2018年07月07日(土) ◆すべてはファラオの名のもとに。

北濱にあるジンクスにて、吟遊詩人のウォルセア・アスカと久しぶりに会った。彼女の心配事はふたつある、まずひとつは同居しているフェレットの容態、そしてもうひとつはこの日曜日に控えているライファンにおける天候模様である。ライファンというのは「LIFE is FANTASIA」の略称でRPGの世界を体感するイベントだ。


ピアノ工房の軍人もジンクスへやってきて、ヒゲの総帥を交えて三人でソファ席にてなにやら相談をしている。何ができあがるのやら。


話しは少し時間が巻き戻る。ヒゲの総帥は役所を定時に退庁後、ツタの絡まる青山ビルにあるギャラリー「遊気Q」へ向かう、ギャラリーには自称302才の女がおりヒゲの総帥によく冷えた麦茶を出してくれる。ヒゲの総帥はギャラリーにて売っているクッキーを勝手にとり、袋を開けてはソファにもたれてガリガリと容赦なくかじりだす。ギャラリーの女はその様子を見ながら「あなた、それ、売り物なんですよ」と手で口を押さえながら笑うのであるが、ヒゲの総帥はやっぱり容赦なくガリガリやってる。


そういえば、とヒゲの総帥が話しをしだす。


「そういえば、ここへ来る途中なんですけれど万作さんとお会いしました」と。万作というのは淡路町にあるクント・コロマンサというカフェを経営している、ちょんまげ頭の版画家、その名を柿坂万作という男である。雨降りしきる堺筋をヒゲの総帥が歩きながら北上していると、何者かの視線とぶつかる。ヒゲの総帥が視線をあげるとそこには首をすくめた格好の万作がこちらを見ているではないか。


「万作さん、傘が歪んでますよ」、「あ、阿守さん、へえ、歪んでしもうとりますな」というだけの会話であったが、どうして堺筋の西側に万作がいるのかは容易に想像がつく。万作の日課といえば近くのコンビニでの漫画の立ち読みであったのだが、そのコンビニが本棚の陳列スタイルを変えて漫画を置かなくなった。自然と万作は立ち読みができるコンビニへ移動するわけで、それで「遊気Q」の斜め向かいにあるコンビニへ来るようになったのだ。


さて、ヒゲの総帥は本題だとばかりにギャラリーの女に自分の脳みその中にあることを告げる。それは【アモリのつもり】という名称をつけた何らかなのだ、名称の発案はソファの隣に座るギャラリーの女なのだ。


しかしながら、ヒゲの総帥の話しを聞くや否や「いやですよ、いやですよ」とギャラリーの女は手で制していうのだが、ヒゲの総帥は説得を続ける。


「それならあくまでお手伝いという形であれば、いいですわよ」とギャラリーの女が仕方なく譲歩してくれる、ヒゲの総帥はその言葉を聞くや否や手を打って喜ぶ。その模様は子供が嬉しそうにはしゃぎまわる姿と一緒である。


「では、話しを進めてまいります」と帽子を手にとりギャラリーの女に向かってぺこりとお辞儀をしてヒゲの総帥は青山ビルの裏口から出て行く、そしてジンクスへ到着するという足取りであった。


吟遊詩人の女との打ち合わせも終わり、そのままピアノ軍人と一緒にヒゲの総帥は以前から気になっていたお好み焼き屋へ入る。予約で満席なのだが雨の影響による列車のなんたらかんたらで予約客が来ないので入って構わんといわれ、そのまま入る。この軍人とはおよそ25年の付き合いであるが、びっくりするほど考え方や感じ方が噛み合わない場面が多い。しかしながらお好み焼きはきちんと鉄板の上で切り分けて二人で食べているのだ。その切り分けること入念であり、絶対にどちらが大きいとか小さいで喧嘩をしないよう巧みに専用のコテで半々に切り分ける。


「以前、ブライアン・イーノとダニエル・ラノワにインタビューした奴がいて、こんなことを彼らに訊いてたんだ」と日本酒を飲みながらヒゲの総帥は軍人にいう。


「ふん」とだけ言い、軍人はその切れ長の目で話しを前に進めてくれと促す。


「インタビュアーがあなたたちはレコーディングの環境も優れた場所を自由自在に使える。最先端の機器も持っている、それだけ恵まれた環境があることについてどう思うのか?みたいなことを訊いたんだ。その質問への彼らの回答が素晴らしかった」


「どんなん?(訳:どういうふうなの?)」


「確かに私たちは環境に恵まれていることは確かだ。ただ、これからU2のレコーディングをするんだけれど現場には古いテープレコーダーしかないんだよと言われれば、私たちはそのテープレコーダーだけで傑作のアルバムを作るだろう。もちろん作る自信はある、創意工夫してね。そのためのチームなんだから。と言ったんだ」とヒゲの総帥はいう。


軍人は追加注文した焼きそばを食べながら、頭のなかで逡巡して、そして納得したのか焼きそばを胃の中へ放り込んでいく。


「僕はそのインタビューを読んで、なんだか世界が明るくなった気がした。救われた気がした、なるほど機会は常に平等なんだと思った。これは僕もなんかできるぞと感じたのだ。そのインタビューを読んだ当時、自分の将棋盤のマス目が9×9だったのが、90×90くらいに感じられるくらい素敵な言葉だったのだ」とヒゲの総帥は手振りを交えながら軍人に向かっていう。


話しはいいところなのだが、ヒゲの総帥は次にゲームセンス・ゼロの女ことアシムと打ち合わせがあるので、店を出てジンクスの前へ軍人と移動する。しかしながら話しは尽きないのでジンクス前でヒゲの総帥と軍人はあれやこれやを話し出してしまう。アラタメ堂のご主人、ファラオ、そしてアシムがジンクスから出てきても二人の立ち話しは続くのである。


アシムは打ち合わせよりも餃子を焼きたいのだ、餃子を持ってきているのだ、餃子を焼かせろとやかましい。アラタメ堂はコロマンサへ行き、ファラオも山の向こうへ今日は帰るという。30分だけと時間を区切って打ち合わせをして、後は餃子でもなんでも焼くがいいとアシムを「マギー」へ連れて行く。軍人は帰る。


30分もあれば十分だとヒゲの総帥はアシムと打ち合わせをする。「あなたはアシムだ、髪の毛がなくなってもアシムである。右手がなくてもアシム、下半身がなかったとしてもアシムだ。ならば、どこまで切り刻めばアシムはアシムではなくなるのか。つまりアシムの最小単位はどこになるのか」とヒゲの総帥はアシムに問いかける。


「んなの、心っすよ」とアシムはいう。「そういや、この前、阿守さんに言われたことほんのちょっとわかってきたんっすよ。自分の器は自分で決められないってことです」とアシム、確かサラリーマン金太郎かなにかに書かれていたセリフをヒゲの総帥がそのまま転用したのではなかったか。そしてアシムはカウンターでそわそわしだす、グラスに注がれていたウイスキーのロックはロックだけを残して阿呆のようになっている。いよいよそわそわも限界だ「すんません、おかわり!」と右手のひとさし指を一本あげて女オーナーにアシムは自身のアルコール欲求を伝える。すっかり30分は過ぎている。


どんどんとマギーの階段を下りてくる足音がする、振り向くとカラカラと笑う不動産広告デザイナーの忌部がやってくる。飄然たること柳の如し、湿気で髪の跳ねること「π」の如しという感じでバーカウンターに座る。座るというより、とまる。そして忌部がマギーに持ち込んできたものに一同は爆笑する、「こいつはいいな」とヒゲの総帥は腹を抱えて笑い転げて、アシムは「5秒、見てられないっすね」とケタケタ声をあげる。その模様を見ながら「お前ら、実は世界はすでに終わってるんだぞ」と平気で言いだしそうな顔をする忌部。


さらにどんどんと階段を下りてくる足音がする、やってきてのは新たにパンチパーマを巻きなおした黒ずくめの男こと冷泉であった。そして無法松先輩とアラタメ堂のご主人もやって来る。「やっぱ、バーカウンターがあるっていいっすよね」と無法松先輩は子供のようにバーカウンターの横についている、馬の紐を引っ掛けておくための鉄製のバーを押したり引いたりする。


押したり引いたり、その振動がバーの一番端にいるヒゲの総帥にも伝わってきて、まるで海だなと思う。


外に出ると雨は俄かになっており、信号機の光が黒くつるっとした路面に映り込んでいる。なんだか気持ちが晴れるよい週末であった。都会へ出て来て22年、ヒゲの総帥はまだ都会人にはなれていない。都会人か何かもわからない。


すべてはファラオの名のもとに


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by amori-siberiana | 2018-07-07 11:23 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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