2018年10月23日(火) ◆ビバリーヒルズから突然に。

「お前、今、どこにいる」


殴り書きのような言葉でヒゲの総帥を朝っぱらから電話で急き立てるのはジェイソンというアメリカ人の男である。


「世界のどこかにいるのは確かだ、要件はなんだ」とヒゲの総帥も負けてなるものかと、とても皮肉の混じった回答をする。


「俺はね、今、なんばにいる。お前、どうせ暇だろう、ランチでもしよう」と他人のプライバシーに一方通行な値付けをして、さっさと話しを進めてしまう感じはなるほど、こいつは生粋のアメリカ人の都会っ子だとヒゲの総帥は大いに恐れ入る。


このジェイソンという男について話しをすると長くなるので、部分的に割愛しながら外堀を埋めていこう。


そもそもこのジェイソンという男とヒゲの総帥との仲はかれこれ15年以上になろうかという。名門UCLA校を卒業したジェイソンは晴れて念願の学校の教師として、太平洋を越えた異国にて赴任することとなった。理想の聖職と現実のくだらなさを痛感したこの宣教師は、いつしかその心の乖離を酒で補うようになった。そして聖職よりも生殖のほうに興味を持ち出すアメリカ人。


ジェイソンが自分の家の近くのバーに行ってみると、相手が外人と見るや誰かれ構わず「もう一度だけでいいから、戦争しよう」と吹っ掛ける訳のわからないヒゲ面の男がいた、無論ヒゲの総帥のことである。


最初の日、二人はオーソン・ウェルズが監督した「市民ケーン」について議論を交わした。たった一度の命がけの議論は、何十万語の浮ついた言葉よりも互いを認め合うのに役立つことは、この二人の仲が証明している。


ヒゲの総帥が当時していたバンドの東京ツアーにもこのアメリカ人は同行することとなる。このツアーにおける収穫は非常に大きかった、なにせヒゲの総帥はバイオリン王子と知り合うことになるのであるから。ジェイソンは大して何の役にも立たなかった。常に東京の知り合いの家で開かれる餃子パーティーのことばかりを気にしていた。


そんなジェイソンも異国の地で浮き沈みを経験する。恋の病だ。


付き合っていた女性がいたのだが、相手の親から外国人はダメという理由で結婚を猛反対されそのまま失恋に至ることとなった。傷心したジェイソンはうわごとのように、その女性のことばかりを口にしていた。


「なんと女々しい男なのか、そんな気持ちを抱えていても薬にも毒にもならん。さっさと芸術作品にして、世間に償却するのだ」とヒゲの総帥はジェイソンに愛の鞭を振るい、ジェイソンに熱意のこもった恋文を書かせて、執筆者のジェイソンをパンクバンド「異国警察」のステージに登場させ、スポットライトが当たるテーブルに座らせて、拷問のような演奏をバックにマイクで朗読させた。


ただ、演奏といってもボーカルのがなり声とジェイソンの朗読が混在して、何を言っているのかまったく聴き取れず、そのうち「おい!外人!やかましい!」、「やかましくない!俺はね、真剣に詩を朗読してる。お前こそやかましい!」とステージ上でボーカルと異国の男は互いを罵りあう結果になる。


その光景たるや、今、思い返しても抱腹絶倒である。記録に残っていないのが残念だ。


ジェイソンが契約の関係で聖職を失職したとき、ヒゲの総帥はタッキーと悪知恵を働かせて、ジェイソンに某FM局のDJになればもっともっとモテるようになると焚きつける。しゃべりにあまり興味がなかったジェイソンもそのうち、その気になってきていよいよ局のプロデューサーやディレクター陣との面接となる。


もちろん、ヒゲの総帥と豚王タッキーもジェイソンに随行していく。


「こういう場合は真面目に答えたほうがいいのか、それとも大阪だからボケたほうがいいのか?」と真剣な眼差しで聞いてくるジェイソン。


ヒゲの総帥は「どちらとも違うよ。いいかい、日本で受ける外国人っていうのはデーブ・スペクターのようでなくっちゃいけない。アメリカン・ジョークで我が道を突き進むのさ。そのときはリアクションが悪かったとしても、後になって『アイツ、ユーモアあるな』という回答でなくっちゃいけないよ」と適当なことをいう。タッキーもそれを聴きながら隣でうんうんと頷く。


「特技のところは何と書くがいい?」とジェイソンは参謀の二人に訊ねる。


ヒゲの生えた方の参謀が答える。


「そこはね、NEETとしておけよ」と、恰幅のいい方の参謀も半笑いながらそれがよかろうとやっぱりうんうん頷く。


そしていざ面接、面接官であるミスター・プラムがジェイソンに訊く。


「ジェイソンさん、この履歴書に書かれてるNEETっていうのはどういうことですか?」


ジェイソンはバカ丁寧に説明する。


「【N】ot in 【E】ducation,【E】mployment or 【T】raining。つまり、学ぶ気もない、働く気もない、それにむけて頑張ってもいないということですね」




一同が「・・・。」




応接室になんとも不気味な緊張感が無言のままに走る。ヒゲの総帥と豚王は笑いをこらえるのに必死で顔を下に向けている。


結果はもちろん落選であり、この後の烈火の如くに怒ったジェイソンの顔ったらなかった。ありとあらゆる罵詈雑言と呪いの言葉を参謀の二人に吐きかけたものだ。


シベリアンとのかかわりも深い。


シベリアン創設時になんとしても人目を引くアイコンが欲しかったヒゲの総帥は、ジェイソンに黒のサングラスと何処にも繋がっていないインカムを付けさせて、SPのようないでたちでステージ脇に立たせていた。この頃のシベリアンは半ばなんでもありであったのだ。


演奏の前にジェイソンからの注意事項が、映画でしか聞くことのないような汚いスラングだらけの英語で客席に発せられる。そして会場から去ろうとする者を見つけようものなら、その客に向けて「動くな!射殺するぞ」と威嚇めいた英語を発していたのだ。


そのうち、シベリアンはジェイソン効果があったかどうかは謎のまま本格的な音楽集団となっていき、いつの間にかジェイソンはアメリカへ帰っていた。


前置きが長くなったが、これがジェイソン・マイケル・ジャクソンという男である。


今では上場企業に就職して、随分と偉くなったのだという。「俺はね、ビル・ゲイツの次に忙しい男。そんな男とランチができるなんて、お前は光栄だな」というのは彼の口癖である。


ジェイソンと合流したヒゲの総帥はそのままタクシーに乗り込み、冷泉と待ち合わせしている場所へ向かう。この日、元はといえば冷泉と昼食を一緒に摂る約束はしていたが、ジェイソンの登場など予期していなかったため、結果的に珍妙な三人で昼食の卓を囲むこととなるようだ。


ジェイソンとヒゲの総帥がなにわ筋と本町筋が合流するあたりに到着する。路上でフラフラしている黒ずくめの男がいる、フラフラしているのかと思えば、次は立ちすくんだまま道路の真ん中から動かなくなる。


そう、黒ずくめのコンサルタント、冷泉彦彦の登場である。


まだ太陽は頭上にのぼりきってはおらず、空を見渡せば散り散りの雲たちが、季節は秋を迎えたことを教えてくれるのである。どこから吹いてくるのかわからない秋の風はビルに遮られてはいるものの、またどこか抜け道を探し出し、見知らぬ場所へ吹いていくのであろう。


ジェイソンの住む、ビバリーヒルズではどのような風が吹くのであろうか。


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by amori-siberiana | 2018-10-23 19:20 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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