2018年9月20日(木) ◆アモリの六文銭

ヒゲの総帥は大阪へ帰ってきた。何やら青山ビルの一角を占めるギャラリー遊気Qにて演奏会があるのだという。演奏会といっても会費をとるような本格的なものではなく、己の技術の向上と衆目からの鑑賞に慣れるための予行演習のようなものである。


遊気Qではこの日まで、奈良のギャラリー(アン)から一斉に作品が持ち込まれての交流展が開催されており、その最終日ということで既に芸術家たちが何人か在廊していた。ヒゲの総帥は彼ら彼女らに挨拶をして、そのまま裏へ引っ込み地べたにごろんと転がる。ここ最近、とても疲れやすくなっているなと自身の不摂生を恥じる。


すると星師匠がやってくる。星師匠にはИHKという民放ではないテレビ局から取材のオファーが天文学者を通じて来ていた、師匠は自身にスポットが当たることに驚きながらも冷静に「自分はそういうところへ出たくはない」と断っているのだが、それについての話しをヒゲの総帥とする。ヒゲの総帥は「(あなた)らしいな」と苦笑する。


星師匠はごそごそと自分のカバンから何かを取り出す。


出てきたのは金色の袋に入ったもの、ヒゲの総帥が袋を開けてみると中から30円が出てきた。5円玉が6枚、それぞれリボンで結ばれているのだ。ヒゲの総帥はそれがすぐに六文銭の見立てだと理解した。三途の川の渡り賃である。


三途の川の渡り賃を持って、いつ死んでも悔いのないように、しっかり演奏しろ。という意趣である。ヒゲの総帥は礼を述べて六文銭(30円)を受けとりギターのポケットにしまう。星師匠は泣いていた。


しばらくすると、ファラオがギャラリーへやってきて、ヒゲの総帥が演奏するからと役目でもないのに作家たちとテーブルを運んだり、椅子を用意したりしてくれる。聞くところによるとアラタメ堂のご主人に呼びつけられたそうなのだが、その呼びつけた本人はやって来ない。なんだか微笑ましい、つくづく周囲の人に恵まれているなと感じる。


この日、ギャラリーに入りきれないほどの人が遊気Qへ集まる。詰めて座ってもらうが、ヒゲの総帥の隣に座っていたファラオなどヒゲと「二人羽織」をしだすのではないかという距離感である。6本の弦がなりだす。


太い弦から


C(ド)

G(ソ)

C(ド)

G(ソ)

C(ド)

D(レ)


ヒゲの総帥はこれまでの「沈黙」コンサートとは趣向を変えて、曲のタイトルとその曲をどのように工夫してみたかを誰に頼まれもしないのに語る。そして曲を弾く、それを繰り返す。


以前までガレ風(エミール・ガレ)の卓上灯をすぐそばに置いていたが、いつしかそれも面倒臭くなり出さなくなった。実はそのような演出もそれほど重要ではなかったのかも知れない。


結合させては撹拌させ、吸収しては分解させ、凝固させては溶解させ、転んでは立ち上がり、コピーしてはペーストして、展開しては収縮させて、色気を出しては素っ気なく、ギターをただ紡ぐ。自身の母親が家でずっとミシンを踏んでいたときのように、自身の祖父が畑で作った桃を丹念に仕分けするように、自身の祖母が乳飲み子を抱えて真夏のおり、長蛇の列の最後尾に並び何時間も辛抱して、ほんの少しの食糧配給を受けたときに流れ出た汗のように。


とんでもない数の労苦を礎にして、自分は成立している。それは感傷的というより、やっと事実に目を向け、質量を知り己の無知を確認するという類のものである。画素数や解像度では伝えられないことを、これまでも今も周囲の人たちはヒゲの総帥に伝えてくれている。


悔いなく。


ヒゲの総帥を突き動かしているのは何であろうか、もちろん自分自身ではあるのだが、それだけではない気がする。


以前、ヒゲの総帥が「どこからどこまで切り刻んだら、あなたじゃなくなるのか。つまり、どの部分がなくなればそれはあなたじゃなくなるのか」と妙な質問をしたとき、ゲームセンス・ゼロの女ことアシムがいっていた、「心っすよ」だったか「魂っすよ」だったかという回答は、そういうことなのだろうか。


演奏が終わる。ヒゲの総帥はさっさとフクビキへ行き、店の外を完全占拠している仲間たちと大いにわめき散らしながら酒を飲みだす。


いよいよ「北濱派」を作るのだと。この男はいろいろと支離滅裂であり、突飛なことを言いだすものだから、真剣に受け取っていいのかどうだかいつも人を惑わせる。


ところが本人に至っては、久しぶりに至極まともなことを言ったと平然としている。アラタメ堂のご主人は唐突に脱ぎだす。カラカラと笑う忌部の会社はこの後、また大変なこととなる。


みなさま、ご来廊ありがとうございました。


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by amori-siberiana | 2018-09-20 19:35 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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