2018年02月04日 ◆いざ、我ら大海へ往かん。喜楽鍋と共に。

こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを経営するヒゲの総帥こと、阿守のブログです。


さて、昨日店では全身黒ずくめの男、ハイタッチ冷泉が主催する「喜楽鍋」が行われた。この喜楽鍋も今回から名前を代えてはいるが三度目の開催となる。第一回目も第二回目も大惨事であったのだから、第三回目も大惨事であろうことは容易に想像できる。


午後15時を過ぎたころ、店でヒゲの総帥と冷泉と星師匠は合流して近くのスーパーへ買い出しに出かける。版画家の万作は早めに風呂へ行く。土曜の日中のスーパーマーケットに黒ずくめの男が入っていき、そこで野菜などを選んでいる光景は珍妙であるので思わず笑えてくる。


買い物を終わらせ店に戻ると、冷泉の知人である瀬戸内の女と地吹雪という名の女が手伝いに来てくれる。冷泉はひたすら鍋の加減を調整し、ヒゲの総帥は豚肉を切る、星師匠は大葉を乱切りにして、瀬戸内の女はニンニクの皮をむく、そして地吹雪の女は白菜をぶった切る。「白菜からいつ虫が飛び出してくるのか恐ろしい」といいながらも地吹雪はニヤニヤしながら包丁を突き刺す。危なそうな女である、


しばらくすると陸サーファーのディエゴがやってくる。「何をしにきたのだ」とヒゲの総帥が無愛想にいうと「はい、お手伝いにきました」と清廉潔白な様子で返答をするディエゴ君。それならばとヒゲの総帥は自身が飽き飽きしていたショウガのすりおろし業務をディエゴに引き継ぐ。そして宗教画のモデルの女も手伝いにやってきた。最後は冷泉と万作がつくねを丸めて終了というところだ。


ゴガッと締まりの悪いガラス戸の音がする。まだ開店していないのだが、誰なのかと全員の視線が扉に集約される、そこにいたのはメガネが真っ白に曇らせた真っ赤なセーターを着た男。世界の果て会計事務所というおかしな名前の会社を営むドマツ先輩であった。「なんかまだ準備中になってましたよ」とドマツ先輩は当然のことをいう、準備中なのに準備中はおかしいなと入店してくるこのドマツという男は余程クレイジーなのであろう。


そのドマツ先輩であるが、先日冷泉とふざけあって殴り合いをし、肋骨を折ったのであるが日が過ぎるごとに患部は痛くなり、今では胸部に白いコルセットのようなものを装着していた。痛みのひどかったときは目と鼻の先の場所へ行くにもタクシーを拾わないと行けなかったのだそうだ。今でも笑っただけで肋骨は痛いのだそうだが、このような笑いしか起きない場にやって来るとは、相当であろう。


店の準備はできる、最初の客が来る。ユージである。


このユージという男も一風変わった風情をもつ男でマイペースが服を着て歩いているような男だ。もともとは歌手のアハハの女のイベントで来店したのがキッカケであったように記憶しているが、今では何がなくともコロマンサに足を運んでくれるようになっているのだ。その抑揚なく淡々と語る独特の口調はヒゲの総帥のお気に入りでもある。今日は店にボードゲームの貢物を持ってきたのだという。


特に喜楽鍋に参加しに来たのではなく、ボードゲーム「カタン」を手渡しにした様子がなんともいえないユージ独特のユーモアである。ちなみに最近のヒゲの総帥はユージとアラタメ堂の物真似が得意である。


ユージを皮切りに続々と人はやってくる。「カッハッハッハ」と殿様のような笑い声を耳にすれば副社長ばかりする男がやって来ているという情報は耳から伝わってくる。京都からレース狂のマッサージ師もやってくれば、同じく京都からヒゲの総帥の旧友であるらっきょもやってくる。映像作家の熊もやってくればチンピラの男、そしてアラタメ堂のご主人、ブルーグラスの男に自称301才のギャラリーの女、アハハの女に銀行コード0001の男たちも何処からか湧いてくるように出現する。宗教画のモデルの女はひっきりなしに給仕をしながら、やっぱりひっきりなしに酒を飲み続ける。


扉開けてすぐの厨房は飲み物を提供する場、そして店内正面では万作の絵画を背景にして冷泉が喜楽鍋を客人たちに振舞う場となる。


そこからも入れ替わりながら続々と客はやって来る、怖いもの見たさでシベリアンなんちゃらの客までやって来る。


奥のテーブルでヒゲの総帥が話しに熱中していると、店内が一層ガヤガヤしだす。「やはり、はじまったな」と思い喧噪の方へ目を向けると予想どおりで殴り合いがはじまっていた。猫のひたいのように小さな店であるが客人が多くなると視界はさえぎられて、店の全体像は掴めなくなるのである。旧友のらっきょは好奇心旺盛な目で殴り合いをニヤニヤしながら見る。


いつしか鍋を提供するカウンターは冷泉に代わってチンピラの男が常駐しており、冷泉と殴り合いをする人間を募っては、殴り合いがはじまると「もっと、こう、リズムをキープして」と互いの殴り合いをメトロノーム化させようとけしかける。まるで「はっけよい、はっけよい」と声をあげる相撲の行司のようである。


凄絶な殴り合いの最中、旧友のらっきょはトイレはどこだとヒゲの総帥に問う。ヒゲの総帥は指を差しながら「あそこにあるんだが、殴り合いの前を通ることになるからタイミングを間違うと巻き込まれることになるぜ」と旧友のよしみで注意喚起を促す。らっきょは「わかっとる、わかっとるからタイミングを見とるんやないか」と承知する。


しかしながら、ヒゲの総帥が先ほどトイレを指さしたとき、トイレの簾に殴り合いから隠れるように陸サーファーのディエゴが潜んでいたのを見てしまった。これはいけない、あんな場所に陣を構えられてはらっきょがトイレに入れないではないか、ヒゲの総帥は旧友への優しさから一計を思いつく。殴り合いをしていたチンピラの男に「その首からかけたシルバーアクセサリーが気に食わないとディエゴが言ってるぞ」と流言飛語を飛ばす。


策は見事に当たり、ディエゴはチンピラの男に呼び出される。「勘弁してくださいよ、絶対に目を付けられると思って隠れてたのに」とディエゴは簾の向こうから這い出てくる。チンピラの男とディエゴが対峙する、冷泉は「ほんじゃあ、これが最後」と殴りあいの終了宣告をする。その宣告のすぐあと、ふと、誰かの肩の緊張感がなくなったのを気配で見てとったヒゲの総帥。誰であろうかと視界を索敵すると、アラタメ堂のご主人の背中があった。


これはいけない、今の時代、一寸先は闇である。どんなところでも緊張感を持っていなければいけないのである、大先輩ではあるがここは後輩からの愛の鞭だと思っていただきたい。ヒゲの総帥は「アラタメ堂が、僕のことをどうして殴ってくれないんですかと言ってます」とチンピラの男に進言する。「どうして、僕なんですか!」と素っ頓狂な声をあげるもイカれた群衆心理に背くことはできず、アラタメ堂はチンピラの男の前に引きたてられる。なるほど、こんな感じで魔女狩りは行われたのかとヒゲの総帥は他人事のように中世ヨーロッパの暗黒歴史に想像の翼をはばたかせる。


チンピラの男の拳がアラタメ堂の腹をめがけて一閃、「ぐぎゃあ」という断末魔の声をあげてアラタメ堂は崩れ落ちる。ギロチンは見事に落とされたのである。熱狂する群衆、21世紀を迎えた北濱であろうとグラディエーターの活躍したコンモドゥス帝が悪政を布いていた頃の古代ローマとあまり変わりはないものだと失笑しながらヒゲの総帥は酒を飲む。

殴り合いを終えた副社長がヒゲの総帥に向けて何か弾けという。望むところである、ちょうどアハハの女も隣にいたので演奏をする。音楽というものは猫のひたいで起きた森羅万象を洗い流すような勢いで鳴り響く。上手とか下手ではないのだ、ただ音によって発生する安定の効能を皆が知っているのである。そしてまた何事もなかったかのように喜楽鍋をつつく宴は続行された。らっきょは無事にトイレへ行く。


夜も更ける。


冷泉は来場者に礼をのべて、そのままハーメルンの笛吹きのように数人の猛者を連れて魔境へ旅立っていった。


革命が終わったあとの間延びした店内には日も変わろうかという時間であるのに、常連の不思議な女やガルパンの男などが残り、遅れてやってきたヘルベンツといつもと変わらぬ会話を楽しんでいた。ここにきて時間の流れは緩やかになり、その緩やかさは見たこともない大いなる川をヒゲの総帥に想像させた。


川はいずれ海に出る。日本語では海という漢字のなかに「母」があり、フランス語では母(mere)という文字のなかに「海(mer)」がある。


ヒゲの総帥の故郷の香川では、平野部でも珍しく雪が降り積もったのだそうだ。


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by amori-siberiana | 2018-02-04 12:54 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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