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こんにちは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサ(旧名:画廊喫茶フレイムハウス)を経営する、ヒゲの総帥こと阿守のブログです。


今日の北濱、小雨が降ったあとでほんのりと霧模様である。ヒゲの総帥の故郷は田ばかりなので、通学の折にはよく濃霧に出くわしたことが懐かしい。濃霧のときは自身の手前すら見えなくなるくらいのもので、集団登校で通い慣れた退屈な道も異質なものと変わり、なんだか高揚感をもたらすものであった。ロンドンから列車に乗り込み、イングランド北東部のダラムの大聖堂が車窓から見えた辺りから、どんどん霧が立ち込めてきてスコットランドに入ると一面が霧に包まれたのには感動した。霧というものは雪と似ていて普段はそこに存在する境界線を無効化してくれるような安心感がある。雪は降り積もるのだが、霧はヴェールのように隠してくれるのである。同じ隠すでも絶妙にそのニュアンスは違う。


さて、昨日のこと。


ヒゲの総帥は店に行く。ランチを済ませたばかりの目がキラキラした女がぼんやりと佇んでいる。店内にはスペインの巨匠ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」が流れており、キラキラの女は自分の父親の葬儀のときにこの曲を流して、葬儀屋から「イイネ!」をもらったのだと教えてくれる。ヒゲの総帥も今年に入って叔父が末期的な胃がんによって亡くなり、葬儀屋から故人の思い入れのある音楽をと言われた。叔父の姉(つまり総帥の母親)は故人のCDから幾つかを葬儀屋に渡す。坊主がやってくるまでのあいだそれが葬儀場内に流れる。狼が月に吠える声が聴こえる…。「ナーナナナー、ナナナー、ナナナー♪」と陽気でファンキーな音楽が流れてくる。ディープ・パープルの名曲「ハッシュ」である。年寄り連中は眉間にシワを寄せ、総帥は笑いをこらえきれない、若い連中はお行儀よく誰かに教えられたままに座る。


これでは坊主も入って来にくかろうとヒゲの総帥は葬儀屋に音楽を変えさせた。ヒゲの総帥も大人になったものだ、何度も何度も葬儀を経験してきて、葬儀という儀式が故人と別れてこれからも生きていかなくてはならぬ者のためにあることを知ったのだ。この曲では「さよなら」するには明るすぎるのである。


ヒゲの総帥は店の経理を終わらせたあと、そのまま北濱のツタの絡まる青山ビルにあるギャラリー「遊気Q」へ向かう。先日よりギャラリーの女が「阿守さんに似合うニットの服を置いてますから、着るだけでいいから着てくださいよ」と声を掛けてくれていたのだ。ギャラリーへ行くとニット洋服の展示会は終わっており、今は革靴の作家による展示会が行われていた。ヒゲの総帥は革靴のひとつひとつを手に取りながら、革靴のことがわかってるような顔付きをする。ギャラリーの女が店内にやってきてヒゲの総帥に声をかけて、靴の説明をする。


ギャラリーの女が履いているのもこの作家の靴なのだそうで、それはそれは清水の舞台から飛び降りる覚悟で靴を一点求めたのであるが、最初は履くのがもったいなくて履かずに拝んでいたのだそうだ。後日、意を決してその靴を履いたところその履き心地のよさはなかなかのもので、今は毎日のように履いているのだという。ヒゲの総帥も早速これはという靴を見つけて履いてみようとしたのだが、あいにくとサイズが24.5しかなく履くことができなかった。


靴もそろそろよかろうという頃合い、ギャラリーの女がニットの総帥に似合うらしい服を持ってくる。なかなか凄い逸品である、ギャラリーの女がいうには「誰が着ても似合うというものではないんですよ。私はね、阿守さんだからお似合いになられると思うんですよ。これを着てギターをお弾きになられたら、素敵ですわよ」とのことである。取りあえず着てみるがいいと促されるままヒゲの総帥は着る。「あらぁ、素敵ではないですか」とギャラリーの女はいう、その隣にいる着付けのプロの女も「お似合いですよ、お似合いです」という。


ヒゲの総帥は姿見に映しだされた自分を見るが、まるで十字軍の兵隊かトルバトーレのようだと苦笑しながら感想を漏らす。「ちょっとギターを弾く格好をしてくださいな」とギャラリーの女はいう、着付けのプロは「そうするがいいでしょう」と同調してヒゲの総帥に椅子へ座れと促す。ヒゲの総帥は椅子に座りギターを弾く格好をしてみる、「やっぱりよくお似合いですわね」とギャラリーの女の感想は変わらず、着付けの女も「ええ、ええ、よいですわね」と勝手なことをいう。


「僕よりも万作さんのほうが似合うのではありませんか?」とヒゲの総帥がいうと、ギャラリーの女は万作がこの服を着ているところを想像して、吹き出し笑いをする。「いえ、ダメですよ。あの方が着られたら、ただの変質者に見えますもの。変態よ」ともっともな回答をする。着付けのプロは「これは裸に着られてもよさそうじゃありませんか?」とさらに突飛なことを言いだす。収拾がつかないのでヒゲの総帥は己の姿をTwitterにあげて、これが如何なることか世論に問うことを二人の淑女に提案してみる。


ヒゲの総帥は二人から了解を得られたのでTwitterにあげてみたが、諸氏はおおむね「よろしかろう」の反応を見せている。なんということだ。


ヒゲの総帥と二人の淑女は笑いながら一旦衣装替えを置いておくことにする。総帥はそのまま北濱のオフィスへ戻り、アラタメ堂を誘ってクントコロマンサの近くにあるエイリアンのギャラリーへ行くことにした。エイリアンのギャラリーでは絶賛、ラブホテル展なる展示会をしているのであった。


エイリアンのギャラリーへ到着すると白人がひとり客としている。ヒゲの総帥はアラタメ堂と一緒にラブホテルの作品群を眺める、エイリアンは巨人の星に登場する飛雄馬の姉、星明子のように壁に半身を隠してこちらを見たり見なかったりする。ラブホテルで縛られている女性の写真などが並ぶ、「アラタメ堂はSMクラブへ行かれたことはありますか?」とヒゲの総帥は突っ込んだことを訊く。「いえ、僕はそういうクラブに出入りしたことはありませんよ。ただ、雑誌の編集をしてた時代にイベントで目にしたことはありますよ」と正直に回答する。


「なんだかこういった縛られる女性たちは、ほとんどの人が体形が崩れていますね」とヒゲの男は自分のことはおかまいなしに遠慮なくいう。「綺麗な体の女の人を撮ってもおもしろくないのよ!AVみたいなのは綺麗な人が主流なんでしょうがね」とエイリアンはいう、「裸の女の人がどうにかされてるというだけで、カテゴリー的には全然別ですよね」とヒゲの総帥は女体を見ながら納得する。


ヒゲの総帥は以前SMクラブに一度だけ行ったことがある。何をしに行ったのかといえば、ヒゲの総帥が懇意になりたかったモデルの女性がその店に関連した人であり、挨拶に出向いたのである。そのときそのクラブでたまにディジュリドゥを演奏していたのが、偶然にもヒゲの男と同郷のロナルド・タラ・ゴメスという男であった。タラに仲介に入ってもらい挨拶をしに行った折、バシ、バシと女性が女王様に叩かれる様相を見せられ、その後に女王様から「ショーはどうだった?」と感想を訊かれて咄嗟のことに困ったヒゲの総帥は、ただただ「はい…、興奮しました」となんとも間の抜けた予定調和の感想を述べるに留まった。今ならもっと気の利いたことを言えるであろうか、いや、多分同じであろう。


エイリアンのギャラリーを後にしたヒゲの総帥とアラタメ堂は歩いてそのまま心斎橋まで行く。途中、南船場にあるチョコレート・ドリンク専門店の「CREST」へ立ち寄りチョコレートを補給する。この店を経営するのは以前クントコロマンサにやってきた男で、ヒゲの総帥は東洋のイシュトヴァン・シュテファンと呼んでるのである。チョコレートと緑茶を絶妙な塩梅で混合した粋な飲み物は、どこか得体の知れない異国の風味がして幻想的で魅惑的なものであった。


アラタメ堂に導かれるままアメリカ村の一画にある雑居ビルへ入る。今日はここでボードゲーム大会があるというので、ヒゲの総帥もアラタメ堂に誘われるまま着いていった。アラタメ堂がハーメルンの笛吹きであったとすれば、ヒゲの総帥は今ごろ消息不明となっているのであろう。


雑居ビルのひとつにレンタルスペースがあり、そこで初対面の人たちとボードゲームをする。ゲームに興じたあと雑居ビルを出るとハイタッチ冷泉から電話がある。


「阿守さん…、えっと…、今、どこいるんすか?」と独特の呂律があまり回っていない低い声がする。聞く人が聞けば金融屋の取り立てだと思うであろう。ヒゲの総帥は自身がアラタメ堂と一緒に御堂筋を北上していることを伝える。冷泉は「ぐふふ」と意味深な笑いを残して電話を切る。意味深な笑いであるが、そこになんらの意味も深みもないことは冷泉との付き合いが頻繁になってきているヒゲの総帥にはすぐにわかった。


店に戻ると常連の不思議な女とガルパンの男、そして冷泉がいる。冷泉は締め切りが迫った漫画家のように脇目もふらず、ただひたすら紙に漫画を描いていた。


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by amori-siberiana | 2017-11-29 16:17 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。