カテゴリ:雑記( 237 )

北濱にあるジンクスにて、吟遊詩人のウォルセア・アスカと久しぶりに会った。彼女の心配事はふたつある、まずひとつは同居しているフェレットの容態、そしてもうひとつはこの日曜日に控えているライファンにおける天候模様である。ライファンというのは「LIFE is FANTASIA」の略称でRPGの世界を体感するイベントだ。


ピアノ工房の軍人もジンクスへやってきて、ヒゲの総帥を交えて三人でソファ席にてなにやら相談をしている。何ができあがるのやら。


話しは少し時間が巻き戻る。ヒゲの総帥は役所を定時に退庁後、ツタの絡まる青山ビルにあるギャラリー「遊気Q」へ向かう、ギャラリーには自称302才の女がおりヒゲの総帥によく冷えた麦茶を出してくれる。ヒゲの総帥はギャラリーにて売っているクッキーを勝手にとり、袋を開けてはソファにもたれてガリガリと容赦なくかじりだす。ギャラリーの女はその様子を見ながら「あなた、それ、売り物なんですよ」と手で口を押さえながら笑うのであるが、ヒゲの総帥はやっぱり容赦なくガリガリやってる。


そういえば、とヒゲの総帥が話しをしだす。


「そういえば、ここへ来る途中なんですけれど万作さんとお会いしました」と。万作というのは淡路町にあるクント・コロマンサというカフェを経営している、ちょんまげ頭の版画家、その名を柿坂万作という男である。雨降りしきる堺筋をヒゲの総帥が歩きながら北上していると、何者かの視線とぶつかる。ヒゲの総帥が視線をあげるとそこには首をすくめた格好の万作がこちらを見ているではないか。


「万作さん、傘が歪んでますよ」、「あ、阿守さん、へえ、歪んでしもうとりますな」というだけの会話であったが、どうして堺筋の西側に万作がいるのかは容易に想像がつく。万作の日課といえば近くのコンビニでの漫画の立ち読みであったのだが、そのコンビニが本棚の陳列スタイルを変えて漫画を置かなくなった。自然と万作は立ち読みができるコンビニへ移動するわけで、それで「遊気Q」の斜め向かいにあるコンビニへ来るようになったのだ。


さて、ヒゲの総帥は本題だとばかりにギャラリーの女に自分の脳みその中にあることを告げる。それは【アモリのつもり】という名称をつけた何らかなのだ、名称の発案はソファの隣に座るギャラリーの女なのだ。


しかしながら、ヒゲの総帥の話しを聞くや否や「いやですよ、いやですよ」とギャラリーの女は手で制していうのだが、ヒゲの総帥は説得を続ける。


「それならあくまでお手伝いという形であれば、いいですわよ」とギャラリーの女が仕方なく譲歩してくれる、ヒゲの総帥はその言葉を聞くや否や手を打って喜ぶ。その模様は子供が嬉しそうにはしゃぎまわる姿と一緒である。


「では、話しを進めてまいります」と帽子を手にとりギャラリーの女に向かってぺこりとお辞儀をしてヒゲの総帥は青山ビルの裏口から出て行く、そしてジンクスへ到着するという足取りであった。


吟遊詩人の女との打ち合わせも終わり、そのままピアノ軍人と一緒にヒゲの総帥は以前から気になっていたお好み焼き屋へ入る。予約で満席なのだが雨の影響による列車のなんたらかんたらで予約客が来ないので入って構わんといわれ、そのまま入る。この軍人とはおよそ25年の付き合いであるが、びっくりするほど考え方や感じ方が噛み合わない場面が多い。しかしながらお好み焼きはきちんと鉄板の上で切り分けて二人で食べているのだ。その切り分けること入念であり、絶対にどちらが大きいとか小さいで喧嘩をしないよう巧みに専用のコテで半々に切り分ける。


「以前、ブライアン・イーノとダニエル・ラノワにインタビューした奴がいて、こんなことを彼らに訊いてたんだ」と日本酒を飲みながらヒゲの総帥は軍人にいう。


「ふん」とだけ言い、軍人はその切れ長の目で話しを前に進めてくれと促す。


「インタビュアーがあなたたちはレコーディングの環境も優れた場所を自由自在に使える。最先端の機器も持っている、それだけ恵まれた環境があることについてどう思うのか?みたいなことを訊いたんだ。その質問への彼らの回答が素晴らしかった」


「どんなん?(訳:どういうふうなの?)」


「確かに私たちは環境に恵まれていることは確かだ。ただ、これからU2のレコーディングをするんだけれど現場には古いテープレコーダーしかないんだよと言われれば、私たちはそのテープレコーダーだけで傑作のアルバムを作るだろう。もちろん作る自信はある、創意工夫してね。そのためのチームなんだから。と言ったんだ」とヒゲの総帥はいう。


軍人は追加注文した焼きそばを食べながら、頭のなかで逡巡して、そして納得したのか焼きそばを胃の中へ放り込んでいく。


「僕はそのインタビューを読んで、なんだか世界が明るくなった気がした。救われた気がした、なるほど機会は常に平等なんだと思った。これは僕もなんかできるぞと感じたのだ。そのインタビューを読んだ当時、自分の将棋盤のマス目が9×9だったのが、90×90くらいに感じられるくらい素敵な言葉だったのだ」とヒゲの総帥は手振りを交えながら軍人に向かっていう。


話しはいいところなのだが、ヒゲの総帥は次にゲームセンス・ゼロの女ことアシムと打ち合わせがあるので、店を出てジンクスの前へ軍人と移動する。しかしながら話しは尽きないのでジンクス前でヒゲの総帥と軍人はあれやこれやを話し出してしまう。アラタメ堂のご主人、ファラオ、そしてアシムがジンクスから出てきても二人の立ち話しは続くのである。


アシムは打ち合わせよりも餃子を焼きたいのだ、餃子を持ってきているのだ、餃子を焼かせろとやかましい。アラタメ堂はコロマンサへ行き、ファラオも山の向こうへ今日は帰るという。30分だけと時間を区切って打ち合わせをして、後は餃子でもなんでも焼くがいいとアシムを「マギー」へ連れて行く。軍人は帰る。


30分もあれば十分だとヒゲの総帥はアシムと打ち合わせをする。「あなたはアシムだ、髪の毛がなくなってもアシムである。右手がなくてもアシム、下半身がなかったとしてもアシムだ。ならば、どこまで切り刻めばアシムはアシムではなくなるのか。つまりアシムの最小単位はどこになるのか」とヒゲの総帥はアシムに問いかける。


「んなの、心っすよ」とアシムはいう。「そういや、この前、阿守さんに言われたことほんのちょっとわかってきたんっすよ。自分の器は自分で決められないってことです」とアシム、確かサラリーマン金太郎かなにかに書かれていたセリフをヒゲの総帥がそのまま転用したのではなかったか。そしてアシムはカウンターでそわそわしだす、グラスに注がれていたウイスキーのロックはロックだけを残して阿呆のようになっている。いよいよそわそわも限界だ「すんません、おかわり!」と右手のひとさし指を一本あげて女オーナーにアシムは自身のアルコール欲求を伝える。すっかり30分は過ぎている。


どんどんとマギーの階段を下りてくる足音がする、振り向くとカラカラと笑う不動産広告デザイナーの忌部がやってくる。飄然たること柳の如し、湿気で髪の跳ねること「π」の如しという感じでバーカウンターに座る。座るというより、とまる。そして忌部がマギーに持ち込んできたものに一同は爆笑する、「こいつはいいな」とヒゲの総帥は腹を抱えて笑い転げて、アシムは「5秒、見てられないっすね」とケタケタ声をあげる。その模様を見ながら「お前ら、実は世界はすでに終わってるんだぞ」と平気で言いだしそうな顔をする忌部。


さらにどんどんと階段を下りてくる足音がする、やってきてのは新たにパンチパーマを巻きなおした黒ずくめの男こと冷泉であった。そして無法松先輩とアラタメ堂のご主人もやって来る。「やっぱ、バーカウンターがあるっていいっすよね」と無法松先輩は子供のようにバーカウンターの横についている、馬の紐を引っ掛けておくための鉄製のバーを押したり引いたりする。


押したり引いたり、その振動がバーの一番端にいるヒゲの総帥にも伝わってきて、まるで海だなと思う。


外に出ると雨は俄かになっており、信号機の光が黒くつるっとした路面に映り込んでいる。なんだか気持ちが晴れるよい週末であった。都会へ出て来て22年、ヒゲの総帥はまだ都会人にはなれていない。都会人か何かもわからない。


すべてはファラオの名のもとに


d0372815_11231441.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2018-07-07 11:23 | 雑記 | Comments(0)

オタヴァ・ヨのワークショップのあと、冷泉と一緒に阪急電車へ乗り込み揺られる。慣れないダンスのレッスンであったが、最後の最後に登場したグルグル回るやつは三半規管に自信のないヒゲの総帥にとって酷な仕打ちであった。


目が回るのがなかなか元に戻らないまま、電車にガタゴトと揺れているとなんだかとても疲れてくるのであったが、伊丹からの阪急電車はそれなりに空いていたし北濱へ帰るにも乗り換えが幾度かあるので最悪の事態は免れた。


冷泉と一緒にコロマンサへギターを取りに行く、冷泉は壮絶な二日酔いだったにもかかわらずそろそろ一周回って気持ち良くなってきたそうで、コロマンサでお馴染みのセット(ウイスキーのストレートをハイボールをチェイサーにするというもの)を頼む。店には醤油売りの女が来ており、つい先ほどまでアリスという女が来店していたのだと教えてくれる。


コロマンサまで来る道中、珍しくも不動産デザイナーの忌部からヒゲの総帥のところへメールが届いていた。内容は「麻雀したいなー」というものであったが、ご存知のようにヒゲの総帥はグロッキー状態なので、その様子を見かねた冷泉からも「阿守さん、僕を理由にお誘いを断ったらどうですか」と心配される始末であった。


しかしながらヒゲの総帥は麻雀に参加するためにコロマンサで冷泉と別れて、堺筋を横断して未明の船場へ向かう。向かうのはもちろん大正ロマンの名残りを醸し出す船場ビルディング、忌部の会社のあるところだ。


到着するとビルディング全体を統括する玄関口は閉まっており、忌部がトボトボと奥から玄関口へ歩いてきながら内側から自動ドアを開けてくれる。「待ってましたぜ」とカラカラ笑う忌部、合流した二人は吹き抜けになっている船場ビルディングの中庭を歩きながら奥へ奥へ行く。昔ながらの引き戸を開くと、見たことのある顔がすでに応接ソファを陣取っている。


ゲームセンス・ゼロの女ことアシムである。「アモさん、遅いっすよ」と一声を発するアシム、最近はファラオの名刺、ディエゴの名刺、平尾先生の名刺などをデザインしてアラタメ堂の挑戦状のリーフレットなどもずっと手掛けてきたことにより、この界隈ではちょっとした著名人である。名刺といえばアッシーという相場があと一息で出来るのではなかろうかという感じである。ただし、ファラオの名刺はパラオになっているのだが。


聞くところによればヒゲの総帥が来るまで、二人で麻雀を特訓していたのだというではないか。BGMには延々とB'zが流れている、ヒゲの総帥は頼むからとBGMをB'zから長渕剛の「Captain Ship」に変更してもらう。


長い曲である、徐々にテンションが上がっていく剛の声はラヴェルのボレロやラ・ヴァルスを連想させる。


「生きて!生きて!生きて!」


「生きて!生きてぇl生きてぇ!い・き・ま・く・れぇえーー!!!」


この部分はボレロでいうところの転調部分であろう。ボレロ初演のとき、ある音楽評論家がコンサートに遅れて会場に駆けつけると知人がコンサート中にもかかわらず会場の外でいることに驚いた。どうして演奏を聴かずに外にいるのだと問うたところ、「コードが変わるのを待ってるんだよ」と答えたという話しが残っている。


エスプリに富んだ言葉ではあるが、ちょっと出来過ぎているようにも思うも、それだけラヴェルが愛されていたという証拠でもあろう。


もちろん、麻雀はヒゲの総帥の一人勝ちである。アシムは「うわー」と悔しがり、忌部はやっぱり水気のない笑いでカラカラという。とっくに日にちは次の日となる、シェヘラザードの蠱惑的な話しも終わっておとぎ話のなかでも終電が無くなっているだろう頃、麻雀の会は終わる。


先日、サッカーを観終わったあとにタッキーと歌ったニルヴァーナはなかなか良かった。試合が終わったあと、ビッチの姐さんが何と言葉を発するべきか迷っている二人に対して「こんな感じ?」とテレビにカート・コバーンの顔を映してくれた。


そのあとタッキーはジョニー・キャッシュが歌うナイン・インチ・ネイルズの「HURT」を皆で聴かないかと提案する。皆、了承。


静かに聴く三人の周囲にジョニーの優しくしわがれた声が通りすぎる、洋服を貫かない声なのにどこを経由してかわからないが胸に入ってくる。この声が出るまでにどれほど酒を飲めばいいのだろうと恐ろしい想像をする。


これは、多分、美しい。


d0372815_20545123.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2018-07-04 20:55 | 雑記 | Comments(0)

Otava Yo (オタヴァ・ヨ)


日本語の韻に親しんでいる日本人からすると、どうにも力の入らない名前である。


その意味をギター弾きのアレクセイに問うたところ「草刈りのあとって意味さ」とタバコの灰を公演ホールの庭木に落としながら返答する。ヒゲの総帥が「おい、タバコの灰くらいはここへ入れろよ」とソフトタイプの携帯灰皿を取りだすと、「それはなんだ?どうなってるんだ」と興味深そうに灰皿を開ける。


すると一緒にタバコを吸っていたフィドル(それとボーカル、たまにダンス)のディミトリ―が会話に入ってくる。「これはどこで買えるんだい?キオスクかい?値段は幾らなんだい?」とギョロとした目をさらにギョロとさせて、ヒゲの総帥に問うてくる。


そんなことお構いなしにアレクセイは話す、というより論ずる。「そもそも、ロシアの森を育てたのは灰である。森林を燃やして灰にする、そしてその灰の下から新しい森がスタートするのだ、灰は再生の象徴である」と。つまるところ自身の悪癖について自己肯定をしているのだが、どうにもロシア人がそういうことを話し出すとこちらとしては信じたくなるものである。彼らほどユーモアに満ちた国民性もないであろう。それはお国柄というよりも、お国の特異な歴史柄といっても過言ではない。


ヒゲの総帥にオタヴァ・ヨを紹介してくれたのは、皆さんご存知、カコフォニー・フィールズのドイワ会長である。最初はランニングシャツを着ただけの小汚いロシア人を連れてくるんだなくらいに考えていたが、彼らがリアレンジしてYouTubeにて発表したロシア民謡はその再生回数が1500万回を超えている。(これは凄いことなのだ、やってみろといわれて出来るものではない)


その音楽の切り口への洞察力、さらには動画やアーティスト写真から伝わるユーモア、そしてどこかしら斜に構えている風来坊な魅力にいつしかヒゲの総帥は夢中になった。少し前にナンバーワン・ソムリエのタッキーと北濱のピンク&ガンというバーでオタヴァ・ヨについて論じ合った。「アモさん、オタヴァ・ヨのセンスは飛び抜けてますね」とタッキーの口から出たのは意外でもなんでもなく、ヒゲの総帥も同感であった。こいつらはどう転んでも素敵なロシア人だなと感じたのだ。


好奇心の塊であり、その好奇心によって人生の計画が立たないヒゲの総帥はオタヴァ・ヨのことを知りたくなる。金曜日であったがオタヴァ・ヨが伊丹でダンスのワークショップを開くというので行くことにした。ただ、行って踊りを教えてもらうだけでは全くつまらない。どうせならゴンゾ(ジャーナリズムのスタイル)で行くかとヒゲの総帥は役所を休んで会場に乗り込む。


雲の模様はいつ嵐が来てもおかしくないようで、ただただ不安だけを下界に投げかけているようであった。


会場に到着すると、まだ誰も来ていない。多目的ホールは足元全面が板張りであり、なるほどダンスをするには持ってこいであった。ホールの人間がやってくる、大学院でイタリア中世の美術を勉強していたというサラダ君である。ヒゲの総帥とサラダ君が美術史や人生の目的について論じ合っていると、音響チームがやってきて機材の搬入と設置、さらには音作りに精を出す。サラダ君も気がついたように「ずっとお話ししときたいんですけど、仕事に戻らなくちゃ」と事務所に戻る。


ヒゲの総帥は会場で横になる。ワックスで磨き上げられた板がひんやりして気持ちいい。サラダ君がいうにはオタヴァ・ヨ御一行はラジオ生出演のためまだ到着しないという。


「FM COCOLOかい」とヒゲの総帥が問うと、サラダ君はそうだという。「カミさんの番組かい」とさらにヒゲの総帥が問うと、サラダ君は「はい、よくご存知で」という。ロシアのカラシニコフ銃のように勢いと熱さに溢れたおっさんなのだ、カミさんという人は。この時間にオタヴァ・ヨを呼んで紹介するなど、あのおっさんくらいしか出来ない芸当である。電波における良心を見た気がしてヒゲの総帥は世の中捨てたもんじゃないなと横になりながら考えていた。


音響さんが「すいません、音出します」とヒゲの総帥に問う。「もちろん、気にせずお願いします」とヒゲの総帥は答える。素性も知れず訳のわからないボケっと横に転がってるヒゲの男に一声かけてくれるなど、なかなかない気遣いであるので恐縮する。


気持ちのいい音楽が流れてくる。聴いたことがあるような、でも、やっぱり聴いたことのない音楽である。


「これはどこの国の音楽ですか」とヒゲの総帥は音響さんに聴く、「これはスコットランドですね」という。イギリスですと言わずにスコットランドというところで、この音響さんの音楽的(歴史的)知識の一般ならざることを知る。「これはゲール語ですか」とヒゲの総帥はさらに問う、「そうです、ゲール語ですね」と音響さんはニンマリして答えてくれる。


音のチェックが会場全体の響き方などの調査で本格的になってきたので、ヒゲの総帥は会場の隅に移動して、やっぱり横になったままオタヴァ・ヨのメンバーを待つ。そして本人の自覚症状がないまま、ヒゲの総帥はいつしか大の字になって熟睡していた。


ザワザワしている、ハッと気がつくとカコフォニー・フィールズのゴッドテール君がゾンビのような顔をして起き上がったヒゲの総帥を見て笑いながら会場にいるではないか。ドイワ会長、さらにロシア語をしゃべる男、そして映像クリエーターの男、そしてオタヴァ・ヨのメンバーとスタッフたちも続々とやって来る。


オタヴァ・ヨにてリーダーシップを取るのはバグパイプやロシアの琴を演奏する背の高い怪僧ラスプーチンのような男、彼の名をアレクセイという。このバンドにはアレクセイが二人いるので、どちらかを苗字かフルネームか愛称で呼ばないと混乱しやすい。それは日本代表の「サカイ選手」をどう対応して視聴者へ伝達するのかと同じである。


ヒゲの総帥はゴッドテール君に訊く、このバンドの動画とかそういうアイデアを発信しているのは誰なのかと。ゴッドテール君は「基本的にこのバンドにリーダーというのはいないんですけれど、演奏やYouTubeなんかのアイデアはアレクセイ(ラスプーチン)から出てきますね」と教えてくれる。


伊丹といえば造り酒屋が多いところであり、ヒゲの総帥は日本酒を大量に持ってきてワークショップの前に大宴会をしないかとドイワ会長をそそのかすが、「それがね、彼らお酒をあんまり飲まないんですよ。飲んでもビールを一杯とかなんで」という。ヒゲの総帥は壮絶な飲みになることを見越してわざわざ東京から召喚獣で黒ずくめの冷泉に駆けつけてくれないかとお願いしていたのだが、冷泉はこの時点でお役御免となった。


ところが不幸中の幸いであろうか、東京から伊丹へ到着してタクシーでやってきた冷泉は悪魔的な二日酔いですでに使い物にならなくなっていたのだ。


「あ、阿守さん・・・、僕、踊ったら・・・、多分、全部、出ます・・・」と途切れ途切れに繋がれた日本語からは、彼の体内で行われている「分解」という名の戦いの凄惨さを感じ取れるものであった。皆がダンスができる格好で来ているところへ、ダークスーツで身を堅固に守った冷泉がぽつんと座っている光景は、異国の赤鬼たちを前にして、天界と地獄をひとまとめにしたような緊張感と滑稽さが場に溢れていた。ヒゲの総帥にはそれが面白くてたまらない。


ロシアの踊りのレクチャーをしてくれるのは、ラスプーチンである。「これをこうするのだ」と懇切丁寧に教えてくれる、しかしながらしばらくすると「好きに踊れ、それが最善だ」という指示になる。会場には老若男女が集まり、オタヴァ・ヨの生演奏に乗せて踊る。酒を飲んでこんな踊りかたをしてたら、確実に死ぬぞと思うのだが、そこにロシアの素敵などうしようもなさを感じる。


「亡命ロシア料理」という秀逸な本がある。洒落た名前の女がヒゲの総帥に貸してくれたものだが、そこに書かれてある「ロシアとは」という気品と汚れに満ちたロシアのセンスの特異性は、実際そうなのだと腑に落ちた一日であった。


踊って踊って踊りまくって、ずたずたになった地面からは、次こそはと相当な覚悟と決意を持った新しい芽が吹き出すのであろう。オタヴァ・ヨはそれを体現しているだけである。そしてそれを当たり前のことだとやってのける軽やかさに、とてつもない凄味を感じるのである。


フィドルのディミトリ―とギターのアレクセイは時折、タバコを吸いに外へ出る。これまで植物のプランターの中へ当然のごとくタバコの灰を落としていた彼らの手にはヒゲの総帥からの贈り物が握られていた。


赤と黒という二色の携帯灰皿である。


見えないものを見ようとするならば、それが見えるところまで自分で行くのが最善の方法だ。


d0372815_14515187.jpg




















https://youtu.be/0JQ0xnJyb0A


次の日、カコフォニー・フィールズのゴッドテール君より一枚の写真が届いた。


なるほど、これは確かにオタヴァ・ヨの到来を待望していたヒゲの総帥の姿である。


d0372815_14551409.jpg


[PR]
by amori-siberiana | 2018-07-01 14:55 | 雑記 | Comments(0)

ここ数日はいろいろなことがある。ここ数日でなくともいろいろなことは誰にでもあり、取り立てて自分だけが「忙しい、忙しい」と言って世界に愛されているというような印象で物事を捉えるのは非常に驕った態度であり、打擲を入れられるべきであろう。ピカソは「美よりも早くなくてはならん」と言っていたが、ヒゲの総帥も書くべきことが公私を別にして沢山あるので、今は小説家の平尾先生よろしくなほど文字に埋もれている。


ケルト音楽のギター弾きとガハハの女、アウシュビッツにいそうな奴、そして遅れてミカ・アイアヒという名前のミュージシャンが来た日のこと。そこへ多角経営のギバタも紛れ込んできて、自作の歌を歌ってくれたのだが、延々とその歌をミュージシャン連中に繰り返し演奏されて大盛り上がりされるという、栄誉なのか単なるいじりなのか解らない夜もあった。とにかくギバタの歌のサビの歌詞、「ここにおいでよ~♪」はそこから数日、ヒゲの総帥の耳に残るのであった。


かと思えば、ギター弾きの男の兄貴でメンヘラのブルーグラスの男がやってきて、ピクセルさんというパフェ作りの名人を連れてきた夜。(このピクセルさんは歌もうたう、皆、黙っているだけで大体の奴らは歌えるのであろう)。


かと思えば、ジーサンという名の爺さんが来て、ヒゲの総帥は彼の前で井上陽水の「少年時代」を弾く。彼はハッと驚いたした顔をして、「どうして、このタイミングで少年時代を?自分はこの曲を随分と練習しているのだ。こんな偶然があるのだろうか!?」という。この偶然もこれで通算5回目であり、いつしか偶然から必然になっているのだが、酩酊者や記憶喪失者には同じことでもこれほどまでに新鮮に映るものだと知った夜。ジーサンは映画への熱烈な情熱があり、映画のためなら幾らでも出資するというのでヒゲの総帥はすぐにぴあフィルムフェスティバルやトロント映画祭やなんやかんやで名を馳せる、新進気鋭の映画監督と合わせようとセッティングを試みる。


かと思えば、ジンクスに到着早々に偶然にも冷泉につかまり、そのままステーキ屋へ向かい、冷泉が猛烈に心酔傾倒しているダーツを夜中までするという夜もあった。やっぱりどうせするのなら上手な人を巻き込まないといかんということで、隣のダーツボックスにいた茶釜のアニキという初対面の上級者を仲間に加えて競技をするといった夜。


これら細かいディティールにまで組み上げれば、毎夜毎夜が一冊の本になるくらいの質量を持つものであるが、悲しいかな形あるものは壊れ、形ないものは忘れ去られという世の必定に逆らうこと適わず、いつしかその出来事の具体性はヒゲの総帥の頭のなかから蒸発して、心に焼き付く印象のみが記憶という都合よく日々改竄されていく箱のなかに収納されている。


さて、本題であるが、ヒゲの総帥は北濱のクント・コロマンサから去るときが来たのである。この日本の辺境から発信されているようなブログをお読みの諸君ならば「いきなりなんだ」とも今さら思わないであろう。あまりボサボサとする時間も無くなってきているということだ、つまるところ今の北濱の建設ラッシュを体感してもらえばわかるように、我々が考えるよりも遥かに早いスピードでキャピタリズムというモンスターが襲い掛かってきているのである。


この一年、関西ローカルの雄フレイムハウスという店の隣にある入りにくい階段の先にあるフレイムハウス(現:北濱クントコロマンサ)の経営破綻を回避させようというところからスタートして、いろんな人に協力してもらい予想を遥かに超えて随分と遠くへやってきた感じがある。自分にしては珍しく間違っていない選択をしたように自負もしたいのだが、実際のところ長期的なスパンで見ればわからない。売れない版画家の経営者としての寿命を単に先延ばししただけなのかも知れないが、そこに責任を負うても仕方がない。彼は彼、実際のところヒゲの総帥とは相容れなくなっているのだ。


昨日であったか、宗教画のモデルの女にその話しをした。「ラムちゃん、僕、コロマンサから今月で完全に手を引くわ」、「へえ~、そうなんや~、おつかれ~」で会話の始終は完了。離れたデスクで仕事をしているにも係わらずその模様を見ていたイイデヤンスのダダヤマ社長が「ええっ!?そのやりとり、めちゃくちゃ、あっさりしすぎてませんか!?言うほうも、言われるほうも!アンタらどうなってるんや!」と驚愕していた。が、そんなもんであってくれてありがたい。


ヒゲの総帥は次の段階でやりたいことがあるのだ。もちろん北濱とシベリアンなんちゃらに関係している。ヒゲの総帥が手を引いたのはコロマンサであって、北濱ではない。不思議なくらいここにぞっこんなのだ。


それが世のためになるのか他人のためになるのかはわからない。宗教家でも啓蒙家でもないので、そういったところを自身の行動の根幹に持っていないので、その感覚は全く解らないことはないが、素直にそんなことはできない。しかしながら、自分がやりたいと思うことを思うままにやって、最終的に世のため人のためになればいいと漠然と考えている。そもそも気の小さい男なので、やりたいようにさせてみたところで核兵器のようにはならないであろう。


ヒゲの総帥本人が気持ちよくやっているのだから、周囲に害とならなければやらせておけばいいのだ。それくらいの自由はこのヘンテコな東洋の辺境の国にもあって然る器である。


これからもどうかヒゲの総帥とのお付き合いを宜しく願うものである。誠に勝手な決断であるが、ここらでよかろう。


ブログはこれからも続く。ここからが面白いのだから。


d0372815_00464230.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2018-07-01 00:48 | 雑記 | Comments(0)



D'où venons-nous? (私たちはどこから来たのですか?)




Que sommes-nous? (私たちはなにものですか?)




Où allons-nous? (私たちはどこへ行こうというのか?)




『ポール・ゴーギャンの絵のタイトルより』




北濱のオフィス「ザ・ジンクス」であるが日曜日は閉まっている。ところがこの日だけはこれまでの慣例を蹴飛ばして開くことになった、その理由はジンクスにてささやかなワイン会があるため。ただ、ワインを飲むだけでは済まずになにやら決戦めいたことをするという。なんでもかんでも単純に物事を楽しめなくなっては、ロクなことがない。


感性が呆けてきた人々は普通のままでは楽しめないから工夫をしてみる、するとさらにロクでもないことになる。かくいうヒゲの総帥も自分がその類の人間であることは、最近になって馬鹿なりにようやくわかってきたようである。


ヒゲの総帥はジンクスの裏口に到着する、すでにジンクスのオーナーであるマンホーは到着してオフィス内の空調を快適な温度にしてくれていた。この日はセミでも鳴きだすのではないかというほど暑く、ほんの少し外を歩くだけでも汗が噴き出すという有り様であった。


マンホーもヒゲの総帥も今日の主役であり、しばらくすると残りの主役であるジローちゃんとタッキーもやってくる。タッキーに至っては実際のところ前日までワイン会のドタキャン濃厚であったのだが、桜川のバー「ビッチ」の姐さんに「お前は不義理だ」と散々にしぼられたことに起因してか、今、海から出てきましたといわんばかりに汗でビッショリとなってもしっかりとジンクスへ登場してきた。今日のジンクスは裏口からしか出入りできない、しかしながら裏の扉にしても厳重なるセキュリティによって管理されている。まさに密造酒を飲む集まりのようなキナ臭さが漂っていた。


マンホーは会場となるジンクスの準備に余念がない、あれはどこだろうか?これはどこだろうか?と宗教画のモデルの女に訊いては、目当てのものの在処を教えてもらう。ヒゲの総帥はギターの弦を張り替えて、さて、どこで演奏するのがよいだろうかと思案する。そもそもヒゲの総帥は自身が音楽家であったなどと一度もここで吹聴したことはないのだが、そういえばいつの間にかそれは周知となっていた。


ジローの手荷物の量といったらアルプスの尾根を縦踏する登山家のような量であったし、タッキーもジンクス到着早々にすぐ外へ出ていきマリアージュの素材を買いに走る。日曜の北濱である、何か買おうにもあらゆるところは閉まっており、タクシ―を使わないとお目当てのものは揃わないという具合であった。つまるところ誰も彼もが本気だ。


ワインにまったく興味のない審査員長のアラタメ堂のご主人がやってきた頃、ソムリエ四人の順番をそろそろ決めようかということになる。マンホーがいう「よければ僕は最後にさせて欲しいんですが」と、これは正気の選択とは思えない。四人目の登場といえばソムリエの周りに群がるのは人ではなくアルコールによってゾンビと化した肉塊ばかりであるのに、みずからその不利を選ぶとはとヒゲの総帥は心のなかでガッツポーズをする。


ヒゲの総帥とジローは赤。マンホーとタッキーが持ち込んだワインが白なので、白が続くのは無粋である。自然とタッキー三番手という選択肢はなくなる、そうなると三番手を任されるのはジローかヒゲの総帥である。ヒゲの総帥は一番手か二番手の前半がいいなと考えていたので、ジローに「三番手はジローちゃん行くか?」と振ってみる。とにかく後半は危険であることは重々承知していたはずなのだ。


ところがジローは余計なことをいう。


「阿守さん三番手にいったほうが、演奏の後やから票が集まるん違いますか?」と。


「おお、よくぞジローちゃん言ってくれたな確かにそのとおりだね」とヒゲの総帥は云々と頷きながら三番手に登場することにした。結局、前半はタッキーとジローに委ねられることになる。この三番手での登場のタイミングがとにかく凄かった、凄いというより凄惨である。右翼の街宣車の前で坊主が読経させられるような状況だったのだ。


前半での登場だと決まったタッキーとジローは早速自分たちのワインを冷蔵庫から取りだし、ただちに開栓する。一定の時間は開栓しておかないと香りが広がらないのだと二人とも同じようなことをいいながら、その準備に余念がない。彼らのフットワークの軽さは食材が決まったあとの料理の鉄人たちを見ているようでもあり小気味がよい。


時刻は14時を打つ。


ワイン会にぞろぞろと人が集まってくる。おかしな奴らばかりである。ただでさえおかしな奴らなのに、そんな奴らがぞろぞろと北濱に集まり、太陽に逆らうかのように裏口からビルに入って行くという光景がどれだけ奇異なものか想像していただきたい。そして中からはギシシシという笑い声が途切れず継続的に聴こえてくるのであるから、不気味さに輪をかけている。


タッキーのプレゼンがスタートする。


まず、最初から日本ではまだ未発売の世界ナンバーワン・ソムリエがプロデュースした白ワインをぶち込んでくる。ライザップで引き締めた身体がほんの数か月で、だらしないボブ・サップのようになってはいる男だが、こういう勝負ごとや駆け引きごとになるとこの男は最初から飛ばすのが常だ。そして落語の名人、柳家小三治のまくらのようにプレゼンが長い。マリアージュは乾燥させたオレンジ。


どんどん白が各銘柄注がれていく。小説家の平尾先生を皮切りにしてマリアージュの逸品が参加者へ振舞われていく、先生はライチのはちみつがかかったチーズを乞食のように貪り食う。うまいうまいと羅生門に出てくる婆さんのようにガツガツする。


素晴らしいショーであった。いや、お見事タッキーである。ワインを説明するとき、マリアージュを説明するとき、酒の神バッカスが乗り移ったかのような鬼気迫る勢い。すべてを出し尽くしたタッキーはバッカスからカスに戻るが、やるべきことをやったのである、来場者から盛大な拍手が送られる。都合、5銘柄もの白ワインを持ち込んだタッキー。いきなり金にものをいわせた大国主義的物量作戦であった。


さて、ジローのプレゼンがスタートする。


ジローちゃんが持ち込んだのはブルガリアの赤である。この赤がまた美味しい、最初の一口から果実味に優れ、そして無骨さとエレガントさを持ち合わせているのである。そしてその赤とのマリアージュに選んだ一品はブルゴーニュのエポワス村で作られたチーズである。ウォッシュタイプのオレンジ色をしたチーズであり、これがひどく臭い。「神様の足の匂い」といわれているのだとジローは説明する。


ジローのプレゼンをじっと微笑ましそうに見ている冷泉の手にはハイボールが入っていたのではあるが。


前半を終えて、休憩となる。ヒゲの総帥と小説家の先生と電気工事士は演奏をはじめる、生音なので音楽が場の邪魔をしない具合でヒゲの総帥は嬉しくなる。これまで歴史上、何度音楽が場を壊してきただろうと考える、聞きたい人間は音を探し、談笑したい人間は談笑する、呆然として酒を楽しむものは酒を楽しむ、我らはひとつの豪華客船に乗り込んだ様々な過去をもつ人たちのようであった。


ヒゲの総帥のプレゼンがスタートする。


すでにヒゲの総帥は酔っぱらっており、チリワインを持ち込んだのに支離滅裂にオーストラリアワインの説明をはじめる。ピノ・ノワールを持ち込んでいるのに、ボルドーのカベルネ・ソーヴィニョンをいかにブレンドするのかを話しだす。マリアージュはかつおぶしと冷泉が勝手に店から持って帰ったラスクとドライトマトだといって提供する。


恐るべきはタッキーで、黙ってひとつひとつ本当にマリアージュが出来ているのだろうかと勘繰りながら食べては、その感想をいちいちヒゲの総帥に言ってくるのである。


「アモさん、これ赤じゃちょっと強いんじゃない」


「アモさん、かつおぶしなんですけれど、この赤じゃないんじゃないですか」


「アモさん、トマトなんですけれど、赤と組み合わせると・・・なんたらかんたら」


「アモさん・・・」


そもさん!せっぱを繰り返すとんち好きの坊主のようにアモさんを繰り返す。またあの声のトーンが「うーん、ちょっと惜しいな」という感じなので、そのメンタルを刺激する巧みな攻撃にヒゲの総帥はPTSDになりそうになる。そのうち何故だか高嶋政伸の「姉さん、事件です」の声がヒゲの総帥の頭から離れなくなる、タッキーのトーンはまさにそれなのだ(!)。


ヒゲの総帥がプレゼンを終えると盛況な拍手が起きるが、場内はとっくに酔っぱらいばかりでヒゲの総帥の高説などなくともご盛況な状態である。


さて、最後に登場したのはマンホーである。


マンホーはやかましい場内に一石を投じる。うやうやしく礼をして語りだすマンホーはいう「これは皆さまにデザート感覚で飲んでいただきたいワインである」。まだ場内はあちこちでザワザワしている、なにかもっと効果的な一言を待っているようである。もっと酔っぱらいにでも解りやすい言葉、このイデオロギーを失ったイディオッツたちにも通じる言葉だ。


マンホーは切り出す、「これはこれこれ何万円のワインなのだ!」といよいよ一番わかりやすいイノベーションで発表する。場内はざわざわから一挙に熱狂へとレベルアップする。マンホー、マンホー、マンホーという賞賛の声がこだまする。


不動産デザイナーの忌部だけはマンホーという三文字すら覚えられずに、「マンセー(만세)」といっていた。しかしながら、あながち状況的には発するTPOを間違っていない日本から近い異国の言葉である。


厳正な投票所が設けられ、参加者は投票用紙にソムリエの名前を一名だけ書き込む。無記名であったり、ソムリエでないものの名前を書いた紙は無効票となる。(※公職選挙法第68条)


勝者はタッキー。


誇らしそうにアラタメ堂によって開票された投票箱を持ち上げ雄たけびをあげるタッキーに、皆が改めて拍手を贈る。


歓喜に満ちて、アルコールも満ちて泥酔したタッキーはその体で喜びを表現したあと、よろよろしてテーブルにもたれかかり、そしてワインの瓶をバラバラに割ってしまう。


そんな粉々になったワインの瓶の欠片を拾い集めながら、ヒゲの総帥はとてつもなく幸せな時間を感じていた。砕けたワインの瓶がこれほどまでいとおしいと思える瞬間など、ついぞなかった。


形あるもののはかなさと、潔さを、そのとき心から知ったのだ。


ここは北濱にあるコワーキング・オフィス、その名を【THE LINKS】という。





D'où venons-nous? (私たちはどこから来たのですか?)



「リンクスだ」



Que sommes-nous? (私たちはなにものですか?)



「リンクスだ」



Où allons-nous? (私たちはどこへ行こうというのか?)




「リンクスだよ」




d0372815_20253812.jpg



[PR]
by amori-siberiana | 2018-06-26 20:26 | 雑記 | Comments(0)

パチンコで自分のツキの無さにうなだれるシャム君、ヒゲの総帥は新世界にでも行くかと誘う。新今宮から南海に乗ればそのまま特急で関空(KIX)まで運んでくれるであろうから、段取りとしてはなかなか良いはずだ。


新世界とはどういう意味なのか?とシャムが堺筋線の地下鉄のなかで問うので、ヒゲの総帥はそのまま皮肉たっぷりに「セ・ヌーヴォー・モンド」とフランス語で茶化す。シャム君もさすがにフランス語は理解できるようで、クスクス笑う。


新世界に到着する、結構な観光客がいる。怪しげなおじさんが二人に近づいてくる、おじさんは手に自作のチラシを持っておりシャムに配る。何が書かれてあるのか見てみると、「民俗博物館(通称:ミンパク)」に行こうというものであった。ヒゲの総帥もミンパクにある大きな絨毯にコーランが織られたものなど好きでよく行っていたと、怪しいおじさんに説明する。


しかしながら、ミンパク好きといえばピアノ工房の軍司である。あの男ほどにミンパクは愛せない。以前、株式会社「いいでやんす」のダダヤマを北濱のジンクスで軍司に会わせたことがあるのだが、そのときどんな仕事をしているのかと問われたダダヤマが「民泊関連の事業です」と答えたときの軍司の嬉々とした反応といったらなかった。お互い、ミンパクの認識が違うまま、奇妙に話しが合ったり合わなかったりする瞬間にヒゲの総帥は抱腹絶倒だった。


ヒゲの総帥が軍司に「ダダヤマのはミンパクはミンパクでも、民俗博物館じゃなくて泊まる宿のことだ」と説明するまで、軍司はダダヤマが民俗博物館の清掃をしているのだろうと考えていたそうなのだ。ダダヤマも微妙に話しが合わないのだが、軍司が先輩であるということで機嫌を損ねてはならんと「ええ」とか「まあ」とかアンニュイな返事に終始していた。


怪しいおじさんの話しに戻ろう。ヒゲの総帥はおじさんに問いかける、「あなたはこれを自分の矜持として配布、啓蒙しているのか?」と。おじさんはそうだと答える、いろんな民俗のことを知り、多様性を知ることによって世界から諍いはなくなるだろうというのである。もちろん、こんなにきちんとした文面での回答ではなかったが、ポイントを絞るとおおよそこういった感じであった。


おじさんはこれからドストエフスキーのカラマーゾフの兄弟を研究するサークルへ行くのだという。お前らはドストエフスキーを知ってるのか?と二人に訊いてくるが、知ってると答えると面倒臭そうなので、「いいや、そんな作家は知らない、せいぜい知ってても芝スキーぐらいである」とヒゲの総帥は答える。ところが、おじさんは「どうしてドストエフスキーが作家だと知っているのだ」と突っ込んでくる。藪蛇である。


さっさとおじさんの元を退散して二人で歩いているとき、ヒゲの総帥はシャムに訊く。「日本でやり残したことはないのか?」と、するとシャムはしばらく考えたあと「阿守さんが一番好きな食べ物を食べてみたい」という。


やっと話しがお茶漬けに到着した。


えらく長いくだりになってしまった、まるでローレンツ対称性について語るように冗長であったが、どうか許していただこう。


新世界でお茶漬け屋を探すが、まあどう考えてもなさそうである。そんな二人のところへ串カツ屋の大将が声を掛けてくる、串カツを食べて行かないかと威勢よくいうわけだ。ヒゲの総帥はその威勢に飛び乗るかたちで大将にいう「お茶漬けは作れるか?」と。大将は残念ながらメニューにはないという。


ヒゲの総帥は「この異国の友人と自分は次、いつ会うか解らない。彼が僕の好きなものを食べたいというから、それならお茶漬けだという顛末で今、茶漬けが出る店を探している。飛行機の時間があるのであまり時間もない」と説明する。大将はその話しを聞くや否やすぐ店に入れという、俺が特別に茶漬けを作ってやるというのだ。


シャムにそのことを説明すると、シャムはえらく感激する。感激は構わんから血糖値を測っておけよとヒゲの総帥はシャムに伝える。すっとテーブルの下でシャムは自分の指に針で穴をあけ、血を出してそれを測定する。どうやらいけるとのことだ。


しばらくすると、大将が茶漬けを二膳持ってくる。二人で茶漬けを食う。やっぱりうまい、白飯がそこまで水気を吸わないあいだに一気にかきこむのである。かっかっかっかと箸が茶碗を打つ音が店内に響く。3分で食い終わる。シャムはこんなに美味しいとは思わなかったと感動する。


シャムはどうしてここまで親切にしてくれるのか?とヒゲの総帥に問う。


ヒゲの総帥は「明日、世界が終わるかも知れないからだ」と答える。


シャムの目つきが変わる、何かが腑に落ちたような顔をする異国の若者。しばらく空になった茶碗を静かに見つめていた彼は、満面の笑みを浮かべて、目の前のヒゲ面の男に向けて日本語でこういった。




「アリガトゴザイマス」。



d0372815_19174494.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2018-06-15 19:18 | 雑記 | Comments(0)

サッカーの話しをしよう。アルゼンチンの名選手、ガブリエル・バティストゥータはその足が何も感じなくなるまでフットボール人生に殉じた。その彼をして、自分は将来的にはロックスターに転身するのだと公式の場で発言した。ヒゲの総帥にとってのロックスターというのは誰であろうか、ボノやスティング、フレディ、アクセルなど略称で呼ばれる奴らは大体ロックスターである。


ロックスターの定義が何なのか文字にすると酸化しそうなのでやめておくが、これだと決まりきらないものである。それに彼らも今となっては新鮮ではない。アレックス・ターナーが出てきたときなど、ヒゲの総帥は異国の若き才能の登場に嬉しさで舞い踊ったものだ。


「シャムよ、日本で何かやり残したことはないか?」とヒゲの総帥は異国の若者に問う。まるでオーパーツを守る賢者のような物言いである。異国の若者はしばらく考えたあと、「阿守が好きな食べ物は何だ?僕はそれが食べたい」という。


ヒゲの総帥が好きな食べ物は簡単だ。ベスト3はすぐに決まり、随分長いあいだ入れ替わることがない。


うどん、たこ焼き、お茶漬け。である。


本当にまともな食生活を送ってきた四十路の男なのかと言われるかも知れないが、今さら貴族趣味ぶっても滑稽なだけなので、こういうところは正直が良かろう。うどんは糖尿病を持つシャム君には黄色信号なので選ばない、たこ焼きにいたってはシャムは大嫌いだという。となると残るはお茶漬けしかない。


「僕が好きなのはお茶漬けだね」とヒゲの総帥はシャムに伝える、シャムは「オチャヅケ・・・」と首をひねる。首をひねるほどのものではなく、ただただ白ご飯に永谷園のお茶漬けのもとを入れて、それに熱湯でも茶でもなんでも好きなのをぶっかけるだけの料理だとヒゲの総帥は説明する。「食べたいか?」とヒゲの総帥が問うと、シャムは片手をひらひらさせて「できれば、挑戦したいね」という。


ところが二人が歩いているのは新世界であり、茶漬け専門店などなさそうだ。そもそもどうして新世界へ来ることへなったかといえば、ジローを交えて三人でランチをしたとき、「あと3時間で大阪観光しようとするならどこがいいだろうか?」とシャムが問うたのだ。


ヒゲの総帥は冗談でパチンコでも行ってこいよとシャムにいうが、シャムは目をキラキラ輝かせて「パチンコ!!」と乗り気である。今までパチンコへ行ったことはあるのか?とヒゲの総帥が問うと、「これまでに5回ほどチャレンジした、そして、何も起こらなかった。多分、自分には何か技術的に大きな落ち度があるのではないか?是非、パチンコの遊びかたを教えて欲しい」と言いだす。ジローは苦笑し、ヒゲの総帥は「やりかたも何もあるものか、認知症の人間だって勝つときには勝てるゲームだ」と言い放つ。


「一体、幾らほどパチンコにつぎ込むんだね」と総帥。


「一回、1000円と決めている」とシャム。


「ああ、それじゃ何も起こらないかもですね」とジロー。


それならばとヒゲの総帥に名案が浮かぶ。パチンコの玉は大体1玉が4円である、つまり1000円を放り込んで250玉が出てくることになる。この250玉がなくなるスピードといえばそれは凄い、無常迅速とはこのことかと身をもって教えてくれる。ところが店によっては1玉を0.2円で売ってくれるところがある。つまり1000円で5000発が手元に届くことになるのである。


シャムはギャンブルで勝ちたいのではなく、勝ったときにどういうコト(ハプニング)になるのかを知りたがっているので、投資するレートを下げて機会を増やすだけで効率的な調査ができるという具合である。ヒゲの総帥とシャムは連れだって日本橋へ行く。確か、日本橋にそういう低価格レートの店があったのを覚えている。


そして目当ての店に到着する二人。0.2円パチンコはほぼ満員で二席並びで空いているところがない、とりあえずバカ重たい大きなリュックを担いでいるシャムは他人の迷惑にならない角台がいいだろうと、角台へ座らせる。そこには「エヴァンゲリオン」と書かれている。ヒゲの総帥も少し離れて残り最後の一台に座る、「戦国乙女」という機種だった。ヒゲの男が戦国乙女である、傍目に笑えるのか不気味なのかよくわからない。シャムはエヴァの前で目をランランとさせて嬉しそうである。


「シャムよ、これで戦いの準備は整った。戦略の基本はその戦いを始める前からどれほどの優位性を築いているかによるのだ。あなたは通常の20倍の機会を与えられたのだ、健闘を祈る」とヒゲの総帥は異国の若者を放ったらかす。


戦国乙女はヒゲの総帥の目の前でやんややんやと騒がしいが、ヒゲの総帥はまったく無関心である。それもそのはず、大きな当たりを引いたとしても400円しか勝てないのである。なにもワクワクもドキドキもしない、ただただシャムが当たりを引くのを待ち続けるのである。


ヒゲの総帥の目の前の乙女たちが騒がしくなりだす、ガチャンガチャンとパチンコ台のパーツが落ちたり上がったりする、「ああ・・・、大当たりか」とヒゲの総帥はつぶやく。この銀玉の処理をどうするか考えながら、一旦、シャムのところへ行く。シャムは「どうしても数字が並ばない、777じゃなくて、787とか767とかばかりなのだ。これは自分に何か工夫が足りてないからじゃないか?」とヒゲの総帥に訊いてくるが、ヒゲの総帥は「シャムよ、ただの運だ」と正直なところをいう。


【戦績】



ヒゲの総帥 +1000円



シャム -1000円



何が腹立たしいといって、能力や地位に関係なく、ただ運が悪かっただけで辛酸を舐めさせられることほど腹立たしいことはない。結局、シャムは今のところ一度もパチンコで何かが起きたところを見るに至らずである。


なんのことはない、シャムがGoogleで稼いだ1000円がヒゲの総帥の懐へ入ってきただけである。パチンコ屋というサーバーを介して。


二人の男は1000円のカードを持ってパチンコ屋のカウンターへ行く、そして何の役にも立たなさそうな薄っぺらい文鎮をひとつもらう。シャムは「・・・。なんだこれは!?阿守、これは何に使えるんだ?」と好奇心旺盛に訊くが、「これは記念メダルのようなものだ」とヒゲの総帥はその文鎮をシャムに渡して、パチンコは終了となる。


シャムがこの何の役にも立たない文鎮(記念メダル)を金に換えることを知るのかどうかは、神のみぞ知るというところである。


茶漬けの話しまでたどり着けずに終わります。


d0372815_20471077.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2018-06-14 20:48 | 雑記 | Comments(0)

コロマンサで「今日は何か作れますか?」と版画家の万作に訊ねてみよう。「うーん、オムライス、焼きそば、焼きうどん、焼き飯、あ、うどんはなかったんちゃうかな・・・。あとは、コロマンサ」となる。


「そしたらオムライスください」と言えば、「おっ、そうや豚足ありまっせ」という万作の合いの手が返ってくる日が度々ある。どういった指針によってオムライスと豚足がニア(near)になるのか解らないが、とにもかくにも結構な頻度でこの豚足なるものがコロマンサにはある。ヒゲの総帥は一度だけ食べたことがあるが、どうにもあの動物性のモチモチ感が好きになれずに二度と食べる気にはなれない。


さて、シャム君が京都で友人と会い舞踏にうつつを抜かしている頃、ヒゲの総帥はせっかく新品のギターの弦を張ったのだからとコロマンサへ行き、ギターを弾きだす。造船業を副業にしだしたらしい版画家の万作も黙って工作に殉じる。そんな沈黙を破ってやってきたのは全身が黒ずくめの男こと冷泉、そしてヘルベンツもやってくる。いつの間にかガルパンの男もやってきている。いつもの夜である。


次の日。


ヒゲの総帥は仕事を終えてコロマンサへ向かう。Googleのシャムは京都でしこたま飲み明かしたそうで、二日酔いのままギャラリー「遊気Q」へ立ち寄っているそうだとのこと。ヒゲの総帥がコロマンサでウイスキーをちびちびやっていると、凄まじい雨が降ってきて雷鳴も聞こえる。カミナリと暗号通貨はよく似ている、ドカンドカンとやかましい割には大して実になることを何も世の中にもたらさない。膨大なエネルギーの消費である。


もちろんブロックチェーン技術は優れたものだ。優れたものかどうかの判断は社会的弱者にその間口が広げられているかどうかというシンプルさで構わないのだ。しかしながら、社会的弱者という一定のカテゴリにも、それぞれの尺度があるので線引きは難しいところである。


雷鳴のなかシャム君がやってくる。「あなたはいつも雨を連れてやってくるな」とヒゲの総帥がいうと、シャムは肩をすくめて「おかげさまで」という。しばらくするとアラタメ堂のご主人のバンドメンバーであったという冴羽のおっさんがやってくる。冴羽のおっさんはゲームデザイナーであり、ソニックという有名なゲームの制作をしていたと自己紹介をする。シャムは狂喜する、そこからはゲーム談義となる。


ヒゲの総帥はGoogleという企業があまりにも大きすぎて、一体何をしている会社なのかわからない。そしてタッキーの会社も大きすぎて一体何をしている事業所なのかわからない、つまりわからないこととわからないことを出会わせると何か見えるのではないかと考えた結果、タッキーも呼ぶことにした。そして何が何やら訳の解らないままタッキーがやってくる。


この日のタッキーは船越英一郎のような髪型でやって来て、そのヘアースタイルにヒゲの総帥は口に含んでいたウイスキーを数ミリリットルではあるが吹き出してしまう。タッキーとシャムはビジネス談義に花を咲かせる。すると、冷泉とチンピラの男もコロマンサに登場する。そしてジローもやってくる。


つまるところ、店内は、おっさんだらけである。


おっさんが、おっさんに話しを振って、それにおっさんが割って入って、おっさんが突っ込みを入れて、おっさんがそれに応酬して、おっさん同士が悪乗りするという具合である。


冷泉とチンピラの男はシャムと入れ替わるかたちでこの日は京都に行っていた。老練なる至高のダンサーと野生的で理知的で手がつけられないドラマーのセッションを観に行っていたという。チンピラの男に限っては翌日も京都の山奥へセッションを見に出かけると豪語していた。この選択が彼(ら)にとって至福の瞬間をもたらすことになるのだが、それは彼(ら)のなかでの大切なストーリーなのでヒゲの総帥は語らない。


タッキーとチンピラの男は初対面だという。ヒゲの総帥はタッキーにいう「ホンマに悪人の顔ってこういう顔やと思わへん?」とチンピラの男を指さす。タッキーは「はい、そのとおりですね」と率直で誠実なる感想を述べる。冷泉は自分がGoogleとは仕事上で縁があることをシャムに話す、シャムは「果たして、本当にこの男は仕事をしているのか?」という意外そうな顔で冷泉のことを見る。


ところが、この冷泉という男は確かにGoogle社から認められた男なのである。


「果たして、世界でもっとも有名な会社に属するというのはどういうことなのか?」とヒゲの総帥はシャムに問う。シャムは少し考える、そして話しだす。チンピラはシャムの言葉を聞きとろうと前のめりになり、冷泉も電子タバコを咥えて静かにしている。ジローは柔和な顔を向け、冴羽のおっさんは糸が切れた操り人形のように壁にもたれている。


タッキーが訳す。


「Googleといっても、最初から何万人もいた会社ではない。スタートアップしてからまだ数年。我々は常に仕事において若い感覚を持つようにテンションを保つ工夫をしている。まだまだ私たちはベンチャー企業なだけだ、その感覚が常にエキサイティングなものを生み出す秘訣なのだろう」


ヒゲの総帥は手を打って場にいる皆にこう言う。


「不思議なものだよ、シャムは23才じゃないか。彼がもし外国人じゃなくて日本人の23才だったとしたら、僕たちは彼の話しをここまで率直に聞けただろうか」


冷泉が口を開く、「そうですね・・・、これが日本人の23才やったら・・・、お前、黙っとけ。みたいにはなるかも知れませんね」と忌憚のない本心を述べる。皆が一様にうなずく。


「つまり、僕たちはいつの間にか無意識にヒエラルキーを感じながら生きているのかも知れない。思考や判断は若干ながら束縛されているのかも知れない」とヒゲの総帥はいう。チンピラの男とタッキーが何か喋ろうとしたとき、冷泉がハッとした顔をする。なんだ、冷泉、何に気づいたのだ。


「ほな・・・、殴り合いしましょか。ぐふふ」


一同は呆れる、シャム君はしないしないと手を体の前で振る。タッキーは「僕は殴り合いしません」と前もって宣言する。チンピラと冷泉が殴り合いしだすと流血沙汰になるので、冷泉は自分の弟であるジローに話しを振る。「ジロー、殴り合いしよや」と。


ジローは真面目な顔をして「そのショータイムみたいな感じで殴り合いに巻き込まれるのホンマにイヤやねん」と長兄の誘いを断る。チンピラはそれを称賛しながら昔の話をする。


子供の頃、チンピラの男が冷泉の家に遊びに行く。冷泉と一緒にファミコンをしようとテレビのところへ行くと先にジローがゲームをしている。冷泉は「この虫けらぁぁっ!!!」とジローの脇腹を思いっきり蹴り上げていたというのだ。それでもまだ兄弟付き合いが続いているのであるから、下に生まれたものの器量というのはなかなかに尊敬に値するものであろう。


殴り合いを制されて今日の生きる意味を失った冷泉は帰ると言いだす。ヒゲの総帥はジローに誘われるまま桜川のバー「ビッチ」へ向かうことにする。シャムも飲み足りないそうであるし、ちょうど自分が連泊しているイリーガルな宿が桜川にあるというので随行する。タッキーに関しては当然のこと、彼がいなくては誰もビッチで勘定が払えないのだから一緒に行くことはマストなソリューションである。冴羽のおっさんはアラタメ堂が店へ後詰するかも知れないし、そもそもどこに住んでいるのかわからないおっさんなので店に放っておくことにする。


タクシーに乗り込んでも、ギャーギャーと仕事の契約がどうだこうだで深夜まで電話にがなってるタッキーの姿にシャムはクスクスと笑う。どれだけ崇高なことをしても、どれだけ清廉潔白で英雄的であったとしても(もちろんそんな可能性は万に一つもないが)、やっぱりタッキーはどこかコミカルなのだ。


タッキーは今月末にあるワイン会への出演に黄色信号がともったことをヒゲの総帥にいう。どうやら財閥系の取引き先と何かあるというではないか、なんとか調整するというのだが、それを耳にしてビッチの女マスターは船越英一郎を詰問しだす。ヒゲの総帥とジローはその様子に爆笑する、責められるタッキーを見るほど愉快なこともない。「わかりました、わかりました」と弁解するタッキーの横でシャムはカウンターで隣り合ったサンタフェ(ニューメキシコ州)出身のバーボンと何やら英語でまくしたてる。


これまでたどたどしい英語の奴らばかりを相手にして随分とフラストレーションもたまっていたであろう、シャムは母国の言葉を大いに相手に浴びせかける、そして向こうからも自分と同じ母国の言葉が同じテンションで跳ね返ってくる。コミュニケーションが商品化されるまえ、手垢に染まる前の純粋な原液を見たような気がしたヒゲの総帥はその光景が心地良かった。


タッキーは演説を打つ。


「年に何回かしかない僕の貴重な休みをですね、ことごとくこの男(ヒゲの総帥を指している)に連れ回されては台無しにされてるんですよ!」


もちろんこれもコミュニケーションである。世界を蹂躙して暗躍して、ネオ・コロニズムのアイコンとなった孤高の存在のタッキー。この男も自分の母国語が恋しいのである、ヒゲの総帥にむかって自分の母国語を吐き捨て、そしてその何倍もの熱量を持った罵詈雑言が自分に跳ね返ってくるのを期待しているのである。


期待というものは美しいものでも綺麗なものでも具現、具象の類ではない。期待が何かと訊かれればヒゲの総帥はこう答える、「アルノルト・シェーンベルクの『期待 (Erwartung)』のようなものだ」と。期待というのは質量がないものだ、そこに質量を乗せるには、自分というものにどれだけ賭けているかの夢の塊の大きさと比例する。


自分に賭けられる人間は、他人にだって賭けられる。逆に自分に賭けられない人間は、他人に賭ける権利などないのだ。


ヒゲの総帥に「お前は、どうなんだ?」とカミナリが問う。


まだ、わからない。


わからないが、自分の身を焦がしても足らぬほどの戦場を求めているのは確かだ。そんな自分にいつものようにイライラしながら、シャム君との二日目が終わる。外では雨がやみ、その湿度がここはアジアなのだと否が応でも知らせてくれる。


d0372815_20511404.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2018-06-12 20:51 | 雑記 | Comments(0)



主は羊飼い、わたしには何も欠けることがない。
主はわたしを青草の原に休ませ、憩いの水のほりに伴い、魂を生き返らせて下さる。主の家にわたしは帰り、生涯、そこにとどまるであろう。


『詩編23篇』より




神の考えを表すものでないかぎり、わたしにとって方程式は何の意味も持たない。


『数学者:シュリニヴァーサ・ラマヌジャン』のことば




Google LLC(グーグル)は、インターネット関連のサービスと製品に特化したアメリカの多国籍テクノロジー企業である。検索エンジン、オンライン広告、クラウドコンピューティング、ソフトウェア、ハードウェア関連の事業がある。


『ウィキペディア』より




自称302才の女、ツタの絡まる青山ビルでギャラリー「遊気Q」を経営しているこの女がいうには、今からそれこそ10年以上前にGoogleの人間がやってきて、無料で店内を360°撮影してくれたのだそうだ。これはそれなりに宣伝になったようだ、確かに一見さんは入りにくいギャラリーなのかも知れない。そして数年後にGoogleの人間がやってきて新たに撮影をしないかとギャラリーの女にいう、女はもちろんのこと無料なのだろうと考えたが、金を無心されたのだと自己の経験談を話す。


「私ね、そんなお金なんてビタ一文ありやしませんよってね、追い返したんですよ」と手を口に当てて上品に笑うギャラリーの女、シャム君は「それって、本物のGoogleの社員ですか!?」とにわかに信じられないといった顔をする。コロマンサにはもちろんGoogleのスタッフなど来たことがないので、ヒゲの総帥も万作もよくわからない。


コロマンサ店内も360°ビューがあるが、これにいたっては世界の果て会計の無法松先輩がわざわざカメラを松山から取り寄せて撮影してくれたものである。


しばらくすると、ガルパンの男やゲームセンス・ゼロの女ことアシム、さらには約束どおりに忌部が知人のトリマーを連れてやってくる。外は大雨であるが、湿気はあまり気にならず、皆が季節に服従するような顔をしている。


シャム君はシアトルの生まれだということを話す。シアトルといえばアメリカ西海岸の一番上の端っこである、そこで育った彼はそのままブラウン大学というところへ行くため、東海岸へ行くことになる。そしてGoogleへの入社が決まってからというもの、また西海岸へ戻りサンフランシスコにあるシリコンバレーという街で住んでいるのだそうだ。アメリカ大陸とはいうものの、実際には湖のように沿岸を移動しているだけだよと自嘲している。


シャム君はことあるごとにほんの少しの採血をしては、それを専用のカートリッジで読み取る。測っているのはもちろんのこと血糖値である、彼は自身の左手にも【DIABETIC(糖尿病)】とタトゥーが入っている。自分が不意に倒れたときに、通りがかりの人がそのタトゥーを目にして何が起きているのか解ってくれるのだと説明してくれる。ヒゲの総帥も【PSORIASIS(乾癬)】とでもタトゥーを入れてみるかとも思ったが、40の手習いでもあるまいし、みっともないのでやめておこうと思う。


「最近はアップルからグーグルへ転職する人が多いそうじゃないか、そんなにアップルとグーグルでは職場環境が違うもんかい」とヒゲの総帥は訊ねてみる。もちろん、ヒゲの総帥がそんなことを比較研究しているわけではない、全て先日のシリコンバレー・セミナーで聞いた言葉の受け売りである。ヒゲの総帥からするとリンゴも梨も変わらんのじゃないかくらいに思っているが、どうやらそうでもないらしい。


「確かにそうかも知れないね」とシャムは答える。監獄に入れられていた猫が、いきなり放し飼いの自由を勝ち取ったくらい社風は違うかも知れないという。両社とも最高給でどっさり腕のいいタレントを抱え、彼らの才能、そしてそれに伴うとされるレバレッジを国内のシンジケート、いや国際的シンジケートに流していく。要するに発明によって投資を償還させようとしている。それで思い出されるのは「垂直型」と「水平型」の企業の違いであり、すなわちハンター・トンプソンの言葉をまんま借りるなら、フォードとゼネラル・モータースとの基本的な違いである。


彼は23才だという。「阿守さんは23才のとき何をしていた?」とシャムは問う。ちょうどその頃、ヨーロッパをぐるぐる当て所もなく回っていたが、結局なにをするにも金が必要なことを痛感するばかりであった。祖国にいようが外国にいようが、金がないことでの惨めさはどこでも同じであった。空の青さは残酷なまでにヒゲの総帥へ希望を強いているように思えた。


もちろん悪いことばかりではなかった、良いことは少なかったがそれでも未だに記憶に残っているあの当時の憧憬というものは、今後いかに絶景なるものと出会おうとも色あせるものではなかろうとも思う。というよりも絶景気違いの世の風潮に随分と辟易していることも事実だ。


シャムと飲み続けウイスキーも5杯を越えたころには、一体どんなことを喋っていたのかあまり覚えていない。アシムや忌部がそれなりに場を取り繕ってくれていたのかも知れないが、それすら覚えていないのだ。多分、IT(Information Technology)についての話しをしていたのだろうが、いつしかITは本来の代名詞としてのITを通り過ぎて、マイケル・ジャクソンが流行らせた「This is it」という言葉が意味するような話しになっていた。


いつの間にかシャムはキャピタリズム(資本主義)の脆弱さを語っている。


夜も更けたころ、雨は降ったり止んだりしていたが、シャムは京都へ行くというし、ヒゲの総帥も朝から仕事があるというので今夜はここまでとすることにした。


「仕事は楽しいのか?」とシャムはヒゲの総帥に問う。「つまらなくもない、もちろんその日その日はテンションを保ってやっているよ。でも、やりきれないこともある」と総帥はいう。企画屋と技術屋と法律家とクライアントのあいだを取り持つ仕事をしているシャム、また彼もストレスがたまることはよくあることだという。「エンジニアなんていうのはどこの国にいっても同じ顔をしているものだ。見るだけで、あいつはエンジニアだってわかるね」とヒゲの総帥は適当なことを言って、ケラケラと薄気味悪く笑う。


一日目の夜はシアトルにゆかりある、カート・コバーンの言葉で締めよう。


俺が考える最大の罪は、自分を偽り、まるで100%楽しんでるかのようなふりをして、他人をはぐらかすことだ。


ヒゲの総帥は星師匠に4000円借りた。


d0372815_23571614.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2018-06-12 00:04 | 雑記 | Comments(0)

これを書き上げる頃には、日付は11日の日曜日になっているだろう。だが、物事はそれを始めたときが肝心なのであって、終わりなど大して美徳にはなりはしないのだ。アメリカにしても例外ではない、彼らはベトナム戦争をはじめるとき、非常にドラスティックな詐欺的手法を使って開戦した。しかし終わりともなれば、壮絶なる阿鼻地獄をよそに人々は無関心となり、グズグズに終わった。


歴史は二度繰り返す。最初は悲劇として、二度目は喜劇として ― 


カール・マルクス


そしてやっぱりイラク戦争にしても同じようにドラスティックな詐欺的手法を使い開戦したはいいが、結局のところ同じことをして人々を不安がらせて、手品のタネ(焼き尽くす大地)がなくなれば、あとはグズグズにして放ったらかしである。


サンディエゴに留学していた賢明なるディエゴ君は、ことあるごとにヒゲの総帥に訊いてきていた。「阿守さん、9.11事件は結局のところ陰謀なんですか?」とか「首謀者は誰なんですか?」と訊いてきた。ヒゲの総帥は残念ながら千里眼ではないので、自分の知る限りのことで答えるに留まる。あれは陰謀なんて品のあるものじゃなくて、恐るべき行き違いなのだ。それは許されざる行き違いである。


さて、今は神戸の山中に籠って研鑽を積むディエゴ君から久しぶりにヒゲの総帥のところへ連絡があった。内容はGoogle本社の男がコロマンサにヒゲの総帥のギターを聴きにやってくるというものであった。なんでもその男が日本人が好むローカルなライブバーを紹介して欲しいとのことをディエゴ君に問い合わせてきたようで、ディエゴは北濱にある猫のひたいのような小さな店、クントコロマンサを紹介(どちらかといえば斡旋であろうか)してくれたという顛末だ。


それも自分の事業の一環だと胸を張る天然ボケの後輩。しかしながら中途半端な対応をすればディエゴの事業のスタートに傷をつけてしまうと考えたヒゲの総帥は、この後輩からの粋なはからいに応えることにした。なんでもスタートが肝心なのだ。


ヒゲの総帥もGoogleには興味があった。先日、都合のいいことにIC回路を持ち歩く男の「シリコンバレーとは」という講義をザ・ジンクスで部分的ではあるが耳にしており、シリコンバレーというものに興味があったのだ。それまではシリコンバレーがサンフランシスコにあることすら知らなかったのだ。そして世界のGoogle本社はそのシリコンバレーの中枢に存在する。知識の深まりが好奇心の大前提であることは、人間の証でもあろう。一旦、好奇心を持ったからには出来る限りはこの身を乗り出してリサーチする覚悟がなければ、字など書いて提出しないほうがマシである。


そう、ヒゲの総帥は今さらながらの非効率的で破滅的なゴンゾ(Gonzo)・スタイルだ。フォーマット(メソッド)をもって取りかかるなど、人それぞれのニーズを予定調和の中へ放り込むのが常の神かおよそ天才のすることだ。ヒゲの総帥には無理である。


ギターを聴きに来るということは、梅雨前にしてサビきったギターの弦を張り替えなければならない。ヒゲの総帥は仕事を定時で終わらせツタの絡まる青山ビルの一角を陣取るギャラリー遊気Qへ行く、ここに新品のギターの弦を置かせてもらっているのである。自称302才の女の厚意にはひたすら感謝をしている。


ヒゲの総帥はこのギャラリーの女を今月末に行われるジンクスでのワイン会に誘っているのだが、なかなか強情で首を縦に振らないのである。まだコロマンサが開くまでに時間があるので、ヒゲの総帥は大正レトロな青山ビルを出て、近くにあるこちらも大正レトロの船場ビルディングへ向かう。ここには不動産デザイナーの忌部の会社があるのだ。そう、あのワイン会のチラシを制作した男である。


行ってみると、オフィス入口の引き戸が開きっぱなしになっている。オフィスの窓には「お前たちはこの色以外は着てはならぬ」とお上から命じられていた時代の人が着ていたような色のカッパが干されている。そう、この日は雨であったのだ。


ピンポンもないので「おお、やっとるね」とそのまま入る。仏頂面の忌部の部下の女がヒゲの総帥のほうを見る、女は「何か用ですか」とも言わない。ただ、「下(の階)にいます」と言って忌部を呼びに行くのみであった。ホントに無駄なことを喋らない優れた部下であるとヒゲの総帥は常々、忌部に言っている。


忌部がのそっと地下から出てくる、ヒゲの総帥は開口一番こういう「忌部くん、今夜は外人が来るぞ」と、忌部はカラカラ笑いながら「外人なんていつでもおるやないですか。この前やっておったでしょう」という。この場合この前というのはチェコ人のウラディミールたち一行のことであろう。ヒゲの総帥は何の説明もすることなく、「とにかく外人が来るんだから、君も見に来いよ」と日本がまだ海で守られていた頃の人のようなことを忌部に言付けしてコロマンサへ行く。


ヒゲの総帥が店に到着すると、版画家の万作はカティサークなる帆船の模型を作っていた。最近、暇なので版画家と飲み屋だけではもの足らず造船業も始めたものと見える。ヒゲの総帥はギターを取りだし、今夜の演奏のために弦を取り換える。素早く取り換えなくてはならん、そこからすぐギターの練習をはじめれば、大体のところ夜の10時くらいにディエゴの客が来ると予想して3時間は練習できる。3時間練習すればそれなりに手は動くであろう、青春を削って練習していたときの技術の貯金がこういうときに活きるものだねとギターのペグをぐるぐる回して急ぎ弦を交換する。


およそ一般的なギターは6本の弦で成立する。ヒゲの総帥が3本目の弦の交換に取りかかったとき、もう海外からの客人がコロマンサに入ってきたのにはビックリした。


彼の名前はシャムという。まさかここから三日間を一緒に過ごすとは思いもよらなかったのである。


つづく


d0372815_01412280.jpg

[PR]
by amori-siberiana | 2018-06-11 01:41 | 雑記 | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31