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まこと冬らしい寒さとなっております。私の知人なども先日の折、京の方へ鹿苑寺などを見に行ったと申しておりましたが、雪がはらりと舞いながらという、それはそれは風情ある寒さを物語るようなお写真を拝見させていただきました。


そのような寒中にありましても、ここ北濱のコワーキング・スペース『ザ・ジンクス』におかれましては、本年度上半期のナンバーワンソムリエを決めるワイン会が催されておりまして、紳士淑女が一堂に介してお酒を嗜みながら、芸事のことや他人さまの飼っておられます猫のことや最近の出来事など、どうでもよろしそうな雑談に花が咲いておられます。そして、いよいよ前年度覇者の拓也さまの登場となりまして、会場の熱気は最高潮を迎えております。





一杯のお茶

それをきちんと

いれることができたなら




あなたはすべてのことが

できるはず。



-イスラム社会のことわざ-








2019年 01月 27日 16時00分





現時点で北濱ナンバーワン・ソムリエの称号を持つ豚王タッキーのプレゼンテーションが始まろうとしている。真打ちは最後に出てくるものかと思っていたが、全体の二番手で出てくるとはヒゲの総帥の予想に反したことだった。自身の覚えたての幼稚な魔法を披露して、敢闘賞の拍手がもらえれば上出来くらいに考えていたヒゲの総帥の前に、いきなりバハムートを召喚する男が登場したようなものである。


人は印象によって操作される。バハムートの地獄の業火をまざまざと見せつけられた観衆たちが、後発のヒゲの総帥の努力を見たところでそれは名手イチローのヒットのあとで、パワプロ(野球ゲーム)のテキサスヒットを見るような落差があるではないか。


しかしながら、ヒゲの総帥の心はタッキーのこれからの所作を期待することに揺れる。敵ながらこの男、よき親友、よきライバル、そして人生の成功者たるこの傑物の繰り出す妙義を見てみたいという、本質的な好奇心にいつしか魂は溺れて揺れているのだ。ユダがレイの南斗水鳥拳を目の当たりにして心を奪われたように、作曲家ベルリオーズが舞台女優ハリエット・スミスソンを真冬のパリで悶え追いかけたように、人は真に美しいものには抗う術がないのである。


愛するか、憎むかではなく、愛さざるを得ない状況へと誘われるのだ。それはアブサンのように危険で、グランマニエのように甘く、そしてワインのように真っ赤に燃え上がるのである。


しかしながら・・・、とにかくニンニク臭い。それはそうである、これほどまで餃子とエビチリが器のままぐちゃぐちゃになったビニールに詰め込まれて、ジンクスのビッグテーブルに放り出されている状態である。このビッグテーブルが円卓であるならば、我ら参加者は豚王の号令と共に剣の底にてテーブルをどんどん叩き、餃子とエビチリの乗った円卓を回す騎士となろうという勢いである。傍から見れば陳腐な選択に見えるかも知れない「餃子の王将」コンビ。しかしながら三段論法的にいうなれば、有益であるから皆に多用されるのであり、皆に多用されるからこそ陳腐になるのであって、陳腐な手段が不当であったり価値を下げることとイコールでは決してない。


そしてそんなことを考えていた瞬間、ヒゲの総帥は「ハッ」と気づいた。「まさか、こ、これは・・・、シュールレアリストの手法だ!」と愕然とした、もはやこのワイン会を単なる味比べではなく芸術の域にまで高めようというのか!タッキー!お前はっ!とヒゲの総帥は心の中で絶叫した。自分が考えるよりも遥か高みにいる豚王、ヒゲの総帥やマンホーなどはそこへ追いつこうにも追いつかない、それはまさにブロッケン現象であり、我々は彼の影しか見ることを許されない。異次元の怪人に挑戦するような無力感である。


かの高名なシュールレアリストのマルセル・デュシャンは便器に自分のサインを書きこんで「泉」という題名をつけ展覧会に出展した。レディメイド(既製品)を使用することによって価値観が硬質化して値段が上がる一方のワイン社会へ向けて、一石を投じようとする豚王の姿勢に赤組は心を打たれた。


つまり、豚王タッキーはダ・ヴィンチのモナリザにヒゲを書きこもうとしているのか。


豚王はマイクを片手にプレゼンテーションをする。雷のようなダミ声。たらいをひっくり返したように鳴り響く。観衆の全員が唾を飲みこむ、一体全体このレディメイドを使用して如何なる高級ワインとマリアージュさせようというのか。ざわざわざわざわ。


「みなさん!」


王の啓示が民衆の頭上に落ちる。気のせいかどこかで銅鑼の低音が聞こえる。王の言葉は踊り出す。


「みなさん!今日はどこででも誰にでも簡単に手に入るワインと、食材というコンセプトでマリアージュを考えてきました」


「えっ・・・!!!!!?」


ヒゲの総帥は耳を疑った。ヒゲの総帥が耳を疑ったということは観衆全員が耳を疑ったことと同意である、何故ならば今この場は専制君主政治であり、議会政治ではないのである。つまり、王以外は全て同じヒエラルキーなのだ。


「どこでも手に入るということで、まずは餃子の王将で餃子を買ってきました。この餃子に合うワインということで、このロゼワインを飲んでみてください」


この男は何を言っているのだ・・・?


ヒゲの総帥は自分には乗る権利すらない、遥か神聖なる天へ伸びるエスカレーターに悠然と乗っていたタッキーが、エスカレーターが到着した先に床がなく、「わぁ」と叫びながらそのまま天から落ちてくる姿を見たような幻覚に捉われた。


イカーロスの夢、破れたり。


タッキーそうじゃないだろう、皆、3000円の入場料を払っているのである。餃子の王将とシャトー・マルゴーやオーパス・ワンやロマネ・コンティやモンラッシェを合わせてくれるんじゃなかったのか、自分たちの払った入場料たる犠牲の名のもと、無意識にコスパを考えたうえでの期待をしているのがわからないのか。誰もどこでも手に入ることなど望んでいない、誰にでも手に入ることなど認めない、そういう空気なのだ。その重責がナンバーワンのナンバーワンたる苦悩ではなかったか。力石徹は男の友情をまっとうするために命を削った減量にてバンダム級へやってきたとの故事を知らないのか。


なんなんだ、なんなんだ、この見たことも聞いたこともない酒蔵の、赤でも白でもないワインは!!


「こいつは王じゃない!こいつはただのブタッキーだ!皆、殺せ!」とヒゲの総帥は叫びそうになるのをぐっと抑え込んだ。抑え込んだというよりゼロだった、永遠のゼロ。ヒゲの総帥の期待は消え失せた。失ったものがあまりに大きすぎて、何も感じないという具合であった。


豚王は懸命にギャーギャーとプレゼンテーションする。無暗やたらにロゼを来場者の口に押し込み、めくら滅法に餃子を食えと迫ってくる。


ヒゲの総帥が正気を取り戻そうと会場の外へ出てみると、チンピラの男や世界の果て会計の無法松先輩、さらにはビッチ学派の連中はビールをコンビニで買って来て飲んでいるではないか。3000円払ってワインを飲まずに追加でビールを買うこの連中は確実にアナーキストである。豚王が執政に手を抜いたその瞬間、反乱軍たちはワインならぬビールという新兵器を用意して、辺境から刻一刻と迫ってきていたのである。一大事である。


「やっぱ、餃子にはビールですよね」とニヤけるチンピラの男。危ない笑い方をする男である、ヒゲの総帥は「800人か・・・」と直感で、このチンピラがこれまで殺めてきたであろう人間たちの数を感じる。


このまま豚王のご都合主義に任せていては、この国(ジンクス)が危ない。誰にでもどこででもという甘いキャッチコピーは言い換えると、その辺で買ったものということと表裏一体ではないか。


「異議あり!」


辺境のビール族(ハイボール族)の偵察から一目散に会場へ帰還したヒゲの総帥は声をあげる。「はい、ヒゲの総帥!」とアラタメ堂のご主人は総帥にマイクを渡す。


「赤組の阿守と申します。これより反対尋問を行います。まず、タッキー、このワインをどちらで手に入れられましたか?」


「え?タカムラです」


「そのタカムラというのは、どこにありますか?」


「大阪ですよ」


「そう、大阪市西区のどこにありますか?」


「土佐堀沿い・・・です」


「土佐堀沿い、タッキーの家からジンクスへ来るまでの途中経路ですね。それでは、この餃子の王将はどこの王将ですか?」


「ええっと、堺筋の・・・北浜の・・・」


「つまり、ジンクスのすぐそこということですね」


「はい」


「みなさん、これにて反対尋問を終わります」


ヒゲの総帥はそう言い残し、くるりと踵を返して歩きだした。豚王に自己の無防備な背中をさらしている。怒りに狂った豚王がこのヒゲの生えた男の背中を突き刺すなら今しかない、しかしながらヒゲの総帥には自信があった。豚王にそのような余力は残っていないことを。


白組の前半のプレゼンテーションは終わりを迎えることとなる。










このようにして征司さま(赤組)、拓也さま(白組)それぞれのプレゼンテーションは終わりまして、前半戦は終了することとなりました。そうして来場者の皆さまからの中間投票の結果は以下のようになりましたことをご報告いたします。



◆赤組 28票


◇白組 14票



前半戦を終えたところで結果はダブルスコアとなりました。この投票を管理されておられたのは金色のテラテラの安物に身を包んだファラオさまで御座いましたが、この別の異国の王の声は会場内においては非常に通らず、例えるならば凧糸を歯間ブラシ代わりにギシギシしたときの不快な音のようで御座いました。



本来でありましたなら、このワイン会へお越しになられました沢山の妙な人たちのご説明も皆さまにお話ししたいのでありますが、それを私など何事もまとめきれない無学な者がしてしまいますと内容のない「水滸伝」のように長大なものになることは自明の理でありますので、今回は残念ながら割愛とさせていただきますことお許しくださいませ。


前回覇者の拓也さまはこの結果を受けましても、懸命に自分の持参した餃子とエビチリは後半戦へも引き継がれて、一本の線として白組の壮大なプレゼンテーションへ繋がるのだと汗を垂らしながら力説しておられましたが、赤組のあの口のお悪いヒゲの男より「この残されたエビチリを見たまえ、タッキー、お前はセブンという映画だとすでに暴食の罪で殺されてるぞ」となじられておいででした。ほんに口のお悪い方で。


次はこの口のお悪いヒゲの方のプレゼンテーションのお話しをさせていただきましょう。みなさま、またおいでくださいね。


そうそう、このヒゲさまは前半と後半の合間にアイルランドの音曲を奏でて下さいました。お相手はマラカミムイさんという緑色で全身を彩った素敵な女性で御座いましてね、私の大好きな「イニシア」という曲をしてくださったのです。


皆さまにもイニシアを記号でお分けいたしましょうね。


『Inisheer』

irish trad

G---/Bm---/C---/D---/
G---/Bm---/C-D-/G---/
G---/Bm---/C---/D---/
G---/Bm---/C-D-/G---/

C---/G---/C-Bm-/Em---/
C---/G---/D---/G---/
C---/G---/C-Bm-/Em---/
C---/G---/D---/G---/


なんのことやら、わかりゃしませんね。音楽のことを何も損なわず付け足さず、そのまま言葉へとできる人がいたとしたら、その人は「詩人」で御座いますわね。


それとまったく余談になりますけれども、今回のワイン会のお話しで御座いますけれども「いいね」の数の割には非常に好評で御座いまして、各方面の方々から激励を頂戴しております。が、私このようなことに時間を費やしている暇はないはずなので御座いますのにね、ほんに人間のすることは全く、とんちんかん。



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by amori-siberiana | 2019-01-30 01:08 | 雑記 | Comments(0)

祗園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり

娑羅双樹の花の色
盛者必衰の理をあらはす

おごれる人も久しからず
ただ春の夜の夢のごとし

たけき者もついにはほろびぬ
ひとえに風の前の塵に同じ


- 平家物語 冒頭部より -




「平家にあらずは、人にあらず」、栄華をほこった平家も貴族化して、ますらおの源氏に敗れ去りました。そして全てを失うこととなり、日本全国を散り散りになることとなりました。人の世の栄華というものは消えるときは、あっという間に塵のように無くなってしまうものなので御座いますね。


さて、話しはワイン会に戻ることといたしましょう。メイン会場となるコワーキングスペースの『ザ・ジンクス』さんでは、己の矜持を賭けた意地の張り合いがはじまろうとしておりました。すでに司会進行役をしてくださいます、アラタメ堂のご主人こと哲也さまと江戸からお越しのアキコさまはマイクを手にスタンバイが整っておられるご様子。そして主役であられる緊張の面持ちのソムリエ4名、さらにはこうした余興が大好きなそこら辺からお集まりになられた粋人たち多数の熱気で、暖房もいらないくらいで御座いました。

まず、4名のソムリエが司会の哲也さまによってご紹介され、2名ずつ赤組と白組に分かれての戦いになるのだとルール説明、そしてまことに勿体ぶったことでは御座いますけれど、各人の自己紹介などが行われております。


ちなみに簡単にチーム分けを申し上げておきますと、以下のようになられます。


◆赤組:坂井 征二さま、阿守 孝夫さま

◇白組:平 拓也さま、加藤 史郎さま


それぞれ皆さま、来場者さまの眼前に起立をされて紹介を受けておられましたが、なかでも前回ワイン会の覇者である拓也さまにおかれましては、まるでテレビジョンに出てくる俳優さながらの格好の良さで御座いましたこと記憶しております。俳優といいましても古今東西、ピンからキリまでおられますが、そのなかでも私などは拓也さまが船越英一郎さまのような雰囲気をお持ちになられていると感じるのでありました。


そうしましたら、この第二話は赤組の自己紹介は割愛させていただきまして、拓也さまの自己紹介のところからお話しさせていただきましょう。




2019年 01月 27日 15時30分




赤組のマンホーとヒゲの総帥の自己紹介が終わり、アラタメ堂のご主人とアキコ女史が豚王タッキーとシローの自己紹介をする。


豚王タッキーに関してはこのワイン会の最中において「どうして平さんは、豚王というお名前なんですか?ブタにお詳しいのですか」と真剣に問われたのだとヒゲの総帥に向けて困惑した様子で話しをしていた。そもそもどうして彼が豚王と呼ばれるようになったのか、ヒゲの総帥にもとんとわからない。一体いつごろどこの国の何者がそのような名詞を敏腕ビジネスマンたる彼につけたのか見当もつかない。


しかしながら、世の中にはそのようなことは多々ある。我々は「海」を誰が名づけたのかも知らずに海と呼ぶ、名づけたものが誰なのかわからないからそれは通用しないということを言って頑張っていると、そのうち何も喋れなくなってしまうであろう。よって、豚王というネーミングが誰によって何の目的で付けられたのかは、この場においては追求しても甚だナンセンスなことなのである。考えても無駄なことは自然のせいにするのが一番である、古来人々はそうしてきたではないか。なので結論から言うならば、豚王という名詞は「自然発生」したのである。何も彼が誰よりもブタに詳しく、誰よりもブタに明るいというわけでは決してない。


ヒゲの総帥から見ればタッキーはタッキーなのだ。豚王と彼が呼ばれてもピンとこない、それはヒゲの総帥がここ十数年のあいだタッキーと苦楽を共にしてきた経験があるからに疑いはない。ことここに至って我が戦友であり、代えの効かない竹馬の友たるタッキーのことをましてや「豚王」などと言われても、どうにも言葉と本人の実像が不一致を起こして半ば脳内がパニックになることがある。


しかしながら寛容な男である、豚王タッキーと司会者に紹介されても微動だにせず王者の風格を醸し出しながら笑顔で手を振るこの男にヒゲの総帥は敵ながら天晴れと感動を禁じ得なかった。「王はこうあるべし」という帝王学をまざまざと見せつけられるかのような立ちくらみを覚えるのであった。


アラタメ堂のご主人の紹介は続く、タッキーの好きな言葉を紹介する。もちろんこの項目についてはタッキーが自己申告したものではなく、彼のことをよく知る何者かがタッキーが好きな言葉を事前にアラタメ堂へ密告したうえでの演出なのであるが、タッキーはその言葉を聞くや苦笑をして、「アラタメ堂、どうしてそんなことを知ってるんですか?」と司会の方を見る。


王が実は真っ裸で恥じているではないかと思い、ヒゲの総帥はタッキーのことを慮って「実はその言葉にはこういう経緯が・・・」と言いかけたところで、タッキーから口を塞がれて計画は頓挫することとなった。そして次はシローの紹介となり、皆の眼前で整列するシローの二人ほど挟んだ隣には、兄である黒ずくめのIT参謀こと冷泉がグフフと笑っている。兄の前で誇らしげに自己紹介を受けるシローはさながら校歌を斉唱する高校球児のようであった。


前半戦の先攻がはじまる。


赤組の前衛はジンクスのオーナーことマンホーである。


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メニュー

◆赤ワイン 産地:アメリカ (サンタバーバラ)

STAR LANE 2011 (Astral)

◆マリアージュ一品

鯖のトマト煮込み


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マンホーは自身の持ち込んだワインの説明を開始する、相方であるヒゲの総帥はマンホーがマリアージュの一品として持ち込んだ手作りの鍋物を小さいアルミ容器へ小分けにしてスプーンを刺しこんでいく。ところがあろうことかすでにシローの持ち込んだスパークリングや来場者の持ち込んだワインによって酩酊しているヒゲの総帥には薄いアルミだか紙だかわからないペラペラの容器へ、トマト煮込みを鍋から移すことなど困難である。見かねたビッチのマスターや司会のアキコ女史たちが役立たずのヒゲに代わり、料理の提供をサポートしようと出てきてくれる。


マンホー手作りの煮込み料理は各人の腹の中へ収まることとなり、どういうレシピなのか質問する人などもいて好評であった。マグナムボトルにて持ち込んだワインは一瞬にして無くなった。いや、無くなったというよりは蒸発したという感じであった。砂漠に水を垂らしてそのすべてが跡形もなくなるように、極寒のシベリアにて熱湯を空に撒き、それらがすべて妙なる音をたてて凍てる風に粉砕されるが如く。アッという間に終わる。


マンホーがマグナムボトルから注ぐ赤い血は、それぞれの来場者のまさに血となるべく紙コップという杯を通じて体内に吸収される。前回はプラスチックのワイングラスだったのに今回は紙コップかよと異議を申し立てるものもおらず、儀式は粛々と行われるのであった。


余談であるが前回使用したプラスティックのワイングラスは耐久性に難があり、多数がバキバキに割れてしまいマンホーがさっさと全て捨てたそうである。


しかしながら紙コップには「THE LINKS」なる文字と、互いが手を繋ぐような紋章が刻み込まれている。繋ぎそうで繋がない、繋ぐ気があるのかないのかわからない。この紋章の深みはここにある、ヒゲの総帥などはこの紋章がそのまま東京オリンピックのデザインになれば良いと考えてた一派の一人であるが実現はしなかった。ただ、この一派というのも実際は何人いるのか知れたものではない。


「異議あり!」


油脂にまみれたようなダミ声がジンクス会場内に響く。皆が声のする方へと注目する、その視線の先にいるのは壁にもたれかかって鎮座している豚王タッキーである。


アラタメ堂のご主人がすかさず豚王にマイクを渡す。このマイクはアラタメ堂のご主人が会場に来る前にダイソーで買ったものであり、もちろんのこと電源など入りはしない紛い物である。ところが不思議なことに豚王がこのフェイク・マイクを握った瞬間、PAブースを通じて館内アナウンスとして声が流れるような錯覚に陥る。


「はい、タッキーさん」とアラタメ堂が前回覇者に発言権を渡す。マンホーのプレゼンテーションは稀代の名ワイン「オーパス・ワン」を基盤とした演説であった、その牙城を王者が崩しにかかる。


「マンホーさんが持ってきたワインはブラインド・テイスティング(目隠しをしての味見)でオーパス・ワンに勝ったとありますけれど、実際のところオーパス・ワンはその年々によって結構いろんなワインに負けてたりするんですよね。つまり、そのプレゼン自体があまり意味がないんじゃないですか」


「えっ?そんなもんなの」と揺らぐ聴衆、動揺する民衆たちの反応と反比例してタッキーはしてやったりの笑顔を浮かべる。


赤組の前半のプレゼンテーションは終了した。


そして、いよいよ白組の前半のプレゼンテーションが始まろうとしている。なんと先攻は前回ワイン会覇者の豚王タッキーのプレゼンである!






このようにして開催されましたワイン会で御座います。お話しはこれより佳境に入ることとなりますが、たった半日の出来事を何故に何日にも分けて物語にするのかと言われる御仁もおられるやも知れませぬ。私としましても、それほど多くを知っておるわけではありませんから、これでも出来るだけ掻い摘みまして、端的にこの日のことをお話ししているのでありますけれど、どうしても長くなってしまいます。


とはいいましても世の中でもそのようなことは常で御座います。レオナルド・ダ・ヴィンチの生涯は67年で御座いましたが、そこから500年もの間、彼のことを語る人は絶えません。67年のことですから67年かけてお話ししますと、その全てが抽出できるにも関わらず500年話しをしておるのです。セックス・ピストルズなどはまともに活動したのは2年と少しで御座いましたのに、今でも語り継がれる存在で御座います。オアシスに至りましては、モーニング・グローリーというアルバムに収録された50分03秒ほどの出来事ですのに、今でも世界中のどこかで彼らの歌が歌われておいでです。さらに言いますとa-haなどは3分48秒の出来事にも関わらず、今でもその透明感ある声によって存在感をお持ちであられます。


ある事象におかれまして、それに費やされた時間などは特に問題ではありませんことを皆さまはよくご承知のはずで御座いましょう。費やされた時間よりもその事象について論じられた時間の方が物事の価値を決めるのでありましょう。


さて、次回はいよいよ拓也さまの出番で御座います。ジンクスへ到着早々に近場の餃子の王将へ向かった賊軍のお二人、ニンニクとニラの匂いをぷんぷんさせながら会場へ戻って来られまして、その手には餃子が10人前ほど、エビチリが6人前ほど白い袋にぎゅうと押し込まれているのでありました。


それでは長話のついでといたしまして、私が独自のルートで仕入れましたワイン会までのソムリエ4名さまと司会の哲也さまのやりとりを少しだけここへ転載いたしましょう。





2019年01月11日


シロー:チーム戦の方が盛り上がりそうなので、僕はチーム戦に賛成です。
チーム戦にした場合、北浜ナンバーワンソムリエはどうします?


総帥:はい、チーム単位でのナンバーワン称号となります。そのあとは、くにおくんのドッジボール部のように、外の最強ペアたちと戦いをリンクスで繰り広げることになります。将来的には国際大会がリンクスにて行われるようになります。そしてそういうときには、チーム・リンクスとしてこれまで敵同士だったソムリエたちが仲間になるという、ドラえもんの大長編的な感動、魁!男塾的な予定調和の爽快感が期待できます。


タッキー:財力バランスからみて、僕とマンホーさんが別れた方が良さそうですね。


アラタメ堂:アモリさんとマンホーさん、タッキーとジローちゃんかな


タッキー:僕もそれがベストかと!


総帥:チーム戦となるなら、僕とマンホーのリンクスチームと、タッキーとシローの外様チームだね


タッキー:シロー!LINEで作戦会議トークルーム作るぞ!


アラタメ堂:盛り上がるように司会、頑張ります


総帥:マンホーさん、豚肉とシローを捻り潰してやりましょうぞ!東南の風は我らに吹く


タッキー:こちらもう既に作戦会議始まってますよ!捻りつぶしてやります。


マンホー:おー、見ない間に面白そうな話になってますねー。チーム戦、望む所ですねー。



この時点から、ワイン会前日まで皆さまはイベントに向けていろいろな議論を交わすこととなりますが、拓也さまのみ忽然とメッセンジャーから姿を消されることとなります。雄弁の銀、沈黙の金とのことわざも御座います、念には念を重ね、リサーチにはリサーチを重ね、下準備に労苦をいとわずの拓也さまで御座いますから、この時も水面下ではシローさまとの綿密な打ち合わせ、名人のチェスのような駒運びが行われているものと無学な私などは大いに考えておりました。


ところが、事実はどうもそうではなかったようなのです。試合終了後、シローさまよりあのような苦言が出てくるとは、私などはまさか思いもよりませんで御座いませんでしたから・・・。


第三話へ続く


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by amori-siberiana | 2019-01-28 22:16 | 雑記 | Comments(0)

早いものであります。年が明けまして、しばらくが経過したというのは私にもわかるのですが、気がつけばすでに一月も終わりというではありませんか。私、この一か月で何をしましたでしょう。2019年の12分の1を終えまして、何をしてきましたでしょう。甚だ何もしてはいないことに気がつきますと、心はちくちくと痛むようで御座います。


さて、「盛者必衰のことわりをあらわす」という言葉もありますように、いつの時代になりましても旧時代の英雄は新時代の革新者によってその地位を奪われ、後の時代の子たちへの悪しき教訓として名を残すことが繰り返されております。そしてこの凍えるような寒い1月27日、北濱はリンクスにおいても同様のことが起こりましたので、それについてお話しいたしましょう。なに、つまらぬ話しですので真剣に読むに値しないと思われましたら、さっと流して下さいますよう重ね重ねお願い申し上げます。





2019年 01月 27日 12時00分




ヒゲの総帥が北濱にあるジンクスに到着する。地下鉄の駅からこのジンクスへ来るまでに、手に持った荷物を三度も地面については「はあ・・・」と言いながら、また歩き出しほうほうの体でジンクスへたどり着く。本日、このジンクスを会場としたワイン会が行われることとなり、ヒゲの総帥はその参加者なのだ。


両手には3リットルずつ入った自家製サングリアが2瓶。そしてこれまた自家製のオランジェットが銀のボウルにオレンジ8個分ほど詰め込まれている。さらには止めとけばいいのにギターまで担いでいるし、登場するタイミングもなさそうだが慢性的に持ち歩いてるノートパソコンもあり、総重量はここ最近では経験がない重さである。


せめてもの、雨じゃなくて良かったな。と心のなかで明るい方向のことを横切らせるところ、この男が根本的には楽観主義者であることの証明かも知れない。ところが本人に言わせてみると、それはそれは自分ほど悲観的な人間もいないのだ、よければ聞いてくれとクドクド話しをしだすのだから人間はわからない。


ジンクスへ到着すると既に会場のオーナーであるマンホーがいる。コーヒーを飲みながら柔らかそうなパンを頬張っている、冬ではあるが日中ということもあり、大きく開放的なジンクスの窓からこちらも柔らかな陽光が差し込んできており、それだけで今日のイベントが無事に執り行われるであろう確信が持てる。


しばらくするとシローも到着する。お互いにどのようなワインとどのような食材を持ってきたのかチェックしながら、シローがこれは先に開けましょうとスパークリングを開栓する。シローに促されるままマンホーとヒゲの総帥はそれぞれ紙コップを持ち、発泡する酒を前に乾杯をしてゴクリと喉をならす。


あとは前回のワイン会覇者の豚王タッキーが来るのを待つのみであるが、なかなか来ない。そのうちタッキーから連絡がくる。


「荷物多いからタクシーで向かってるけどマラソンのせいで全くたどり着けない泣」


そう、今日は大阪マラソンの日である。この大阪マラソンなる食わせもののおかげで大阪市内の主要な幹線道路は封鎖・分断されることとなり、これまで容易に行けていた場所へすら難所を渡航するような面倒臭さを生じることとなる。今、まさにそのヒリヒリとしたケとハレの狭間のぎすぎすした境界線の渦中にいるのが豚王タッキーであるのだ。


豚王からの必死の叫びが「0」と「1」に記号化され電波を通じて文字を再構築して、残る三者の携帯電話へ届いたころ、シローは脇目も振らず黙々と自身の持ってきた赤ワインをデキャンタしている。マンホーとヒゲの総帥は日本の宗教界の在り様と信仰心の模様がいかに現代を生きる日本人の精神的構造に関与しているのかを談義している。


「つまるところ、宗教が単なる通過的な儀式として形骸化していることで、僕らはどこかしら他の国の人とは無意識化での他人に対する行儀の面での選択肢が違ってくるのだと考えるのです」とヒゲをひねりながら総帥はぼんやり話しをする。


「それ、わかります。僕もずっとそういうことを考えていました。僕も言いたいこととか山ほどあるんですよ」とマンホーもぼんやりとそれに応答する。


「これ、飲んでみてください」とシローは紙コップに多少空気に触れさせた赤ワインを入れてヒゲの総帥に差し出す。総帥は紙コップに入った赤ワインを見つめて、ぐるぐると回しながらそれを口に突っ込む。


「うわっ、これ美味しい!」


「でしょ」と微笑みながら、上腕二頭筋のお化けはデキャンタに赤ワインを水墨画の滝のように流していく。赤い水の流れる滝、その透明のガラスの向こうで滴る異国の飲み物を独特な凸の容器に注ぐさまは、それこそ宗教的な儀式なようにも思えた。


ピンポーンと音がして星師匠がやってくる。今日はいつもペアとなって受付をしている宗教画のモデルの女が不在ということで、不安だろうかと思えば別段そうでもなさそうな顔をしている。


引き続いてカラカラ笑うデザイナーの忌部、司会のアラタメ堂のご主人、豚王タッキーがやってくる。アラタメ堂のご主人が持ってきたカギ付きの投票箱はなかなか秀逸なものであり、素材から受ける影響か堅牢さの印象は皆無であるが、非常に面白味のあるものであった。このアラタメ堂のご主人はこういうディティールへは徹底的にこだわってくれるので間違いがない。


ヒゲの総帥は忌部とその投票箱を眺めながら、「まるでバンクシーの作品を粉砕したシュレッダーみたいだね」と笑いあう。


「シローちゃん!行こうか!」真冬であるのに若干の汗をかきながら豚王タッキーは到着早々にシローを引き連れて近所の餃子の王将へ向かう。その動きは蛮族が敵の首都を攻撃して金品だけを奪い取り、次の目的地へ行くかのような様相であった。


「まるでイナゴのようだな・・・。」


ヒゲの総帥はやっぱりヒゲをさわりながらそんなことを思い、奥のミーティングルームへ行ってギターの練習をする。







到着はしましたものの、すぐに餃子の王将へ旅立った賊軍たち。そして何の根拠もなく思いつくままにご自身の哲学をお話しになられる、ややこしい二人組の赤組。この日のイベントを盛り上げようと尽力してくださいました人たちが集ってくださいまして、いよいよこれよりワイン会が開催されることと相なりました。


そしてこの時より前回の覇者であられました豚王タッキーこと平拓也さまの「勝ち」の算段はどんどんと軸を外れ、それはあたかも夜に降る雪のように誰も気づかぬうちに、しばしば狂っていくので御座いました。


第二話へつづく。



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by amori-siberiana | 2019-01-27 22:57 | 雑記 | Comments(0)

2019年02月05日から2月14日まで北濱にあるギャラリー遊気Qでは長い題名のついた作品展が開催されている。


その名も『2019年 思わず誰かにプレゼント♡(環境依存文字)したくなる作品展』という。とにかくどのような場面においても誰もが思わず誰かにプレゼントしたくなるような逸品でギャラリー内が一杯なのだ。愛に溢れる青山ビルである。


さて、余談ながらタイトルが長いものに間違いはないことは歴史が証明している。


まず世界公用語として落ち着いている英語の母国は「グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国」という長ったらしい名前の王国である。


20世紀最大の芸術家として誰もが知っている画家の名前は「パブロ・ディエゴ・ホセ・フランシスコ・デ・パウラ・ファン・ネポムセーノ・マリア・デ・ロス・レメディオス・クリスピン・クリスピアーノ・デ・ラ・サンティシマ・トリニダード・ルイス・イ・ピカソ」という。


サビの部分をそのまま題名にした二人組のロック歌手の曲「愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない」だって聴く人が聴けば名曲だ。


徹底した完璧主義者として知られたスタンリー・キューブリックの映画だって「博士の異常な愛情/または私は如何にして心配するのを止めて、水爆を愛するようになったか」という具合だ。


なので、この日の遊気Qにて行われるコンサートも体裁上は「遊気Qプレゼンツ ヒゲの総帥の独演会」となっているが、本当のタイトルは長ったらしいのである。


その正式名称は以下のとおりである。


『ジャン・ジャック・ルソーはこんな言葉を遺している。


ある者は明日に、他の者は来月に、さらに他の者は10年先に希望を賭けている。誰一人として、今日に生きようとする者がいない。


この現代においても評価される、偉大でそしてその生涯を迷走極めた愛すべき哲学者の轍を踏むではないが、私にしてもいつの間にか今という概念を過去における延長線上での現在という認識において、その現在を安易に扱っているのではないかとイライラしていた。

つまるところ自分の好き嫌い、自分の興味の有無が判断基準になるのであるが、自分の好きなものばかりを食べて糖尿病になり盲人となった父親を例に挙げるまでもなく、それが健全たる状態でないことは自分でわかっている。


いつしか自分が動いても世界などは何も変わりはしないのだという、主観的論点のみで平易に世間や情報を取り扱うようになっていたと思う。


自然そうなってくると私の場合に限って、人生は無味蒙昧に感じられるのであるが、多数の人はそこに「幸せ」があるではないかと教えてくれる。果たして、教えられて知るようなことが幸せなのであれば、幸せは感覚的な重大さにおいて「痛み」以下になるのではなかろうか。


痛みというのは脳がその個体の生存において危機を促す緊急警報である、そういったものは感じ方によってどうにかなるものでもなく、十人十色だというような曖昧模糊とした弁証法で定義されるものとは一線を画している。


「痛み」というものはより生々しい訴えであり、純化された信号なのだ。


生々しい痛みを自らに課す人間もいるが、そう極端でなくても良かろうと考える。生々しい人生を歩むために必要なものは適度な睡眠、適度な食欲、適度な好奇心、そして大切なのは適度な愚かさである。これは勇気のいる発言であろうが、敢えて憚らずに言わせていただく、「愚かさ」だ。


愚かさから導き出された数々の珠玉の過ちなくして発明や成功だけを語ろうとすると、少なくとも私の人生における魅力はないといえる。賢明なる道徳、健全たる体力、純然たる公平性、社会への貢献度などはその重要性において、さらにさらに下位にあって然るべきものであり、そういった類のものは相手が真剣に語ろうとすればするほど滑稽になり、いつも「眠気」をもたらすものでもある。多分、私自身が皮肉屋であることがそれに起因しているのであろうとも思う。どちらかといえば、人の好き嫌いがある狭量な人間だということを大人になって知ることになった。


もっと早い段階の人間形成期にその自身の弱点が判然としていたのであるなら、もしやもすると取り換えが効いたのかも知れないが、今さらではどうにもならない。自身が白鳥でなくガチョウであると気づいたからには、ガチョウこそ美の真たる追従者であることを世間に流言飛語して吹聴しなくてはいかんのだ。そういった意味において、私は社会構成のなかに位置する多数派の底辺であろうと自負するものである。


私は100の道があるとして、そのうち99のどの道が過ちであるのかを知る者になりたい。残りの1つを知ってるのであれば自身で行けばいいと他人はいうかも知れないが、私の性格上、残りの1つはずっと取っておくのである。ずっと取っておいて、これまでの99たる過失の積み重ねのほうに心を奪われるものである。


私は久しぶりに高揚している。それは自身が生々しい人生をほんの短い期間でも経験したことによる高揚であり、自身の感性が死んでいるのかどうかが確かめられたからでもある。書きたいことを書いておくが、何もかも書くということではない。誰の目に触れられるということを意識して書いているわけでもないのだが、もしも万が一のことを考えても書かなくて済んでおけることは書かなくてよいのだ。


これは私にとっての初めての随想のカタマリである。並びに、形なきものを言語化することへの挑戦でもあるヒゲの総帥の独演会』






やることは、ギターを弾くだけであることを最後にここに記しておきたい。おやすみなさい。そしてやっぱり小銭を放ってもらうのである。


◆2019年02月09日(土)

◆ギャラリー遊気Qにて

◆出演:阿守 孝夫さん (ギター)

◆入場:無料



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by amori-siberiana | 2019-01-22 23:54 | イベント | Comments(0)

「イニシアを知ってますか?」


イニシア(Inisheer)というのは小さな国アイルランドのそのまた小さな島の名前であるのだが、このときばかりは島につけられた名詞ではなく、メロディーにつけられた名詞であることは問われた側にもわかった。


「ああ、イニシアはわかるよ。自分の子供のことを想って作られた曲じゃなかったか?そんなことを聞いた記憶がある」


見るからにアイルランド系白人という頑固な顔をした初老の男は少し考えたのちに、口でメロディーを歌いだす。緩やかに歌われるメロディーが太陽の見えない寒空に流れる。ああ、これが「イニシアだ」と先ほどから煙草を吸ってはゴホゴホと咳き込むヒゲの生えた東洋人は嬉しそうな顔をする。


「よければ、イニシアを演奏していただきたいのです」


東洋人はそういう。そういってはまたゴホゴホと咳き込む、どこか病んでいるのかも知れない。今日はアイリッシュ・セッションの日だ、ここいら辺に住んでいるアイリッシュの演奏ができる奴らが集まりテーブルを囲んで、グウィネスを飲みながらワイワイするのだ。世界で一番幸せな国と称されている国の小さなアイリッシュ・パブで15時から始まるのが恒例だ。


しかしながら、この東洋人は見たことがない。アイリッシュのセッションに加わる様子もない。ただただ、厚手のコートに身を包んで寒そうに一番隅っこのテーブルからこちらの演奏を聴いて、弱々しくも拍手をくる。ヒゲの生えた東洋人のテーブルには一定の量から減ることのない黒ビールとシナモンロールが突き刺さったホットワインがあるのだが、そのどちらに対しても既に口をつけることを諦めているようである。


東洋人にアイリッシュに興味があるのならセッションに参加してみるか?と仲間たちがジョークを飛ばすが彼は手で「僕にはできない」と制するだけでニコニコしながら咳き込んでいる。アイルランド系の男がマンドリンよりも一回り大きいマンドラを黒いケースに入れてパブへ来たのが14時30分であるが、そのときには既に東洋人は客が誰もいないパブのテーブルに倒れ込むように座っていた。


パブの店内は禁煙なので演奏がひとしきり終わると煙草を吸いに出るのだが、東洋人も喫煙者らしく外に出てきて煙を吐く。そしてそのときに「イニシアを知っていますか?」と彼は質問したのだった。


依頼された側の男はバンジョー弾きに「あの男がイニシアを弾いてくれと言ってるぞ」と伝える。バンジョー弾きは改めて確認するようにイニシアのメロディーをつまびく、そこへマンドラの男が乗っかる。さらにホイッスルの男もどこかしらから戻ってきてイニシアに加わる。リクエストした東洋人は目をじっとミュージシャンに向けたまま、音を耳で拾う。


フィドル弾きやマンドリン弾き、アコーディオン弾きなどもイニシアに加わり、イニシアはある何かの決断をして前進するかのようにメロディーを終える。東洋人は「イニシアをありがとう」とマンドラ弾きに伝えてお辞儀をする。


東洋人の方はパブのマスターであるキアリ氏より長居することへの許可をもらっている。この東洋人は自分に行き場がないことをキアリ氏に伝えた、外は雪が降り寒いのでここで時間を潰させてもらっていいかとお願いすると、キアリ氏はまったく問題ないからアイリッシュでも見て行けよと言いコーヒーを淹れてくれた。


東洋人は温かいコーヒーを飲み干したあと、ここはパブだからと黒ビールを1パイント頼んで飲んだ。キアリ氏はあからさまに体調が良くなく咳き込むこの東洋人に「風邪ならホットワインが一番だ」とグラスに入れた温かいワインを出す。


ヒゲの東洋人はその両方を半分ずつ飲み、キアリ氏と一緒にショートスケールのプール台で玉突きを始めたのだが、すぐにトイレへ駆け込み胃の中のものを全て戻してしまった。そこからはテーブルに座ってぐったりとするのが続いていた。この見かけない東洋人は続々と休日にパブへ集まってくる客の目を引いた。マスターはドバイを経由して遠く日本から来たというのに、この男の手荷物はショルダーバッグひとつなのだと笑いながら皆に説明する。


アイリッシュ音楽を聴きながら飲むために沢山の人がパブに来る。パブ文化なのだ。休暇に気取らずとも思い思いに人々が集う場所がパブなだけなのだ。キアリ氏はアイルランド南部のコーク出身でこちらに来たのは8年前、当時付き合っていた彼女がこちらで仕事があるというので一緒に出てきたのだという。


いつしか、この静かにただ死を待つような東洋人に牛の角のようなものが二つ渡される。この角を指に挟んでカチカチとリズムを取るくらいはできるだろうと渡されたのだ。この楽器は見た目のまま「ボーンズ(骨)」と呼ばれるとのこと、東洋人は皆が演奏しているのにあわせてカチカチする。しかし要領がわからないようであまり上手にはいかない、しばらくして彼は指で挟んで叩くことをやめてドラムのカウントのようにカチカチを続ける。


演奏が終わり周囲から拍手がなる。外は暗くなっており「そろそろ行こうか」と東洋人がバッグを肩に掛けたときミュージシャンのひとりが「最後に何かリクエストはないか?」と彼に問う。彼はしばらく考えていた、そしてリクエストはあるのだが曲名がわからないんだと伝える。


「それはどんなメロディーなんだ?」と問い掛けられるも彼は咳き込んでいてメロディーを口ずさむところではない状態なのだ。曲名がわからない、メロディーもわからないでは仕方がないなと皆が諦めかけたとき、東洋人はビールをあおっているマンドリン弾きにそのマンドリンを少しだけ貸してくれないかとお願いする。


「マンドリンを?いいよ」とマンドリン弾きは笑いながら東洋人に渡す。


ヒゲの生えた東洋人はマンドリンを弾きだす。パブには驚きの歓声があがる、「お前、弾けるのか!」と白髪頭の老人がニコニコして足踏みをする。そしてホイッスルの男が大声でこの東洋人が弾いている曲名とキーを全ミュージシャンに伝える。


toss the feathers!!the Corrs!!


東洋人が弾くマンドリンのメロディーにどんどん色んな楽器が重なってくる。パブには歓声と手拍子と足で床を踏みしめる音が鳴り響き、キアリ氏はスマホに向かって何やら今の状況を説明しながら忙しくあっちへ行ったりこっちへ行ったりして動画を撮影する。東洋人は不思議と楽器を弾いているあいだは咳き込まない、ただ、必死にメロディーを弾いているのだ。


演奏は歓声のなか終わる。東洋人の肩や背中を沢山の人が叩きながら「驚いた」と興奮気味に話しかけてくる。東洋人は照れ臭そうにしてマンドリンを持ち主に返すとキアリ氏のいるバーカウンターへ向かいお勘定をお願いする。


「病の東洋人を見かねて神が降りてきたのかと思った。あんたは一体何者なんだ、何の用事でこっちへ来たんだ」とキアリ氏は東洋人に聞く。東洋人は恥ずかしそうに「僕は病人で、自分を試したくてそれだけの理由で来たのだ。とにかく今の僕は自分を失っているのだ」と答えてお勘定をする。


この地方の店はそのほとんどが半分ほど地下にあり、窓から見る外観はすべて地面と平行線である。階段を上って地面に出るという感じは、いかにもこれから移動するのだという足取りを助長するかのようであるのだ。








by amori-siberiana | 2019-01-13 17:04 | 雑記 | Comments(0)

この度、2019年01月27日の日曜日に開催される【リンクス日曜、趣味のじかん】におきまして、前回のワイン会から本ワイン会を経てルール改正された部分がありますのでお知らせさせていただきます。


ルール改正部分は一か所のみであります。


ソムリエ各人がその評価を競うという前回大会でありましたが、今回は紅白に分かれてのチーム対抗戦となります。


チーム分けについて4名のソムリエをどう振り分けるのかアイデアを募集したところ、前回覇者の豚王タッキー(拓也様)より、「財力のバランスからみて、僕とマンホーさんは分かれたほうがいいでしょう」という暴言がお出になりましたので、それを参照にいただきましてチーム分けは以下となります。


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●紅組:『THE LINKS』革命隊


坂井 征司様 (通称:マンホー)
阿守 孝夫様 (通称:ヒゲの総帥)


〇白組:名称なし、記録上は『賊軍』


平 拓也様 (通称:豚王タッキー)
加藤 史郎様 (通称:今さらシロー)


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チームが決定して早々に白組は作戦会議用のLINEでのトークルームを作った模様で、するっとメッセンジャーから姿を消してしまわれました。


本ワイン会は前半戦と後半戦がありまして、前後半のあいだには来場者様全員での中間投票があり、中間発表ありきで後半戦に突入しまして最終の決選投票となりますので、これはドラマティックな展開になること申し分御座いません。


投票もアプリでするようにしてはどうかとのアラタメ堂のご主人から至言をいただきましたが、今回はガラケーの方もいらっしゃるでしょうしということで紙投票の用意をさせていただきました。次回からはアプリ形式での電子投票とすることも考えております。


それでは皆さま、どうぞ上記のルール改正をご理解のうえ、当日は宜しくお願いいたします。


イベント詳細は↓




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それと誠に別件ではありますが、毎年1月1日現在に大阪市在住の給与支払者がおられる事業主の皆さまにおかれましては、平成30年分(平成30年1月1日~平成30年12月31日)の給与支払報告書および公的年金等支払報告書を、大阪市船場法人市税事務所へ平成31年1月31日(木)までにご提出していただけるようお願い申し上げます。

by amori-siberiana | 2019-01-12 19:40 | 雑記 | Comments(0)


皆さま、謹んで新春の祝詞を申し上げます。
昨年は格別なご高配を賜り厚く御礼申し上げます。


さて、本年の1月27日の日曜日におきましては【日曜リンクス、趣味のじかん】と題しましての新春ワイン会を開催することとなりましたことを謹んでご報告させていただきます。


昨年度にてご好評をいただきましたコワーキング・スペース『THE LINKS(読み:ザ・リンクス)』でのワイン会、その第二弾に充当するのが本企画という内容でございます。


ソムリエたちが自慢のワインと、そのワインにぴったりと寄り添う一品(食材)をご用意いたしまして、参加者の皆さまに口にしていただき、どのソムリエのマリアージュが優れているのかを全員投票によって競い合うイベントという趣旨に変わりはございません。どうしても勝ちたくて予算をオーバーすることを是とし、自腹を切るソムリエもおりましたら、安物のワインを銘品と口からでまかせをいい、皆さまを意識的に誘導する詐欺師のようなソムリエもおるかも知れません。


活気あふれるワイン会となりまして、リンクスに皆さまの笑い声が響くイベントになれば幸甚でございます。どうぞ、皆さまにおかれましてはお誘いあわせのうえ、是非とも本ワイン会に参加していただけるようソムリエ一同、心よりお願い申し上げます。


参加費は3000円となっております。もちろん、皆さまからの持ち込みなども大歓迎でございますので、ことここに至りましてはソムリエ、参加者共に力を合わせまして、新年最初の一大行事として福笑いできればと考えております。


先ほど、福笑いと申しましたが、本ワイン会の司会進行役はリンクスで最も海老(えび)を食べる男、つまるところめでたい男として高名な福田哲也先生(アラタメ堂のご主人)が務めてくださることとなっております。あの低くよく響く声で司会をしていただくことを想像しましただけでも、これは間違いなく愉快な会になることが皆さまにも予感できることと存じます。


それでは、参加者のご紹介とさせていただきます。


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◆エントリーナンバー ①番


平 拓也様 (読み:たいら たくや)


1982年に奈良県は生駒市にてお生まれになられた拓也様。


昨年の本ワイン会の覇者であられると共にワインについての豊富な知識と並みならぬ経験を有されましたソムリエで御座います。気の強いお姉様に痛く可愛がられながら育った拓也様。拓也様ご本人はお若いときから事業主としての敏腕を振るわれまして、押しも押されぬ名声をお持ちであるも常に謙虚な姿勢は国の内外から高い評価を得られております。

拓也様のその腹は、イギリスメディアから「まるで世界中の食べ物を内包しているようだ」とスタンディングオベーションを受けたとか。


本イベントの優勝候補の筆頭であることに間違いは御座いません。


通称:豚王タッキー


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◆エントリーナンバー ②番


坂井 征司様 (読み:さかい せいじ)


1975年に大阪府は守口市にて坂井家の次男としてお生まれになられました征司様。


大学を自主卒業後(ご中退)に様々な職種を経験されましてのち、複雑な縁が御座いましてご家業である株式会社坂井商会を継がれることとなりました。今ではご家業だけではなく和歌山と北海道の名産品を繋ぐ事業、そして本ワイン会の会場でもあられますリンクスの経営にと八面六臂のご活躍をされておいでです。


前回のワイン会におかれましても、予算を度外視されました高級ワインをお持ちになられまして、その柔和な人柄を反映されたデザートワインは来場者の皆さまから好評であられました。柔和で謙虚な人柄と腹の底では何をお考えになっているのか甚だ掴めぬ人当たりの良さは、かの諸葛孔明を彷彿といたします。何より大阪を盛り上げたい一心のお人ですので、これからの大阪の繁栄は征司様のご活躍にかかっておられましょう。


本イベントの優勝候補の筆頭であることに間違いは御座いません。


通称:マンホー


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◆エントリーナンバー ③番


加藤 史郎様 (読み:かとう しろう)


1985年9月22日、大阪府は高槻市か茨木市にて名門加藤家の三男としてお生まれになられた史郎様。


ご家族のなかでも特にお兄様より痛いほどの可愛がりを一身にお受けになり、健康ですくすくと育たれまして、史郎様ご学童の頃は明けても暮れてもベースボールに夢中という日々を過ごされておいでで御座いました。動物占いは「チーター」で10の説明があるなら1か2で要件を伝えてもらえれば理解できる頭の回転の速さもあり、筋肉も隆々で御座います。


ベースボールをお挫折になられてからはワインへの偏愛となられまして、以前のSNSはワインの写真ばかりという熱心なご様子。とにかくワインが地球の自転をお動かしになられているのではないかというほどで御座いました。昨年のワイン会ではニューワールドにて参戦されまして、皆さまよりご好評でありましたのは来場者の皆さまにとっても記憶に新しいところではないでしょうか。


本イベントの優勝候補の筆頭であることに間違いは御座いません。


通称:今さらシロー


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◆エントリーナンバー ④番


阿守 孝夫様 (読み:あもり たかお)


1978年に四国は香川県にてお生まれになられた孝夫様。


幼少の頃より好奇心旺盛であられまして、ご母堂様を含めましてご年長者から「してはいけないよ」と命じられることを、言ったそばからまずなされるという奇行をお持ちで御座いました。お若い頃からご学友たちと音楽サークルを通じての意見交流などにて見識を広められまして、今でも控えめながらも活動はされているご様子とうかがいます。


孝夫様にはソムリエの経験が御座いまして、そこで培ったワインへの造詣の深さは前回のワイン会でも否応なく発揮しておいでであり、ご来場者の皆さまからご好評をいただいておられました。年々、物忘れが酷くなっておられるご様子で先日などは金曜日が土曜日の前日であることをお忘れで御座いましたが、ご本人は「私は常に宇宙規模のことを考えているのだ」と苦しい言い訳をされておられましたのもご愛敬で御座いましょう。


本イベントの優勝候補の筆頭であることに間違いは御座いません。


通称:ヒゲの総帥


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皆さま、以上を持ちまして会の趣旨およびソムリエ各人のご紹介を終了とさせていただきます。どうぞ、1月27日の日曜日は3000円をお持ちになられまして、各人様ともに『THE LINKS(ザ・リンクス)』へご参上されること謹んで宜しくお願い申し上げます。



お問い合わせ:takaoamori@yahoo.co.jp


お所在:THE LINKS 大阪市中央区今橋2-3-16 MID今橋ビル1F



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by amori-siberiana | 2019-01-10 23:52 | ごあいさつ | Comments(0)


北浜というビジネス街を独立させようと企む、ヒゲの総帥のブログです。
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