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【2018年7月30日(月)】◆35年前のトマト

ヒゲの総帥は田舎の母よりこんなメールを受け取った。




さっきアルバイトから帰って来た。テーブルの上に朝採った大玉のトマトが4個赤くまぶしく目にとまる。


あの頃が甦る。


アパートでトマトをちぎる孝夫。


何年ぶりかに育てた大きいトマト。こんなに立派に出来たのは信じられへんくらい。そばにいたら一番に食べてもらうのに・・・。




あの頃というのはいつなのかヒゲの総帥にはわからなかったが、その後の文面でハッとする。アパートに住んでいたのはヒゲの総帥が6才までであるからして、その当時のことなのであろう。人が住んでいるのだか、アブラムシが住んでいるのだか解らないようなアパートだったと年老いた母親はいつも当時を回想するのであるが、まだ6つ時分のヒゲの総帥にはそれを不自由に思った記憶はない。


もちろん、それは大人からの目と子供からの目という違いがあるのだろうが、周囲もみんな同じような環境で生活してる人たちばかりだったので取りたてて自身の現状を嘆いたことはない。もちろん、6才で自身の置かれた環境を嘆くほど早熟な者もそうはいまい。


ヒゲの総帥は今朝がたにそのメールを受け取り、明日、実家へ帰ろうと決意したのである。何をしに帰るのか、もちろんトマトを食べに帰るだけなのだ。真っ赤に熟れたトマトはあまり好きじゃない、まだ青みが残った酸っぱいトマトが好きなのだ。ヒゲの総帥の帰郷が遅れれば遅れるほど、トマトは熟れてしまい、最後には腐ってしまうだろう。


だから、急いで帰ることにした。


昭和23年生まれのヒゲの総帥の母親は、文頭にもあったようにまだ働いている。愛していたのだかどうなのだかわからない伴侶を喪失し、よく出来る娘を早くに喪失し、社会的にも経済的にも安定しない長男は、異国で革命だ独立だ、果てはビジネスだなんだとギャーギャー言っている。


この年老いた母親はヒゲの総帥が生まれたとき、どのような人間になると想像しただろうか。熱望しただろうか。多分、お金持ちになってくれとか偉くなってくれとか、そういうことは考えもしなかったのではなかろうか。人の役に、世間の役に立ってくれとは思ったかも知れない。


充実した「生」を送れよと、世間に放り出したのだろう。


ヒゲの総帥より30年ほど先に生まれている母親は順調にいけば、ヒゲの総帥より30年ほど早く天寿をまっとうすることになるだろう。いつの間にか人の死には一般的な程度において慣れた。それでもやはりいつか家族と「さよなら」するときが来るのだとすると、どうも恐ろしく感じる。


ヒゲの総帥は走って走って走り回っているが、彼の母親はどうなのだろうか。一か所から動く気配すらない、動かそうと誘ってみたこともあるが、頑として動かないのだ。


「ここが私の家。ここに私の思い出のすべてがあり、私が守って行かなければいけないものがある」


毎回、これなのだ。守って行かなければいけないものはなんだと訊いたら、家と墓だという。どちらも生きてないではないかとヒゲの総帥が言うも、生きてなくともそこに「在る」のだと母親はいう。


なんとも融通が利かない、旧時代的な女である。もっと効率的に合理的に、クラウドを駆使して友人を沢山持って、趣味に余生を使い切るような生き方をしてくれないものか。本当に下手くそな老後の生活設計である、ノスタルジーが彼女を支配しているのだ。


ありとあらゆる想念や愛情が彼女を縛っているのである。なんとも愚鈍で薄幸な女の一生ではないか。トマトひとつを見て、取り返しのきかない時間の概念を追いかける。脳はどんどん萎縮して、身体はどんどん不自由になっていく。



とにかく



私は、この母親のような老人に、なりたい。



下手くそでもいい、自分のままに生きたい。



だから、トマトをちぎりに帰るのである。だって、私だっていつも帰りたいのだから。



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by amori-siberiana | 2018-07-31 00:47 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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