カテゴリ:雑記( 256 )

「それで、あれからどうなったね」


北濱にある酔えないハイボールを提供することで有名な名店「フクビキ」はいつものようにサラリーマンで溢れ返っている。店の奥のテーブルを陣取る4人の男たち。それぞれをヒゲの総帥、ローズ、ボルト、蛇男というそうで、少し前のヒゲの総帥が会社を独立した際の優秀な部下たちである。起業しての三年間で10億円近くは稼いだであろう、それだけ優秀な人間が揃っていたことには間違いない。


あれからどうなったと三人に聞いたのはヒゲの総帥であり、あれからというのはその会社が反社会勢力に目をつけられてからというものだ。


ヒゲの総帥は反社会勢力が出てきた瞬間に退散した、ボルトも呆れて退散した、蛇男はもともと東京の人間でやりたいことがあるとトラブルの前に退社していた。ローズや他の人間はそのあとも法人業務を引き継いだ形で新規法人に転換して仕事をしていたのだという。


「(会社)やりだして、三か月目でしたかね。結局、そこへも反社が乗り込んできて、解散させられましたよ。こっちの代表者が監禁されてね。警察沙汰にしろと僕は言ったんですけれど、どうもなんらかあったみたいで・・・」とローズはハイボールを飲みながらいう。ちなみにローズはヒゲの総帥のブログの愛読者であり、ブログに死神(前の会社の代表)が出てきたときなどは、「アモさん、ぶっこんでくるな」とネットを経由して感じていたという。


退屈しない職場であった。いや、退屈しかない職場だったのかも知れない。常に自分たちで仕事を作り上げていくより方法のない会社であった。ロビイストという仕事は常に対社会的なものであり、発信するひとつひとつの言葉に責任があるのだが、それが上手くいけば宗教以上の説得力を作り上げるが、悪くすると風説流布になってしまうのである。


彼らとチームになり仕事をしたとき、すでにヒゲの総帥は音楽活動を辞めていたので、彼らは聞いたことがない。ハイボールを飲み干しながら彼らに「またシベリアンをするのだ」とヒゲの総帥は伝える。


ローズは「こっそり見に行きますよ」といい、ボルトは「あの曲やるんすか!?俺の一番好きな曲。そうや、パレードや!」といい、蛇男は「僕が聴きたいのは、舌足らずな私ですかね」と宣伝もしていないのにシベリアンの曲のことをよく知っている模様。ヒゲの総帥は「よく知ってるね」と苦笑する。


豚鉄なる辛口の鍋を四人でつつきながら、お互いが持っていた情報を交換する。ヒゲの総帥は語る「僕は失われた会社の金を取り戻すために関連別法人へ潜入したけれど、そっちも汚染されていたので、それ以上のことを調べるためには正確なデータベースのある場所へ入り込むしかないと思って今に至るのだ。結果、ある程度のことは突き止めたけれど最後の最後はやっぱり片鱗すら出てこないね、相手も上手くやってるよ」と手をひらひらさせる。


「もうね、あれは過去のことだよ。追っても身にならん」と言葉をつぎ足すヒゲの総帥。「アモさん、あのときの金はどうしたんですか?とんでもない給料をもらってたでしょ」とローズが聞いてくる、「そんなもんはそんときに使い切ったよ」と放言するヒゲの総帥。ボルトと蛇男は会社からのインセンティブがもらえる状況になかったため、そういった金銭的な恩恵は受けていなく、きょとんとしている。


ヒゲの総帥のこの部下たちは「チーム・オール・キル(皆殺し)」という部署を独自に設けていた。それぞれの長所に応じた役割があった、ヒゲの総帥は世界中のニュースを収集して分析する、さらには投資家の身辺調査のためなら日本全国どこまででも泊りがけで行った。ローズは対話能力と交渉力に優れており、さらにはムードメーカーとしても欠かせないものだった。全ての範囲の業務を一人でできるユーティリティな職人だった。元は名前の通ったパンク野郎であり、その当時の放蕩で珍妙でユーモラスな経験は彼の交渉術へ存分に還元されている。それはチャールズ・ブコウスキーの世界をそのまんま体験したというようなものだ。


ボルトは博識である。とにかく博識であり映画や音楽はもちろん、宇宙物理学や芸能関係などニューストピックスを作り上げるのは大得意である。ところが自身に関しては妙に秘密主義なところがあり、自分のことを聞かれるのを極端に嫌うのである。今では大手通信会社に入社して警察からも「ご苦労様です」と頭を下げられるのだと自慢する。


鳴り物入りでボルトが入社したとき、とにかく古今東西の映画に詳しいというのでヒゲの総帥と映画マニアクイズをしたが、ボルトは敗退した。そして、宇宙ならもっと詳しいというのでヒゲの総帥と宇宙マニアクイズをしたが、それもボルトが敗退した。


ボルトは理に強いので、相手を論破するのはお得意だった。というか、相手が求めてなくとも論戦に持ち込む悪癖もあった。その延長線上で社会現象になるほどの大きな騒動を巻き起こしたこともあるが、そんなこと詳細をここに書けない。


さて、蛇男。この男は読んで字のごとく家に大きな蛇を飼っていたのだ。感情を表に出すことは皆無の男であり口数も多くない、ところが一度仕事中に流血しだしたことがあり、どうしたのかと聞くとピアスの穴を広げすぎて血が止まらなくなったのだという。さっさと病院へ行けと早退だかなんだかさせたことがヒゲの総帥の記憶にある。


とにかく感情論に流されない男なので、世の中のあふれるネットニュースなどのひとつひとつを精査するのに長けていた。自分のなかに「?」が一瞬でも湧けば、なんでもヒゲの総帥に「これってどういうことなんですか。裏で情報を流している人間の思惑はどういったものでしょうか」と毎日のように問うてきていた。とても真面目な男である。今では六本木の有名なバーでバーテンダーとして働きながら賑やかにしているそうだ。


「僕は阿守さんと一緒に仕事をしてたくさん学びました」と蛇男がいう。「どんなとこなん?」とボルトは問う、ローズとヒゲの総帥は鍋から真っ赤になった麺を拾い上げ、自身の椀に入れる。


「なんつーか、こんなに適当でいいんだって、一番はそこを学びましたね。自分にはそういうのなかったですから。それが今の自分に役立ってます」と蛇男はいう。それを傾聴していた三者は爆笑する。それは笑って然るべきところだ、毎日このような感じで命がけで仕事をしていたのだ。リスクマネジメントの部署には随分と迷惑を掛けたことだろう。職場では常にブラック・サバスとクイーンがかかっていた。


一行は場所をフクビキからキューバ国旗のあるシガーバーへ移す。


四人でパルタガスの葉巻をくゆらせる。話しても話しても話題が尽きることはない。これまでヒゲの総帥は彼らと連絡を取り合ったことはゼロに近いものだったが、彼ら同士はよく連絡交換をしているのだという。


ローズがいう、「これまで何度もアモさんのいるところへ何度か顔を出そうとしては、やめてたんです。今のアモさんにとって俺らの存在は邪魔なんちゃうかなと思って」と彼らしい優しい発言である。「そんな余計なこと気にしないで欲しい、どんどん顔を見せてくれ」とヒゲの総帥はいう。ボルトは神戸のライブを楽しみにしているといい、蛇男は東京に来る際は是非一報をくれという。


彼らは素晴らしく誇らしい部下であり、また彼らはヒゲの総帥にとっての先生でもある。


久しぶりにみた彼らの入れ墨や開けすぎたピアスの穴は、ヒゲの総帥にとって故郷の風に触れたような愛着と安心感があった。


やりたい放題に予算を使いまくった変な会社であった。彼らが社員旅行で西表島に行けば、同じタイミングでヒゲの総帥はそれに同行せず北海道の稚内へ行っていた。パソコンひとつ持っていれば、日本の一番北と一番西で連携をとって仕事ができるものだと冗談めかしていた。


「今から僕がやろうとすることに、近いうちにあなたたちの力が必要になることがあるかも知れない。そのときはまた手を貸してくれ」とヒゲの総帥は告げる。


ローズ、ボルト、蛇男は快諾をする。そして闇夜に散る。ヒゲの総帥は北濱の夜道を歩きながらここの店のモヒートはとんでもなく美味いことを確信した。


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by amori-siberiana | 2018-09-24 02:03 | 雑記 | Comments(0)

ヒゲの総帥は大阪へ帰ってきた。何やら青山ビルの一角を占めるギャラリー遊気Qにて演奏会があるのだという。演奏会といっても会費をとるような本格的なものではなく、己の技術の向上と衆目からの鑑賞に慣れるための予行演習のようなものである。


遊気Qではこの日まで、奈良のギャラリー(アン)から一斉に作品が持ち込まれての交流展が開催されており、その最終日ということで既に芸術家たちが何人か在廊していた。ヒゲの総帥は彼ら彼女らに挨拶をして、そのまま裏へ引っ込み地べたにごろんと転がる。ここ最近、とても疲れやすくなっているなと自身の不摂生を恥じる。


すると星師匠がやってくる。星師匠にはИHKという民放ではないテレビ局から取材のオファーが天文学者を通じて来ていた、師匠は自身にスポットが当たることに驚きながらも冷静に「自分はそういうところへ出たくはない」と断っているのだが、それについての話しをヒゲの総帥とする。ヒゲの総帥は「(あなた)らしいな」と苦笑する。


星師匠はごそごそと自分のカバンから何かを取り出す。


出てきたのは金色の袋に入ったもの、ヒゲの総帥が袋を開けてみると中から30円が出てきた。5円玉が6枚、それぞれリボンで結ばれているのだ。ヒゲの総帥はそれがすぐに六文銭の見立てだと理解した。三途の川の渡り賃である。


三途の川の渡り賃を持って、いつ死んでも悔いのないように、しっかり演奏しろ。という意趣である。ヒゲの総帥は礼を述べて六文銭(30円)を受けとりギターのポケットにしまう。星師匠は泣いていた。


しばらくすると、ファラオがギャラリーへやってきて、ヒゲの総帥が演奏するからと役目でもないのに作家たちとテーブルを運んだり、椅子を用意したりしてくれる。聞くところによるとアラタメ堂のご主人に呼びつけられたそうなのだが、その呼びつけた本人はやって来ない。なんだか微笑ましい、つくづく周囲の人に恵まれているなと感じる。


この日、ギャラリーに入りきれないほどの人が遊気Qへ集まる。詰めて座ってもらうが、ヒゲの総帥の隣に座っていたファラオなどヒゲと「二人羽織」をしだすのではないかという距離感である。6本の弦がなりだす。


太い弦から


C(ド)

G(ソ)

C(ド)

G(ソ)

C(ド)

D(レ)


ヒゲの総帥はこれまでの「沈黙」コンサートとは趣向を変えて、曲のタイトルとその曲をどのように工夫してみたかを誰に頼まれもしないのに語る。そして曲を弾く、それを繰り返す。


以前までガレ風(エミール・ガレ)の卓上灯をすぐそばに置いていたが、いつしかそれも面倒臭くなり出さなくなった。実はそのような演出もそれほど重要ではなかったのかも知れない。


結合させては撹拌させ、吸収しては分解させ、凝固させては溶解させ、転んでは立ち上がり、コピーしてはペーストして、展開しては収縮させて、色気を出しては素っ気なく、ギターをただ紡ぐ。自身の母親が家でずっとミシンを踏んでいたときのように、自身の祖父が畑で作った桃を丹念に仕分けするように、自身の祖母が乳飲み子を抱えて真夏のおり、長蛇の列の最後尾に並び何時間も辛抱して、ほんの少しの食糧配給を受けたときに流れ出た汗のように。


とんでもない数の労苦を礎にして、自分は成立している。それは感傷的というより、やっと事実に目を向け、質量を知り己の無知を確認するという類のものである。画素数や解像度では伝えられないことを、これまでも今も周囲の人たちはヒゲの総帥に伝えてくれている。


悔いなく。


ヒゲの総帥を突き動かしているのは何であろうか、もちろん自分自身ではあるのだが、それだけではない気がする。


以前、ヒゲの総帥が「どこからどこまで切り刻んだら、あなたじゃなくなるのか。つまり、どの部分がなくなればそれはあなたじゃなくなるのか」と妙な質問をしたとき、ゲームセンス・ゼロの女ことアシムがいっていた、「心っすよ」だったか「魂っすよ」だったかという回答は、そういうことなのだろうか。


演奏が終わる。ヒゲの総帥はさっさとフクビキへ行き、店の外を完全占拠している仲間たちと大いにわめき散らしながら酒を飲みだす。


いよいよ「北濱派」を作るのだと。この男はいろいろと支離滅裂であり、突飛なことを言いだすものだから、真剣に受け取っていいのかどうだかいつも人を惑わせる。


ところが本人に至っては、久しぶりに至極まともなことを言ったと平然としている。アラタメ堂のご主人は唐突に脱ぎだす。カラカラと笑う忌部の会社はこの後、また大変なこととなる。


みなさま、ご来廊ありがとうございました。


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by amori-siberiana | 2018-09-20 19:35 | 雑記 | Comments(0)

ステージ上へ最初にやってきたのは、傍目にはシラフではないように思えるリラックスしきったスティーブ・ガッドであった。グレーのTシャツにジーンズ、両腕には彼の象徴でもある刺青。居酒屋の暖簾でもくぐったかのような佇まい、長年にわたり史上最高のドラム奏者として世界を熱狂の渦に巻き込む男はこうしてヒゲの総帥の地元の舞台に立ったのだ。


「名人じゃないな、これはまさに達人の域だ」と率直な感想を持ったヒゲの総帥。


オーラなどない、威圧感もない、気配もない。禅師である白隠が山中で白幽子なる男と出会ったときはこういう感じではなかっただろうかと感じる。もちろんヒゲの総帥を白隠に喩えているのではない、故事に頼り喩えるより表現のしようがないのである。


ヒゲの総帥の母親は自分より年齢が上のジャズドラマーということを知り、一体どんな演奏をするのだろうか、30分くらいずつで休憩を挟むのではないのかと勘繰っていたが、その懸念は見事に打ち砕かれた。


スティーブがクリック(メトロノームと同意)をイヤホンで聴く、そしてイヤホンを外し、静かにスティックを叩き「ワン、トゥー、スリー、フォー」と言葉すら発してカウントを作る。その瞬間、静寂のなかに何か「気」のようなものが生じる。その「気」は周囲の音楽家たちに伝達され、音楽が作られていく。こんな経験はヒゲの総帥にとって前代未聞であった、カウントを奏でることができるのだと衝撃であった。


スティーブ翁は必要とあらば、4拍の曲でもカウントを8拍や16拍で平気にとる。しかしながら、その数秒のカウントで骨格をすべて作りあげてしまうのだ、これを芸術というのであるならば、自分と芸術との距離は永遠に埋まらないのではと感じるほど素敵だった。これほど官能的に滑り出してくる音楽をこれまで聴いたことがあっただろうか、絹の手触りを初めて体験するかのような入り、その表現に一切の無駄はない。ないのだ。恐ろしい男がいたものだ、怖い。こんなに怖いのに笑いと拍手しか出て来ず、ヒゲの総帥と母親の心は完全にこの男が彫刻するリズムに陶酔を極めている。


生まれてこのかた、一度も無駄口を叩かずにユーモア満点のジョークを語る農家を営む神学者のようであった。


この日、会場に集まった田舎者たち。ジャズライブに慣れた少数の人たちがジャズでのオーディエンス側の段取りをしたりするのだが、ほぼ圧倒的に多数の人間がそういう聴き方がわからない。スティーブが語る英語のMCもよく解らない、ところがどうした、会場の静かなる狂熱たるやふつふつと温度や湿度となって会場内部の雰囲気を変容させていくではないか。


本編最後の曲が終わる。スティーブが語る「俺たちは今日でツアーを終える、帰国するにも外へ出るには荷物が重たいので、物販を全部買っていってくれ」と。


これでコンサートも終わりかというとき、客の白髪のおっさんが暴れ出す。「もっと演奏してくれ」とダダをこねる、英語が喋れない人間がなんとか自分の気持ちをわかって欲しいという、その様はまるで赤子のようであり、感動する。その白髪のおっさんのジタバタを契機として場内は感情のプラグに火がつく。「もっと演奏してくれ」とそこいら中から叫び声や口笛がなる、スティーブはとても人間らしく愛くるしい顔で客席の静かなる訴求を見る。


「わかった」と笑いながらステージ裏に引き込むこともせず、他のプレイヤーたちにカウントを供給する。陽気な曲、そしてどこかしら田舎くさい曲であった。その曲のチョイスはとてもこの会場を幸福に満たすにベストな選曲であった。


市町村合併で自治を失った三豊市の旧:詫間町が熱狂した。


ヒゲの総帥の田舎に神がやってきたのだ。


「こんなに退屈しないジャズを聴いたのは初めてだ、まるでジャッキー・チェンの酔拳を見てるようだった。しなやかな鞭のような体、完全なる脱力を感じさせたかと思えば、その脱力のままで人を殺せそうやな」とはヒゲの総帥の母の弁である。


中年のヒゲの生えた息子と、いつまでたっても楽をさせてもらえない母親にとって初めて行ったコンサートが今回のスティーブ・ガッドのバンドであった。母親はなんとか自身の息子をこのドラムの達人のサイン会に参加させ握手させようと試みるが、二人ともあいにく金の持ち合わせがなくCDを買えない。


まあ、仕方がない。と諦める。


「会場の近くにジャズバーでもあればいいんだけれど、港と海しかないな。飲みたいのに飲めない、いや、それよりも腹が減った」とヒゲの息子はいう。CDを買う金はないが、二人あわせて弁当代くらいは持っていたので、そのまま夜まで空いている弁当屋へ行き、弁当を二つと野菜炒めを買う。


夜中に会場近くの弁当屋に入る、「こうして二人で弁当屋に来るっていうのは何年ぶりだろうね」と母親がいう。「さて、何年ぶりだろうかね」と息子もぼんやりと問い返す。


「千代子が死んで、学校の友だちがたくさん家に来たとき、このお弁当を頼んでみんなに出した。全員この弁当やったきんな」という母親の手には、イカの揚げ物だけが飯の上に乗った弁当があった。


ヒゲの総帥と妹の別れは唐突だった。


最後に会ったとき、自分の容姿に悩み、一重まぶたに悩む千代子という名の薄幸な妹が、苦労のうえに安価なノリのようなものを買って二重まぶたにしていたのを、「偽善だ」といって兄のほうが妹の所業を鼻で笑ったのが最後の別れだった。


ヒゲの兄のほうは、そのときの後悔を20年ほど引きずって生きている。バカで愚かな自分の過ちを知るばかりである。20年のあいだ、一向に自分が許されることなどないのだ。


誰にだってあるのかも知れない、一度として許せないことをした自分の過ち。


それでも、空が晴れたり、星が綺麗だったり、夕焼けが猛烈だったり、素晴らしい芸術を目の当たりにすると、今日はよい日だったと感じられる。後悔して当然じゃないか、顔をあげて前を向けよ、お前はまだ歩くんだろう?。とカウントを聴く。


ジャズのリズムをありがとう、スティーブ・ガッドさん。


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by amori-siberiana | 2018-09-18 20:38 | 雑記 | Comments(0)

ヒゲの総帥はこれまで何度くらい泣いてきたのだろう。


泣き虫や泣き上戸というわけではないが、涙もろくないわけでもない。つまり、人として一通りの泣くという感情表現はしてきたのだ。そして、ヒゲの総帥はこれまでにどれだけの人が泣いているのを見てきただろうか。親、兄妹、家族、恋人、友人たち、知らない人、違う国の人、これから会うであろう人。


ヒゲの総帥はこれまで何度くらい人を泣かせてきただろう。


人を裏切ったこともあれば、ダマしたこともあるだろう、争いの渦中へ放り込んでは見放すことすらしてきた。熱狂させておいて、そのまま薄情にも消えたりした。


泣くという感情表現は様々である。嬉しくて涙が出ることもあれば、悔しくて涙が出ることもある、自分が自分以外の何者でもないことにふがいなさを感じて泣くこともあれば、人からの温情の厚さや愛情の深さに泣くこともある。心が震えると自然と涙がでる。


「僕は一体、なにがしたいのだろう」と考える。いつも考える、考えるよりは感じてみようとするのだけれど、感じることを考えてしまう。そういうとき涙は出ない。


涙というものは吹き出すとか、こぼれだすとか、込み上げるとか、溢れだすとか、そういうものであって欲しい。自由気ままに操作できないものであって欲しい。


先日、車を走らせながらシベリアンニュースペーパーのことについて思いを馳せた。ギターを修理した後、下呂温泉へ向かいながらだっただろうか。なんだか沢山の人が少しずつ、自分の幸運をヒゲの総帥に託してくれたような気がした。それぞれの人が数字にして幾ら運を持っているのか知りはしないけれど、大切なひとつを預けてくれ、集めて、こうしてまたシベリアンニュースペーパーが動き出すことに繋がったと感じた。


そう感じると自然、身体が震えてきた。


もちろん、シベリアンだけに限ったことではない。でも、今日はシベリアンにスポットを当てたいのだ。


どうして音楽をまたしようという気になったのか、自分でもわからないのだが。やっぱり好きなんだろう、音楽にどのような効能があるのかわからない。けれど、楽器を弾いて、メンバーと合わせてみて、お客さんに聴いてもらうということがたまらなく好きだ。好きで好きで狂いそうだ。音楽にはすべて詰め込んできた。


楽譜もよく読めない、ロック魂が何なのかだってわからない、音感だってあまりないほうだ。それでも音楽は「お前は要らん」とは言わなかった。出自だって良くもなく悪くもない。比較的に健康体であり、学歴はないけれど口は巧い。自分にはだらしなく他人にはひたすら厳しい面がある。親孝行をしたいけれど、親はヒゲの総帥が元気にやってるだけで既に孝行だと高望みをしない。それでも音楽は「お前は音楽する価値なし」と冷たいことは言わなかった。知恵を使えばお前でもなんとかなる、工夫すればお前でも音楽ができると可能性を与えてくれた。


毎日を退屈しながら生きないようにだけ努力している。孤独にならないようにだけ努力している。


本当に面倒な男だ。信心もない。


このような面倒な男とまた一緒にやろうと駆けつけてメンバーに関しては、感謝を通り越して良い奴らすぎてイライラしてくる。こんなメンバーは鐘と太鼓を叩いたところで集まってくれるような人たちではない。それに、このようなバンドのことを好いてくれる人たちについては、一体どうして欲しいのだと一人一人にとことん詰問してやりたい。そうなるとお前こそどうしたいのだと質問返しされ、禅問答のようになりそうだが、それもよい。答えを導くことよりも問うことのほうが重要だ。


迷うなら一緒に迷う、泣くなら一緒に泣く、笑うなら一緒に笑うほうが遥かによい。


北浜やコロマンサやリンクスに関わる前、関わってからの一年。加藤登紀子の歌ではないがその全てが無駄ではなかったと確信がある。心底そう感じる。


ヒゲの総帥はシベリアンニュースペーパーをただのバンドではなく、もうひとつ大きな枠にするつもりだ。それを何というのかは各人に任せる。ひとつの有機体であり、興味深い化合物である。


せっかく新聞みたいな名前があるのだから、文芸だけではつまらない。なんでもかんでも載っている記事のほうが愉快であろう。近いうちにシベリアンニュースペーパーの今後の展望についてはお伝えするつもりだ。


人として至らず、音楽人として至らず、経営者として至らず。不惑を迎えて惑星のようにふらふらする。ただ、友人だけには非常に恵まれている。自分がわからなくて当然である、いつも他人が自分を磨いてくれる。とにかく目の前のことを必死に考えて打ち込んでいれば、必ず他人が助けてくれた。


ヒゲの総帥にできることは、打ち込むことだけである。そこに意味を求めることは自分の気持ち次第でどうにでもなるので、やめる。


どうか、また力を貸していただきたい。これからしようとすることには、沢山の人からの協力が必要である。そんじょそこいらで行われるような何かをしたいというのではない、大事をするのだ。


そしてその前にこのシベリアンニュースペーパーなる音楽家の集まりが大言壮語するに相応しいものかどうか、聴きに来ていただきたい。その耳で入念に精査していただきたい。




ヒゲの総帥、これより討って出る。自分がどこまでやれるのか試してみるのだ、仲間たち、みんなで何ができるのか、その可能性に賭けてみるのだ。




ありがとう。



以上



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by amori-siberiana | 2018-09-14 09:12 | 雑記 | Comments(0)

ヒゲの総帥はアコースティックギターを二本ほど持っている。その二本ともが「ヤイリ」という会社の国産製品である。一本はいただきもので、もう一本はヤイリ社からの預かりものなのだそうだ。


ヒゲの総帥は来るべき日に備えてギターの調整を思い立ち、久しぶりに彼の持つギターを生まれた故郷に戻らせることにした。そこに行くと良い空気がありギターが本来の活気を取り戻すという類の感傷的なことではなく、腕の確かなギター職人たちがせっせとギターを作ったり修理をしたりしているのである。そこはギターが生まれるホワイトホールである。


岐阜県可児市にある「ヤイリギター」の工房へ到着する。



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ヒゲの総帥のギターを待ち構えていたのは、ドクター佐々木である。以前、ここに来たのは6年ほど前であったであろうか、コロマンサでの一年という厳しい環境のなかでギターも随分と疲れているのだ。いや、コロマンサでの一年など取るに足らないものかも知れない。


到着早々、ヒゲの総帥は何故か「すいません、すいません」を繰り返して広い工房内を順繰りに低身低頭してまわる。まるでDVをしてしまった我が子供を病院に連れてきたような感じであり、他人がみるとどうにも誤解しそうな態度であり、これはこれで滑稽である。


事前に症状はメールにてヤイリくん(マスコット)を介してドクター佐々木に伝えていたので、既に手術のスタンバイはできている模様である。


ドクター佐々木はギターをケースのまま受けとり、颯爽と医院の奥へ向かう。相変わらずヒゲの総帥は「すいません、すいません」を周囲の職人たちに繰り返す。アイデアがないときのウルグアイのレコバみたいである。ドクターは回廊を歩き、階段を上りながらヒゲにいう。救急病院の病棟を歩くような感じである。



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「阿守さん、シベリアン、どんな感じでやられるおつもりなんですか」


「すいません、グラミー賞を取りに行きます。すいません」とヒゲの総帥は能無しの回答をする。


ドクターはニヤリとしながら「いいですね、それじゃ、全力でサポートしますよ」と歩きながら返答する。


工房の奥に到着するまでいったいどれほどのギターがあっただろうか、ギターと木材の狭間を行き交っているものも含めると相当な数であった。工房には心地の良い工作の音がきこえる、木を削る音、乾燥させる匂い。奥で待ち構えていたのは、マエストロ松尾である。


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この一見、ものすごくパチンコや麻雀に精通してそうな年配の男がヒゲの総帥のギターをケースから取りだす。ドクター佐々木が病状を的確に伝える、よくわからない専門用語が出てきて、ヒゲの総帥は何もわからずにそうだそうだと議会に参加した新人の国会議員のように頷く。あたかも自分に主義主張があるようにだ。


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「お時間はどれほどあります?」とマエストロがヒゲの総帥をみる、「はい、一日何も予定を入れておりませんので、時間に関してはまったく問題ありません。すいません」と答えるヒゲのギター弾きらしき男。マエストロの机の横の電話がひっきりなしになる、工房にアナウンスが響く。「松尾さん、松尾さん、1番にお電話です」という具合だ。説明はなくとも全国のヤイリギター・ユーザーからの問い合わせであることはわかる。


「阿守さんさえよければ、このギターはピックアップ(音を電気信号で増幅する機械)が欠損しているので、新たにそれを埋め込みましょう。このギターが出来たときに付けられていた当時のピックアップは残念ながらもう入手不可能なので、新しいものになりますが、それでよろしいですか?」


「はい、ありがとうございます」


「演奏においてパッシブとアクティブのどちらかじゃないといけないというのがありますか?」


パッシブとアクティブの意味がわからないヒゲの総帥は取りあえずバカのひとつ覚えのように「そうですね、すみません、お願いします」を繰り返す。


手術の邪魔になるのでヒゲの総帥はさっさと待合室へ引っ込む。待合室にはこれまでのヤイリの歴史が詰まったギターがずらりと並べられ、そのほとんどが試奏可能なのだ。ヒゲの総帥は面構えのいいギターを取っては弾いて、置いては取って弾いてする。


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小一時間ほどすると、ドクター佐々木がヒゲの総帥を呼びにくる。もう手術は終わったそうである、なんとも早い。


ヒゲの総帥は手術を終えたギターを見て驚く、ピックアップが当時のままに復活しているのだから当然である。


「もうないと思ってたけれどヤイリの倉庫にラストのひとつがありましたので、それをつけておきました。もうありませんよ、これが最後です」と笑いながらマエストロ松尾はいう。ヒゲの総帥は鳥肌がたつ。自分も誰かに対してこうでありたいと思う。


「ボディの陥没している部分は埋めておきました、あと指版もすり合わせをしておきました。その他、ボディの壮絶な傷ですが、それはそのままにしておきました」とマエストロはいう。ドクター佐々木が話しを引き継ぐ「わざわざボディに傷をつけて、それっぽくしてる人とか多いのですが、そういうのは格好をつけたなってすぐにわかります。けれど、阿守さんのギターの傷は弾き続けないとつかないものです。それは本当に格好いいものです」。


マエストロは笑いながら「みんな、その傷を欲しがってるんですよ」という。ヒゲの総帥は恐縮に恐縮を極めて、もう心身が喪失状態になっている。元来、権威主義を振りかざすものに対しての反発は苛烈なものを持つこのヒゲ男だが、職人にはほとほと弱い。何もかもを見透かされてる気になるのだ。


「ちょっと弾いてみてください」といわれて、ヒゲの総帥はギターを弾く。マエストロとドクターは何やらニヤニヤする。


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「阿守さんのギターの傷のつき方が普通の人と全然違うので、どういう弾き方をしたらこうなるのかなって修理しながら松尾さんと話してたんですよ。今、弾いてもらってるのを見させてもらって、ああ、そういうことだったのかと納得しました」とはドクター佐々木の言葉である。


もちろん、ヒゲ自身はなんのこっちゃ納得の根拠がわからない。が、ギターは活き活きとしている。木が人間の創意工夫によって歪められ、切られ、貼られ、そして絶妙なる音を響かせる。ここに至るまでどれほどの知恵があったのだろうかと思いを馳せる。


ヒゲの総帥は職人たちと社長さんに礼を述べて、工房を後にする。


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手前味噌のようであるが、心底、自分がヤイリギターのユーザーで良かったと感じる。Wi-Fi探しの無益な旅やアップデートと更新プログラムのインストールに明け暮れる世の中から救い出されたような気になり、ホッとする。


今、ヒゲの総帥のギターは最強である。人の目と技術、そして経験に培われたセンスと勘によって命を取り戻したのだ。


さて、次はおっさん自身のアップデートだとヒゲの総帥は車のナビに「下呂温泉」と打ち込むのであった。


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by amori-siberiana | 2018-09-10 23:48 | 雑記 | Comments(0)

「今日も皆さんから学ばさせていただきました!」


「なるほど・・・、いや、勉強になります!」


「今、僕は・・・完全に迷っています!」


これらの言葉はディエゴ語録のほんの一端である。桜川にあるバー「ビッチ」のカウンターに集うのはヒゲの総帥とチンピラの男、そして全身黒ずくめの冷泉と靴マイスターの男が並ぶ。このうち三人は人斬りであり、最後の一人は詐欺師である。そんな渦中に放り込まれているのが、今日の主役のディエゴ君である。


ディエゴ君はこの度、満を持して起業することとなった。その名も『108』というものだ。108という数字は人間の煩悩の数だといわれている、ディエゴ君の会社の企業理念は「我欲」である。自分の欲望の全てを叶えるためのキッカケとなる会社であり、贅に贅を尽くしたあと謀殺された三国志でいうところの董卓、ゲテモノ趣味と残忍さによって人々の憎悪の記憶としてその名を残したローマ皇帝カリグラのような世界観を目指すというものであった。


となれば、話しも随分と面白いのかも知れないが、残念ながら健全そのものといって然るべき会社である。


「どんな会社なんですか?」とビッチの女店長が尋ねる。


「それはですね・・・」と、ボケなくていいところでボケ切ろうとするが、遺憾ながら念願のボケが頭に浮かばず、場に変な沈黙をもたらすディエゴ。その中途半端さを鋭い眼光で指摘する靴マイスターの男。その珍妙な光景をニヤニヤしながら見るヒゲの総帥。


ディエゴは人の話しの相槌をうつとき、「へえ」とか「ふうん」とか「なるほど」というのがクセなのだが、前者の二つに関してはチンピラの男に「お前、次、へえとかふうんとか言うたら、ほんまに殴るぞ。これ冗談やと思うなよ」と釘を刺される。あの上腕二頭筋から繰り出される鉄拳をまともに受けたら、ディエゴの顔がキン肉マンに出てくるブラックホールのようになるであろう。


冷泉はこういう話しに乗ってこない。というよりこの日は体調が優れないヒゲの総帥を慮ってか、総帥に注がれるマッカランのストレートをすべて黒ずくめの男が飲み干してくれるので、すでに泥酔してフラフラしている。「僕、帰りたい・・・、帰りたい」と何度も訴えるのだが、ことごとくをチンピラの男に握りつぶされる。


酒量が増えてくるとどうしても塩気が欲しくなるもので、ヒゲの総帥はフライドポテトを注文して靴マイスターの男と分ける。


誰からか忘れたが、ディエゴに向けてどうして起業したのかと問う。ディエゴはこれまで何度も言ってきたであろう起業した理由の口上を皆に伝える。ビッチのドアが開く、するとジローが現れる、ヒゲの総帥はカウンターに着座したばかりのジローから葉巻を受けとりプカプカとふかしだす。チンピラの男も葉巻を吸いだす。


先日、ジローからその美味さを教えてもらった「パルタガス」なる銘柄のシガーをバイオリン弾きにすすめたところ、「あっ、これは優しくて良いですね」と終始ご満悦であった。他人が経験によって備えた知識を安易に共感同調して共有することは、生きていくうえでの愉しみの一つである。第一、その方が楽でよい。誰かが苦心して導き出した考えをそのまま享受することが阻まれる世の中になるとすれば、まず本屋が潰れるであろう。つまり、本というのはその程度のものなのである。本を読め、本を読めといわれるが、実際のところこの世に読んで然るべき本を見い出すことのほうが骨折りとなるのだが、運良くそういった本に巡り合った者は、得てして幸福なのであろう。


さて、ディエゴの起業に至った理由であるが、一般的で健康的にて健全であるため、つまり猛烈につまらないため書かない。ビリー・エリオットはロンドンのロイヤルバレエ学校入学への面接において、並ぶお偉方の面接官から「なぜバレエに興味を持ったか、聞かせてもらえるかね?」と訊かれて「さぁ・・・」と答えた。さらに「バレエのどこかに、何か特別な惹かれる部分が?」と訊かれても「さぁ・・・」と答えた。


なんという模範的で魅力的な人間らしい回答であろうか。彼はその面接のまえにタブーである暴力事件を起こしているにも関わらず、居直らずに純朴で自然体なのだ。


相手からの質問に上手に答えることのみが是とされる時代は終わった。要するに聞き飽きたのだ、「~をするのに、絶対やってはいけない(またはやっておきたい)10のこと」のようなコピーのネットでよく見る、雨後のタケノコのような今どきの潮流に乗ってしまえば、自分の船は結局のところ誰が先導するのかわからなくなる。


「僕、阿守さんの言葉で忘れられないのがあるんです。成功者のいうことを聞くなというものです、聞いても無駄だと。どうせなら失敗のほうを聞けとおっしゃってましたよね?」とディエゴはいう。


「無論だ、成功者のバカ話しなど聞いても気色悪いだけだ。大体のところそういう輩は後輩などに持論を話したくて話したくてウズウズしてるだろう、それに比べれば失敗談のほうが酒の肴になって健全だ」とヒゲの総帥はぶっきらぼうに極端なことをいう。


「俺は失敗談すら不要だと思うね」と横から靴マイスターの男。チンピラの男にいたっては「先輩なんてのは、全員殺してしまえ。世の為に早めに死ねと俺は自分の父親にすら言っている」とさらに過激なことをニタニタしていう。


ディエゴは苦笑しながら「阿守さんにとっての一番どん底のときがどういうときだったのか僕に教えてくれませんか?」とヒゲの総帥に問う。


「一番どん底か?そりゃ今だよ」と平然としてヒゲの総帥は答える。


「えっ?」という顔をするディエゴ。


「だって、酒の席で隣にいるのがお前(ディエゴ)なんだから、どん底以外のなんでもないだろう。だから今だ。延々と続くのが今だ」とケラケラ笑ってポテトをついばむヒゲの男。ディエゴは、やられたという顔をする。チンピラの男と靴マイスターの男は笑う、冷泉はいつしか帰っている。とっくに日付は変わっている頃合いである。


「阿守さん、俺ね、コイツ(ディエゴ)とサーフィン行ったんっすよ」と話し出したのはチンピラの男。聞けばチンピラの男に縁故ある高知の地にて、ディエゴも誘われてサーフィン合宿のようなものをしたのだそうだ。


「コイツ、サーフィンが好きでしょ?俺もサーフィンを多少やるんで、一緒に海に行ったんっすよ。普段、コイツのことジムとかでシバキまわってる俺なんですけどね、コイツがどんな顔して一番好きなサーフィンに乗ってるんか見たいと思ったんですよ。俺はコイツほどサーフィンが上手やないから、一所懸命ボードに乗ってコイツのおる沖のほうまで行ってね」とチンピラが話しをする、一同はうんうんと頷きながら次の話しを待つ。


「そしたら、コイツね・・・、めちゃくちゃ嬉しそうな顔して、波に乗っとるんですよ。ほんまに嬉しそうな顔してね・・・」と話してくれる。「ああ・・・、コイツ、これがしたかったんやなって・・・」とチンピラの男の目には涙が浮かぶ。


ヒゲの総帥は風と海原にてカーテンのように連なる波を想像する。そこに一人の青年が笑顔で延々と波に乗っては、浜へ押し返され、また沖まで行って波に乗っては浜へ押し返されをしている光景を思い浮かべる。焼け付く太陽の日差しに負けず劣らずのディエゴの屈託のない笑顔を思い浮かべる。生を与えられたものが、それを一身に充実している姿を思い描く。いつしか自然とヒゲの総帥の目にも涙が浮かぶ。


涙を拭いてヒゲの総帥はディエゴに訊く。


「ディエゴよ、お前はサーフィンしているとき何を相手にしているのだ」


ディエゴは「それはつまり・・・、えっ?どういうことですか」と歯切れが悪い。


「言葉のままだ、お前はサーフィンしているとき何を相手にしているのだ」と同じ質問をディエゴにする。


「それはですね、自分です!」と得意げな顔で考えに考えて観念的に返答するディエゴ。非常につまらない回答でヒゲとチンピラの涙もすっかり枯れる。


「お前、そんなんではモテんだろう?」とヒゲの総帥は苦笑する。


「はい!まったく、モテません!」とディエゴ君、今日において最高の返答がやってくる。


そこからビッチの女店長とジローの隣に座っていたクラブのお姉さんから、「人たらし」になれと言われ、人との話し方のノウハウ指南を受けるディエゴであった。


靴マイスターの男はディエゴに「ナパームデス」を聴いておけとだけ言っていた。



面接官:もう一つ教えて。踊っているときは、どんな気持ちがするの?


ビリー:・・・はじめは緊張するけど、踊りだすと、何もかも忘れます。そして、何かが変わるんです。体の奥に炎が点いたように。・・・飛ぶんです、鳥のように。・・・鳥のように、電気のように。


そう、電気のように


映画「リトルダンサー」より


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by amori-siberiana | 2018-09-06 00:02 | 雑記 | Comments(0)

役所に行くと大量の書類がヒゲの総帥のデスク周辺に積まれていた。世の中の流れに準じる仕事なのであろうから、大量の書類が提出されてくればそれに集中するしかないのである。「このペーパーレスが推進されてる時代にコレですか?」とヒゲの総帥は上司に向かって苦笑する、上司も「ほんまになぁ」と呆れ顔をする。ヒゲの総帥には二人の女上司がいるが、この呆れ顔をしたのは怖いほうの上司である。


山のような書類の不備をチェックし、そしてパソコンに入力していく。そして最後にサインする。ヒゲの総帥は役所では「936」という番号でのみ、その存在と仕事を証明する。


「ご来庁中のみなさま、ご用件はお済みになりましたか・・・」


いつもの終業を知らせるアナウンスが館内に流れる、さっさとサーキュレーターのスイッチを切り、パソコンを落として、そのまま退庁。北濱のオフィス『ザ・ジンクス』へ向かう。今日は金曜日なので、そこいら中に老若男女の会社員がウロウロと次の行き場へ向かっている。


ジンクスに到着すると、株式会社ソウデヤンスのダダヤマが「あ、お久しぶりっす」とヒゲのところへ挨拶にやってくる。「お前、例のものは持ってきたか」とヒゲはダダヤマに尋ねる、ダダヤマは「すいません、家に置いてあります」と答える。ヒゲの総帥が取りに戻れというまえに、そういわれることを察したかダダヤマは「これからすぐ出ないといけないんです」と言葉を継ぐ。


「どうせ、信長会だろう」とヒゲの総帥がいうと、「いやいやいや、なんで当てんねん。そうなんですけど・・・」とダダヤマは苦笑する。「お前もよっぽどマゾだな」とヒゲの総帥はパソコンを開きながらいい、ダダヤマはジンクスを出ていく。曖昧模糊としたビジネスの価値と人生の価値の折衷において、わかりやすく地平線を描き込んでくれる研鑽相手がいるということは、彼の精神の均衡を保つのに信長会は多大な寄与をしているのであろう。


しばらくするとジンクスの受付嬢がヒゲの総帥に来客があると知らせにきてくれる。応接テーブルに座っていたのは吟遊詩人の女ことアルセアさん、ヒゲの総帥と何やらデザインのことで打ち合わせをするのだという。今日はジンクスの受付は女性が三人おりやかましく、「こいつら気分で仕事しとるな・・・」とヒゲの男は苦笑して、吟遊詩人の女と外で打ち合わせをすることにした。


北濱にあるケーキ屋「多感」のチョコレート専門店へ向かう。ヒゲの総帥はアルセアの要望を聞きながら、それならばこれがよかろうとケーキをメニューから選ぶ。メニューには写真が載せられていないので、字面だけではよくわからないのであるが、ヒゲの総帥は不動産デザイナーの忌部とここの店のケーキ類は全種食べきったであろうから、よく承知しているのだそうだ。


「ピアノ工房の軍人がアルセアさんに10日間で仕上げてくれと要請したから、もうあと一週間もあれば、完成させるだろうとメールで言ってたぜ」とチョコとオレンジが合算されたケーキを食べながらヒゲがいう。「なるほど、すでに三日は引かれてるってことですね」とニヤニヤしながら吟遊詩人はパルファンと名付けられたケーキを食べる。


打ち合わせを終えて、ヒゲはジンクスへ戻り、またパソコンを叩きだす。そしてまたすぐにジンクスを出てギャラリー遊気Qへ向かい、シベリアンなんちゃらが出演するルシタニア音楽祭のチラシをギャラリーのオーナーから受けとり、足早に南堀江スレイブへ向かうことになる。


この南堀江スレイブというのはライブハウスと呼ばれる施設であり、創設者は豚王タッキーである。今もタッキーがどの程度ほど関わっているのかはわからないが、以前には長いあいだここがシベリアンなんちゃらのベースキャンプであったことは確かだ。タッキー、アホジャ社長、テリー、浩司ばい、無職のときのタカハシン・コルテス、とにかく早いシミズ。隣のスタジオ経営の夫婦に隣の楽器商人の男、ヤバイくらい(!)守銭奴のビルオーナーの爺さんなどタレント性はいつだって豊富だった。


今の店長のウレハラという男は今でもヒゲの総帥のことをミュージシャンと見てくれているようで、チラシを置かせて欲しいとお願いするとすぐさま快諾してくれた。今日の出演はEテレでお馴染みの「スリテツ」と縄文土器大使の男がチェロを弾き、カメラ屋の息子がギターを弾くデュオ「ドロイド」の豪華共演である。


スリテツの二人はヒゲの総帥にとっての先輩であり、何年か前には全国ツアーを一緒にさせてもらった。当時、酒を飲まず先輩と打ち解けることもしなかったヒゲの総帥だが、この男もようやっと大人の階段をのぼったのかも知れない。今では人並みに付き合いをすすんでするようになった。酒も少しばかり嗜むようにもなった。


ドロイドとヒゲの総帥については、去年の夏にドロイド側からヒゲへゲスト出演を依頼してもらい、出演したはいいが連日連夜の過酷な演奏と壮絶なるアルコールによってまともにギターを演奏できなかったという苦々しい思い出がある。当日のライブを見た知人たちから、ことあるごとに「夏の課題(その日、演奏につまづいた曲)はできるようになりましたか?」と笑いながら揶揄されたものだ。


つまりヒゲの総帥にとって縁故ある人たちのコンサートなのである、チラシを散布する効果は絶大であろう。ヒゲの総帥はたんまりとチラシを持ってきている。


到着するとすでに演奏は始まっており、小説家の平尾先生も登壇しており、なにやら太鼓を曲の調子に合わせてポコポコ叩いている。ヒゲの総帥がウレハラ店長に案内された席、隣を見ると裁判官の女がいる。いきなり審問会の椅子に座らせるとは、なかなか粋な計らいではないか。


ヒゲは生ビールをあおる、いつの間に生ビールが出るようになったのか。すぐ一杯目はコップから胃へと移されるので、席を立ってビールを汲みに行く。そしてまた審判を待つ椅子に座る。また立ってビールを汲みに行く、これを何往復かしていると気持ち良くなってきた。そしていつしかチラシのことなどすっかり忘れて、ただの客になっていた。


終演後、お客さんが席を立ち帰路へつこうとする。スリテツのマネージャーさんが、「阿守さん!チラシ!チラシどこにあるの?」と声を掛けてくれる。ビール片手でご陽気に客席で目が合う人たちとハイタッチするだけのヤバい人になっていたヒゲの男は、ハッと我に返りそそくさとチラシを配ろうとするが、ビールが手にある。手がもう一本ないものかと探すがどうにも探しきらないので、チラシを小説家先生に渡して、やっぱりまたハイタッチを繰り返す。平尾先生はせっせとチラシを配る。


そのままスリテツとドロイドのお客さんを連れて「近くに素晴らしいコーヒーを出す店があるから、みんなで潰しに行こう」と号令をあげ、キリギリスの店へ行く。そんなに人が入れるのかわからないが、行ったら行ったでどうにかなるだろうと列になり歩き出す。


運よくキリギリスは空いており、来訪者たちに椅子が行きわたるが、誰もコーヒーなど注文せず酒を飲みだす。ヒゲの総帥も御朱印の女や青いカーデガンの女、醤油売りの女と束になり赤ワインのボトルをやっつけにかかる。他の連中は連中で違うテーブルでなにやらワイワイしていて、楽しそうである。


いつもの赤ワイン「アフィラント」を空っぽにして、ヒゲの総帥は醤油売りの女に時間を聞くと23時くらいだといわれて驚く。この男のなかではまだ21時くらいのつもりであったが、時の過ぎることのなんたる拙速なことかと憂い、コロ冷泉へ参陣しなくては義理と申し訳が立たんと柄にもないことを口走って一人店から討って出る。


北濱の駅に到着すると、ミドリの女とすれ違い「阿守さん、コロマンサにいつ来るんやろうってみんな言ってましたよ」と教えてもらう。店に到着するとすでにガヤガヤと喧噪の宴が開催されており、冷泉店長、無法松先輩、チンピラの男、ジロー、カラカラ笑う忌部、平尾先生、アラタメ堂のご主人にゲームセンス・ゼロの女、ブルーグラスの男、北濱最強のクモン提督、麻雀の女、絵描きの女、金融コード0001の男と後輩、外資系生命保険の女、まどか☆マギカのマギカ抜き、ファラオ、副社長の社長の男の側近らしき人たちと勢ぞろいである。


よくぞこれだけバカ野郎が集まったもんだと感心していると、注文もしていないのにウイスキーのショットや冷泉おすすめの不思議なカクテルが勝手にヒゲの総帥の目の前に置かれる。「こんなものはこうしてやるのだ」と総帥はグイと飲み干し、クモン提督のギター伴奏にのってチンピラの男と一緒にレディオヘッドのクリープ(Creep)を絶唱する。




たとえそばにいなくても知ってほしい
君は最高に特別だ
僕もそうなら良かったのに


でも僕はウジ虫だ
気持ち悪い奴なんだ
ここで一体何をしているんだろう
ここは僕の居場所じゃないのに


彼女がまた走り去っていく
彼女が走り去っていく


走り去る、走り去る、走り去るんだ・・・




ヒゲの総帥とチンピラの男とクモン提督は「ヤーマン」という謎の掛け声でハイタッチをする。今日はゲームセンス・ゼロの女ことアシムの誕生日だということで、ケーキが出現する。店内の照明は厳粛なミサのように暗く落とされ、アシムが三本のロウソクに灯った炎をフゥーと吹き消そうとするが、肺活量がないので消えない。場は笑いで盛り上がる。本人は気がついていないだろうが、そういうセンスは十分にあるようである。


「みなさん、そろそろ」と冷泉店長は我々に帰れと促す。


ヒゲの総帥は冷泉に「ごちそうさま」と礼をいいながらヨタヨタと階段を下りる。まだバカ野郎たちは飲み足りないようなので、忌部の会社に攻め入り落城させるのだと息巻いて列をなして歩き出す。コロマンサから忌部の会社への道中、ピンク&ガンが目に入ったのだが、小説家の平尾先生から「いかんもんが出て来たな、阿守よ、見んかったことにしとけ」と立ち止まることを許されず、そのまま道を真っすぐに進む。


道路は愛想もなく、礼儀もなく、ただただラインと数字が刻印されて続いている。これがルールだ、それ以外はないぞと脅迫的で挑戦的に我々を封じ込めようとする。


忌部の会社に到着する。船場ビルディングで酒盛りが開催される、おもむろに絵描きの女から質問される、「あなたにとって一番幸せなときってどんなことですか」と。


ヒゲの総帥は「好きな人といるときだ、好きな人の肌に触れているとき以外にない」と答える。


その瞬間、ヒゲの総帥は気づいた。


もしかして、自分は失恋してるのではないかと。


今朝のテレビの天気予報では土曜日は大雨になるだろうといっていた。総帥がエリザベス女王と同じものなのだと滑稽な自慢をしながら、ステレオタイプにも持っているフルトン社の傘も、今ではボロボロである。



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by amori-siberiana | 2018-09-02 02:19 | 雑記 | Comments(0)

黒ずくめでパンチパーマの男ことハイタッチ冷泉から連絡があり、ヒゲの総帥のクントコロマンサお疲れ様会をしようと誘いがあった。


クントコロマンサを版画家の万作と共同経営して一年、あとは好き勝手にやってくれと店に行かなくなったヒゲの総帥であるが、思えば友人に恵まれた一年であった。この一年の可能性に溢れた日々をこれからは発展させていきたいものである。エイリアンからは「(撤退が)思ったより早かったな!!ハハン!笑」と言われたのだが。


ヒゲの総帥が招かれたのはクントコロマンサからほど近い「さいころ」という店であり、ショウガベースで味付けした鍋が店の看板メニューであるが、大体何を頼んでも美味しいとの噂の店だ。到着すると冷泉とインテリアデザイナーの男、そして少し遅れて不思議な女が食卓に集った。不思議な女と会うのも久しぶりである。


冷泉は話し出す。


「阿守さん、僕、月に何回かですけど、コロマンサで店長しようと思ってるんです」という。インテリアデザイナーの男はホゥという顔をして、不思議な女はクククと笑う。


ヒゲの男はその言葉を聞いてから「冷泉からその話しがあると思ってました、是非とも応援させていただきます」と答える。


そして日にちが過ぎ、いよいよ第一回目の冷泉がコロマンサの臨時店長となる日がやってくる。ヒゲの総帥は自身のイベント「アモリがひとり」なるギター演奏会のあと、みんなと一緒に久々のコロマンサへやってくる。すでに世界の果て会計の無法松先輩、副社長の社長の男、ジローやアハハの女たちや海外里親の男が集っており賑やかにやっている。


青いカーデガンの女とギタレレの女がカウンターに座っていたその後、この日、ヒゲの総帥のギター演奏を見にわざわざ小牧から来てくれた男と、演奏中は団扇で仰いでくれるグアルネリ君とヒゲの総帥はカウンターに居座りチビチビ飲む。デタラメ堂のご主人は無法松先輩や副社長とギャハハとよくわからない話しをしている。


ファラオは奥の間を陣取っている、星師匠、社会主義の国ばかりに行く女、アリス、大学生の女、醤油売りの女たち、そしてアハハの魔女を相手にゲームをすすめる。すすめているのか、暇だから酒の余興になんかしろと女たちに脅迫されゲームを提供させられているのかは判然としない。とにかく女に囲まれたファラオはよく似合う。王であるのに王に見えず小間使いか下男に見えてしまうのだが、それはファラオの柔和な人柄の妙であろう。


冷泉店長は驚くほど真面目に仕事をする。冷泉が店にいる安心感というのは一体なにであろうか、この男がいるだけでおもしろければ店を爆破すらしてもいいような気持ちになれる。たまに食事の注文が入ると呼び鈴がならされ万作が三階から下りてくる、そしてぶつぶつ言いながら料理の腕を振るう。その様子たるや租界地のようであり、ヒゲの総帥は笑う。タッキーから聞いているシンガポールという国のイメージもこれに近いものがあるのだが、まだかの地にヒゲの総帥は行かない。


そんな折、副社長が帰るという。奥の席に陣取る女どもは一斉に「ブログで噂の副社長の殿様のような笑い声を是非とも聞かせろ」とやかましい。ヒゲの総帥は「あちらのお席の人たちがあなたの笑い声を聞きたいとご所望です」と副社長にそのまま伝える、「僕の笑い声を聞かせろって!?それどういうことなんですか、笑。・・・っていうか笑ってもうたし!」と副社長は勝手に笑いだす。奥の席連中は要求が充たされたことによって悦に入る。


「阿守さん、なんか弾いてください」と副社長がいう。無理をいって笑ってもらったのだからギターを弾くことくらい朝飯前である。シベリアンなんちゃらの「世界を派手に連れ去って」という曲を弾く、副社長は静かに聞き入る、その隣の無法松先輩とシミキョウのおっさんも聞き入る。


ヒゲの総帥の背中側にいるアラタメ堂と奥の席の女連中はギャーギャーうるさい。とにかく今しゃべっておかなくては明日は来ないのだとばかりにゲラゲラ笑う、ギターを弾くヒゲの男は条理と不条理の狭間にいるような気がして、その光景を嬉しがる。いつぶりであろうか、コロマンサがこんなに魅力的だと思えるのは。


ここに集うひとりひとりのおしゃべりは、いろんな国の言葉が並んだタペストリーのようであり、それは楽器のようであり、オーケストラの連中が本番の前に控室で出す適当な音出しのようである。だから、期待がある。期待ほど人をワクワクさせることもない。料理の器は期待の最大公約数である。パチンコもスロットも結局のところ期待値を追うだけだと電気工事士の男も税務署の同僚でパチンカスのテッドもいっていた。


帰ると宣言した副社長であるが、いつの間にかそこから随分と飲むことになり、支離滅裂なことを口走りながら千鳥足でコロマンサの階段を下りていった。


冷泉、お疲れさま。


そして、明日の8月31日の夜。また、コロマンサでの冷泉店長に会える。


探偵ナイトスクープに「ハートスランプ二人ぼっち」があるように、コロ冷泉にだってテーマソングはある、多角経営をするギバタ社長の名曲「ココへおいでよ」をどうぞ。


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by amori-siberiana | 2018-08-30 21:32 | 雑記 | Comments(0)

眼鏡をかけた一人の女がテーブルに、そっとカードを置く。その女と向かい合うように座るのはバイオリン弾きの男とヒゲの総帥である。


「・・・これはどういう状況なんすか?」


その言葉を発したのはバイオリン弾きの男である。この男は何の説明もなしにここへ連れて来られたのである。ヒゲの総帥はどうなのかと言われれば、これまたよく解らないままここにいる。ここというのは北濱の青山ビルにあるギャラリー「遊気Q」のことで相違ない。二人の男の目の前にあるのはタロット・カードである。


以前、クントコロマンサの今後を占ってもらったとき、二人の男が真っ裸で握手をするカードが出てきて失笑したものだが、事実そんな感じになったのだからタロットも侮れない。ヒゲの総帥がこの珍妙な光景を写真で撮ろうとすると、「撮らなくてよいのです、カードが機嫌を損ねます」と毅然とした言葉で占い師に注意される。ヒゲの総帥はスマホをしまいこむ。


そもそも、バイオリンの弾きの男はピアノ工房の軍人、そして小説家の男の三人で朝から京都から大阪をなにやら動き回っていた。その後に役所で仕事を終えたヒゲと合流する予定であった。ヒゲもヒゲで北濱のオフィス「ジンクス」で彼らと合流する予定だったのだが、昼どきにギャラリーのオーナーから青山ビルへ顔を出すようにと連絡が入ったので、仕事のあとにまず向かう。


到着するや「阿守さん、タロットしてってくださいな」とギャラリーの女は勧めるのだが、ヒゲの総帥は「すいません、これからすぐ東京の知人と会いますので」とやんわり誘いを断ったつもりだが、「そんなことはいいんですよ」とタロットに参加させられることになる。タイミングよくバイオリン弾きと軍人と小説家の三人が北濱に到着したというので、占い師に少し暇をくれといい、三者を迎えに行く。


それからしばらくすると、この状況になる。


占い師とバイオリン弾きの男とヒゲの総帥である。


「緊張しますね、これなんなんでしょうかね」といいながらバイオリン弾きはカードを三つに分けて、そこからカードを混ぜては引いてをする。占い師の女はニコリともムスッともつかない顔をして、カードの行方を追っては考え込む。


「ゼロに戻らなくてはいけませんね」と占い師の女はいう。バイオリン弾きの男は「いやはや、まったくその通りです」と答える。ヒゲの総帥は隣でゼロになるとは?とキョトンとする。ギャラリーの向こう側で今来たであろう版画家の女の声がうっすらと聞こえる、ギャラリーの女は冷えた茶をカップに入れてタロットのテーブルまで持ってくる。


「次は僕がやる」


そう言ったのはヒゲの総帥であった。


「一度、カードを綺麗にしなくてはいけませんので、お待ちください」と占い師の女はいう。


「ああ、そうしてください。雄作の変な念を払い落してくださいな」とヒゲの総帥がいう。


「あなたね、そういうことを平気で言ってるようじゃあ、カードに嫌われちまいますよ、ねえ」とバイオリン弾きの男が江戸調子で反論する。占い師の女はこの二人のやりとりにニヤニヤする。


毅然とした顔を取り戻した占い師は、「カードに聞きたいことを心の中で思ってください」とヒゲにいう。ヒゲは坊主のようにひとつのことを延々と口に出さずに念じる。そしてバイオリン弾きの男がしたのと同じようにカードをこねくり回す。


占い師の女は地面のさらに下を見透かすような目をする。「それについて、イエスと出ています」といわれて、「やたっ!」とヒゲの総帥は陽気になる。「しかしながら・・・」と占い師の言葉はどうやら暗いところへ行きそうな雰囲気である。


「それをすることについては肯定的ですが、啓示がありません」と占い師はいう。


「啓示・・・」とヒゲの総帥とバイオリン弾きは顔を静かに見合わせる。すると急にバイオリン弾きは失笑しだす、「阿守さん!つまり、そういうことなんですよ。いやあ、コレなんっすか、いいっすねえ」と一人納得してうんうん頷いている。その背後で何やら気配を消しているのは小説家の男であった。通信機器を命にかかわる酸素ボンベのように肌身離さず持つこの男は以前よりちょっと痩せた気がする。


三人は占い師とギャラリーの女に礼をいい青山ビルを後にする。行き先は飲んでも飲んでも酔えないハイボールを低価格で出すことで北濱に貢献する「フクビキ」である。


到着すると宗教画のモデルの女がすでに友人たちと鍋を囲んでいた。「あとで混ざるわぁ~」という声を聞きながら店の奥へ進んで行く。ヒゲの総帥、バイオリン弾き、ピアノ軍人、小説家はまず乾杯をする。


ヒゲの総帥は小説家の男にむかって言葉を放つ。


「お前、純文学を書かんのか?」


「純文学とか読まんもん。それに純文学は売れん」


「売れんでいい、お前が書いた純文学はお前にとって位牌のようなもんだ。金にはならんが、名前はそれによって残る。心が腐ったお前の純文学を読みたい」


「俺もそれに関しては阿守に同調するわ」と心が腐るというフレーズが響いたのかピアノ軍人はグフフと笑う。


「純文学ってどんなん?」


「いろんなのがあるが・・・、月と六ペンスからでも読んでみたらいい」


「あっ、それなら僕でも読めましたよ。僕でも酔えるぐらいですから」とバイオリン弾きは明るい顔を小説家に向ける。


「うーん、読んでみるかな」と言いながら、スマホを取りだして何やら操作する小説家の男。


フクビキで腹を満たした四人はそのまま北濱を歩き、キューバの国旗が光り輝く「ビッグバン」というシガーバーへ移動する。ジローから教わったパルタガスの葉巻に火をつけてモヒートを飲みながら何やら四人の話しは続く。途中からジンクスで遊んでいたデタラメ堂のご主人も加わる。そのうち豚王タッキーもやってくる。


バイオリン王子はデタラメ堂に会うや否や、「僕も人狼に興味が出てきてるんですよ」という。しかしながら自分にこの人狼ゲームは性格的に向いていないんだろうなと付け加え、ヒゲの総帥を見据えながら「この人は(人狼が)得意でしょうね」という。ピアノ軍人も頷きながら「コイツは本物のオオカミやからな、天職や」とグフフと笑う。小説家の男はうつらうつらとしたまま、しばらくすると即身成仏のように動かなくなる。


フクビキに麦わら帽子を忘れたヒゲの男であったが、宗教画のモデルの女一行がビッグバンまで帽子を届けてくれる。せっかくなので一緒に飲みたかったのだが、ヒゲの総帥たちが陣取るテラス沿いの席はすでに葉巻の煙とアルコール漬けのおっさんで一杯なので座れず、断念する。


「タッキーはそれについてどう思うのか」とヒゲの総帥は問う。「それ」というのは残念ながら何なのかは覚えていない。


タッキーは「はい、入り口は二つあると思います」とタッキーは戦略について自己の見解を述べる、デタラメ堂のご主人は云々と頷き、バイオリン弾きはモヒートの氷の下敷きになっているミントをストローで押さえつける。


ピアノ工房の軍人が「お前が好きなU2やシガー・ロスはどうなんや?」とヒゲの総帥に訊く。ヒゲの総帥はクラシックの作曲家ストラヴィンスキーの言葉を引用して「価値を持つ芸術」についての考え方を皆に披露するが、あまり場には響かないようである。


そのまま一行は漏れなく夜を愚鈍に切り裂き歩きながら、誰も脱落せずにピンク&ガンへ向かう。


「なんなんすか、ここ。いい感じじゃないっすか」とバイオリン弾きの男はピンク&ガンを気に入る。暗がりの店に黒ずくめの男が登場してくる、闇に放たれた闇。


そう、冷泉の登場である。


「おっ、つ、つ、土屋さんですよね。ラ、ライブ、楽しみにしてます、グフフ」と絶好調な滑舌の冷泉はドスンとタッキーの横へ座る。小説家の男はいつの間にか復活しており、ゲームセンス・ゼロのアシムご用達のコーヒージントニックをズルズルいわせて飲んでいる。もう今日は疲れ切ってポンコツだと自嘲していたピアノ軍人は少し離れた席で座したまま寝だす。


ピンク&ガンの一番奥の席。ここで会話される話題は常にオーセンティックであり、フェイクでもあるような気がする。


真夏の静かな夜であった。懐かしさと新しさという相反してるんだか一緒なんだかわからない匂いに誘われる、蝶々になったような気分であった。


店を出たあと、ビリヤードの最初のブレイクショットを受けた9つの玉のように、それぞれは散って行った。


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by amori-siberiana | 2018-08-30 00:45 | 雑記 | Comments(0)

「阿守さん、これに参加してみませんか?」


問いかけたのは世界の果て会計事務所を経営する無法松先輩、問いかけられたのはヒゲの総帥。この二人の年齢は同じなのだが、前者が冷泉の先輩でありことあるごとに冷泉が「無法松先輩はヤバイです」、「無法松さんは鬼です」というのを聞き、ヒゲの総帥も面白がって無法松先輩と彼のことを呼んでいる。


その無法松先輩が誘ったのが「地鶏会」というものであった、聞くところによると無法松先輩のセミナールームを利用して時々新聞の高足という男が主催している会なのだそうで、簡単にいえば異業種交流会である。


ヒゲの総帥はその日、取り立ててすることもない算段なので「地鶏会」なるものに参加することを表明する。


当日、エレベーターをあがりガラス張りのセミナールームに到着するとすでに数名が互いに挨拶をしたりしている。それぞれに参加者の法人名と役職が書かれた紙が渡される、A社代表取締役、B社代表取締役など並ぶなか「バンド:シベリアンニュースペーパーの総帥」と銘打たれて紹介されているのがヒゲの男である。随分と突飛なのが紛れ込んできたなとヒゲの張本人は苦笑する。


主催者の高足という男と挨拶を済ませ、ヒゲの総帥は弁護士の男と話しをする。いつしかセミナールームの入り口にある大型ディスプレイにはシベリアンなんちゃらの動画が流れる。こんな気の利いたことをしてくれるのは、ジェトロ(JETRO)のドミニク女史か世界の果て会計の無法松先輩くらいのものであろう。


地鶏会では一人一人の自己紹介のようなものもプレゼンもなく、ただ好きに飲んで食べればいいという自由空間が提供されており、そこいら中で談笑の様子が目でも耳でも聞きとれる。下は16才から上は幾つなのか解らない人たちまでが集まることができるのも、この会に変なプレッシャーやストレスがないからだろう。


そんななか、シルク・ド・ソレイユで通訳をしていた手羽先君と知り合う。シルク・ド・ソレイユというのは世界的なサーカス団であり、本人たちが「ヌーヴォー・サーカス(新しいサーカス)」と呼んでいる、そのショーたるや演出や技巧、芸術性とユーモアにおいて比類なきものである。なぜフランス語なのかといえば、それは本拠地がカナダのケベックだからである。かの地の公用語はフランス語なのだ。


ヒゲの総帥は自身もシルク・ド・ソレイユのメンバーや作曲家たちと多少の縁があるのだということを手羽先君に伝える。そしてシベリアンなんちゃらというバンドの発端に多少なりともシルク・ド・ソレイユが関連していたことを思い出す。


ヒゲの友人のタカハシン・コルテスというゾンビのような顔をした男が「ナンパロケッツ」というライブハウスを仕切っていた頃、彼からヒゲの総帥に連絡があった。なんでも急遽日本に来日してきたバンドが自身のライブハウスでライブをするのだが、あまりに急なので一緒にやるバンドがいないため、すぐ阿守のバンドを出撃させるようにという要請だった。このときはまだシベリアンなんちゃらというバンドではなかった。


その来日したバンドというのがシルク・ド・ソレイユのメンバーだけで結成されたバンドで、ちょうどシルク・ド・ソレイユの日本公演で来日してるので休みの日にライブもするというものだった。一緒に演奏し、そのまま一緒に飲み屋で飲みながら朝方まで演奏し続けた。いつしかシルク・ド・ソレイユのベースキャンプ(簡易の病院や学校まであるのだ)にまで入り込み、飲み続けてバカ話しばかりを繰り返していた。


ちょうどヒゲの総帥のバンドはコロンビアとエイベックスからのサポートを得てレコーディング途中であり、シルク・ド・ソレイユのバイオリニストのセバスティアンにゲスト参加するように誘ってみる。もちろんだと快諾してくれたセバスティアンはその日にレコーディングをすることになる。これまでバイオリンという選択肢がなかったヒゲの総帥には彼が参加してくれた一曲を聴いたときの衝撃が凄かった。


これはとんでもない曲になるぞと思ったのだが、実際にとんでもないことになった。レコーディングが終わった頃、タッキーから連絡が入り「アモさん、もしかしたらこの曲が主要ラジオ局のヘビーローテーションになるかも知れません。今、会議で東京事変とアモさんのバンドのどちらの曲でいくかが話し合われているそうです」と教えてくれる。結果、東京事変を抑えてヒゲの総帥がしていた聞いたこともないバンドの聴いたこともない曲が抜擢されることになった。


そこからいきなりバズり出す。


これまでのようにライブに来てくれ来てくれと友人やそのまた喋ったこともないような友人に声を掛けることをせずとも、自然に客席は埋まるようになっていく。ラジオをつけるたびにあのバイオリンの曲が流れつづける。ライブでもあの曲はまだか、あの曲はまだかと言われるようになる。


ところが、このバンドにバイオリンはいない。しかしながら、このバンドのアイコンとなった曲にバイオリンは欠かせない。なんたる矛盾であろうか。バイオリンのいないままライブをしていたが、どうにも求められているものと提供できているものに差を感じる。このままではいかんとヒゲの総帥は考える。


そんななか一大披露となるワンマンライブの日程は迫ってくる。ヒゲの総帥は東京のライブハウスで出会った男に連絡を取る。この男はそういえばバイオリニストであった、もちろん土屋雄作である。「雄作、悪いけど一曲だけ参加してくれないか」とお願いすると二つ返事でOKをくれる。窮地は脱した。


そしてライブは大成功となる。この日のパフォーマンスは素晴らしいものであった、雄作のバイオリンが鳴りだすや客席でダイブがはじまるのだ。音楽が人を熱狂させているというよりも、熱狂が音楽というキッカケに乗っかって表出しているという具合のものだった。


ヒゲの総帥の父親はこの日、初めて自分の息子の演奏を見たのだが、郷里に帰ってからというものこの日に見た光景を周囲にずっと話していたそうだ。「これまでバイオリンって静かに聴くもんかと思っていたが、あれは闘争や、戦え、戦えというてきよるな。あれは見れてよかった、田舎でおったらいかんなあ」と。


なんという名前のバンドなのか忘れたが、このバンドのこの曲が正当に演奏されたのは後にも先にもこの一度きりであった。


このあとすぐにバンドは解散する。ヒゲの総帥にとっては悲しいものでも惜しいものでもなかった、何故ならばもうすでに次に出すべき音が頭のなかでぐわんぐわんと鳴っていたからである。寝ても覚めてもそれが鳴り続けるので、これはどうにかして形にしておかなくては生きた心地もしないものなのだ。


そして、シベリアンなんちゃらがはじまることとなる。


この時点でメンバーは自分と雄作以外、まったく決まっていなかったのだが。


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by amori-siberiana | 2018-08-26 10:57 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。