これを書き上げる頃には、日付は11日の日曜日になっているだろう。だが、物事はそれを始めたときが肝心なのであって、終わりなど大して美徳にはなりはしないのだ。アメリカにしても例外ではない、彼らはベトナム戦争をはじめるとき、非常にドラスティックな詐欺的手法を使って開戦した。しかし終わりともなれば、壮絶なる阿鼻地獄をよそに人々は無関心となり、グズグズに終わった。


歴史は二度繰り返す。最初は悲劇として、二度目は喜劇として ― 


カール・マルクス


そしてやっぱりイラク戦争にしても同じようにドラスティックな詐欺的手法を使い開戦したはいいが、結局のところ同じことをして人々を不安がらせて、手品のタネ(焼き尽くす大地)がなくなれば、あとはグズグズにして放ったらかしである。


サンディエゴに留学していた賢明なるディエゴ君は、ことあるごとにヒゲの総帥に訊いてきていた。「阿守さん、9.11事件は結局のところ陰謀なんですか?」とか「首謀者は誰なんですか?」と訊いてきた。ヒゲの総帥は残念ながら千里眼ではないので、自分の知る限りのことで答えるに留まる。あれは陰謀なんて品のあるものじゃなくて、恐るべき行き違いなのだ。それは許されざる行き違いである。


さて、今は神戸の山中に籠って研鑽を積むディエゴ君から久しぶりにヒゲの総帥のところへ連絡があった。内容はGoogle本社の男がコロマンサにヒゲの総帥のギターを聴きにやってくるというものであった。なんでもその男が日本人が好むローカルなライブバーを紹介して欲しいとのことをディエゴ君に問い合わせてきたようで、ディエゴは北濱にある猫のひたいのような小さな店、クントコロマンサを紹介(どちらかといえば斡旋であろうか)してくれたという顛末だ。


それも自分の事業の一環だと胸を張る天然ボケの後輩。しかしながら中途半端な対応をすればディエゴの事業のスタートに傷をつけてしまうと考えたヒゲの総帥は、この後輩からの粋なはからいに応えることにした。なんでもスタートが肝心なのだ。


ヒゲの総帥もGoogleには興味があった。先日、都合のいいことにIC回路を持ち歩く男の「シリコンバレーとは」という講義をザ・ジンクスで部分的ではあるが耳にしており、シリコンバレーというものに興味があったのだ。それまではシリコンバレーがサンフランシスコにあることすら知らなかったのだ。そして世界のGoogle本社はそのシリコンバレーの中枢に存在する。知識の深まりが好奇心の大前提であることは、人間の証でもあろう。一旦、好奇心を持ったからには出来る限りはこの身を乗り出してリサーチする覚悟がなければ、字など書いて提出しないほうがマシである。


そう、ヒゲの総帥は今さらながらの非効率的で破滅的なゴンゾ(Gonzo)・スタイルだ。フォーマット(メソッド)をもって取りかかるなど、人それぞれのニーズを予定調和の中へ放り込むのが常の神かおよそ天才のすることだ。ヒゲの総帥には無理である。


ギターを聴きに来るということは、梅雨前にしてサビきったギターの弦を張り替えなければならない。ヒゲの総帥は仕事を定時で終わらせツタの絡まる青山ビルの一角を陣取るギャラリー遊気Qへ行く、ここに新品のギターの弦を置かせてもらっているのである。自称302才の女の厚意にはひたすら感謝をしている。


ヒゲの総帥はこのギャラリーの女を今月末に行われるジンクスでのワイン会に誘っているのだが、なかなか強情で首を縦に振らないのである。まだコロマンサが開くまでに時間があるので、ヒゲの総帥は大正レトロな青山ビルを出て、近くにあるこちらも大正レトロの船場ビルディングへ向かう。ここには不動産デザイナーの忌部の会社があるのだ。そう、あのワイン会のチラシを制作した男である。


行ってみると、オフィス入口の引き戸が開きっぱなしになっている。オフィスの窓には「お前たちはこの色以外は着てはならぬ」とお上から命じられていた時代の人が着ていたような色のカッパが干されている。そう、この日は雨であったのだ。


ピンポンもないので「おお、やっとるね」とそのまま入る。仏頂面の忌部の部下の女がヒゲの総帥のほうを見る、女は「何か用ですか」とも言わない。ただ、「下(の階)にいます」と言って忌部を呼びに行くのみであった。ホントに無駄なことを喋らない優れた部下であるとヒゲの総帥は常々、忌部に言っている。


忌部がのそっと地下から出てくる、ヒゲの総帥は開口一番こういう「忌部くん、今夜は外人が来るぞ」と、忌部はカラカラ笑いながら「外人なんていつでもおるやないですか。この前やっておったでしょう」という。この場合この前というのはチェコ人のウラディミールたち一行のことであろう。ヒゲの総帥は何の説明もすることなく、「とにかく外人が来るんだから、君も見に来いよ」と日本がまだ海で守られていた頃の人のようなことを忌部に言付けしてコロマンサへ行く。


ヒゲの総帥が店に到着すると、版画家の万作はカティサークなる帆船の模型を作っていた。最近、暇なので版画家と飲み屋だけではもの足らず造船業も始めたものと見える。ヒゲの総帥はギターを取りだし、今夜の演奏のために弦を取り換える。素早く取り換えなくてはならん、そこからすぐギターの練習をはじめれば、大体のところ夜の10時くらいにディエゴの客が来ると予想して3時間は練習できる。3時間練習すればそれなりに手は動くであろう、青春を削って練習していたときの技術の貯金がこういうときに活きるものだねとギターのペグをぐるぐる回して急ぎ弦を交換する。


およそ一般的なギターは6本の弦で成立する。ヒゲの総帥が3本目の弦の交換に取りかかったとき、もう海外からの客人がコロマンサに入ってきたのにはビックリした。


彼の名前はシャムという。まさかここから三日間を一緒に過ごすとは思いもよらなかったのである。


つづく


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by amori-siberiana | 2018-06-11 01:41 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。