カテゴリ:雑記( 232 )

今日はよく晴れている。吹っ切れたように広がる青空は、鳥すらもその誰にも飼いならされない本能をふんだんに使用しても、姿を隠すことができないほどである。


ヒゲの総帥は今日は早退である。明日から一斉になんらかが始まるのであるが、明日の準備はすでに先週末にできているので、我が愛すべき大阪市は仕事がよくできているということである。よくできてなくてはいけないのだ、さっさと昇進しなくてはいかん。こんな薄給で生きていけるか、バカ野郎。


さて、後編。


来店時と退店時では歯の数が一本違うヒゲの総帥と、元来、歯はガタガタのアキラメ堂のご主人はお好み焼き屋からコロマンサへ向かう。吟遊詩人の女は賢明にも「私はここらで」と帰路につく。


店に到着するとすでに無法松先輩とチェコ人たちがいる。しばらくすると多角的ネット販売会社の社長兄弟を連れて冷泉もやってくる。気がつけば最近はレコーディング三昧だというギバタ、ゲームセンス・ゼロのアシム、ジローやガルパンの男、バイリンガルの女、外資系保険の女、そして今もっとも奈良のあたりで熱い男ことファラオもやってくる。


チェコ人たちは京都の銀閣寺→南禅寺→龍安寺の観光から帰ってきたのだとヒゲの総帥に説明をする。


ここでチェコ人グループの最年長であるジョセフという男がヒゲの総帥に「日本についての質問をさせてくれ」と訊ねてくる。なんでも訊いてくれとヒゲの総帥は快諾するが、その質問の珍妙なことといったら他に例がない。


【質問】日本の総人口は現在、何人ほどで、1994年と比べてどうなっているのか?


このおかしな質問にヒゲの総帥と無法松先輩は「大体でしかわからないですよね、統計をとった資料もないですしね・・・」と頭を悩ませながら、こんなもんだろうと回答をする。ボーダーのTシャツを着ている禿頭で初老の男ジョゼフ。体形や服装などを含めて、店が混雑しているときなどは万作と見間違えることしばしばの男からの質問は続く。


【質問】チェコでは年間自殺者がこれくらいいるが、日本での年間自殺者はいかほどなのか?


なんとも一般的な旅行者とは思えないような質問を投げかけてくる。そしてそのジョゼフ(Josef)の顔立ちはロシアのプーチン(Putin)大統領に似てなくもないので、ヒゲの総帥はまるで在りし日のKGBからの尋問を受けているような錯覚をおぼえる。


チェコ人のリーダーのウラディミール(Vladimir)が何か歌ってくれというので、同じくチェコ人のマルティン(Martin)と一緒にヒゲはギターを弾き、彼のリクエスト通りにコールドプレイの「Viva La Vida」を歌ってみるが、歌えたもんじゃない。すると俄かに店の中央がザワザワしだす。冷泉とジローが腕相撲対決をはじめるというのだ。


呆れ顔でその二人の対決を見ていた無法松先輩。ハイボールのおかわりをもらってきますと奥の席から人混みをかいくぐり万作のいるカウンター方面へ消息を絶つ。数分後、先ほどの呆れ顔がウソのように嬉々としてジローと腕相撲に興じる無法松先輩の姿がある。


「ミイラとりがミイラになるとは、まさにああいうことだ」とヒゲの総帥はアシムと苦笑いをする。チェコ人たちは腕相撲を観戦したあと、ごく自然なかたちで殴り合いを観戦させられることになる。ヤナ(Jana)やLenka(リンカ)といった女性陣もたいして怖気づくことなく、酒宴の一興くらいのつもりで見ているのにはこちらが恐れ入った。


夜が更ける。


山の向こうに帰らなくてはいけないファラオは当たり前のように帰るタイミングを逃し、ホテルを取ることとなった。ヒゲの総帥とファラオは二人で夜道を歩きながら、最近のファラオのゲームイベントが好評であることを語り合う。話題はいつしかクイズになる。


「僕の一年の最たる楽しみは、アメリカ横断ウルトラクイズの放映だった」とヒゲの総帥はファラオに告げる、ファラオも同番組に精通しているようで話しは弾む。いつか早押し機を使った本格的なクイズ大会をしたいねと二人の見解は一致する。


「僕なんかはアタック25の予選に参加したんですよ。書き問題は通過したんですけど、面接のときに顔で落とされましたよ」と苦々しく語るファラオ。


テレビというメディアが、まだ良識を持っていた頃の話しである。


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by amori-siberiana | 2018-05-21 14:28 | 雑記 | Comments(0)

「右手と左手で柏手を打つと、パンと音がするだろう。なら、片手で柏手を打つとどんな音がするのか?」


ヒゲの総帥は真顔で珍妙なことを問いかける。


「えっ?どういうことなのかまったく意味がわかんないんっすけど・・・」と呆れ顔に返事をするのは、ゲームセンス・ゼロの女ことアシムである。「スカッ、スカッ、とか、こういうことっすか?ええっ、音なんてしないでしょう」とアシムは頭に「???」を浮かべたままヒゲの総帥の問いに答える。


「つまりそういうことなのだよ、そういったものを作りたいのだ」とヒゲの総帥はアシムに話す、「アモさんからなんだかよく解らないことを言われそうな雰囲気でしたけど、本当にわかんないっすね」とアシムは答える。アシムの向こう側では冷泉とジローが歯をぎりぎりいわせながら腕相撲の頂上対決をしており、アラタメ堂や無法松先輩、不思議な女やガルパン、そしてチェコ人たちは興味深そうに兄弟対決の決闘の行方を追っている。


北濱にある猫のひたいのように小さな店、コロマンサは文字どおり、足の踏み場もないという状態であった。あちらこちらで笑い声と殴りあう音、そしてギターの音と調子はずれの歌が聞こえる。


時間は巻き戻る。


二日酔いで半ボケのままヒゲの総帥は役所仕事を終えて、そのまま北濱のオフィス「ザ・ジンクス」へ向かう。ここで吟遊詩人の女と打ち合わせをするのだ、人が人と話すのにこの辺で最も心地のよいソファを置いているのがジンクスである。株式会社「い~でやんす」のダダヤマを例に出すまでもなくあらゆる人間がジンクスを拠点に面接や商談、交渉やどうでもいい井戸端会議を繰り広げている。


ここは文字どおり現代の交易場なのだ。昔のように反物と果物を交換するようなことはないが、ツールは違えど発想の原本は古今東西、あまり変わりはないのであろう。1分を誰が60秒と決めたのか?とそんな考えの奴らが集まり、1分を61秒や59秒にしてみて奮闘しているのである。


面接の時間になったはいいが、蓋を開けてみると誰も面接に来なかったという悲劇的屈辱を何度も経験したダダヤマがジンクスのソファーにて、ぼんやりした西日のなかボケ老人のようにフテ寝している姿をよく見たものだ。


吟遊詩人の女ことアルセアがのこのこやって来る。ほぼ、同じタイミングでアキラメ堂のご主人もジンクスへやってくる。


「ご主人、これから外で食事しますけれど、よければ一緒にどうですか?」とヒゲの総帥は偉大なる先輩を誘う。


「いや、いいです!僕も仕事があるんですよ、仕事が終わってからコロマンサへ行きますから」とアキラメ堂は連れない感じであるがヒゲの総帥が「お好み焼きを食べに行く」と口にすると、さすがは生粋の関西人であるのかアキラメ堂は仕事を諦め、ヒゲの総帥とアルセアに同行することとなった。


お好み焼きを食べながら打ち合わせがはじまる。アルセアは前もってヒゲの総帥から頼まれていた何かしらのデザインアイデアを提示する。(何かしらと言葉を濁すのは、それは時間がもっともっと進んだ頃に判明することだからである。物事には順序があるもので、義経のように八艘跳びなどしてはいけないのだ)


ヒゲの総帥とアラタメ堂はそれを見ながら、うんうんと頷く。ヒゲの総帥はアルセアに【EL BULLI】を知ってるかと問いながら、料理の写真を見せる。アルセアは唐突なる料理の写真群を突き付けられ「こいつは何を言ってるのだろうか」という視線を送る。つまり、そういうことなのだとヒゲの総帥は熱っぽくどうして自分がそのような写真を出したのかを支離滅裂気味に語る。


話しが佳境に入ろうとしたとき、ヒゲの総帥は口の中に異物があることに気づく。「あっ、とうとうこの店やりやがったな」とヒゲは直感で思う。


異物はそのままヒゲの総帥の口から飛び出し、鉄板の上をからんからんと音を鳴らしながら転がる。以前からここのお好み焼き屋は不気味だったのだ、やたらニヤニヤ笑う店員、せっかくミディアム・レアで焼いた肉を意味もなく鉄板の上で提供することによってウェルダン状態にしてしまい、一体何がしたかったのだと客をうならせるような店である。いよいよ、店側が牙を剥いてヒゲの総帥たちに異物混入という無言の圧力をかけてきたのであろう。異物混入を口の中で感じてから、ここまで考えが逡巡するまでに一刹那。


怒鳴りつけてやるとヒゲの総帥は店員を呼ぼうとする前に念のため、鉄板で焼かれている異物が何だったのか探る。


そこで焼かれていたのはヒゲの男の差し歯であった。店が牙を剥くのではなく、頼まれもしないのに抜いたのはヒゲの男その人なのだ。アキラメ堂とアルセアは失笑する。


失笑するしかないではないか。




常に客に驚きを提供する― フェラン・アドリア




(後編につづく)


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by amori-siberiana | 2018-05-19 19:50 | 雑記 | Comments(0)

窓の外を一頭の水牛が通る。


最初にその立派なる角が見えて、そして水牛の頭がにゅっと出てくる。さらに背中も見える、ところが尻尾だけはいつまで経っても出て来ないのである。まったく窓からでは確認できない、なぜか。


いろいろなことがあった。そのひとつひとつを頭のなかに保存しているのだが、古いものはどんどん新しいものに取り換えられていく。


コロマンサでは殿様のような笑い声をあげる副社長の社長が、思考回路の整理整頓をさせるプロを連れてきてくれたり、辛子れんこんを手土産に大学生の女が大学職員になるため幾つもの関門をくぐりぬけている途中だと教えてくれたり、不思議の国の女が星師匠と恋の話しをしているところへ醤油売りの女が来たりと一事が万事のようであった。


さて、先日のこと。


ヒゲの総帥はヨーラン・モンソンという笛吹きの演奏を聴きに行く。会場は東心斎橋にあるキリスト教の教会である、仕事を定時に終わらせて開演までしばらく時間があるので星師匠と焼売を食べてハイボールを飲む、教会へ到着する頃にはすでに赤ら顔でできあがっているヒゲの総帥。教会前にはすでに開場を待つ人たちがそぞろに集まっている。


ヨーラン・モンソン先生はスウェーデン人、そしてスウェーデン人といえばカコフォニー・フィールズのドイワ会長がいることは火を見るより明らかである。ヒゲの総帥も隠れキリシタンの足跡を追って、天草諸島などの教会を巡っていた頃を思い出す。知人で弁護士事務所で働くミスター・プラムと会えば、ツタッキーとも遭遇することになる。このツタッキーという女と最初に会ったのはパリであった、ヒゲの総帥がアパルトマンに夜な夜な出てくるネズミに頭を悩ませていたときであり、ツタッキーと会うとネズミの駆除に腐心していた自分自身を思い出す。ツタッキーはデザインの勉強でベルギーのアントワープに滞在しており、自分の親戚がいるパリにバカンスしにきたという具合だった。


「おお、ツタッキー。懐かしいな、それこそ10年以上ぶりじゃないか」とヒゲの総帥は挨拶をする。


「そんなことないよ、ヒゲの総帥は前にFM OSAKAで見かけたよ」とツタッキーは返答するのだが、見かけたのと会ったのでは全然その意味合いが違わないか?とヒゲの総帥は右手でヒゲをひねりながら苦笑する。まあ、酔っぱらってるのでどうでもいいかと得心して開演を席で待つ。しかし飲み過ぎたのか、どうにも落ち着かないのでトイレに行く。するとヨーラン大先生がトイレにおり手を洗っている、その中腰で手を洗っている先生めがけてヒゲの総帥は声を掛ける「ヨーラン、しっかり演奏するんだぞ!ガハハ」と言いながら、ヨーランの尻をバチンバチンと二発叩く。非常に肉厚であった。


魔法の笛を操る男、笛が魔法なのか、笛吹きが魔法使いなのか、それともその両方なのか。それはどちらでもいい、長きにわたって演奏され続けてきたスウェーデンの民俗音楽がはじまる、その土臭さ、空気の冷涼さ、人々の生活のリズム、イントネーション、妖精や悪魔、そういったものが笛の音をして再現されていく。おお、これは呪詛だなとヒゲの総帥は嬉しくなる。ドレープのカーテンにてこれまで折りたたまれていたスウェーデンという土地の記憶の部分が、ゆっくりと開かれていってはまた閉じられて、開かれては閉じて、それがアコーデオンのように繰り返される。何度も繰り返される。



どうしてここ(スウェーデン)はこんなに美しいのだ、どうしてここはこんなに寒いのだ、笛の音は深く下りろ、深く下りろ、と繰り返す。最小限の照明によって映し出された、ヨーラン・モンソン御一行は秀逸の演奏をヒゲの総帥たちに披露してくれた。


終演後、ヒゲの総帥はピアノ工房の軍司に呼び止められる。「全然、どこにおるのか解らんかったぞ、今、来たばかりか?」とヒゲの総帥は軍司にいうが、開演してすぐには着座していたのだと軍司は回答する。


軍司はそのまま夜のネオン街へと消える、ヒゲの総帥は星師匠と別れてコロマンサへ向かう。ヒゲの総帥の携帯には共同経営者で版画家の柿坂万作からメールがきており、「チェコ人がギターを演奏して欲しいというてます」という旨のことが書かれていたのだ。


ゴガッという締まりの悪いガラス戸の音がする。常連の不思議な女とガルパンの男がおり、奥の席にはチェコ人の一団が談笑している、これまた彼らとは久しぶりの再開である。しばらくするとヒューレット・マザーファッカードの男もやってくる。「この男は唐突に僕の家まで来て、どうしてバンドを解散させたんですか。と、殴り込みに来た男なのだ」とヒゲの総帥は常連の二大巨頭にファッカードを紹介する。


するといちげんさんがやってくる。賢そうな輪郭と商才豊かな顎をもった男である、訊くところによれば映像ディレクターをしているとのこと、ある男にこの店で待ち合わせと言われて来たのだという。もちろんその説明である男というのが、冷泉であることはその場にいる皆がわかっている。


5分くらいの時が経過する。どすどすどす。全身の体重を階段にかけた音がする、ドアが開くとそこには全身を黒ずくめにして、さらには大仏のようなパンチパーマになった冷泉が「ぐふふ・・・」と不敵な笑みを浮かべて立っていた。


そういえば去年、奥の席にいるチェコ人の一人と冷泉は殴り合いをして、酒飲み対決をしたのではなかったか。


そこからというもの、ヒゲの総帥の目の前には常にウイスキーがあることになる。チェコの来客からのおごりということで、断っては不躾になると飲み続けたのだが、次の日の公務は二日酔いであった。二日酔いが醒めた頃にはそろそろ終業という時間なのだから、ぐだぐだもいいところである。


冷泉は飲み足りない、飲み足りないと、ブツブツ言いながら、最後にこう言った。


「明日は・・・、地獄にしたいです」。


ヒゲの総帥は地獄には阿鼻叫喚がつきものだと、早速、知り合いのなかで一番良い阿鼻叫喚をあげる男、アキラメ堂のご主人を誘うことにした。


アキラメ堂から返事がくる。


「殺す気ですか?」


今週は、平日ぐっと気温も上がりここから夏日が続くこととなるのだ。水牛の尻尾はまだ見えない。


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by amori-siberiana | 2018-05-18 20:10 | 雑記 | Comments(0)

役所の一室で妙に宇宙めいた音を発する謎の部屋がある。その部屋にはヒゲの総帥と相棒だったテッドが「ハーデス(冥途の神)」と名付けたオバハンが常駐しているのは確かである。


ズキュン、ズキュン、ズキュンと延々と鳴るのだが、それが何の音なのかは知る人しかわからない。もちろん、ヒゲの総帥も音の発生源が何なのかわからない。ハーデスが何らかの儀式をしているのかも知れないし、また冥府とのコンタクトを取ろうとしているのかも知れない。


ズキュンという音はとても機械的であり、どこか滑稽であり、ひと昔前の宇宙戦争に使われていた光線銃の音を連想させるものである。(もちろん宇宙戦争などがどんなものなのかは映画やアニメでしか知らないのだが・・・)。


―さて、ワイン祭の続き―


ヒゲの総帥、タッキー、ジローちゃんに星師匠の四人はワイン祭に来ている。混雑した中でしたたかに試飲を続けて歩きまわったので、これまた随分とくたびれた。くたびれた先でバーカウンターのある一角を見初めてそこへ行くと、白ワインの王様モンラッシェが飲めるというが、値段が高すぎて手が出ない。ということで、比較的に手が出せそうなワインの飲み比べを試してみることにする。


内容は一人4000円でシャンパンと白ワイン、赤ワインをそれぞれ20mlずつリストから選んで飲めるというものだ。


まず、シャンパンを選ぶ。バーカウンターにいる女主人が「あいにくドンペリは売り切れた」と弁解するが、そもそもドンペリやクリュッグのようなギラギラしたシャンパンに興味のない一行はそれぞれ新規開拓という気概でシャンパンを頼む。ヒゲの総帥はなんちゃらかんちゃらのロゼをオーダーしたが、これは失敗に終わった。いや、正確にいうと失敗ではない。成功ではなかったというだけのことだ。


次に白ワインを飲む。これは全員が同じものをオーダーする。そしてこの白ワインの名を今後忘れることはないであろう。「このワインは、危ないね」とヒゲの総帥がいう、「危ないですね」とジローは満面の笑み、タッキーも同意する。


【ムルソー・ジュヌヴァリエール・1ere 2013 ラトゥール・ジロー】


これはブルゴーニュ地方の白ワインだという。グラスを変えてヒゲの総帥がワインを飲む、口の中に住んでいるであろう妖精が叫ぶ、「もっとだ、もっとだ。その酒で俺を溺死させてくれ」というのだ。ジローが「これはバターですね、バターですよ」と言い、ここでヒゲの総帥とハイタッチである。タッキーもすっかり感銘を受けた顔をする。


「以前、モンラッシェを飲んだことがありますけど・・・、これはそれと同じステージにありますね。まだまだステージに上がりたてですけれど、これからが楽しみです」とタッキーは話し出す。ヒゲの総帥の耳は自己の口に住まう妖精の叫びで盛況なので、タッキーの高尚な話しを聞き逃してしまう。飲み干すのが勿体ないが、飲まなくては味わえないというジレンマに駆られる。明らかに他とは圧倒的に何かが違ったワインと出会える幸福は、記憶のなかにあった不幸な出来事をひとつ、知らぬ間に消し去ってくれるようでもある。


ところがヒゲの総帥は赤ワインの選択ミスをした。どうせならと思い切ったところを攻めたが、返り討ちに遭ったのである。


ワインを飲み終えたあと女主人が人数分の伝票を切ろうとするのでヒゲの総帥はそれを手で制止させる。「資源は大事にしなくちゃならない、紙ですら例外ではないのだ。勘定はひとつにまとめて彼のところへ置くように」とタッキーを指さす。律儀なる女主人は笑いながら、ヒゲの詐欺師の言うままにタッキーのところへ伝票をそっと置くのである。


さて、先ほどからケルト音楽の生演奏が流れている。酔っぱらい四人はステージ前へ移動する、会場の盛り上がりが足りないのでヒゲの総帥はステージで演奏するミュージシャンをステージ中央に集めて選曲ミーティングをする。もちろん演奏家の皆さんとは初対面だ。酩酊者の所業とはいえ、よく受け入れてくれたものだ。


ケルト音楽の演奏家たちはヒゲの総帥に指示されたままライアンのポルカを演奏する、会場は盛り上がる。演奏中にヒゲの総帥の背中あたりでガヤガヤする、一体なんだとヒゲが振り返るとそこにいたのはカコフォニー・フィールズ代表のドイワ社長であった。「すぐ阿守君が来とるなってわかったわ」とドイワは笑いながらいう。奇遇にもこのワイン祭の舞台を仕切っているのはドイワ社長だったのだ。


トラッド(民俗)音楽あるところにドイワあり、ドイワあるところにトラッド音楽ありである。


そう、今年の10月にはエストニアから「トラッドアタック」なる怪物バンドを呼び寄せる男である。ドイワはトラッドアタックと殴り合いをさせるミュージシャンを探している、映画「ロッキー」でいうところのアポロ・クリードの挑戦相手を探しているプロモーターというところだ。すでに目星は付いているというが、ヒゲの総帥はトラッドアタックの演奏さえ見られればいいので、対戦相手が誰なのかかなどにはまったく無頓着である。


一行は阪神百貨店でそれぞれ分かれることとなる。それからというものオンラインショッピングでムルソーをポチりそうになる戦いをずっと続けているヒゲの総帥である。ダメだダメだ、過ぎたるは及ばざるが如し。足るを知るということをそろそろ身に染みて学ばなければいけないのだ、だってヒゲは不惑の年齢だぞ。


ああ・・・。


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by amori-siberiana | 2018-05-09 19:33 | 雑記 | Comments(0)

ミカン爆弾の男こと、バナナイチローは失職を目の前にしている。くしくも太平洋の向こう側にいるイチローが特別待遇の契約を球団から勝ち取った同じ時期、もう一人のイチローは失職しようとしているのだから、これはなんとも皮肉なことである。


原因は東京本社からの異動命令にたてついたことを発端とするのだと本人から訊いた。ヒゲの総帥の知人で、アニヴァ―サル・レコードという世界最大手の会社で働いていた男がいるが、この男も急に東京からロンドンへ異動してくれと会社から通達が来た。東京に新居を買ったばかりの彼であったが、苦渋の決断にてロンドンへ行くこととなった。沢山のレコード・コレクションをどうするのか逡巡した挙句、ヒゲの総帥に「預かってくれ」と頼んできた。


ヒゲの総帥は「もちろんだ」と快諾する。そしてすぐさま平尾先生に連絡して「キミがレコードを丁重に預かるように」と他力本願を出す。小説家の平尾先生は「もちろんだ」と快諾する。その後、平尾先生は電気工事士のヤマトコに連絡して「山さんが預かってくれませんか」と懇願する。ヤマトコは二つ返事で「もちろんだ」と快諾をする。あれから数年経つが、あのレコードは今どうなっているだろうか・・・。


話しを戻そう。


ロンドンにて赴任することになったその男。赴任先で家族にも恵まれるが、急に本社からの通達で「日本へ戻るように」と指示がくる。さすがにすでに生活の基盤がロンドンにあるので、それは無理難題であると本社からの人事異動について難色を示すと、次の日には「さいなら、お疲れさまでした」という類の社内メールが来ていたそうだ。ヒゲの総帥は外資系は怖いなとつくづく肝を冷やしていたが、今まさにバナナイチローがその渦中にいるのかと思えば多少なりとも気の毒な感がする。が、やっぱりどこか他人事である。


さて、ゴールデンウィークも終わった。よくギターを弾き、よく本を読み、よくYouTubeを見た休日であった。つまるところ何の予定もなく暇を持て余していたわけであるが、それなりに愉快なこともあった。ちょうどゴールデンウィーク期間中に阪神百貨店にて世界のワインを試飲できる会が催されているとヒゲの総帥に教えてくれたのは、冷泉の弟のジローであった。


どうせ止めどなく酔っぱらったとして、明日も休みなのだからとヒゲの総帥はワイン試飲会へ行くことにする。そしてワインといえば世界最高のソムリエ先生と仕事をするタッキーを呼ばなくては面白くない。この人類史上、例をみないほど愉快でトンマな男は世界のソムリエ御大の側にいることで、まったくもってワイン通を気取る愚か者である。しかし、単なる愚か者ではない。タッキーという男はそういう意味では無邪気であり、自分を駆り立てる好奇心という王者の前ではうやうやしく頭をひれ伏すほど純真さを持つ男なのである。なので偉大なる先人の背中を見て、その感性をラーニングする速さは稲妻の如くである。


このタッキーを連れて世界のワインを飲みあさり、タッキーにうんちくを語らせたらさぞかし面白かろうとヒゲの総帥はほくそ笑む。そのような悪趣味なことを楽しむこのヒゲの総帥も例に漏れず随分と愚か者である。冷泉の弟ジローもワインにはやかましいので、これもやっぱり愚か者の類であろう。


そもそもワインというのは単に味だけを楽しむものではなく、博学的に語られたり、高尚な演出めいたユーモラスなところに面白味があるものなのだ。ワインの香りだ、色だ、哲学だ、文学だ芸術だというもは人間が生きていくうえでさして重要(生存本能におけるワインの優先順位は他事と比較しても随分と下であろう)ではない。その重要ではないことを、さも重要であるように語り合うキッカケを我ら愚か者に与えてくれるこのブドウ酒という飲み物は、その側面において他の酒の追随を許さない。そして都合よくタッキーは日本に滞在しており、さらには半日ほど予定が空いているとはいうではないか。いざ、陶酔のときへ。


西梅田の行きつけのカフェにてタッキーと星師匠と待ち合わせをして、そこから三人で混雑する阪神百貨店の催し会場へ上がる。上がるとさらなる混雑をしており、そこいら中でワインの試飲に群がる人間たちで溢れかえる。ヒゲの総帥はワイン通のタッキーに「どの地域から飲むのか」と訊いてみて、タッキーの背中にくっついていく。祭りで賑わう参道の様相を見せる会場の人だかり。ここだけで1週間に億を稼ぎ出すビッグイベントなのだ。


「阿守さん」とジローが声を会場で声を掛けてくる。「よくこんな混雑でわかったね」とヒゲの総帥が驚くと「すぐにわかりましたよ」とジローは笑いだす。そんなジローの手にはワイン品評リストと使い捨ての鉛筆が握られており、すでに自分が試飲して気に入ったワインには〇印が入っていた。


「アモさん、次はカベルネ行きましょ」、「アモさん、次はリースリングにしましょう」、「アモさん、次は新世界のワインに行きましょ」、「アモさん、ジョージアのワインはないんですかね?」とタッキーはぐんぐんと奥地へ進んで行く。赤に白にスパークリングによく解らないワインにと何でもかんでも飲む。飲んで飲んで飲みまくり、いつしか皆が上機嫌になってくる。タッキーはワインを口の中でゴロゴロ転がしながら汗だくになる。


試飲のたびにタッキーとジローはワインの感想を述べる。さすがにこの二人は板についた評論をするものである、これを拝聴しているだけでも愉快である。ヒゲの総帥は一人のワイン商の男を捕まえて話し出す。このワイン商の男には師匠がおり、その師匠というのは京橋で「ケース」というワインバーを経営しているのだという。


それを聞いてヒゲの総帥は驚く。「奇遇ですね・・・、そのお店でボーヌの07年を飲みましたよ、とても良いワインでした。そうですか、あのかたが師匠でしたか」とヒゲの総帥はワイン商の男に自己の経験を伝える。世にも奇妙な縁があるものだ。


飲みつかれた一同は塩気を求めて簡易のバーカウンターがある一角へ向かう。「タッキー、生ハムを食べようじゃないか」とヒゲの総帥はタッキーを突く、仕方がないなという表情をしたタッキーであるが、「えっ!」という声とともに、その目が、急に見開く。


「アモさん、ジローちゃん!モンラッシェが15000円で飲めますよ!」とタッキーは憑かれたように大声を上げる。「モンラッシェといえば、白のロマネコンティですよ!」とタッキーのテンションは上がる上がる、ジローも「まさか・・・」という顔をする。ヒゲの総帥といえば「モンラッシェ」の一言で王様のレストランという20年以上前のドラマを思い出していた。


確か・・・、第一話で千石さん(松本幸四郎)がオーダーするワインがモンラッシェではなかっただろうか。しかも1970年代だかのヴィンテージを注文するのである、ソムリエはそんなワインは当店にはないというが、千石さんはなぜかそのワインがこっそりと仕舞われている場所を知っており、それをソムリエに伝えるというシーンであった。


「いや、待ってください、20mlで15000円ですって」と言ったのはタッキーであっただろうかジローであっただろうか。


20mlなんていうのは4人で分けられる量ではない。されど4人がそれぞれ注文すると合計60000円であり、バカを申すなというところであろう。しかし、ヒゲの総帥はタッキーをつんつんと突く。タッキーはヒゲの総帥の意図を察してか目も見ず「いや!無理っす!絶対、無理っす」と脂汗をかく。


「タッキー、取りあえずこのカウンターに座るのか座らないのか、それをハッキリさせようじゃないか」とヒゲの総帥はタッキーにかぶり寄る。ワインの試飲で東奔西走していたタッキーは「じゃあ、取りあえず」とカウンターの席に座る。それに続いて四人ともカウンターに座る。


目の前にはワイン飲み比べのメニューがある。モンラッシェには手が届かないが、ここに書かれている品揃えもなかなかのものであることを確認した一行はそれをオーダーすることにした。一人4000円を払う。正確にいうと一人が全てを払うことになってしまうのだが、それはまた後の話し。


バナナイチロー、飲もうじゃないか。飲まずにやってられるか。


次回に続く。


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by amori-siberiana | 2018-05-08 21:49 | 雑記 | Comments(0)

「アラタメ堂、その今風の髪形をやめてアイパーをあててみたらどうですか」


唐突なヒゲの総帥の一言に一堂は爆笑する。「僕の髪形はそんな今どきですか?」とアラタメ堂は苦笑しながらヒゲの総帥の提案には乗らない。「大体、今の床屋でアイパーとかパンチパーマをあててくれるところないから、それはそれで希少ですよ」と言葉を続けるアラタメ堂の主人。


不動産デザイナーの男はカラカラ笑いながら、自身が中学生のときすでにパンチパーマをあてている同級生がいたことを話し出す。ガルパンの男もそれを聞きながら、昔は梅田のナビオにナビオ族というのがいたということを教えてくれる、「ナビオ族!懐かしいですね」とアラタメ堂は大笑いする。ヒゲの総帥はナビオ族なるものは初耳だったので、それらが具体的にどのようなものであったのか聞き取る。話しは違うが、ナバホ族の伝統的なあやとりのテクスチャには日本のそれとはまったく違う異国情緒がある。


「お二人はどういう経緯でお知り合いになられたのですか?」


「ねこふん」目当てでやってきたいちげんさんの劇団員の女が口を開く。唐十郎の演劇を鑑賞した帰りにコロマンサに寄ったそうなのだが、ヒゲの総帥とは劇の話しやドキュメンタリー映画「ゆきゆきて、神軍」という共通項の話題が多く、それらの話しですでに打ち解けている。アラタメ堂やガルパンの男も仕事の付き合いがら劇などにも詳しい。不動産デザイナーの男は興味深そうに次の話題は何がくるのだとジンジャーエールを飲みながら、身を乗り出す。


劇団員の女のいう、お二人というのはアラタメ堂のご主人とヒゲの総帥のことである。


「ああ、ある女性が仲を取り持ってくれたのです。阿守さんと福田さん(アラタメ堂)話しが合うんちゃう?と軽い感じで」とヒゲの総帥は端的に説明する。ある女性というのはもちろんのこと宗教画のモデルの女のことである。


話しをしてみるとアラタメ堂とヒゲの総帥はすぐに意気投合した。とにかく世間を斜に見ているところ、ブラックユーモアが大好きなところ、普通の人が気にも留めないような余計な知識を遥かに広く、そしてとんでもなく浅く(本人たちは深いと信じている)持っているところなどである。つまるところ滑稽味が好きな二人なのである。


音楽の繋がりもあった。ヒゲの総帥がイケイケドンドンで音楽活動をしていた20代の頃、アラタメ堂のご主人も「ハングル・ライフ」というフリーペーパーを作る会社の創立メンバーとしてバリバリ働いていた。


ある日、まったくもって無名な自分たちのバンドをすぐ表紙にするようにとハングルライフへ殴り込みに来たヒゲの男がいる。彼がいうには、そうすることで必ず死に絶えようとしている音楽界を救うことになるのだそうだ。もちろん根拠などあるわけがない。当時、ハングルライフは大阪と東京に事務所があり、これは大阪の事務所での話しであったのだが、次の日にはそのヒゲの男は東京の事務所にも同じように殴り込みに来たのである。


もちろん言うまでもなくヒゲの男はこのブログの執筆者のことである。おかげさまで小さくではあるがバンドは雑誌に紹介されたし、そのあとハングルライフの社長のデラックスという男から伊丹空港での演奏の仕事をもらった。人の縁というのはいつどこで結び目を作られるのか、ほとほと解らないものである。


アラタメ堂は一連の事情を劇団の女に話しをする。へぇ、そういう経緯が・・・と納得する劇団の女、次に向き直って第二の質問が飛んでくる。


「お二人はどういう経緯でお知り合いになられたのですか?」


劇団員の女のいう、お二人というのは不動産デザイナーの忌部とヒゲの総帥のことである。


「ああ、ある女性が仲を取り持ってくれたのです。阿守さんと忌部さん話しが合うんちゃう?と軽い感じで」とヒゲの総帥は端的に説明する。ある女性というのはもちろんのこと宗教画のモデルの女のことである。


先ほど聞いたのと同じセリフが聞こえたことで、こちらもいちげんさんのパティシエの女はクスクスと笑いだす。以前からコロマンサが気になっていたのだが、どうにも一人で入る気にはなれなかったところを忌部から偶然にも連れて来られたのだという。店の前に到着した瞬間、「えっ!?ここ!?」と感じたのだと教えてくれる。


パティシエの女は近くにある「第六感」という店でずっと働いていたのだという。朝は5時に起きて夜は日が変わろうとする頃まで働く毎日という生活を送っていて、休日は何もせずに一日寝ているというのが常だという。ヒゲの総帥は第六感のデコポンのケーキは良いものであると偉そうに品評を述べる、パティシエの皆さんには努めてもっともっと酸っぱいのを作って欲しいとも嘆願する。アラタメ堂はそれなら梅干しでも食ってろとヒゲの嘆願を一刀両断する。


世間は今日から大型連休。ヒゲの総帥も役所勤め、アラタメ堂も会社勤め、唐突に差し出されたこれまでにあまり経験のない連休に、あたふたと戸惑うのである。


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by amori-siberiana | 2018-04-28 11:51 | 雑記 | Comments(0)

ヒゲの総帥のもとに裁判官の女から連絡が入る。


内容はこれこれの日にコロマンサへ出廷するようにとのことであった。ヒゲの総帥は要塞化した職場から離れて、一旦北濱のオフィスへ立ち寄り雑務をしてからコロマンサへ行く。


ゴガっという建付けの悪いガラス戸を開ける。


ヒゲの総帥は店全体に視線を送る。オルガン横の奥の席、その中央に裁判官の女がどしっと座り、その両脇をがっちりと醤油売りの女とアリスの女が固める。なるほど査問会の用意は万端であるという具合だ。


「おやっ・・・」と、ヒゲの総帥はいつもは自分が座っている席に見たことがある顔があることに気がつく。なんと、ルイという男である。こいつは驚いた10年ぶりに見る顔がそこにスーツを着てネクタイを締めて鎮座してるではないか。キューバで住んでみたり、世界中をあちこち放浪していた瘋癲(フーテン)の男が猫のひたいのように小さな店を訪れるとは思ってもみなかった。ヒゲの総帥は三人官女たちにルイを紹介する。


「今日は死ぬまで飲むぞ」という勢いの総帥をルイは「阿守さんも変わりませんね」と笑いながら手で制して、これから梅田で商談があるのだという。彼も今はヒューレット・(マザー)ファッカードというパソコンの会社で働いており、今日は出張で大阪に来ているのだとヒゲの総帥に説明する。偶然、近くに来たものだからそれならばと寄ってみたという次第である。


このルイという男は若かりし頃、ヒゲの総帥の家に乗り込んできた男だ。当時、ヒゲの総帥がやっていたワールドほにゃららというバンドの曲をラジオか何かで聴いて「これだ!」と思ったそうだが、そのバンドがすぐ解散をすることになり、「どうして解散するのだ!」と見ず知らずのヒゲの総帥の家に怒鳴り込んできたのだ。ヒゲの総帥が三人官女たちにそう説明すると、「そんな挨拶もなしで、いきなり行きましたっけ?」とルイは言うが、ヒゲの総帥はそのインパクトを忘れはしない。


なぜならカコフォニー・フォールズのドイワ会長に対して同じようなことを自分自身がしていたのだから、因果応報というのはこういうことかしらんと、ルイの登場によって腑に落ちた記憶があるからである。


とにかく変わった男なのだ。「彼は当時、ふんどしをはいていたのだ」と総帥は三人官女に語りだす。彼の出身大学が「ねこふん」の仕掛け人である、あのエイリアンと同じだということは、なんとなくすぐに解る。年齢・性差は関係なくどことなく同じ匂いを持つ両名なのである、といってもあの陸の孤島にある大学が人をそうさせるのか、またはそういう人が集まってしまう大学なのかはヒゲの総帥などには謎のままだ。


それはそれは鋭利に磨かれた知性と感性を自分だけでは消化しきれず、周囲にも容赦なく叩きつけてジハードしにくる男、それがルイである。


ルイは「また来ます」とヒゲの総帥と握手してキタへ向かう。残されたヒゲの総帥と三人官女はくだらない話しをダラダラしながら、ああでもないこうでもないと酔狂のままに論じ合う。


そこから湧き出された言葉は、コロマンサの開け放たれた窓から外に出て、しゃぼん玉のように夜に音もなく消えるのであった。


それにしても、バザエフ。あなたの燃えるような瞳は、どういう信念を持てば、手に入るのだろうか。


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by amori-siberiana | 2018-04-27 21:47 | 雑記 | Comments(0)

ボードゲームの大作「シヴィライゼーション」はどうなったのかとよく訊かれる。そういえばその日のことは多忙であると、かこつけて文面にしていなかった。


アラタメ堂のご主人はヒゲの総帥の言葉巧みな罠にはまってしまい、「シヴィライゼーション」というボードゲームを購入することになった。今のご時世、モノを買おうと決めてパソコンのボタンを押せば、カード決済で次の日にはその商品が届くというのが当然となった。ヒゲの総帥の若い頃などは、LUNA SEAのインディーズ版のアルバム「LUNA SEA」を買うために怪しげな通販専門のレコード屋へ電話をかけて、中学生の小遣いをブチ込んだ現金書留を怪しげな店へ送ったりして難儀であった。今では京都に住んでツイッターに晩飯ばかりアップしている旧友のらっきょも黒夢のインディーズ版をこっそり買っていた。


当時は大きくなったら髪を伸ばして化粧をするのだと意気込んでいたが、今となってはリンスやコンディショナーすら面倒くさがる、ただのおっさんになっているのだから、未来は面白い。そして困難だ。なにより危険だ。


さて、せっかく大枚をはたいて買ったゲームなのだからタンスの肥やしにするのは勿体ないということで、日時を設定して「シヴィライゼーションの会」なるものを北濱のオフィス「the ジンクス」で開催することとなった。


ヒゲの総帥とアラタメ堂はもちろん参加。さらにはピアノ工房の軍司、そして宗教画のモデルの女が加わることとなった。軍司にいたってはドイツのフランクフルトから帰国して、そのまま参戦するという強行軍である。宗教画のモデルの女は一見してボードゲームなどしそうにないのだが、案外こういった戦略系のゲームには一日の長があるのだと胸を張る。


ところがこのゲーム、生半可ではないのだ。まず、ゲームのセッティングに随分と時間がかかる。例えるならば将棋やチェスで駒を並べるようなことだと考えればよい。このセッティングに相当な時間と労力がかかるのだ。主催者のアラタメ堂のご主人にしても家でセッティングの練習をしていたが、あまりにも困難なため中座してその日は寝てしまったそうだ。ボードゲームが好きで好きでたまらない男すら睡魔へ引き込んでしまうという、ホメロスのオデュッセイアに出てくる人魚(またはセイレーン)の秀逸な描写に似た危うさを持つのがシヴィライゼーションである。


結局、アラタメ堂も仕事が忙しくなりシヴィライゼーションには手が付かず、そして当日を迎えることとなった。一堂が介したのはいいが、そこではサクっと他のゲームをすることで全員が合意したというまでである。気の毒なのは宗教画のモデルの女である。


「うそぉ~、せんの~。うち、一応ひととおりは勉強してきたのにぃ」と、らしくない意外な言葉を吐く宗教画のモデルの女をよそにアラタメ堂はせっせと「パンデミック」というゲームを用意する。このゲームはこのゲームで面白かった。世界に悪性のウイルスが蔓延するのを防ぐという参加者全員の協力型ゲームであるが、これはこれで軍司がやかましい。


ヒゲの総帥が自由気ままにウイルス退治に出かけようとすると、「おい、お前、お前はここに駒を進めろ。ウイルスを全滅させる」と軍司がいう。ヒゲの総帥は言われたとおりにする。そしてまたヒゲの総帥の次のターンとなり自由気ままにウイルス退治に出かけようとすると、「おい、阿守、次はここに進め。ウイルスを全滅させる」と軍司は人殺しのような顔つきで迫ってくる。協力型なのか脅迫型なのか解らないボードゲームであった。


結果的にシヴィライゼーションはまったくしなかった。今ではヒゲの総帥の上司の手元にあり、上司に説明書を熟読してゲームが楽しめるようにしてくれと頼むヒゲの総帥とアラタメ堂のご主人であった。


最近は軍司と会う機会が増えた。シベリアンなんちゃらという音楽隊から離れてから、何年も会ってなかったのだが、不思議なものである。


先日も軍司と飲みに行った。焼肉を食べたあとに「ピンク&ガン」というヒゲの総帥が行きつけのバーで飲む。ピンク&ガンは北濱では最高位のバーであろう、バーというよりも地下に潜むの宇宙事業団ベースキャンプのような雰囲気を持っている。革命の香りがほのかにするのだ。


そのままコロマンサへ行くと、難波でワインバーを経営するヤースケという男が飲み仲間を連れてやってくる。このヤースケとヒゲの総帥が会うのは久々だ。ヒゲの総帥とヤースケが一緒に遊んでいたのが今から13年ほど前のこと、「何歳になった?」とヒゲの総帥はヤースケに訊く、「30になりました」と答えるヤースケ。一瞬、年齢の勘定が混乱したヒゲの総帥であったがよく考える。そういえばヒゲの総帥とつるんでいた頃、ヤースケは17才であったのだということに気がついた。


27才の人間が13年経つと40才になるのに、17才の人間に13年足しても30才にしかならんのか!不公平だとヒゲの総帥は憤慨する。


そんなヤースケは小説家の平尾先生の生徒だったこともある。もちろんエロ小説ではない、ドラムの生徒だったのだ。


ヤースケのワインバーは難波にある。ヒゲの総帥は去年の秋頃こそっと店を訪ねたが、そのときは折悪く店自体が休みの日であった。


ヤースケと再会した後、ヒゲの総帥は冷泉に「連れて行きたいワインバーがあるのだ」とメールを打つ。


「はい!お願いします!楽しみです」と遠くにいるであろう冷泉から、快い響きが返ってきた。難波で飲んで、そして少し歩けばジロー行きつけで女帝マスターの気風が気持ちいい「ビッチ」がある。そこでまた飲んで、さらに少し歩けばキリギリスの店がある。さらにもう少し歩けばヘミングウェイがやってる「ツァーリ・ボンバル」がある。


歩けばどこへでも行けるものである。


写真は「ピンク&ガン」らしき店



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by amori-siberiana | 2018-04-27 20:33 | 雑記 | Comments(0)

ガシャン、ガシャン、ガシャン。


機械的な音ではあるが、それはリズミカルではなく不器用そうに響く。ヒゲの総帥と呼ばれる男は、一心不乱に膨大で圧倒的、そして淫靡で甘美な書類の束にむけてパンチで穴をあける。ヒゲの総帥がパンチで穴あけをするまでに紆余曲折あったのだが、それはまたタイミングのいいときに話すことにしよう。


ヒゲの総帥の新しい上司は訊ねる「どうして役所で働いているのか」と、ヒゲの総帥は「調査したいことがあったのです」と正々堂々と答える。「それはスパイのようなものなのか」と上司は答える、ヒゲの総帥は「つまり、そういうことです」とこれまたバカ正直に答える。上司は笑いながら「随分と頭が沸いていらっしゃるようで」といい、ヒゲの総帥の告白を真剣に取りあってはくれない。ヒゲの総帥も苦笑しながらガシャン、ガシャン、ガシャンとパンチ作業に没頭する。


さて、北濱にある猫のひたいのように小さな店クントコロマンサにおいては、6月の中旬まで「ねこふん」なるイベントに参画しており、いちげんさんが度々顔を出すようになってはいるが、版画家の万作が語るには「うーん、お客が来てもコーヒーの注文だけが多いんで売り上げにはなっとらんですわ」とのこと。今週のコロマンサは静かである、全身が黒ずくめの冷泉も東京でビジネスに専心しているのだから仕方ない。


さて、今日は「渡辺」について書かなくてはいけない。


「渡辺」というのはヒゲの総帥の故郷にある、うどん屋だ。ヒゲの総帥が小さい頃から母親に連れられて行っていたのが「渡辺」である。ずっと通い続けているうどん屋で、ヒゲの総帥のなかでは「うどん屋=渡辺」という認識であり、世の中には二種類のうどん屋しかないことになる。ひとつは「渡辺」。もうひとつは、それ以外である。


お出汁の味が豊かであるとか、麺にコシがあるとか、そんなことはどうでもいい。この味とともに思い出すことが多々あるのだ、喜怒哀楽、小さい頃から今の今まで変わらぬ味がそこにあることは無上の幸福であり、そこはヒゲの総帥にとって記憶の花束である。


死ぬほど貧乏だったときも渡辺、せっかくの休日なのにどこにも行けなかった悔しさをもって味わった渡辺、初めて骨折した日も渡辺。葬式も法事も渡辺、高校中退したときも渡辺、家出する決心をしたのも渡辺。渡辺という言葉は単なる名字の名詞ではなく、ヒゲの男にとってはヒゲを生やす前からの自分と向き合える、故郷のオベリスクなのである。


渡辺のためなら死ねる。渡辺を奪われてなるものか。我ら、渡辺に帰ろうではないかと、その胸中は少しだけエルサレムから追い出されたユダヤ人と通じるところがあるかも知れない。なのでどれだけヒゲの総帥に渡辺という知人ができて、気安く「ナベ」と呼ぶことがあったとしても、オベリスクのことを略称で呼んだりしたことはない。


渡辺は国道11号線沿いにある。道路向かいのほぼ正面には警察署があり、治安的には比較的素晴らしい立地にあるのだが、昼どきなどは駐車場(隣り合って二か所ある)が一杯になり、いろいろと混雑する。車の往来がひっきりなしの国道から駐車場に入ろうとする車と、出ようとする車がタイミング悪く鉢合わせすると、渋滞を引き起こしてしまいまあまあの混乱を招いているのを見かけるのだ。


そんな渡辺に、最近フレンチの巨匠が来た。巨匠といってもそんじょそこいらの巨匠らしきボンクラとは違う、とんでもない大物だ。連れて来たのはタッキーである。


元来、渡辺目当てではなく、軽くうどんを食べれるところというのでタッキーが巨匠をエスコートしてやってきたのだが、その巨匠が「日本でここが一番だ。こんな出汁は味わったことがない」と感激していたのだということをタッキーは嬉しそうにヒゲの総帥に教えてくれた。「アモさんが、渡辺、渡辺いうし、平尾さんに聞いても渡辺だというから連れて行ったんですけど、これが見事に大当たりでしたよ」とご満悦の様子。


「渡辺は出汁がいい」


事あるごと慣用句のようにヒゲの総帥の母親が言っていたことが、地球をぐるっと回って証明されたような気がして嬉しくなり、ヒゲの総帥は母親にすぐその話しをした。


母親は息子からの報告を聞き終えたあと、渡辺の真の凄さを語り始める。渡辺の出汁がいいのは解ったこと、店内がとにかく機能的で無駄が一切ないのであると母親は語る。


客が店に入る、目の前で大将がうどんを打っている。そこが肝心なのだと強調する。店主が客が入ってきたところをすぐ確認できるのだ、そして席に着座して注文する。注文を終えてコップに水をいれてそれをチビと飲む、そして次の瞬間には目の前には注文したうどんが出てきている。このスムーズな流れに渡辺の神髄があるのだと論ずる。


つい最近、母親は他のうどん屋へ行ったのだそうだ。店に入っても厨房が奥にあり店主の顔が見えない、客が来ているのか来ていないのか気がつかない様子であり、そのちんたらさ加減が気に食わず母親は何も食べずに店を出たのだという。


うどんという食べものが、その味わいかた、楽しみかたについて世間で極端に論じられるようになってからというもの、いつしかうどんというものは紋付き袴をはかされたり、十二単を羽織ったりさせられているような気がするのだ。


これは蕎麦やラーメンにはない気楽さが、うどんにはあった時代をよく知る人間のことばである。


写真は小説家の平尾先生のTwitterより、無断で転載。


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by amori-siberiana | 2018-04-26 20:12 | 雑記 | Comments(0)

アキラメ堂のご主人は多忙である。


というより多忙になったのだ、人には様々な状況があるもので、アキラメ堂も小遣い稼ぎをしなくてはいけなくなったのだという。そういう顛末なのでアキラメ堂のご主人も厭々ながらではあるが、大きな大きな会社へ乗り込むこととなった。


アキラメ堂のご主人はヒゲの総帥を飲みに誘う。どこかの店で落ち着いた状態で話しをして、そこからコロマンサに行きましょうということなのだ。以前から気になっていた店に入る。いつもは電柱に止まる鳩の群れのように大勢のサラリーマンたちで人だかりができている立ち飲み屋であり、入店できそうにないのだが、この日は幸運にもスペースがあるとのことで念願が叶う。


「僕は今日は生ビールからいきましょうかね!」とアキラメ堂は珍しくハイボールではないものを頼む、ヒゲの総帥もそれに乗っかり久々のビールを選択する。


いつもコロマンサばかりであるが、たまにはこういう違うところへ来て飲むのもいいものですねとヒゲの総帥が言おうとしたとき、アキラメ堂がヒゲの総帥をつつく。ヒゲの総帥は突かれた指先をみて、そこから次にその指が差す方を見る。指はヒゲの総帥を突いたあとでカウンターの向かい側を差し始める。スーッと目でアキラメ堂の指を追っていく総帥。


そこにいたのは、全身黒ずくめの男、冷泉であった。これではコロマンサである。


いきなりステーキという店があるが、いきなり冷泉というのもなかなかのものである。確か先日もえらく深夜まで冷泉とカラオケで飲んでいたのではなかったかとヒゲの総帥は苦笑する。このカラオケも最終的にはマイクなしの壮絶なものであったが、同行したタッキーと冷泉は念願の殴り合いを果たして、互いに何かを共有していた。ヒゲの総帥はこの殴り合いのどこかに、フランスの哲学者メルロ・ポンティの香りを感じるようになっているのだが、多分勘違いであろう。


先日も地下鉄のなかでキンタマと陰毛の話しを延々としゃべる男の声がするので、どんな奴なのだろうと電車のガラスの反射越しに語り部を見てみると、黒ずくめの冷泉であった。


とにかく四月は冷泉月間というべき確率で冷泉と遭遇するのである。


「つ、次で、ハイボール、何杯目ですか・・・?ぐふふ」と冷泉は店のスタッフに訊く。「そうですね、次で7杯目ですかね」と店のスタッフは快活に返事をする。「そしたら、もう一杯ください」と滑舌悪くオーダーしたかと思った瞬間、冷泉の目は見開く。そしていきなり一大決心を相手に述べるかのようにハッキリしたトーン高めの声で冷泉はこういうのだ。


「(ウイスキーが) 濃いめの!!」


ヒゲの総帥とアキラメ堂はその様子に失笑しながら同じようにハイボールを頼む。そのまま二人はコロマンサへ一旦立ち寄ったのち、冷泉の弟のジローが行きつけだというワインバーへ向かう。もちろんそこにも冷泉はいるのである。ヒゲの総帥はワインをたしなむ、いつしかドローンを飛ばす男たちもやってくる。常連の不思議な女もおり、ジローも合流してくればいつしか北濱のいつもの夜のようになる。


アキラメ堂のご主人はその多忙を根拠に一時的にはイベントを休むという。ヒゲの総帥は賛成であった、これまで毎月のようにコロマンサでイベントを企画してくれたアキラメ堂の主人に対して店側として至らない部分が多々あったのだが、それでも継続して店を賑やかにしてくれたアキラメ堂のご主人には頭があがらない。


冷泉、アキラメ堂、そして常連の不思議な女と、ヒゲの総帥が店を立て直すにあたって協力なサポートをしてくれた歴々と並びながらいただくワインは、どこの貴族の畑で収穫されたブドウよりも生き生きとした旨味を感じた。ヒゲの総帥は酔っぱらいながら、もうひとつのアキラメ堂主催のイベント「北浜人狼」をファラオに引き継がせてみたらどうかと提案する。「ファラオ?いつも初日に吊られるだけの人にですか?彼、人狼にあまり興味なさそうですよ」とアキラメ堂は笑いだす。


ファラオというのは山の向こうで談合チンコロクラブという自身のボードゲームイベントを主宰する男である。初回にコロマンサへやって来たときに人狼ゲームへ参戦し(または、させられ)、毎ゲーム初日に村から排除されるという苦行に遭遇した男である。誰が人狼なのか議論をしてもラチがあかないから、とりあえずファラオを吊っとこか。という結論へ向かわせるように民衆の集団心理を巧みに操り、見事、道化を演じたファラオの手腕は素晴らしいものであった。


もし、あれがファラオによる作為的で心理的な集団誘導でなかったとすれば・・・、そんなのただのイジメである。


ヒゲの総帥はファラオに人狼を引き継いでみないかと、北濱に縁もゆかりもない、もっといえば会場となる北濱のオフィス「the ジンクス」に来たこともないファラオにメールを送る。


回答はこうであった。


「なんで僕に振るんですか!?」


エジプトの言葉に修正するとこうなる。


【لماذا تسمح لي بأخذ لعبتك؟】


文字の起伏や形状とは関係なく、どうやらファラオに脈はなさそうである。つまるところ、ヒゲの総帥はゲームセンス・ゼロの女と一緒にファラオをモチーフにしたチラシを作りたくて作りたくてたまらないだけなのだ。



アラタメ堂の挑戦状の再開を皆で待とうではないか。ありがとう、アラタメ堂のご主人。お疲れさまでした。



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by amori-siberiana | 2018-04-22 20:00 | 雑記 | Comments(0)


北浜のビジネス街にある、昭和レトロなカフェのブログです。            大阪市中央区淡路町1丁目6の4 2階上ル
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