォイスを堪能したあと会場にいた二人に久々の挨拶を済ませて大阪へ戻る。もう少しエッジが利いていてもっと土俗的な印象を持っていたのだが、今回の公演はソフトな感じがした。


そういえば「老人博士」という曲のメロディーを基にしたオリジナル曲をタッキーが歌っていたことがある。確か隠れトリスタンというバンドの「GALACTICA」という曲であったような気がする。タッキー以外のメンバーは知らないが、それはそれは酷いものであった。


それでは老人博士をどうぞ。




さらに老人博士の出来の悪い偽物もどうぞ。




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by amori-siberiana | 2018-01-28 01:52 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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