カテゴリ:雑記( 283 )

私ごとで恐縮で御座いますけれど、週末は東方正教会の教会へお祈りに行きました。私のような無信心で無学な者がですね、今さら教会などへ足を運んで何をするのだと皆さんに笑われてしまうかも知れませんけれど、何を求めて教会に足を運ぶのかなど自分自身でもとんと解りません。しかしながら、ワインという飲み物についてより深い意味を探ろうとするとき歴史的に見ましてもキリスト教を省いて、ワインを語ることは出来かねます。


パンとワイン。東方から星に導かれるままやって来られた三人の賢い者がそこで出会った神の子「イエス・キリスト」。東方正教会においてはキリストのことをハリストスと申します。新約聖書(マタイによる福音書のなか)にはこのようなことが記されております。


食事をしているとき、イエスはパンを取り、祝福してのち、これを裂き、弟子たちに与えて言われた。


『取って食べなさい。これはわたしのからだです』


また杯を取り、感謝をささげて後、こう言って彼らにお与えになった。


『みな、この杯から飲みなさい。これは、わたしの契約の血です。罪を赦すために多くの人のために流されるものです』


このマタイ伝というものは誰が書いたのかわかっておりません。それどころかそもそもはどのような言語で書かれたものかも確実には判明しておりません。しかしながら、何の目的で書かれたかは解っております。イエスさまの登場によって旧約聖書での預言が成立していること、この人こそが救い主であるという証明するもので御座います。


旧約聖書といいますのは、救世主はイスラエルから出てくるという、神とイスラエルの民の契約を記したものでありまして、新約聖書というのはそれを引き継ぐかたちでイエスさまが登場しまして「救世主がやって来られた」というもので御座います。イエスさまによって契約は果たされたという内容で御座いますけれど、イスラエル(ユダヤ)の人からするとよくわからない男が自分たちの救世主になるとは予想もしておりませんでしたので、これは面白くない内容だとユダヤの人たちに新約聖書は受け入れられておりません。


誰が書いたのかわからない歴史書、またその時代の時々によってあらゆる解釈がなされることがあります。どうして神はイエスを使わされたので御座いましょうか、この「ウソつき」と言われて最後には処刑された男が一体全体、社会においてどのような役に立ったので御座いましょうか。そして、イエスさまとは何者なので御座いましょうか。


さて、訳のわからない宗教のお話しはこれまでといたしまして、これまで長きにわたってお話しさせていただきましたワイン会につきましても、これが最終話になることとなります。皆さま、よく我慢してお読みになってくださいましたね。たった半日のことですのにこのように一週間にわたってお話しさせていただきましたのは、ひとえに私の不調法のせいで御座いますことお許しください。


ほんと、人間と申しますのは習慣から抜け出せないもので御座いますね。「ぬ」と紙に書いて人にお渡ししますと、皆さん「ぬ」と言葉にしてくださいますけれど、どれだけ頭が良さそうな人を捕まえて、「ぬ」に濁点をふっただけの「ぬ゛」を言葉にしてくれとお願いしましただけで、人それぞれ確実な正解を導き出せないので御座いますから。たった、点が二つ増えるだけですのに、まことにおかしいことで御座いますね。どうにもならないのでありますから。


それでは、北浜の『THE LINKS』にて行われた白組の後半プレゼンテーションへと場面を移しましょう。あの口のお悪いヒゲさまが皆さまより喝采を受けたあとですので、白組陣営といたしましては、まさに後がないという状態からスタートすることとなりました。





Eljott az Istened. Szall az Ur. O. Vannak a szent angyalok. Azok. O


汝の神は来たり。主は舞い上がる。おぉ、聖なる天使がおられる。天使らよ。おぉ。




-レヒニッツ写本の導入部より (※解読については未だ謎のまま)-









シロー・・・。




シロー・・・。




シロー・・・。




井戸の中から聞こえてくるようなおぞましき声。亡者が地獄より一本の糸を辿りて煉獄たるこの世へ戻ってきたかのような声がどこかから聞こえる。静寂を切り裂きながらやってくる声・・・、いや、違う。これはそのような声ではない、周囲がガヤガヤと騒がしいのだ、その雑然とした溢れる言葉の中から、自分の名が混ざっていることをシローは聞き分けた。


シロー・・・と呼ぶ声はそのうち霧の向こうのおぼろげなる残像から、シロー自身が自分の名を認めた瞬間、一気に明確な実像としてシローの眼前に現れる。スッと聴覚を刺激したあとは視覚に訴えかける。声の主は誰だ、どこから発信されているのだ。何の試験の時間なんだ、何を狙って付き合うんだ。


誰だ、誰だ、誰だ!


シローの視線が声の主を探し出したとき、断片的だった言葉はいよいよその全貌を出現させる。人は耳にしている音が音である場合は聞こえていても聞こえていないが、その音が記号であると認識した瞬間、それは単なる音ではなく意味を持つ「呪術」となる。


「シロー!なに言うてるかわからんから、もっと声出してくれ」


呪術を放り投げているのは酩酊の渦中にいるチンピラの男たちであった。つまるところビール派(ハイボール派)を標榜する異教徒どもである。プレゼンテーションも後半のさらに後攻ともなるとシラフの人間などはいない、そんじょそこいらが酔っ払いばかりでとにかくやかましい。その様はまこと背徳の街ソドムのようであり、近々、天からの硫黄で焼き尽くされ皆殺しになるのを待つかのような刹那を感じる。


「もう、(声が聞こえないなら)こっち来てよ!」とシローは異教徒に発する。


シローは己のプレゼンテーションの序文に次の言葉を述べた。自分はマンホーさんや阿守さんやタッキーさんのように喋りが上手ではないと、確かにそうなのかも知れないが、この男のワインに対する熱量は参加者でも最上位を争うものであろう。


マンホーは政治パーティをはじめ、いろいろなところへ顔を出すことが多く言葉は達者であろう。「間違いないですね」、「おっしゃるとおりですね」というセリフをマンホーが口にしているとき、彼の心はどこか遠く、誰にも知られない約束の地を彷徨っているはずなのだ。ヒゲの総帥はこれまでの人生を口八丁で生き延びてきているのであるからして、説教師が転職のようなものだ。豚王タッキーにいたっては若い頃、日本で一番有名なバンドのメンバーからおもちゃにされており、「拓也、なんかおもしろいことしてこい」と無茶ぶりされては、満員の客の前に出され前説のようなことをさせられていたという経験を持っており、やはり声は通るほうで急場を凌ぐ咄嗟の適応力はある。


シローにそのような変化球は似合わない。彼はいつだって直球勝負なのだ、助走をつけてスピードガンに向かってボールを投げ、肩をヒリヒリさせながら150キロの剛球を投げていた男に今さらアンダースロー(下手投げ)に転向しろというのは酷な話しである。


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メニュー

◆赤ワイン 産地:アメリカ (ナパ渓谷)

STONE HEDGE 2014

◆マリアージュ一品

ブルーチーズと金山寺味噌



◇白ワイン 産地:南アフリカ

CRAVEN 2016

◇マリアージュ一品

ロールキャベツの白湯仕込み


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よく考えられた組み合わせである、もちろんマリアージュのどこにも前半で豚王が意味深に語った「残されたエビチリ」の契約先は見当たらない。後半に繋がっているのだという一本線はたちまちあやふやになる。しかしながら声が通らないシローに代わって、タッキーが大声でシローのマリアージュを説明しては白組の二人で来場者に酒と食を提供。給食係のようであったが、体躯の大きな二人がこうして並んで振る舞っていると、そこに並べられた料理はどう転んでも美味そうに感じて然る。


白組にしても赤組にしてもコンビネーションは絶妙であった。



最終投票。金色のファラオが開票箱から票を回収し、それぞれを読み上げる、「白」、「赤」、「赤」、「白」、「白」、「赤」・・・。実に通らない声、響かない言葉、またそれが味があって良い。そして結果が出る。


◆赤組 21票 (前半 28票)

◇白組 20票 (前半 14票)


素晴らしき名勝負、まさに雌雄を決するに相応しい戦いであった。この結果からわかることが二つある、ひとつは赤組が勝ったということだ。そしてもうひとつは、誰か一人前半と後半のあいだに帰ったということだ。


アラタメ堂の紹介により赤組の二人は勝ち名乗りをあげる。「悔しい、悔しい」と言いながらエビチリをその出っ張った腹にかきこむのは前回覇者のタッキーである。


「ラインで1月11日に作戦会議をしてから、そこからタッキーさん一度も返答がなかったんですよ。僕がこれこれどうしますかね?とラインしても、まったく返答がなくて。だけどこちら側が連携取れていないと赤組陣営にバレるのが嫌だから、ずっと僕も平静を装ってました」とシローは苦笑しながら話す。


残念ながら楽しい会も終わる、人はずっと同じところではいられないものだ、それがいかに有益でお互いを認め合える場所だとしても。しかし、また再戦の機会があることを期待してワイン会を終えることとする。


最後にワイン会をサポートしてくださった人たちと、沢山の来場者と、ワインと食べ物に「ありがとう」と感謝を述べたい。


次回もよろしくお願いいたします。







このようにしてワイン会は無事に閉幕することとなりました。普段このリンクスという場所は日曜日は閉まっております、しかしながらこのように特別な日においてリンクスさまは開かれた場所となります。


私、リンクスさまの会員が増えればいいと思いますけれど、だからといって私などにリンクスさまを満員にするという、そのような力は御座いません。しかしながら、この場所を皆さまの記憶に残る場所にはしたいので御座います。形あるものはいつかは滅びるの如く、万物は流れ去ることが世の常でありますが、そんなとき「ここではこんなことがあったね、あそこであんなことがあったね」と思い出し笑顔とともに誰かの記憶に残ることができれば、それは、とても価値あることなのではないでしょうか。


人と人の繋がりは、その底になにがあるのかが重要で御座います。今回のように酒飲みが縁の宴などは腹の底も表もなければ、なにもありません。前向きも後ろ向きも御座いませんし、メリットもデメリットも何もありはしません。だってね、愛すべき馬鹿ばかりなんでありますから。


それでは、またお会いできることを楽しみにしております。最後、若干駆け足気味となりましたけれど、どんどん記憶が薄くなってきておりますのと、もう私も酩酊しておりましたから、あまりご提供できるお話しもないのです。





キリストは奇跡により水をワインに変えた。

フランス人はそれを見て

「このようにさっさと作られたものはワインと呼べない」と言った。





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by amori-siberiana | 2019-02-04 01:59 | 雑記 | Comments(0)

1284年の6月26日の朝


ハーメルンの町に笛吹きの男が戻ってきた。住民が教会にいるあいだ、男が笛を鳴らしながら通りを歩いていくと、家から子供たちが出てきて男のあとをついていった。


130人の少年少女たちは笛吹き男の後に続いて町の外に出てゆき、市外の山腹にあるほら穴の中に入っていった。そして穴は内側から岩でふさがれ、男も子供たちも、二度と戻ってこなかった。


足が不自由なため他の子供たちよりも遅れた1人の子供だけは無事であった。異説では、あるいは目が見えない子と耳が不自由な子の2人の子供だけが残されたとも言い伝えられる。





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あっという間に一月も終わりとなりました。私などはとくにこれといった活動もしておりませんから、二月になったから、三月になったからといって取り立てて何かをするということも御座いません。そのような私でも寒風吹きすさぶ都会の曇天が続くような日がありますと、心模様も浮かないものとなりまして、あちらこちらへお呼ばれしてもどうにも足が重くなってしまいます。


そしてこれよりワイン会にて全体の第三番手でプレゼンテーションをしようとする、あの口のお悪いヒゲの方もワイン会が来る日を心苦しく考えておりました。「あれ?待ち遠しくではないの」と皆さまにおかれましては、そのように思われるかも知れませんが、このヒゲの総帥なる人は全く逆で、ワイン会などなくなればいいのにくらいに悩んでおりました。


どうしてなんでしょうね、それでは第四話のはじまりです。









他はこれ我にあらず


大意:私たちは、ひとりひとり他人にゆずることのできない、かけがえのない人間であると同時に、そのひとりひとりの仕事や分担も、他人にまかせてはならないものである。すべて修行と心得て、過ごしていきたいものである。他人にまかせては、自分の修行にならない。


-道元『典座教訓』より-







ヒゲの総帥は悩んでいた。ワイン会が刻一刻と迫ってきているのだが、皆を満足させるような高級ワインを買ってしまえば、ジンクスでのワイン会では健闘できるであろうが生活費が無くなってしまうことを苦慮していたのだ。しかしながら、この男は他人から期待されることをいつも欲している、そして期待されるままに応えようとする悪癖がある。


ここ最近、ずっとワインのことばかりを考えている。マリアージュのことばかりを考えている。頭のなかの電卓を叩きながら、「うーん・・・」と呟いてはまた振り出しに戻り、また「うーん・・・」と呟いては振り出しに戻りという具合に考えがまとまらない。かの大作曲家リヒャルト・シュトラウスは「メロディーが浮かばないときはどうしますか?」と記者に聞かれて、「寝る」と名答を出していたが、寝れば寝るほどワイン会の期日は迫ってくるので、今のヒゲの総帥には大先生の言葉も通じない。


前回のジンクスで開催されたワイン会にてヒゲの総帥は投票の結果、最下位であった。それについて本人は当然の結果だと納得している。何の創意工夫もなく自分の財布と相談して店員任せのワインを買い、そしてマリアージュにいたっては友人たちが当日に持ち込んだ差し入れをそのまま使った。会自体は成功したのだが、何らの達成感もヒゲの総帥にはなかった。というよりも身にならなかった。


また、同じことの繰り返しになるのだろうか・・・と鬱屈とした気持ちはなかなか晴れない。


収入が低いということはこんなに惨めなことなのかと、なんだか情けない気持ちになる。つまるところこの愚か者はまだ、自分の現実を正視することができていないのだ。過ぎ去った日のことばかりに思いを馳せても何ら過去からやって来ないことを頭では知っていても、身で知っていないのだ。この男の精神は40才を超えたというのに未だ自立できていない部分が大いにある。自ら選んでこの道を選んだのであるからして、誰を責めることもできないのであるが、それがまた行き場のない空虚な気持ちを助長する。


自分の生き方が、いよいよ間違っていたと社会から審判されるときが来たのではないか。両手を後ろに縄で縛られ、大衆から罵声と投石を受け、顔を被った刑吏に引き連れられて台にのぼり、ギロチンへ首を差し出すこと以外に術がないという、断罪の列に加わっているような面目ない気持ちであった。誰も彼もが平然とできることが、自分にはどうしてできないのだろうかと考えると、自然と気持ちは塞ぎ込むようになるものだ。


小さい頃、ヒゲの総帥は他人の家に生まれたかった。どうして自分はこの家庭の長男として生まれたのだろうかと、自身の運命を呪うこともあった。隣の芝生は青く見えるという言葉を知らない時分であったし、知っていたとしても青く見えることに変わりはなかろうと認識するだけであったであろう。


ワイン会に参加するソムリエ各人とメッセンジャーで平然を装ってやりとりするも、心中は常に穏やかならぬ状態であった。八方塞がりである。


そんな折も折、次のようなメッセージが飛び込んでくる。発信者は前回のワイン覇者である豚王タッキーからだ。





2019年01月11日 21:49


財力バランスからみて、僕とマンホーさんが別れた方が良さそうですね





このメッセージを読んで、ヒゲの総帥は動けなかった。怒りや情けなさで動けなかったのではなく、「ハッ」とあることに気が付いたのだ。自分が何に気が付いたのか。自分の内面をしっかりと把握するため無駄な動きを止めて、じっと今、このメッセージによって何の光明が心に差したのかを見つめ続ける。


このタッキーからのメッセージがヒゲの総帥にとって一つの余計な選択肢を消してくれたことは確かだった。「金をできるだけ節約しながら、戦う方法があるな・・・。金の代わりに、知恵と工夫を活用すれば・・・、やれるかも知れない」とヒゲの総帥は自身に光明が差した答えに辿り着いた。端的な引き算だ。


道が決まれば、早いものである。道さえ決まれば、あとはそこへ向かうだけである。


タッキー、シロー、マンホーは優れたワインを持ち込んでくるであろう。自分は敢えてここでワインという選択肢から外れて、賭けに出ようと結論がついた。ワイン会とは良いワインと秀逸なマリアージュを競い合う会という基本コンセプトだが、何故それをジンクスでするのか。ジンクスでせずとも他の場所ですれば良い、でも、何故ジンクスですることにしたのか。


ひとつの真理に辿り着く。


それはヒゲの総帥がジンクスのことが好きだからである。なぜ好きなのか、それはここに集う人間たちのどこにも属さないとか、属せないという妙に綺麗に見える下手くそな生き方が好きだからだ。そこに人間性を感じている。1分を60秒と誰が決めたのだ俺らは知らんとアンチテーゼをぶちかますような生き方、自身を納得させるために模索・探検する奴らが好きだからだ。迷え、迷え、我々はそもそもどこからやって来て、何者で、どこへ行こうとするのかすら知らないではないか。


人生、勝った負けたではない。どう生きたか、どう生きるかだ。他人が決めるのではなく、自分が決めるのだ。学がない人間は愛想を磨き、愛想がない人間は誠実さを磨き、誠実さがない人間は嘘を磨き、嘘がつけない人間は他人の持つ技術の真似を磨く。財や地位のないものに残された唯一の武器は「アイデア」で、そして盾になるのは「勤勉」である。


それだ!


霧が晴れた。これらの書きつくせないことが、ほんの数秒のあいだにヒゲの総帥の心を巡った。タッキーからの珠玉の一言は彼の思惑を外れて、弾丸のようにヒゲの総帥の胸を貫いたのであった。その弾丸には「希望」という名の火薬が詰め込まれていたことを発砲した側は知らない。


そもそも、自分が大阪へ出てきたとき、家も金も無かったではないか。自分自身を試すのだと出てきたのではなかったか。いつしか慢心していた、人並みであることを追い求めるようになり、そしてそれでは飽き足らず人を追い越すことに執心する、つまらない男になっていたのではないか。


ようし、やってやろうじゃないか。20年以上前の自分と同じ、僕は自分自身を試すのだ。自分自身に賭けてみるのだ。ジンクスの流儀でな。持たざる者としてゲリラになる資格があるのだ。


そう考えたとき、あるスペインの話しを思い出した。スペインではその恵まれた気候もあり、柑橘類が街のそこいら中で実をつけるのだが、誰も食べないままに果実は地面に落ちて腐る。せっかく実をつけた果物、腐らせるままは勿体ないので、なんとかそれを有効に利用できないものかと編み出されたのが、果物をワインに漬け込んだ「サングリア」だと耳にしたことがある。


ヒゲの総帥は「ふふふ」と笑いが込み上げてくる、なんとも今の自分に当てはまる出し物ではないか。むいたオレンジの皮すら捨てるのは勿体ないので、これをマリアージュに使えば一石二鳥である。タッキーの言葉によって差し込んできた一本の光の筋が、いよいよ心を駆け巡り、集約して像を結んだ。


サングリアとオランジェット(オレンジの皮のチョコレートがけ)で勝負する。


そうと決まった日からは、役所の仕事が終わると常にサングリアの作り方の研究に没頭する。休みの日は図書館へ行き、レシピ本を読み漁るという日々が続いた。本番前に散財はできないので地域で一番安いスーパーへ行き果物を買って食べては見るものの、その半分が腐りかけだったということも経験した。ワインも徹底的に安いものを買い、金が無くなればギターの演奏会をして小銭を稼いで、またサングリアとオランジェットの研究に投資するという日々が半月ほどあった。創意工夫をしていくことが、こんなに楽しいことなのかと改めて実感した日々であった。夢中と没頭という自分の時間、そして仕事という社会生活の時間がひとつの歯車のようにぐるぐる回るのだが、自然と軋みは生じなかった。


サングリアの瓶を南船場のパン屋「き多や」から借りてくる。瓶がひとつでは足りないだろうとダイソーで300円で新たに瓶を買ってくる。そして迎えた本番前日、本番用の新鮮なオレンジを4等分にしてそれぞれ皮をむく。丸裸にされたオレンジを瓶のなかへ2個分ずつ放り投げる。レモンを1個、ライムを半個、パイナップルを4分の1、リンゴは皮のままダイスに切って半個分。そこへ一本450円(750ml)のワインを赤白それぞれ別の瓶へ全て流し込む。さらにオレンジジュースを200mlとグラニュー糖を大さじ2~3杯ほど溶かし込んで入れる、クローヴの実を入れるのが一般的だが予算の都合でカットした。


サングリアは調べれば調べるほど、各家庭の味噌汁の如くにレシピが続々と出てくる。その全てを試飲したところで、これが一番というのが見つかるはずもないことは理解できる。こういうとき、どのレシピを参考として選択するのか、センスが問われる、それは賭けになる。


オランジェットに至っては相当、嫌になりながら作った。買えばすぐ食べられるものが自分で作ろうとするとここまで時間がかかり、ほとほと面倒なのかと、それはそれは良い勉強になったのだ。しかしながらよく考えてみれば、自分たちが口にするものは、その人がよっぽどの仙人でない限りは、誰かが生き物を殺して、誰かが収穫してくれており、運んでくれ、必ず誰かが作ってくれているのだ。


そうか、そのお礼として、お金というものを使うのか。お金というものは、そうやって使うのものだったか。ヒゲの総帥はチョコレートを湯煎したボウルに入れて、ヘラで混ぜ溶かしながら、初歩の初歩を実感した。経済学というような大層な代物ではなく、生きるということについて実感したのだ。


オレンジの皮を短冊に切る。短冊になった皮と水を鍋に入れて沸騰させたまま15分待つ。ザルにオレンジの皮をあげて、また同じように水と一緒に鍋に入れた状態で沸騰させる。これを3回ほど繰り返して煮沸消毒をする。自分の娘が赤ん坊だったとき、そういえば哺乳瓶などをこうして夜中に寝ぼけながら煮沸消毒してたなと思い出す。


煮込むことで色がより鮮明になったオレンジの皮。その皮の重さ×0.8をした分量のグラニュー糖とカップ一杯の水を鍋に入れて、これまたグツグツと煮る。水気がよい頃合いでなくなってきたところで火を止めて、鍋から一本一本オレンジの皮を箸でつまみながら取り出し、キッチンペーパーを敷いた鉄板の上に並べる。気の遠くなるような作業であるが、これをやりきらないことには精神的に明けも暮れもないのだ。今の自分はオレンジをただ並べる男なのだ。


こうなってくると、ワイン会に勝とうが負けようがなどということは、正直どうでもよくなり、自身が行為したことによって導かれる結末(解)と出会いたくて仕方がなくなる。


チョコレートは板チョコが安売りしている日にスーパーで買いこんでおいた、「ブラック」を買ったのだが、この年齢になるまでブラックチョコレートはブラックコーヒーと同じで砂糖が一切入っていないものだと勘違いしていた。チョコレートの自然の甘みかな?と漠然と考えていたが、カカオ自体に甘みなどないことを初めて知った。つまり、ブラックチョコレートには砂糖が入っているという既成事実に初めて出会い、衝撃を受けたのである。


さて、適温の湯を張った大きいボウル(A)の中へ、それより一回り小さいボウル(B)を入れ、Bの中にチョコレートを砕いて入れて、ヘラで丹念に溶かし込んでいく。映画「ショコラ」でジョニー・デップがギターで奏でるマイナー・スウィングも格好良いが、何より主演のジュリエット・ビノシュがチョコレートを混ぜる描写に見とれていた。いつかはやってみたいと思って先延ばしにしていたことが、案外、その気になれば下手くそなりに出来ていることが妙に可笑しかった。


よく干されたオレンジの皮に溶けたチョコレートをコーティングしていく。これがまた時間がかかる、ほとほと嫌になる。手がだるい、眠たい。


そうして出来上がったオランジェットを味見にひとつだけ摘まむ。良い出来だ。ふたつ目は摘まめない、サングリアも赤白をグラス5分の1だけ飲んでみる。それ以上は飲まない。


どちらも可愛くて仕方がないのだ。何度も出来上がった両者を東西南北、全ての方向から眺めてみるが全然飽きない。まったく飽きない、それはヒゲの総帥の実家にある古ぼけたアルバムを見ているような感覚である。


減っていくことに臆病になってしまうから試飲も試食もひと摘まみだが、どうせ翌日にはワイン会を控えているので、何がどう転んでも彼らは無くなってしまう。可愛くて手離したくなくても、そのまま自分が瓶とボウルを抱きかかえていては腐ってしまうだけだ。時間と酸素は、サングリアとオランジェット、これらが生まれた瞬間から容赦なく「死」を手向けてくる。


それならばどうかジンクスにてみんなに飲み干されて、食べ尽くされて欲しいものである。


瓶の中のオレンジは、愛らしく笑っていた。


「さようなら」と笑っていた。










このようにしまして口のお悪いヒゲの男が持ち込んできた、サングリアとオランジェット。来場者の各位の口へと運ばれまして、それはそれは好評をいただいたようで御座います。相方の征司さまが皆さまのコップへサングリアを注ぎまして、そして皆さまオレンジのお菓子を摘まみながら談笑する光景を、ヒゲの男さまはくすぐったくなるような誇らしい気持ちで見ておられました。


空になったサングリアの瓶、中のフルーツも何者かが食べておいででしたが、作ったものからするとこんなに嬉しいことはなかろうにと私などが感じたことを記憶しております。リンクスさまでの宴のすぐあと、そのサングリアの入っておられた瓶を丹念に、冷たい水でゴシゴシ洗っておられたのは敵方の拓也さまで御座いましたね。私、あの拓也さまの背中を見たとき、このワイン会が成功を超えて、正解だったことを確信いたしました。


帰り際にはビッグテーブルに置かれたコップなどを来場者の皆が片付けしておられました。その光景を見ていた征司さまの横顔はこれまでに見たことがないほど、優しい目をしておられ、嬉々としておられました。


これにて赤組の後半のプレゼンテーションが終わることとなり、残るは白組の史郎さまを残すのみとなられました。しかし、もうこんな時間ですから第五話をお待ちくださいませね。






異議あり!




はい、タッキーさん




アモシ (阿守のこと)!




なんだい・・・




アモシ!・・・これ、美味しい!」




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by amori-siberiana | 2019-02-01 02:13 | 雑記 | Comments(0)

まこと冬らしい寒さとなっております。私の知人なども先日の折、京の方へ鹿苑寺などを見に行ったと申しておりましたが、雪がはらりと舞いながらという、それはそれは風情ある寒さを物語るようなお写真を拝見させていただきました。


そのような寒中にありましても、ここ北濱のコワーキング・スペース『ザ・ジンクス』におかれましては、本年度上半期のナンバーワンソムリエを決めるワイン会が催されておりまして、紳士淑女が一堂に介してお酒を嗜みながら、芸事のことや他人さまの飼っておられます猫のことや最近の出来事など、どうでもよろしそうな雑談に花が咲いておられます。そして、いよいよ前年度覇者の拓也さまの登場となりまして、会場の熱気は最高潮を迎えております。





一杯のお茶

それをきちんと

いれることができたなら




あなたはすべてのことが

できるはず。



-イスラム社会のことわざ-








2019年 01月 27日 16時00分





現時点で北濱ナンバーワン・ソムリエの称号を持つ豚王タッキーのプレゼンテーションが始まろうとしている。真打ちは最後に出てくるものかと思っていたが、全体の二番手で出てくるとはヒゲの総帥の予想に反したことだった。自身の覚えたての幼稚な魔法を披露して、敢闘賞の拍手がもらえれば上出来くらいに考えていたヒゲの総帥の前に、いきなりバハムートを召喚する男が登場したようなものである。


人は印象によって操作される。バハムートの地獄の業火をまざまざと見せつけられた観衆たちが、後発のヒゲの総帥の努力を見たところでそれは名手イチローのヒットのあとで、パワプロ(野球ゲーム)のテキサスヒットを見るような落差があるではないか。


しかしながら、ヒゲの総帥の心はタッキーのこれからの所作を期待することに揺れる。敵ながらこの男、よき親友、よきライバル、そして人生の成功者たるこの傑物の繰り出す妙義を見てみたいという、本質的な好奇心にいつしか魂は溺れて揺れているのだ。ユダがレイの南斗水鳥拳を目の当たりにして心を奪われたように、作曲家ベルリオーズが舞台女優ハリエット・スミスソンを真冬のパリで悶え追いかけたように、人は真に美しいものには抗う術がないのである。


愛するか、憎むかではなく、愛さざるを得ない状況へと誘われるのだ。それはアブサンのように危険で、グランマニエのように甘く、そしてワインのように真っ赤に燃え上がるのである。


しかしながら・・・、とにかくニンニク臭い。それはそうである、これほどまで餃子とエビチリが器のままぐちゃぐちゃになったビニールに詰め込まれて、ジンクスのビッグテーブルに放り出されている状態である。このビッグテーブルが円卓であるならば、我ら参加者は豚王の号令と共に剣の底にてテーブルをどんどん叩き、餃子とエビチリの乗った円卓を回す騎士となろうという勢いである。傍から見れば陳腐な選択に見えるかも知れない「餃子の王将」コンビ。しかしながら三段論法的にいうなれば、有益であるから皆に多用されるのであり、皆に多用されるからこそ陳腐になるのであって、陳腐な手段が不当であったり価値を下げることとイコールでは決してない。


そしてそんなことを考えていた瞬間、ヒゲの総帥は「ハッ」と気づいた。「まさか、こ、これは・・・、シュールレアリストの手法だ!」と愕然とした、もはやこのワイン会を単なる味比べではなく芸術の域にまで高めようというのか!タッキー!お前はっ!とヒゲの総帥は心の中で絶叫した。自分が考えるよりも遥か高みにいる豚王、ヒゲの総帥やマンホーなどはそこへ追いつこうにも追いつかない、それはまさにブロッケン現象であり、我々は彼の影しか見ることを許されない。異次元の怪人に挑戦するような無力感である。


かの高名なシュールレアリストのマルセル・デュシャンは便器に自分のサインを書きこんで「泉」という題名をつけ展覧会に出展した。レディメイド(既製品)を使用することによって価値観が硬質化して値段が上がる一方のワイン社会へ向けて、一石を投じようとする豚王の姿勢に赤組は心を打たれた。


つまり、豚王タッキーはダ・ヴィンチのモナリザにヒゲを書きこもうとしているのか。


豚王はマイクを片手にプレゼンテーションをする。雷のようなダミ声。たらいをひっくり返したように鳴り響く。観衆の全員が唾を飲みこむ、一体全体このレディメイドを使用して如何なる高級ワインとマリアージュさせようというのか。ざわざわざわざわ。


「みなさん!」


王の啓示が民衆の頭上に落ちる。気のせいかどこかで銅鑼の低音が聞こえる。王の言葉は踊り出す。


「みなさん!今日はどこででも誰にでも簡単に手に入るワインと、食材というコンセプトでマリアージュを考えてきました」


「えっ・・・!!!!!?」


ヒゲの総帥は耳を疑った。ヒゲの総帥が耳を疑ったということは観衆全員が耳を疑ったことと同意である、何故ならば今この場は専制君主政治であり、議会政治ではないのである。つまり、王以外は全て同じヒエラルキーなのだ。


「どこでも手に入るということで、まずは餃子の王将で餃子を買ってきました。この餃子に合うワインということで、このロゼワインを飲んでみてください」


この男は何を言っているのだ・・・?


ヒゲの総帥は自分には乗る権利すらない、遥か神聖なる天へ伸びるエスカレーターに悠然と乗っていたタッキーが、エスカレーターが到着した先に床がなく、「わぁ」と叫びながらそのまま天から落ちてくる姿を見たような幻覚に捉われた。


イカーロスの夢、破れたり。


タッキーそうじゃないだろう、皆、3000円の入場料を払っているのである。餃子の王将とシャトー・マルゴーやオーパス・ワンやロマネ・コンティやモンラッシェを合わせてくれるんじゃなかったのか、自分たちの払った入場料たる犠牲の名のもと、無意識にコスパを考えたうえでの期待をしているのがわからないのか。誰もどこでも手に入ることなど望んでいない、誰にでも手に入ることなど認めない、そういう空気なのだ。その重責がナンバーワンのナンバーワンたる苦悩ではなかったか。力石徹は男の友情をまっとうするために命を削った減量にてバンダム級へやってきたとの故事を知らないのか。


なんなんだ、なんなんだ、この見たことも聞いたこともない酒蔵の、赤でも白でもないワインは!!


「こいつは王じゃない!こいつはただのブタッキーだ!皆、殺せ!」とヒゲの総帥は叫びそうになるのをぐっと抑え込んだ。抑え込んだというよりゼロだった、永遠のゼロ。ヒゲの総帥の期待は消え失せた。失ったものがあまりに大きすぎて、何も感じないという具合であった。


豚王は懸命にギャーギャーとプレゼンテーションする。無暗やたらにロゼを来場者の口に押し込み、めくら滅法に餃子を食えと迫ってくる。


ヒゲの総帥が正気を取り戻そうと会場の外へ出てみると、チンピラの男や世界の果て会計の無法松先輩、さらにはビッチ学派の連中はビールをコンビニで買って来て飲んでいるではないか。3000円払ってワインを飲まずに追加でビールを買うこの連中は確実にアナーキストである。豚王が執政に手を抜いたその瞬間、反乱軍たちはワインならぬビールという新兵器を用意して、辺境から刻一刻と迫ってきていたのである。一大事である。


「やっぱ、餃子にはビールですよね」とニヤけるチンピラの男。危ない笑い方をする男である、ヒゲの総帥は「800人か・・・」と直感で、このチンピラがこれまで殺めてきたであろう人間たちの数を感じる。


このまま豚王のご都合主義に任せていては、この国(ジンクス)が危ない。誰にでもどこででもという甘いキャッチコピーは言い換えると、その辺で買ったものということと表裏一体ではないか。


「異議あり!」


辺境のビール族(ハイボール族)の偵察から一目散に会場へ帰還したヒゲの総帥は声をあげる。「はい、ヒゲの総帥!」とアラタメ堂のご主人は総帥にマイクを渡す。


「赤組の阿守と申します。これより反対尋問を行います。まず、タッキー、このワインをどちらで手に入れられましたか?」


「え?タカムラです」


「そのタカムラというのは、どこにありますか?」


「大阪ですよ」


「そう、大阪市西区のどこにありますか?」


「土佐堀沿い・・・です」


「土佐堀沿い、タッキーの家からジンクスへ来るまでの途中経路ですね。それでは、この餃子の王将はどこの王将ですか?」


「ええっと、堺筋の・・・北浜の・・・」


「つまり、ジンクスのすぐそこということですね」


「はい」


「みなさん、これにて反対尋問を終わります」


ヒゲの総帥はそう言い残し、くるりと踵を返して歩きだした。豚王に自己の無防備な背中をさらしている。怒りに狂った豚王がこのヒゲの生えた男の背中を突き刺すなら今しかない、しかしながらヒゲの総帥には自信があった。豚王にそのような余力は残っていないことを。


白組の前半のプレゼンテーションは終わりを迎えることとなる。










このようにして征司さま(赤組)、拓也さま(白組)それぞれのプレゼンテーションは終わりまして、前半戦は終了することとなりました。そうして来場者の皆さまからの中間投票の結果は以下のようになりましたことをご報告いたします。



◆赤組 28票


◇白組 14票



前半戦を終えたところで結果はダブルスコアとなりました。この投票を管理されておられたのは金色のテラテラの安物に身を包んだファラオさまで御座いましたが、この別の異国の王の声は会場内においては非常に通らず、例えるならば凧糸を歯間ブラシ代わりにギシギシしたときの不快な音のようで御座いました。



本来でありましたなら、このワイン会へお越しになられました沢山の妙な人たちのご説明も皆さまにお話ししたいのでありますが、それを私など何事もまとめきれない無学な者がしてしまいますと内容のない「水滸伝」のように長大なものになることは自明の理でありますので、今回は残念ながら割愛とさせていただきますことお許しくださいませ。


前回覇者の拓也さまはこの結果を受けましても、懸命に自分の持参した餃子とエビチリは後半戦へも引き継がれて、一本の線として白組の壮大なプレゼンテーションへ繋がるのだと汗を垂らしながら力説しておられましたが、赤組のあの口のお悪いヒゲの男より「この残されたエビチリを見たまえ、タッキー、お前はセブンという映画だとすでに暴食の罪で殺されてるぞ」となじられておいででした。ほんに口のお悪い方で。


次はこの口のお悪いヒゲの方のプレゼンテーションのお話しをさせていただきましょう。みなさま、またおいでくださいね。


そうそう、このヒゲさまは前半と後半の合間にアイルランドの音曲を奏でて下さいました。お相手はマラカミムイさんという緑色で全身を彩った素敵な女性で御座いましてね、私の大好きな「イニシア」という曲をしてくださったのです。


皆さまにもイニシアを記号でお分けいたしましょうね。


『Inisheer』

irish trad

G---/Bm---/C---/D---/
G---/Bm---/C-D-/G---/
G---/Bm---/C---/D---/
G---/Bm---/C-D-/G---/

C---/G---/C-Bm-/Em---/
C---/G---/D---/G---/
C---/G---/C-Bm-/Em---/
C---/G---/D---/G---/


なんのことやら、わかりゃしませんね。音楽のことを何も損なわず付け足さず、そのまま言葉へとできる人がいたとしたら、その人は「詩人」で御座いますわね。


それとまったく余談になりますけれども、今回のワイン会のお話しで御座いますけれども「いいね」の数の割には非常に好評で御座いまして、各方面の方々から激励を頂戴しております。が、私このようなことに時間を費やしている暇はないはずなので御座いますのにね、ほんに人間のすることは全く、とんちんかん。



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by amori-siberiana | 2019-01-30 01:08 | 雑記 | Comments(0)

祗園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり

娑羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらはす

おごれる人も久しからず
ただ春の夜の夢のごとし

たけき者もついにはほろびぬ
ひとえに風の前の塵に同じ


- 平家物語 冒頭部より -




「平家にあらずは、人にあらず」、栄華をほこった平家も貴族化して、ますらおの源氏に敗れ去りました。そして全てを失うこととなり、日本全国を散り散りになることとなりました。人の世の栄華というものは消えるときは、あっという間に塵のように無くなってしまうものなので御座いますね。


さて、話しはワイン会に戻ることといたしましょう。メイン会場となるコワーキングスペースの『ザ・ジンクス』さんでは、己の矜持を賭けた意地の張り合いがはじまろうとしておりました。すでに司会進行役をしてくださいます、アラタメ堂のご主人こと哲也さまと江戸からお越しのアキコさまはマイクを手にスタンバイが整っておられるご様子。そして主役であられる緊張の面持ちのソムリエ4名、さらにはこうした余興が大好きなそこら辺からお集まりになられた粋人たち多数の熱気で、暖房もいらないくらいで御座いました。

まず、4名のソムリエが司会の哲也さまによってご紹介され、2名ずつ赤組と白組に分かれての戦いになるのだとルール説明、そしてまことに勿体ぶったことでは御座いますけれど、各人の自己紹介などが行われております。


ちなみに簡単にチーム分けを申し上げておきますと、以下のようになられます。


◆赤組:坂井 征二さま、阿守 孝夫さま

◇白組:平 拓也さま、加藤 史郎さま


それぞれ皆さま、来場者さまの眼前に起立をされて紹介を受けておられましたが、なかでも前回ワイン会の覇者である拓也さまにおかれましては、まるでテレビジョンに出てくる俳優さながらの格好の良さで御座いましたこと記憶しております。俳優といいましても古今東西、ピンからキリまでおられますが、そのなかでも私などは拓也さまが船越英一郎さまのような雰囲気をお持ちになられていると感じるのでありました。


そうしましたら、この第二話は赤組の自己紹介は割愛させていただきまして、拓也さまの自己紹介のところからお話しさせていただきましょう。




2019年 01月 27日 15時30分




赤組のマンホーとヒゲの総帥の自己紹介が終わり、アラタメ堂のご主人とアキコ女史が豚王タッキーとシローの自己紹介をする。


豚王タッキーに関してはこのワイン会の最中において「どうして平さんは、豚王というお名前なんですか?ブタにお詳しいのですか」と真剣に問われたのだとヒゲの総帥に向けて困惑した様子で話しをしていた。そもそもどうして彼が豚王と呼ばれるようになったのか、ヒゲの総帥にもとんとわからない。一体いつごろどこの国の何者がそのような名詞を敏腕ビジネスマンたる彼につけたのか見当もつかない。


しかしながら、世の中にはそのようなことは多々ある。我々は「海」を誰が名づけたのかも知らずに海と呼ぶ、名づけたものが誰なのかわからないからそれは通用しないということを言って頑張っていると、そのうち何も喋れなくなってしまうであろう。よって、豚王というネーミングが誰によって何の目的で付けられたのかは、この場においては追求しても甚だナンセンスなことなのである。考えても無駄なことは自然のせいにするのが一番である、古来人々はそうしてきたではないか。なので結論から言うならば、豚王という名詞は「自然発生」したのである。何も彼が誰よりもブタに詳しく、誰よりもブタに明るいというわけでは決してない。


ヒゲの総帥から見ればタッキーはタッキーなのだ。豚王と彼が呼ばれてもピンとこない、それはヒゲの総帥がここ十数年のあいだタッキーと苦楽を共にしてきた経験があるからに疑いはない。ことここに至って我が戦友であり、代えの効かない竹馬の友たるタッキーのことをましてや「豚王」などと言われても、どうにも言葉と本人の実像が不一致を起こして半ば脳内がパニックになることがある。


しかしながら寛容な男である、豚王タッキーと司会者に紹介されても微動だにせず王者の風格を醸し出しながら笑顔で手を振るこの男にヒゲの総帥は敵ながら天晴れと感動を禁じ得なかった。「王はこうあるべし」という帝王学をまざまざと見せつけられるかのような立ちくらみを覚えるのであった。


アラタメ堂のご主人の紹介は続く、タッキーの好きな言葉を紹介する。もちろんこの項目についてはタッキーが自己申告したものではなく、彼のことをよく知る何者かがタッキーが好きな言葉を事前にアラタメ堂へ密告したうえでの演出なのであるが、タッキーはその言葉を聞くや苦笑をして、「アラタメ堂、どうしてそんなことを知ってるんですか?」と司会の方を見る。


王が実は真っ裸で恥じているではないかと思い、ヒゲの総帥はタッキーのことを慮って「実はその言葉にはこういう経緯が・・・」と言いかけたところで、タッキーから口を塞がれて計画は頓挫することとなった。そして次はシローの紹介となり、皆の眼前で整列するシローの二人ほど挟んだ隣には、兄である黒ずくめのIT参謀こと冷泉がグフフと笑っている。兄の前で誇らしげに自己紹介を受けるシローはさながら校歌を斉唱する高校球児のようであった。


前半戦の先攻がはじまる。


赤組の前衛はジンクスのオーナーことマンホーである。


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メニュー

◆赤ワイン 産地:アメリカ (サンタバーバラ)

STAR LANE 2011 (Astral)

◆マリアージュ一品

鯖のトマト煮込み


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マンホーは自身の持ち込んだワインの説明を開始する、相方であるヒゲの総帥はマンホーがマリアージュの一品として持ち込んだ手作りの鍋物を小さいアルミ容器へ小分けにしてスプーンを刺しこんでいく。ところがあろうことかすでにシローの持ち込んだスパークリングや来場者の持ち込んだワインによって酩酊しているヒゲの総帥には薄いアルミだか紙だかわからないペラペラの容器へ、トマト煮込みを鍋から移すことなど困難である。見かねたビッチのマスターや司会のアキコ女史たちが役立たずのヒゲに代わり、料理の提供をサポートしようと出てきてくれる。


マンホー手作りの煮込み料理は各人の腹の中へ収まることとなり、どういうレシピなのか質問する人などもいて好評であった。マグナムボトルにて持ち込んだワインは一瞬にして無くなった。いや、無くなったというよりは蒸発したという感じであった。砂漠に水を垂らしてそのすべてが跡形もなくなるように、極寒のシベリアにて熱湯を空に撒き、それらがすべて妙なる音をたてて凍てる風に粉砕されるが如く。アッという間に終わる。


マンホーがマグナムボトルから注ぐ赤い血は、それぞれの来場者のまさに血となるべく紙コップという杯を通じて体内に吸収される。前回はプラスチックのワイングラスだったのに今回は紙コップかよと異議を申し立てるものもおらず、儀式は粛々と行われるのであった。


余談であるが前回使用したプラスティックのワイングラスは耐久性に難があり、多数がバキバキに割れてしまいマンホーがさっさと全て捨てたそうである。


しかしながら紙コップには「THE LINKS」なる文字と、互いが手を繋ぐような紋章が刻み込まれている。繋ぎそうで繋がない、繋ぐ気があるのかないのかわからない。この紋章の深みはここにある、ヒゲの総帥などはこの紋章がそのまま東京オリンピックのデザインになれば良いと考えてた一派の一人であるが実現はしなかった。ただ、この一派というのも実際は何人いるのか知れたものではない。


「異議あり!」


油脂にまみれたようなダミ声がジンクス会場内に響く。皆が声のする方へと注目する、その視線の先にいるのは壁にもたれかかって鎮座している豚王タッキーである。


アラタメ堂のご主人がすかさず豚王にマイクを渡す。このマイクはアラタメ堂のご主人が会場に来る前にダイソーで買ったものであり、もちろんのこと電源など入りはしない紛い物である。ところが不思議なことに豚王がこのフェイク・マイクを握った瞬間、PAブースを通じて館内アナウンスとして声が流れるような錯覚に陥る。


「はい、タッキーさん」とアラタメ堂が前回覇者に発言権を渡す。マンホーのプレゼンテーションは稀代の名ワイン「オーパス・ワン」を基盤とした演説であった、その牙城を王者が崩しにかかる。


「マンホーさんが持ってきたワインはブラインド・テイスティング(目隠しをしての味見)でオーパス・ワンに勝ったとありますけれど、実際のところオーパス・ワンはその年々によって結構いろんなワインに負けてたりするんですよね。つまり、そのプレゼン自体があまり意味がないんじゃないですか」


「えっ?そんなもんなの」と揺らぐ聴衆、動揺する民衆たちの反応と反比例してタッキーはしてやったりの笑顔を浮かべる。


赤組の前半のプレゼンテーションは終了した。


そして、いよいよ白組の前半のプレゼンテーションが始まろうとしている。なんと先攻は前回ワイン会覇者の豚王タッキーのプレゼンである!






このようにして開催されましたワイン会で御座います。お話しはこれより佳境に入ることとなりますが、たった半日の出来事を何故に何日にも分けて物語にするのかと言われる御仁もおられるやも知れませぬ。私としましても、それほど多くを知っておるわけではありませんから、これでも出来るだけ掻い摘みまして、端的にこの日のことをお話ししているのでありますけれど、どうしても長くなってしまいます。


とはいいましても世の中でもそのようなことは常で御座います。レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯は67年で御座いましたが、そこから500年もの間、彼のことを語る人は絶えません。67年のことですから67年かけてお話ししますと、その全てが抽出できるにも関わらず500年話しをしておるのです。セックス・ピストルズなどはまともに活動したのは2年と少しで御座いましたのに、今でも語り継がれる存在で御座います。オアシスに至りましては、モーニング・グローリーというアルバムに収録された50分03秒ほどの出来事ですのに、今でも世界中のどこかで彼らの歌が歌われておいでです。さらに言いますとa-haなどは3分48秒の出来事にも関わらず、今でもその透明感ある声によって存在感をお持ちであられます。


ある事象におかれまして、それに費やされた時間などは特に問題ではありませんことを皆さまはよくご承知のはずで御座いましょう。費やされた時間よりもその事象について論じられた時間の方が物事の価値を決めるのでありましょう。


さて、次回はいよいよ拓也さまの出番で御座います。ジンクスへ到着早々に近場の餃子の王将へ向かった賊軍のお二人、ニンニクとニラの匂いをぷんぷんさせながら会場へ戻って来られまして、その手には餃子が10人前ほど、エビチリが6人前ほど白い袋にぎゅうと押し込まれているのでありました。


それでは長話のついでといたしまして、私が独自のルートで仕入れましたワイン会までのソムリエ4名さまと司会の哲也さまのやりとりを少しだけここへ転載いたしましょう。





2019年01月11日


シロー:チーム戦の方が盛り上がりそうなので、僕はチーム戦に賛成です。
チーム戦にした場合、北浜ナンバーワンソムリエはどうします?


総帥:はい、チーム単位でのナンバーワン称号となります。そのあとは、くにおくんのドッジボール部のように、外の最強ペアたちと戦いをリンクスで繰り広げることになります。将来的には国際大会がリンクスにて行われるようになります。そしてそういうときには、チーム・リンクスとしてこれまで敵同士だったソムリエたちが仲間になるという、ドラえもんの大長編的な感動、魁!男塾的な予定調和の爽快感が期待できます。


タッキー:財力バランスからみて、僕とマンホーさんが別れた方が良さそうですね。


アラタメ堂:アモリさんとマンホーさん、タッキーとジローちゃんかな


タッキー:僕もそれがベストかと!


総帥:チーム戦となるなら、僕とマンホーのリンクスチームと、タッキーとシローの外様チームだね


タッキー:シロー!LINEで作戦会議トークルーム作るぞ!


アラタメ堂:盛り上がるように司会、頑張ります


総帥:マンホーさん、豚肉とシローを捻り潰してやりましょうぞ!東南の風は我らに吹く


タッキー:こちらもう既に作戦会議始まってますよ!捻りつぶしてやります。


マンホー:おー、見ない間に面白そうな話になってますねー。チーム戦、望む所ですねー。



この時点から、ワイン会前日まで皆さまはイベントに向けていろいろな議論を交わすこととなりますが、拓也さまのみ忽然とメッセンジャーから姿を消されることとなります。雄弁の銀、沈黙の金とのことわざも御座います、念には念を重ね、リサーチにはリサーチを重ね、下準備に労苦をいとわずの拓也さまで御座いますから、この時も水面下ではシローさまとの綿密な打ち合わせ、名人のチェスのような駒運びが行われているものと無学な私などは大いに考えておりました。


ところが、事実はどうもそうではなかったようなのです。試合終了後、シローさまよりあのような苦言が出てくるとは、私などはまさか思いもよりませんで御座いませんでしたから・・・。


第三話へ続く


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by amori-siberiana | 2019-01-28 22:16 | 雑記 | Comments(0)

早いものであります。年が明けまして、しばらくが経過したというのは私にもわかるのですが、気がつけばすでに一月も終わりというではありませんか。私、この一か月で何をしましたでしょう。2019年の12分の1を終えまして、何をしてきましたでしょう。甚だ何もしてはいないことに気がつきますと、心はちくちくと痛むようで御座います。


さて、「盛者必衰のことわりをあらわす」という言葉もありますように、いつの時代になりましても旧時代の英雄は新時代の革新者によってその地位を奪われ、後の時代の子たちへの悪しき教訓として名を残すことが繰り返されております。そしてこの凍えるような寒い1月27日、北濱はリンクスにおいても同様のことが起こりましたので、それについてお話しいたしましょう。なに、つまらぬ話しですので真剣に読むに値しないと思われましたら、さっと流して下さいますよう重ね重ねお願い申し上げます。





2019年 01月 27日 12時00分




ヒゲの総帥が北濱にあるジンクスに到着する。地下鉄の駅からこのジンクスへ来るまでに、手に持った荷物を三度も地面については「はあ・・・」と言いながら、また歩き出しほうほうの体でジンクスへたどり着く。本日、このジンクスを会場としたワイン会が行われることとなり、ヒゲの総帥はその参加者なのだ。


両手には3リットルずつ入った自家製サングリアが2瓶。そしてこれまた自家製のオランジェットが銀のボウルにオレンジ8個分ほど詰め込まれている。さらには止めとけばいいのにギターまで担いでいるし、登場するタイミングもなさそうだが慢性的に持ち歩いてるノートパソコンもあり、総重量はここ最近では経験がない重さである。


せめてもの、雨じゃなくて良かったな。と心のなかで明るい方向のことを横切らせるところ、この男が根本的には楽観主義者であることの証明かも知れない。ところが本人に言わせてみると、それはそれは自分ほど悲観的な人間もいないのだ、よければ聞いてくれとクドクド話しをしだすのだから人間はわからない。


ジンクスへ到着すると既に会場のオーナーであるマンホーがいる。コーヒーを飲みながら柔らかそうなパンを頬張っている、冬ではあるが日中ということもあり、大きく開放的なジンクスの窓からこちらも柔らかな陽光が差し込んできており、それだけで今日のイベントが無事に執り行われるであろう確信が持てる。


しばらくするとシローも到着する。お互いにどのようなワインとどのような食材を持ってきたのかチェックしながら、シローがこれは先に開けましょうとスパークリングを開栓する。シローに促されるままマンホーとヒゲの総帥はそれぞれ紙コップを持ち、発泡する酒を前に乾杯をしてゴクリと喉をならす。


あとは前回のワイン会覇者の豚王タッキーが来るのを待つのみであるが、なかなか来ない。そのうちタッキーから連絡がくる。


「荷物多いからタクシーで向かってるけどマラソンのせいで全くたどり着けない泣」


そう、今日は大阪マラソンの日である。この大阪マラソンなる食わせもののおかげで大阪市内の主要な幹線道路は封鎖・分断されることとなり、これまで容易に行けていた場所へすら難所を渡航するような面倒臭さを生じることとなる。今、まさにそのヒリヒリとしたケとハレの狭間のぎすぎすした境界線の渦中にいるのが豚王タッキーであるのだ。


豚王からの必死の叫びが「0」と「1」に記号化され電波を通じて文字を再構築して、残る三者の携帯電話へ届いたころ、シローは脇目も振らず黙々と自身の持ってきた赤ワインをデキャンタしている。マンホーとヒゲの総帥は日本の宗教界の在り様と信仰心の模様がいかに現代を生きる日本人の精神的構造に関与しているのかを談義している。


「つまるところ、宗教が単なる通過的な儀式として形骸化していることで、僕らはどこかしら他の国の人とは無意識化での他人に対する行儀の面での選択肢が違ってくるのだと考えるのです」とヒゲをひねりながら総帥はぼんやり話しをする。


「それ、わかります。僕もずっとそういうことを考えていました。僕も言いたいこととか山ほどあるんですよ」とマンホーもぼんやりとそれに応答する。


「これ、飲んでみてください」とシローは紙コップに多少空気に触れさせた赤ワインを入れてヒゲの総帥に差し出す。総帥は紙コップに入った赤ワインを見つめて、ぐるぐると回しながらそれを口に突っ込む。


「うわっ、これ美味しい!」


「でしょ」と微笑みながら、上腕二頭筋のお化けはデキャンタに赤ワインを水墨画の滝のように流していく。赤い水の流れる滝、その透明のガラスの向こうで滴る異国の飲み物を独特な凸の容器に注ぐさまは、それこそ宗教的な儀式なようにも思えた。


ピンポーンと音がして星師匠がやってくる。今日はいつもペアとなって受付をしている宗教画のモデルの女が不在ということで、不安だろうかと思えば別段そうでもなさそうな顔をしている。


引き続いてカラカラ笑うデザイナーの忌部、司会のアラタメ堂のご主人、豚王タッキーがやってくる。アラタメ堂のご主人が持ってきたカギ付きの投票箱はなかなか秀逸なものであり、素材から受ける影響か堅牢さの印象は皆無であるが、非常に面白味のあるものであった。このアラタメ堂のご主人はこういうディティールへは徹底的にこだわってくれるので間違いがない。


ヒゲの総帥は忌部とその投票箱を眺めながら、「まるでバンクシーの作品を粉砕したシュレッダーみたいだね」と笑いあう。


「シローちゃん!行こうか!」真冬であるのに若干の汗をかきながら豚王タッキーは到着早々にシローを引き連れて近所の餃子の王将へ向かう。その動きは蛮族が敵の首都を攻撃して金品だけを奪い取り、次の目的地へ行くかのような様相であった。


「まるでイナゴのようだな・・・。」


ヒゲの総帥はやっぱりヒゲをさわりながらそんなことを思い、奥のミーティングルームへ行ってギターの練習をする。







到着はしましたものの、すぐに餃子の王将へ旅立った賊軍たち。そして何の根拠もなく思いつくままにご自身の哲学をお話しになられる、ややこしい二人組の赤組。この日のイベントを盛り上げようと尽力してくださいました人たちが集ってくださいまして、いよいよこれよりワイン会が開催されることと相なりました。


そしてこの時より前回の覇者であられました豚王タッキーこと平拓也さまの「勝ち」の算段はどんどんと軸を外れ、それはあたかも夜に降る雪のように誰も気づかぬうちに、しばしば狂っていくので御座いました。


第二話へつづく。



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by amori-siberiana | 2019-01-27 22:57 | 雑記 | Comments(0)

「イニシアを知ってますか?」


イニシア(Inisheer)というのは小さな国アイルランドのそのまた小さな島の名前であるのだが、このときばかりは島につけられた名詞ではなく、メロディーにつけられた名詞であることは問われた側にもわかった。


「ああ、イニシアはわかるよ。自分の子供のことを想って作られた曲じゃなかったか?そんなことを聞いた記憶がある」


見るからにアイルランド系白人という頑固な顔をした初老の男は少し考えたのちに、口でメロディーを歌いだす。緩やかに歌われるメロディーが太陽の見えない寒空に流れる。ああ、これが「イニシアだ」と先ほどから煙草を吸ってはゴホゴホと咳き込むヒゲの生えた東洋人は嬉しそうな顔をする。


「よければ、イニシアを演奏していただきたいのです」


東洋人はそういう。そういってはまたゴホゴホと咳き込む、どこか病んでいるのかも知れない。今日はアイリッシュ・セッションの日だ、ここいら辺に住んでいるアイリッシュの演奏ができる奴らが集まりテーブルを囲んで、グウィネスを飲みながらワイワイするのだ。世界で一番幸せな国と称されている国の小さなアイリッシュ・パブで15時から始まるのが恒例だ。


しかしながら、この東洋人は見たことがない。アイリッシュのセッションに加わる様子もない。ただただ、厚手のコートに身を包んで寒そうに一番隅っこのテーブルからこちらの演奏を聴いて、弱々しくも拍手をくる。ヒゲの生えた東洋人のテーブルには一定の量から減ることのない黒ビールとシナモンロールが突き刺さったホットワインがあるのだが、そのどちらに対しても既に口をつけることを諦めているようである。


東洋人にアイリッシュに興味があるのならセッションに参加してみるか?と仲間たちがジョークを飛ばすが彼は手で「僕にはできない」と制するだけでニコニコしながら咳き込んでいる。アイルランド系の男がマンドリンよりも一回り大きいマンドラを黒いケースに入れてパブへ来たのが14時30分であるが、そのときには既に東洋人は客が誰もいないパブのテーブルに倒れ込むように座っていた。


パブの店内は禁煙なので演奏がひとしきり終わると煙草を吸いに出るのだが、東洋人も喫煙者らしく外に出てきて煙を吐く。そしてそのときに「イニシアを知っていますか?」と彼は質問したのだった。


依頼された側の男はバンジョー弾きに「あの男がイニシアを弾いてくれと言ってるぞ」と伝える。バンジョー弾きは改めて確認するようにイニシアのメロディーをつまびく、そこへマンドラの男が乗っかる。さらにホイッスルの男もどこかしらから戻ってきてイニシアに加わる。リクエストした東洋人は目をじっとミュージシャンに向けたまま、音を耳で拾う。


フィドル弾きやマンドリン弾き、アコーディオン弾きなどもイニシアに加わり、イニシアはある何かの決断をして前進するかのようにメロディーを終える。東洋人は「イニシアをありがとう」とマンドラ弾きに伝えてお辞儀をする。


東洋人の方はパブのマスターであるキアリ氏より長居することへの許可をもらっている。この東洋人は自分に行き場がないことをキアリ氏に伝えた、外は雪が降り寒いのでここで時間を潰させてもらっていいかとお願いすると、キアリ氏はまったく問題ないからアイリッシュでも見て行けよと言いコーヒーを淹れてくれた。


東洋人は温かいコーヒーを飲み干したあと、ここはパブだからと黒ビールを1パイント頼んで飲んだ。キアリ氏はあからさまに体調が良くなく咳き込むこの東洋人に「風邪ならホットワインが一番だ」とグラスに入れた温かいワインを出す。


ヒゲの東洋人はその両方を半分ずつ飲み、キアリ氏と一緒にショートスケールのプール台で玉突きを始めたのだが、すぐにトイレへ駆け込み胃の中のものを全て戻してしまった。そこからはテーブルに座ってぐったりとするのが続いていた。この見かけない東洋人は続々と休日にパブへ集まってくる客の目を引いた。マスターはドバイを経由して遠く日本から来たというのに、この男の手荷物はショルダーバッグひとつなのだと笑いながら皆に説明する。


アイリッシュ音楽を聴きながら飲むために沢山の人がパブに来る。パブ文化なのだ。休暇に気取らずとも思い思いに人々が集う場所がパブなだけなのだ。キアリ氏はアイルランド南部のコーク出身でこちらに来たのは8年前、当時付き合っていた彼女がこちらで仕事があるというので一緒に出てきたのだという。


いつしか、この静かにただ死を待つような東洋人に牛の角のようなものが二つ渡される。この角を指に挟んでカチカチとリズムを取るくらいはできるだろうと渡されたのだ。この楽器は見た目のまま「ボーンズ(骨)」と呼ばれるとのこと、東洋人は皆が演奏しているのにあわせてカチカチする。しかし要領がわからないようであまり上手にはいかない、しばらくして彼は指で挟んで叩くことをやめてドラムのカウントのようにカチカチを続ける。


演奏が終わり周囲から拍手がなる。外は暗くなっており「そろそろ行こうか」と東洋人がバッグを肩に掛けたときミュージシャンのひとりが「最後に何かリクエストはないか?」と彼に問う。彼はしばらく考えていた、そしてリクエストはあるのだが曲名がわからないんだと伝える。


「それはどんなメロディーなんだ?」と問い掛けられるも彼は咳き込んでいてメロディーを口ずさむところではない状態なのだ。曲名がわからない、メロディーもわからないでは仕方がないなと皆が諦めかけたとき、東洋人はビールをあおっているマンドリン弾きにそのマンドリンを少しだけ貸してくれないかとお願いする。


「マンドリンを?いいよ」とマンドリン弾きは笑いながら東洋人に渡す。


ヒゲの生えた東洋人はマンドリンを弾きだす。パブには驚きの歓声があがる、「お前、弾けるのか!」と白髪頭の老人がニコニコして足踏みをする。そしてホイッスルの男が大声でこの東洋人が弾いている曲名とキーを全ミュージシャンに伝える。


toss the feathers!!the Corrs!!


東洋人が弾くマンドリンのメロディーにどんどん色んな楽器が重なってくる。パブには歓声と手拍子と足で床を踏みしめる音が鳴り響き、キアリ氏はスマホに向かって何やら今の状況を説明しながら忙しくあっちへ行ったりこっちへ行ったりして動画を撮影する。東洋人は不思議と楽器を弾いているあいだは咳き込まない、ただ、必死にメロディーを弾いているのだ。


演奏は歓声のなか終わる。東洋人の肩や背中を沢山の人が叩きながら「驚いた」と興奮気味に話しかけてくる。東洋人は照れ臭そうにしてマンドリンを持ち主に返すとキアリ氏のいるバーカウンターへ向かいお勘定をお願いする。


「病の東洋人を見かねて神が降りてきたのかと思った。あんたは一体何者なんだ、何の用事でこっちへ来たんだ」とキアリ氏は東洋人に聞く。東洋人は恥ずかしそうに「僕は病人で、自分を試したくてそれだけの理由で来たのだ。とにかく今の僕は自分を失っているのだ」と答えてお勘定をする。


この地方の店はそのほとんどが半分ほど地下にあり、窓から見る外観はすべて地面と平行線である。階段を上って地面に出るという感じは、いかにもこれから移動するのだという足取りを助長するかのようであるのだ。








by amori-siberiana | 2019-01-13 17:04 | 雑記 | Comments(0)

この度、2019年01月27日の日曜日に開催される【リンクス日曜、趣味のじかん】におきまして、前回のワイン会から本ワイン会を経てルール改正された部分がありますのでお知らせさせていただきます。


ルール改正部分は一か所のみであります。


ソムリエ各人がその評価を競うという前回大会でありましたが、今回は紅白に分かれてのチーム対抗戦となります。


チーム分けについて4名のソムリエをどう振り分けるのかアイデアを募集したところ、前回覇者の豚王タッキー(拓也様)より、「財力のバランスからみて、僕とマンホーさんは分かれたほうがいいでしょう」という暴言がお出になりましたので、それを参照にいただきましてチーム分けは以下となります。


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●紅組:『THE LINKS』革命隊


坂井 征司様 (通称:マンホー)
阿守 孝夫様 (通称:ヒゲの総帥)


〇白組:名称なし、記録上は『賊軍』


平 拓也様 (通称:豚王タッキー)
加藤 史郎様 (通称:今さらシロー)


*******************************************************************************


チームが決定して早々に白組は作戦会議用のLINEでのトークルームを作った模様で、するっとメッセンジャーから姿を消してしまわれました。


本ワイン会は前半戦と後半戦がありまして、前後半のあいだには来場者様全員での中間投票があり、中間発表ありきで後半戦に突入しまして最終の決選投票となりますので、これはドラマティックな展開になること申し分御座いません。


投票もアプリでするようにしてはどうかとのアラタメ堂のご主人から至言をいただきましたが、今回はガラケーの方もいらっしゃるでしょうしということで紙投票の用意をさせていただきました。次回からはアプリ形式での電子投票とすることも考えております。


それでは皆さま、どうぞ上記のルール改正をご理解のうえ、当日は宜しくお願いいたします。


イベント詳細は↓




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それと誠に別件ではありますが、毎年1月1日現在に大阪市在住の給与支払者がおられる事業主の皆さまにおかれましては、平成30年分(平成30年1月1日~平成30年12月31日)の給与支払報告書および公的年金等支払報告書を、大阪市船場法人市税事務所へ平成31年1月31日(木)までにご提出していただけるようお願い申し上げます。

by amori-siberiana | 2019-01-12 19:40 | 雑記 | Comments(0)




これは間違いなく、良い作品だよ」 寺山修司






この男を抹殺しなくてはいかん」 日本版画協会






真冬のニューヨークはマンハッタン。自分が想像していた立ち並ぶビルまみれの国際都市とは違う、その古びた街の埃っぽい景観にただただ圧倒されているのはヒゲの総帥。時差ボケのままホテルの窓から見下ろすマンハッタンは立ち上る蒸気が情緒を香らせ、赤茶けたレンガ造りの建物はこの街が確かにいろいろな分野の才能を生み出してきたのだという風格を感じる。


ヒゲの総帥がどうしてマンハッタンに来たのかというと、それはここに友人ができたからである。友人といってもヒゲの総帥の母親と同じくらいの年齢の夫婦。前述した二つの言葉を日本滞在時には一身に受けた芸術家なのである。


名を長谷川真紀男という。


代々、梅田の少し南側、堂島浜にて船大工を営んできたが戦災により一家は財産を失いほうほうの体で堺まで逃げてきたそうだ。ニューヨークに住みついて30年以上になるという。堂島浜といえば殿様のような笑い声をあげる男が手掛けるシェアオフィスがある辺りではなかったか。


ヒゲの総帥がGoogleの地図を頼りに長谷川夫婦のアトリエ兼マンションに到着すると、細君の晴子さんが笑顔で出迎えてくれる。それにしても道中が寒かった、ハドソン川方面から吹き込んでくる冷気は多分に五大湖を経由したカナダからの肉体を切り裂くような寒さを含んでいたのだ。


到着すると真紀男は仕事をしている。白基調のアトリエ、よく手入れの行き届いた本棚の前、大きな仕事用のテーブルにてジャクソン・ポロックの複製を方眼に細分化した紙を前に、ポロックがペイントした部分へ丁寧に「×」印をつけていっていた。×はひとつ、ひとつと賽の目上にされた□の中に埋まっていく。どのような根拠があってそのようなことをしているのか10のうち10はわからなかったが、ヒゲの総帥の目の前で容赦のない仕事が行われていることはよくわかった。


いつしかヒゲの総帥はギターを弾かなくなっていた、それよりも仕事をして稼ぐということが面白くてたまらなかった。マンハッタンで住むにあたって月々の家賃が50万くらいだと聞いても、それくらいなら住めるなと考えていたのだ。芸術に対して疑問はなかったが報われない不信感を持っていたのは確かである、青春の全てを捧げたつもりだが、一体なんの見返りが自分にあったのだろうか。気が付けば30才も半ばであった、誰よりも出遅れた社会人のスタートであったが、運だけはそのときに至っては彼に味方した。


敢えて自分が音楽をしていたというようなこともしなかったが、自然とこのご夫婦はヒゲの総帥がそういう類の道を歩んでいたことを知っていたようであった。晴子さんの方は最初にヒゲの総帥と山荘で出会ったときのことを今でも覚えているという。山荘の広い玄関口にあるソファでボケッとタバコを吸っているヒゲの男を見て、「この男は芸術家だ、若い頃の真紀男に似ている」と思ったのだと所見をいう。


芸術家としてあらゆるコンペに作品を出しては賞金稼ぎをしながら生活していた若き日の長谷川真紀男。誰よりも若いうちにニューヨークにあるグッゲンハイム美術館にて作品が飾られるという栄誉を授かるも、日本の古株から嫌われて日本を出た男。真紀男の本棚には当時の美術雑誌があり、そこには若き日のサングラスをして顎が強そうな真紀男が大きく映り込んでいる。上半身は裸でデニムのベルボトムを履き、地球儀に聴診器をあてている。なるほど年長者に嫌われそうな生意気な顔をしている。


真紀男はアンディ・ウォーホールにも噛みついた。この銀髪カツラの時代の寵児が【a】というデザインを世に出したとき、真紀男は「こいつはどうにかしてやらなくてはいかん」と使命感に駆られる、このアンディから提示されたデザインに意趣返ししなくてはと散々に考えた挙句、遂に【a´】という作品を生み出す。すると面白い人間がいるもので、その【a´】をアンディ・ウォーホール本人のところへ持って行く。


自分の渾身の【a】が【a´】にして返ってきたアンディ・ウォーホールが激怒したのかどうか知らないが、真紀男の創作した【a´】をTシャツにプリントして、それを着用するのがアンディ・ウォーホールという男のセンスとユーモアの凄味でもあり、偉大なる芸術家でもあると感じる逸話である。


他にもこの男、いや、このご夫婦には面白い話しが沢山ある。ヒゲの総帥は1ドル4セントの話しも好きだし、真紀男と一緒に行ったディア・ビーコン(巨大な現代美術館)での鉄板の逸話も大好きである。



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何より驚いたのはこの夫婦が北濱にあるギャラリー遊気Qにヒゲの総帥のギターの演奏を聴きに来てくれたことである。そして急遽の要請にも関わらず、当日にギャラリーで個展をしていた作家の笹岡氏とヒゲの総帥と真紀男の三人でほんの少しの時間でもデザイン論を語り合うことができた。お互いにその場で言葉は交わしているが、三人とも言葉に大して重きを置いていないので視線と身振りでコミュニケーションを取っていた。


それは愛すべき緊張感であった。デザインという技術をボールにドッジボールや何かの球技をしている気分であった。そして、それを興味深そうに聞いている仲間たちがいる。ああ、今の自分は青春を駆けてきた自身の行いの見返りを享受しているのだなと感じた。


またこの夫婦と会えるのだろうか。また会えるとしたらいつ会えるのだろうか。いつも今生の別れのように感じてしまうのは、何故なのであろうか。



―自分について何が書かれているかなんてどうでもいい。大事なのは、その記事にどのくらいのスペースが割かれているかだ―


アンディ・ウォーホール



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by amori-siberiana | 2018-12-12 00:54 | 雑記 | Comments(0)

ヒゲの総帥は今の時代に恥ずかしながら喫煙者である。以前の喫煙者であれば「旧国鉄時代の大赤字を補填したのは俺たちだぞ」と威張っていられたのかも知れないが、それも随分と昔のこと。今どきなかなか「汽車」という単語を耳にすることはない、ヒゲの父親などは死ぬまで電車のことを「気動車」と呼んでいた。


さて、喫煙者であるヒゲの総帥は公務中もたびたび役所内から行方をくらませ、いずこかでニコチンを体内に摂取する。森の獣道のように自分なりの通り道があり、毎日そこを往来する。


ちょうど先月くらいだったと思うがその通り道の途中、船場センタービル内に新しい店ができていたので、ちょいと覗いてみる。ギョロとした目をした愛嬌のある男と目が合う、ここの店のオーナーだろうという雰囲気ではあるが、それ以上に、どこかで見たことがある顔なのだ。


互いにジロジロ見る。


・・・。


「阿守さん?」と声を掛けてきたのはオーナーの方である、その声でヒゲの総帥の記憶もするするとジャックの豆の木を下りてくるように手元へ降りてくる。「あ!クルタニさんじゃないですか」とヒゲの総帥は声をあげる。


このクルタニという男はアメリカ村で「ギブ・ミー・アウト」というカフェをしており、この男の店で夕暮れから明け方までシベリアンにて演奏したことがある。その日、満員の客も最初はノリノリであったが、時刻が深夜未明になると音楽など聴いているのかどうかわからない状態でスライムのようにテーブルに突っ伏していた光景は忘れない。


まさかこんなところで出会うとは世間もそうそう広くはないのかも知れないと一瞬考えたが、実際にはヒゲの総帥自身が何年も大して動いていないだけで、世間の広さは自分の行動範囲と比例するものだ。船場センタービルで何をしているのかと問うと、アニメの原画展を任されているとのことだった。


さて、土曜日のことである。


ヒゲの総帥は星師匠の叔母がする会を見学に行くため北濱を発つ。何の会かといえば語り部の会であり、語り手各人がそれぞれ民話などを話してくれるのだ、星師匠の叔母は生まれつき両方の眼球がないのであるが、それはそれは目が見えないふりをしているのではないかというくらいに旅行に趣味に仕事にと東奔西走する叔母なのだ。さらに、民話というのは実によい、ロシアの文豪やロシアの音楽家からはいつも土臭い民話の香りがするのが好きだ。


会が終わり、北濱にあるギャラリーへ戻ると鳥取の倉吉市から国造焼の四代目の山本氏とガクレガ画伯がおり、そのまま談笑に混ざる。この若き作陶の匠は非常に控えめな男であり、謙虚で慎ましいのであるが、その作品は比類なき実験と大胆さによって構築されている。


これだけのものを作るのだからよほど手先が器用なのであろうと思うからして、このブログでは彼のことを手先のヤマちゃん、または世界のヤマちゃんと呼ぶことにする。ちょうど同時期にて阪急百貨店(梅田)で開催されている陶芸展にも自作を出品しており、そちらは日曜日に見てまわるつもりなのだと手先のヤマちゃんはいう。


「とにかく、遠路はるばる北濱まで来てくれたのだ、この居並ぶ焼き物をどんどん売っていこうではないか」とヒゲの総帥は自身が先日、焼き物を星にみたてて遊んでいたことをすでに忘れているような勢いである。


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「どうやって、じゃんじゃん売るつもりなんです?」とギャラリーの女はいう。


「簡単です、割らせるのです。何人かのサクラを用意してギャラリーを朝の満員電車みたいにぎゅうぎゅうにしておきます。その様子が気になって店に入ってきた本来の客をサクラたちが押したりして器を割らせるのです。その瞬間、手先のヤマちゃんが阿鼻叫喚、ヒステリーにキレだして、買い取りしなければ収拾がつかないように演じればいいのです」と世界で最悪の案を献策するヒゲの詐欺師。この案に一同は爆笑するも却下される。


「それは詐欺じゃないですか」とギャラリーの女も口に手を当ててクスクス笑いながら、視線で他のアイデアを示せとヒゲの総帥にプレッシャーをかけてくる。


「なるほど、先ほどのアイデアは確かに極端でありますので、ソフト路線にした第二案をお伝えしましょう。まず、客が来ます。そしてどうぞどうぞ振る舞い酒ですと国造焼に日本酒のいいのを汲んで客に飲ませます。ああ、これは美味しいお酒だなとなり客が帰ろうとすると、ヤマちゃんが阿鼻叫喚、ヒステリーにキレだして・・・」と身振り手振りを加えてここまで話していると、ギャラリーのドアが開き、談合チンコロクラブを主宰するファラオがやってきた。


ヒゲの総帥は鴨がネギを背負ってきたなと思う。そしてここにいるファラオ以外の皆も同じように実験台にのぼるべき被験者がやってきたなと感じる。


「ファラオ、日本酒でいいのがあるんだ、まずは一献、好きな器を選びなさい」とヒゲの総帥は先日の演奏会の折にツッチーからいただいた風の森をぽんと空ける。ファラオは聖杯のような器を選びそこへ日本酒を注ぐ。


「えっ、もしかしてこれ僕が買うんですか?」とファラオは起き抜けの猫のような細い目をこちらに向けるが時は既に遅しである。


ファラオ 国造焼 一点お買い上げ


すると醤油売りの女もやってくる。「さぁ、醤油売り、どの器で祝杯をあげるのかね」とヒゲの総帥の勢いはいよいよ止まらない。自身の策が当たったのだ、赤壁に東南の風がびゅーびゅーと吹いているのである。「ちょっと、選ぶ時間をください!」と醤油売りの女は自身がどういう状況に置かれているのかさすがに察して選ぶ。


醤油売りの女 国造焼 一点お買い上げ


自身の策がここまで的中するかと酔いしれていた総帥の耳にこんな声が聞こえる。「それで、阿守さんはどの器にするんですか?」とギャラリーの女が訳の分からないことを訊ねてくるのだ。ヒゲの総帥は「これは・・・、裏切られましたな」と心の中で思うものの、ここで器量が悪いと皆にいわれては甚だ北濱の諸葛孔明の今後に関わるので、よくよく吟味して国造焼をヤケになってぎゃーぎゃーわめきながら買う。鈍色をしたぐい吞みで、買うならこれしかなかろうと思うのだ。そしてこれしかなかろうに酒はなみなみと注がれる。


ヒゲの総帥 国造焼 一点お買い上げ


さて、それではみんなで乾杯しようじゃないかとなる矢先、「それでヤマちゃんは、どれで飲むのですか?」とヒゲの総帥は世界のヤマちゃんに問いかける。


「えっ?僕・・・ですか?」とヤマちゃんは自作の陶器をまじまじと見渡す。まさか自分で作ったものを自分が買わされるとは思ってなかったようだが、それは完全に油断である。ファラオは狂気の顔を浮かべヒゲの総帥はニヤニヤして「さっさと選べ」と目で促している。


「じゃあ・・・これで」と小さめの瑠璃色の背が高い猪口を選び、そこへ酒が注がれることとなる。


国造焼四代目 世界のヤマちゃん 国造焼 一点お買い上げ


「残るはガクレガ画伯ですな」と皆の視線が画伯に注がれる。画伯は「母親のために・・・」と一言を遺して花瓶を買う。


ガクレガ画伯 国造焼 一点お買い上げ


自称303才のギャラリーの女は自身の国造焼をすでに手中に持っていたので、これにて全員が手に国造焼を持ち乾杯となろうというタイミングで「今日もまた皆さんお揃いで、これは何の集まりなんですか」とブツブツ言いながらやってきたのは、アラタメ堂のご主人である。


もう言葉もいるまい。


アラタメ堂のご主人 国造焼 一点お買い上げ


ツッチーからいただいた日本酒はすぐに無くなり、追加でワインやハイボールを器へ放り込んでは、一旦、器に入れることによって柔らかくなった酒を味わい、夜は更けていくのであった。


世界のヤマちゃんは自身が四代目となり家業を継ぐまで、ずっと映画監督になりたかったのだと語った。映像の学校や脚本の学校にも通っていたのだという。以前は小さいながらも映画館ひとつを一人で切り盛りして、映写から何から何までこなしていたという。


「ニューシネマパラダイスみたいですね」とヒゲの総帥がいうと、まさにそのとおりでしたと照れ臭そうに肩をすくめるヤマちゃん。


この男の手から生まれた作品は飾られるだけではなく、人の用となるために生を受けたものばかりである。そしてそれらは土臭く神話のようで美しいのである。






近代風な大都市から遠く離れた地方に、


日本独特なものが


多く残っているのを見出します。


ある人はそういうものは時代に後れたもので、


単に昔の名残に過ぎなく、


未来の日本を切り開いてゆくには


役に立たないと考えるかも知れません。


しかしそれらのものは


皆それぞれに伝統を有つものでありますから、


もしそれらのものを失ったら、


日本は日本の特色を持たなくなるでありましょう。


「柳宗悦」


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国造焼き

https://www.pref.tottori.lg.jp/30752.htm

by amori-siberiana | 2018-11-22 17:04 | 雑記 | Comments(0)

宅配ピザのチラシが落ちていた。特にすることもなかったのでそれを熟読するヒゲの総帥、だが凡庸なる彼の頭ではピザの値段が高いのか安いのか、さっぱりわからない。それというのも原因はそのチラシについているクーポンである。こんな話しを書いているとピザでも食べたくなるのだが、目の前には毒々しい色をしたコーヒーがプラスティックのカップに入っているばかりである。


ヒゲの総帥はピザといえばマルゲリータしか食べないといってもよい。この牡蠣の殻のように閉じこもった男は、マルゲリータこそ最高最上のものであり、それ以外は呪われた邪悪な食べ物くらいに思っている。要するに偏屈な男なのだ。偏屈ではあるのだが決して近視眼なわけではなく、いつもかけている眼鏡は伊達である。


ということは、まず最初にピザのチラシを見るときマルゲリータの値段を閲覧する。1800円と書かれている、ところがチラシについているクーポン①を使うと30%OFFの1260円になるのだ。さらにチラシについているクーポン②を使うとピザ一枚を頼めばさらにもう二枚が無料でついてきて2700円になるという。しかしながら、マルゲリータは1800円なのでこの無料といいながら強制的に二枚ついてきて2700円を払わせるというのは、ちょっと変ではないかしらんと首をかしげる。


さらにクーポン③を使うと、曜日限定で二枚目が無料になる。いよいよピザをフリスビーのように放り投げてきたなとヒゲの総帥は思いながらニヤニヤする。さらに店頭まで取りに行くと無条件で二枚目が無料になるそうなのだ。ヒゲの総帥はうんうんと頷きながらチラシを手元から離す。彼の頭ではどのクーポンを使うと自己の損得勘定を満たすためにベストな選択なのかがわからない。


普通に買うのが一番損をするのだろう、かといって、併用してはならぬと厳しくしたためられたクーポンの規約を読んで財布と胃袋のそろばんを弾いてみても解が出ない。一般人に向けられたピザのチラシがいよいよ外資系生命保険会社の「ライフプランナー」が組み立てた芸術的で複雑極まりないプランにも見えるし、サブプライム証券のように結局何か悪辣なものを華麗に見せかけているようにも見える。


「この値段設定を組み立てたのは、相当、数字に強い人間であろう。大数の法則を基礎として最新のデータを駆使して作り上げられた逸品だ」とヒゲを触りながら唸るが、最後には「つまらん」といって放り投げる。正確にはつまらんではなく、わからんなのであることは自分でも知っている。


さて、先日の金曜日のこと。


ヒゲの総帥は役所を終わらせたあと、青山ビルのギャラリーへ消える。ギャラリーの中にある机にパソコンを置いては、これよりフィリポ・ロマネスク探偵社の開業だと大いに威張っている。ギャラリーではいつものように女オーナーとガクレガ画伯が談笑している、大体はガクレガ画伯が女オーナーをからかうのであるが、この女オーナーは笑いが始まると止まらなく、顔を真っ赤にして笑うのである。


自称303才の女オーナーが中学生だった頃、同じ列に並ぶ自分の真後ろの男子生徒がいつも面白いことをいうので、振り返っては彼ではなく自分が教師から注意をされるのだと話してくれた。ヒゲの総帥はそのノスタルジーを傾聴しながら、大体で享保15年くらいの話しなのだろうと目算していた。


ヒゲの総帥は談笑している二人の部屋を抜けて、探偵執務室にてパソコンをにらみつける。にらめばにらむほどまるで仕事が入ってくるかのような勢いであるが、そんなこともなければ、そんなつもりもない、「人生ケセラセラさ」とはどこぞの出会い系サイトにはまったおっさんが初対面の人と挨拶があるごとに呟いていた名言である。


最近、内装を新たにしたギャラリー遊気Qの奥の院は「サロン・ド・バロンダール」と命名されるに至りて、さらには額のなかにサロンの看板すら貼られてある。デザインをしたのは誰なのかわからないが、紙の出力したのはカラカラ笑う男である。ここ最近、青山ビル内に提示される風変わりなチラシは全てこの男の仕事によるものである。青山ビルという国登録有形文化財をキャンパスにしてやりたいようにやっているデザイナーであり、ガクレガ画伯とは旧知の仲であるとのことであった。


サロンではギャラリー女からモデル役を請われた星師匠と天文台の女がインターネット販売用の写真を撮影している。この二人の星好きは相当なもので、前者は天文博士の鳴沢博士から取材の助力を請われ、後者はこれまでのキャリアワークを捨てて天文台に居座っているのだ。


いつしか、ギャラリーにはカラカラ笑うデザイナーの男とファラオもやって来る。ギャラリーの女が帰ったその瞬間からここは酒が飲めるギルドとなるのである。


酒を片手にファラオがいう、「オリオン座ってどれなんですか?」。


ヒゲの総帥は面倒くさそうに「なんだ、ゲームばっかりやってるから、そんなことも知らんのだ」とぶっきら棒に返答して、ファラオを夜空の見えるところへ連れ出すが、どうにも曇っているのか光害なのかオリオン座すら見えない。


二人はギャラリー内に戻る、ヒゲの総帥は何とかして無知蒙昧たるファラオにオリオン座を教えようと、ギャラリーにて展示されてある国造焼四代目の皿と杯を使ってオリオン座を配置する。


「いいかい、ここが一等星のベテルギウスだ。オレンジ色に輝くこの星はもしかするとすでに爆発してるかも知れんのだ。そしてその斜め反対側にあるのが同じく一等星のリゲルだ。このオリオン座が素敵なのは大星雲を隠し持ってるからなんだ」とヒゲの総帥は皿をガチャガチャやりながら説明する。


「なんですか?そのオリオン大星雲って」とはファラオ。


「オリオン座の三つ星がわかるかい?」とヒゲの総帥はやっぱり皿を動かす。


「ここですか?」とファラオは真ん中の三つ星を指で差すが、残念ながらそこではないと、新たに小さな器を三つほど中心より左下側へ並べる。


「ここに何があるんですか?」とファラオは淡々と聞く。


「ここに望遠鏡を向けてみたまえ、それはそれは見事なバラのような色彩の大星雲が広がっているのだよ」と得意げに語るヒゲの総帥であるが、ファラオやカラカラは未だにピンと来ていない。


「これです」と自身のスマホを取りだして、迷える彼らに大星雲の何たるかを示したのは天文台の女であった。一堂から「おお」という声があがる。「これが本当にここにあるんですか?」とファラオですら前のめりになる。


大体、ギザの三大ピラミッドはオリオン座の賜物だと言われているのに、オリオン座に無知な王など存在してはならないのだ。その無関心がそのうち「パンがなければ、ケーキを食べればいい」というような発言に結び付くのではないかと空恐ろしく思う。


「これは?」と星師匠が天文台の女に訊ねる、どうやら自身で撮影したものだと天文台の女は教えてくれる。カラカラ笑う忌部は興味あるのかないのかわからない目で遠くを見る目つきをする。


「いいかい、古来、星の動きを知るということは自分たちの生きてる世界を知るということだったのだ。つまるところ、全ての学問の基礎ですらある。星を読むということで人は繁栄してきたといっても過言ではない」とヒゲの総帥がファラオについてうんちくを語りだしたとき、遊気Qのドアがギイと開く。


知らない男である。随分と酔っぱらっているそうだが、聞くところによるとフィルムを現像できる暗室ラボを持つ写真家の男であり、ギャラリーの女とは懇意なのだそうだ。名前をマサ後藤という。


いつしかマサ後藤も話しに加わることとなり、話題は星空から写真に移転する。


酔っぱらったヒゲの総帥は「おお、貴殿こそ北濱のマン・レイであり、メイプルソープであり、北濱のグルスキーであるのだ」と滅茶苦茶なことをいう。マサ後藤もうやうやしく称賛を受けて、ギヒヒヒと笑う。


「こんな夜中なのに遊気Qの電気がついてるから、なにかあるぞと思って入ってきた」とマサ後藤は自身の行動原理が好奇心のみによるものだということを明らかにする。


天文台の女も以前の総帥のブログではカメラマンの女だったし、カラカラ笑う忌部も写真の腕は相当である、そして何より被写体としては他では得がたい資質を持ったファラオがネギを背負った鴨のように鎮座しているのであるから、これは皆でファラオの撮影コンテストをしようということになる。


その夜、青山ビルからは薄気味の悪い笑い声が絶えることがなかった。




君が、君のバラの花をとても大切に思ってるのはね、そのバラの花のために時間をいっぱい費やしたからだよ。

「星の王子さま」より



マサ後藤の写真工房

http://www.geocities.jp/qnrwd966/



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by amori-siberiana | 2018-11-20 20:19 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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