カテゴリ:雑記( 232 )

ガシャン、ガシャン、ガシャン。


機械的な音ではあるが、それはリズミカルではなく不器用そうに響く。ヒゲの総帥と呼ばれる男は黙々と書類に番号を自動回転式のスタンプで刻印していく。「役所というのはハンコを押すだけの仕事」とあきれ顔で語っていたのは役所勤めを一度もしたことのないヒゲの総帥の母であったが、なるほどそのとおりだなと感じる。この仕事をナンバリングという。


ところがヒゲの総帥はこの単調な仕事を嬉々としてやっている。もちろん満面の笑みを浮かべてという気色の悪いものではないが、彼は彼でそれなりに楽しんでナンバリングをしている。ガシャン、ガシャン、ガシャンという音は事務所内に響き渡る。


ヒゲの総帥がナンバリングの仕事をもらうまでには紆余曲折あった。4月の第二週目であったと思うが、とことん退屈な仕事の手伝いをさせられていた。自身の部署における仕事が比較的早くに片付いたので遅れている部署へ応援にいったのだが、それは地獄のような単調作業であった。ヒゲの総帥は相棒のテッドと半分眠りながら仕事をして、終業時間を待ちわびるというものであった。


一念発起、「このままではいかん、地獄はいつまで続くのだ、生きる意味は?」とヒゲの総帥は思い立ち、遅れている部署の責任者に一体これはどうなっているのだと聞く。聞きたいことは三点だけであった。


この作業があとどれくらいあるのか。

この作業のデッドラインはいつなのか。

この作業の全体における重要性はいかなるものか。


返ってきた答えは①については絶望的、②については残り4日、③については重要というものである。ヒゲの総帥は上司に「それならば必ず期日内にしあげてみせるので、この仕事に関しては任せて欲しい」と偉そうなことをいう。気前のいい上司は「やれんの?」と苦笑しながらヒゲの総帥を見る、ヒゲの総帥は「そちらの部署からこの仕事における応援の人員を割くことはできますか」と問うてみるが、「その余力はない」と言われる。


自分のデスクに戻ったヒゲの総帥は隣に座る相棒のテッドにいう、「我に余剰戦力なし、とのことだ。僕たちだけで絶望に立ち向かおうではないか」。百貫デブのテッドも苦笑いしながら「延々とペカらないジャグラーを回し続けるようなもんですね」と元パチンカスだった経験に基づく独特の表現で呼応する。


聖人でもない限り、いつか花よ咲けよと何もないアスファルトへ向けて水をやり続けることはできないだろうが、それに比べればまだ光が残されているものであろう。


おもしろいもので、そこからは仕事が楽しくて仕方がなかった。仕事でやることは全く同じなのだが、自身が戦局の真っただ中にいながら仕事をするのと、ただ訳も分からず仕事をしているのではその意識に数光年の差がある。意識が高くなれば自然と仕事のプロセスは良い方向へ流れる、結果的に打ち捨てられかかっていた重大なミッションは見事に達成されることとなった。終わったあとは疲れ果ててブログを書く気になどなれなかったし、毎晩寝ながらでも仕事のことが夢に出てくる有様であった。


それが発端かどうか知らないが、達成した次の週のはじめにヒゲの総帥は異動を申し渡されることになった。その部署は訊くところによると随分と困難な状況に陥っているという。「阿守さん、先週はご活躍ありがとうございました。そこでご相談なのですが・・・」とこれまで話しをしたこともない管理統括の上司から言われて、その場で異動を打診された。毒を食らわば皿までもが信条のヒゲの総帥は異動命令を快諾をした。そして異動先での結果次第での昇進についても打診される。上司、上司といって一体どこの誰が上司なのか文面ではわからなくなるであろうが、ヒゲの総帥は途中参加の一番の下っ端なので周囲は同僚か上司しかいないのである。


異動は23日の月曜日からというので、それまでにいろんな仕事をして臨機応変の感覚を磨いておきたいのだとヒゲの総帥は自身の部署の「魔女」といわれる上司に相談する。そして休憩がてらに与えられた仕事がナンバリングであったというわけである。


ガシャン、ガシャン、ガシャン。


膨大な書類をナンバリングしてファイリングしたあとヒゲの総帥はデスクに戻る。



「非常に意義のある仕事であった」とヒゲの総帥は誇らしそうな顔でテッドにいう。「何がですか?」とテッドは間抜けな顔をする。「テッドは入定(にゅうじょう)という言葉を知ってるか?」とヒゲの総帥は間抜けな顔に構わず話しを進める。テッドは存じ上げないと答える。


「即身成仏するために、つまり、この身のままで仏となるために密閉された空間に進んで僧が入っていくのだ。入ったが最後、もう二度と生きて出ることはないという覚悟を持ってね。それが入定という行だ。そして密閉された中でお経を読みながら、鈴を鳴らす、つまり死ぬまでね」。テッドはふんふん言いながらヒゲの総帥の話しを聞いている、話しは続く「鈴が鳴りやんだとき、入定した者は仏となったというわけだ」とヒゲの総帥は語る。


「へえ、そんなんがあるんですか。それが、ナンバリングの仕事と何の関係があるんですか?」と当然のことをテッドは聞き返す。「テッドも勘の悪い男だな。僕がナンバリングをする、その音が事務所内へ響き渡る、すると気にするしないに関わらずとも、ああ、阿守は生きているのだなという全体へのメッセージになっているということを言いたいのだよ。行政のクソ退屈極まりない仕事からでも、それ以外の意味合いも見いだせるのだということを言いたかったのだ」と、やや迂遠な説明をする総帥。テッドは「そんな大仰な・・・」と苦笑をする、ヒゲの総帥も自分で言っておきながら釣られて苦笑する。


「付け加えるけれど、僕はナンバリングの仕事は死ぬまでに一度はしてみたいと思っていたのだ」と総帥は胸を張る。「ほう、その心は?」とテッドも仕事の手を止めて聞いてくる。


「うん、テッドのように海外旅行なんてクソ食らえの人間には解らんだろうが・・・、外国へ行く際にはまず入国手続きというものがあるのだ。何をしにこの国へやってきたのか、どこで泊まるのかなどを役人から質問される。そして予定調和的にパスポートへスタンプを押される」と諭すようにいう。


「それくらい知ってますよ、失礼な」とテッドは不機嫌そうである。そのやりとりを横耳で聞きながら隣の席の女は思わず吹き出す。


「まず、飛行機から降りて空港内で入国審査官に指で来いと呼ばれ御前に行く。そこから自分のパスポートを丁重に差し出すだろう。一連の質疑応答のあとパスポートにスタンプがガン!と押されるわけだが、それが海外は驚くほど雑なのだ。その良い意味で雑、悪い意味で雑、しかしながらそんな感じでスタンプを押された瞬間、自分は確かに日本の外へ出ることができたのだという幸福感が全身を貫くのだ。日本では絶対にあり得ないというセンスで乱雑にスタンプは押されることで、世界の広さと多様性を感覚的に知るというわけだ。」


まるでポスターを貼りまくって世界一周の船旅をしてきた誇大妄想の田舎者という目つきで、ヒゲの総帥は大いに両手を広げて語る。


「それで実際に自分も入国審査官のつもりでナンバリングをしてみたわけだが、どうにも丁寧に押してしまう。上下のラインであるとか左右のバランスであるとか整いすぎて動きがない。動きがないと面白みがない。面白みがないということは説得力と魅力がないということだ」とヒゲの総帥は説明する。


ちょうど昼の休憩時間がやってきたので二人は席から離れてセキュリティ・チェックをしたあと事務所から退出して長い廊下を歩きだす。歩きながら話しは続く。


「次は外国っぽくしてみるかと雑にナンバリングしてみるんだが、そうするとどうにも書類に押されるスタンプは作為的になってしまう。狙ったボール球という具合で勢いがない、そして作為的な雑さほど格好の悪いものもない。つまるところ、そのスタンプを押す仕事を何万回もこなすことによってようやく得られる境地があのパスポートへのスタンプなのだなと確認することができたという次第だ」とヒゲの総帥はテッドに説明する。「そこまで前向きな気持ちでナンバリングする人も珍しいでしょうね」とテッドは笑う。


「でも、役所でのナンバリングと入国審査官ではそもそも違うのでは?」とテッドは当たり前のことをいうがヒゲの総帥は平然として「手をあげて、振り下ろす。刻印するという意味では同じことだ。仕事は違えど行為としては同じだよ。仕事は社会性を主体とするが、行為はそれ以前のものだからね」と自己の極端な達観見識を述べるヒゲの総帥。


一昨日の金曜日、ヒゲの総帥はテッドといつものように並んで仕事をする。仕事時間の半分くらいはヒゲの総帥が延々と職場をネタにしたブラックジョークを畳みかける、テッドは「横隔膜が痛い・・・」と腹を抱えてずっと笑う。いつもの光景である。


終業時間が終わっても二人は仕事をする。


「一時的な異動ならいいんですけどね」とテッドはヒゲの総帥にいう。「董卓のようなテッドをここに残していくのは危険極まりないが、仕方あるまい」とヒゲの総帥はいう。「なんてこというんですか、失礼な」とテッドはいう。このテッドというデブが隣にいなければ、ヒゲの総帥の仕事への理解度は全然おぼつかないものであっただろうと思う。とにかく仕事はできるが、隣でよく眠る男であった。


ヒゲの総帥はニンマリしながら右手をテッドの前に差し出す、「これまでありがとな」。


テッドもニンマリしながらヒゲの総帥の手を握る、「こちらこそ、あちらでも頑張ってくださいよ」。


最後の最後にやっと互いはいつのまにか友人であったのだと確認できた。


世の中はいろんな紋様で溢れている。


アルゼンチンの洞窟にある紀元前9500年頃の無数の手。人類の黎明期に、人々は時代の足跡を絵で洞窟に残した。抽象的であれ写実的であれ、その絵は描き手にとって意味のあるものだった。それはアルゼンチンだけではなく、スペインもそう、アフリカでもそう。


その手たちはこう言っている


「わたしたちはここにいた!」と。



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by amori-siberiana | 2018-04-22 12:37 | 雑記 | Comments(0)

大正時代に竣工したツタの絡まる青山ビル。そこの一画には自称302才の女が経営するギャラリー「遊気Q」というのがあり、ヒゲの総帥は何を買うでもないのだがよく足を運んでいる。つい先日まで外壁工事をしていた模様でツタを外から見ることはできなかったが、いつの間にか工事は終了したようで今では人間の血管のように伸びるツタの絡まり具合を眺めることができる。


今は革の鞄作家と帽子作家とが展覧会をしており、ヒゲの総帥も立ち寄ってきた。取るに足らない話しをしながら、キシリトールのガムを3個ほどつまんで一気に口に入れるヒゲの総帥。くちゃくちゃとクロマティのようにガムを噛んでいると、奥歯が欠けた。


さて、軍司と共にカコフォニー・フォールズのドイワ会長を訪ねたヒゲの総帥。


今年のカコフォニー・フォールズは随分とヒゲの総帥にとって旨味のあるミュージシャンを招聘している。先日のブルガリアン・ボイスの公演も然り、6月にはロシアの大物ミュージシャン「オタヴァ・ヨ」、そして10月にはなんといってもエストニアから「トラッド・アタック」を連れてくるのである。このトラッド・アタックというバンドの勢いといったらとんでもないものである。エストニアで日本料理レストランを経営するマークからもトラッド・アタックは要注意だと警鐘のような情報を仕入れていたヒゲの総帥、これは嬉しくてたまらない。


今日は軍司と一緒にドイワ会長の頭のなかをのぞいてみたかったのだ。


玄関を開けるとキッチンへ通される、キッチンにはすでに料理が並んでいる。今日は相方のオガは不在とのことである、とにかく何か飲むものを出してくれとヒゲの総帥はドイワ会長に催促する。出てきたのは真っ黒いエストニアの子供でも飲める酒だ。


「子供でも・・・飲める、酒?」とよくエストニアの法律を知らないヒゲの総帥は注がれた真っ黒い液体を飲むが、これが驚くほど不味い。ところが軍司に限っては「いけるな」と感心したように飲んでいる。この男と味覚の面で合致した記憶はこれまでの四半世紀の付き合いにおいても、あまりない。


ヒゲの総帥はもっと飲める酒を出せとドイワ会長をせっつく。スミッチという名の女がスープと共に日本酒を持ってくるので、ヒゲの総帥は日本酒をなみなみとグラスに注いで飲みだす。次にビールが出てくるので、グラスにビールを注いでそれを飲み干す。テーブルの上にワインがあるので、ヒゲの総帥はさっさとそれを開けるよう無遠慮にドイワ会長へ催促する。


赤のワインが開栓される、ヒゲの総帥は一口飲む。「なんだこれは、とんでもない安物だな!」と一喝してワインの瓶を取り上げて、ヒゲの総帥はマラカスのようにガシャガシャと瓶を振りだす。ドイワ会長は「めちゃくちゃ失礼やな」と苦笑して、軍司もその光景に大笑いをする。ドイワ会長と軍司は飲まずに何やら話しをする。


ヒゲの総帥は到着早々に飲み散らかして早速、泥酔状態になりフローリングの床に寝だす。メリッサという小さい女の子がやってくる、ヒゲの総帥は肩を叩いてくれと偉そうにいう。メリッサはとんとんとヒゲの総帥の肩を叩いては、すぐに逃げ出す。スミッチが布団とリクライニングソファをキッチンへ運び込んできて、どっちにするかをヒゲの総帥に訊く。


「死ぬなら確実に布団の上がいい」とヒゲの総帥は布団を敷いてもらい熱したヤカンのようになった顔のまま目をつぶる。すぐにガーガーといびきをかきだす。気がつくといつの間にかゴッドテールという名の男が論議に混ざっている、ドイワ会長は自身のビジネスの方向性などを軍司に話す、ゴッドテールはそれらをジッと聞いている。「ゴッドテール君か・・・、これは賢い人間の話しの聞き方だな」とヒゲの総帥は急に起き上がり議論に混ざる。


ドイワ会長は自身が比較的最近においてコロンビアの首都ボゴタへ行ったときの話しをしだす。


・・・。


話しの内容を忘れた。


ヒゲの総帥が一生のうちで一度は生で聴きたいと思っていたブルガリアン・ボイス。その公演を偶然にも主催していたのがドイワ会長一派であり、公演ホールにて数年ぶりの再会であったがその変わらぬ姿勢がヒゲの総帥は嬉しかった。


6月のオタヴァ・ヨ。そして10月、飛ぶ鳥を落とす勢いのトラッド・アタックは必見である。


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by amori-siberiana | 2018-04-09 19:31 | 雑記 | Comments(0)

寒い日が続いている、北濱にも冷たい風がヒューと音をたてて人々を襲う。堺筋沿いに植えられた木々はザワザワして、建設途中のタワーマンションやホテルなどは寒中にそびえたち、それらは皆一様にうつむいて悲しそうにも見える。


先日のこと、ヒゲの総帥は職場から退庁ののちすぐに北濱のザ・ジンクスへ向かう。今週はひどくつまらない仕事を延々とさせられた、これほどまで自分の名字を何度も何度も書かされる仕事が世の中にあるものかと、相棒の百貫デブのテッドに苦言をもらす。


「こんなのは人間性の否定だね。ほら、旧ソ連のKGBがやっていた拷問とよく似ているじゃないか。自分の名前と住所とパスポート番号だけを延々と繰り返させるアレと同じだよ。文明人がすることじゃない」と毒を吐く、テッドはそれを隣で聴きながら滑舌の悪い口調で「まあまあ、それはそうですけど」と苦笑をする。


ヒゲの総帥とテッドは自分たちの仕事をさっさと終わらせているので、他の部署の手伝いに回された一週間なのだが、ここがホントに酷い。雑草を抜いて、そしたらまたその雑草を植えて、またその雑草を抜いて・・・というような仕事をしているのだ。断言しよう、これを三カ月も続けてやればヒゲの総帥の頭はパーになるだろう。役所仕事の闇は随分と深そうである。自分たちの楽しい仕事を続けるには、その仕事を早く片付けるのではなく、だらだらと調整しながら処理していくのが一番頭のいい方法だということが身に染みて理解できるのだ。


とにかく散々な目にあった一週間であった。いくら社会経験だとしても我慢ならない時間を過ごしたような気になる。


最初はそうでもなかった。他部署への助っ人を頼まれて、ひどくつまらない仕事を与えられたときでも「こういう単純作業を延々と繰り返すことも肝心だ。禅の世界に只管という言葉があるが、まさにこういうことさ」とヒゲの総帥はテッドにいう。テッドは「そんな言葉があるんですね」と云々と頷きながら左利きの手で書き物をひたすらする。「テッドのように前途暗く、ヘッセの小説でいうところの車輪の下敷きになっているような男では、禅の世界はわかるまい。そもそも座禅なんか組めん体つきじゃないか」とヒゲの総帥はえらく超然とする、「なんてことを言うんですか、失礼な」とテッドは反論しながら、やっぱり左利きの手で書き物をしている。


ところがこの超然も二日目になると意気消沈して、随分とアホらしいことをしているように思えてきたのであった。自分にしたいことがないとき、自分が生きていくうえで暗中模索なとき、こうした単純作業をこなすのは心的にも大きな功績を呼び込むこともあるのだが、ヒゲの総帥はどうやら現状はそうではないようである。


ジンクスに到着する。


「いやはや、退屈な仕事をしてきました」とヒゲの総帥はオフィスにいたプロデューサーのカナガワ君に吐露する。短く整えられて照明の具合によっては銀髪にも見える頭部を持つカナガワ君は「それで、いつまでやられるつもりなんですか」と目を細めて笑いながらヒゲの総帥に訊いてくる。ヒゲの総帥はそれから陸サーファーのディエゴの現状などをカナガワ君から教えてもらう。ディエゴは要領の悪い若者なのだが、愛嬌があるのが良い。要領というものは人から教わることができるが、愛嬌は誰も渡してくれなければ、そんじょそこいら道端で拾うことも買うこともできない。ところが愛嬌だけでは生きていけない世の中なので、ディエゴはカナガワ先生のところで現在、修行中なのだ。


ヒゲの総帥はディエゴの師匠と話しを終え、ジンクスの前に停められた車に乗り込む。そこから日本と北欧をなんとかして無茶苦茶にしたい男ことドイワの会社「カコフォニー・フィールズ」の本拠地へ向かう。車を運転するのはピアノ工房の軍司である、軍司は明後日からドイツへ出張とのことだ。


車内で「ミュンヘンか?」とヒゲの総帥が問うと、「いや、フランクフルトやねん」と軍司は返答する。「確かに国際空港もあるしな、フランクフルトなら合点がいくな」とヒゲの総帥はいう、「お前、フランクフルトでおったことあるん」と軍司は運転しながら訊く、「うん、ある。ロクな思い出がない。女性からファック・ユーと言われたよ」と不穏なことを平気でいうヒゲの総帥。軍司はガハハと豪快に笑いながら車は高速道路に入ってゆく。


「そういえば・・・」とヒゲの総帥は思いついたように口を開く。


「軍司、キイデヤンスという会社を知ってるか」とヒゲの総帥は続ける。軍司は「知ってるで」と笑いながら答える。


この「キイデヤンス」という会社は大阪では少し知られた企業なのである。もちろん、「株式会社 いいでやんす」ではない。いいでやんすはとんでもない零細企業だが、キイデヤンスはことごとく若い社員が年収2000万を叩きだすことで有名な会社である。ヒゲの総帥はアラタメ堂やミカン爆弾の男たちからキイデヤンスのことをチラホラ聞いていたが、それはそれは随分と特異な会社であるのだそうだ。


キイデヤンスのことをよく知る軍司は笑いながら「お前、キイデヤンスの車を見たことあるか?」と訊く、「まだ見ない」とヒゲの総帥は答える。「そっか、お前のおる北濱辺りにはキイデヤンスは出没せんかも知れんけど、こっちはよう見るで」という軍司、ヒゲの総帥は話しを聞かせろと目でせっつく。軍司の話しは続く、「あいつら秒単位で会社に行動を管理されてるから、キイデヤンスの車はいつも、かっ飛びやで」とグフフと笑いながらヒゲの総帥にその模様を教える。


この「かっ飛び」という表現がツボにはまったヒゲの総帥は腹を抱えて笑う。なるほど、「かっ飛び」以上に相応しい言葉はなさそうだ。


いつしか高速道路を下りて車を走らせると、外見がヨーロッパ風の家が増えてくる。


その中のひとつに例の「カコフォニー・フィールズ」が確かにあるのだ。とにかく、ヒゲの総帥などがプラネタリウムにある大型投影機械などを自由気ままにさわって遊び呆けられたのは、この会社の頭領が底知れぬ変人であったからであろう。



後編に続く。



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by amori-siberiana | 2018-04-08 19:51 | 雑記 | Comments(0)

今日はヒゲの総帥の妹の誕生日である。彼女は都合、16回ほどしか誕生日を迎えることができなかったわけだが、だからといって一年のうちで今日が特別な日でなくなるわけではない。少なくともヒゲの総帥にとっては特別な日のままだ。


さて、先日のことを話そう。


ピアノ工房の軍司が二回目の来店をしてから数日、ヒゲの総帥が北濱にある猫のひたいのように小さな店へアラタメ堂のご主人を連れて向かう。店の周囲にはパトカーが結構な数ほど集まっており、なにやら騒々しい。どうやら当て逃げの現場になっているようであったと説明してくれたのは版画家の柿坂万作。万作という男は端的に話しをするということができないので、拝聴していてもあまり頭に入って来ない。しばらくしてガルパンの男がまとめて何があったと説明してくれる。


星師匠が先ほどまで店に来ていたそうだが、ヒゲとアラタメとは入れ違いに帰ったという報告を聞きながらヒゲの総帥は軍司からもらったアルメニアのコニャックの名品「アララト」を飲む。アラタメ堂はいつものとおりにハイボールを注文する。


しばらくするとゲームセンス・ゼロの女ことアシムがやってくる。そしてアシムが来ていることを知るや、学生起業家のダダヤマもやってくる。このダダヤマ、そろそろ自身の会社の名前を決めないといけないのだ。ヒゲの総帥は「株式会社 いいでやんす」にしろよとゴリ推ししているが本人はなかなか首を縦に振らない。


「もう、その名前でいいでやんすよ」とアラタメ堂は来店したダダヤマに勧めるが、ダダヤマは「いやいやいや、その名前はやめえ!」と関西弁と故郷のなまりが混ざった独特のイントネーションでの突っ込みをいれる。


株式会社いいでやんすのダダヤマは、今日は凹んでいるのだという。そのわけをヒゲの総帥が訊いたところ、どうやら地方銀行に融資をそれとなく頼んでみたが断られたのだというではないか。「幾らほど必要なのだ」とヒゲの総帥はダダヤマに訊ねる、「そうですね、この事業で一年を運営していくなら・・・貸して欲しいのは500万ですかね」とダダヤマは率直なところを答える。


「よし、わかった。僕が出そう」とヒゲの総帥は快諾する。


「ええっ!?・・・いいんですか。株とか渡さなくてもいいんですか?」とダダヤマは素っ頓狂な顔をする。


「そんな紙くずになりそうな株なんぞいらん。その代わり、法人名を必ずイイデヤンスにして欲しい」とヒゲの総帥は提案する。


「え・・・、そんなん、全然、そうしますけど・・・」とダダヤマは答える。


そのやりとりを見ながらアラタメ堂は大笑いして、「なんやお前!いいでやんすでもええんかい!」とダダヤマをなじる。


そんなとき、ゴガッという締まりの悪いガラス戸の音がする。ヒゲの総帥は心のなかで「待ってました」とニヤニヤする。やってきたのは世界の果て会計の無法松先輩とコードネーム0001の男たち、そして実名鑑大学のプロフェッサー・トムである。なんともダダヤマは持っている男である、今ここにやって来た人たちはダダヤマのような悩みを持つ事業者を毎日相手としているプロなのだから。


早速、ヒゲの総帥はダダヤマを彼らに紹介して、プレゼンしてみろという。それで融資が引き出せるかどうか試すのだとダダヤマをライオンの群れへ放り込む。コードネーム0001の男が紳士的な口調でヒゲの総帥に向かっていう「阿守さんの後輩さんですけど・・・、遠慮なくいっちゃっていいんですか」。ヒゲの総帥は「はい、容赦なく」と無論その旨を了承する。


あくまで議論のうえで、その模様を例えるならば・・・。


0001の男の鋭い切っ先がダダヤマの臓腑をえぐる、無法松先輩の磨きに磨かれた蹴りがダダヤマの腱を切り裂く、プロフェッサー・トムのテコンドーがダダヤマの延髄へ打ち下ろされる。最後、プラトーンのように両手を上げ空を見上げてベトナムのジャングルへ倒れ込むいいでやんすのダダヤマ社長。セコンド役のヒゲの総帥はその様子を見ながら趣味悪く爆笑している。


ヒゲの総帥からリングへタオルが投げ込まれる、「いいでやんす、ここまででやんす!」との意を全員へ伝える。ここでディスカッションは終了である。


セコンドのヒゲの総帥は来賓各位に礼を述べてから後、ダダヤマに「お前は喋り方が下手過ぎる。それじゃ誰も仲間になってくれん、それじゃダメでやんす」という。ダダヤマは「もう、語尾にやんすはつけんでええって。でも、感情的になるクセはずっとなんっすよ」と顔をうなだれる。


世の中、不思議なものであるがまったく同じことを言っているとしても、語り手ひとつで採用されたり却下されたりすることは多々ある。もちろん、論理的な整合性がないとかそういったものを省いてのことであるが、人が人を納得させるには理屈ではない場面もあるのだ。理屈で頭は動いたとしても心が動かないとき、それを動かすことができるのはその人の魅力である。


人の魅力というものにも沢山ある。そして人間誰しも魅力は持っているものである、それは遺伝子や指紋のように千差万別であり固有のものである。しかしながら、元来持ちえた魅力を如何に自分以外の人へ伝達できるのかというと、これは容易である。



栴檀は双葉より芳しく、蛇は一寸にしてその気を得る。というではないか。


北浜と中之島を繋ぐ土佐堀沿いの橋のひとつに「栴檀木橋」というのがある。栴檀=せんだんと読むのであるが、随分と昔に栴檀の大木がここにあったことが地名として残っているのだと、ものの本が教えてくれた。今日などは先日の暖かさが幻想であったかのように、風は冷たく雨も降り、世間も厳しい。


そんな、いいでやんすのダダヤマ社長も無事、大学生を卒業したそうだ。


卒業、おめでとうでやんす。


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by amori-siberiana | 2018-04-07 16:15 | 雑記 | Comments(0)

ピアノ会社を運営して4期目を迎える軍司がコロマンサにやってきた。その肉厚だけでいえばラフマニノフのようである男らしい手からヒゲの総帥に手渡されたのは、アルメニア・コニャックの最高級である「アララット」であった。旧約聖書の創世記にて描かれたノアの方舟が漂着したという神聖なる山の名前が冠せられたこのコニャックをヒゲの総帥は是非とも一度は飲んでみたいと思っていたのだった。


アララト山というのはアルメニア人からすれば他の民族からは想像もできないほど偉大な山なのだ。それは山というものを越えて、ひとつの民族の精神的なオベリスクなのかも知れない。終戦になってもフィリピンのジャングルに籠り、一人戦争を継続させていた小野田少尉。鈴木という冒険家が彼をジャングルにて見つけて帰国するよう説得した際にも「富士を見たくはないか?桜を見たくはないですか?」と問うて促したという。つまり、風景というものは写実を飛び越えて人の心に染みついた精神にもなるのであろう。


ヤルタ会談にてこのコニャックを飲んだであろうチャーチルはこの飲み物が気に入ったようで帰国の際に「アララット」を爆買いしたという、もちろんアルメニアに所縁のあるスターリンなども愛飲していたであろうことは歴史のページをわざわざめくらなくとも想像するに容易である。実際、スターリンはソ連の国民的ドリンク、ウォトカよりもコニャックを愛したというではないか。そんな男がアララットを見過ごすわけはない。


このコニャックにまつわる逸話を知っているヒゲの総帥は軍司からアララットを手渡されて狂喜する。軍司に関してはこれが二度目のコロマンサへの来店であったのだが、一回目について書いても記憶があやふやなのでやめておく。とにかく軍司は二度目の来店であることは確かなのだから、それでよかろう。


待ち合わせは北濱のオフィス「ザ・ジンクス」であった。この日はジンクスにて宴が行われており、その終了間際にきた軍司を駆け足でジンクスに集ういろいろな人へ紹介する。ジンクスのオーナーで背筋がピンと張りつめた弦のようなカサイという男、そしてプロデューサーのカナガワという男、さらには彼らの共通の知人で常に基盤を持ち歩くツマダという男などである。そしてお馴染みの宗教画のモデルのような女や北濱最強のクモン提督、学生起業家のダダヤマであったりサイコメトラー佐藤、ライターやアプリ制作者や動画制作者などに軍司をそれぞれ紹介していく。


「ピアノのことならこの男、藤田ピアノ工房になんでもお任せください」という即席の口上を面白半分に作っては、集まった各位へ自分の旧友を紹介していく。


「ピアノいいですよね。ちなみにグランドピアノって幾らぐらいするんですか」と淡い空色のベストを着用しているジンクスのオーナーが軍司に訊いてくる。


「そうですね、俗にいう高級ピアノといわれるものであれば4000万くらいですかね」と軍司はすらりと事実を事実のままに伝える。率直にそんなに高いんですかという表情をするオーナーの男、なんとも愛嬌のある顔をする男である。こういう男に衆愚政治クソ食らえの独裁政治などをしていただきたいものだ。


「会社役員の何人かのクビを切り、浮いた金でピアノでも買いましょう」とヒゲの総帥はジンクスのオーナーを焚きつけるが、その話しには絶対に乗らないという感じであったことは誰もが予想できるところであろう。


そのまま軍司を連れてコロマンサへ向かう。


ゴガッという締まりの悪いドアを開ける、そこにいるのは常連と冷泉たちであり、この夜が深くなることをすでに物語っていた。


軍司が持ってきたアララットを開けて皆で乾杯する。芳醇な香りは異国での夜更けを思わせるようであり、幻惑のなかに登場してくるいにしえの酒はこういうものだと教えてくれるのであった。耳の奥からはリムスキー・コルサコフの「シェエラザード」のあのメインメロディーが聞こえてくる。


これが、あのアララットか・・・。


ヒゲの総帥はグラスに注がれたコニャックを揺すらせて匂いを楽しむ。万作が軍司のところへやってくる。


「うーん、これ、中身ジム・ビームですやんね?」


柿坂万作、確か今年で48才とか49才とかになるのではなかったか。アララトの風景に罪はない。



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by amori-siberiana | 2018-03-31 22:51 | 雑記 | Comments(0)

先日はアラタメ堂がクントコロマンサと同じく月に一度開催しているゲームイベントがあった。


北濱にあるオフィス「ザ・ジンクス」にて行われるこのゲームイベントは、その内容を「人狼」というゲームに特化したものであり、ひたすら人狼ばかりをやるというものである。このひたすらというのは、禅僧の只管打坐のようなもので、いつしかそれによってアラタメ堂自身の悟りが開けるのかどうか見ものである。(頓悟でも暫悟でも悟りかたはなんでもいいのだが。)


ヒゲの総帥も初回から参加してはゲームマスターを命じられたり、ゲームに参加したりと大いに楽しませてもらっている。この会の良いところは外に対して開かれたものであり、ジンクスとなんら関係のない人でも参加費を払えば参加できる。そのゲームを契機に外から来た人がジンクスのオフィス内部を歩き回って、新しい収入をジンクスにもたらしてくれれば幸甚なのであるが、アラタメ堂たちがミーティングルームを使って遊んでいるあいだでも仕事をしている人間たちがいるので、無理な相談なのかも知れない。この辺りはシェアオフィスの難しいところでもある。


どんな人が参加しているのであろうか、少しのぞいてみよう。


主宰者のアラタメ堂についてはこれまでも触れているので割愛させていただこう。


まず、ミムラのおっさんという人物は外せない。このミムラのおっさんという人物が誰の紹介によってどのような経緯でアラタメ堂のイベントへやって来るようになったのか誰も知らない。その風貌は常に自治会費を払ってくれない雑居ビルを寝床にする探偵のような感じである。酒を飲みながらゲームに参加して、早々につるし上げられるので遊戯時間より待機時間のほうが多いという始末である。それなのに毎回参加してくれており今では常連である。


そしてカサイという背筋が芸術的に素晴らしいジンクスのオーナーの男も参加している。ところがこの男、最近は何やら室内のゴルフレッスンというインドアなのかアウトドアなのかよくわからない分野のことに生きがいを見い出したようであり、アラタメ堂のイベントへの欠席が続いている。そろそろこの辺で密室で行われる根暗でインドアなゲーム会へ戻るよう奮起していただきたいものである。


そして鬼と火事。鬼はウェブデザイナー、火事は21世紀を轟かせる類まれなる画家である。さらにはヨリミチ先生というライターの男が参戦してくる。火事にライターというのは物騒だという人がいるかも知れないが、ここ二人はそんなに接点はないので着火しないであろう。そして北濱人狼の特別顧問役としてカノキチという男が参加をすることがある。他にもいろいろ参加してくれるのであるが、全員を全員のまま書いていたのでは収拾がつかないのでこの辺りで切り上げる。


この日の人狼も大いに盛り上がる、今回は学生起業家のダダヤマが初参戦、さらにはアハハの女もジンクスへ乗り込んでくる。


ダダヤマは初参戦とはいいながらも、結局のところはイベントの用意など雑用をさせられる要員であるのは幾ら勘の悪い本人だとしても理解しているところであろう。以前までならその役目を陸サーファーのディエゴが拝命していたのだが、ディエゴは今、故郷の温泉街をシリコンバレーにすべく実業家の指揮下のもとで大いに活動しているのである。


ヒゲの総帥は一度目の人狼のゲームマスターを任されていたが、途中からアラタメ堂とダダヤマが用意した安酒による酩酊状態へ入り、なんだか気持ちよくなりゲームの進行を自身は半分ほど放棄して初対面のキダム君に任せてボンヤリしている。次の回からはカノキチ君が安定のゲームマスターをすることになり、ヒゲの総帥はお役御免となり大いにコミュニケーションを楽しむ。


このカノキチという男、ゴールデンウィークにそれはそれは壮大なる500人~1000人規模での「人狼文化祭」というものを開催するという。場所は名村造船跡地のクリエイティブセンターである。


「名村さんか・・・」と人狼文化祭のチラシを見ながら、ヒゲの総帥は懐かしい日のことを思いだす。

ヒゲの総帥はヤマトコを通じて造船業の名村将軍には随分と可愛がってもらったものである。可愛がりといっても角界のそれではない、今もお元気でおられるだろうか。


年の老い若い関係なく、男女の性差なく、恋しい人というのはいるものである。


名村将軍に何を教えられたとか、何を伝えられたとかではない。ただただ、名村将軍が若造であったヒゲの男のどこを気に入ってなのかはわからないが、「飲みにこい」と呼ばれて一緒に酒宴へ参加した。それだけで何ら彼らにとって益をもたらさないであろうこのヒゲの若造であるが名誉な気持ちになったものである。自分が認められたという充実感にひたっていたのであろう。


そういった思い出は忘れない。


なのでヒゲの総帥やアラタメ堂も学生起業家のダダヤマを可愛がっているが、こちらおn可愛がりは角界のそれとあまり違わない。




人狼文化祭

2018.05.03(木)~04(金)

【場所】名村造船所跡地 クリエイティブセンター大阪

【一般前売】1day:1800円 2days:3200円

https://jinrohbunkasai.wixsite.com/2018


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by amori-siberiana | 2018-03-24 17:43 | 雑記 | Comments(0)

土曜日はアラタメ堂のご主人のイベントであった。


月に一度の恒例となっているクントコロマンサでのボードゲーム大会。ボードゲームの種類もさることながら、そこへ集う人たちの特異なキャラクターに目がいきがちなイベントでもある。誰しもどこかしら他人や多数派とは相容れない特異なところを持ったものではあろうが、そういったものは客観性の視点においてピックアップされなければ本人すら気がつかない次第である。つまるところ、自分で自分のことを「変わり者だから」と自称する人間のほぼ全員が漏れなく月並みな生き方をしていることは多々あることなのだ。


そして回数を重ねるごとにいつもの顔ぶれというのがある。


まず、アラタメ堂のご主人。


ボードゲームをこよなく愛する男であり、脱サラしてフリーになったのをいいことに好き放題ボードゲームのイベントへ参加しているようである。ヒゲの総帥とは同じオフィスを共有しており、そこでの二人の会話はやかましい。誰も笑えないようなブラックジョークをお互いに乗せて乗せてを繰り返すので、そのうち議論の本題などはわからなくなる。


そして、ファラオ。


この男のニックネームを「ファラオ」と命名した冷泉のネーミングセンスたるや脱帽である。ファラオを名付けられて以来、この男の存在価値は一気に上昇することとなった。それまで取るに足らない田舎の百姓程度の扱いだったのが、ファラオと名付けられて以降は来店するたびに国賓級の注目度をクントコロマンサでは誇るようになった。それくらい名前というのは重要なのだ。


「談合チンコロクラブ」という自身の会を主宰して、細々と山の向こうで活動しているのであるが、最近は北濱まで進出してきているという具合である。


さらには、ゲームセンス・ゼロの女ことアシム。


クリムトの愛人エミーリエ・フレーゲが好んで着ていたような服を身につけてやって来るウェブデザイナーである。ここ最近はウェブなんちゃらとか、なんちゃらデザイナーという職種の人と会うことが多い。どこからどこまでがウェブでどこからどこまでがウェブでないのかヒゲの総帥にはわからないが、このアシムはそのデザイン技術を生かしてアラタメ堂の挑戦状たるイベントのデザインを務めている。


まずこの三人を北濱オリガルヒの主軸と考えるのがシンプルであろう。


ここに社会主義の国へ研修ばかりいく、スージーなる女が加わる。このスージーというのがもしやもすると一番サイコパスなのかも知れないとヒゲの総帥は考えている。そして永遠のメンヘラことヤッチというブルーグラスの男も加わり、彼の盟友である永遠の京都大学院生のドツボ博士も加わる。そして独特の抑揚のないイントネーションで鋭く相手の矛盾点を突いてくるゲーム界の検視官ことYU-JI。人間の個性を極端にカテゴライズするのはナンセンスではあるが、どちらかといえば非体育会系の人間が週末に集まり、隠密で行う三回忌のようなイベントである。


あとシベファンたちがやって来る。このシベファンというのは今は亡き砂漠の王国「楼蘭」の住人のような人たちであり、これまでの例に漏れず特異な人ばかりである。ヒゲの総帥はこのトルファンだかシベファンだかいう人たちと一緒に酒を飲み、大いに語り合うのが好きである。そしてアラタメ堂の知り合いたちも然りである。最近ではヒゲの総帥の役所での上司も加わわって、魑魅魍魎がストレートフラッシュで出揃う感じとなる。


前置きが長くなったが・・・。


この日のテーマは「ブラフ」である。ブラフというのはダマしダマされるという理解で構わない。どうせダマすなら死ぬまでダマして欲しかったという昭和歌謡の歌詞があったそうだが、まずそんなところである。


さて、このブログをお読みの皆さんは家族を含めて他人をダマしたことがあるであろうか。ヒゲの総帥はもちろんある。このダマすという行為は倫理観や道徳観から見てもよからぬことと論じられることも多いが、ダマすことについて深く考察していくと実際はそうでないことも多々ある。つまるところ、この詐術という術をどういった人間が使うのかで詐術の善悪も決定するのである。そしてその決定はその時代と後の時代では評価も異なるのである。ダマしダマさればかりの世の中も酷いものだが、ダマしダマされのない世の中よりは幾許かマシなような気もする。


英雄のいない時代は不幸であるが、英雄を必要とする時代はさらに不幸であるといったのは、ベルトルト・ブレヒトであったであろうか。


ホラ吹き男爵にしても、サンジェルマン伯爵にしても、ティル・オイゲンシュピーゲルにしてもその詐術の根底にあったのは、面白きこともなき世を面白くという高杉晋作と通ずる何かがあったように感じるのは、いささか論拠が極端であろうか。


訳のわからない論文は宜しいとして店内へ目を向けることとする。ヒゲの総帥は昼間から酔っぱらっているのである、せっかくの休日であるからブログなどサッサと切り上げて酔いどれのときを過ごすのが良かろう。


税官吏の男が仕切るテーブルでは「アンロック」なるスマホのアプリとカードを連動させたゲームが行われる。ちゃぶ台のある舞台ではペルシャ風の絨毯の上でアルハンブラ宮殿のタイルをどうたらこうたらという「アズール」というゲームが行われ、カウンター近くでは「ワンナイトマンション」という物騒なゲームが行われる。さらにはドツボ博士が助手と一緒に持ち込んだ例の「アヴァロン」というゲームが進行している。


この日、小説家の平尾先生はアヴァロンしたさにわざわざ四国から大阪まで来られたそうだ。円卓の騎士の物語を熟知している平尾先生にとっては生唾が出るような世界観のゲームであったらしい、先生は終始ご満悦の表情であったろうと思う。


しばらくするとジローがやってくる。すでに酩酊状態のヒゲの総帥たちは「もう頭を使わない野球拳のようなゲームをしたい」と勝手なことを言いだす。そしていつの間にか冷泉が東京からの客を連れてクントコロマンサへやってくる。店内の坪面積の8割はボードゲームに使われ、残りの2割は殴り合いに使われるという次第であった。ゲームの勝った負けたであがる歓声や悲鳴、そして店の入り口からあがるバキとかドカとかの打撃音の後の阿鼻叫喚。この店が天国と地獄のあいだ、煉獄に位置することをよく教えてくれる状況であった。


そういえば、「神曲」という大著を興したイタリアのダンテはこんなことを言っていたを思い出した。


―お前の道を進め、人には勝手なことを言わせておけ。―


ここに集まるのは、そういった奴らばかりである。


アラタメ堂の挑戦状は昼から始まり、日が変わってからも続いた。版画家の柿坂万作は昼から「うーん、この人数やったらイベントを断っとったんやけどな・・・」などとグズグズいう残念極まりない始末。この男は一体どうなってしまったのであろうか。


ヒゲの総帥は「シヴィライゼーション」というゲームをしたい。このゲームをピアノ工房の男と夜更けも夜明けも関係なく、昼夜問わずにずっとやっていた時代を思い出す。ゲームというのは人生の濃縮ジュースのようである。


シヴィライゼーションがしたい。


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by amori-siberiana | 2018-03-21 12:26 | 雑記 | Comments(0)

「ほな、殴り合い、しましょか・・・」


「ええっ!?もう!?」


冷泉の口から出た唐突なことばに一同は驚く。冷泉の弟のジローが「トシちゃんまだ、そういう雰囲気じゃないから。な、見たらわかるやろ?まだそういう雰囲気じゃないやんか。トシちゃん、これは喜楽じゃないから」と冷静に黒ずくめの兄を制する。


「うん・・・、ほな、また後でしよか」と冷泉は弟の言うままに今回ばかりは引き下がる。このジローというのは黒ずくめの兄が母親の子宮へ置き忘れてきたであろう理性などを、しっかりと引き受けて生まれてきているようである。柔よく剛を制すという言葉もあるようだが、ヒゲの総帥はこの二人の兄弟のことが羨ましい。若い頃に妹を亡くしているヒゲの総帥からすると、それは永遠に手に入らないものであるからだ。


タッキーは冷泉が殴り合いという言葉を発するや否や、「もう5分きたので、帰ります」とカウンターを離れようとしていたところであった。ヒゲの総帥は「まあまあ、もっとゆっくりしたまえ」とタッキーを席に戻し、自身のスマホをタッキーの目の前に置く。そのスマホには美人の女性のポートレイトが映し出されていたわけだが、タッキーは帰ることも忘れて食い入るようにそれを見ている。格闘経験のあるテリーにいたっては、この黒ずくめの男が相当な手練れであることを感じとり、俺に関わらないでくれオーラを身にまといだす。


ヒゲの総帥はジローからもらったパルタガスの葉巻をくゆらせながら、両者の間で時間と空間を揺られている。テリーはタッキーのほうを見ずに小言をいう、タッキーはその小言にビジネスマン口調で応戦をする、その応戦を受けてテリーはさらなる迎撃をタッキーに加える。タッキーはその迎撃に対して言葉と理屈の弾幕を張り、さらに応戦する。両者の空間で揺られているヒゲの総帥はニヤニヤしながら、心のなかで「はっけよい、はっけよい」と怒鳴り散らして軍鶏に奮起をうながす鉄拐仙人のごとくに扇を振っている。


まずもって、この二人が口論をしていないところを見たことがない。いつもこうであるのだ、ヒゲの男が総帥をしていた音楽団で遠征に出たときもその道中で二人は喧嘩をしだし、途中のサービスエリアにて「お前は(車から)下りろ」、「いや、テリーこそ下りろ」と剣突を食らわせあっていた仲なのだ。


拳をジローによって封じられた冷泉は二人に対して、「もう、二人とも、男の子なんやから、もう、ええやないですか、そのかわり・・・」と言い寄るが、その言葉の次に「殴り合いしましょ」が来ることを誰もが想像できるので、二人ともまともに取りあおうとしない。取りあえば即座に殴り合いに巻き込まれることは自明の理であるのだから、このときだけは両者とも想いを共有いていたことになる。ヒゲの総帥にはそれがおもしろくてたまらない。


日が変わっても二人の会話は続く。途中、二人の会話に入ってくる客があったのだが、「絶対にこの二人の会話に入ったらアカンよ、そういうことを求めてるわけじゃないねんから」とビッチの女店長が言葉でその客を制する。ヒゲの総帥はその瞬間、このジローに紹介されたバーに惚れることとなった。


人には教えられる「間」と教えられない「間」があるという。その教えられないほうの「間」のことを、「魔」というのだそうだ。この「魔」を知っている人間がその場にいるのといないのでは全然違う。


酒はどんどん出てくる。登場した酒はどんどん体内へ放り込まれる。どんどん議論は白熱してくる、テリーとタッキーの会話は無尽蔵な化石燃料を掘り当てたように終わることがない。会話のテンション的にはとっくに終わっているような感覚なのだが、さすがは付き合いが長く酒も深いだけに引き出しは多そうだ。


唐突にヒゲの総帥は「新曲が出来たのだ」と二人に伝える。どんなのか聴かせろというのでヒゲの総帥はビッチ店内にあるギターを手に取り、出来たという新曲を聴かせる。「テーマはなんだ?」とテリーがヒゲの総帥に訊く、ヒゲの総帥は「次こそ、バッハだ」と即答する。ヒゲの総帥が珍妙な曲を弾きだす、二人ともきょとんとする。20秒ほどで曲は終わり、ヒゲの総帥は自らが奇跡を起こした偉人のような目つきで「どうだ」と誇らしそうにするが、二人とも口を揃えて「意味が、わからん」という。その光景をみて冷泉とジローは失笑する、ビッチの女店長は「私はこの曲、大好きだ」と公言する。


ヒゲの総帥は奇跡は一度だけだと言わんばかりにギターを元あったところへ戻して、パルタガスの葉巻をくゆらせながらウイスキーをおかわりする。


曲というのは不思議なものである。


音の羅列が曲と認識された瞬間、世の中には「この曲」とそうではない曲の二つが存在してしまうのである。まさにバッハの偉大さは、その荘厳な響きやテクスチュア以上にここに集約されるのではなかろうか。


そしてそれは何も音楽に限ったことではない。いつの間にかジローも帰り、脂汗をかきだしたタッキーと終電を乗り過ごして当て所のなくなったテリーが宿り木にとまる滑稽な鳥のようにカウンターにひっついている。


さらに夜も更けると、二人の会話は母音だけで成されているかのような独特なリズムがあった。そのリズムはよほどに気だるく、行ったこともない国、キューバを感じさせるようであった。


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by amori-siberiana | 2018-03-20 20:03 | 雑記 | Comments(0)

タッキーとテリーは犬猿の仲である。


元来から犬猿であったわけではなく、いつの間にか仲が悪くなったようである。タッキーからすると「一方的にテリーが僕のことを嫌ってるんですよ」と困り顔をする。テリーからすると「アイツはいい加減だから」と取りつくシマもない様子。


そんな二人を合わせて仲直りさせようということを目論んだのはヒゲの総帥。それが両者のためになるのかどうかそんなことはどうでもよい、そうなることがヒゲの総帥にとってのメリットになるのだ。赤壁で曹操軍を討つためには呉と蜀が手を結ばねばならんということもあるのだ。


さて、ここ数日のことであるがブログの更新は滞っていた。これについては仕方がないフシもある、ひとつには時期的なものであり、もうひとつにはヒゲの総帥の仕事に関係することである。ヒゲの総帥はこの冬から役所へ潜入して仕事をしている、もちろんのこと公務であるからして真面目に就業している。役所というのは古今東西、人あるところならばどこにでもあるが漏れなくそのどこも三月が暇であろうわけがないのだ。「そりゃ、三月に暇な役所なんてありませんよ」とはバイオリン王子の言葉である。


更新が滞っているあいだ、大事から些末までいろいろなことがあったが今回はタッキーとテリーの日について書いておきたい。


泥酔した両手が武器の韓国人とか、バイオリン弾きの親父とか、声楽家の女とか、マナー講師の女とか書きたいことは沢山あるのだが、それはまたどうしようもなく書くことがないときに書こう。書くことがどうしようもない日を作るには、書くことがどうしようもない日を過ごせばいいだけのことだ。とにかく三月は眼圧がおかしくなるほど忙しいのだと理解を求めたい。決して、クントコロマンサが忙しいわけではない。最近、版画家の柿坂万作が店でダラダラしていると忠言をいただく次第である。


昨年は海外での仕事、大ホールでの仕事によく励んだ舞台照明のテリー。少し前になるがモーターヘッド(イギリスのバンド)をこよなく愛するこの男は、かのバンドの象徴的な存在であるレミー・キルミスター氏が亡くなったあと、彼の故郷を訪ねたという。レミーが亡くなったという一報をヒゲの総帥がニュースで知ったときには、そこからテリーに声を掛けられるようなものではなかった。テリーの慟哭が声などではなく恐ろしき雲を伝って空から降り注いでくるようであった。


愛しいものを失ったとき、それまで投げ続けた愛しさを何で埋めればいいのであろうか。失ってから知ることもあれば、失うまえから失ったあとを知ってることもある。無限という概念に美は宿らない。テリーの作り上げる照明には一抹の物語がある、それはリヒャルト・ワーグナーのように華美で誇大妄想的に狂ったものではなく、慎ましく梅一輪ほどの美しさを知った男の物語なのだ。


ヒゲの総帥はテリーをバーに誘う。このバーというのはハイタッチ冷泉の弟のジローが教えてくれた「ビッチ」という名のバーである。テリーはいつの間にか手巻きタバコに代わっている、ヒゲの総帥がどうしたのかと訊くとアメリカン・スピリットの味が変わったからだと応答する。なるほど、精神や主義主張というものは時代の流れによって転ずるのが相場だ。


ジローがやってきてキューバ産の葉巻をテリーとヒゲの総帥に勧めてくれる。毎晩のように銘柄を訊ねるのだが一夜明けるとやっぱり覚えていない、ただ、確かなその葉巻の香りだけは腐りかけた鼻腔と服に染みついている。


「テリー、そろそろタッキーと仲良くやってくれませんかね」とヒゲの総帥は単刀直入にテリーへ切り込む。テリーは聞こえないフリをして酒を飲む。「もうそろそろ偏屈テリーをおしまいにしましょうよ」とヒゲの総帥は二杯目となる濁り酒の立山をぐいと飲み干す。「それなら、今、俺の目の前にタッキーを連れてきてくれ」とテリーはいう、ヒゲの総帥は了解したとタッキーに連絡をする。


「はい、もしもし」と下水管の底から聴こえるような声が電話から聴こえる。どうにも相当に疲れ切っているタッキーの声である、ヒゲの総帥は前述の旨をタッキーに伝えてなんとかこちらまで出てきてくれないかと相談する。「・・・わかりました、けど、面白くなかったら5分で帰るかも知れませんよ」とタッキーはヒゲの総帥に釘を刺す。


もしも、テリーとタッキーが殴り合いをしだして店を壊すといけないため、ヒゲの総帥はジローに冷泉を連れてこれないかと相談する。何かあったときには冷泉の熱き拳によってテリーとタッキーの二人を即座に失神させていただかなくてはならないからだ。そして勢い余って咆哮する冷泉をすぐさま筋骨隆々のジローが殴って失神させるという平和をヒゲの総帥は見込んでいる。


10分後、冷泉がニヤニヤしながらビッチへやって来る。すでに酩酊状態であるらしいのだが、冷泉の酩酊状態以外をほとんど目にしないヒゲの総帥からすれば通常運転そのものである。


しばらくして、タッキーがやって来る。カウンターに座る五人。左からテリー、ヒゲの総帥、タッキー、冷泉、そしてジローという並びである。目の前にはテキーラが運ばれてくる、それを五人がぐいと飲み干す。カウンターにはハブとマングースが手術台の上で偶然出会ったように異様な緊張感が漂っている。


緊張と緊張の架け橋、冷泉がひと言だけ言葉を発する。


「ほな、殴り合い、しましょか・・・」


「ええっ!?もう!?」


一同が唖然とする。


後編に続く。


本日はアラタメ堂主催のボードゲーム大会がクントコロマンサで開催されます。どうぞ、みなさま奮ってご参加ください。


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by amori-siberiana | 2018-03-17 12:39 | 雑記 | Comments(0)

こんばんは、北濱にある猫のひたいのように小さな店。クントコロマンサを版画家の柿坂万作と共同経営している、ヒゲの総帥こと阿守のブログです。


本日はノー残業・デーなる洒落たものであるが、そのようなことはなんのその朝礼の開口一番から残業を勧められるヒゲの総帥であった。やるべきことはすでにやったので、いつ頃に撤退しようかと様子を見ているのだが、どうにも先方がそれを許してくれそうにもない。そのうち機会もくるだろうとそれまでは雌伏するもいいさと高楊枝を気取ってはいるものの、その実、いいように利用されているだけかも知れない。まったく素敵な世の中である。


さて、日曜日のこと。


この日はいろいろと予定を間違えて認識していたこともあり、ぽっかりと何もすることがなくなった。風の噂に聞くところでは、小説家の平尾先生がなにやら大きな仕事の依頼を受けたとのこと。その一環として豚王ことタッキーにインタビューをしているとのことなので、ちょうど近くにいたヒゲの総帥は朝食がてらにインタビュー場所である喫茶店へ踏み込む。


ヒゲの総帥は星師匠と喫茶店へ到着する。確かに平尾とタッキーがいる。タッキーが「このシチュエーションはどういうことですか?なんでアモさんがここにいるんですか」と困惑気味に平尾先生へ訴える。「いや、阿守が近くにいるというから、喫茶店でインタビューをしている最中だと伝えただけだよ」と先生はいたって平静。ヒゲの総帥も「ということだ、タッキー。それ以上でもなければそれ以下でもない、どうぞ存分にインタビューされてくれたまえ」と目の前のサンドウィッチと深煎りのコーヒーを体内に取り込む。


お互いに背中合わせとなる席に座ったヒゲの総帥とタッキーは、側面の鏡越しに会話をするのだが、この光景はどこかスパイ映画によくある密談のワンシーンを想起させるものであった。


平尾先生はこのあと、しばらくしてから名古屋へ向かいシャチョーと呼ばれる男と会うという。その日は名古屋で一泊して、朝からシャチョーが指揮を執る有名ラジオ局にゲスト出演するとのことだ。先生が名古屋へ旅立つまでにまだ時間が少しあるので、店を移動して皆で昼食を摂ることにした。ヒゲの総帥は先ほどまで朝食を摂っていたのだが、インターバルもなしに昼食を摂ることになる。


居酒屋へ入る。平尾先生とヒゲの総帥は昼間から酒を頼み、そして酒の肴を頼む。車で来ているタッキーはノンアルコール・ビールを注文するが、ヒゲの総帥は容赦なくタッキーのグラスに日本酒を注ぎ込む。


「いや、勘弁してください。飲んで逮捕されたりしたら、えらいことになるんです」というタッキー。「そんなもの代行タクシーで帰ればよかろう」とヒゲの総帥は切り返すが、どうやら前日から駐車場に置きっぱなしにしているらしく、駐車料金もバカにならず代行タクシーの代金もバカにならないということなので、それは確かに無駄な金だとヒゲの総帥も理解を示して、タッキーのグラスに注がれたビールもどきと日本酒の混合液を自分で飲み干す。


この世で面白いこととは何か、についてそれぞれが論じ合う。タッキーがなにかいいことを言った気がしたが残念ながら覚えていないので、書けない。


いよいよ平尾先生の電車の時間が来たというので、先生を3割ほど送りだして残り7割は放置したままヒゲの総帥とタッキーは駐車場の方向へ歩き出す。なんせ今日一日は特に何もすることがないのであるから、こんな美味しい男を放っておくわけにはいかない。是が非でも離すものかと酔っぱらいのヒゲの総帥はタッキーにくっついて歩く。


タッキーの車に乗り込み、タッキーの家の駐車場まで随行する。そこからカラオケへ行くことにする、タッキーの案内のもとにカラオケ店を幾つか回り、ここがよかろうという場所に落ち着く。これまでノンアルコールで通していたタッキーもハイボールを2杯ずつ猛烈な勢いで飲み干し、一瞬にして10杯ほどのグラスが空になる。


タッキーとヒゲの総帥の酒の勢いは止まらないまま、5時間ほどカラオケ店で歌い続ける。お互いが歌った曲のタイトルでしりとりをしていくという趣向なのだ。くだらない発想のワリには普段は歌いもしないような曲を歌うことになるので、随分と盛り上がった。


「そろそろ、このへんで切り上げようか」とお互いが考えていたとき、ゲームセンス・ゼロの女ことアシムが合流するというので、場所を変えて飲み直そうということになる。ヒゲの総帥が北濱で一番好きなバーである、「ピンク&ガン」へ千鳥足で移動する三人。途中、せっかくだからツタの絡まる青山ビルにあるギャラリーへ行って、展示会の片付けをしようじゃないかと立ち寄ってみるが門が閉まっている。裏口をガチャガチャやってみるがどうにもカギがかかってビクともしない。


一向は潔いほど簡単に諦めてバーの階段を下りていく。すぐにアシムがやってきて四人で飲みだす、アシムが好きだという映画「セッション」について賛否両論となり互いの見解などを論じ合う。「いやー、あの緊張感がたまらないですね」というのはタッキー、「好きもの同士、勝手にやってろって感じだ」というのはヒゲの総帥。星師匠は双方の意見に耳を傾けながらニヤニヤしている。


「そうだ、アモさん、そろそろ僕のことを豚王と書くのやめてくれませんか」とタッキーはおもむろに自身への論評へ異論を唱える。確かにタッキーはライザップで専門のトレーナーについてからというもの、去年の夏から20キロ近くも痩せたとのこと、なるほどそろそろ豚王のレッテルを剥がしてもよかろうと、ヒゲの総帥は了承する。


「さらにですね、サラッと僕のフェラガモの靴のことをこき下ろさないでくださいよ」とタッキーのオーダーはやかましい。先日、ヒゲの総帥はアラタメ堂のイベントの宣伝のブログにて韓国の仁川空港にある60%OFFの微妙に型落ちしたフェラガモと書いたが、それは確かに全てタッキーの実話を基にしているのであった。ヒゲの総帥はそれを聞いてウイスキーを吹き出すほど笑い転げる。


「なんだ、そんなところまで読んでるのか?」とタッキーに訊くと、それはそうだと無言で頷くタッキー。


そろそろ酩酊も度を越してきた頃なのでこの辺で、と皆が腰を上げたとき冷泉からタッキーへ連絡が入る。どうやら水曜日にコロマンサへ来て欲しいとタッキーを誘ってるとのこと、「冷泉に今は阿守と一緒に飲んでいるとメールしてみな」とヒゲの総帥はいう。タッキーはそのままを冷泉へ送信する。


それから20分後・・・。


バーにいるヒゲの総帥の目の前には全身が黒ずくめの男、冷泉が座っている。


「あの、なんでもいいです。一発で酔えるもんを、ください」と珍しくシラフの冷泉はバーの女性店員に告げて、そこから立て続けにウイスキーをあおりだす。冷泉を加えて議論は白熱していくが、一体何の議論をしていたのかはもちろんのこと覚えていない。どうせ、ロクでもないことなのは明々白々である。


冷泉は自身の旅行土産として驚くほど美味い泡盛を持参してきていた。タッキーは泡盛が大好きだという、アシムなどは酒であるならなんでもいいという様相。しかし、ここで飲むわけにもいかず、一行はコロマンサへ場所を変えることとした。


コロマンサでは版画家の万作も交えての泡盛の試飲がはじまる。そのうち気がつけば冷泉の弟のジローも合流して、さらにはポーランド人とインド人もやってきて、皆で泡盛を試飲する。ウイスキーのように芳醇でオーク樽の香りが楽しめる風変わりな泡盛は皆から絶賛を受ける。


タッキーは流暢な英語で外国からの旅行者へ話しを振っていく。ヒゲの総帥にいたっては英語どころか日本語もヒアリングが煩わしくなっているのである。タッキーはジローの胸の筋肉をさわりながら、キャッキャキャッキャと終始楽しそうではあるものの、意味もなく本気でヒゲの総帥に尻を蹴りあげられる。ヒゲの総帥もタッキーに尻を蹴られる、冷泉はポーランド人とインド人に殴られて、ジローは兄貴から殴られる。


星師匠とアシムはその模様を、反転する地球の向こう側から見ているような顔で、笑みを浮かべながらながめる。まるで世界の終わりについて考えているように。


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by amori-siberiana | 2018-03-07 21:26 | 雑記 | Comments(1)


北浜のビジネス街にある、昭和レトロなカフェのブログです。            大阪市中央区淡路町1丁目6の4 2階上ル
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