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2018年9月05日(水) ◆ビッチにてディエゴの起業報告

「今日も皆さんから学ばさせていただきました!」


「なるほど・・・、いや、勉強になります!」


「今、僕は・・・完全に迷っています!」


これらの言葉はディエゴ語録のほんの一端である。桜川にあるバー「ビッチ」のカウンターに集うのはヒゲの総帥とチンピラの男、そして全身黒ずくめの冷泉と靴マイスターの男が並ぶ。このうち三人は人斬りであり、最後の一人は詐欺師である。そんな渦中に放り込まれているのが、今日の主役のディエゴ君である。


ディエゴ君はこの度、満を持して起業することとなった。その名も『108』というものだ。108という数字は人間の煩悩の数だといわれている、ディエゴ君の会社の企業理念は「我欲」である。自分の欲望の全てを叶えるためのキッカケとなる会社であり、贅に贅を尽くしたあと謀殺された三国志でいうところの董卓、ゲテモノ趣味と残忍さによって人々の憎悪の記憶としてその名を残したローマ皇帝カリグラのような世界観を目指すというものであった。


となれば、話しも随分と面白いのかも知れないが、残念ながら健全そのものといって然るべき会社である。


「どんな会社なんですか?」とビッチの女店長が尋ねる。


「それはですね・・・」と、ボケなくていいところでボケ切ろうとするが、遺憾ながら念願のボケが頭に浮かばず、場に変な沈黙をもたらすディエゴ。その中途半端さを鋭い眼光で指摘する靴マイスターの男。その珍妙な光景をニヤニヤしながら見るヒゲの総帥。


ディエゴは人の話しの相槌をうつとき、「へえ」とか「ふうん」とか「なるほど」というのがクセなのだが、前者の二つに関してはチンピラの男に「お前、次、へえとかふうんとか言うたら、ほんまに殴るぞ。これ冗談やと思うなよ」と釘を刺される。あの上腕二頭筋から繰り出される鉄拳をまともに受けたら、ディエゴの顔がキン肉マンに出てくるブラックホールのようになるであろう。


冷泉はこういう話しに乗ってこない。というよりこの日は体調が優れないヒゲの総帥を慮ってか、総帥に注がれるマッカランのストレートをすべて黒ずくめの男が飲み干してくれるので、すでに泥酔してフラフラしている。「僕、帰りたい・・・、帰りたい」と何度も訴えるのだが、ことごとくをチンピラの男に握りつぶされる。


酒量が増えてくるとどうしても塩気が欲しくなるもので、ヒゲの総帥はフライドポテトを注文して靴マイスターの男と分ける。


誰からか忘れたが、ディエゴに向けてどうして起業したのかと問う。ディエゴはこれまで何度も言ってきたであろう起業した理由の口上を皆に伝える。ビッチのドアが開く、するとジローが現れる、ヒゲの総帥はカウンターに着座したばかりのジローから葉巻を受けとりプカプカとふかしだす。チンピラの男も葉巻を吸いだす。


先日、ジローからその美味さを教えてもらった「パルタガス」なる銘柄のシガーをバイオリン弾きにすすめたところ、「あっ、これは優しくて良いですね」と終始ご満悦であった。他人が経験によって備えた知識を安易に共感同調して共有することは、生きていくうえでの愉しみの一つである。第一、その方が楽でよい。誰かが苦心して導き出した考えをそのまま享受することが阻まれる世の中になるとすれば、まず本屋が潰れるであろう。つまり、本というのはその程度のものなのである。本を読め、本を読めといわれるが、実際のところこの世に読んで然るべき本を見い出すことのほうが骨折りとなるのだが、運良くそういった本に巡り合った者は、得てして幸福なのであろう。


さて、ディエゴの起業に至った理由であるが、一般的で健康的にて健全であるため、つまり猛烈につまらないため書かない。ビリー・エリオットはロンドンのロイヤルバレエ学校入学への面接において、並ぶお偉方の面接官から「なぜバレエに興味を持ったか、聞かせてもらえるかね?」と訊かれて「さぁ・・・」と答えた。さらに「バレエのどこかに、何か特別な惹かれる部分が?」と訊かれても「さぁ・・・」と答えた。


なんという模範的で魅力的な人間らしい回答であろうか。彼はその面接のまえにタブーである暴力事件を起こしているにも関わらず、居直らずに純朴で自然体なのだ。


相手からの質問に上手に答えることのみが是とされる時代は終わった。要するに聞き飽きたのだ、「~をするのに、絶対やってはいけない(またはやっておきたい)10のこと」のようなコピーのネットでよく見る、雨後のタケノコのような今どきの潮流に乗ってしまえば、自分の船は結局のところ誰が先導するのかわからなくなる。


「僕、阿守さんの言葉で忘れられないのがあるんです。成功者のいうことを聞くなというものです、聞いても無駄だと。どうせなら失敗のほうを聞けとおっしゃってましたよね?」とディエゴはいう。


「無論だ、成功者のバカ話しなど聞いても気色悪いだけだ。大体のところそういう輩は後輩などに持論を話したくて話したくてウズウズしてるだろう、それに比べれば失敗談のほうが酒の肴になって健全だ」とヒゲの総帥はぶっきらぼうに極端なことをいう。


「俺は失敗談すら不要だと思うね」と横から靴マイスターの男。チンピラの男にいたっては「先輩なんてのは、全員殺してしまえ。世の為に早めに死ねと俺は自分の父親にすら言っている」とさらに過激なことをニタニタしていう。


ディエゴは苦笑しながら「阿守さんにとっての一番どん底のときがどういうときだったのか僕に教えてくれませんか?」とヒゲの総帥に問う。


「一番どん底か?そりゃ今だよ」と平然としてヒゲの総帥は答える。


「えっ?」という顔をするディエゴ。


「だって、酒の席で隣にいるのがお前(ディエゴ)なんだから、どん底以外のなんでもないだろう。だから今だ。延々と続くのが今だ」とケラケラ笑ってポテトをついばむヒゲの男。ディエゴは、やられたという顔をする。チンピラの男と靴マイスターの男は笑う、冷泉はいつしか帰っている。とっくに日付は変わっている頃合いである。


「阿守さん、俺ね、コイツ(ディエゴ)とサーフィン行ったんっすよ」と話し出したのはチンピラの男。聞けばチンピラの男に縁故ある高知の地にて、ディエゴも誘われてサーフィン合宿のようなものをしたのだそうだ。


「コイツ、サーフィンが好きでしょ?俺もサーフィンを多少やるんで、一緒に海に行ったんっすよ。普段、コイツのことジムとかでシバキまわってる俺なんですけどね、コイツがどんな顔して一番好きなサーフィンに乗ってるんか見たいと思ったんですよ。俺はコイツほどサーフィンが上手やないから、一所懸命ボードに乗ってコイツのおる沖のほうまで行ってね」とチンピラが話しをする、一同はうんうんと頷きながら次の話しを待つ。


「そしたら、コイツね・・・、めちゃくちゃ嬉しそうな顔して、波に乗っとるんですよ。ほんまに嬉しそうな顔してね・・・」と話してくれる。「ああ・・・、コイツ、これがしたかったんやなって・・・」とチンピラの男の目には涙が浮かぶ。


ヒゲの総帥は風と海原にてカーテンのように連なる波を想像する。そこに一人の青年が笑顔で延々と波に乗っては、浜へ押し返され、また沖まで行って波に乗っては浜へ押し返されをしている光景を思い浮かべる。焼け付く太陽の日差しに負けず劣らずのディエゴの屈託のない笑顔を思い浮かべる。生を与えられたものが、それを一身に充実している姿を思い描く。いつしか自然とヒゲの総帥の目にも涙が浮かぶ。


涙を拭いてヒゲの総帥はディエゴに訊く。


「ディエゴよ、お前はサーフィンしているとき何を相手にしているのだ」


ディエゴは「それはつまり・・・、えっ?どういうことですか」と歯切れが悪い。


「言葉のままだ、お前はサーフィンしているとき何を相手にしているのだ」と同じ質問をディエゴにする。


「それはですね、自分です!」と得意げな顔で考えに考えて観念的に返答するディエゴ。非常につまらない回答でヒゲとチンピラの涙もすっかり枯れる。


「お前、そんなんではモテんだろう?」とヒゲの総帥は苦笑する。


「はい!まったく、モテません!」とディエゴ君、今日において最高の返答がやってくる。


そこからビッチの女店長とジローの隣に座っていたクラブのお姉さんから、「人たらし」になれと言われ、人との話し方のノウハウ指南を受けるディエゴであった。


靴マイスターの男はディエゴに「ナパームデス」を聴いておけとだけ言っていた。



面接官:もう一つ教えて。踊っているときは、どんな気持ちがするの?


ビリー:・・・はじめは緊張するけど、踊りだすと、何もかも忘れます。そして、何かが変わるんです。体の奥に炎が点いたように。・・・飛ぶんです、鳥のように。・・・鳥のように、電気のように。


そう、電気のように


映画「リトルダンサー」より


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by amori-siberiana | 2018-09-06 00:02 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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