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『土佐日記』 第三話:自由は土佐の浜辺より

日が明けようとしていた。


波の音が変わったような気がする。ヒゲの総帥とチンピラの男は浜辺の近くのアスファルトに張っていたテントを砂浜へ移動させる。肌寒い明け方ではあるが、気の早い波乗りたちはさっさと着替えて海へ突入しようとしている。車中で夜を明かす人も多いのだろう、他府県ナンバーの自動車がよく目立った。


到着してからというものギターばかり弾いていた。海であろうが山であろうが夜にギターを持ち込んで弾くのはいつものことであり、何かに向けて弾いてるわけでも、何かに弾かされているわけでもない。ただ、弾くことでその音が静かに聞こえる範囲だけは、自然のなかで自分の結界が張れるような気がするのだ。


人は古来より火を絶やさないようにして、夜行性の獣の襲撃から身を守ったが、それとは違う。バリアのような排他的なものではなく、融合を目指した結界である。温泉に入るまえのかけ湯のようなもの。真夜中の太平洋を前にして、ぼんやりと考えごとをしていたかったのだ。海はとても大きく柔らかく、威厳を保っている。そして波の音を聞きながら音を奏でると、自分以外の世界は消えるのだ。


弱々しい太陽が昇る、肌寒く小雨が降っている。薄く白っぽい霧が出ており、ようやく肉眼で50メートルほど先に見える波はどーんどーんと音をたてて遠浅の浜に打ちつけている。


映画アベンジャーズのような格好をしたチンピラの男がヒゲの総帥のいる砂浜のテントにやってくる、すでに彼の髪は濡れており、さっそく海に浸かってきたのだという。すると同じような格好をした男がカラカラ笑いながらやってくる、船場ビルヂングを根城にするデザイナーの忌部である。


「忌部君、サーフィンとかするのかい?」


「いや、まったく」といい、やっぱりカラカラと笑う。


ヒゲ「アラタメ堂のご主人なんかもサーフィンするのだろうか。ネットサーフィンは誰よりも早い時期からしてたみたいだけど」


忌部「あっ、なんか風呂行くいうてましたよ」


ヒゲ「朝のこんな時間からしてる風呂なんて、よく見つけたもんだ」


忌部「北さんもアラタメさんらと一緒に風呂に行くいうてました」


北というのは忌部と同じ会社の地下室に籠っている男で、たまの休日など山奥の渓流に行っては珍しい石を探しているという極めつけの変人である。


グループはここでサーフィンをするチーム(A)とサーフィンをしないチーム(B)に分かれる。そして「A」でもサーフィン経験者とそうでないものの「A´」という具合の二手に分かれる。サーフィン経験者は好き勝手に海に入り、そうでないものは朝の8時より地元のボブさんという男が指導する初心者講習会に参加というプランである。


「ディエゴが起きて来ないですね、あのクズ」と、チンピラの男が我々のなかで一番サーフィン巧者であろう青年が登場してこないことに舌を鳴らす。


「あれ、冷泉の姿が見えないけれど・・・」とヒゲの総帥が問う、「ああ、アイツは今日無理ちゃうかな。さっき、冷泉が車で寝てるとこの様子を見に行ったんですけど、ぐわああああ、ぐわあああと、イビキかいて寝てましたから」


想像に難しくない光景である。「ほいじゃ、ちょっと溺れてきますわ」と言い残してサーフボードを抱えてチンピラの男はどーんどーんと音たてる海へ消えていった。


しばらくすると忌部と同じくサーフィンの講習を受けるため、債権さん一味がやってくる。債権さんはロマンスグレーの髪にてウクレレを2本ほど携えて砂浜へ降りてくる。そして一味である坊主頭で出所したて風のオカちゃんと、長身なで肩の男も根性すえて浜に降りてくるのだ。


遅れて登場のディエゴ、長距離の運転を終えてホッとして寝落ちしてしまったのだろう、唇の色が生者のそれではない紫色をしたままで現れた。


「ディエゴ、今日の波はどんな感じだい」と訊くと、「荒れてますね」と紫色の唇が動く。そしてさらに遅れてやってきたのは、社長兼音楽家のギバタ幽助である。このギバタ、今回はレンタル家族を連れての旅行参加だと聞いたのだが、それはそれは可愛いご息女を連れての登場であった。


ギバタは登場早々に根性を見せつけてくる。この寒い日、海に入るとはいえ皆が長袖のスーツなのに一人だけ半袖での参加とは大いに恐れ入ったものである。が、事情を聞くと単にボブさんところではレンタルでそれしか残ってなかったということだ。


さて、サーフィンをしないチーム「B」も二手に分かれるのであるが、こちらは「浜辺で何もせず、ただただ起きて海を眺めるチーム」と「ただただ寝てるか、それか風呂にでも行くチーム」という具合に単純である。ヒゲの総帥は前者のチームであった。


雨脚が強くなってきた、浜辺においていたテントを雨粒がぼつぼつと叩く音が心地よい。アシムとヘルベンツとマギカとヌリエちゃん、そしてギバタの息女はテントの中でままごとか何かをしているようだ。隣のテントでは先日、北濱のジンクスにて行われたワイン会でアラタメ堂と共に司会を務めた、のかどうなのかよくわからない不思議な存在感を出していた白虎女史が寝ているらしい。あくまでらしいなので詳細はわからない。


ヒゲの総帥はギターを抱えて海を見ていた。遠く波打ち際ではレクチャー中の数名が、サーフボードの上でうつ伏せになり、オットセイのように背中を反っている。チンピラの男は幾度も幾度もパドリングするし、ギバタは世界で最初にエスカレーターに乗せられた被験者のような足元のおぼつかなさのまま波に乗る。ディエゴはその様子を波打ち際で眺めている。素敵な世界である。ヒゲの総帥も波打ち際へ行く。


チンピラの男たちを見ながらディエゴに訊ねる「あれは、ただ波に乗ってるだけなのかね」と、ディエゴは笑いながら答える「そうです、ただ波に乗ってるだけです」と。欲しかった回答が得られて満足したヒゲの総帥は来た道を引き返しテントに戻る。


誰もいないテントに潜り込んで横になる、雨音が激しくなってきた。ぼんやりと考える・・・、もし、神がいるとすれば彼は素晴らしい画家であったろう。空と海をたった一本の水平線で区切って表現しているのだから。考えれば考えるほどに見事なラインである。とまで考えたところで眠気が襲ってきた。


そろそろ、風呂組が戻ってくる頃であろう。昼は一同介しての昼食である。その時間まで海に恋焦がれる者たちは、好きに詩人(バード)となればよい。


波に乗っているときはすごく純粋な気持ちになれて、開放感を得られる。まるで鳥になって飛んでいるような、それはそれは自由で壮大な気分になれるんだ。


ドノヴァン・フランケンレイター



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by amori-siberiana | 2019-05-11 23:48 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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