2018年 06月 15日 ( 1 )

パチンコで自分のツキの無さにうなだれるシャム君、ヒゲの総帥は新世界にでも行くかと誘う。新今宮から南海に乗ればそのまま特急で関空(KIX)まで運んでくれるであろうから、段取りとしてはなかなか良いはずだ。


新世界とはどういう意味なのか?とシャムが堺筋線の地下鉄のなかで問うので、ヒゲの総帥はそのまま皮肉たっぷりに「セ・ヌーヴォー・モンド」とフランス語で茶化す。シャム君もさすがにフランス語は理解できるようで、クスクス笑う。


新世界に到着する、結構な観光客がいる。怪しげなおじさんが二人に近づいてくる、おじさんは手に自作のチラシを持っておりシャムに配る。何が書かれてあるのか見てみると、「民俗博物館(通称:ミンパク)」に行こうというものであった。ヒゲの総帥もミンパクにある大きな絨毯にコーランが織られたものなど好きでよく行っていたと、怪しいおじさんに説明する。


しかしながら、ミンパク好きといえばピアノ工房の軍司である。あの男ほどにミンパクは愛せない。以前、株式会社「いいでやんす」のダダヤマを北濱のジンクスで軍司に会わせたことがあるのだが、そのときどんな仕事をしているのかと問われたダダヤマが「民泊関連の事業です」と答えたときの軍司の嬉々とした反応といったらなかった。お互い、ミンパクの認識が違うまま、奇妙に話しが合ったり合わなかったりする瞬間にヒゲの総帥は抱腹絶倒だった。


ヒゲの総帥が軍司に「ダダヤマのはミンパクはミンパクでも、民俗博物館じゃなくて泊まる宿のことだ」と説明するまで、軍司はダダヤマが民俗博物館の清掃をしているのだろうと考えていたそうなのだ。ダダヤマも微妙に話しが合わないのだが、軍司が先輩であるということで機嫌を損ねてはならんと「ええ」とか「まあ」とかアンニュイな返事に終始していた。


怪しいおじさんの話しに戻ろう。ヒゲの総帥はおじさんに問いかける、「あなたはこれを自分の矜持として配布、啓蒙しているのか?」と。おじさんはそうだと答える、いろんな民俗のことを知り、多様性を知ることによって世界から諍いはなくなるだろうというのである。もちろん、こんなにきちんとした文面での回答ではなかったが、ポイントを絞るとおおよそこういった感じであった。


おじさんはこれからドストエフスキーのカラマーゾフの兄弟を研究するサークルへ行くのだという。お前らはドストエフスキーを知ってるのか?と二人に訊いてくるが、知ってると答えると面倒臭そうなので、「いいや、そんな作家は知らない、せいぜい知ってても芝スキーぐらいである」とヒゲの総帥は答える。ところが、おじさんは「どうしてドストエフスキーが作家だと知っているのだ」と突っ込んでくる。藪蛇である。


さっさとおじさんの元を退散して二人で歩いているとき、ヒゲの総帥はシャムに訊く。「日本でやり残したことはないのか?」と、するとシャムはしばらく考えたあと「阿守さんが一番好きな食べ物を食べてみたい」という。


やっと話しがお茶漬けに到着した。


えらく長いくだりになってしまった、まるでローレンツ対称性について語るように冗長であったが、どうか許していただこう。


新世界でお茶漬け屋を探すが、まあどう考えてもなさそうである。そんな二人のところへ串カツ屋の大将が声を掛けてくる、串カツを食べて行かないかと威勢よくいうわけだ。ヒゲの総帥はその威勢に飛び乗るかたちで大将にいう「お茶漬けは作れるか?」と。大将は残念ながらメニューにはないという。


ヒゲの総帥は「この異国の友人と自分は次、いつ会うか解らない。彼が僕の好きなものを食べたいというから、それならお茶漬けだという顛末で今、茶漬けが出る店を探している。飛行機の時間があるのであまり時間もない」と説明する。大将はその話しを聞くや否やすぐ店に入れという、俺が特別に茶漬けを作ってやるというのだ。


シャムにそのことを説明すると、シャムはえらく感激する。感激は構わんから血糖値を測っておけよとヒゲの総帥はシャムに伝える。すっとテーブルの下でシャムは自分の指に針で穴をあけ、血を出してそれを測定する。どうやらいけるとのことだ。


しばらくすると、大将が茶漬けを二膳持ってくる。二人で茶漬けを食う。やっぱりうまい、白飯がそこまで水気を吸わないあいだに一気にかきこむのである。かっかっかっかと箸が茶碗を打つ音が店内に響く。3分で食い終わる。シャムはこんなに美味しいとは思わなかったと感動する。


シャムはどうしてここまで親切にしてくれるのか?とヒゲの総帥に問う。


ヒゲの総帥は「明日、世界が終わるかも知れないからだ」と答える。


シャムの目つきが変わる、何かが腑に落ちたような顔をする異国の若者。しばらく空になった茶碗を静かに見つめていた彼は、満面の笑みを浮かべて、目の前のヒゲ面の男に向けて日本語でこういった。




「アリガトゴザイマス」。



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by amori-siberiana | 2018-06-15 19:18 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。