「それで、あれからどうなったね」


北濱にある酔えないハイボールを提供することで有名な名店「フクビキ」はいつものようにサラリーマンで溢れ返っている。店の奥のテーブルを陣取る4人の男たち。それぞれをヒゲの総帥、ローズ、ボルト、蛇男というそうで、少し前のヒゲの総帥が会社を独立した際の優秀な部下たちである。起業しての三年間で10億円近くは稼いだであろう、それだけ優秀な人間が揃っていたことには間違いない。


あれからどうなったと三人に聞いたのはヒゲの総帥であり、あれからというのはその会社が反社会勢力に目をつけられてからというものだ。


ヒゲの総帥は反社会勢力が出てきた瞬間に退散した、ボルトも呆れて退散した、蛇男はもともと東京の人間でやりたいことがあるとトラブルの前に退社していた。ローズや他の人間はそのあとも法人業務を引き継いだ形で新規法人に転換して仕事をしていたのだという。


「(会社)やりだして、三か月目でしたかね。結局、そこへも反社が乗り込んできて、解散させられましたよ。こっちの代表者が監禁されてね。警察沙汰にしろと僕は言ったんですけれど、どうもなんらかあったみたいで・・・」とローズはハイボールを飲みながらいう。ちなみにローズはヒゲの総帥のブログの愛読者であり、ブログに死神(前の会社の代表)が出てきたときなどは、「アモさん、ぶっこんでくるな」とネットを経由して感じていたという。


退屈しない職場であった。いや、退屈しかない職場だったのかも知れない。常に自分たちで仕事を作り上げていくより方法のない会社であった。ロビイストという仕事は常に対社会的なものであり、発信するひとつひとつの言葉に責任があるのだが、それが上手くいけば宗教以上の説得力を作り上げるが、悪くすると風説流布になってしまうのである。


彼らとチームになり仕事をしたとき、すでにヒゲの総帥は音楽活動を辞めていたので、彼らは聞いたことがない。ハイボールを飲み干しながら彼らに「またシベリアンをするのだ」とヒゲの総帥は伝える。


ローズは「こっそり見に行きますよ」といい、ボルトは「あの曲やるんすか!?俺の一番好きな曲。そうや、パレードや!」といい、蛇男は「僕が聴きたいのは、舌足らずな私ですかね」と宣伝もしていないのにシベリアンの曲のことをよく知っている模様。ヒゲの総帥は「よく知ってるね」と苦笑する。


豚鉄なる辛口の鍋を四人でつつきながら、お互いが持っていた情報を交換する。ヒゲの総帥は語る「僕は失われた会社の金を取り戻すために関連別法人へ潜入したけれど、そっちも汚染されていたので、それ以上のことを調べるためには正確なデータベースのある場所へ入り込むしかないと思って今に至るのだ。結果、ある程度のことは突き止めたけれど最後の最後はやっぱり片鱗すら出てこないね、相手も上手くやってるよ」と手をひらひらさせる。


「もうね、あれは過去のことだよ。追っても身にならん」と言葉をつぎ足すヒゲの総帥。「アモさん、あのときの金はどうしたんですか?とんでもない給料をもらってたでしょ」とローズが聞いてくる、「そんなもんはそんときに使い切ったよ」と放言するヒゲの総帥。ボルトと蛇男は会社からのインセンティブがもらえる状況になかったため、そういった金銭的な恩恵は受けていなく、きょとんとしている。


ヒゲの総帥のこの部下たちは「チーム・オール・キル(皆殺し)」という部署を独自に設けていた。それぞれの長所に応じた役割があった、ヒゲの総帥は世界中のニュースを収集して分析する、さらには投資家の身辺調査のためなら日本全国どこまででも泊りがけで行った。ローズは対話能力と交渉力に優れており、さらにはムードメーカーとしても欠かせないものだった。全ての範囲の業務を一人でできるユーティリティな職人だった。元は名前の通ったパンク野郎であり、その当時の放蕩で珍妙でユーモラスな経験は彼の交渉術へ存分に還元されている。それはチャールズ・ブコウスキーの世界をそのまんま体験したというようなものだ。


ボルトは博識である。とにかく博識であり映画や音楽はもちろん、宇宙物理学や芸能関係などニューストピックスを作り上げるのは大得意である。ところが自身に関しては妙に秘密主義なところがあり、自分のことを聞かれるのを極端に嫌うのである。今では大手通信会社に入社して警察からも「ご苦労様です」と頭を下げられるのだと自慢する。


鳴り物入りでボルトが入社したとき、とにかく古今東西の映画に詳しいというのでヒゲの総帥と映画マニアクイズをしたが、ボルトは敗退した。そして、宇宙ならもっと詳しいというのでヒゲの総帥と宇宙マニアクイズをしたが、それもボルトが敗退した。


ボルトは理に強いので、相手を論破するのはお得意だった。というか、相手が求めてなくとも論戦に持ち込む悪癖もあった。その延長線上で社会現象になるほどの大きな騒動を巻き起こしたこともあるが、そんなこと詳細をここに書けない。


さて、蛇男。この男は読んで字のごとく家に大きな蛇を飼っていたのだ。感情を表に出すことは皆無の男であり口数も多くない、ところが一度仕事中に流血しだしたことがあり、どうしたのかと聞くとピアスの穴を広げすぎて血が止まらなくなったのだという。さっさと病院へ行けと早退だかなんだかさせたことがヒゲの総帥の記憶にある。


とにかく感情論に流されない男なので、世の中のあふれるネットニュースなどのひとつひとつを精査するのに長けていた。自分のなかに「?」が一瞬でも湧けば、なんでもヒゲの総帥に「これってどういうことなんですか。裏で情報を流している人間の思惑はどういったものでしょうか」と毎日のように問うてきていた。とても真面目な男である。今では六本木の有名なバーでバーテンダーとして働きながら賑やかにしているそうだ。


「僕は阿守さんと一緒に仕事をしてたくさん学びました」と蛇男がいう。「どんなとこなん?」とボルトは問う、ローズとヒゲの総帥は鍋から真っ赤になった麺を拾い上げ、自身の椀に入れる。


「なんつーか、こんなに適当でいいんだって、一番はそこを学びましたね。自分にはそういうのなかったですから。それが今の自分に役立ってます」と蛇男はいう。それを傾聴していた三者は爆笑する。それは笑って然るべきところだ、毎日このような感じで命がけで仕事をしていたのだ。リスクマネジメントの部署には随分と迷惑を掛けたことだろう。職場では常にブラック・サバスとクイーンがかかっていた。


一行は場所をフクビキからキューバ国旗のあるシガーバーへ移す。


四人でパルタガスの葉巻をくゆらせる。話しても話しても話題が尽きることはない。これまでヒゲの総帥は彼らと連絡を取り合ったことはゼロに近いものだったが、彼ら同士はよく連絡交換をしているのだという。


ローズがいう、「これまで何度もアモさんのいるところへ何度か顔を出そうとしては、やめてたんです。今のアモさんにとって俺らの存在は邪魔なんちゃうかなと思って」と彼らしい優しい発言である。「そんな余計なこと気にしないで欲しい、どんどん顔を見せてくれ」とヒゲの総帥はいう。ボルトは神戸のライブを楽しみにしているといい、蛇男は東京に来る際は是非一報をくれという。


彼らは素晴らしく誇らしい部下であり、また彼らはヒゲの総帥にとっての先生でもある。


久しぶりにみた彼らの入れ墨や開けすぎたピアスの穴は、ヒゲの総帥にとって故郷の風に触れたような愛着と安心感があった。


やりたい放題に予算を使いまくった変な会社であった。彼らが社員旅行で西表島に行けば、同じタイミングでヒゲの総帥はそれに同行せず北海道の稚内へ行っていた。パソコンひとつ持っていれば、日本の一番北と一番西で連携をとって仕事ができるものだと冗談めかしていた。


「今から僕がやろうとすることに、近いうちにあなたたちの力が必要になることがあるかも知れない。そのときはまた手を貸してくれ」とヒゲの総帥は告げる。


ローズ、ボルト、蛇男は快諾をする。そして闇夜に散る。ヒゲの総帥は北濱の夜道を歩きながらここの店のモヒートはとんでもなく美味いことを確信した。


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# by amori-siberiana | 2018-09-24 02:03 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。