2018年9月01日(土) ◆呑気と見える人々も、心の底を叩いてみると、どこか悲しい音がする。

役所に行くと大量の書類がヒゲの総帥のデスク周辺に積まれていた。世の中の流れに準じる仕事なのであろうから、大量の書類が提出されてくればそれに集中するしかないのである。「このペーパーレスが推進されてる時代にコレですか?」とヒゲの総帥は上司に向かって苦笑する、上司も「ほんまになぁ」と呆れ顔をする。ヒゲの総帥には二人の女上司がいるが、この呆れ顔をしたのは怖いほうの上司である。


山のような書類の不備をチェックし、そしてパソコンに入力していく。そして最後にサインする。ヒゲの総帥は役所では「936」という番号でのみ、その存在と仕事を証明する。


「ご来庁中のみなさま、ご用件はお済みになりましたか・・・」


いつもの終業を知らせるアナウンスが館内に流れる、さっさとサーキュレーターのスイッチを切り、パソコンを落として、そのまま退庁。北濱のオフィス『ザ・ジンクス』へ向かう。今日は金曜日なので、そこいら中に老若男女の会社員がウロウロと次の行き場へ向かっている。


ジンクスに到着すると、株式会社ソウデヤンスのダダヤマが「あ、お久しぶりっす」とヒゲのところへ挨拶にやってくる。「お前、例のものは持ってきたか」とヒゲはダダヤマに尋ねる、ダダヤマは「すいません、家に置いてあります」と答える。ヒゲの総帥が取りに戻れというまえに、そういわれることを察したかダダヤマは「これからすぐ出ないといけないんです」と言葉を継ぐ。


「どうせ、信長会だろう」とヒゲの総帥がいうと、「いやいやいや、なんで当てんねん。そうなんですけど・・・」とダダヤマは苦笑する。「お前もよっぽどマゾだな」とヒゲの総帥はパソコンを開きながらいい、ダダヤマはジンクスを出ていく。曖昧模糊としたビジネスの価値と人生の価値の折衷において、わかりやすく地平線を描き込んでくれる研鑽相手がいるということは、彼の精神の均衡を保つのに信長会は多大な寄与をしているのであろう。


しばらくするとジンクスの受付嬢がヒゲの総帥に来客があると知らせにきてくれる。応接テーブルに座っていたのは吟遊詩人の女ことアルセアさん、ヒゲの総帥と何やらデザインのことで打ち合わせをするのだという。今日はジンクスの受付は女性が三人おりやかましく、「こいつら気分で仕事しとるな・・・」とヒゲの男は苦笑して、吟遊詩人の女と外で打ち合わせをすることにした。


北濱にあるケーキ屋「多感」のチョコレート専門店へ向かう。ヒゲの総帥はアルセアの要望を聞きながら、それならばこれがよかろうとケーキをメニューから選ぶ。メニューには写真が載せられていないので、字面だけではよくわからないのであるが、ヒゲの総帥は不動産デザイナーの忌部とここの店のケーキ類は全種食べきったであろうから、よく承知しているのだそうだ。


「ピアノ工房の軍人がアルセアさんに10日間で仕上げてくれと要請したから、もうあと一週間もあれば、完成させるだろうとメールで言ってたぜ」とチョコとオレンジが合算されたケーキを食べながらヒゲがいう。「なるほど、すでに三日は引かれてるってことですね」とニヤニヤしながら吟遊詩人はパルファンと名付けられたケーキを食べる。


打ち合わせを終えて、ヒゲはジンクスへ戻り、またパソコンを叩きだす。そしてまたすぐにジンクスを出てギャラリー遊気Qへ向かい、シベリアンなんちゃらが出演するルシタニア音楽祭のチラシをギャラリーのオーナーから受けとり、足早に南堀江スレイブへ向かうことになる。


この南堀江スレイブというのはライブハウスと呼ばれる施設であり、創設者は豚王タッキーである。今もタッキーがどの程度ほど関わっているのかはわからないが、以前には長いあいだここがシベリアンなんちゃらのベースキャンプであったことは確かだ。タッキー、アホジャ社長、テリー、浩司ばい、無職のときのタカハシン・コルテス、とにかく早いシミズ。隣のスタジオ経営の夫婦に隣の楽器商人の男、ヤバイくらい(!)守銭奴のビルオーナーの爺さんなどタレント性はいつだって豊富だった。


今の店長のウレハラという男は今でもヒゲの総帥のことをミュージシャンと見てくれているようで、チラシを置かせて欲しいとお願いするとすぐさま快諾してくれた。今日の出演はEテレでお馴染みの「スリテツ」と縄文土器大使の男がチェロを弾き、カメラ屋の息子がギターを弾くデュオ「ドロイド」の豪華共演である。


スリテツの二人はヒゲの総帥にとっての先輩であり、何年か前には全国ツアーを一緒にさせてもらった。当時、酒を飲まず先輩と打ち解けることもしなかったヒゲの総帥だが、この男もようやっと大人の階段をのぼったのかも知れない。今では人並みに付き合いをすすんでするようになった。酒も少しばかり嗜むようにもなった。


ドロイドとヒゲの総帥については、去年の夏にドロイド側からヒゲへゲスト出演を依頼してもらい、出演したはいいが連日連夜の過酷な演奏と壮絶なるアルコールによってまともにギターを演奏できなかったという苦々しい思い出がある。当日のライブを見た知人たちから、ことあるごとに「夏の課題(その日、演奏につまづいた曲)はできるようになりましたか?」と笑いながら揶揄されたものだ。


つまりヒゲの総帥にとって縁故ある人たちのコンサートなのである、チラシを散布する効果は絶大であろう。ヒゲの総帥はたんまりとチラシを持ってきている。


到着するとすでに演奏は始まっており、小説家の平尾先生も登壇しており、なにやら太鼓を曲の調子に合わせてポコポコ叩いている。ヒゲの総帥がウレハラ店長に案内された席、隣を見ると裁判官の女がいる。いきなり審問会の椅子に座らせるとは、なかなか粋な計らいではないか。


ヒゲは生ビールをあおる、いつの間に生ビールが出るようになったのか。すぐ一杯目はコップから胃へと移されるので、席を立ってビールを汲みに行く。そしてまた審判を待つ椅子に座る。また立ってビールを汲みに行く、これを何往復かしていると気持ち良くなってきた。そしていつしかチラシのことなどすっかり忘れて、ただの客になっていた。


終演後、お客さんが席を立ち帰路へつこうとする。スリテツのマネージャーさんが、「阿守さん!チラシ!チラシどこにあるの?」と声を掛けてくれる。ビール片手でご陽気に客席で目が合う人たちとハイタッチするだけのヤバい人になっていたヒゲの男は、ハッと我に返りそそくさとチラシを配ろうとするが、ビールが手にある。手がもう一本ないものかと探すがどうにも探しきらないので、チラシを小説家先生に渡して、やっぱりまたハイタッチを繰り返す。平尾先生はせっせとチラシを配る。


そのままスリテツとドロイドのお客さんを連れて「近くに素晴らしいコーヒーを出す店があるから、みんなで潰しに行こう」と号令をあげ、キリギリスの店へ行く。そんなに人が入れるのかわからないが、行ったら行ったでどうにかなるだろうと列になり歩き出す。


運よくキリギリスは空いており、来訪者たちに椅子が行きわたるが、誰もコーヒーなど注文せず酒を飲みだす。ヒゲの総帥も御朱印の女や青いカーデガンの女、醤油売りの女と束になり赤ワインのボトルをやっつけにかかる。他の連中は連中で違うテーブルでなにやらワイワイしていて、楽しそうである。


いつもの赤ワイン「アフィラント」を空っぽにして、ヒゲの総帥は醤油売りの女に時間を聞くと23時くらいだといわれて驚く。この男のなかではまだ21時くらいのつもりであったが、時の過ぎることのなんたる拙速なことかと憂い、コロ冷泉へ参陣しなくては義理と申し訳が立たんと柄にもないことを口走って一人店から討って出る。


北濱の駅に到着すると、ミドリの女とすれ違い「阿守さん、コロマンサにいつ来るんやろうってみんな言ってましたよ」と教えてもらう。店に到着するとすでにガヤガヤと喧噪の宴が開催されており、冷泉店長、無法松先輩、チンピラの男、ジロー、カラカラ笑う忌部、平尾先生、アラタメ堂のご主人にゲームセンス・ゼロの女、ブルーグラスの男、北濱最強のクモン提督、麻雀の女、絵描きの女、金融コード0001の男と後輩、外資系生命保険の女、まどか☆マギカのマギカ抜き、ファラオ、副社長の社長の男の側近らしき人たちと勢ぞろいである。


よくぞこれだけバカ野郎が集まったもんだと感心していると、注文もしていないのにウイスキーのショットや冷泉おすすめの不思議なカクテルが勝手にヒゲの総帥の目の前に置かれる。「こんなものはこうしてやるのだ」と総帥はグイと飲み干し、クモン提督のギター伴奏にのってチンピラの男と一緒にレディオヘッドのクリープ(Creep)を絶唱する。




たとえそばにいなくても知ってほしい
君は最高に特別だ
僕もそうなら良かったのに


でも僕はウジ虫だ
気持ち悪い奴なんだ
ここで一体何をしているんだろう
ここは僕の居場所じゃないのに


彼女がまた走り去っていく
彼女が走り去っていく


走り去る、走り去る、走り去るんだ・・・




ヒゲの総帥とチンピラの男とクモン提督は「ヤーマン」という謎の掛け声でハイタッチをする。今日はゲームセンス・ゼロの女ことアシムの誕生日だということで、ケーキが出現する。店内の照明は厳粛なミサのように暗く落とされ、アシムが三本のロウソクに灯った炎をフゥーと吹き消そうとするが、肺活量がないので消えない。場は笑いで盛り上がる。本人は気がついていないだろうが、そういうセンスは十分にあるようである。


「みなさん、そろそろ」と冷泉店長は我々に帰れと促す。


ヒゲの総帥は冷泉に「ごちそうさま」と礼をいいながらヨタヨタと階段を下りる。まだバカ野郎たちは飲み足りないようなので、忌部の会社に攻め入り落城させるのだと息巻いて列をなして歩き出す。コロマンサから忌部の会社への道中、ピンク&ガンが目に入ったのだが、小説家の平尾先生から「いかんもんが出て来たな、阿守よ、見んかったことにしとけ」と立ち止まることを許されず、そのまま道を真っすぐに進む。


道路は愛想もなく、礼儀もなく、ただただラインと数字が刻印されて続いている。これがルールだ、それ以外はないぞと脅迫的で挑戦的に我々を封じ込めようとする。


忌部の会社に到着する。船場ビルディングで酒盛りが開催される、おもむろに絵描きの女から質問される、「あなたにとって一番幸せなときってどんなことですか」と。


ヒゲの総帥は「好きな人といるときだ、好きな人の肌に触れているとき以外にない」と答える。


その瞬間、ヒゲの総帥は気づいた。


もしかして、自分は失恋してるのではないかと。


今朝のテレビの天気予報では土曜日は大雨になるだろうといっていた。総帥がエリザベス女王と同じものなのだと滑稽な自慢をしながら、ステレオタイプにも持っているフルトン社の傘も、今ではボロボロである。



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by amori-siberiana | 2018-09-02 02:19 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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